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財部剣人の館(旧:アヴァンの物語の館) https://blog.goo.ne.jp/avantgarde-october

「マーメイド クロニクルズ〜第三部配信中!」「第一部 神々がダイスを振る刻」幻冬舎より出版中!

財部剣人
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2010/03/19

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  • 第一部 第4章−6 シュリンプとウィンプ

    一九八〇年九月。ナオミはすでに七歳になっていた。つやつやした肌は健康そうに見えた。大きな目が見る者が見ればわかる常人とは違う意思の強さを感じさせた。マーメイドの記憶は断片的でも、使命を持って人間界に送り込まれたことは確信していた。寝床や白昼夢で、時々祖母トーミの声を聞いたからだ。「元気かえ?」「楽しくやってるわ、おばあ様」「姿を見せるのはもう少し待っておくれ。まだ海の底で生きていられるようだ」「会いたいけど、いつまでも生きていてくれた方がうれしいわ」「よろこばせておくれでないか。でも心配はいらない。時間切れがだんだん近づいているようだ」「ナオミは何をすればいいの?」「わたしゃ方向は間違っていても前向きな奴が好きさ。正しいか間違っているか、やってみる前から決められる奴なんているのかい。すべては仲間に出会う時に知れ...第一部第4章−6シュリンプとウィンプ

  • 第一部 第4章−5 一難去って・・・

    夜中近くにもかかわらず電話が鳴った。恐る恐る受話器を取り上げる。「社長、もう大丈夫です。集団起訴を起こした連中が訴えを取り下げると言ってます。被害者全員のむくみがすっかり取れて今までにないすがすがしい気分だと言うんです」あまりの興奮で最初はわからなかったが、電話の主は最後まで残っていた父の代からの忠臣ゴールウィンだった。「それから裏切り者の役員たちと組んで訴えてきたグッテンバーグ弁護士ですが・・・・・・」「ふん、示談でも持ちかけてきたか」話しながらジェフは自信満々だった頃の気分が戻ってくるのを感じていた。「もう示談を持ちかけることは不可能でしょうな。別荘で首をくくっているのが見つかったそうです。遺書が発見されて、裏切り者たちと組んで資料をねつ造したことや起訴を起こした連中にあることないこと吹き込んだと告白したそ...第一部第4章−5一難去って・・・

  • 第一部 第4章−4 赤子と三匹の子犬たち

    ジェフの目はすやすやと眠る赤子に釘付けになった。顔色は青白く死人のようだが唇はつやつやしていた。女だな、彼は直感した。かすかに麝香の香りが辺りに漂っていた。赤ん坊のあやしげな美しさに引きつけられてゆりかごに近づくと彼を睨みつける三匹の子犬を見つけた。毛並みのよいゴールデン・レトリーバーが一匹、あとの二匹は黄色と黒色のラブラドール・レトリーバーだ。彼らこそ魔犬ケルベロスの息子キルベロス、カルベロス、ルルベロスが変化を遂げた姿だった。人なつっこいはずのレトリーバー種の子犬たちが唸りを上げている。「おい、ちびちゃんたち。何もしないったら」ジェフが声をかけても三匹は眠れる森の美女を守る衛兵のように今にも飛びかからんばかりになっている。彼が思わず逃げ出しそうになった時、蒼水晶のような目を持つ赤ん坊がニコリとした。プレイボ...第一部第4章−4赤子と三匹の子犬たち

  • 第一部 第4章−3 冥主との約束

    よく出来たホラー小説では、非日常が日常に入り込む。ドラキュラなら、吸血鬼伯爵がトランシルヴァニアの古城から大都会ロンドンにやってくる。フランケンシュタインなら、天才医学者がつなぎ合わせた遺体が雷の力で動き出す。オオカミ男なら、ルーマニアの銀狼にかまれた男が満月の夜に変身する。だが、これは不自然とか非現実的とかいう次元の話ではない。冥王が時空間の割れ目からニューヨークに現れて、ゲームだから赤ん坊を育てろだと?面倒くさいばかりか、不機嫌な顔も高飛車な調子も、何もかも気に入らない。なにしろ、すでにゲームセットが自分に宣告されているのを認めているのだから。ジェフは、にやりと笑うと窓から身を踊らせた。後は、これまでの人生がフラッシュバックしてジ・エンドのはずだった。しかし、彼の身体は真っ暗な闇に浮かんでいた。摩天楼から直...第一部第4章−3冥主との約束

