chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
敏洋 ’s 昭和の恋物語り https://blog.goo.ne.jp/toppy_0024

[水たまりの中の青空]小夜子という女性の一代記です。戦後の荒廃からのし上がった御手洗武蔵と結ばれて…

敏ちゃん
フォロー
住所
岐阜市
出身
伊万里市
ブログ村参加

2014/10/10

arrow_drop_down
  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(二百九十一)

    前夜まで降り続いていた雨も上がり、ぬかるんでいた道もほぼ乾いた。そこかしこにある小さな水たまりに車輪が入ると、水しぶきが上がる。突き抜けるような青空が、一気にゆがんでしまった。「キャッ!」。「うわっ!」。そんな奇声が上がるたびに、「すみません」と小声で呟き、頭を下げる竹田だ。が、当の相手には聞こえるはずも、竹田が頭を軽く下げる様も見えるはずもない。「仕方ないじゃない、道が悪いんだから。そんなことで一々頭を下げることなんか、ないでしょ!」“心根の優しい竹田らしいわね”と心内では思いつつも、口から出る言葉は辛辣だった。「はい、申し訳ありません」と、小夜子にも頭を下げる竹田だ。「米つきバッタじゃあるまいし、男がそんなに頭を下げないで!もっと毅然としなさい!」と、またなじる小夜子だ。「申し訳ありません、性分なもの...水たまりの中の青空~第二部~(二百九十一)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(二百九十)

    「三羽がらすって言われてるらしいけれど、竹田はもの静かね。でも、みんなの信頼は厚いみたい。おちゃらけがない分、落ち着いているものね。武蔵の信頼が厚いのは、三人の中では竹田みたい。あたしの世話係を命じられたのは、「一番ひましてるからですよ」なんて、他の二人は言ってたけれど、違うわね。それは二人も感じてるみたいだけど。専務の次ぐらいじゃないの、信頼度は。金銭の出し入れを、徳子さんと二人でやらせてるのかしらしても分かるわ」「そう言えば、いちど聞いたことがあります。加藤せんむとお二人でお話して、すみません。口にしてしまいました」「専務ってことにして。加藤という名前は、他にも厭なお家があるから」「はい。お二人でお酒をのまれながら、旦那さまがおっしゃってました。『俺に息子ができたとして、後を継がせたとしてだ。息子のご...水たまりの中の青空~第二部~(二百九十)

  • 半端ない読後感:トルストイ作「アンナ・カレーニナ」その弐

    人間の記憶というものは、どうにもならんもんですわ。それとも、わたしだけのことですか。「そうだそうだ、おまえさんだけさ」。なんてことは、なしにしましょうよ。「みんなそんなもんさ」とか「なげきなさんな、人間年とりゃ……」とかそんな風に、否定するかなぐさめるかしてくださいな。実は、記憶ちがいに悩まされています。見せつけられて、います。読後の第二弾、ということになりますか。「アンナ・カレーニナ」を読み返しているとお話しました。なんですが、いまとんでもないことが頭に浮かんだり消えたりしているんです。「読み返し?」「他の誰かの記憶では?」わたしが読んだのではなく、読んだ人から、そのあらまし・概略を聞かされたのではないか。戯言です、たわごと。たしかに、読んだんです。印象がちがうからって、ねえ、それとも、途中で放り出した...半端ない読後感:トルストイ作「アンナ・カレーニナ」その弐

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(二百八十九)

