ホタルブクロ画像は〈季節の花300より〉昼間白いホタルブクロの前でふたりの女の子がしゃべっていたねえクレハちゃんこのホタルブクロの中に妖精が隠れているのようそだメミルちゃん見たことあるの?クレハのことだましちゃいやだよ見たことはないけどきっと妖精がいる夜中にホタルブクロを見るとボウっと明るいんだって道草していた女の子二人はお布団の中でスヤスヤきっとたくさんの妖精がダンスをしている夢でも見ているんだろうなポエム383『ホタルブクロの秘密』
斬新な切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設17年目に入りました。
自然と共生しながら、生きてきました。 ここでは4,000字(原稿用紙10枚)程度の短い作品を発表します。 <超短編シリーズ>として、発表中のものもありますが、むかし詩を書いていたこともあり、コトバに対する思い入れは人一倍つよいとおもいます。
〇「異次元の少子化対策」とかけて「ハーメルンの笛吹き男」とときますそのこころは「本当に子どもを育てやすい社会が作れるのか(約束が反故にされないか)注視」しています。新企画『ととのいました』(24)
旅先でミツマタの花を山茱萸と言い張った友よあなたが去ってもう15年が過ぎました民俗学を研究していたあなたにとって山茱萸はきっと憧れの存在だったのでしょう恋愛小説の創作に長けたあなたの胸中にはあるいは訪れたことのある椎葉村の風景があったのかなと今にして思うのです鈴の音がしたらあなたの送った便りと信じますポエム371『山茱萸の花』
〇「おい、大事件がぼっぱつしたな。北青鵬が引退したぞ」「弟弟子への度重なる暴行が明らかになった以上引退勧告もやむを得ないですね」〇「親方の宮城野(白鵬)も監督不行き届きで2階級降格だそうだ」「的確な相撲解説で信頼していたのにね」〇「もう広報にはいられない。駐車場係とかに追いやられる」「親方の耳に入っていたということなのになぜ厳しく指導しなかったんですかね」〇「そこが不思議なところよ、相撲協会に対し挑戦的な態度が感じられる」「そうですね。大横綱だったオレに処分なんかできないだろうという不遜さですね」〇「現役時代からバンザイしたり協会の慣習に逆らっていたからな」「そうそう、双葉山を尊敬していると言いながらモンゴル優位の意識が強かったですからね」紙上大喜利47『じじいの時事ばなし』
〇「ジャンボジェット」とかけて『悪ガキ」とときますそのこころは『どりらも飛行機(非行期」でしょう」松「相撲の立ち合い」とかけて『息の合った漫才コンビ」とときますそのこころは『どちらも阿吽(あ・うん)の呼吸」でしょう〇「話題の大物芸人とかけて」「お茶会と飲み会」とときますそのこころは『菓子と献上も抹茶(まっちゃ・・〉に関係が」あるでしょう新企画」新企画新企画『ととのいました』(23)
ソフィア・ローレンさんもう一度あの映画に出てくださいジョバンナ役で世界を感動の渦に巻き込んだ映画「ひまわり」に・・ロケ地はかつてのソ連邦(現ウクライナ)一面のひまわり畑で繰り広げられる恋物語兵士アンオニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)の12日間の結婚休戦を永遠にと精神疾患を装うがもくろみは入院後にばれて戦地へ送られる汽車の中と外のホームで見つめ合う二人の別れ二度と会うことのない運命を知りつつも夫を探し戦地をさまようジョバンナの姿に戦争の影を見る映画から50年の歳月を経て侵略を受けるウクライナソ連邦から解放され独立したウクライナを再び手中に収めようと攻撃を繰り返し市民を標的にするロシアの軍人たち世界中が待ちのぞむ小麦と共にヒマワリを破壊されたウクライナの国土復興のための切り札にしようとするアイディアが提案さ...ポエム370『ひまわりをもう一度』
〇「大谷は化け物か」」「始動したと思ったら150メートル弾ですからね」〇「アメリカの医者はサイボーグ造りに自信満々だな」「星飛雄馬は強力なバネをつけて練習してましたが・・」〇「空想はあっさり超えられたようだ」「それでも大谷翔平のイメージは好青年のままですからね」〇「もう野球選手の枠は取っ払われて理想像の一人歩きだ」「どんどん大きくなる雪だるまですね」〇「ドジャースには幾らカネが入ってくるんだ?」「ご隠居、この際ハシタナイ話はよしましょう」紙上大喜利46『じじいの時事ばなし』
〇春一番吹いて鼻水とめどなく〇抗ヒスタミン剤鼻炎薬さま仏さま〇目薬をさして益々しょぼしょぼと〇めん玉をできることなら丸洗い〇株一番NISAの日〔2月13日)から吹き上げぬ〇作られしインフレ弾ける日も近し〇投資家の心理透視しファンド動く〇まだボレる企業物価の上げラッシュ〇支持率を下げても涼し株高で川柳復活13『春一番』
