何年か前から、脊柱管狭窄症という言葉をしばしば目にするようになって、なんのこっちゃと思っていたら、昨年2月、朝目覚めると突如激痛に襲われた。立ち上がることもできない。 あわてふためいてあちこちの病院を回ったり回されたりして、幸い痛みは痛み止めですぐに引いたが、ようやく落ち着き先が決まってひと息ついた。そこで「この病名は最近急に目立つようになったがなぜか」と聞いたら、「高齢化に伴って患者が増えた…
何年か前から、脊柱管狭窄症という言葉をしばしば目にするようになって、なんのこっちゃと思っていたら、昨年2月、朝目覚めると突如激痛に襲われた。立ち上がることもできない。 あわてふためいてあちこちの病院を回ったり回されたりして、幸い痛みは痛み止めですぐに引いたが、ようやく落ち着き先が決まってひと息ついた。そこで「この病名は最近急に目立つようになったがなぜか」と聞いたら、「高齢化に伴って患者が増えた…
我ながらずいぶん長生きをしてきたと思うものの、平均寿命までまだ4年近く、平均余命となると10年もある。いつまで命があるか分からないが、それまでどういう生き方をしてゆくか、時に考えが少し揺れる。 気力、体力、知力、いずれもだんだん衰えているのが分かる。くたびれたり面倒になって、時間はあるのに何もしたくない時がある。だからもう現状に逆らわないで、気楽な隠居生活を受け入れようかとちょっと思う。しかしそ…
平日の夕方、久々に映画を見ての帰り、地下鉄に乗って席を取った。ひと駅、ふた駅で乗客が増え、込み合うほどではなかったが、立ち席の人で社内は奥まで見通せないほどになった。 私の隣に座っていたおばあさんが、つと立って扉付近に立つおばあさんに席を譲ろうと申し出た。そこは優先席ではなかったし、譲った方も譲られた方も歳の違いはさしてなさそうに見えた。 なぜだろうとようすを見ると、誘導されながら「ありがと…
ガソリンスタンドで洗車を頼むことにした。長らくほったらかしだったので、ホイールも室内清掃も追加したが、スタッフが少ない上、手洗いなのでかなり時間がかかりそうだ。そこは計算の上で、道路の向かいの喫茶店に入って、読みかけの本の続きを読み、いくらでもひまつぶしをすることにしていた。 終わったら知らせて、と番号を教えておいたスマホに電話がかかってきたのは、2時間を過ぎていた。長かったなと思いながら財布…
小学校の同級で、今も付き合いのある定食屋のオヤジから電話があり、久しぶりに手近な顔ぶれを集めるから来いよ、と誘われた。 土曜の昼どき、都心の和食店にそろったのは、男5人と女4人。元床屋の娘、元売れない演歌歌手、元結婚式場の支配人、元歯医者の嫁らで、どうでもいい世間話を2時間半しゃべって店を出たが、まだ日が高い。カラオケ好きの定食屋のオヤジに、歌いに行くぞと促され、そういえばコロナからあまり歌う…
日曜の朝刊に、8ページの日曜版がオマケでついてくる。この先1週間分のテレビ番組表やテーマを決めた図解欄のほかにクイズ問題を集めたページがある。休日の朝は慌ただしくないので、私もいつしか日曜版を楽しみに待つようになった。 クロスワード、間違い探し、漢字の読み書き、漢字の4分割ジグソーは、解くのにたいして時間がかからない。手ごわいのが数独だ。ナンバープレイス、略してナンプレともいう。 タテ9マス…
会社指定の定期健診を同じ病院で30年以上受けており、60代後半で潰瘍性大腸炎、その後糸球体腎炎疑いが見つかったときは、院内の担当科に引き継がれて精密検査、服薬治療、継続観察を続けてきた。会社から車で10分と便利が良かったが、そろそろ運転をやめる歳になり、自宅から歩ける総合病院に移ることにした。 病院の地域連携室に申し出れば、移動先の病院と連絡を取って、段取りをつけてくれる。だがなんだかスイスイとは進…
ロシアのウクライナ侵攻から1年10か月、イスラエルのガザ地区侵攻から2カ月になる。その長きにわたって、破壊され瓦礫となった病院や学校、逃げ惑う市民、砲弾に吹き飛ばされ路上に放置された死体、血まみれの子供、息をしない赤ん坊を抱いて泣き叫ぶ女、怒りをぶちまける男、その悲惨なニュース映像が、毎日のように流れてくる。 ロシアはウクライナを全部取って、さらにジョージアに手を伸ばすつもりだ。イスラエルはガザと…
