10年前、カンボジアのキリングフィールド(ポルポト政権下の強制収容所)を訪問した際、人間はここまで悪魔になれるのかと強い衝撃を受けた。以来、アウシュビッツもこの目で確かめてみたいと思っていた。目を背けたいものこそしっかり見て、同じ悲劇を繰り返さないことがのちに続くものの務めだと思うからだ。 先月末ロンドンに所要ができて、その行きがけに立ち寄る機会が生まれ、この博物館にひとりだけいる日本人ガイドの…
ガソリンスタンドで洗車を頼むことにした。長らくほったらかしだったので、ホイールも室内清掃も追加したが、スタッフが少ない上、手洗いなのでかなり時間がかかりそうだ。そこは計算の上で、道路の向かいの喫茶店に入って、読みかけの本の続きを読み、いくらでもひまつぶしをすることにしていた。 終わったら知らせて、と番号を教えておいたスマホに電話がかかってきたのは、2時間を過ぎていた。長かったなと思いながら財布…
小学校の同級で、今も付き合いのある定食屋のオヤジから電話があり、久しぶりに手近な顔ぶれを集めるから来いよ、と誘われた。 土曜の昼どき、都心の和食店にそろったのは、男5人と女4人。元床屋の娘、元売れない演歌歌手、元結婚式場の支配人、元歯医者の嫁らで、どうでもいい世間話を2時間半しゃべって店を出たが、まだ日が高い。カラオケ好きの定食屋のオヤジに、歌いに行くぞと促され、そういえばコロナからあまり歌う…
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10年前、カンボジアのキリングフィールド(ポルポト政権下の強制収容所)を訪問した際、人間はここまで悪魔になれるのかと強い衝撃を受けた。以来、アウシュビッツもこの目で確かめてみたいと思っていた。目を背けたいものこそしっかり見て、同じ悲劇を繰り返さないことがのちに続くものの務めだと思うからだ。 先月末ロンドンに所要ができて、その行きがけに立ち寄る機会が生まれ、この博物館にひとりだけいる日本人ガイドの…
自民党の総裁選が始まって9人も立候補したのは、派閥がほぼなくなったせいらしいが、このまま派閥がなくなるとは思えない。1回目の投票で決まらず、決選投票で党内右派、中道、左派にシャッフルされてあらたなグループがいくつも再編成されるだろう。政策集団と言えば当然のなりゆきだが、実態は票とカネ集めの勢力集団にすぐ戻る。 今回の総裁選は、支持率低迷の岸田政権では次の選挙に勝てないから、とにかく自民の顔をす…
夏休みはどこへ行っても渋滞や混雑になるので、毎年どこにも出かけないことにしている。ただ今年は13日に定期健診を入れておいた。「お盆のころは空(す)いていますよ」と総合病院の予約係にすすめられたからだ。確かにふだんより早く終わった。 その1週間ほど前から声がかすれるようになり、続いて咳が出始め、だんだんひどくなるので休診明けの町医者に行こうと考えていたが、総合病院なら盆休みの最中でも診察することに…
長崎市が「原爆の日」の平和記念式典にイスラエルを招待しなかったことから、日本を除く先進6か国とEUの駐日大使が、式典を欠席することになった。理由は「パレスチナを招待し、イスラエルを招待しないのは式典を政治化するもの」であり、また「ウクライナ侵攻を理由に招待していないロシアやベラルーシとイスラエルを同列に置くことになる」というのだが、雁首そろえて詭弁もはなはだしい。 イスラエルはパレスチナに核兵器…
映画「リビング」(2022年)が、黒澤明の「生きる」(1952年)をカズオ・イシグロの脚本でリメイクされた。 舞台をロンドンに移しているが、時代とストーリーはほぼ原作を後追いしており、ガンで余命半年と宣告された区役所の市民課課長(勘治→ウイリアム)が、遅れず休まず働かずのお役所仕事から一転、長年放置されていた公園建設の案件実現に執念を燃やし、やり遂げて死ぬ。部下たちは束の間、役所の活性化を誓うが、彼の…
