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  • 『ハヤブサ消防団』は今期一番のドラマだった。

    私にとって今期一番よかったドラマは『ハヤブサ消防団』だった。地方の過疎化やカルト集団を題材として、現代人の心の中の闇をあばいていく作品であった。とはいえ、難しい展開にはならずに、事件がつぎつぎと起こる中で次第に真相が見えてくるという構成になっていた。原作がしっかりとしているからであろう。しかもその原作を丁寧に描こうとしていた。役者もバラエティに富み、みんながそれぞれ自分の役柄を演じきっていた。中村倫也と川口春奈の主役のふたりはこまかな心の動きをしっかりと演じていた。麿赤兒や村岡希美の「怪優」が存在感を示し、ドラマにアクセントをつけていた。そして何よりも生瀬勝久、橋本じゅん、満島真之介、岡部たかし、梶原善の消防団員がよかった。今はもう無くなった、田舎のめんどくさい男の集まり。その雰囲気がよく出ていた。面倒だ...『ハヤブサ消防団』は今期一番のドラマだった。

  • 秋バテ

    今年の夏は暑い日がずっと続きうんざりした。しかし意外なことに夏の間肩こりに悩まされずに済んだ。集中力は持続して勉強ははかどった。夏が終わり、残暑もきびしかった。しかし残暑もようやくおわり、一気にすずしくなった。そっから体調が狂いはじめた。だるいし肩こりもひどくなった。この体調不良のことを「秋バテ」と呼ぶのだそうだ。季節の変わり目に体が対応しきれない状態で起こる体調不良のことである。急激な冷えが自律神経を狂わせてしまうのだ。私の場合、これが結構長く続く。病気というほどのことではない。しかし何もやる気にならない。肩こりはひどくなり、一日中眠い。つまり「だるい」のだ。これはけっこう厳しい。やらなければならないことがたくさんある。なんとかしなければと焦るだけである。秋バテ

  • 映画『ほつれる』を見ました

    映画『ほつれる』を見ました。現代人の息苦しさを描く映画でした。綿子は夫の文則との関係がすでに冷め切っています。夫には秘密で、妻のいる文筆業の木村と不倫関係となります。木村にも妻がいます。逢瀬の直後に木村が交通事故にあいます。綿子はすぐに119番通報をしますが、その電話を途中で切ってしまいます。その後の面倒をさけようと直感的に判断したのです。この心理が理解できません。しかし理解できないまでもこれが現実の対応なのかもしれないと感じてしまいます。現代人は表面的な安静のほうを優先してしまうのです。その後の展開でも登場人物は表面的な安静を求めるために感情的な言動を押さえます。表面的には夫婦関係は続いていますが、すでに壊れているのはあきらかです。それでもどうすることができないのです。綿子と文則は別れる決断をした瞬間に...映画『ほつれる』を見ました

  • 『VIVANT』はおもしろかったけど・・・

    今期のドラマ『VIVANT』はおもしろかったけど、後半はがっかりした。わかりにくくなったし、セリフによる説明で終わってしまったからである。モンゴルロケで撮影された前半は映像自体が魅力的だった。展開もダイナミックでこれからどうなるのかワクワクして見ていた。後半の乃木の父親の若いころを描く場面もよかった。全体的におもしろいドラマであったことは間違いない。ただしすべてがよかったわけではない。最後の方ははセリフでの説明で終わってしまうドラマになってしまった。しかもその説明も無理があるのではないかというものがかなりあったように感じられる。謎解きをドラマの主目的としてしまって、複雑にしすぎてしまったのだ。無理やり終わらせてしまった感がのこってしまった。医師役の二階堂ふみと乃木の関係や、カギと思われたジャミーンが中途半...『VIVANT』はおもしろかったけど・・・

  • 映画『青いカフタンの仕立て屋』を見ました。

    モロッコを舞台にした映画『青いカフタンの仕立て屋』を見ました。泣けました。ドレスの仕立て屋を営む夫婦の物語です。夫は真面目な仕立て屋で、妻はその夫を誇りに思って支えています。しかし妻は病気に侵され余命わずかとなってしまいます。実は夫は同性愛者であり、若い店員に恋をします。しかし妻への愛が消えたわけではありません。妻と店員への愛で心が揺れ動きます。妻は自分の死期を悟りながらも夫を愛し続けます。この三人の関係が静かに描写されます。次第にやせ衰えていく妻の姿は見るのが苦しい。そしてその妻に献身的に尽くす夫の姿も涙を誘います。夫婦は「愛」の中で最後の数日を生きるのです。涙なくしてみることはできませんでした。店員も二人に尽くします。そして夫婦のどちらもいたわるのです。とてもいい映画でした。ただし、最近の映画はなぜほ...映画『青いカフタンの仕立て屋』を見ました。

  • 『この素晴らしき世界』

    夏ドラマがおおむね終わった。今期のドラマはかなり楽しめた。いくつかの番組の感想を述べる。最初はフジテレビ系の『この素晴らしき世界』。鈴木京香が体調を崩し降板し、若村麻由美が代役になったことで話題になったドラマである。平凡な主婦が、大女優になりすまして社会的な大きな事件に巻き込まれるというドラマ。内容がシビアなわりにはコメディ的な要素も多く、肩の凝らないドラマである。このドラマがタイムリーだったのは、ジャニーズ事務所の問題を思わせたからである。業界側の権力、そして忖度がはびこる芸能界やテレビ局の姿が描かれる。さらにある意味衝撃的だったのは芸能事務所の社長を木村佳乃が演じていることである。もはやジャニーズ事務所問題を予測してこの時期作られたのではないかと思わせるほどのシンクロであった。偶然とは思われない。これ...『この素晴らしき世界』

  • スウィフト作『ガリバー旅行記』を読みました。

    スウィフト作『ガリバー旅行記』を読みました。大雑把に内容は知っていたのですが、実際に読んだのは初めてです。物語的なおもしろさよりも人間批判の色合いの強い作品であり、おもしろい発見がたくさんありました。第一話は「リリパット」。小人の国です。第二話は「ブロブディンナグ」。巨人の国です。この2話は物語的な要素も強く、楽しく読むことができます。二つ国は相対化されることによって、人間自身も相対化されます。第三話はラピュタなどの国々です。ラピュタは宮崎駿のアニメ映画にもなっている空中に浮かぶ島です。その外にもいろいろな国を訪れ、最後は日本にも立ち寄ります。日本に行った目的は、長崎からオランダ船に乗ってヨーロッパに戻ろうとしたからです。「踏み絵」だけはしたくないというガリバーの要求がおもしろい。とは言え日本の記述はごく...スウィフト作『ガリバー旅行記』を読みました。

  • 映画『クロース』を見ました。

    カンヌ映画祭でグランプリを受賞した映画『クロース』を見ました。説明的なセリフがほとんどなく、的確な描写で心を伝える、心にしみる映画でした。主人公はレオという少年です。レオは同じ年の少年レミと大の仲良しです。傍から見るといちゃついているように見えます。そのためからかわれます。あるいは恋愛感情があったのかもしれませんが、レオはそれが恋愛だとは思っていません。そのために強く否定します。ある日、レオがレミと寝ている時、レミはレオのふとんに潜り込みます。朝、そのことに気づいたレオは激しく怒り、レミを殴ります。以前は二人で同じベッドで寝ていたのにです。これにレミはショックを受けます。レミは恋愛感情があったのです。少年たちの心の動きが丁寧に描かれて、場面が心を伝えます。せつない少年時代の心が蘇っています。レオはレミを避...映画『クロース』を見ました。

  • 夏目漱石『坑夫』の読書メモ②

    夏目漱石の『坑夫』の読書メモの2回目。〔『虞美人草』との関わり〕漱石の直前の新聞小説が『虞美人草』だった。『虞美人草』の次に二葉亭四迷の『平凡』があり、その次に『坑夫』である。どういう点で関連性が見られるのか。『虞美人草』に小野という青年が出てくる。この小野は京都大学を優秀な成績で卒業して、今は博士論文を書こうとしている。学生時代の恩師の娘・千夜子を妻に取る口約束を交わしている。恩師と千夜子は困窮しており、彼らを援助する意味でも結婚するのが義理なのだ。ところが小野には他に惹かれる藤尾という女性がいる。その板挟みの中で小野は苦しむ。『坑夫』の主人公の青年も小野と同じような立場であった。青年はい家出した。その理由は許嫁がいながら、他の女を好きになってしまったからである。この二人を説明している箇所を引用する。澄...夏目漱石『坑夫』の読書メモ②

  • 夏目漱石作『坑夫』を再読しました。①

    『坑夫』は、夏目漱石の長編小説で、明治41年の元日から東京の『朝日新聞』に91回にわたって掲載された。『虞美人草』についで、漱石が職業作家として書いた2作目の作品。〔あらすじ〕恋愛関係のもつれから着の身着のままで家を飛び出した青年が行く当てもなくさまようっていると、ポン引きの長蔵と出会う。自暴自棄になっていた青年は誘われるまま鉱山で坑夫として働くことを承諾する。鉱山町の飯場に到着する。鉱山の飯場は異様な世界だった。そこでの生活に不安を覚えながら、翌日、「初さん」に案内をされ、坑内へ降りていく。「シキ」(=坑内)は命がけである。青年は「死」を決意する。しかしここで死ぬことは虚栄心が許さない。鉱山から出て死にたい。そう考える。「シキ」の中で道に迷っていると坑夫の「安さん」と出会う。「安さん」は東京に帰った方が...夏目漱石作『坑夫』を再読しました。①

  • ジャニーズ事務所の問題

    ジャニーズ事務所の記者会見が行われた。私はジャニーズ事務所のタレントへの関心はそれほど高くはないが、ジャニーズ事務所とテレビ局の癒着構造には関心をもっていた。テレビ局はジャニーズ事務所のタレントが優遇され、逆にジャニー事務所を辞めたタレントはテレビでは冷遇され、ほとんど姿を見なくなってしまう。その構造は許されるべきことではない。実際記者会見を見たわけではないので明確にはわからないが、記者会見ではその問題も話題になったようである。どのような話がでたのかははっきりとはわからない。しかしこの会見が、現在の癒着した権力構造を大きく変化させることを期待したい。1度癒着した権力構造ができてしまうと、それは他者の排除に用いられ、不正に利用される方向に進む。そして権力維持装置として動き出し、それを解体することは困難になる...ジャニーズ事務所の問題

  • 宗教離れ

    日本人は宗教離れがすすんでいるのは誰もが認めるであろう。日本人は仏教徒が多くいるが、とは言え本気で仏教を信仰しているとは思われれない。とは言え、それは昔からそういうわけだったわけではない。私よりも古い世代の人は墓参りはかかせないし、法事に関してもきちんとやっている。さらに古い世代ではもっと信仰心が強かったことを示す歴史的もある。宗教心の低下は現代的な現象なのではないかとも考えられる。最近のテレビ番組で(何のテレビだったかは忘れてしまった)、欧米でも宗教離れが進んでいるという話題があった。キリスト教文化圏でも宗教離れが進んでいるというのである。このことから、いわゆる「先進国」で宗教離れが進んでいると考えられる。その背景はどういうことか。私は「死」を間近に感じられない状況が宗教離れを生んでいるのではないかと考...宗教離れ