    アーシアのにこやかに微笑んでくれる顔が浮かぶと同時に、大粒の涙がどっと溢れ出た。アーシアを思い浮かべても、このところ涙までは流さなかった小夜子だった。ところが、いま、アーシアの死と武蔵との出会いを関連付けてしまった。“関係ないわ、関係ない。あのとき一緒に行かなかったのは、ごく自然なことよ”と否定するのだが、武蔵と会わなければ……と考える小夜子だった。「大丈夫でございますか、お医者さまをお呼びしましょうか?長旅でおつかれでしょう」おろおろと小夜子に問い掛けた。気丈な小夜子しか知らぬ千勢にしてみれば、いまの小夜子は尋常ではなかった。医者を呼んだからといって、どうにもできぬことは分かっていた。分かってはいたが、何かをしなければと焦るだけの千勢だった。「ごめんなさい。びっくりしたでしょ?もう大丈夫よ。アーシアのこ...水たまりの中の青空~第二部~(二百八十九)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(二百八十八)

    「千勢は、会社に顔を出したことがあるの?たとえば、武蔵の忘れ物を届けたりとか」「とんでもありません!旦那さまがわすれものなんて。だいいち、お仕事をご自宅におもちかえりになられることは、いっさいありません。ですから、一度もありません」大きく頭を振って否定する千勢。どうしても知られたくないという思いが強い千勢だ。「でも、誰か来た事はあるでしょ?たとえば、徳子さんとか」「あ、それもありません。女子社員は、げんきんなんです。ぜったい立ち入り禁止です。誤解をまねくおそれがあるからと。なにせ旦那さまの女性関係……。とにかく、一度もございません」失言をしたと慌てる千勢だった。そのあわてぶりからして、なにかを隠していると思える。だがしかし女子社員云々は、どうやら本当だろうと、頷く小夜子だ。「でも、千勢が居ないときなんかは...水たまりの中の青空~第二部~(二百八十八)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(二百八十七)

    俯いて、か細い声で、話すべきかどうかを迷いつつといった風に、首をかしげつつ話し始めた。「あの、小夜子おくさま?そのお話を旦那さまからお聞きしたとき、ほんとのところ、変だな?と思いました。『千勢はどう思う。嫁入り前の娘として、正直に答えてくれ。俺は嫌われていると思うか?』って、聞かれました。でそのときに、“なんて高慢ちきな女なんだろう!この旦那さまに不平不満を持つなんて、絶対におかしい”と思ったんです。もうしわけありません、失礼なことを言いまして」頭を畳にこすりつけて、「どうぞお叱りにならないでください」とばかりに、体を縮めた。「いいのよ、千勢。で、他には?」小夜子の口から出た優しいことばと、やさしく微笑む表情に、武蔵が「観音さまだ」と嬉しそうに言った折の顔を思い出して納得する千勢だった。「はい。ほかの男性...水たまりの中の青空~第二部~(二百八十七)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(二百八十六)

    「でもよくじつのだんなさま、ほんとにうれしそうでした。『観音さまに会ってきたぞ!』って、そりゃもう大はしゃぎでした。ほんとに、あんなにうれしそうなだんなさまを見たのは、はじめてです。千勢、すこしやきもちを焼いちゃいました」目をクルクルと回しながら、我が事のように喜ぶ千勢。思わず抱きしめたくなる衝動に駆られる小夜子だった。「そう、そうなの。そんなに喜んでた?でもね、あたしね、はじめのころって、突賢貧だったのよね。ぞんざいな口の利き方をしてたかもしれないわ。とにかく加藤専務がつれてきた男性でしょ?いい感情は持てなかったのよね」「そんな、小夜子おくさま。あんなに立派なだんなさまはいらっしゃいませんよ」口を尖らせて抗議する千勢。苦笑いをしながら、千勢を制する小夜子だ。「そうね、今はそう思うわ。たっくさんのお金を遣...水たまりの中の青空~第二部~(二百八十六)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(二百八十五)