タム・ソーヤたちはお兄さんの手伝いをした後ただひたすら多磨川の土手を歩いていた。すると広い河原の一角に臨時キャンプ場という看板がかかっている場所を発見した。「おおっ、どこの区か知らないけど夏休みの子供たちのためにキャンプ場を開いてくれたらしい。ラッキー、俺たちもここで一泊しよう」タム・ソーヤが管理責任者らしいおじさんに近づき「すみません、4人ですけど今夜ここを使わせていただけますか」「事前申し込みの許可証は?」「あ、お母さんがリュックに入れてくれたんですけどどこへ行ったかな・・」タム・ソーヤは必死に探すふりをした。「許可証がないとここは使えないよ」「そんな、殺生な・・このキャンプ場に泊れないと僕たち野宿ですよ」「君、殺生なんて言葉どこで覚えたの?おじさんを脅しているみたいだな」「いえ、僕の家の電話は〇〇ば...短期連載『ルリ色の石を探して』〈6〉最終回
堤防の下で待っていた大学生のお兄さんが、「この前はありがとう」とタム・ソーヤたちを迎えた。「実は君たちに採取してもらったウグイやオイカワは最近外来魚の餌食になって数を減らしているんだ。大分前からここはタマゾン川と呼ばれていて、熱帯魚のグッピーやブラックバスが定着している。下流域の川崎市近くで<おさかなポスト>を運営する方の発表ではペットショップで買い求めた珍しい熱帯魚を設置した生け簀に入れていくケースが増えているそうだ。ところが中には勝手に川へ捨てる人も多いので多摩川に外来魚が住み着いてしまった。一時は死の川と呼ばれていたが下水処理施設が整備されて水質がよくなったのと生活排水の温度が高くなったことから冬場でも熱帯魚が住みつき繁殖までできる環境になった。ぼくは在来魚の生息を守る立場から、君たちに手伝ってもら...短期連載『ルリ色の石を探して』〔5)
タム・ソーヤたちは多摩川の堤防に寝そべって明け方まで天の川や夏の星座を見続けた。背後が北で多摩川の方向が南なので月明りが残っているうちから天の川がはっきりと見えた。「ミルキー・ウェイか、多摩川の上は街の明かりが届かないからきれいに見えたよね」ビルがうっとりとした表情で言った。「まさか、こんなことになるとは思いもしなかったよ」タム・ソーヤが自慢げに応じた。「ぼく、一度も見たことなかったからベガやアルタイルを目に焼き付けておくよ」ジミーもビルと同じように感激していた。明け方月明りがなくなるころ、天の川は多摩川をまたいではるかに雄大な天空の川を作っていた。消防署や警察署はタム・ソーヤの言葉を信じて星座観察を許してくれた。午前中にでもひとっ走りしてお礼を言おうという気になっていた。しかし多摩段丘の亀裂の浅いところ...短期連載『ルリ色の石を探して〈4〉
タム・ソーヤに誘導されながらもハックがぶつぶつ呟いている。「ムロって冬場に樹木や野菜をかこうものだろう?真夏にムロなんてあるわけないだろう」実はタム・ソーヤも自分の間違いに気づき始めていた。しかし、言い出した手前引っ込みがつかない。「ほら、夏でもちゃんとムロがあるじゃないか」たしかに4人の前方に屋根のついた小屋があった。だが、よく見ると戸が閉まっていて小屋全体に鎖ロープが巻かれている。「あれ、これってムロじゃなくて無人の野菜直売場じゃないかな?」ビルが言った。「そうか、それじゃ引き返して今夜は野宿だな」タム・ソーヤの方針転換に皆一斉に「ええーっ」と不満を漏らした。しかし、現状は変えようがない。幸い満月の夜だったので足を引きずりながら多摩川の堤までもどった。誰一人とおおらない道にレジャーシートを広げ、拾い集...短期連載『ルリ色の石を探して』〈3〉
多摩川の堤に這い上がったもののタム・ソーヤにも次の行動予定があるわけではない。もたもたしているうちに大学生が近づいてきて「君たちぼくのお手伝いをしてくれないかな」と笑いかけた。「お礼はできないけど、個人的に多摩川に生息している魚や甲殻類を調査する仕事もしているんだ。世界の学会に発表するかもしれないんです」「はあ・・」タム・ソーヤがつられたように返事をした。世界という言葉に弱い田村一郎は仲間を見回して「どうせ暇だし暑いから水遊びしてみようか」と積極的になった。昼過ぎの一番暑い時間帯にタム・ソーヤたちはズボンもシャツも脱ぎ捨て、パンツ一丁で川に入った。川といっても本流に沿って流れる人工の支流である。本来は飲料水や灌漑用水にするための取水口で、詳しい人の話では自治体ごとにそうした工夫をしているらしい。タム・ソー...短期連載『ルリ色の石を探して』(2)
昭和〇〇年の夏休みに、田村一郎の提案で遊び友達総勢4人がルリ色の石を探すことになった。ガキ大将の田村一郎は関西出身の大柄な中学一年生で、何かにつけ「そうや」と返事をするのでタム・ソーヤのあだ名をつけられていた。そうなると当然、ほかの三人も八田はハック、蛭田はビル、おとなしい舟木はジミーと愛称で呼ばれることになった。「俺たちは今夜家を抜けだしルリ色の石を見つけるまで帰らない。家族が心配すると厄介だから田村の家で宿題をやると書き置きしてきてくれ。それと一週間分の食料、飯盒、マッチ、レジャーシート、毛布などを忘れないように。」あいんしゅたいんは「ところでルリ色の石ってどんなものなの?」ビルが聞いた。「お前らもアインシュタイン博士は知ってるだろ。おれの読んだ本によれば地球に降り注いだ隕石のうちルリ色の隕石には宇宙...ルリ色の石を探して〈1〉