  • 映画『ミツバチのささやき』を見ました。

    映画『ミツバチのささやき』を見ました。この映画は1985年、私が東京で学生をしているころ、「シネヴィヴァン六本木」という映画館で見たと記憶しています。六本木のWAVEというレコード屋さんの地下にあったはずです。当時、話題になっていた映画です。私はこの映画を見て衝撃を受けました。セリフは少なく、淡々と描かれていく映画なのですが、それぞれのシーンが印象的でした。すごい映画に出会ったと感じました。ひとつひとつのシーンが印象的なのです。「フランケンシュタイン」の映画を見ている姉妹の表情。母親が駅に手紙を出しに行くシーン。線路に耳をあて、列車が近づいてくる音を聞く姉妹。死んだふりをする姉。脱走兵?に食事を与えるアナ。脱走兵を殺す機関銃の音。父親から逃げ出すアナ。40年ぶりぐらいに見たことになりますが、様々なシーンが...映画『ミツバチのささやき』を見ました。

  • 夏目漱石作『虞美人草』を読みました。

    漱石の『虞美人草』を読みました。この本読んだつもりでいたのですが、実は初読でした。漱石の最初の新聞小説。おそらく夏目漱石の小説でなければこの小説は消えてなくなっていたはずです。それくらい小説としての出来はよくない。私も漱石の作品だから最後まで読みましたが、最後まで何がよかったのかわかりません。とは言え、これが書かれた時代はまだ小説の形式や文体が確立していなかった時代であり、試行錯誤の途上だったのだと思われます。なにしろストーリーが雑すぎます。「藤尾」という女性、そしてその母は性格の悪い女です。自分の利益しか考えていません。ではそれ以外の人物はどうなのかと言われれば、やはりかなり打算的です。最後に正義の味方のように突如として「宗方君」が活躍しますが、そこまでの人物造型は曖昧であり、正義の味方が悪を退治すると...夏目漱石作『虞美人草』を読みました。

  • 林家木久扇師匠「笑点」卒業

    昨日「24時間テレビ」で林家木久扇師匠が来年の3月で「笑点」を卒業することを発表した。私にとって木久扇師匠こそが「笑点」の顔だったので、大げさに聞こえるとは思うが、「ひとつの時代の終わり」のように感じられる。木久扇師匠は今年85歳である。「笑点」を見ていても痛々しい感じがして、そろそろ潮時かなという気はしていた。とは言え、「笑点」に初期のころより出演して、「与太郎」を演じてきた。「落語家らしい」落語家ではなく、「落語らしい」落語家だった。それが人気だったのだと思う。木久扇師匠の「卒業」はとても残念ではあるがしょうがない。しかし木久扇師匠の「卒業」をしょうがないと感じるように、自分の老いを実感せざるを得ない。終わりが近づいているという気持ちは、いいものではない。これからは終わりゆく時間を楽しむと思うしかない...林家木久扇師匠「笑点」卒業

  • こまつ座『闇に咲く花』を見ました。

    東京・紀伊國屋サザンシアターでこまつ座『闇に咲く花』を見ました。何度も見た作品ですが、この年になってきてわかることも多く、しかも「今」の社会状況と重なることもあり、改めてこの作品のすごさがわかりました。すばらしい舞台でした。この作品はは、井上ひさしによる「昭和庶民伝三部作」の2作目として1987年に初演された作品です。戦時中の庶民の不条理な現実を描いています。こんな時代は二度と作ってはいけないと感じながら、日本、あるいは世界の状況がどんどん「ものがいえない」状況になっている今を感じてしまいます。恐ろしさと怒りと、何とかしなければいけないと言う思いが強くなります。劇中の「忘れちゃだめだ。忘れたふりはなおいけない。」というセリフは耳に残ります。人間はなんでもすぐに忘れてしまいます。そしていざとなれば忘れたふり...こまつ座『闇に咲く花』を見ました。

  • 山形県の学校教育は崩壊状態だ

    厳しいことを言わせていただく。山形の学校教育は崩壊状態である。先日、米沢市の中学生が熱中症で亡くなった。学校では部活動を早く終了させたあと、自転車で帰宅途中に熱中症になったのだ。学校を責めすぎるのも気が引ける部分もあるが、生徒ひとりの命を失ったのである。重大事案として受け止めなければならなかったはずだ。ところが昨日、山形の中学校で熱中症になり、10数人の生徒が救急搬送されたという。昨日は予報段階から厳重な注意を呼び掛けていた日である。それなのにグラウンドで練習をしていたのだ。しかも今日になって、救急搬送された後も練習を継続したという報道がなされた。なんなのだろうこの学校の教員たちは。山形は東北だから涼しい土地であり、今年の夏の暑さを甘く見ていたのではないかと思われる方もいるかもしれない。しかしそれは違う。...山形県の学校教育は崩壊状態だ

  • 映画『ウィ・シェフ』を見ました。

    映画『ウィ・シェフ』を見ました。典型的なお仕事映画ですが、孤独なフランスの難民の問題がきちんと描かれており、気持ちよく見終わることができる映画でした。こういうタイプの映画、大好きです。カティは有名レストランでシェフとして働いています。ある日、オーナーシェフと大ゲンカをして店を辞めてしまいます。やっとのことで見つけた新しい職場は移民の少年たちが暮らす自立支援施設でした。カティはとまどいながらもプライドを捨てずに働き始めます。施設長ロレンゾはカティに、少年たちを調理アシスタントにすることを提案します。最初はあまり乗り気ではなかった少年たちも、自分たちの未来を夢見て意欲的に働き始めます。カティも前向きに働く意欲を取り戻し、自分の人生を変えようとします。この映画で印象に残るのは移民の少年たちの表情です。言葉もうま...映画『ウィ・シェフ』を見ました。

  • 夏目漱石の『門』の読書メモ②

    『門』について柄谷行人氏が、「『門』の宗助の参禅は彼の罪感情とは無縁であ」ると言い、「小説の主題が二重に分裂して」いるのだと言っています。そしてその理由を次のように言っています。「『門』における宗助の参禅は、三角関係によって喚起されたものでありながら、その三角関係が宗助の内部の苦悩に匹敵しないで別の方向にむけられるほかないというところに起因している。したがって「どのように筋を仕組んでも、そういう宗助を表現するわけにはいかないのであって、やはり漱石も「彼の手に余る問題を扱おうとしたと結論する」ことができると私は思う。」そしてその「手に余る問題」について次のように説明します。「漱石の長編小説では、他者との葛藤が提示されながら、それが他者との関係では解決できないような「自己」の問題に転換され、そして『行人』の一...夏目漱石の『門』の読書メモ②

  • 夏目漱石の『門』の読書メモ①

    夏目漱石の『門』を読みました。3度目のはずなのですが、ほとんど頭に入っていませんでした。初読と同じような感覚でした。適当な読書を反省します。意味のある勉強にしなかれば時間の無駄でしかないということを肝に銘じたいと思います。意味のある読書にするために『門』の読書メモを残します。あらすじは次の通りです。主人公は野中宗助。親は資産持ちだった。宗助が学生のころは派手で積極的であった。京都大学に入学した。安井という友人がいた。ある時、下宿から一軒家に引っ越した。そこに女性が住んでいた。その女性がが御米であった。安井は自分の妹だと宗助に紹介したのだが、おそらく同棲している女性だったのであろう。その御米と宗助が男女の関係となってしまう。その結果、2人は駆け落ちする。大学はやめていまい、逃げるように広島、福岡と居を移す。...夏目漱石の『門』の読書メモ①

  • 映画『わたしたちの国立近代美術館』を見ました。

    東京・上野の国立西洋美術館が世界文化遺産に登録されたことを機に改装工事を行った。その期間を中心に、国立西洋美術館の職員の仕事を追ったドキュメンタリー映画『わたしたちの国立近代美術館』を見ました。美術館の仕事の実態を知ることができると同時に、日本の文化に対する予算の貧弱さを知ることができました。美術館の職員の真剣な仕事ぶりに好感を持ちました。協力しながらも、妥協をゆるさない仕事ぶりが映像化されています。職員は国立西洋美術館で働くことにやりがいを感じており、仕事に喜びがあります。。しかし一方では税金で運営されているということに責任を感じています。どんな仕事でも責任のある仕事にはやりがいがあり、喜びがあります。その姿が伝わってきます。しかし一方では日本の文化に対する国家の支援が少ないことが語られます。日本は文化...映画『わたしたちの国立近代美術館』を見ました。

  • 映画『君たちはどう生きるか』を見ました。

    宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』を見ました。難解な映画ですが、象徴的な意味を散りばめ、背後に大きなテーマを見通せる構造を維持しつつ、全体として主人公が成長していく姿を描く計算されつくした映画でした。一つの物語が見終わった後に大きな時空の物語として迫って来る作品です。一度みただけでは、整理できないところが多く、内容について掘り下げていくのはここではやめたいと思います。しかし、一方では戦争や、現代文明や、社会的な差別などの現代における困難が描かれています。また一方では愛や友情、いつくしむ心、勇気、努力など、人間として大切にしていかなければならない心を描いているのがよくわかります。謎解き自体はすぐに答えが出ないように作られていますが、映画を見た後の満足は得られるようにできているのが、さすが宮崎駿だよな...映画『君たちはどう生きるか』を見ました。

  • 『三四郎』読書メモ③(視点の転換)

    夏目漱石の『三四郎』の読書メモの3回目。視点の転換。三人称小説は「語り手」の位置は作者の戦略の1つです。作品世界全体を見渡せる「神」の眼の位置にいる場合もありますし、ある特定人物に寄り添う場合もあります。あるいは複数の人物に寄り添う場合もあります。だれかに寄り添う場合、視点がその人物の内部に入り込むこともできますし、内部には入り込まないで外からの描写でおわってしまう場合もあります。内部に入り込む場合はその人物の心理を描くことができます。作者は「語り手」をどう操るかを考えながら小説を書くわけです。『三四郎』は三人称小説です。「語り手」は基本的に「神」の位置にいるのですが、主人公の「三四郎」に寄り添っていくことが多くあります。さらに三四郎の心まで入り込みます。しかし、他の人物の心にまで入り込むことはありません...『三四郎』読書メモ③(視点の転換)

  • 京都南座で『牡丹燈籠』を見ました。2(演技と劇場について)

    『牡丹燈籠』での玉三郎さんの演技はリアリティのある興味深いものでした。歌舞伎の女形の演技は声色をつかって演じるというイメージがあります。古典作品だと確かにそういうイメージ通りの演技をするケースが多いように思われます。しかしそういうイメージとは違う演技をする場合も多くあります。今回の玉三郎さんの演技も中年女性の純真さと意地汚さという相反する心の揺れを、リアリティある演技で表現していました。間の取り方が絶妙です。これは本当に台詞をわすれてしまったのではないかと思わせるような長い不自然な間があったりします。その不自然さが逆に現実に口に出しにくいことを言うときのためらいのようにも感じられます。いわゆる歌舞伎調の語りとは違った、現代劇風の台詞回しにリアリティを覚えずにはいられません。愛之助さんは、きちんとした演技で...京都南座で『牡丹燈籠』を見ました。2(演技と劇場について)

  • 京都南座で『牡丹灯籠』を見ました。①(三遊亭円朝について)

    京都南座で坂東玉三郎と片岡愛之助出演の歌舞伎『牡丹灯籠』を見ました。素晴らしい舞台を堪能しました。その感想を書こうとしたのですが、長くなってしまったので分割します。今回は『牡丹灯籠』の作者円朝について書かせていただきます。『牡丹灯籠』の原作は三遊亭円朝の落語です。三遊亭円朝の落語は日本文学においてとても重要です。意外に感じる方が多いと思いますが、明治時代の初め、日本には言文一致の文体がなかったのです。今は私たちは当たり前のように言文一致の文体で文章を書いています。しかし実は、私たちは言文一致の文体が浸透し、それをまねをして書いているのです。真似をするもの(規範)がない明治時代の人たちはどういうふうに言文一位の文章を書いていいかわかっていません。ではどういう風に文章をかいていたのか不思議に思う方もいるかもし...京都南座で『牡丹灯籠』を見ました。①(三遊亭円朝について)