最近、足腰の運動のため市バスを利用するようになって、子どものころ乗っていたバスとはずいぶん様変わりしたと感じている。 ひとことで言えば高齢者仕様なのだろう。全部で28ある座席のうち8席が優先席だから、電車と比べてかなり比率が高い。しかもそのうち4席は車イス用2席に変更できる。乗降に負担のかからぬよう低床のノンステップタイプになっているが、車イスの乗客があれば降車口とバス停にスロープを渡して車イスご…
兄の33回忌と父の27回忌を終えた。近ごろは法要の簡略化が進んで、こんなに先までやる人は少ないだろうが、私にはむしろ2人に長く葛藤が残っていて、気持ちの切り替えをするのに時間がかかった。特に兄には最近、懐かしさや共感をしばしば覚えるようになった。肉親への感情には、死後もなにか理屈で始末できないものが形を変えながらついて回る。 墓は兵庫県の山の中にあり、高速道路がつながってそこそこ観光地化はしたもの…
彼女から突然電話が来て驚いたのは1カ月あまり前だった。 私が30代のころお世話になった方で、遠く離れても年賀状のやりとりは続いていた。ところが4年ほど前からぷっつりと消息が切れた。私の賀状は返送されて来ないから届いてはいるだろうに、亡くなったとしたら喪中はがきぐらい来るだろうに、と思いながら、通知漏れかなにかあったんだろうと、昨年末、私の年賀状送り先リストから下ろしていた。 その本人からいきな…
歯医者は昔、穴掘り職人みたいなところがあったが、近ごろはインプラント治療の広がりで羽振りがいいらしい。それと関係あるのかないのか、歯医者の数がやたらに多くて、治療の腕はピンキリだから、よく選ばないと治療のつもりが大事な歯を失う羽目になる。 私もいろいろな医院を経験したが、最近は現在のかかりつけ医で落ち着いている。他の医院でなんとかもたせていた上側の歯がいよいよダメになり、インプラントを希望した…
高齢者がブレーキとアクセルを踏み間違えて事故を起こしたり、高速道路を逆走したりすると、すぐにニュースになる。警察も認知症患者に車で走り回られたら怖いので、75歳以上の免許更新者には実技テストと認知機能テストを義務付けている。 認知機能テストが苦手な人は市販の模擬問題集を買って受験勉強するが、めでたく合格して更新できても警察に信用されたわけではない。その後交通違反があると、一旦停止など軽微な場合で…
冬の間、防寒用にニット帽を被っていたら、娘がもっとおしゃれなのにしようと、なんだかモンゴル帽ふうのようなのをプレゼントしてくれた(プレゼントといっても代金は私のカードから振り込まれたが)。それを見て妻が「馬子にも衣裳」だの「少しは利口そうに見える」などと面白がってはしゃいでみせた。 おしゃれなんてものは、中身に自信のないやつが外見を取り繕ってよく見せようとするためにするもので、内心の弱点を自…
何年か前から、脊柱管狭窄症という言葉をしばしば目にするようになって、なんのこっちゃと思っていたら、昨年2月、朝目覚めると突如激痛に襲われた。立ち上がることもできない。 あわてふためいてあちこちの病院を回ったり回されたりして、幸い痛みは痛み止めですぐに引いたが、ようやく落ち着き先が決まってひと息ついた。そこで「この病名は最近急に目立つようになったがなぜか」と聞いたら、「高齢化に伴って患者が増えた…
我ながらずいぶん長生きをしてきたと思うものの、平均寿命までまだ4年近く、平均余命となると10年もある。いつまで命があるか分からないが、それまでどういう生き方をしてゆくか、時に考えが少し揺れる。 気力、体力、知力、いずれもだんだん衰えているのが分かる。くたびれたり面倒になって、時間はあるのに何もしたくない時がある。だからもう現状に逆らわないで、気楽な隠居生活を受け入れようかとちょっと思う。しかしそ…