    「そんなことより、そのかんげい会のお話を聞かせてください。どんな風でしたか?」と、身を乗り出してせがむ千勢だ。「もうねえ、どんちゃん騒ぎ。実家での宴もそうだったけど、みんな勝手に盛り上がるのよ。主役のはずのあたしなんか、初めの内こそそれこそこそばゆい位褒めてくれるんだけど。お酒が回り始めたら、もうだめ。主役のあたしそっちのけよ。ダンス音楽なんか流して、男同士と女性同士に別れてダンス大会よ。びっくりしたのは、加藤専務よ。あの人、泣き上戸なの?ぼろぼろ涙を流してね、あたしにしきりに『ありがとうございます』って、お礼ばっかり。びっくりしちゃった、ほんとに」身振り手振りでの小夜子の説明に、その場のことが千勢には目の前での出来事のように感じられた。そしてそれほどまでに愛されている小夜子が誇らしくあり、「その方のお世...水たまりの中の青空~第二部~(二百八十五)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(二百八十四)

    「それがね、もう大変だったの。歓迎会だなんて言い出してね。仕事そっちのけで、準備したらしいの。武蔵の許可なんか下りてるわけないわよ。加藤専務の苦虫を噛みつぶした顔、見せてあげたかったわ。ちょっと複雑な顔ね。叱るべきか否かってね。さしずめ、あれね。“tobeornottobe,that'saquestion!”よね」突然に飛び出した英語が理解できず、首をかしげる千勢だった。「ごめんね、分かんないね。日本で言えば、お殿さまである父親を殺されちゃった若さまの『仇をとるか止めるか』って、悩むときのセリフなの」「あら、そんなのおかしいです!お殿さまの仇討ちで悩むのって、なんて親ふこうなんでしょ。そんなの考えるまでもなく仇討ちするべきです。そうでしょう、小夜子おくさま」憤懣やるかたないといった表情で、切り捨てる千勢だ...水たまりの中の青空~第二部~(二百八十四)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(二百八十三)

    「ええっと……」と、指を折りながら考え込が、中々答えが返ってこない。「小夜子には内緒だぞ」。武蔵に念を入れられている。千勢が小夜子に連絡をすることなど万に一つもないと分かってはいるが、念を押してしまった。小夜子がしびれを切らして、「もういいわ。そんなに日にちは経ってないでしょ?」と、少しなじり調になった。「申しわけありません、千勢はあたまがわるいので」と詫びてはいるのだが、にこにこと目も笑っている。「だんなさまにおあいして、小夜子奥さまが、『帰ってこないかしら』とおっしゃってるとお聞きしました。もうそれは、天にものぼる思いでした。すぐにでもと思ったのですけど、びっくりさせたいから式の日まで待てと言われまして。分かっていますです、だんなさまのごはいりょなんだということは。あたしの代わりを見つけるためのお時間...水たまりの中の青空~第二部~(二百八十三)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(二百八十二)

    「だんなさま、おどろかれたでしょ。でも、分かる気がします。包丁を持って、いざ!という時に声を掛けられたのでは」「『なに考えてるんだ、お前は!』って、怒られちゃった。千勢は、怒鳴られたことはある?」間髪いれずに、千勢が答えた。「とんでもございません。声をあらげられることなど、いちども。だまってあたしの前にさしだされて、『食べてごらん』と、ひと言です。辛かったり甘すぎたり、ありました。でも、『お前の一生懸命さは知っている。次は、もう少しおいしくしてくれ』と。『手際の悪さでお待たせしちゃだめだ、なんて考えるな。なんでもそうだが、手間暇をかけてこそ、実がなるというものだ』とも言われました」「そう、千勢には優しいのね」「いえいえ、千勢はどんくさいので。」「武蔵は、千勢が可愛くてしかたないのね」「こんな、おか目のあた...水たまりの中の青空~第二部~(二百八十二)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(二百八十一)