  • 映画『山女』を見ました。

    凶作に苦しむ農村を描く映画『山女』を見た。生きることが目的だった時代を神話的に描く意欲作だった。舞台は東北地方の山村。気候が思わしくなく、住民は冷害に苦しめられている。村の伊兵衛は娘と息子の3人で暮していた。一家は曽祖父がかつて悪事を働いたために、村八分となっていた。唯一許された仕事は死体の処理の汚れ仕事だけだった。生活は苦しく伊兵衛は盗みを犯してしまう。父親をかばって娘の凛が罪をかぶる。村にいられなくなった凜は村を去る。おそらく山で死ぬつもりだったのであろう。しかしそこで山男と出会う。山男は野生の人間であった。凜は山男に安らぎを覚える。そこにあるのは人間社会の相対化である。人間は社会を作らないと生きていくのは難しい。しかしその「社会」は理不尽を生み出す。差別が生まれるのだ。その「社会」の内部にいるつまは...映画『山女』を見ました。

  • 『三四郎』読書メモ②「汽車の女」

    夏目漱石の『三四郎』の読書メモの2回目。私がこの小説の一番印象に残るのは、最初のシーンです。ここである女と知り合いになります。田舎のお光さんと比べて、「ただ顔だちからいうと、この女のほうがほど上等である。口に締まりがある。目がはっきりしている。額がお光さんのようにだだっ広くない。なんとなくいい心持ちにできあがっている。」と三四郎の好みの顔のようです。この女の素性が本人が近くにいるじいさんへの語りから見えてきます。「子供の玩具はやっぱり広島より京都のほうが安くっていいものがある。京都でちょっと用があって降りたついでに、蛸薬師のそばで玩具を買って来た。久しぶりで国へ帰って子供に会うのはうれしい。しかし夫の仕送りがとぎれて、しかたなしに親の里へ帰るのだから心配だ。夫は呉にいて長らく海軍の職工をしていたが戦争中は...『三四郎』読書メモ②「汽車の女」

  • 『三四郎』読書メモ①

    夏目漱石の『三四郎』を再読しました。同時に小森陽一氏の『漱石を読み直す』と石原千秋氏の『漱石と三人の読者』を読み、たくさんの示唆をいただきました。『三四郎』の読解のためのメモを残します。『三四郎』において混乱するのは借金のやりとりです。どうなっていたのでしょうか。整理します①広田先生が野々宮さんから20円借りる。広田さんの引っ越しの費用だった。②野々宮が用立てた20円は、妹のよし子がバイオリンを買うための費用だった。③広田先生はしばらく返せなかったが、答案調べの臨時収入があり返すことになる。④広田先生は与次郎にその使いを頼む。広田さんはお金を返したのだから、借金問題は解消したことにしてもよさそうだ。(もちろん実際にはこの時点ではまだ返してはいない。)⑤与次郎はそのお金を競馬ですってしまう。⑥困った与次郎に...『三四郎』読書メモ①

  • アイルランドのドキュメンタリー映画『ぼくたちの哲学教室』を見ました。

    北アイルランド、ベルファストの男子小学校で実施されている哲学の授業を2年間にわたって記録したドキュメンタリー『ぼくたちの哲学教室』を見ました。根気強く子供たちと向き合い、自分自身が「考える」ことによって解決していく教師の姿に心打たれました。大人たちはアイルランド紛争の中で生きてきた世代であり、子供たちはその紛争を知らない世代です。しかし子供たちは紛争の世代の影響を受け、暴力によって解決しようとしてしまいます。子供たちは興奮すると自分をとめられないのです。冷静に考えることができません。教師は、暴力が何も生まないことを語り、解決するために「考える」ことを求めます。すぐにうまく行くわけではありません。しかし対話の継続が未来につながると信じています。教育的な効果はすぐに表れるものではありません。テストの成績は短期...アイルランドのドキュメンタリー映画『ぼくたちの哲学教室』を見ました。

  • 組織型犯罪

    ビッグモーター社の問題を見ればわかる通り、組織が社員に理不尽が要求をして、それをいやいやでもやらなければならないというケースは当たり前のようにある。もちろん本来「当たり前」であってはいけないのであるが、これに抵抗すれば自分の立場を失ってしまうのであるから社員は「忖度」せざるを得ない。組織ぐるみの不正がなくならないのは、こういう構造的な問題である。私が知っている、わが地方の有名企業においてもそういう構造がある。これは確たる証拠がないので、企業名は伏せるが地方の政治力がある人物とのつながりの深い企業である。その企業ではこれまで多くの女性が理由もわからずに突然辞めている。しかもその中の多くは精神的に壊されてしまっているのだ。私自身はセクハラ、パワハラがあったのではないかと思っている。性犯罪の可能性もある。辞めた...組織型犯罪

  • 映画『エリック・クラプトン アクロス24ナイツ』を見ました。

    エリック・クラプトンが1990年代初頭にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行った42回の公演の中から、編成の異なるいくつかの演奏をピックアップしてつなげたコンサート映画『エリック・クラプトンアクロス24ナイツ』を見ました。私の世代にとっては感慨深い作品でした。私は特に熱心なクラプトンファンではなかったし、初期のクラプトンはリアルタイムで聞いていた世代でもありません。ですから特別な感慨はないのだろうなと思って映画を見始めました。しかし、映画で演奏される曲はほとんど知っていました。そして生演奏の緊張感は私たちの時代のものであり、体にしっくりくるような感覚になりました。特によかったのは、アルバート・コリンズやバディ・ガイをゲストに招いたブルース・ナイト。クラプトンが一歩引いて演奏してましたが、クラプトンの...映画『エリック・クラプトンアクロス24ナイツ』を見ました。

  • ビッグモーター社の保険金不正請求問題

    ビッグモーター社の保険金不正請求問題は誰がどう見てもビッグモーター社に落ち度があるようである。なぜ警察の捜査がないのかがわからない。ビッグモーター社の不正は内部告発が次々と出てきている。これは相当ひどい職場だったことが窺える。利益のためならばなんでもありの状況だったように見える。しかも一部が明るみに出て、マスコミが騒ぎ出すと、次々と不可解なことが出てくる。つつけばいくらでも不正が出てきそうな状況であるし、それを隠蔽しようと必死な状況も見られる。ここまでひどい状況でありながら、刑事事件とならないというのが不思議である。ネットニュースを見ると、刑事告発によって刑事事件になる可能性もあるとのことであるが、ここまでの不正に警察の捜査が入らないのはあり得ない話であろう。きちんとした対応をお願いしたい。それにしてもジ...ビッグモーター社の保険金不正請求問題

  • 映画『リバー、流れないでよ』を見ました

    話題の映画『リバー、流れないでよ』を見ました。あえて「B級タイムループドタバタコメディ」と言わせていただきます。雑だけれどもなんかほっこりとする佳作です。京都の貴船の老舗旅館を舞台に、2分間のループに巻き込まれ、抜け出せなくなってしまった人々を描く作品です。ループするのですが、その間の記憶は残るというのがこの作品のおもしろいところです。だから時間はもどるのですが話は進展していきます。このような場面で人間はどう行動するのだろうというシチュエーションコメディの要素もあります。このドタバタが笑いをさそいます。どうせ時間がもどるんだから、何をしてもOKだという気持ちになるのもわかります。自分だったら何をするだろうかと考えてしまいます。死んでも2分後には生き返るのだから一遍死んでみようという気にもなってしまうかもし...映画『リバー、流れないでよ』を見ました

  • 寺島しのぶさんの歌舞伎出演に期待

    10月の歌舞伎座で山田洋次さんが演出する「文七元結物語」に寺島しのぶさんが出演することになったそうである。とても期待しているし、できれば見に行きたい。寺島さんは歌舞伎の家で育ってきたので、歌舞伎のことをよく知っている。しかも女優としての実力は言わずもがなである。多くの人が歌舞伎座に立つ寺島さんを見てみたいと思うであろう。。そもそも歌舞伎は「出雲阿国」が始めとされ、本来は女性による踊りであった。それが幕府によって禁止されたために男だけで演じられるようになったものなのだ。だから女人禁制は本来のものではない。もちろん男だけの演劇であることによって歌舞伎は育ってきたのであり、男だけの歌舞伎を否定しなければならないというものではない。しかし女人禁制という考え方は現代においてはあってはならないものである。しかも今回の...寺島しのぶさんの歌舞伎出演に期待

  • 映画『パリタクシー』を見ました。

    映画『パリタクシー』を見ました。波乱の人生を送った女性が、年老いて死を覚悟して高齢者施設に移る。その時に乗ったタクシー運転手との数時間の出来事を映画です。私の好きなタイプの映画でした。老女の波乱の人生がおもしろい。もちろんおもしろいと言ってはいけないような悲惨な出来事だらけなのですが、しかし人生の流転に引きつけられます。男の股間を焼いてしまうのは、ジョン・アービングを感じておもしろかった。老女の悲しくも思い出深い人生が心を動かします。一方ではキックボードの乗った男ににぶつけられたり、タクシーの運転手があやうく信号無視でキップをきられそうになったり、狭い道で駐車して大渋滞になりながら余裕を見せたり、小さなストレスが次々と襲い掛かる中で仕事をしている姿に、リアリティを覚えます。最初、90分という短い映画なので...映画『パリタクシー』を見ました。

  • 大江健三郎作『狩猟で暮したわれらの先祖』を読みました。

    大江健三郎作『狩猟で暮したわれらの先祖』を読みました。これは1969年に出版された『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』(新潮社)に収められている比較的初期の中編小説です。「僕」は三人暮らしです。妻と息子がいます。暮らしている街に6人の家族がやってきます。「普通」とは違う家族です。彼らはその街に住み着きます。「僕」かつて「山の人」と呼ばれている山間地で流浪する一族を差別していました。6人の家族がその「山の人」ではないかと恐れます。自分に復讐しにきたのではないかと。町の住民たちも、6人組の家族を警戒します。そして異質な存在として接します。住民と家族は奇妙な関係を保ちながらしばらく街に一緒に生活します。「僕」もその家族を警戒しながらも、なぜかひかれていきます。おそらくそれは彼らが自分にはない「自由」を持ってい...大江健三郎作『狩猟で暮したわれらの先祖』を読みました。

  • 映画『アフターサン』を見ました。

    映画『アフターサン』を見ました。難しい映画だという予備知識はあったのですが、それ以外の情報はシャットアウトして見ましたが、完全に見誤ってしまってしまいました。だから多分半分も理解できていません。深い映画です。映画を見終わってから見た、「あらすじ」と「解説」を引用します。(あらすじ)思春期真っただ中の11歳のソフィは、離れて暮らしている31歳の父親カラムと夏休みを過ごすため、トルコの閑散としたリゾート地にやってくる。二人はビデオカメラで互いを撮影し合い、親密な時間が流れる。20年後、当時の父の年齢になったソフィが映像を見返すと、そこには大人になって分かる父親の一面があった。(解説)幼いころに父親と二人きりで過ごした夏休みを、成長した女性が回想するかたちで描き、世界各国の映画祭や映画賞で話題となったヒューマン...映画『アフターサン』を見ました。

  • 山下達郎氏の発言は許せない

    ジャニーズ事務所の問題については一度このブログで書いており、それ以上書くのは避けていたが、この度の山下達郎氏の発言は私に火をつけた。許すわけにはいかない。ジャニーズ事務所の問題は、ジャニー喜多川氏が権力を行使して性犯罪を常習化していたということが、多くの証言により明らかになったということであり、現在事務所がその犯罪の存在を隠蔽しているという疑惑である。自分の性的な快楽のために若い男子をだまし、それを隠蔽するために巨大な権力を駆使してきたという事件である。結果的には一般人も権力者の犯罪の隠ぺい行為に加担していたことにもなるのだ。単なる事務所スキャンダルとは違う。事務所は最近になって、事務所のタレントをあらゆる番組に出演させている。ドラマを見ていてもどのドラマにも必ずといっていいほどジャニーズ事務所のタレント...山下達郎氏の発言は許せない

  • 「1時間弱」は何分?