平日の夕方、久々に映画を見ての帰り、地下鉄に乗って席を取った。ひと駅、ふた駅で乗客が増え、込み合うほどではなかったが、立ち席の人で社内は奥まで見通せないほどになった。 私の隣に座っていたおばあさんが、つと立って扉付近に立つおばあさんに席を譲ろうと申し出た。そこは優先席ではなかったし、譲った方も譲られた方も歳の違いはさしてなさそうに見えた。 なぜだろうとようすを見ると、誘導されながら「ありがと…
ガソリンスタンドで洗車を頼むことにした。長らくほったらかしだったので、ホイールも室内清掃も追加したが、スタッフが少ない上、手洗いなのでかなり時間がかかりそうだ。そこは計算の上で、道路の向かいの喫茶店に入って、読みかけの本の続きを読み、いくらでもひまつぶしをすることにしていた。 終わったら知らせて、と番号を教えておいたスマホに電話がかかってきたのは、2時間を過ぎていた。長かったなと思いながら財布…
小学校の同級で、今も付き合いのある定食屋のオヤジから電話があり、久しぶりに手近な顔ぶれを集めるから来いよ、と誘われた。 土曜の昼どき、都心の和食店にそろったのは、男5人と女4人。元床屋の娘、元売れない演歌歌手、元結婚式場の支配人、元歯医者の嫁らで、どうでもいい世間話を2時間半しゃべって店を出たが、まだ日が高い。カラオケ好きの定食屋のオヤジに、歌いに行くぞと促され、そういえばコロナからあまり歌う…
日曜の朝刊に、8ページの日曜版がオマケでついてくる。この先1週間分のテレビ番組表やテーマを決めた図解欄のほかにクイズ問題を集めたページがある。休日の朝は慌ただしくないので、私もいつしか日曜版を楽しみに待つようになった。 クロスワード、間違い探し、漢字の読み書き、漢字の4分割ジグソーは、解くのにたいして時間がかからない。手ごわいのが数独だ。ナンバープレイス、略してナンプレともいう。 タテ9マス…
会社指定の定期健診を同じ病院で30年以上受けており、60代後半で潰瘍性大腸炎、その後糸球体腎炎疑いが見つかったときは、院内の担当科に引き継がれて精密検査、服薬治療、継続観察を続けてきた。会社から車で10分と便利が良かったが、そろそろ運転をやめる歳になり、自宅から歩ける総合病院に移ることにした。 病院の地域連携室に申し出れば、移動先の病院と連絡を取って、段取りをつけてくれる。だがなんだかスイスイとは進…
ロシアのウクライナ侵攻から1年10か月、イスラエルのガザ地区侵攻から2カ月になる。その長きにわたって、破壊され瓦礫となった病院や学校、逃げ惑う市民、砲弾に吹き飛ばされ路上に放置された死体、血まみれの子供、息をしない赤ん坊を抱いて泣き叫ぶ女、怒りをぶちまける男、その悲惨なニュース映像が、毎日のように流れてくる。 ロシアはウクライナを全部取って、さらにジョージアに手を伸ばすつもりだ。イスラエルはガザと…
物価が上がり続けて止まらない。 パラパラと五月雨式かというと、地響きを立てるバッファロー大移動のごときスケールで始まり、ひとしきりで収まるかと思ったら、第2派、第3波の波状攻撃が続いてどこまで行くのか先が見えない。 無理もない。食料自給率37%、石油、天然ガス自給率はほぼゼロのまま、長い間輸入頼みでほったらかして置いたら、ここへ来て手痛い円安打撃を食った。そもそも小泉純一郎と竹中平蔵の新自由主義…
座敷の壁の天井付近に、足を広げると7、8センチにもなるクモがいるのを見つけた。ちょっと大きいなと思いながら、巣を張る気配もなく、クモは益虫というし、そのうちどこかへ行くだろうと見過ごしておいた。 ところが2,3日して今度はカミさんの寝室に現れた。殺生は穏やかでないので捕獲して外に出そうと思ったが、意外に素早くあっという間にタンスの後ろに姿を消した。どうしようと言われても手がないので、まあ友達…
