オスモ・ヴァンスカが東響に初登場した。1曲目はニールセンの序曲「ヘリオス」。ヴァンスカは読響を振っていたころに(もう何年も前だ)ニールセンやベートーヴェンの交響曲をよく演奏した。久しぶりなので、楽しみにしていた。 だが、演奏が始まると、当時とはだいぶ様子が違う。読響のころのヴァンスカは、オーケストラの手綱を締めて、贅肉のない引き締まった音を出していた。ところが今回の東響では手綱を緩めて、たっぷり鳴らす。また読響のときは、打点が先に先にと進み、前のめりのテンポ感があった。今回はそれが消えた。ごく普通のテンポ感だ。 2曲目はベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番。ピアノ独奏はイノン・バルナタン。ピアノ…
昨年秋にSOMPO美術館で「カナレットとヴェネツィアの輝き」展を見た。予想以上におもしろかった。ブログを書こうと思っていたが、そのままになった。本展は今、京都文化博物館に巡回中だ(4月13日まで。4月24日から山口県立美術館に巡回する)。遅ればせながら、感想を。 カナレット(1697‐1768)はヴェドゥータ(都市景観図)の巨匠だ。ヨーロッパの主要な美術館に行くとたいていカナレットの作品がある。定規で線を引いたような遠近法が目を引く。だが少なくともわたしの場合は、それほど注意して見るわけでもなく、さっと通り過ぎていた。 本展はカナレットが注目に値する画家であることを示す。たんなる絵葉書のような…
東京シティ・フィルのティアラこうとう定期演奏会に行った。指揮は高関健。曲目はベートーヴェンの「コリオラン」序曲とピアノ協奏曲第5番「皇帝」(ピアノ独奏は阪田知樹)そしてチャイコフスキーの「くるみ割り人形」第2幕(全曲)。 「コリオラン」序曲は内声部の動きもバスの動きも明瞭に聴こえる演奏。いかにも高関健と東京シティ・フィルらしい演奏だった。ただ、惜しむらくは、音の輪郭が鈍かった。このコンビならもっと鮮明な音が出るはずだ。 高関健はプレトークで、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」について、「この曲は『皇帝』なんて名前が付いているけれど(もちろんベートーヴェン自身が付けた名前ではなく、後世の人が付けた名前だ…
都響の定期演奏会Aシリーズで現代ドイツの作曲家イェルク・ヴィトマン(1973‐)の新作「ホルン協奏曲」が日本初演された。ホルン独奏はベルリン・フィルの首席ホルン奏者シュテファン・ドール。指揮は大野和士。 演奏会が始まる。大野和士が登場する。だが独奏者のドールがいない。あれ?と思っていると、舞台の外からホルンの音が聴こえる。ドールがホルンを吹きながら登場。 第1楽章「夢の絵」と第2楽章「アンダンティーノ・グラツィオーソ」は切れ目なく演奏される。だが、どこから第2楽章かは、すぐ分かった。ヴィトマン自身がプログラムノートに書いているように、第2楽章ではウェーバーのホルン小協奏曲が引用されるからだ。ウ…
ヴァイグレ指揮読響の「ヴォツェック」。4管編成のオーケストラが舞台を埋める。すごい人数だ。その大編成のオーケストラにもかかわらず、歌手の声がよく通る。今回は演奏会形式上演なので、オーケストラはピットに入らずに、舞台に並ぶ。それにもかかわらず、歌手の声がオーケストラに埋もれない。 「ヴォツェック」は好きなオペラだ。国内外で何度か観た。だが演奏会形式は初めてだ。オーケストラが何をやっているか、よく分かる。それが新鮮だ。ヴィオラのソロがあり、チェロのソロがあり、コントラバスのソロもある。マリーのアリアにオブリガートを付けるホルンのソロも印象的だ。またチェレスタが明瞭に聴こえる。今までもチェレスタは聴…
東京シティ・フィルの定期演奏会。高関健の指揮でヴェルディの「レクイエム」。前日にカーチュン・ウォン指揮日本フィルでマーラーの交響曲第2番「復活」を聴いたばかりだ。2曲はともに「死」に向き合った作品だ。普通はヴェルディの「レクイエム」とマーラーの「復活」を比較することはないだろうが、連続して聴くと、どうしても比較する。前述のように、2曲は「死」というテーマで共通するが、音楽の性格はそうとう違う。その端的な表れは「最後の審判」を告げるラッパの音だろう。 マーラーの「復活」の場合は、第5楽章の冒頭の激しい導入部が収まった後に、舞台裏からホルンの響きが聴こえる。遠い不思議な響きだ。墓の中に眠る死者たち…
日本フィルの定期演奏会は金曜日と土曜日にある。わたしは土曜日の定期会員だが、3月は都合により金曜日に振り替えた。 指揮はカーチュン・ウォン。曲目はマーラーの交響曲第2番「復活」。第1楽章の冒頭のテーマが歯切れのよい音で鳴った。このテーマはだれがやっても激しい演奏になるわけだが、カーチュン・ウォンの場合は、そこに歯切れのよさが加わる。 注目したのは、嵐のようなそのテーマが過ぎた後の穏やかな部分だ。音から緊張感が抜けて、リラックスした音に変わった。そのコントラストが鮮やかだ。同様にテンポも、冒頭のテーマはきわめて速く、穏やかな部分は遅めに演奏された。やはりコントラストがはっきりしている。第1楽章は…
駒沢大学駅から歩いて数分の向井潤吉アトリエ館。洋画家の向井潤吉(1901‐1995)の住居兼アトリアだった建物をそのまま使った美術館だ。向井潤吉の生活空間の中で作品をみることができる。わたしが行ったのは平日の午前中だが、10人程度の人が来ていた。向井潤吉の人気ぶりがうかがえる。 チラシ(↑)に使われている作品は「不詳[長野県更埴市森区]」(1961年頃)。遠くの山並みには雪がびっしり付いている。手前の里山は上のほうには雪が残るが、中腹から下は雪が消えて、枯れ木の茶褐色と芽吹きの新緑のまだら模様だ。畑の土はすっかり乾き、草が生える。それらの風景を締めるように小屋がたつ。日本の農村のどこにでもあり…
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