    朝、TBSの「THETIME」を見ていた。6時の安住アナウンサーの番組冒頭のあいさつで、世代の差を語り始めた。そして「1時間弱」は何分かと視聴者に尋ねた。だれもが「50分」「55分」などという回答になると思っていたら、意外にも若い世代では「65分」「70分」という回答があったということだった。びっくりした。おそらくこれは「1時間弱」を「1時間と少しの時間」と思ってしまっている人がいるということなのだと思う。しかしこれは世代の差ではなく、間違いである。1時間弱を1時間を超えると思っている人がいたらコミュニケーションがなりたたない。今すぐ勘違いを直してもらわなければいけない。安住アナウンサーは柔軟だから人気があるのだろうが、なんでもかんでも若い人に媚びる必要はない。いやこの件に関しては間違いを許してもらっては...「1時間弱」は何分?

  • 2023年春ドラマ

    今年の春ドラマで最後まで見たのは日曜日の『ラストマン』と『日曜の夜ぐらいは…』の2作品だけだった。最初から見なかったものもあったし、途中でやめてしまったものもあった。「あまちゃん」の再放送も始まり、時間的に厳しくなったということもあるが、好みのドラマが少なかった。『ラストマン』はやはりおもしろかった。ただし最終回はかなり無理のある展開であった。説明的なドラマとなってしまった。『日曜の夜ぐらいは・・・』は岡田惠和さんの脚本だった。やはり脚本がいい。毎日がつらい3人の女性が偶然友達になり、自分の人生を変えていくストーリーである。3人が偶然出会う最初のエピソードがとてもよかった。その後宝くじに当たってしまったところからちょっと心配してしまった。これからいろいろ面倒くさい話になってしまうのではないかと思ったのだ。...2023年春ドラマ

  • 簡単に教育現場に「ChatGPT」を導入するな

    文部科学省は7月4日、「ChatGPT」をはじめとした生成AIの利用について、小中高向けのガイドラインを公表した。生成AIの教育利用に対する基本的な考え方として、「情報活用能力」の育成という観点からは、生成AIへの理解や活用、使いこなすための意識を育てることは重要としている。つまり使わせる方向なのだ。文部科学省はバカである。学生は自分の力で文章を書く力を育てる場所だ。これは知識の修得と、知識の活用を育てる一番いい教育なのである。文章を書く力は論理能力の高める。生成AIはそれを奪い去り、子供たちの能力を落とす危険なツールである。文部科学省は例えば読書感想文には使わせないと言っているようだが、もちろん使わないはずはない。もはや作文教育は崩壊したも同然である。それは生徒たちの可能性を奪っているだけだということを...簡単に教育現場に「ChatGPT」を導入するな

  • 劇団チョコレートケーキ「ブラウン管より愛をこめて -宇宙人と異邦人-」を見ました。

    東京の「シアタートラム」で劇団チョコレートケーキの「ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-」を見ました。ウルトラセブンのオマージュ作品で、現代の差別や言論状況を見事に描いた作品でした。私はちょうど「ウルトラセブン」世代です。子供のころ「ウルトラセブン」をいつも見ていました。子供向けの作品でありながら、テーマが大人びていて、勧善懲悪ではない回も何度かありました。人間社会を批判している作品もあります。このあたりは沖縄県出身の金城哲夫さんの影響力が大きかったようですが、当時の円谷プロの雰囲気でもあったような気がします。「ウルトラQ」も社会性の高い番組でした。(「ウルトラマン」はどちらかというと子供向けの番組ということを意識して、勧善懲悪の傾向が強いものでした。)この演劇は、「ウルトラセブン」のような社会性の...劇団チョコレートケーキ「ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-」を見ました。

  • 教員という仕事に魅力を取り戻すために必要なこと

    中教審(中央教育審議会)の「質の高い教師の確保」特別部会は6月26日に第1回会合を開き、そこで貞廣斎子部会長が「(教員の働き方改革について)直ちに取り組むべき施策に関し、他の検討事項に先だって整理を行うことにしたい」と述べたという。おそらくこれまでと同じように理念だけを語り、現場に丸投げする改革案に終わってしまうだろうと懸念されるが、まずは見守りたい。緊急に実効性のある改革をやってもらいたい。一方で「教員がいかに魅力的な仕事である」ことを緊急提言で発信すべきと述べる委員もいたという。それは無理だ。魅力がないから成り手がいないのだ。魅力がないものに魅力があるといったらうそになる。やらなければいけないのは教員に魅力を作るということである。教員になりたい人間の多くは、大学で専門的に学んできた分野の学問が好きな人...教員という仕事に魅力を取り戻すために必要なこと

  • 歌舞伎は「普通の演劇」です。(「この物語は壮大な歌舞伎なのかもしれない」ってどういうこと?)

    市川猿之助さんが逮捕され、切ない気持ちになります。猿之助さんも犯罪を犯したのだから非難されるのはと当然だとは思いますが、とは言え事情が複雑で、簡単にコメントを出している方々の気持ちが理解しがたいところがあります。「猿之助」の名跡について今いうべきことではない。ネットを見ていたら東国原英夫氏が市川猿之助さんの逮捕について「この物語は壮大な歌舞伎なのかも知れない」とツイートしたというニュースが出ていました。何を言っているのでしょう。「歌舞伎」を何だと思って言っているのでしょう。以前、私は「風の谷のナウシカ」を歌舞伎が行った公演を厳しく批判しました。しかし一方ではこの公演を評価しているコメントがはるかに多数目にしました。「歌舞伎だからこそできた」というような言い方をしている人も多くいました。歌舞伎が特殊な芸能だ...歌舞伎は「普通の演劇」です。(「この物語は壮大な歌舞伎なのかもしれない」ってどういうこと?)

  • 映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』を見ました。

    映画『ウーマン・トーキング私たちの選択』を見ました。公然と行われていく性暴力に戦いをいどむ女性たちの映画でしたが、現実離れしていつように見え、あまり入り込むことができませんでした。2010年。アメリカの特殊な古い生活をし続ける村の物語。その村では女性たちが男性に性暴力が頻繁に行われていました。男性の暴力に怒りを覚えた女性たちはその対応を投票で決めようとします。「男性たちを許す。」「男性たちと戦う。」「逃げる」の三択です。「男性たちと戦う。」と「逃げる」が同数になります。対応を三家族が討論をして決めることにしします。女性たちの討論がはじまります。私はこの設定に無理を感じてしまいました。現代のアメリカの社会でこのような事件が起きるとは考えにくい。実際調べてみるとボリビアでの事件を題材にした小説を基にして作られ...映画『ウーマン・トーキング私たちの選択』を見ました。

  • マスメディアの広末涼子さんへの「いじめ」

    広末涼子さんが不倫をしたということで大騒ぎになっている。マスコミの対応が見苦しい。私は広末さんのファンではないし、ひとつひとつのネット記事の中身やワイドショーも見ていない。だから詳しいことはわからないが、明らかなのは広末さんは犯罪を犯したわけではないことであり、だとすればそれは家族の問題だということである。それぞれの家族はそれによって大いに苦しんでいるはずである。しかしネットやワイドショーは大騒ぎをやめようとしない。一体なぜそこまでしなければいけないのであろう。これを書くためにネット記事を2,3確認してみた。するともはや週刊文春の記事をもとにした憶測記事でしかない。そして広末さんをたたけばいいという態度しか読み取れない。日本人みんなでの集団いじめとなっている。ここまできたら広末さんよりも、マスメディアのほ...マスメディアの広末涼子さんへの「いじめ」

  • 教員の多忙化がようやく大きく取り上げるようになってはきたが

    教員の多忙化、教育改革の必要性については何度かこのブログで書いてきた。私のブログなどはあまり多くの人が見るわけではないが、数多くの人が教育現場の現状の悲惨さを訴えることによって、ようやく大きな事件なのだということに気づき始めたようである。しかし、問題の本質を見誤ってはいけない。今の教育の一番の問題は小手先の改革ではどうしようもないのだ。必要なのは教育予算の大幅な増額なのであり、それなくしての改革は意味がないということである。きょうも「学級崩壊、教員の多忙化、理不尽な保護者、ブラックな学校を変える唯一の方法」というタイトルのJBPressのネット記事が出ていた。そこでは有名な教育学者の佐藤学氏の意見が紹介されていた。記事を引用する。質の高い教育をすべての子どもに提供するには、探究と協同を中心とする「協同的学...教員の多忙化がようやく大きく取り上げるようになってはきたが

  • 映画『波紋』を見ました。

    荻上直子監督の新作『波紋』を見ました。現代の人間社会を突き放した目で見つめる映画でした。人間の愚かさと同時にいとおしさが描かれています。いい作品です。今現在、私たちは東日本大震災のことなど本当はほとんど忘れてしまっています。忘れるのは人間だからしょうがないのですが、あの時の影響は見えない形でもいまだに人間社会にはっきりと残っています。この映画も原発事故によって心が壊れてしまった人たちのストーリーです。人生の壁にぶち当たると、だれもが傷つき、だれもが他人を恨み、だれもが誰かにすがりたくなります。東日本大震災とか、新型コロナウイルスとか、あるいはかつて日本が行った戦争とか、バブル経済の崩壊もそうです、大きな出来事は見えないところで今も人々を狂わせていきます。そこで狂った人間を憎むのは当然かもしれませんが、しか...映画『波紋』を見ました。

  • エルニーニョと地球温暖化の関係は「ない」のではない。「不明」なのだ。

    先日『ひるおび』を一瞬だけ見ていた。エルニーニョの説明をしている場面だった。そこに出ていた気象予報士がエルニーニョと温暖化は関係ないという説明をしていた。しかしそれは間違いである。関係は不明だというのが現在言い得ることである。気象庁のHPでも次のようなQ&Aが掲載されている。引用する。Qエルニーニョ現象と地球温暖化は関係があるのですかA1990年代前半に、太平洋赤道域東部の海面水温偏差が正の状態が長く続きました(気象庁の定義では、1991年春〜1992年夏がエルニーニョ現象発生期間となっています)。地球温暖化の影響の可能性を指摘する調査結果がある一方、自然変動だけで十分説明できるとする調査結果もあり、必ずしも、研究者の間で意見が一致しているわけではありません。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4...エルニーニョと地球温暖化の関係は「ない」のではない。「不明」なのだ。

  • 映画『怪物』を見ました。

    カンヌ映画祭で坂元裕二氏が脚本賞を受賞した映画『怪物』を見ました。私にとっては不満の残る作品でした。私がこの作品の気に入らなかった理由は、学校がリアルではないということです。映画では息子に体罰を与えた教員を抗議するために母親が学校に行きます。そこでの学校側の対応が情けない。実際にああいう対応をするはずがないと感じたのです。学校はトラブルだらけです。しかしいくらなんでも、保護者に対してああいう対応をする学校はありません。校長も逃げるようにいなくなる。担任もあやまる気力もないのに語りだけ謝る。他の教員はわざとらしくと見えるまでトラブルをさける行動をとる。確かに後半でそのいきさつは説明されるのですが、学校側の対応はありえないものでした。学校と保護者のトラブルはもっと繊細な部分で生じています。学校職員だってトラブ...映画『怪物』を見ました。

