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2009/12/01

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  • 中国山地幻視行~立烏帽子山・無情の天気

    中国山地幻視行~立烏帽子山・無情の天気 11月4日、立烏帽子山(1299㍍) 目を疑った。普段はガラガラなのだが、ほぼいっぱいなのだ。こんな光景は、この駐車場では初めて見た。直前に地元紙がこの山の紅葉を小さくだが報じたこと、3連休の最終日であることが影響したのか。山を見上げるとガスが流れていた。風も肌寒い。予報は快晴マークだったが、外れた。でも、山ではよくあること。 車を置き、登り始めた。といっても既に標高1180㍍。山頂まであと標高差120㍍だ。頂は登山路のそばの標識で判別できる程度。見晴らしもよくない。そのまますぎると、紅葉したホツツジが路傍で待ち受ける。立烏帽子から鞍部をへて池の段(1280㍍)へ登り返す。ここはホツツジの名所なのだ。駐車場を埋めた車も、それが目当てである。 残念なことに、ガスがひっきりなしに流れる。ホツツジは今が紅葉の盛りだが、天候が今一つでは映えない。それでも..

  • 中国山地幻視行~恐羅漢山・夏と秋の間

    中国山地幻視行~恐羅漢山・夏と秋の間 9月30日・恐羅漢山 9月も今日で終わりという日、広島県内の最高峰に登った。秋の風を期待してのことだったが、注ぐ陽光は夏そのものだった。スキー場の急こう配を行く。目をやるとススキの白い穂が揺れている。雪のないゲレンデを斜めに白く縁取っている。 森に入る。とたんに風が涼しい。坂も緩くなった。しばらく辛抱すると「恐羅漢山」の大きな標識。山頂の広場だ。周囲の木々は青々として、紅葉の気配はない。終わらぬ夏と見えぬ秋のはざま、妙な季節感だ。遠くの山々は白くかすんでいる。これも秋の風景とは違う。 下りは夏焼のキビレを回った。キビレとはこの地方の言葉で峠、鞍部(コル)のことらしい。くびれがなまったものか、勝手に想像する。 この山に来るといつも思うが、花というものをあまり見かけない。この季節、足元にあるのはアキチョウジ(秋丁子)ぐらい。園芸栽培でもみか..

  • 中国山地幻視行~深入山・秋よ早く来い

    中国山地幻視行~深入山・秋よ早く来い 9月14日、深入山 さすが3連休の初日である。駐車場はかなりの車で埋まっていた。隣のグラウンドはカラフルなテントがいくつか。子供たちの姿が見える。なにかのイベントのようだ。予報では今日も30度を超えるらしい。 登山道に入るとキキョウが2、3輪。例年より少ないようだ。高気温が影響しているのか。急登にかかる。熱風が吹き付ける。汗が止まらない。道が緩くなったころ、ナデシコの花。これも数は少ない。おそらく終わりかけだろう。ススキをバックにオミナエシやフジバカマ。これで秋の七草のうち五つが顔をそろえた。気温は真夏だが、花だけは律儀に秋を装っている。 この山の山頂は、日影がない。照り付ける陽光がたまらず、直下のあずまやで昼食とした。26度。風が涼しい。 サギソウはもう終わっていた。もともと8月の花、仕方ないか。それにしても秋よ、早く来てくれ。..

  • 中国山地幻視行~道後山・朝は快適だったが

    中国山地幻視行~道後山・朝は快適だったが 9月5日、道後山 中国自動車道を1時間走り、山間を抜けた。登山口に近い駐車場に車を置くと、外気温23度。狙い通りである。 9月に入ったとはいえ、猛暑日が続く。今年は特別異常だ。そんなわけで、ここ2か月山から遠ざかっていた。山へ行くにも、この暑さでは…。 そこで目を付けたのが岩樋山(1271㍍)―道後山(1267㍍)縦走コース。外気温の低さの理由は、約1000㍍という駐車場の標高にある。これに朝夕の冷え込みが輪をかけた。さすがに夏も終わりに向かっている。 いきなり樹林帯に入る。朝日が差し込み、いい感じだ。1時間ほどで岩樋山の山頂(なにせ、標高差200㍍余りだ)。フウロやマツムシソウが出迎えてくれる。気温が上がり始めたが、北から吹く風が涼しい。何枚か写真を撮ると、道後山への雲上プロムナードを行く。ここからがいけなかった。 正午近くになると涼風は消..

  • 登山者の心理、精緻に描く~山の図書館

    登山者の心理、精緻に描く~山の図書館 「バリ山行」(松永K三蔵著) 「バリ」はバリエーションルートのこと。我々がこの言葉をよく目にするのはヒマラヤ、日本アルプスなど高山に挑むクライマーが、自らの足跡を残すために選択する場合だ。未登頂の山が減るにつれ、人は新たなバリエーションルートを目指す。しかし、この小説の舞台は六甲山である。低山バリの世界が広がる。 「山を楽しむ」普通の人は、踏み固められた山道を伝って山頂に向かう。線と線をつないで、計画を完遂させる。それとは全く違ったかたちが、この小説にはある。地図の等高線から地形を頭に描き、尾根を上り、谷を下る姿を想像する。次の休日、それを実行する。   建物の外装修繕を専門にする会社に転職して2年、波多は人間関係がやや苦手で、10年ほど勤めた前の会社ではリストラにあった。そんな職場で登山計画が持ち上がった。以前の轍を踏むまいと、波..