〇「おい。検察は司直の剣を振るわずに目的を達したと自画自賛しているらしいな」「たしかに二階派をはじめ雪崩を打ってだけど派閥解散に動いたんだから実効はあったのでしょうが・・」〇「だけど安部派6人衆は顔を合わせたとたんに薄ら笑いを浮かべてたな」「あれは同じトカゲ同士が不貞腐れた照れ笑いじゃないですか」〇「世耕さんだけは不機嫌そうだったが何か企んでるのか」「わかりませんが政治の復権を考えている可能性はありますね」〇「大相撲も終わっちゃたし気抜けのビール状態だぞ」「あとは森安ジャパンを応援しましょうか」〇「照ノ富士の気迫と錦木の勝ち越しが心の支えじゃ」「ご贔屓の二人が活躍したほかに琴の若の大関昇進がありましたね」川柳復活13『じじいの時事ばなし』
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ホタルブクロ画像は〈季節の花300より〉昼間白いホタルブクロの前でふたりの女の子がしゃべっていたねえクレハちゃんこのホタルブクロの中に妖精が隠れているのようそだメミルちゃん見たことあるの?クレハのことだましちゃいやだよ見たことはないけどきっと妖精がいる夜中にホタルブクロを見るとボウっと明るいんだって道草していた女の子二人はお布団の中でスヤスヤきっとたくさんの妖精がダンスをしている夢でも見ているんだろうなポエム383『ホタルブクロの秘密』
〇「芦田愛菜ちゃんはますます活躍してるな」「ご隠居、急にどうしたんですか。鈴木福君ともども成人になって知的なタレントになりましたよ」〇「いや、親がここまでよく育てたなと思ってさ」「そうですね、2人とも反抗期とかなかったんですかね。子育ての本でも出せば売れますね」〇「北朝鮮のゴミ風船は飛ばした50パーセントは韓国に届いているらしいぞ」「いやですね、イメージが・・飛ばす方の品格が問われますね」〇「日本も先の戦争末期には風船爆弾を飛ばしたけれど何個かアメリカ本土に届いただけだ」「太平洋を越えてよく届きましたよ。北朝鮮と韓国は隣同士の諍いで始末が悪いですね」〇「大谷翔平は背番号と同じ17号に到達したけど、ヤンキースのジャッジに大差をつけられたな」「相手投手の攻め方にも大差があるように見えますよ」〇「小池百合子さん...紙上大喜利60『じじいの時事ばなし』
駐車場の奥の崖下に黄色い百合が咲いていた梅雨入り前の真夏日の午後人間どもがあえぐ日盛りに黄色い百合はいとも涼しげに大きな花を咲かせていたなんだかノカンゾウに似ているがきみは野の百合だよね群れてないところが最高だ花言葉は「陽気」というんだってきみに出合ってよかったよ運勢がよくなる前兆だってさ駐車場の雑草の中で輝く黄色い百合これから仕事に出かけるけどよろしくなポエム382『黄色い百合』
茨城県に五浦海岸〈いづらかいがん〉という場所がある。岡倉天心のもとに集まった横山大観、下村観山、菱田春草らが日本画の美を極めようと切磋琢磨した北茨城市の景勝地である。海水浴場にもなる砂浜には海風にもめげず松が枝を伸ばし、岩場を望む六角堂にこもると打ち寄せる波の音が思索を深化させるようだ。天心は後に六角堂を日本美術院の本拠地にした。横山大観のいわゆる朦朧体などは五浦で生まれたものである。冬場はボストン美術館の中国・日本美術部長を務める天心は、夏場は五浦に戻って日本美術界の改革に注力した。もともと日本美術品の研究・収集に造詣の深かったフェノロサの通訳を務めていた天心は、自らも日本美術の研究にのめりこむ。弟子たちはみな家族とともに五浦で夏を過ごし、橋本雅邦ら若き天才画家たちが日夜日本画の可能性を追求した歴史的な...真夏の怪談その5『五浦海岸』
昨日のニュースで嘴太ガラスを肩に乗せて散歩する青年のインタビューに答える様子を放映していたとにかくカラスは頭がよくて可愛い同居していて新たな発見があり伴侶として申し分のない存在だという話変わって都内の繁華街からカラスが激減いま何が起こっているのかとミステリー仕立ての特集でもあった有力な答えは頑丈なゴミ箱の設置だカラスを兵糧攻めにする施策がやっと浸透してきたのだろうというその一方で鷹やハヤブサが増えているらしい都心の高層ビルは崖みたいなもので天敵を避けて営巣するには最適なんだとか新たな悩みに都知事候補はどう応えますか小池さんはまだ出馬表明せず蓮舫さんならビルに網かけろとでも・・ポエム381『カラスをペットにする男』
