しかし、と清河の内なる声は別のことも呟いた。そんな思惑などたやすく一蹴してしまう。芹沢鴨という男は、そういう型破りな一面もあわせ持っているのだ。 清河が、自身も気づかぬ内に息を飲んでいた。それ程の緊迫感に包まれたその場の空気を破ったのは、芹沢だった。 「そのように深読みをなさるな。服部が記憶を取り戻すことは、この先の仕掛けにおいても必要なこと。そのことで貴殿の責を問うような真似はしませんぞ。我々…
「あるいは……」 芹沢は清河を凝視した。 「眠っていた鬼を目覚めさせてしまったか」 清河にも、芹沢の言わんとすることはすぐに理解出来た。 「それはもしや、あの男のことを言っておられるのか?」 「今は儂の推測に過ぎませんが」 そう答える間も、そしてその後も、芹沢は清河を凝視したままだった。芹沢だけではない。他の者達も、同様だった。 つまりは自分のせいだというのか。自分が先走って動いたことで、あの男…
「新見が死んだ」 清河八郎の顔を見るなり、芹沢鴨は唸るように言った。 「新見さんが」 言いながら、清河は芹沢の様子を見極めようとしていた。 座敷の奥に、膝を立てて酒瓶を抱えるようにして座っている。既に相当量を飲んでいると思われる。 目元は据わっているが、泥酔しているという程ではない。 芹沢の周囲にいる平間、野口、平山といった面々も、黙したまま暗い表情を見せていた。 剣呑な雰囲気である。清河は場の…
「思い当たる節はございます。しかし、それはここでは伏せた方がよろしいかと」 「成程。どうやらお聞きしていた通りの御方のようですね。主からは、服部様が我々の願いを聞き届けてくださるなら、可能な限り礼を尽くすように申し付けられております。私は、御所にお仕えしております、衣笠数馬と申します。この度は、我が主のお言葉を御伝えさせて頂きます」 男は改めて姿勢を正して服部と向き合った。 「結論から申し上げま…
「ブログリーダー」を活用して、服部武雄さんをフォローしませんか?
指定した記事をブログ村の中で非表示にしたり、削除したりできます。非表示の場合は、再度表示に戻せます。
画像が取得されていないときは、ブログ側にOGP(メタタグ)の設置が必要になる場合があります。