  • 中国山地幻視行~大峰山・酔狂がひとり

    中国山地幻視行~大峰山・酔狂がひとり 7月8日、大峰山。 スーパーで昼食を仕入れ、車に乗りかけると話しかけられた。今から登りに行くん? 口調は穏やかだが面白がっているようだ。この暑いのに…? 答えようがないので「そうです」。 予報では平地はどこも35度を超えるらしい。真夏日というやつ。駐車場には「クマ、サル、イノシシ、ヘビが出没」と注意書き。ますます暑苦しくなる。 この日の山は頂上で標高1000㍍ちょっと。単純計算で平地より6度低い。そのことを希望として、登ることにしよう。 登山口付近のアジサイを楽しみ、杉林に入ると日陰が増え、しのぎやすくなった。林間を風が吹き抜ける。歩けそうだ。しかし、頑張らないでおこう。休みたくなったら休む。熱中症が怖い。幸い緑が濃く、山頂まで日陰が続いた。だれにも出会わなかった。こんな日に登る酔狂はいないらしい。 山頂、暑さで靄っているかと..

  • 中国山地幻視行~深入山・風雲急

    中国山地幻視行~深入山・風雲急 6月17日、深入山。 中国自動車道の戸河内ICを降りて深入山へ向かった。梅雨入り前の一仕事である。午後には雨模様と予報が出ていた。その前に下山したい。南登山口から急登にかかる。北からの風が思いのほか強い。雲の流れも早く感じる。風雲急とはこのこと。暑さを予想して、ベストの下は薄いシャツ一枚だ。寒ければレインウエアを着こむか。 山頂。幸い、防寒着は不要だった。周囲の山はかすんでいた。東山魁夷の朦朧体を見るようだ。風は相変わらず強く、後から登ってきたグループは早々に下りた。 この山は、広島県では花の名山である。しかし、端境期にあるらしく目立ったものはなかった。ウツボカズラがわが世の春を謳歌していたが、地味な花である。ササユリは当たり年らしく、林間の下山路を飾っていた。山頂のすぐ下あたり、ウツギ(ヒメウツギ?)が一株だけ咲いていた。ヒメウツギなら平..

  • 中国山地幻視行~烏帽子山・花くたしの雨は近い

    中国山地幻視行~烏帽子山・花くたしの雨は近い 6月1日、烏帽子山(比婆連山) 予報は快晴のはずだったが、周囲の山の中腹は白いガスが流れている。案の定、出雲峠を回って烏帽子山(1225㍍)に着くころ、眺望は望めなかった。それよりも予想外だったのは、小さな羽虫の襲来である。目、鼻、口、耳とあらゆる「穴」から入り込もうとする。息を止めて立ち止まる。酸素欠乏になりそうだ。例年、この事態に備えて蚊取り線香と虫よけスプレーを欠かさないが、まだ6月も始まったばかりと油断した。 烏帽子山から比婆山、池の段と縦走をかける心づもりだったが、天候がいまいちなのと羽虫の襲来で戦意喪失。昼食を食って先をどうするか考えることにした。しかし人間のサガで、腹いっぱいになれば登りをあくせく行こう、などとは思わなくなる。 比婆山中腹のブナ林をトラバース、新緑を楽しんだ後、六ノ原の駐車場へと戻った。烏帽子山の..

  • バラの薫りが~四季・彩時記

    バラの薫りが~四季・彩時記 広島市植物公園は、広島湾の厳島を望む高台にある。快晴の5月29日、訪れた。ちょうどバラが見ごろであった。 ここまで、バラの競演 カルミア オルレア アリウム(ギガンチウム) シモツケソウ

  • 中国山地幻視行~道後山・イワカガミを見に

    中国山地幻視行~道後山・イワカガミを見に 5月14日、道後山。 イワカガミが見ごろ、と思い広島県北に向かった。ところが、目当ての花はぽつりぽつりとしか咲いていなかった。タイミングが早すぎたか、遅すぎたのか。見るとピンクの花弁はくたびれていた。時期を過ぎたのか。だとすれば、これも春先の異常な暖かさのせいか。 この日、列島は高気圧に覆われた。岩樋山(1271㍍)から道後山(1269㍍)へ縦走したが、全行程雲一つない青空が広がった。北東、直線距離で約45㌔に位置する大山も、これまでになくくっきりと見えた。下山路、木漏れ日が揺れて新緑がきれいだった。   岩樋山の山頂手前から、駐車場を望む 岩樋山から、大山を望む 猫山もくっきり 道後山の手前から、大山をアップ 道後山の頂まで、雲上の散歩道 道後山の山頂。雲一つない青空 新緑が輝く イワカガミⅠ イワカガミⅡ ..