海野太吉は千葉県内をよくドライブした。勝浦や御宿が好きで、家族を乗せて行楽に引き回した。自宅が都内にあったので、あるとき茂原から四街道を経由して家に帰ることにした。自動車の道路ナビなどない時代に地図を頼りに近道を探して強行突破してきた。すると四街道に近づいたと思われる頃いきなり目の前に竹襖が現れた。「えーっ、なんじゃこれ?」家族も身を乗り出して怖がった。「おとうさん、引き返しましょう」「いや、竹藪が道までせり出しただけだ、道がないわけじゃない」農道なのか畑の中の私道なのかわからないがギリギリ通り抜けられそうだ。太吉は運転席のミラーを引っ込め、竹の幹にこすりそうになりながらなんとか通過した。「いやー、水木しげるの妖怪が出たかと思った・・」「お父さん無謀だから、いつもヒヤヒヤするわよ。いつか青梅の方でコンクリ...真夏の怪談その4『四街道の竹藪』
〇10代二人がバールを持って民家に押し入ったアーソレソレ主人殴って妻からカネ奪うソレカラドーシタあわてて逃げたが忽ち捕まった〇架空の投資で60億円集めたアーソレソレ社債を印刷くばってその場をごまかしたソレカラドーシタいくら稼ごうが悪銭身につかず〇詐欺をしようが強盗だろうがお札に色はないアーソレソレ金を使えばクラブは恵比須顔ソレカラドーシタ焼酎飲み飲みマルサ対策考えた当世あきれ節2
「羽衣の松」という小説を書いた仲間がいた。老境に入ってロマンスには無縁と感じ始めていた時、突然女性の方から思いを告げられたのだ。彼は驚き、うれしくも感じた。若い時は何度か恋愛をしたことがあったが、縁あって現在の女房と結婚し40年を共に過ごしてきた。それだけに同じ同人誌に所属する女性に誘われて食事をし、その後一夜を共にしたことはそれとなく記録しておきたかった。天女からふわりと羽衣をかけられたと表現したのは彼の心境そのものだ。富士山が世界遺産になったとき三保の松原もその一部に認定された。羽衣伝説は世界中に説話として存在し、日本では滋賀県や京都府の風土記に残されているのが最も古いのだが、富士山がよく見える場所として世界遺産に含まれたことから三保の松原が有名になった。本来、羽衣伝説とは関係のない話であるが、三保の...真夏の怪談その3『三保の松原浮気考』
〇八冠が叡王戦で踏みとどまる〇連敗のあと1勝返し2対2に〇挑戦者伊藤匠はAI通〇子供のころから聡太のライバル互角の才〇現棋界勝率1位の匠立つ〇21歳聡太・匠の若武者戦〇八冠は先に名人位防衛す〇藤井聡太に過密日程発汗やまず〇AIにもまれて予備軍虎視眈々〇もはや大人の出る幕なしか将棋界俳句川柳7『藤井聡太八冠』
〇牽制球が足に当たって痛い顔〇そんな翔平見たことなかった心配だ〇監督が復調予言ほっとした〇翔平が10試合ぶり14号〇トップまで2本差いずれ追いつくさ〇とはいうが守りの姿勢が垣間見え〇水原に受けた裏切りトラウマに〇新住居〈十数億円〉へ移って心機一転か〇ロバーツ〈監督〉のおねだり〈自動車〉変じてミニチュア・カー〇背番号〈17〉譲った選手と違うわい〈奥さんにポルシェ贈って話題に〉俳句川柳6『心配させんなよ』
現在はにかほ市になった秋田県の象潟町で重吉は炭焼きを生業にしている。東京の大学を卒業したあと実家の山を預けられ、楢や橡の木を切り倒しては木炭づくりを目指した。ところが重吉は炭窯に火を入れた後持ち込んだ哲学書を読みふけるものだから、火を止めるタイミングを失い出来上がった木炭はほとんど灰に近い状態になってしまった。「重吉さんなばダメなもんだ。炭つくってんだか灰つくってんだか売り物になるのは一本もなかった」口さがない住民が噂するうちはよかったが、そうち呆れて誰も近寄らなくなった、そうして一年が過ぎ炭の材料になる木を伐りに遠くまで足を運ばなくてはならなくなttころ、重吉さんの炭の品質がきゅうによくなった、聞きつけた住民が重吉さんから話を引き出したところでは本に夢中になっていても木の精が勝手に話しかけてくるのだとい...真夏の怪談その2『にかほ市の哲学者』
〇「どうだ、やっぱり大の里が優勝したろう?」「ご隠居の言う通りでしたね。しかし、中日のあと2敗したんでハラハラしましたよ」〇「負けを肥やしにしてどんどん強くなったよ」「最後の3日間は自信に満ちた顔をしてましたね」〇「大の里はあと何場所かで大関になる、横綱も遠くないだろう」「そう簡単にいきますかね、人生何が起こるかわかりませんよ」〇「大丈夫だ。オーラがある。謙虚さもある。相撲の型もある」「へえへえ、ご隠居を信じますよ」〇「ライバルの琴桜もうまく育ってほしいな、尊富士も復帰してくれば面白くなる」「平戸海や熱海富士も見どころありましたしね」紙上大喜利59『じじいの時事ばなし』
市ヶ谷駅は僕がよく利用した駅である。夏の深夜、大急ぎで改札口に降りていくと頭上から人のすすり泣く声が降ってきた。声の主はたぶん女性だろうと気になったが、こちらも電車に乗り遅れる心配があったので確かめることなくホームへ走った。何日か経って市ヶ谷駅のすすり泣きのことが週刊誌に載っているのを中吊り広告で知った。早速買って読んでみると、僕が体験したよりも大分前から噂になっていたらしい。誌面によると夫に捨てられた女性がJRの線路上で飛び込み自殺した事件があり、その時の状況がこだまのようによみがえって夜な夜な誰かしらの耳に届いていたらしい。よほど無念だったのか、聞いたのは男性ばかりで男への恨みも感じられる話だった。週刊誌の記事を読んで以来、僕は市ヶ谷での乗降を避けるようになった。総武線ではなく中央線の快速や準急電車を...真夏の怪談その1『市ヶ谷のすすり泣き』