    「もうしわけありません。ちょっと昔のことを思いだしてしまいまして。そうだ!今日は小夜子さまのお帰りだと聞いて、実はこれを」と、ぶっといふかし芋を卓に乗せた。「旦那さまの前では食べにくいのですけど、小夜子さまお好きでしょ?千勢はだ~い好きでございまして。旦那さまのご出張の折なんかに、ご飯代わりにいただいていたんです」目をキラキラと輝かせるながら口いっぱいに頬ばる勢を見て、小夜子もまた昔を思いだした。“おやつ代わりのふかし芋ね。良い思い出じゃないけど、久しぶりね”ひと口頬張って、「なにこれ、甘いわ!どうして?ふかし芋って、こんなに甘いものだったの?あたしが食べていた物と、まるで違うわよ」と、感嘆の声をあげた。キョトンとする千勢を前にして、驚くほどの速さで一本をたいらげた。「千勢。あなたって、お料理の天才ね。す...水たまりの中の青空~第二部~(二百八十一)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(二百八十)

    「あたしは、だめなんです。うまく吸い込むことができないんです。以前、旦那さまにしかられました。『そんなちびちび食べたら、ちっとも美味しくないだろうが。どうにも辛気臭くていかん、少し練習しろ!』って。それからは、ご一緒させていただけません」「そうなの、武蔵らしいわね。他人の食べ方まで気にするなんて。放っといて欲しいわよね」哀しそうな顔を見せる千勢に、小夜子の優しいことばがとどいた。突然千勢の目に、大粒の涙があふれ出した。小さな嗚咽が、あふれ出す涙に押されるように、はっくきりとした声となって小夜子に届いた。「どうしたの?千勢。悲しくなることがあったの?それともあたしが悲しませたの?」「とんでもございません、小夜子さま。うれしいんです、千勢は。こんなお優やさいことばなんて、千勢、いままで……」畳に突っ伏して、わ...水たまりの中の青空~第二部~(二百八十)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(二百七十九)

    木の香が漂う湯船に浸かり、木の縁に両手を置いてゆったりとした気分に浸る小夜子だった。心底から心が開放されていく思いがする。“お風呂って、どうしてこんなにゆったりとした気分になるのかしら。誰かが言ってたけど、母親の胎内にいる感覚なのかしら。日本人の温泉好きは、そんなところから来てるのかしらね。そうだわ。新婚旅行は、海辺の温泉旅館がいいわね。お昼は海で遊んで、夜はゆっくりと温泉にはいって。うふふ……”「小夜子奥さま、お湯加減はいかがですか?」笑いをかみ殺している小夜子に、外から千勢が声をかけた。「ありがとう、ちょうどいい具合よ。千勢は、お風呂焚きも上手ね。あたしなんか、熱すぎたり温かったりの失敗ばかりよ。いつだったか、水風呂に武蔵を入れちゃった。沸かし終えたって、勘違いしちゃってさ」「経験でございますよ、何ご...水たまりの中の青空~第二部~(二百七十九)

  • 水たまりの中の青空 ~第二部~(二百七十八)

    にこやかな表情のまま突っ立っている竹田に、ぶっきら棒に告げる小夜子。竹田のことは、もうまるで眼中になかった。「明日は、一日会社で待機しています。ご用がおありでしたら、ご連絡ください。すぐに飛んでまいります。千勢さん、奥さまのことお願いするよ」「かえり道、事故をおこさないよう、気をつけてね」「大丈夫だって、いつだって慎重運転だから。相手がぶつかってきても、きっとよけるから」ふたりを、家族間のようなほんわかとした空気がふたりを包んでいる。兄妹といった風にも見えるが、新婚夫婦がかもしだす柔らかいにおいも感じる。しかし一人っ子の小夜子には、なおかつ母との接触がほとんどなかった小夜子には、祖父である茂作との二人だけの生活しか経験がない。今にしても、武蔵とのふたりだけだ。「妹よ」と言ってくれた、あのアーシアにしても、...水たまりの中の青空~第二部~(二百七十八)

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、敏ちゃんさんをフォローしませんか?

ハンドル名
敏ちゃんさん
ブログタイトル
敏洋 ’s 昭和の恋物語り
フォロー
敏洋  ’s 昭和の恋物語り

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用