  • 中国山地幻視行~船通山・とっくに春は過ぎて

    中国山地幻視行~船通山・とっくに春は過ぎて 5月2日、船通山(鳥取・島根県境)。 久しぶりに船通山のカタクリの花を見たくて、中国自動車道を走った。もう少し早くとも思ったが、渋滞を避けるため連休の谷間で、なお天候の良い日を狙ったらこの日になった。月が替わった昨日は、4月の平均気温が史上最も高かったとメディアが伝えていた。心が焦った。 登山路は暑かった。汗みずくで山頂。気温計は30度近くを指していた。目当てのカタクリは…無残だった。日当たりの良すぎる山頂広場で、例年ならGWの頃まで清楚なたたずまいをみせる花弁はすっかり「日焼け」し、たくましくさえ見えた。花弁を落とし実を付けたのもある。風はすっかり夏だった。それでも名残を追って、カメラに収めた。 この山からは、大山がよく見える。しかしこの日は靄がかかり、姿を確認できなかった。 これも地球温暖化のせいなのか。困ったものだ。..

  • 中国山地幻視行~吉和冠・黄砂のベール

    中国山地幻視行~吉和冠・黄砂のベール 4月18日、吉和冠 山頂で遅めの昼食をとっていると女性の二人組が登ってきた。随分元気そうで、そのあたりを歩き回り、記念写真を撮るとさっさと下りて行った。 以前登ったのは2021年12月半ば。2年と4か月ぶりの山になる。随分きつく感じた。かつては雪山に挑戦したこともあるが、若い女性の二人と比べるまでもなく、老いを実感せざるを得なかった。 この山に登るたび思うのは「ハナのなさ」である。「ハナ」は植物の「花」より「華」が近い。途中で展望はなく、変わった地形にも出会わない。それでも登ってきたのは、森の深さと巨木のたたずまいにひかれてであった。 この日は朝から「黄砂、黄砂」とテレビの予報が叫んでいた。悪い予感がしたが、山頂近く見晴らしのきく崖上に立つと、いやというほど実感させられた。いつも見える十方山、恐羅漢山は黄砂のベールの向こう。その..

  • 中国山地幻視行~恐羅漢山・冬と春の間

    中国山地幻視行~恐羅漢山・冬と春の間 4月1日、恐羅漢山。 駐車場に車を止めると、冷たい風が吹き降りてきた。スキー場のゲレンデ上部に目をやると予想外の残雪。しかし、もう4月。予報は快晴。カンジキは持たず、斜面を登り始めた。 ゲレンデ横の急登も所々で雪に阻まれ、時間を要した。林間を抜け、山頂直下の緩い斜面に入ると、残雪は一面を覆っていた。春の腐った雪。油断すると空洞を踏み抜き、膝上まで埋まる。慎重に足を運んだ。 広島・島根県境、標高1346㍍の山頂は日当たりがよく雪はなかった。大きな岩の上から四方を見渡すと、白くかすんでいる。もやっているのか、それとも黄砂か。木々は新緑には早く、枯れ枝が冬の荒涼を漂わせていた。 昼飯をすますと、下山路の思案。いつもなら夏焼峠を回って帰るが、この日は登りで意外に時間を要した。峠回りも、雪があるのかないのか判断がつきかねた。そんなわけで、登った道を下った。人..

  • 中国山地幻視行~深入山・春ですよ

    中国山地幻視行~深入山・春ですよ 3月18日、深入山。 予報は晴れだったが、北風が強い。気温15度、体感はそれよりかなり低い。タカをくくってごつい防寒着は自宅に置いてきた。登りにとりついたころ、後悔したが遅かった。 息を切らして登るうち、汗ばんできた。止まると汗が冷えるのでそのまま歩くしかなかった。そんなことで、ほぼノンストップで頂上に着いた。具合のいいことに風がやんだ。青い空が高かった。 圧雪のためなぎ倒された草原が再び頭をもたげ、山肌は遠目に猫の丸い背中のように見えた。春近しの光景だ。それにしても、いい天気だ。こんな日に、登山者が誰もいないとはなんという不思議。そういえば、登山口の休憩所も出入り口にベニヤが打ち付けられ、冬の装いのままだった。みなさぁん春ですよ、と叫びたい気分だった。 登山口から見た深入山の全容。ただし、山頂は見えない ひと登りして振り返ると..

  • 中国山地幻視行~大峰山・春まだ浅き

    中国山地幻視行~大峰山・春まだ浅き   2月27日、大峰山。 登山口に車を止め、杉林を抜けて最初の休憩地に着いた。ちらほらと舞う雪を受けて、二つのベンチは長方形に白くかたどられていた。座ってしまうのも惜しく、写真を撮ってザックを置いた。男性が一人おりてきた。「山頂は雪ですか」と声をかけた。「雪です」「でも、午後には解けるかも」とのこと。 座っていると北からの風が、氷の中を抜けてきたかのように冷たい。まだ日差しはなく、見上げた空はどんよりとしていた。たまらず歩き始めた。中間点あたりで、待望の日差しがさし始めた。薄雪をかぶった杉林に陽が当たり、絵画のように美しかった。 山頂から北を眺める。吉和冠は雪をかぶっているようだ。西へ目を転じる。山口県内に端正な三角形の山。莇が岳(1004㍍)であろう。この大峰山が1050㍍だから、ほぼ同じ標高の頂を持つ。南にのうが高原。山頂付近に..