天・点天を仰ぐ暑い直視できない点黒点子供の絵なら簡単ゴマのような黒点太陽フレアまでクレヨンカナダでオーロラ電離層パニック気象衛星多数墜落・点天天を仰ぐ熱い直視できない黒点気象も天文学も天に始まり点に終わる人生は天の思し召しポエム380『天』
〇社長が一瞬目をかけたアーソレソレ早くあと継がせろと焦る娘婿ソレカラドーシタ魂胆読まれると匿名人間を雇って深い闇深い闇〇政党交付金の使い道報告下限はいくらアーソレソレ与党の協議はいくらやっても折り合わずソレカラドーシタ自民は10万以下に切り下げず国民無視国民無視〇クマがやたと人を襲うアーソレソレ暖冬で冬眠短め腹が減ってたまらないソレカラドーシタ民家に侵入し貯蔵庫開けて好き放題好き放題当世あきれ節1
〇「おい、小相撲って知ってるか」「えッ?大相撲なら今やってますが」〇「横綱照ノ富士をはじめ大関貴景勝、霧島、関脇若隆景、朝乃山など注目力士がみんな休場で元気なのは小物ばかり」「それで小相撲ですか、ご隠居」〇「今場所の優勝は大の里で決まりだな」「またまた、気が早い。まだ8日目ですよ」〇「先場所だって尊富士か大の里のどっちかといったろう、今場所は大の里の番だ」「へえへえ、外しても知りませんよ」〇「大谷翔平が13号を打ってトップに並んだな」「打率もトップだし三冠王が狙えるんじゃないですか」〇「ロサンゼルス市が大谷翔平の日を制定したな」「5月はアメリカ政府がアジアやハワイ、太平洋の島々にルーツを持つアメリカ人の歴史・文化や功績をたたえる月間でそれにあやかったらしいですよ」紙上大喜利57『じじいの時事ばなし』
巣鴨プリズンが解体されたとき、ある独房の壁の中から奇妙な塊が転がり出てきた。公には報道されなかったが、それは高温の熱によって溶かされたコンクリートが、冷えて固まった状態に見えた。普通、ブルドーザーで破砕された壁は、捻じ曲がった鉄筋を除けば、セメントと砂、砂利による組成が一目瞭然だった。それに対し、発見された塊は内部でガラス質の粒子が滾り、流れ出たような形跡が見られた。飴を塗りつけたような表面には、わずかながら人をほっとさせる暖色系の彩りがあった。なぜ、コンクリートが溶けたのか。壁の一部だけが、どうして他と違う様相を見せるのか。独房に収監された囚人が、脱獄を図るために薬品で壁の腐食を狙ったと考える者もいた。壁の解体に携わった業者は、上司を通じて拘置所の責任者に報告した。あり得ないことだが、少しの疑いでもあれ...思い出の短編小説『壁の中』
『東海道中膝栗毛』〈とうかいどうちゅうひざくりげ〉で名の知られた十辺舎一九は1802年~1814年にかけて初刷りされた滑稽本である。「膝栗毛」とは、自分の膝を馬の代わりに使う徒歩旅行の意で人気作品となり刊行は『東海道中膝栗毛』と『続膝栗毛』あわせて20篇に及んだ。後世に読みつがれ、主人公の弥次郎兵衛と喜多八コンビのキャラは歌舞伎や映画等で現在でも活躍が続いている。文才とともに絵心のあった作者による挿絵が多く挿入され、江戸時代の東海道旅行の実状を記録する、貴重な資料でもある。版木による出版が何版にもおよび、今でいうベストセラー作家となった十辺舎一九は文筆業だけで生計を立てたわが国最初の人物ともいわれている。通称「弥次喜多道中記」のあらすじは、江戸の神田八丁堀の住人である栃面屋弥次郎兵衛と居候の喜多八が二人と...新作KAIDANその10『十辺舎一九』
那須野が原には「九尾の狐」が住んでいるといわれている。最近、那須野が原を舞台にいやな事件が勃発しているが、ご当地の九尾の狐がどう思っているか世間の口端も喧しい。「ぼくは九尾の狐はワルだから冷ややかな顔で見ていたんだと思う」「いや、わたしは九尾の狐は憤慨していると思います。もともと伝説では神獣といわれて王朝を支えてきたのだから今回の事件はイメージダウンになると怒っているはずです」「読み本屋、曲亭馬琴の受け売りだな?」「そういう貴方こそ玉藻前〈平安時代末期に登場する『玉藻草紙』で鳥羽上皇の姫に化けた狐〉にたぶらかされているんでしょう」「九尾の狐をワルだと言っているぼくが騙されるわけがないだろう、何を考えているんだ」「全身〈心〉全霊で化かすというから、あんたなんかイチコロよ」「ちょっと待った,お二人さん、九尾の...新作KAIDANその9『九尾の狐』
〇「大谷翔平が11号ホームランで両リーグトップに立ったな」「3連発の後このまま突る可能性がありますね」〇「護衛艦『いずも』をドローン撮影した奴はドロンしちゃったのか」「中国のSNSに投稿されたということですが誰かはわかりませんね」〇「政治資金規正法はどうなった?」「連座制は決まりみたいですが問題は使い道ですよね」〇「何に使ったか記録し党に報告する金額を10万にするか5万にするかで自民・公明の折り合いがつかないんだろ」「ザルの目を粗いままにしたい自民が引き延ばししているようですね」〇「宇野昌磨が今シーズン限りで引退するらしいぞ」「男子フィギアという激しいスポーツでよく頑張りましたよ」紙上大喜利57『じじいの時事ばなし』