高齢者の運転による自動車事故がしばしばニュースになる。70代の老人が、コンビニや病院の駐車場に停めようとして、ブレーキとアクセルを踏み間違えた、というのがよくあるパターンだ。 認知症の場合はどうだか知らないが、年寄りだからといって、乗り慣れたクルマのブレーキとアクセルを、そう何人もつぎつぎと踏み間違えるだろうか、と私は疑問に思っている。 事故率から言えば、自動車保険料の高い10代、20代の方が多い…
運動不足を補おうと散歩を始め、ただ歩くだけではすぐにやめてしまいそうなので、途中で喫茶店に入って読書を1時間ほど、という対策を立てて始めてみた。日課というわけにはゆかない。週に1回程度。もう少し増やさなければいけないが、さしあたって全然しないよりはましだと思っている。 コーヒーがうまくて、本を読むのに暗くない静かな店はないかと、歩きながら探すのだが、画一的なチェーン店以外となると、なかなか見つか…
3月初めに突然、左大腿部の裏側に痛みが走り、歩くのも起き上がるのも困難になった。驚いて病院に運ばれ、MRIを撮った結果、脊柱管狭窄症と診断された。 歩けないほどの痛みは発症後2、3日で治まったが、このあとどうなるのか、どうすればよいのかさっぱり分からず、近所の整形外科へ行ってみたり、解説本を読んでみたり、友人の治療経験を聞いたりしながら1カ月ほどかけ、市委託のリハビリセンターに落ち着いた。その後は…
先月喜寿を迎え、もうそんな歳かと思ったが、別におめでたくもないのでふだんと変わらぬ一日を送った。曲折あった私の人生も残り少なくなり、若いころのようには頭も体も働かないが、幸い健康寿命の域内にあり、できればあと10年、もうひと働きして悔いなき第5の人生をと思っていた。 計画はすでに立っていた。2019年9月に広島平和記念資料館がボランティアガイドを募集していたのを締め切り間際に知った。不定期だが数年ご…
しばらく離れていた英会話学習を再開して4年になる。講師に恵まれて充実していたが、仕事の都合で大分に引っ越されたので、いったん終幕になった。それでもしつこくカーテンコールを送っていたら、スクールの采配で特別に公開講座がリモートで実現した。だがそれも2回限りとなり、さらにラブコールしたらプライベートレッスンはどうかとスクールに勧められ、1時間半の授業を2回で、「七人の侍」を取り上げるよう提案した。「…
月曜の朝、出勤したがどうも体がだるい。前夜、なぜだかよく眠れなくて、寝不足のせいだろうと思っていたが、調子が出ないので昼前に早引きした。 鼻水、咳、くしゃみがさかんに出るようになり、薬箱から市販の風邪薬を捜して飲んでみたが効きそうにない。熱っぽい感じはしないが、念のため体温を測ってみたら37度8分もある。こりゃあ古い体温計だからあてにならないな、と思いながら、ひょっとするとコロナかも、いや、まさ…
リハビリにも基礎体力作りにもウオーキングがよいようだが、私の場合もうひとつ、減量が課題になっている。70キロぐらいまでがよいのだが、このところ74キロに迫ってきて、ズボンもベルトも困っている。 だが散歩などという目的地のないウオーキングは、とても続きそうにない。なんとなくぶらぶらと歩くなんてことが私にはできない。わき目も降らず一直線に目的地に進むのが小さい時からのクセになっている。通勤にバス、電車…
「70歳になったら周りの風景が変わった。75になったらまた変わった」と30代終わりの3男に話したら「風景が変わるってどういうこと」と聞かれた。どういうことと言っても、たとえば山の峠を越えると景色が変わるようなものだが、ピンと来ないようだ。 電車に乗って都心から内陸へ移動をすると、高層都市から住宅地を通り抜け、広々とした田園地帯に出て、やがて山道に差し掛かり、と車窓からの眺めが変わってゆくようなものだ…