  • 中国山地幻視行~三倉岳・様変わりしていた

    中国山地幻視行~三倉岳・様変わりしていた 三倉岳に登った。いつものAではなくBコースを選択した。青空が広がった2月12日。前回10月の登山で、縦走路のロープが外されていたからである。危険個所として認識されていたのは、中岳から夕陽岳に至るキレットと頂上手前の壁。歩いてみて分かったが、そこが大幅に補修してあった。事故の確率は減ったと思われる半面、フィールドアスレチックの趣となり、山に登る醍醐味は少なくなったともいえる。 しかし、これだけの補修には相当の努力が必要で、かかわった人々の事故を防ぐ・安全第一の気持ちも、当然理解できる。悪態よりまずは感謝をすべきだろう。 ふもとの駐車場に車を置き、A、Bコースの分岐点へ。細かい注意書きが目に付く。体力に応じて引き返すなどしてくださいとある。ここでBコースを選択。あとは急な石段登りが続く。いつもなら、ところどころの壁でクライミングに興じる姿が見られる..

  • 中国山地幻視行~窓が山・いつもと違う道

    中国山地幻視行~窓が山・いつもと違う道 頂上までもうすぐだ。そう思い登山路をたどった。頭上から声がする。だれか降りてくるらしい。つづら折りの道に立っていたのは、かつて職場で一緒だったUさんだった。 窓が山は、いつもなら広島市佐伯区五日市の魚切(南側)から登るが、この日に限って安佐南区沼田の憩いの森(北側)を出発点とした。かつての山仲間が通い、登山道を整備してきたと聞いたからだった。確かに、丸太が整然と埋め込まれた道は階段状になり、歩きやすかった。倒木も見当たらない。活動の成果が出ていた。 実は、この情報を寄せてくれたのがUさんだった。この日は活動を共にするもう一人の男性と一緒だった。10分ほども立ち話をしただろうか。二人は下山、私は頂上を目指した。 窓が山の東峰。誰もいなかった。遥かに広島湾。前日より急激に上がった気温のためか、靄がかかっていた。広場には、ほうきの掃き目が清々しかった。..

  • 中国山地幻視行~厳島・恐る恐る石段を上る

    中国山地幻視行~厳島・恐る恐る石段を上る 昨年暮れ以来、腰痛に悩まされ「風と歩く」も1か月余りブランクが生じた。近くの外科クリニックに通いなんとか好転したので、果たして山登りは可能か、と1月9日厳島の弥山(535㍍)にトライした。 なんだ、500㍍の山か、と馬鹿にしてはいけない。連絡船を降りて海抜ゼロ㍍から。山頂の標高は正味、足で稼がなければならない。いくつかのコース(主要には三つ、ほかにもあるらしい)があるが、私が常用するのは大聖院横から石段を上る登山路。この日、船を降りるといくつかのグループが手ぐすねを引いていたが、大聖院コースを選んだ人はいなかった。そんなわけで前にも後ろにも人のいない山道を悠々と歩いた。 山頂、さすがに人が多かった。特に目についたのは外国人。最近、よく言われる観光ニッポンへのインバウンドであろうか。日本人より多いのでは、と思われた。予報では晴れだったが薄曇り、気..

  • 中国山地幻視行~大峰山・小春日和

    中国山地幻視行~大峰山・小春日和 11月20日、廿日市市と湯来町の境にある大峰山(1050㍍)に登った。我が家から1時間足らず。広島市内から最も近い1000㍍峰だ。朝から快晴、小春日和というやつである。気がかりは2日前に襲来した寒波。東日本だけでなく広島県北にも季節外れの雪をもたらした。大峰山は単独峰で、島根県側からの風を遮るものがない。これまでも予想外の雪に悩まされてきた。 麓から見上げると、山頂付近に雪はなさそうだ。車に積んだアイゼン、カンジキともこの日は用なし。終わりかけの黄葉を横目に、のんびりと(といえば聞こえはいいが、年とともにテンポは落ちるばかり)歩いた。 頭上に青空が広がる山頂から、カスミがかかり展望はきかなかった。気温上昇が影響しているようだ。気温計では12度だが、その割に北から吹く風が冷たい。フリースを一枚着込んだ。 駐車場に帰ると、タンポポが咲いているのに気付いた。..