〇「ホームラン数トップに立った大谷翔平のファン」とかけて「ネズミ捕りの警察官」とときますそのこころは「まだ加速するの?、ジャッジ(計測)できないほど飛ばさないでよ」と嬉しい悲鳴をあげるでしょう。〇「生成AIへの危惧」とかけて「原子爆弾を完成させたオッペンハイマー博士の後悔」とときますそのこころは「歯止めの効かない知識欲(禁断の木の実〉はやがて人類を滅ぼす」でしょう〇「キーウへの集中ミサイル攻撃」とかけて「ずばり、アフリカ諸国首脳とウクライナの接近阻止」とときますそのこころは「NOTOに入るかもしれないウクライナとアフリカの関係は喜望峰まわりの遠い国」にしておきたいからでしょう新企画『ととのいました』(21)
三が日が明けた仕事始めの日、出勤しようとしていた雅夫は賃貸マンションを経営する大家と珍しく顔を合わせた。「おはようございます」背後から声をかけられて振り向くと、膝上まである防寒コートを羽織り、そのくせ帽子もかぶらずにニコニコと立っていた。一度か二度すれ違ったことがあるが、その時は目を合わせることもなく、雅夫は内心愛想のないオヤジだなとこちらも無視する気持ちになっていた。だが、年が変わって心境が変化したように挨拶されてみると、もともと悪意を持っていた訳ではないから悪い気はしなかった。「おや、おでかけですか?」「うーん、・・・・二、三日留守にしますんでよろしく」返事とは裏腹に、どこか遠くを視るような目付きでぼそりと答えた。ふだん入居者のことなど無関心かと思っていたのに、どうした風の吹き回しか。家の中で雑煮など...思い出の短編小説『よたれそつね』
〇「台風は通り過ぎたけど、別の風が吹き始めたな」「解散風でしょう?内閣信任案が出たら刀を抜くらしいですよ」〇「立憲民主は不信任案を出す勇気があるかな?」「さあ、どうでしょう。今選挙をしたら遺骨も拾えないと言われていますが」〇「総理の息子が官邸でヘマをやっても秘書官を辞めさせただけで大丈夫か」「株も上がってるし、防衛予算は先送りして、選挙に勝ったら信任受けたと大手を振って増税するつもりですよ」紙上『大喜利』(25)
ガリラヤ湖はヨルダンの大地溝帯の端にある死海につぎ2番目に標高の低い湖だ魚がよく獲れるので30隻もの舟が操業していたというイエスはこの湖を見おろす丘の上に立って布教した漁師ペテロはそれを聞いてイエスの一番弟子になったたちまちガリラヤ湖周辺の人びとはイエスに帰依したガリラヤ湖西岸とイスラエルを結ぶ街道を通ってキリスト教は世界に広まっていったそれにしてもイエス・キリストの生涯は烈しすぎる現代に続く宗教戦争の原点はそこにある一神教ではないが他の神を従属させようとするゼウスを頂きながら宗派の違いをも受け入れない日本人はいいな自然崇拝が身に沁みているから森の木や川の水それに岩石にまで神が宿る八百万の神が身近にいる幸せよ古代からの太陽信仰が生きているんだろうなポエム366『ガリラヤ湖から』
〇「高齢者の自動車事故」とかけて「完全試合を達成した時の佐々木朗希」とときますそのこころは「全力でアクセルを踏み続けた」結果でしょう〇「梅雨前線」とかけて「能無し大臣の国会答弁」とときますそのころろは「どちらも湿舌(失舌)を伴なう」でしょう〇「立憲民主党」とかけて「弱虫の番犬」とときますそのこころは「吠えるだけで他に何もできない」でしょう新企画『ととのいました』(20)
<さくら貝の歌>美わしきさくら貝一つ去りゆけるきみに捧げんこの貝は去年の浜辺にわれ一人ひろいし貝よその子の名は、キララといった。入学式の日に、小学四年生として編入してきた。担任の先生は、キララが福島からの転入者であることを告げた。この町へ避難してきたのは、キララとお祖母ちゃんの二人だけだった。福島で海産物店をやっていた両親が津波に攫われ、行き場をなくして能登半島の親戚を頼ってきたのだ。親戚といっても、キララのお母さんの妹の嫁ぎ先だから受け入れの余裕がなかった。それで、町の施設がキララとお祖母ちゃんを受け入れたのだった。地域の人々は、キララたちをこぞって歓迎した。昔から日本海の漁業で生きてきた町に、真反対の太平洋岸から二人がやってきたことで注目を集めたのだ。先生は、震災の後始末が付くまで二人は志賀町に滞在す...思い出の短編小説『さくら貝の歌-異聞』
