第一部 第5章−3 マウスピークス
一九九一年一月の最終金曜日。ハイスクール最終学年になってもナオミはアイデンティティギャップに悩み続けていた。身長一六六センチ体重四十九キロと体格こそすくすくと育っていたが、人とマーメイドとしての精神の発達はいまだアンバランスだった。頭の中にあったのは考えても答えのでない疑問の数々。人間であるとはいったいどういうこと?生きるって何のため?わたしのマーメイドの心は何のため?こうした疑問は成長するにつれて膨らむばかりだった。さらに、率直な物言いをするアメリカ人の中で暮らしいてさえ「言語」というシステムには苦労させられた。人が言うことと思うことの間には違いがあると知るまで物議をかもし出したのは一度や二度ではなかった。テレパスの存在を確認してみたいならば自殺者リストを調べてみるとよい。悪意に満ちた内面とお愛想の差違にさら...第一部第5章−3マウスピークス
2019/10/28 00:00