  • 中国山地幻視行~比婆山群・紅葉の牛曳と毛無

    中国山地幻視行~比婆山群・紅葉の牛曳と毛無 秋口に夏日が続いたため、今年の紅葉のピークは予想がつかなかった。比婆山群に狙いを定め現地にも問い合わせたが、要領を得なかった。最近の天候不安(不順?)は罪深い。考えた末に4,5日遅らせ10月31日、現地に向かった。 時季はどんぴしゃりだった。ただ、寄る年波には勝てず、いつもの牛曳-毛無山縦走はやめ、牛曳は途中まで、毛無は山頂までの紅葉を楽しむことにした。縦走だと時間がかかりすぎるためだ。 牛曳の山すそは、当地では珍しい白樺林があり、紅葉と見事なコラボを見せる。これを楽しんだ後、毛無のゆったりとした登山路を山頂(1144㍍)まで歩いた。コース短縮が功を奏し(?)、山名の通り草原が広がる山頂にはまだ誰もいなかった。ススキが逆光に映えて美しく揺れていた。 帰途は出雲峠を回ったが、道は荒れていた。 秋が燃えるⅠ 秋が燃えるⅡ 秋が燃えるⅢ 秋..

  • 中国山地幻視行~三倉岳・やっぱり秋だ

    中国山地幻視行~三倉岳・やっぱり秋だ 久しぶりに三倉岳に登った。調べたら2月以来。8か月ぶりである。全コース、石段登り。しんどいことこの上ない。この日もあえぎあえぎ、山頂を目指した。 9合目を越えたあたりから様子が変わった。崩れたままだった急斜面が整備してある。旧来の朝日岳~中岳~夕陽岳のコースは封鎖され(それでも通る人は通っていたが)、夕陽岳往復を余儀なくされていたが、なんと通行止めのロープが外してある。看板を読むと、自己責任でコースを選びなさいということのようだ。 夕陽岳の南側にある大岩に陣取り、下界を眺めた。いつもながら、ここからの眺望は最高だ。稲穂は黄色く色づき、刈り取りを待つばかり。上空に広がる空は高い。 次回は、中岳からの縦走コースをとることにしよう。 縦走路のロープが外されている これまでは、こんな感じ(2021年7月撮影) ここからの眺望は最高だ 稲穂は黄色く色..

  • 中国山地幻視行~恐羅漢山・一瞬の秋を満喫

    中国山地幻視行~恐羅漢山・一瞬の秋を満喫 中国大陸から高気圧が張り出した9月24日、広島県の最高峰、恐羅漢山(1346㍍)へ車を走らせた。島根県境に近いスキー場の駐車場に乗り入れると、既に10数台の車。近年にない光景だ。手元の気温計を見ると22度。強めの風が吹く。秋を実感した。 ゲレンデ横の細い道を登る。見上げるとススキの穂が揺れていた。その上に高く青い空。風は冷たいが陽光は夏を思わせる。ストーブとクーラーを同時につけた部屋にいるようだ。だがそれも、日差しを遮る林間に入ると、秋一色になった。 山頂は人であふれていた。岩の上から遠方を望む。気温が下がり風もあるので、遠くまで見える。東方、やや北寄りに高い山。大山だろうか(帰宅後に地図で調べたが、確実なことは分からなかった)。島根県側には発電用の風車の列。 下りは夏焼のキビレを経由。キビレは峠のこと。「くびれ」から来たと思われるが由来は知ら..

  • 「冒険」の意味を問う旅

    「冒険」の意味を問う旅 「裸の大地 第二部 犬橇事始」(角幡唯介著) 古い話になるが、本多勝一著「カナダ・エスキモー」を読んでいて、エスキモー犬に「ヒューマニズム」や愛情は禁物だ、犬橇をひく犬は愛玩対象ではなく労働犬だからだ、というくだりに軽いカルチャーショックを覚えたことがある。半端な愛情をかければ、犬たちは確実にその人間に従わなくなるという。「犬になめられた」状態になるのである。氷点下30度の氷原で犬と生死を共にするための思想が、底流にある。 同じことを一冊の本で全面展開したのが、角幡の「犬橇事始」である。 「冒険とは何か」。これが角幡の永遠のテーマであるようだ。例えば、登山。8000㍍峰全14座登頂を達成したラインホルト・メスナーは「ヒマラヤより高い山に登ることは不可能だし単独行より少人数の遠征などありはしない」と山を断念した。点から点へ、どれだけ早く、どんな方法で..

  • 中国山地幻視行~秋を探しに

    中国山地幻視行~秋を探しに この暑さ、なんとかならないものか。ブログも1か月休んでしまった。暑さで山に登る気がしないためだ。しかし、そろそろ更新しないと世間から忘れられそうだ。考えた挙句、1か月前の山を再登場させることにした。深入山の開放的な尾根筋、風が吹けばなんとかなる。しかし、無風・カンカン照りというリスクもある。そろそろ8月も終わり、前者の可能性に賭けた。 結論を言うと、前者に近い天候だった。「近い」とは…。さわやかな風が吹き抜ける程度なら心地よかったのだが、天気予報は外れ横殴りの強風に見舞われた。しかも雨交じり。広島県の最高峰、恐羅漢山を見やると、分厚い雲が不気味に山頂付近を覆っていた。あの雲がこちらへ来れば…。天気予報を信じ切っていたので、レインウエアは車の中。後悔先に立たず。ザックに付けた気温計は25度を上回ることはなかった。皮肉を込めて言えば、秋を探しに登った..

