青の日々

始まりは唐突に 12

通りすがりの店員に酒をオーダーし、傍らのコートラックに長外套をかけているオーターにレナトスが声をかける。「どうした？ 予定変更か？」「明日、急遽会議をすることになったから、早めに切り上げて帰ってきた」オーターは抑揚のない声で鷹揚に返しながら、ボックス席の前で立ち止まった。非日常感をいざなう落ち着いた淡い色味の照明の下で、理知的な相貌にやや疲労の色が滲んでいる。何かトラブルでもあったのだろうか。「そ...

2025/05/26 21:20

始まりは唐突に 11

「試作品を関係各所で使用してもらったところ、精度をもっと上げた方がいいとの意見が多数出たので、今、製造工場で試行錯誤を繰り返しているところです。特にこのエッジ部分ですが……」「なるほど」応接スペースのテーブルに広げた資料の中で、設計図の一箇所をレインが指差すと、目の前のオーターが鷹揚に頷く。イノセント・ゼロ対策として、新規開発中である戦略兵器の魔法道具に関しての現況報告だった。顔を上げたオーターは、...

2025/05/14 21:13

始まりは唐突に 10

レインは消えることのない過去の重みを胸に刻んで、魔法界の基盤の仕組みを変えるべく神覚者になった。それゆえ、魔法が使えずとも神覚者になる、この世界の認識を変えると、前代未聞の挑戦をしようとしているマッシュにどうしても自分を重ねてしまう。生まれつき魔力を持っていない魔法不全者は神から祝福されない者として世間から差別され、人権がないも同然だ。異分子扱いで殺処分が義務づけられ、誰しもが絶望するところだが、...

2025/05/04 21:19