物価が上がり続けて止まらない。 パラパラと五月雨式かというと、地響きを立てるバッファロー大移動のごときスケールで始まり、ひとしきりで収まるかと思ったら、第2派、第3波の波状攻撃が続いてどこまで行くのか先が見えない。 無理もない。食料自給率37%、石油、天然ガス自給率はほぼゼロのまま、長い間輸入頼みでほったらかして置いたら、ここへ来て手痛い円安打撃を食った。そもそも小泉純一郎と竹中平蔵の新自由主義…
ことしは1年中、大谷祥平の話題が途切れなかった。WBC決勝でのアメリカ戦の前、チームメイトに呼び掛けた「今日だけは大リーグに憧れるのはやめましょう」は、のちに流行語大賞の候補に挙がり、シーズンが始まると特大ホームランを連発しつつ、大きく曲がる変化球スイーパーで三振を取り、途中ひじの故障で心配を集め、それでも44本塁打、10勝、20盗塁は人間業ではない「地球外生命体」と称され、満票で2度目のMVPに推され、…
昨年1月東大前で、大学入試共通テストの受験生ら3人を刺傷させた当時私立高校2年の生徒に、懲役6年から10年の不定期刑とする判決が、先ごろ東京地裁で言い渡された。生徒は東大理Ⅲを目指していたが、成績不振から自暴自棄になり、無差別殺人を犯し自殺しようと計画していた。 東大理Ⅲばかりが大学でもなかろうに、殺人だの自殺だのと、どんな勘定をするとこんな極端な選択になるのかと、だれでも思うだろう。挙句の懲…
座敷の壁の天井付近に、足を広げると7、8センチにもなるクモがいるのを見つけた。ちょっと大きいなと思いながら、巣を張る気配もなく、クモは益虫というし、そのうちどこかへ行くだろうと見過ごしておいた。 ところが2,3日して今度はカミさんの寝室に現れた。殺生は穏やかでないので捕獲して外に出そうと思ったが、意外に素早くあっという間にタンスの後ろに姿を消した。どうしようと言われても手がないので、まあ友達…
高齢者の運転による自動車事故がしばしばニュースになる。70代の老人が、コンビニや病院の駐車場に停めようとして、ブレーキとアクセルを踏み間違えた、というのがよくあるパターンだ。 認知症の場合はどうだか知らないが、年寄りだからといって、乗り慣れたクルマのブレーキとアクセルを、そう何人もつぎつぎと踏み間違えるだろうか、と私は疑問に思っている。 事故率から言えば、自動車保険料の高い10代、20代の方が多い…
運動不足を補おうと散歩を始め、ただ歩くだけではすぐにやめてしまいそうなので、途中で喫茶店に入って読書を1時間ほど、という対策を立てて始めてみた。日課というわけにはゆかない。週に1回程度。もう少し増やさなければいけないが、さしあたって全然しないよりはましだと思っている。 コーヒーがうまくて、本を読むのに暗くない静かな店はないかと、歩きながら探すのだが、画一的なチェーン店以外となると、なかなか見つか…
3月初めに突然、左大腿部の裏側に痛みが走り、歩くのも起き上がるのも困難になった。驚いて病院に運ばれ、MRIを撮った結果、脊柱管狭窄症と診断された。 歩けないほどの痛みは発症後2、3日で治まったが、このあとどうなるのか、どうすればよいのかさっぱり分からず、近所の整形外科へ行ってみたり、解説本を読んでみたり、友人の治療経験を聞いたりしながら1カ月ほどかけ、市委託のリハビリセンターに落ち着いた。その後は…
先月喜寿を迎え、もうそんな歳かと思ったが、別におめでたくもないのでふだんと変わらぬ一日を送った。曲折あった私の人生も残り少なくなり、若いころのようには頭も体も働かないが、幸い健康寿命の域内にあり、できればあと10年、もうひと働きして悔いなき第5の人生をと思っていた。 計画はすでに立っていた。2019年9月に広島平和記念資料館がボランティアガイドを募集していたのを締め切り間際に知った。不定期だが数年ご…
しばらく離れていた英会話学習を再開して4年になる。講師に恵まれて充実していたが、仕事の都合で大分に引っ越されたので、いったん終幕になった。それでもしつこくカーテンコールを送っていたら、スクールの采配で特別に公開講座がリモートで実現した。だがそれも2回限りとなり、さらにラブコールしたらプライベートレッスンはどうかとスクールに勧められ、1時間半の授業を2回で、「七人の侍」を取り上げるよう提案した。「…
月曜の朝、出勤したがどうも体がだるい。前夜、なぜだかよく眠れなくて、寝不足のせいだろうと思っていたが、調子が出ないので昼前に早引きした。 鼻水、咳、くしゃみがさかんに出るようになり、薬箱から市販の風邪薬を捜して飲んでみたが効きそうにない。熱っぽい感じはしないが、念のため体温を測ってみたら37度8分もある。こりゃあ古い体温計だからあてにならないな、と思いながら、ひょっとするとコロナかも、いや、まさ…