  • 中国山地幻視行~大峰山・やっぱり夏は暑い

    中国山地幻視行~大峰山・やっぱり夏は暑い 列島を熱中症警戒アラームが駆け巡った7月24日、広島県廿日市・湯来町の境にある大峰山(1050㍍)に登った。暑い盛りに何を考えて、と言われそうだが、昔はよくこの季節に登った。北アルプスなどへ遠征を控えて体調を確認するためだった。 この日、駐車場で気温計を見ると30度。予想より低かったが、別荘地の舗装道では照り返しが厳しい。杉林に入るとほっとした。樹間を抜ける風が心地いい。だが、それもつかの間。昔のようにはいかない。木漏れ日が熱風を運んでくる。汗が滴る。しかし、ここで辛抱すると熱中症が怖い。休憩を取り、水分を補給する。おそらく、いつもの倍ぐらいの時間がかかった。 山頂は岩と濃い緑と夏の雲の競演。いいなあ、山は。でもやっぱり夏は暑い。今度は涼しいときに来よう。 樹間を抜ける風。杉林に入るとホッとする 一部崩落のため回り道。通って..

  • 中国山地幻視行~深入山・久しぶりの晴天

    中国山地幻視行~深入山・久しぶりの晴天 梅雨が明けきらない中、奇跡的に晴天が広がった。7月6日、芸北の深入山(1153㍍)へ。6月ついに山行ゼロ。ここを逃しては長期離脱になるとの思いからだった。 南登山口の駐車場に車を置き、斜面に取り付いた。新緑が目に染みる。気温30度。風があり、暑さは気にならなかった。ツアー客10人ほどが先行していた。 この山は8月になると百花繚乱になる。今は端境期。山道の両側にウツボグサが盛期だが、地味な花である。ササユリは終わりに近かった。風雨にさらされ、花弁は傷ついていた。その中から比較的整ったものをカメラに収めた。風に揺れるギボウシの隣に見かけない花?(写真参照)。登山口の案内所でも聞いたが名前は不明だった。 山頂で周囲の山々を眺めていると「あれは聖湖?」と聞く年配女性。「そう、左が聖山。右が高岳」と説明した。すると「もうすぐ常念へ行くんですよ」と楽しそ..

  • 山岳美と厚みのある人生ドラマ~山の映画館

    山岳美と厚みのある人生ドラマ~山の映画館 「帰れない山」 北イタリアのモンテ・ローザ周辺を背景に、出会った二人の少年の友情、父との確執、生き方の模索が描かれる。「国際的ベストセラー小説」とのことだが、原作は未読。稜線の風景は美しく、かといって背景は美しいがドラマは貧弱…といった、ありがちな山岳映画ではない。一方で、長尺の割にところどころ説明不足の感があるのは、作り手が原作に頼りすぎたせいか。読んでいれば補完され、面白さは倍増したかも。 イタリア・トリノに育ったピエトロ(ルーボ・パルビエロ)は両親とともにモンテ・ローザ山麓グラーノ村で夏を過ごした。そこで牛飼いをしている同い年の少年(12歳?)ブルーノ(クリスティアーノ・サッセッラ)と仲良くなる。ある年、山好きの父ジョヴァンニ(フィリッポ・ティーニ)は二人を連れ、氷河に向かった。途中で村人に「子供連れは危険だよ」と忠告を受けながら…。大きな..

  • 庭の晴れ間に・庭の花~四季・彩時記

    庭の晴れ間に・庭の花~四季・彩時記

  • 中国山地幻視行~道後山・寒気と青空

    中国山地幻視行~道後山・寒気と青空 関東一円の季節が逆戻りしたと報じられた5月23日、中国山地で同じ目にあった。かねて予定していた広島県北・道後山(1269㍍)へ。イワカガミが見ごろ、と目算を立ててのことだった。予報は前夜に崩れるものの当日は晴れと出ていた。 駐車場に車を置き、見上げた岩樋山(1271㍍)の頂上付近はガスに包まれていた。それは秒速で広がり、駐車場まで降りてきた。ぽつりと雨粒。迷ったが、ここまで来て帰るわけにもいかないと思い直し(自宅から片道100㌔以上ある)、身支度を整えた。歩き始めると雨は本格化した。たまらず途中の休憩所でザックカバーをかけ、アウターを着込んだ。泥で滑る山道を慎重に登った。 岩樋山の山頂付近に、目当てのものはあった。時期は外していなかった。そこかしこに小さなピンクの花弁が、競うように開いていた。下を向いて歩いたので気づかなかったが、周囲の山々は相変わら..