六合村の応徳温泉に行きたいな2年ほどご無沙汰だけど変わりないかな伝統的建造物群保存地区の清潔さも保っているかなおいしい蕎麦屋さんもまだやっているかなもう何十年も前に一年間湯治して糖尿病で瘦せ衰えた体を治してもらったぬるめだけど内臓の芯まで温めてくれる効能あらたかなあの温泉だ村の入り口に咲いていた黄花コスモスよいつもぼくを快く迎えてくれたね今はどんな花を咲かせているのかな村の中の道はどこも花に満ちていたな野草の宝庫で知られた野反湖への中継点登山やハイキングのグループがよく利用してたなみんな温泉から出た後ゴロンと横になって仮眠した食べ物の持ち込みも自由だったから人気があった六合村よ応徳温泉よもうすぐ行くからね黄花コスモスの時期には少し早いが新緑が滴るような木々の彼方から温泉を覗きに来る風と再会できるかもしれな...ポエム355『新緑の風』
〇「線状降水帯の被害は想像以上だったな」「ご隠居、特に愛知と静岡・埼玉がひどかったですね」〇「ところで戦場降参隊のほうはどうなっているんだ」「キウイも被害を受けましたけどロシアの領内まで反撃されてますからね、勝敗はまだ分かりません」〇「NHKはタレント総取りだな、タモリ・鶴瓶はもうなくてはならない存在だし」「ほんと、民放全盛時代には反NHK的スタンスをとるタレントも居ましたがね」紙上『大喜利』(24)
大蔵さと子が工房を辞めたのは、秋が本格化した九月下旬のことだった。ヨシキにとっては、先輩でもあり憧れの女性でもあった。ガラスの扱い方を丁寧に教えてくれただけでなく、仕事を超えて近しい存在になっていた。ヨシキが所属する工房では、主にアクセサリーに関する素材や技法を研究している。顧客のニーズを掘り起こして、さまざまな装飾品にトライする試作室みたいなものだった。経営者である寺田瑛彦は、奇抜なデザインと新旧の素材を融合したユニークな作品を発表して急速に頭角を現してきた装飾デザイナーだった。輝石をポイントにしたバッグやハイヒールなどを、一点物として女優やモデルに提供していた。さと子はもともとネイルサロンで働いていたのだが、客との会話の中で寺田瑛彦の存在を知り、創造的な仕事がしたいからと弟子になった。「給料なんて出な...思い出の短編小説『人生とんぼ玉』
〇「梅雨時に台風かよ」「ご隠居、まだ5月で恥ずかしいから石垣島あたりで一休みして6月に上陸するつもりらしいですよ」〇「ゼレンスキーが反転攻勢に出たな」「モスクワは繰り返し無人機攻撃を受けてプーチンもオチオチしてられませんね」〇「卓球の早田ひなが大活躍してるな」「ひなひなした印象なのに中国選手を破って銅メダル獲得しましたよ」〇「錦木は千秋楽まで7連勝で9勝6敗で終えたな」「ご隠居、お見事でした。このままいけば来場所には関脇も狙えますよ」紙上『大喜利』(23)
サスペンス小説の作家として売れっ子だった有村優斗は、近ごろ雑誌社からの注文が減っていることを気にかけていた。担当の編集者にそれとなく訊いてみると、読者アンケートの分析から有村の小説が目新しさに欠けるとの評価が下されたらしい。某誌の人気作家ランキングでも、ベストスリーに入れず低迷していると聞かされた。ピーク時には寝る間もないほど依頼が殺到し、いずれ自身が小説に殺されるのではないかと覚悟をしたほどだった。しかし、さしもの人気もピークを過ぎ、いまは自分のペースで仕事をすることができた。夜型の彼は夕方の五時ごろ起き出し、朝方の七時に寝床に付くという生活を繰り返していた。望み通りに十分な睡眠時間が取れ、食事も散歩も意のままになったのだから、昔の奴隷のような生活と較べれば楽なものだった。健康のためにも、仕事量が減った...思い出の短編小説『ウィスパーボイス』
〇「どうだ、錦木はほんとに覚醒しただろう」「ご隠居、すごいですよ。若元春を寄り切ってから4連勝で7勝6敗と勝ち越し目前です」〇「このところ地震が続いているが大丈夫か」「能登から始まってトカラ列島、千葉南部、伊豆諸島など震度6~5が続いていますね」〇「ワグネルの創設者ブリゴジンはプーチンの料理人と言われているが本当か」「レストラン経営のほか人間の料理もやってるわけだ」新企画『ととのいました』(19)
2年前に当ブログで異様に成長した<木のような草>を紹介したことがある。正体がわからないのでお尋ねしたら、さっそく『一年生のブログ』さんが画像検索してオオブタクサという外来種の雑草ではないかと教えてくれた。オオブタクサ(画像は2921年9月撮影のオオブタクサ)2年前の5月頃ヤツデのような形の幼草を見てどんな植物になるのか観察していたら、9月には手の付けにはような怪物になってしまった。4か月後には花穂にたくさんの実をつけたのを見て(これはヤバイ)と伐採にかかったのだが、時すてに遅し・・・・去年も今年も飛び散った種がしぶとく生き延びていたのである。見つけるたびに引き抜いて処分し、もうないだろうと思っているとまだ残っている。今年の幼草2年前に「一年生のブログ」さんから送られてきた画像検索のURL(https://...木のような草『オオブタクサ』の繁殖力
〇「おい、錦木が覚醒したぞ」「ええ、大関の貴景勝を横綱相撲で寄り切るなど覚醒しましたね」〇「大谷の6勝目はお預けだな、1失点で勝敗つかずとは残念」「ご隠居、わかります。早い回に援護がほしかったですね」〇「広島サミットも終わったな」「まさか対面の会議には出れんと思っていたゼレンスキーさん来ちゃいましたね」紙上『大喜利』(22)