  • 映画『渇水』を見ました。

    映画『渇水』を見ました。水道料金を滞納する家庭を回って水道を止める業務に当たる水道局員の男性が、良心と職務の間で葛藤する映画です。身につまされるものがありました。私も長年教員をやっていました。最初のころは怖いもの知らずで、教員なんかみんな敵だという気持ちでやっていたのですが、いつの間にか取り込まれてしまい、本来の自分を失ってしまったような気がします。公務員はこうあらねばいけないとか、教師はこうあらねばいけないという変なしばりにがんじがらめになってしまいました。その結果いつの間にか自分を偽ってしまっていたのだと思います。最後はストレスだらけの生活になっていました。この映画の主人公も組織に取り込まれ、本来の自分を見失っていたのだと思います。その結果当たり前の感覚を失ってしまいました。絶望の淵にたった時、やっと...映画『渇水』を見ました。

  • 夏目漱石作『薤露行』(かいろこう)を読みました。

    夏目漱石の初期の短編小説『薤露行』を読みました。1905年(明治38年)に発表された作品で、アーサー王物語を題材にした創作作品です。円卓の騎士ランスロットをめぐる3人の女性の運命を描く、非常に興味深い作品です。三人称小説。文体の特徴は格調のある雅文体であり、それが中世の雰囲気を出しています。過去形は用いられず、現在形で描写されます。五章に分かれており、あらすじは以下の通りです。一夢アーサー王は戦争のため円卓の騎士とともに北に向かって発つが、騎士ランスロットは、病を口実にして残り、王妃ギニヴィアと逢引し、ランスロットは試合にひとり遅れて出発する。二鏡高台に立つ部屋で、シャロットの女が鏡に外界を映して眺めている。その鏡の中に騎乗姿のランスロットが銀の光となって現れる。女は立ち上がり、窓から顔を外に突き出す。ラ...夏目漱石作『薤露行』(かいろこう)を読みました。

  • ジャニーズ事務所元社長の性加害問題

    ジャニーズ事務所の元社長ジャニー喜多川氏の性加害がニュースになっている。私はジャニーズ事務所について強い関心があったわけではないが、ネットで見ているだけでこの事件について強い怒りを覚えるようになった。次の3つの問題を挙げておきたい。問題1ジャニー氏の性加害の問題事務所の社長がその権力をもとにして性加害を加えていたことはほぼ事実とみてよさそうである。しかもこれは長期にわたりしかも被害者もかなりの数であったという証言もある。一体いつの時代の話なのだ。オウム真理教なみである。この真相を解明することが最優先である。警察の介入が必要な事案であろう。加害者がすでに死んでいるとか、被害者側のプライバシーの問題に言及する人もいる。それは当然考慮にいれなければいけないのは当然であるが、これだけの犯罪をうやむやにして終わらせ...ジャニーズ事務所元社長の性加害問題

  • 映画『帰れない山』を見ました。

    第75回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した映画『帰れない山』を見ました。親と子、友人、恋人などさまざまな身近な人が「自分」を形成していき、そうしてできた「自分」が「自分」を見つけて生きていくことが描かれます。人生の意味を考えさせられる名作でした。主人公のピエトロは夏の間、山に行きます。そこで村の少年ブルーノと出会い親友になります。ピエトロの父のジョヴァンニはピエトロと登山を教えます。ある時、ジョヴァンニはピエトロとブルーノを泊りがけで氷河へのトレッキングに連れていきます。しかしピエトロが途中で高山病にかかってしまい下山しなければならなくなります。序盤に描かれるこの場面は印象に残ります。山の生活は厳しい。厳しい自然の中で時には命の危険にさらされる時もあります。しかし都会の生活のような人間関係のストレスはあ...映画『帰れない山』を見ました。

  • 真の教育改革の視点3「部活動の地域移行②」

    前回書いた通り、部活動が大きな教員の負担になっている。そこで学校から切り離そうと地域移行の方針が打ち出された。発想としては悪くないのだが、現実の問題として考えるとうまく行きそうもない。〈地域のスポーツクラブへの移行の問題点〉部活動の地域移行について、多くの人のイメージは、地域のスポーツクラブに任せるというイメージなのではないかと思う。そうなれば一番いい。しかしそれの一番の問題はお金である。お金がかかりすぎるのだ。そんなにまでして部活動を進めるべきなのだろうか。だったら部活動自体をやめてしまったほうがいいという議論が生まれてくる。これには部活動に強い思い入れのある多くの大人たちは反対するであろう。そう簡単にいく問題ではない。〈場所の問題点〉本来ならば学校から部活動を切り離すべきであり、それができなければ結局...真の教育改革の視点3「部活動の地域移行②」

  • 真の教育改革の視点2「部活動の地域移行①」

    現代の教育問題の根源は部活動である。教師にとって部活動の負担が大きすぎるのだ。本来部活動は現状のような大変負担の大きなものではなかったはずだ。放課後の勤務時間の中で生徒が自主的に参加して楽しむ程度のものだったはずである。しかし部活動というシステムは大きくなっていった。大会があれば指導している教師にとっても勝ちたいし、勝たせたいという気持ちが生まれる。もちろん生徒側にとっても勝ちたいという気持ちが生まれる。その結果練習はエスカレートしてくる。このサイクルが際限のないところまで行きついてしまったのだ。部活動は学校にとってのなくてはならないものとなり、部活動を熱心にやらない生徒はダメな生徒として扱われ、部活動に熱心に指導しない教師はダメ教師と見なされるようになった。「部活動を一生懸命やった生徒は進路でも成功する...真の教育改革の視点2「部活動の地域移行①」

  • 岸田首相への期待と不安

    岸田総理は首相就任以来様々なことが重なり支持率が下がり続けた。しかし粛々と仕事を続けてきたことによって、支持率が少し上がり始めた。私は、岸田首相は安倍元首相や菅元首相のような不遜な態度があまりないので期待している。少なくとも表面上は謙虚に真面目に政治に取り組んでいるように見えるのだ。その意味で好感が持てる。しかし今回のサミットを見て、やはり不安な部分も大きく感じた。今回のサミットはゼレンスキー大統領効果で大成功したように見える。世界に対して西側諸国の結束と、ウクライナの連携を大きくアピールした。同時にインドとの関係を示すこともでき、ロシアに対して強烈なアピールになった。おそらく岸田総理をはじめとする日本政府の努力も大きかったのだろうと推測される。しかし、一方では広島で行われたサミットであるのにも関わらず核...岸田首相への期待と不安

  • 真の教育改革の視点1「観点別評価」

    観点別評価が高校でも導入されました。観点別評価というのは従来のペーパーテストだけの評価から脱却し、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の3つの観点から評価するというものです。理念としてはすばらしいのは言うまでもありません。生徒一人一人を様々な観点から評価することは理想的です。しかし現状では大きな問題があります。評価すべき生徒の数が多すぎて、きちんと評価がしきれないのです。特に「思考力、判断力、表現力等」の評価はむずかしい。きちんと評価がしきれないのに、観点別評価をしなければならないので労力だけが増えてしまいます。理念倒れの状態なのです。もし高校のクラスが少人数だったら可能かもしれません。ひとりひとりとの対話を通じて評価することができます。しかし1クラス40人を、週2~3...真の教育改革の視点1「観点別評価」

  • 本当の教育現場の改革を

    教員の待遇についての議論がようやく最近大きく取り上げられるようになってきた。しかし本質を見失う議論をおこなってはいけない。一番の問題は教員の負担が大きすぎるということであり、その議論を抜きにして給料のことが一番先に出てくることに大きな疑念を感じざるを得ない。永岡桂子文部科学相は22日の中央教育審議会(文科相の諮問機関)総会で、質の高い教員人材を確保するため、処遇改善などを検討するよう諮問したというネットニュースを見た。公立学校教員に残業代が支払われない代わりに月給の4%を支給する現行制度について、支給水準を引き上げる方向で議論が進む見通しだと言う。それはそれでいいとは思う。そかしそれによって解決する問題ではない。問題は教員が心身ともに疲弊しているということなのだ。逆にだから勤務がきつくなってもいいと言いは...本当の教育現場の改革を

  • 映画『TAR』を見ました

    今年のアカデミー賞の有力候補のひとつだった映画『TAR』を見ました。緊張感のある見事な映画でした。2時間半を超える映画でしたが長さをまったく感じずにみることができました。事前にいくつかのコメントを見て、難解な映画なんだと覚悟してからの鑑賞だったからか、それほど難解さを感じずに見ることができました。ストーリー自体は逆にわかりやすい。しかし具体的な過去のハラスメントの情報はほのめかされるだけで、描写されてはいません。だから観客は後追いでストーリーを確かめることになります。ちりばめられたさまざな記号が謎を生み出します。ひとつひとつの意味を考え始めると迷宮にはまります。迷宮は恐怖を呼び起こし、狂気を生みます。観客は主人公と同じように追い込まれていくのです。主人公の時間軸の中で主人公の視点で描かれるので、主人公の意...映画『TAR』を見ました

  • 夏目漱石作「一夜」を読みました。

    夏目漱石の初期短編「一夜」を読みました。これも『吾輩は猫である』が書かれていた時期に発表された作品です。とても短い小説なのですが、一読しただけでは訳がわかりません。いや再読しても訳がわかりませんでした。夏目漱石自身が『吾輩は猫である』の中で次のように書いています。(東風)「せんだっても私の友人で送籍(そうせき)と云う男が一夜という短篇をかきましたが、誰が読んでも朦朧として取り留めがつかないので、当人に逢って篤と主意のあるところを糺して見たのですが、当人もそんな事は知らないよと云って取り合わないのです。全くその辺が詩人の特色かと思います」自分自身で取り留めがつかないと言っているくらいなのですから、わかりっこありません。ただしここにヒントがあったのも事実です。引用した部分は現代の詩について話をしている最中に東...夏目漱石作「一夜」を読みました。

  • 柳家喬太郎独演会に行きました。

    山形県の川西町フレンドリープラザで開催された「柳家喬太郎独演会」に行きました。喬太郎師匠は自分でも強調していましたがあまりメディアにはでません。そのために一般的な人気はテレビによく出る落語家さんたちよりは若干下回ります。しかし今の落語会ではトップレベルの実力です。上手いだけではなく面白い。しかも古典も新作もやる。ついでにウルトラマンも詳しい。そんな喬太郎師匠の独演会、楽しい時間をすごさせていただきました。川西町フレンドリープラザというのは、井上ひさしさんの生まれた川西町小松につくった施設です。井上さんから贈られた井上さんの蔵書による遅筆堂文庫と川西町図書館とホールでできた施設です。県外からいらっしゃる方にはアクセスが少し不便ですが、地域文化の拠点となっています。今回の演目は「普段の袴」「社食の恩返し」「品...柳家喬太郎独演会に行きました。

  • 立川談春独演会に行きました。

    5月12日(金)に仙台市電力ホールで行われた「立川談春独演会」に行きました。談春師匠の語り芸を堪能するとともに、珍しい試みを楽しませていただきました。今回の落語会の演目は「子別れ」だけ。中入りを挟んでほぼ2時間ずっとひとつの噺だったのです。「子別れ」は前に聞いたことがある噺だったのですが、そんなに長い話ではなかったはず。調べてみると近年演じられるのは後半部分で、今回は前半部分も演じてくれたのでした。前半は酒好きで仕事に疎かになって、妻にも尊大になってしまう夫婦の別れまでの話で「強飯の女郎買い」と呼ばれることもあるそうで、後半は夫が酒を断ってまじめに働きだし、夫婦が元の鞘に収まるまでの話で、「子は鎹」とも呼ばれています。前半と後半がまるで違う話のようにも聞こえます。しかし人情噺というのはもともと長いものが多...立川談春独演会に行きました。