  • 第一部 第4章−2 選ばれた男

    ジェフには何が起こっているのか皆目見当がつかなかった。目の前の時空間がゆがみ裂け始めていた。星空が消え去って景色が真っ暗になる。バキバキと焚き火に爆竹を投げ込んだような音を立てて裂け目が渦巻き冷たい炎が吹き出す。子どもの頃に絵本で見たファイヤー・ドラゴンが夜空に浮かび上がった。口から紫の煙をあげるドラゴンの背に乗るのは恐ろしく不機嫌な顔をした紅色に燃えたつ髪をした男。(ジェフ、冥界の帝王プルートゥじゃ)彼の頭に強い思念がガンガンこだました。今の今まで自殺を考えていたのも忘れて自分の髪がプルートゥ以上に逆立つのを覚えた。その声にいっぺんの疑いも許さない響きを感じたからだ。(怖ろしいか?怖れずともよい。話がある。悪い話ではないぞ、これを見よ)そういったプルートゥの左手には真紅のマントにつつまれた赤子がいた。(育てる...第一部第4章−2選ばれた男

  • 第一部 第4章−1 冥主、摩天楼に現る

    ある作家が言った。「ニューヨークの摩天楼は成功を象徴する屹立した巨大な男根だ」この比喩に従うなら、十九世紀には巨大船舶、二十世紀にはジャンボジェットに乗って「アメリカの夢」を求めてやってくる移民たちは港に吐き出される大量の精子かも知れない。しかし、彼らは知らない。ほとんどが外に出た瞬間に命を失いせいぜい数億個に一つか二つが生き残る運命なのだ。一九七二年二月二十九日。ニューヨークの摩天楼の中でもひときわ高くそびえ立つ、九十九階建てのヌーヴェルヴァーグ・タワー。全米は言うに及ばず一攫千金を夢見て世界中から集まってきたビジネスマン、ビジネスウーマンたちの最終目的地のひとつ。ヌーヴェルヴァーグ製薬が借り切る最上階フロアの窓から外を眺める一人の男。厳しい製薬業界のサバイバルレースに敗れて人生の舞台の幕を下ろそうとしている...第一部第4章−1冥主、摩天楼に現る

  • 第一部 序章と1〜3章のバックナンバー

    財部剣人です!第三部の完結に向けてがんばっていきますので、どうか乞うご期待!「マーメイドクロニクルズ」第一部神々がダイスを振る刻篇あらすじ深い海の底。海主ネプチュヌスの城では、地球を汚し滅亡させかねない人類絶滅を主張する天主ユピテルと、不干渉を主張する冥主プルートゥの議論が続いていた。今にも議論を打ち切って、神界大戦を始めかねない二人を調停するために、ネプチュヌスは「神々のゲーム」を提案する。マーメイドの娘ナオミがよき人間たちを助けて、地球の運命を救えればよし。悪しき人間たちが勝つようなら、人類は絶滅させられ、すべてはカオスに戻る。しかし、プルートゥの追加提案によって、悪しき人間たちの側にはドラキュラの娘で冥界の神官マクミラがつき、ナオミの助太刀には天使たちがつくことになる。人間界に送り込まれたナオミは、一人の...第一部序章と1〜3章のバックナンバー

  • 第一部 第3章−10

    「自分がどうしても受け入れることが出来ない人間だよ。そんな人間は相手から見たら透明人間さ」「透明人間?」「目の前に存在していてもいないのと同じ。誰かに腹を立てるのは何かを期待してかまってもらいたいと思っているからだよ。でも、透明人間は回りから何も期待されないから腹を立てられることもない。お前だってどうでもいいと思っている人がどうなろうと関係ないだろう?」「誰からも関心を持たれない、俺はそんな奴にだけはなりたくない」「それには心のバランスを取ることが大切さ。でなけりゃ自分で自分を嫌いになっちまう。そんな人間は他人を好きになることも出来ない。でもあまりつらいことがあると、そこまでの力が湧いてこないこともあるさ」「どういうことだい?」「たとえば、ろくでなしに置き去りにされたシングルマザー。おっと、あたしがそれを言っち...第一部第3章−10

  • 第一部 第3章−9 父と娘

    ナオミが育つにつれてケネスは午前中を海で過ごすのが日課になった。彼女が海で泳ぐことを好んだからだ。ナオミが泳ぐ姿は巨大な一匹の魚の優雅さを持っていた。黒髪をゆらゆらと揺らしながら泳ぐのが、ナオミには至福のひと時だった。人混みの中にいてさえ孤独を感じるケネスにとって、ナオミと遊んでいる時だけはすべての生命との一体感を感じられた。ナオミは深い海の底まで泳いでいっては宝探しをし、潮の流れを友人にしては鬼ごっこを楽しんだ。あまりにも海になじんでいるナオミを見て夏海は、シーモンキーとあだ名を付けた。実の子ども以上の愛情を二人はそそぎ、ナオミも二人を実の親以上に愛した。俺のようなやつは子孫をのこしちゃいけねえと20代でパイプカットをしてしまったケネスには子種がなかった。ケネスの母マリアは、ニューヨークで性的虐待を受けた児童...第一部第3章−9父と娘

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