リハビリにも基礎体力作りにもウオーキングがよいようだが、私の場合もうひとつ、減量が課題になっている。70キロぐらいまでがよいのだが、このところ74キロに迫ってきて、ズボンもベルトも困っている。 だが散歩などという目的地のないウオーキングは、とても続きそうにない。なんとなくぶらぶらと歩くなんてことが私にはできない。わき目も降らず一直線に目的地に進むのが小さい時からのクセになっている。通勤にバス、電車…
「70歳になったら周りの風景が変わった。75になったらまた変わった」と30代終わりの3男に話したら「風景が変わるってどういうこと」と聞かれた。どういうことと言っても、たとえば山の峠を越えると景色が変わるようなものだが、ピンと来ないようだ。 電車に乗って都心から内陸へ移動をすると、高層都市から住宅地を通り抜け、広々とした田園地帯に出て、やがて山道に差し掛かり、と車窓からの眺めが変わってゆくようなものだ…
ロンドンで絵描きをしている娘が、久しぶりに帰ってきた。 幼児のころから絵が好きで、美術科の高校から芸大を目指し、3浪してやっと入れてもらったのに、卒業時にはこのまま院生になっても刺激が少ないと、海外留学を企てた。入学にはなんとかいう英語検定で必要なランクを取らねばならず、これは時間がかかるなと思ったらフィリピンで語学研修に集中し、案外早めに追いついてシカゴの美大の院生に滑り込んだ。 アメリカ…
名古屋と東京在住の、中学高校同学年の10人ほどの私的な同窓会があり、毎年5月末に1泊旅行を続けていて、今年も2月に幹事から蓼科で開催の案内が入った。この時点で、健康に不安のある4人から欠席の連絡があり、残り6人のうち2日目恒例のゴルフは参加者2人で成立せず、周辺の観光に切り替えて、今後の運営を見直そうという話になった。 ところが4月に入って、6人のうち1人が肺炎で入院、もう1人が脊椎管狭窄症の手術後で大…
いつの世もどんな国でも、差別や偏見は絶えない。人種や民族、宗教、性別、貧富、障害者、LBGTQ——タテ、ヨコ、ナナメ、どんな切り口で分類しても混在せざるをえない人間集団の中で、マジョリティがマイノリティを、強者が弱者を見下し、いじめ、攻撃し、排除し、時には大虐殺に発展する。 差別したくなるほど何がそんなに問題なのかというと、深い観察に基づく分析の結果ではなく、単なる外観から受ける第一印象に違和感を…
前々回で歯痛の話をしたばかりだが、実はそれと並行して腰痛が再発し、こっちの方が大変だった。弱り目の話が続くのもどうかと思うが、ものにはついでということがある。 腰痛は10年ほど前からたまに起こり、デスクワークの途中でイスから立とうとすると背筋が伸びず、前かがみのまましばらく我慢していると、やっと上体が腰の上に乗るという症状だった。整形外科でレントゲンを撮っても骨には異状ないと言われ、接骨院や整体…
映像や著作にはドキュメンタリーとフィクションがあり、ドキュメンタリーは事実を記録したもので虚構がなく、フィクションは脚本家、小説家、監督が自ら内心で構築した世界を描いたものということになっている。 ところがその区別はそう明確ではない。とりわけフィクションのドラマには「この話はフィクションで、実在する登場人物はいません」と最後によくテロップが流れる。わざわざ断り書きをするのは、モデルがいると誤解…
私は大きな声でよくしゃべるので、まだ当分くたばりそうにないと思われているが、そんな見かけとはかかわりなく、老化は確実に進行している。 歯の左上一番奥が、食事でものを噛むと痛むので歯医者に行くと「噛み合わせが悪いのでしょう」との診断で2回調整した。歯医者によると、歯を無意識に食いしばる癖があり、ダメージを与えているらしい。自分ではそんなに頑張って生きているつもりはないのだが、無意識の癖ならばしか…
YWCAの英会話教室に出るようになってそろそろ3年になる。英会話学校というと、どこでもたいていは海外旅行用、資格試験用、ビジネス会話用、時事英語用、なんとなく日常会話用、とひと通り揃えているが、YWCAにはシェークスピアや短編小説、映画、あるいは画家と絵画を教材にするクラスがある。 あっちこっちのクラスを試してみて、私はその後、TEDという講演の動画と映画を交互に取り上げるコースに落ち着いた。映画はプライ…