  • 近代文学と日本語の特質

    論文を書くために考えていることの粗案を書き残す。これを発展させられればと思っている。日本語の主語の概念は英語をはじめとする西洋語の主語の概念とはちがうものである。学者によっては日本語に主語はないと言う。たしかに英語のような主語を日本語に当てはめるのはむずかしい。しかし日本語にも、事態の主となる名詞は存在する。日本語の主語とはそういうものであろう。つまり主語の概念が違うのである。この言語の違いが、明治期の近代文学の生成に大きく影響を与えた。近代文学は基本的に書かれた小説であり、そこには定点となる客観的視点を持った「語り手」が必要だった。それが江戸時代までの日本語にはなかったのである。ないならばないでいいではないかと思われるかもしれない。確かにそれでも悪くはない。しかし「近代」は個人の時代であり、個人とは独立...近代文学と日本語の特質

  • 夏目漱石作「琴のそら音」を読みました。

    夏目漱石の初期の短編「琴のそら音」を読みました。明治38年(1905年)5月に発表された小説です。これは『吾輩は猫である』の連載中です。初期の作品は登場人物が勝手に想像を大きくしていき大事のように思われるのにも関わらず、実はたいしたことがなかったという内容のものが多くあるのですが、これもそのうちの一つです。小山内薫の主宰する雑誌「七人」に掲載され、明治39年5月、『倫敦塔』、『幻影の盾』『趣味の遺伝』とともに『漾虚集』に収録され出版されました。この小説は小説としてはどうとらえていいのかわかりません。私が言うと失礼なのは承知で言いますが、決して優れた作品ではないと思います。しかし、この時期の夏目漱石がどういう意図で小説を書いていたのかを考える上でとても重要な作品だと思います。語り手は「余」で、一人称小説です...夏目漱石作「琴のそら音」を読みました。

  • 映画『銀河鉄道の父』を見ました。

    門井慶喜の長編小説を原作とした映画『銀河鉄道の父』を見ました。宮沢賢治の生涯をその家族に視点をあてて描かれた作品です。淡々と描かれることによって、宮沢賢治の家族の姿を映し出し、それを自分の家族の姿のように見てしまう映画でした。泣けました。この作品は宮沢賢治の父、宮沢政次郎の目を通して、息子をはじめとする家族を描く小説です。この本を読んだときその感想を私は次のように書いています。「宮沢賢治は不器用な人なのです。不器用であるからこそ逆に好かれるのです。不器用な家族の不器用な歴史が語られる本です。」家族は不器用です。信頼があることはその通りではありますが、その信頼があるからこそ対立が絶えません。自分が自分を思い切り主張できる場なのです。普段外の世界では言えないようなことも家族の中では口に出ます。厳しい言葉が行き...映画『銀河鉄道の父』を見ました。

  • 夏目漱石「幻影の盾」の読書メモ

    夏目漱石の『漾虚集』の中の短編小説「幻影の盾」の読書メモです。この小説は中世ヨーロッパの物語のような小説です。文体は「雅文調」と言うものなのでしょうか。漢文訓読調を交えた優雅な文体です。とは言え現代人には読みにくい。三人称小説ですが、語り手の視点は主人公ウィリアムに焦点を与えます。主人公の内面を描くことはできるようです。内容はアーサー王の時代のお話です。中世ヨーロッパの兵士ウィリアムは白城の城主ルーファスに仕えています。ウィリアムは夜烏の城にいるクララと恋仲になります。しかし、かつて友好関係にあった夜鴉の城主と白城の城主の間に諍いがおこり、戦になってしまいます。戦の結果クララは焼け死にます。しかしウィリアムには「幻影の盾」がありました。その「幻影の盾」の中でウィリアムはクララと再会します。この小説はどう読...夏目漱石「幻影の盾」の読書メモ

  • 映画『ザ・ホエール』を見ました。

    映画『ザ・ホエール』を見ました。舞台作品を見るような会話劇で、人間の弱さとその弱さを乗り越える勇気を描く、考えさせられる映画でした。大学で文学を教えるチャーリーは、同性の恋人に先立たれます。その精神的なショックのために過食状態になり、動くのもままならないほど太ってしまいます。もはやその状態から抜け出せないほどにまでなっています。大学の授業はオンラインで行っています。カメラの故障だと言って自分の姿は生徒に見せません。チャーリーを助けてくれるのはアランの妹であり看護師であるリズです。彼女はチャーリーを恋人のように支えてくれます。このチャーリーとリズの関係が不思議です。そこに別れた娘が表れます。チャーリーはアランと付き合う前に、結婚をしていて子供もいたのです。娘はチャーリーに対して悪態をつくのですが、チャーリー...映画『ザ・ホエール』を見ました。

  • 教員の残業時間に見える日本の異常さ

    先日、教員の残業時間のニュースがネットに出ていた。「国の残業の上限超える教員中学校77.1%小学校64.5%」だと言う。この異常な状況をそれこそ「異次元の少子化対策」の最重要課題として実施してもらいたい。教員の働きすぎ傾向は、何十年も前から言われ続けてきた。しかし国の政策はまったく変わってこなかった。それどころか教員の不祥事ばかりが大きく取り上げられ、教員は叩かれる存在になってしまって、だまって言われたことを言われた通りにしなければならない存在となってしまった。教員志望者も減ってきてしまった。もはや教員志望の人間は変わり者である。ほかに仕事がないから教員になる。あるいは部活動バカが教員になる。教育の質は落ちるばかりだ。部活動の地域移管がもちろんこれは減少傾向にはあるようだ。努力していないわけではないことは...教員の残業時間に見える日本の異常さ

  • AIの形勢判断はいい加減(名人戦第2局)

    渡辺明名人に藤井聡太竜王が挑戦する名人戦の第2局の終盤戦をABEMA・TVで見た。私は、将棋はルールを知っている程度で、特に将棋ファンということではない。しかし最近インターネットテレビで中継が行われ、中継中はAIによる形勢判断がある。将棋に詳しくなくとも見ているとおもしろい。ほぼ互角で進んでいて、70手目に渡辺名人が終盤にしてはかなりの長考をして「2五金」の手を指した。これはAIも推奨していた手である、それに対して藤井竜王が「1四桂」という手を指した瞬間に、AIの形勢判断が一気に藤井竜王に傾いた。この「1四桂」という手もAIが早くから予想していた手だった。それなのに大きく形成判断が変動してしまったのだ。AIの判断以前に、渡辺名人も藤井竜王ももっと正確な判断をしていたのが状況から推測できる。つまり、AIの形...AIの形勢判断はいい加減(名人戦第2局)

  • ドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』を見ました。

    デヴィッドボウイの音楽人生をたどるドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイムーンエイジ・デイドリーム』を見ました。私が最も聞いたミュージシャンの一人、デヴィッドボウイの人生を改めて見つめなおすことができました。デヴィッドボウイは最初、グラムロックの旗手として表舞台に出ました。自分を宇宙人と見立てたアルバムを制作し、ステージも「ジギー」という宇宙人になりきっていました。演劇的でありミュージカル的な要素を含んだコンサートでした。彼はその時から自分の真の姿を隠していました。次にアメリカにわたり、ロカビリー風の音楽を作った時代に移ります。この変化から彼の異常さが表れ始めます。彼の真の姿が見えなくなってきます。そして私の一番好きなベルリン時代が来ます。ブライアンイーノとともにノイジーであり、アンビエントな音楽を作り...ドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイムーンエイジ・デイドリーム』を見ました。

  • 夏目漱石作「カーライル博物館」読書メモ

    明治38年1月雑誌『学燈』に発表された短編小説。「倫敦塔」と同じようにエッセイ風の小説である。「倫敦塔」のような幻想もないのでエッセイといわれれば、エッセイといってもいいような作品でもある。ただし虚構も混じっているようなので、その意味では小説であろう。語り手はやはり「余」。カーライルというのはイギリスの思想家・評論家・歴史家。スコットランド出身で、倫敦のチェルシーに移り住んだ。死後、その家が博物館として公開されている。そこに「余」が訪れ、見物する。案内してくれるのは「五十恰好の太った婆さん」。セリフのように「何年何月何日にどうしたこうした」と流暢に語る。この「婆さん」の存在が小説らしいと言えば小説らしいとも言えなくもない。ユーモラスであり、ロンドンという場所をうまく表現している。カーライルの家のキーワード...夏目漱石作「カーライル博物館」読書メモ

  • 映画『小さき麦の花』を見ました。

    映画『小さき麦の花』を見ました。人間が生きることの意味を考えさせる、静かだが強い作品でした。感動しました。舞台になっている時代はほぼ現代なのだと思われます。しかし中国の貧しい農村は何十年も前と同じような生活をしています。テレビもありません。時々描かれる都会とのギャップから貧富の差の大きさを感じます。主人公は農家の息子ヨウティエと、その男と政略的に結婚させられた女クイイン。ヨウティエは兄にいいように使われていますが、文句も言わずに兄に命じられたままの生活をします。クイインは障害をもっているのか、歩き方がたどたどしく、時々失禁してしまいます。しかし自分では失禁していることに気が付きません。そんな夫婦ですが、お互いがお互いを理解しはじめ、静かに愛が深まっていきます。彼らはお互いのために真面目に生きます。家を作り...映画『小さき麦の花』を見ました。

  • 夏目漱石作「倫敦塔」読書メモ

    「倫敦塔」は明治38年1月雑誌『帝国文学』に発表された。同じ月に『吾輩は猫である』の第一回と「カーライル博物館」も発表されている。『吾輩は猫である』が戯作調であるのに対して、「倫敦塔」は写生的であり、時には美文調である。内容はエッセイ風である。自信がロンドン留学中に「倫敦塔」を見物に出かけたことを語り聞かせるとう内容である。おそらくその時の感想を書いたものであろう。だから語り手は「余」である。「余」とは漱石自身であるように読者は読む。しかし後で加えた解釈によって虚構の部分も多く含んでいる可能性もある。語り手は、「『塔』の見物は一度に限ると思う。」と言う。なぜか。おそらく語り手が「倫敦塔」の歴史の悲惨さを想像し、その想像した情景に苦しめられたからであろう。語り手はこうも語る。「倫敦塔は宿世の夢の焼点の様だ。...夏目漱石作「倫敦塔」読書メモ

  • 市川左團次さんのこと

    市川左團次さんが亡くなった。豪快で器の大きな歌舞伎役者らしい役者だった。残念だ。私が歌舞伎を見始めたのは大学生のころ、1980年くらいからである。左團次さんを襲名したのは1979年なので、私にとってずっと「左團次さん」だった。もうこんな人はめったにいなくなってしまった。左團次さんの演技は豪快だった。役になりきるというよりは、左團次さんがそのままその人になってしまうという印象だった。それがいい。器用さは少しかけていたかもしれないが、左團次さんそのものがいいのである。貴重な役者だった。裏表がないのでみんなに慕われたのだろう。テレビのバラエティに出ても、特に何かをするわけではないのに、やはり話がおもしろい。人柄がよかったのだ。私が見てきた歌舞伎役者はだんだん年をとり、亡くなる人も多くなった。若い役者はいい役者が...市川左團次さんのこと