  • 中国山地幻視行~船通山・カタクリはまだ咲いているだろうか

    中国山地幻視行~船通山・カタクリはまだ咲いているだろうか 島根・鳥取県境の船通山(1142㍍)に5月9日、向かった。目当てはカタクリの花だった。時期は明らかに失していた。例年なら4月末か5月初め。しかし、今年のGWは悪天続きだった。人出も多く、駐車スペースもないだろう。そんなわけで、時季外れの山歩きとなった。 予報をにらんで決めただけあって、この日の天候は最高だった。中国山地を走る車から見る新緑は輝いていた。 広島県から183号を通り、鳥取県日南町から山腹に入った。予想通り? 車一台いない。駐車スペースは貸し切り状態だった。「熊に注意」の看板を横目に山道に入った。いきなり長い階段状の道。歩幅が調整できずつらい。汗が噴き出る。見上げれば、新緑が美しい。季節は夏間近を思わせた。スプリング・エフェメラル(春の妖精)とも呼ばれるカタクリはまだ咲いているのか。つい不安になった。 頂上直下の急登。..

  • 中国山地幻視行~高岳・沢に転落の一件

    中国山地幻視行~高岳・沢に転落の一件 空は晴れていた。ルンルン気分で杉林を行った。…目の前の光景が、どこか違っていた。 橋がない。いや、橋はあった。真ん中がぽきりと折れ、渡れる状態ではなかった。落ち込んだ中央部に松の倒木があり、これが腐りかけた橋を破壊したに違いなかった。 4月17日、広島・島根県境の高岳(1054㍍)に向かう。 沢沿いをさかのぼり、渡渉地点を探す。かつては橋がなく、こうして渡っていた。最近は石垣などで整備が進み、その分渡るのは困難になった。 それらしい場所を探し、じゃぶじゃぶと渡った。対岸の崖は思ったより軟らかく、登るのに手間取った。 尾根伝いに快適な山道が続く。早春の木々はモノクロのたたずまいだったが、ところどころ淡いピンクの塊が宙に浮いていた。近づいて見ると、アカヤシオのようだった。やがて上りが増え始めると、右手に聖湖面が光って見えた。 山頂は、きれいに刈り込まれ..

  • 中国山地幻視行~恐羅漢山・物語のこちら側

    中国山地幻視行~恐羅漢山・物語のこちら側 中国自動車道の戸河内ICを降りてしばらく、満開の桜の花吹雪をくぐった。しかし、恐羅漢山の駐車場から眺めた景色は冬の色をしていた。荒い息を吐きたどり着いたゲレンデ上部には汚れた雪の塊があった。季節の流れにあらがっているようだった。 標高1346㍍の山頂は冬枯れていた。木々は孤独なたたずまいで春を待っていた。登ってくる人もいない岩陰で昼食をとった。吹き来る風と光だけが次の季節の色をしていた。(4月3日)  スキー場の残雪が、最近までの喧騒を物語る ゲレンデ上部に行くと結構な量 山頂に立つ古木 空は青い 山頂から。正面に臥龍山 冬枯れた林の向こうに島根を望む ゲレンデ上部の風景 正面の林あたりが山頂

  • パッと咲いた今年の桜~四季・彩時記

    パッと咲いた今年の桜~四季・彩時記 今年の桜はじわじわっとでなくパッと咲いた。ある人の弁である。春の来るのが早かったこともあり、唐突感があった。そんなわけで3月28日、慌ただしく広島近郊の中国山地を見て回った。タイミングはぴたり、空は快晴だった。  広島市佐伯区湯来町・湯の山温泉のしだれ桜(通称・竹下桜) 広島県安芸太田町のJR可部線安野駅跡(通称・花の駅公園) ここまで花の駅公園 佐伯区石内の神原しだれ桜

  • 中国山地幻視行~深入山・冬と春の間

    中国山地幻視行~深入山・冬と春の間 3月20日、久しぶりに島根県境近くの深入山(1153㍍)へ向かった。雪も解けているころ、と期待してのことだった。 南登山口の駐車場に車を置いた。案内所はべニア板で冬囲いしたままだった。山は冬枯れの木々が立ち尽くし、草原は勢いを失っていた。手元の気温計を見ると20度は優に越していたが、北から冷たい風が吹き付け、体感温度は低かった。冬ではないが春でもなかった。翌21日は春分の日。 枯れた草原へ足を踏み出した。少し経てば、あたりは新緑でおおわれることだろう。振り向けば、広島県内最高峰・恐羅漢山が雪を頂いて立っていた。半月後あたりに登ってみよう。そのころ、雪は消えているだろうか。 山頂に着くと、しばらくしていくつかのグループが登ってきた。相変わらず北風が冷たかったが、にわかに付近は賑やかになった。一人が小さなドローンを持ってきていた。山頂広場は、飛ばすにはち..