少年たちにとって、マツ子の存在は眩しすぎるものだった。好奇心を最大に膨らませながら、戸惑い、戸惑いの後に排斥のポーズをとった。学校が終わって家に帰るマツ子を追って、男子生徒たちは後方から囃し立てた。「メンス、オンス、メンス、オンス」二組に分かれて、単純な掛け合いを繰り返すだけなのだが、しばらくすると皆気が滅入ったようになって、声が小さくなった。喜市も、将太や三郎とともに村はずれの雑木林まで付いて行き、マツ子が振り返って駆け出すのを見送ったあと、それが目的だったようにクヌギの大木に近づいて、虫が舐めた樹液の跡を確認する。木肌に残る茶色のおがくずが、夜通し働いた昆虫たちの宴のあとだった。虫や動物に対する喜市の執着は、彼の生命の源でつながっていた。近くの枝に、まだカミキリムシが隠れていないか、足下の草むらにウマ...思い出の短編小説『狂犬のいた坂道』(3)
日が傾きかける頃、喜市は川漁師の父と連れ立って、カエル獲りに出かけた。ライギョの生餌にするため、こぶりの青蛙が必要なのだ。沼に続く湿地には、蛙だけでも何種類も生息している。ニホンアマガエル、ニホンアカガエル、トノサマガエルに、食用蛙とも呼ぶウシガエルもいる。そのあたりには、他に蛇や蜥蜴もいる。草の実や稲穂が間近にあるから、鼠も隠れている。だが、川漁師の目的は蛙だけである。そのカエル獲りには、喜市が欠かせない存在なのだ。名人喜市は、濡れた草むらを中腰で進む。人の気配に驚いた蛙が、あちこちからピョンピョン飛び出す。その瞬間、喜市もまた蛙のように地面を跳び、着地したばかりの生餌を手で押える。捕らえた蛙は、竹で編んだ平たい魚籠に入れる。蓋を閉じ、次の獲物を狙って、再び忍び足で前に進む。追っ手の気配に怯えた蛙が草陰...思い出の短編小説『狂犬のいた坂道』(2)
5月5日はこどもの日、行事的には端午の節句ということになる。みなさんのブログを拝見していても、この日の前後には鯉のぼりが泳ぐ雄々しい画像がたくさん登場していた。関東北部のある地方では毎年ジャンボ鯉のぼりが話題になる催しがあり、ブロ友さんとNHKのニュースで同時配信していたので大いに興味をそそられた。それにくらべるといささかショボい話で恐縮だが、我が家でも孫の節句を祝ってベランダ用の鯉のぼりを購入し昨日まで泳がしていた。実はこどもの日と誕生日が近いので取り付けたままにしていたのだが、昨日やっと晴れたので取り外しの作業をした次第である。しかし、この間よく雨が降ったよね。鯉のぼり自体はナイロン製だから濡れてもすぐ乾くのだが、かなりの風がなけtれば泳がない。それでも上部に取り付けた矢車と金飾りがクルクル回るのを見...端午の節句は終わったが
喜市は、夏が一番好きだ。川漁師の父親とともに、近くの沼で雑魚や小海老を採り、また、さまざまの仕掛けを使ってライギョやウナギを獲る。きらめく夏の日々は、喜市にとってわくわくする時間の連続であった。昭和二十年代の半ば、喜市が小学五年生になった頃のことである。沼の北西で、事件が起こった。それは新聞に載るほどの出来事ではなかったが、ふだん平穏な生活に慣れている村人に、めったに無い話題を提供した。とりわけ子供たちは、興奮のために夜寝つきが悪くなった。その事件は、彼らの村から林の中を通って沼に至る坂道の途中で起こった。一人の中学生が狂犬に遭遇し、勇敢にも犬を撲殺したのである。犬は灰色の中型犬で、口から涎を流していたという。目は黄色に濁り、坂の上からまっすぐに中学生に向かってきた。中学生は道端に転がっていた棒切れを拾い...思い出の短編小説『狂犬のいた坂道』(1)
〇「ひきこもり」治療とかけて「不親切な役所」とときますそのこころは「窓があるのに(心の)窓が開かない」でしょう〇「生成AI」とかけて「いのしし」とときますそのこころは「暴走すると手に負えない」でしょう〇「村上春樹」のノーベル賞とかけて「大勲位」とときますそのこころは政治が優先されるが「文学としては最高レベル」でしょう新企画『ととのいました』(18)
素封家の新座右衛門には、なかなか跡取り息子ができなかった。二十歳の時に嫁に来た最初の妻は、五年間生活を共にしたが子ができずに離縁した。二度目の嫁も、妊娠はするのだが五か月目を待たずに流産し、二度三度と失敗して自ら実家に出戻った。新座右衛門に子種があることは明らかだから、すべては女の側の問題として片付けられた。三度目の嫁にも子ができないと分かった時、三十五歳を超えて焦りの見える当主は、飼い猫のタマに疑いを持った。人づてに、猫が好きな女は子ができにくいと聞かされたからだ。タマはもともとこの家で飼われている三毛猫だ。最初の結婚のときから新座右衛門の家にいたから、猫好きの嫁が連れて来たというわけではない。それでいて嫁が猫好きに見えるのは、いつの間にかタマがすり寄って甘えるようになるからである。タマには人の心を蕩か...思い出の短編小説『猫』