  • 映画『AIR エア』を見ました。

    NBAのスーパースター、マイケル・ジョーダンと契約するためにナイキがどういう努力をしたのかを描く映画『AIRエア』を見ました。現代的な攻めのビジネスが刺激を与えてくれる映画です。当時のナイキは陸上のシューズには強いがバスケットシューズに関しては3流企業でした。コンバースやバスケットに関しては新興のアディダスに後れをとっています。そんなナイキがバスケットシューズでシェアを獲得するために、新人の一流選手と契約しようとします。まずはそこでマイケル・ジョーダンを選ぶ目を持っていたことが成功の第一歩でした。次にナイキを快く思っていなかったジョーダンと契約するために、シューズの色のルールを逸脱し、違反してもその罰則金をナイキが支払うという手にでます。これには賛否両論あるだろうと思われます。日本人ならばルールはルールだ...映画『AIRエア』を見ました。

  • 三谷幸喜作『笑の大学』を見ました。

    三谷幸喜作の演劇『笑の大学』を仙台市・電力ホールで見ました。戦時下だからこそ、権力に屈せず笑いを描こうする喜劇作家の心意気が、見るものを泣かせ、感動を与える素晴らしい芝居でした、戦時下の日本。国民の娯楽である演劇は、警察に台本の検閲を受けなければならなかった。瀬戸康史演ずる劇作家、椿一は、内野聖陽演ずる担当警官・向坂睦夫に無理難題を投げかけられ何度も書き直しを命じられる。しかし椿はその無謀な条件をクリアしつつ、より笑える芝居へと書き上げることで自己の心意気を示す。しだいに向坂は椿の姿に共感を覚えるようになる。しかし、向坂には召集令状が届いてしまう。真摯に議論を重ねて次第にお互いを尊重していく二人の姿が感動を呼びます。国家の力よりも人間の共感のほうが強いものであり、そんな人間の力こそが戦争よりも大きいと感じ...三谷幸喜作『笑の大学』を見ました。

  • 映画『ワース 命の値段』を見ました。

    9.11アメリカ同時多発テロの被害者遺族への補償金を分配するという仕事を引き受けた弁護士を描く映画『ワース命の値段』を見ました。苦しい仕事であるのは予想がつく。しかしそれは大きな価値のある仕事です。それを成し遂げる人間の苦悩がいたいほどわかる映画でした。弁護士のケンは、同時多発事故の被害者遺族への補償金を分配する困難だとわかっている仕事を引き受けます。対象者は約7000人。ケンはこの困難な仕事をできるだけ公平におこなうために、例外を認めないという方法に固執します。私がそういう仕事をするとしてもそうしているでしょう。例外はひいきです。そんなひいきをしてはいけないと考えるからです。しかしうまくいきません。被害者遺族は納得しません。自分の個別の事情を訴えます。ケンは最初はそれを無視しようと努力していたのですが、...映画『ワース命の値段』を見ました。

  • 映画『オットーという男』を見ました

    トムハンクス主演映画『オットーという男』を見ました。老後の孤独への向き合い方を導いてくれる、感動的な名作です。この作品は2015年のスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』のハリウッドリメイク作品だそうです。『幸せなひとりぼっち』は見たことがないのですが、リメイクであろうがなかろうが、すばらしい作品に仕上がっています。オットーは頑固者で嫌われています。仕事も首になり、いよいよ頑固も本物になります。しかしオットーが頑固になっていったのは、死んだ妻との歴史があったからだったことがわかります。妻との出会い、そして結婚、妊娠、幸せな生活がバスの事故で崩れてしまいます。妻は一命は取り留めるものの、お腹の中の子供は失ってしまいます。年老いて妻はなくなり、孤独になったオットーは自殺を試みます。私も気が付いたら年をとってし...映画『オットーという男』を見ました

  • 『ディスカバー・カーペンターズ』に感謝

    NHKラジオで1年間ずっと1組(1人)のアーティストを掘り下げて特集する「ディスカバーシリーズ」を放送している。昨年度はカーペンターズが取り上げられた。4月2日が最終回だった。とても楽しく、学ぶことが多く、そして懐かしい曲をたくさん聞くことができノスタルジックな気分にもなる素敵な番組だった。カーペンターズは私が小学生ごろ流行した兄弟グループである。カレンカーペンターの優しさを感じさせる透き通った声と、リチャードカーペンターのアレンジがすばらしく、印象に残る曲が多くある。私自身は中学、高校とロックに走ってしまい、しばらく遠ざかっていたが、最近は再びよく聞くようになっていた。古さをまったく感じさせない。きれいで優しいサウンドや声が、ストレスを和らげてくれる。カーペンターズはポピュラーミュージックの代表と言って...『ディスカバー・カーペンターズ』に感謝

  • 『吾輩は猫である』の読書メモ⑫「第十一章の2」

    『吾輩は猫である』を読んで、メモしていく。今回はその12回目。第十一章で「探偵」をきっかけに近代の個人主義についての論争が巻き起こる。これは作者の思想の表明であり、こういう思想を取り入れることができるのが、「小説」というジャンルの自由さを示している。【探偵】まずは苦沙弥が「探偵」という言葉にかみつく。「不用意の際に人の懐中を抜くのがスリで、不用意の際に人の胸中を釣るのが探偵だ。知らぬ間に雨戸をはずして人の所有品を盗むのが泥棒で、知らぬ間に口を滑らして人の心を読むのが探偵だ。ダンビラを畳の上へ刺して無理に人の金銭を着服するのが強盗で、脅し文句をいやに並べて人の意志を強うるのが探偵だ。だから探偵と云う奴はスリ、泥棒、強盗の一族で到底人の風上に置けるものではない。」小説家というのは「探偵」のようなものだ。心を読...『吾輩は猫である』の読書メモ⑫「第十一章の2」

  • 『吾輩は猫である』の読書メモ⑪「第十一章」

    『吾輩は猫である』を読んで、メモしていく。今回はその11回目。第十一章。この章が最終章である。【寒月は結婚していた!】迷亭と独仙が碁を打っている。そこに寒月と東風も苦沙弥のそばで話をしている。寒月は鰹節を三本持参する。鰹節は少々ネズミにかじられている。船の中でヴァイオリンと一緒に袋の中に入れていたらかじられてたのだ。そこから寒月がどうやってヴァイオリンを手に入れたのかなどヴァイオリンの逸話が語られる。夫婦の話になり、東風は次のように言う。「僕の考えでは人間が絶対の域に入るには、只二つの道があるばかりで、その二つの道とは芸術と恋だ。」急展開がある。この小説は寒月と金田嬢との結婚話で進んできたのだが、突然寒月は他の女性と結婚したことが明かされる。鰹節はそのお祝いとしてもらったのだという。そろそろこの小説の連載...『吾輩は猫である』の読書メモ⑪「第十一章」

  • 『吾輩は猫である』の読書メモ⑪「第十一章」

    『吾輩は猫である』を読んで、メモしていく。今回はその11回目。第十一章。この章が最終章である。【寒月は結婚していた!】迷亭と独仙が碁を打っている。そこに寒月と東風も苦沙弥のそばで話をしている。寒月は鰹節を三本持参する。鰹節は少々ネズミにかじられている。船の中でヴァイオリンと一緒に袋の中に入れていたらかじられてたのだ。そこから寒月がどうやってヴァイオリンを手に入れたのかなどヴァイオリンの逸話が語られる。夫婦の話になり、東風は次のように言う。「僕の考えでは人間が絶対の域に入るには、只二つの道があるばかりで、その二つの道とは芸術と恋だ。」急展開がある。この小説は寒月と金田嬢との結婚話で進んできたのだが、突然寒月は他の女性と結婚したことが明かされる。鰹節はそのお祝いとしてもらったのだという。そろそろこの小説の連載...『吾輩は猫である』の読書メモ⑪「第十一章」

  • 坂本龍一さんのこと

    坂本龍一さんが亡くなった。病状が思わしくなく厳しい状態が続いていたことはわかっていたので覚悟はしていたが、やはりショックは大きい。坂本さんの音楽をよく聞いていた。YMOの時代はそれほど聞いていなかったが、その後のソロ活動、あるいはコラボレーション活動で作り出した曲は、本当に繰り返し何度も聞いていた。ソロ活動では、「SELFPORTRAIT」は永遠の名作である。この感覚は他にはない。唯一無二の曲だと思っている。映画音楽もいい。大貫妙子さんとのコラボはすばらしい。初期の大貫さんの作品の数多くのアレンジを坂本さんが手掛けており、透明感のある魅力的な曲に仕上げている。2010年の発表された『UTAU』というアルバムでは、坂本さんのピアノで大貫さんが歌っていて、透明感とともにノスタルジーを感じさせる名作となっている...坂本龍一さんのこと

  • 教員を定年退職しました

    この3月を持って、高校の教員を定年退職しました。現在再任用という制度があります。年金が支給される65歳までの5年間、給料は3割ほど減るのですが働くことができる制度です。現在8割以上の人が再任用するので、当初は私も再任用するつもりがありました。しかし思うところがあり、今年で退職することにしました。4月からは大学院で勉強することになっています。主として夏目漱石の初期作品について研究していきたいと思っています。その外にも日本語文法やナラトロジーについても勉強していきたいと考えています。趣味としては戯曲や小説を書いてみたいという欲も持っています。健康のための水泳や軽いジョギングも続けていきたいと思ってます。ただしやりたいことがあまりありすぎて、ストレスになってしまいそうなので、心を整えることも大切にしていきたいと...教員を定年退職しました

  • 『吾輩は猫である』の読書メモ⑩「第十章」

    『吾輩は猫である』を読んで、メモしていく。今回はその10回目。第十章。やっとここまで来た。【ばぶ】警察が来たその翌日、苦沙弥先生は警察に盗難品をとりに行くために早起きしなければならない。しかしなかなか起きない。ようやく起きて朝ご飯を食べる。三人の娘も一緒にご飯を食べる。この様子がほほえましい。頑固おやじとかしまし娘である。明るい家庭小説になっている。三女は雑巾で顔を洗う。それをやめなさいと姉に言われると「いやーよ、ばぶ」と口ごたえする。いくらちゃんの得意技「ばぶー」は昔からあったオノマトペだったことがわかる。【警察嫌い】苦沙弥先生は探偵が嫌いである。この場合の探偵は警察官のことを言っている。「探偵というものには高等な教育を受けたものがないから事実を挙げる為には何でもする。あれは始末に行かないものだ。」犯人...『吾輩は猫である』の読書メモ⑩「第十章」

  • 今期のドラマ

    今期のドラマは期待外れのものもあったのですが、逆に期待以上のものもあり、結局たくさん見てしまいました。今期のドラマで最後までみたものは5つです。中でも私が一番好きだったのは『リバーサルオーケストラ』と『リエゾン』です。『リバーサルオーケストラ』はドラマの王道を行くようなドラマで、いつも癒されていました。楽しくて心がかるくなる作品でした。門脇麦さんの魅力が伝わってきます。『リエゾン』は発達障害をテーマにしたドラマです。発達障害はそんなに単純なものではありません。個性と障害の境目はあまり明確ではないし、発達障害の子供とどう接するべきか、明確な解答はありません。特別扱いしすぎてもうまくいかないし、かと言って他の子と同じに接してもうまくいきません。むずかしい障害です。しかし誰もがしっかりと目を向けなければいけない...今期のドラマ

  • 映画『コンパートメントNo.6』を見ました。

    2021年・第74回カンヌ国際映画祭のグランプリ作品『コンパートメントNo.6』を見ました。生きることのつらさをぶち破る映画でした。おそらく30年ほど前という時代設定なのだと思われます。ウィンランドからの留学生ウララは恋人と一緒にムルマンスクのペトログリフを見に行く予定だったが、恋人が突然キャンセルして一人で旅することになる。おそらく恋人はほかのパートナーができ、二人の関係は終わったのです。ウララの旅は絶望の旅です。恋人と一緒に乗る筈だった寝台列車の部屋にロシア人の労働者リョーハが乗っています。彼は酒を飲み、ウララに粗暴で猥褻な態度で接してきます。最悪な旅になってしまいます。しかし、彼らは次第に打ち解けていきます。本音で迫るリョーハは実はまっすぐで嘘がない人間であり、人を大切にしてくれる優しい人間であるこ...映画『コンパートメントNo.6』を見ました。

  • 映画『いつかの君にもわかること』を見ました。

    『おみおくりの作法』の監督ウベルト・バゾリーニの作品、『いつかの君にもわかること』を見ました。淡々とした映像が感動を呼ぶ映画でした。不治の病を患っていて死期が迫っている父親と一人息子が二人で生活しています。父親は息子を養子縁組してくれる家族を探します。様々な家族がいて父親は悩みます。仲介役のソーシャルワーカーの献身的な努力にもかかわらず、父親の悩みは深まり、そしていよいよ体も思うようにいかなくなります。父親の苦しむ姿が胸を打ちます。いつか父親も息子も「死」を受け入れるようになります。息子は父の死後も父を忘れることなく、大人になっても父親とつながり続ける、そう見ている人は感じます。父親が選んだ受け入れ家族も、心の痛みがわかり、父親の気持ちがわかる人だったと思います。余計な説明はありません。説明は登場人物を描...映画『いつかの君にもわかること』を見ました。

  • WBCはすごかった

    WBCはすごかった。もちろん日本が優勝したから言えることだが、こんなに楽しませてもらった大会はめったにない。もちろん問題もある。組み合わせや試合日程が日本やアメリカが有利にできているように見えたし、アメリカの試合日程が直前に変わったり、きちんとした大会とはなっていなかったのは事実である。もともとはメジャーリーグが開幕前のちょっとしたイベントとしてやっていた大会という位置づけだったので、そういう出鱈目な部分が残っているのだと思われる。しかし、回を重ねるたびにアメリカも本気になってきた。そして今回はかなり本気で戦いを挑んできた。出場選手もレベルアップしてきた。この大会の意義が上がってきたからであり、そうなるようにアメリカ以外の各国が努力してきたからである。だんだん本物の大会になってきた。そんな中で日本はマンガ...WBCはすごかった

  • 藤井聡太は本当にすごい

    藤井聡太五冠が渡辺明棋王に挑戦した棋王戦五番勝負で藤井五冠が勝利し、棋王位を奪取しました。これで史上2人目にして最年少での六冠を達成したとのことです。「異次元」というのは、こういう場合に使う言葉なのだろうと思います。藤井六冠は当たり前のように勝っているような印象ですが、決して必ず勝っているわけではありません。勝率は高いのですが、もちろん負ける場合もあります。渡辺名人との直近の対戦では終盤に勝ちを見逃してしまい負けてしまったということでした。勝っても負けても紙一重なのです。それでいながらこれだけタイトルを取れるというのは、単純な強さを超える力がある気がします。私は今回インターネットで時々生中継をのぞいていました。将棋のレベルが違いすぎて何がいい手なのかはわかりません。だから見ても意味がないなとは思いながら、...藤井聡太は本当にすごい

  • 『吾輩は猫である』の読書メモ⑨「第九章」

    【鏡】「哲学者」の意見に感化された苦沙弥は書斎に立てこもる。おそらかう心を自由にする修行ををしているのであろう。しかし苦沙弥が何をしているかというと、鏡を見つめているのである。つまり自分に執着しているのだ。これでは自由になれるはずがない。「吾輩」は、「鏡はうぬぼれの醸造器である如く、同時に自慢の消毒器である。」と評す。結果として苦沙弥先生の自慢の鼻は折れたようなので、少しはよくなったのかもしれない。結局は自分に執着するのはやめられないから人間なのかもしれない。【迷亭の叔父さん】迷亭が叔父さんを連れてやってくる。叔父さんは次のように言う。沢菴禅師の「不動智神妙録」の一説を紹介する。「心をどこに置こうぞ。敵の身の働きに心を置けば、敵の身の働に心を取らるるなり。敵の太刀に心を置けば、敵の太刀に心を取らるるなり。...『吾輩は猫である』の読書メモ⑨「第九章」

  • 『ヒトラーのための虐殺会議』を見ました。

    第2次世界大戦時、ナチス政権が1100万人のユダヤ人絶滅政策を決定した「バンゼー会議」の全貌を描く映画『ヒトラーのための虐殺会議』を見ました。権力の圧力は民主的な会議が「忖度」会議になってしまうことを分からせてくれます。今の日本の状況を考える上でも重要な映画です。ナチス政権はユダヤ人を絶滅させる計画をたてます。それを会議で決めていくのですが、一部ではその方針について異論を唱えるものもいます。法律の解釈を変更することへの反論を堂々と主張します。観客はこの男に期待します。しかしそれは人道的な意味でも正義のためでもなく、より効率のいい方法を提案しているにすぎなかったことに気付きます。結局はヒトラーに逆らう気持ちなどまるでありません。自分の存在意義を示しただけだったのです。おそらく現在の会議というものはそういうも...『ヒトラーのための虐殺会議』を見ました。

  • 『吾輩は猫である』の読書メモ⑧「第八章」

    【落雲館戦争】苦沙弥先生の家の隣に落雲館という私立の中学校がある。その生徒たちの態度がくしゃみは気に食わない。学校に抗議すると学校は垣を作る。その中学校の生徒たちが野球をする。ボールが垣を超えて苦沙弥の家に入ってくるので苦沙弥はやはり気に食わない。学校にさらに抗議する。このいざこざを「吾輩」は旅順戦争に譬えて語る。【3人の来客】落雲館とのいざこざもあり、苦沙弥の癇癪はひどくなる。そこに3人の来客がある。【世渡り上手の勧め】一人目は金田の知り合いで、金田から苦沙弥の様子を見てきてくれと頼まれた鈴木藤十郎である。鈴木は苦沙弥に次のように言う。「人間は角があると世の中を転ころがって行くのが骨が折れて損だよ。丸いものはごろごろどこへでも苦くなしに行けるが四角なものはころがるに骨が折れるばかりじゃない、転がるたびに...『吾輩は猫である』の読書メモ⑧「第八章」

  • 真実が力で書き換えられる国

    先週の金曜日、立憲民主党の小西洋之参院議員が安倍政権当時の総務省作成として放送法の「政治的公平」に関する内部文書を公表した。小西氏は「個別の番組に圧力をかける目的で法解釈を変えた」と批判。それに対して当時総務相だった高市早苗経済安全保障担当相は「全くの捏造文書だ」と主張した。捏造でなかった場合は閣僚や議員を辞職するかどうかを問われ「結構だ」と明言した。今日、その文書は総務省の行政文書だということが判明した。しかし高市大臣は理屈をこねくりまわし、辞任を拒否した。このことが辞任に値するのかどうかは別として、少なくとも捏造文書ではなかったのだら、謝罪をすべきなのは当然であろう。そもそも安倍政権になってから、マスコミは安倍政権に対して批判的な言動を避けるようになった。それは誰もが感じたいたことだ。この原因がそこに...真実が力で書き換えられる国

  • 映画『フェイブルマンズ』を見ました。

    スティーヴン・スピルバーグの自伝的な作品だと言われている『フェイブルマンズ』を見ました。見事な作品でした。映画の道を志す青年の成長を描きます。しかし彼の映像によって母親の秘密が暴かれる結果となり、家族関係が破綻してしまう結果になります。お互いに尊重しながら、離れ離れにならざるを得ない家族それぞれの心が、痛みとともに伝わってきます。決してセリフに頼ることなく、描写によって、心を描く監督の手腕が見事です。主人公の高校時代の関係もうまく描けています。ユダヤ人であることによっていじめられるのですが、しかし映像の力で自信を回復していきます。そして映像の力で人の心を動かしていきます。努力は信念を生み、信念が道を開く。青春時代のがむしゃらに頑張ることの大切さを教えてくれます。最期のジョンフォードと出会う場面もいい。こん...映画『フェイブルマンズ』を見ました。

  • 映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アト・ワンス』を見ました。

    アカデミー賞最有力候補と言われている『エブリシング・エブリウェア・オール・アト・ワンス』を見ました。残念ながら私には何がいいのかよくわからない映画でした。私が大学生のころ、小劇場ブームがありました。今から40年ほど前です。東京の小さな劇場で、若い人たちの劇団が公演を行っていました。難解でありながら、感動的な音楽と笑いがあり、そして若者の熱い思いを発信する演劇でした。熱い雰囲気が、役者だけでなく観客席にまで伝わり、劇場は異空間と化していました。私はそんな小劇場のブームの中にいました。この『エブリシング・エブリウェア・オール・アト・ワンス』はそんな小劇場演劇に似ています。話はよくわかりません。しかし、異空間に飛びながらカンフーの迫力と下品な笑い、そして感動的な音楽が流れ、最後には「家族の再生」というテーマが浮...映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アト・ワンス』を見ました。

  • 映画『BLUE GIANT』を見ました。

    石塚真一さんの漫画『BLUEGIANT』を原作としたアニメ映画『BLUEGIANT』を見ました。強引で「あざとい」展開が多少気になりましたが、ジャズのライブ感が見事であり、そして青春の力強さがビンビンと伝わってくる名作でした。感動しました。青春時代は恐れを知りません。根拠のない自信に満ちており、不可能を可能にする力があります。年を取るにしたがって人生そんなに甘くないということがわかってくるのですが、本当にそんなに甘くないのでしょうか。実は自分をそこまで追い込んでがむしゃらに努力しなかったのではないでしょうか。本当は努力が足りなかっただけなのではないかという気がしてしまいます。自信に満ちたはったり野郎をバカにしながら、そのはったり野郎こそが青春時代を熱く生きていて、自分の人生を豊かにしていたのかもしれません...映画『BLUEGIANT』を見ました。

  • 斎藤幸平著『ゼロからの「資本論」』を読みました。

    『人新世の「資本論」』の著者、斎藤幸平氏の新著『ゼロからの「資本論」』を読みました。これは「NHK100分de名著」において放送された「カールマルクス『資本論』」のテキストに加筆・修正し、新たに書き下ろした章を加えたものだそうです。そのテレビ番組も興味深く見ました。マルクス主義というとすでに終わった思想のように思われた締まっていますが、実はこれからが本当に出現するのではないかと私は思っています。その考えを後押しするような本でした。現在日本ではソ連や日本共産党のイメージから、共産主義が悪いモノ扱いされています。しかし私はマルクスの思想には学ぶべき点が多いように思っていました。マルクスが言っていたのは、資本主義が行き詰った後に共産主義が訪れると言っていたのです。まだみんなが資本主義の恩恵を受け、資本主義を信じ...斎藤幸平著『ゼロからの「資本論」』を読みました。

  • 映画『RRR』を見ました。

    話題のインド映画『RRR』を見ました。見ている人を飽きさせないアクション大作で、楽しむことができました。植民地支配からの解放という強い信念をもった二人の主人公が固い友情を結ぶ。しかしその大義のためにお互いがお互いを裏切らなければならなくなる。そのプロットが複雑でありながら、とてもわかりやすく展開する。後出しされる秘密が見るものの興味を持続させると同時に、その秘密の中にある人間としての矜持に心動かされます。そしてなによりアクションがすごい。アジアの映画はアクションがどんどん進化しています。ありえないことが次々おき、その高揚感がすごい。ダンスシーンも見事です。良質のエンターテイメント作品であり、大ヒットしているのは当然です。ただし、やはり人が死にすぎです。戦争の悲惨さというのはそういうものなのかもしれませんが...映画『RRR』を見ました。

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