  • 中国山地幻視行~窓が山・虫のごとく斜面を這う

    中国山地幻視行~窓が山・虫のごとく斜面を這う 啓蟄の3月6日、土中から這い出た虫のごとく、急斜面に取り付いた。 窓が山。中央に大きなキレットがあり、ピークを二つ持つ。登頂の楽しみが二度味わえるという良さも持つが、屏風のようにそそり立つ山容。標高は700㍍ほどにすぎないが、魚切からの急登はなかなか手ごわい。そのうえ、最近は奥畑からの中央登山道が人気があるらしく(ピークまで30分ほどで着いてしまう)、1時間半はかかる魚切コースは敬遠されがちのようで、道も荒れている。 登山口を過ぎると、山道はイノシシが掘り返した跡が続く。倒木が行く手をふさぐ。辛抱して登ると、頂上に近くなるほど傾斜が急になる。最後は岩登りである。視界はない。 西峰のピークで一瞬の眺望を楽しんだ後、キレットの底へ向かう。途中、終戦前年のゼロ戦衝突事故の犠牲者を祭る小さな祠の案内板。通るたび、粛然とした思いになる。 鎖場があり、..

  • 中国山地幻視行~三倉岳・冷たい風の向こうに

    中国山地幻視行~三倉岳・冷たい風の向こうに 駐車場で8度だった気温は14度まで上がっていた。空は晴れている。絶好の登山日和と思われた。 2月20日、三倉岳。標高が上がるにつれ、風が強まった。標高といっても、たかだか702㍍の山である。しかし、北からの風は思いのほか冷たい。峠のような9合目まで着くと、尾根渡りの風は頂点に達した。夕陽岳の岩場へ、自然と足が速まった。 風が冷たく強い分、遥かな山なみがくっきりと見えた。山口方面の羅漢山や県北の雪をかぶった峰々が、吹き来る風の向こうに立ち上がっていた。 下り、久々に5合目の大岩に登った。峰の上は見事な青空だった。大岩の下で風の音を聞いた。冷たさは消え、葉の擦れる音が遠い海の波のように聞こえた。 9合目の丁字路。正面からの北風が強まった 夕陽岳の岩場 広島湾方面を望む 右手の山が山口の羅漢山 県北の山は雪をかぶっている(コンデジ、200..

  • 中国山地幻視行~大峰山・雪山再訪

    中国山地幻視行~大峰山・雪山再訪 目の前に現れたのは、12月19日とあまり変わらない光景だった。雪に覆われた階段状の急登。雪の汚れ具合が、降雪以来の日数を物語っていた。あの日、苦汁をなめたのはアイゼンの故障のせいだった。安くもない6本刃は新調した。平地ではこれほどの雪は想定しづらかったが、それでも、と思いザックに忍ばせてきた。 2月4日。気温はまだ氷点下であろう。それを物語るように、雪の切れはしからのしたたりは凍り付いていた。アイゼンを履く。ざくざくと、気持ちよく雪面に刺さる。 山頂の大岩から見上げる空は快晴だった。 下降に移ると、八畳岩の雪上にイノシシらしき足跡を見つけた。断崖の上部から遠くを眺めていたように思えた。足跡を追って広島湾を眺めたが、イノシシらしきものの気持ちはわからなかった。 半分ほど登ると、雪が現れた 凍り付いている 山頂から山口方面を望む 山頂から広島方面を..

  • すべての山から生還した男~山の映画館

    すべての山から生還した男~山の映画館 「人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版」 世界的なクライマーといっていい山野井泰史を、エヴェレスト登頂経験を持つテレビ・ジャーナリスト武石浩明がドキュメンタリーに仕上げた。タイトル「人生クライマー」から、作品は二通りの見方が想定される。一つは、物心ついたころからクライミングのことしか考えてこなかった、そして今生きている、と語るその生きざまを見る。二つ目は、ずばり、世界的なクライマーのメンタル、技術の水準を見る。二つを同時に見ることは可能だが、おそらく(私も含めてだが)、視線の軸足は前者にあると思われる。 簡単に言えばクライマー山野井の足跡を追っているのだが、あるのは栄光と成功ばかりではない。 始まりはマカルー西壁(8463㍍)。ポーランドのヴォイテク・クルティカらが1981年、当時世界最強と言われた3人パーティーを組んで挑んだが7800..

  • 中国山地幻視行~年の初めの厳島

    中国山地幻視行~年の初めの厳島 謹賀新年 昨年末は雪山に敗退したが、気を取り直して厳島へ。いつのころからか、年の初めは厳島と決めている。しかし、もう1月も9日だ。年の初め、などと威張って言うこともないか。 船を降りて向かったのが大鳥居。約70年ぶりの改装を終えたばかりで、巨大な額の金文字も柱の朱色も鮮やかさを増したように見える(実際、そうなのだろう)。神社裏手から大聖院へ回り、石段に取り付く。鐘がゴーンとなった。いつものことだが、展望台までの急登がきつい。ここを過ぎれば傾斜はやや緩やかになる。しばらく我慢すると仁王門にたどり着く。 弥山の山頂直下には大聖院の霊火堂があり、空海ゆかり「消えずの火」がありがたく置かれている。1200年間消えたことがないそうだが、実はこの堂、10数年前に全焼、再建された。その時も火は消えなかったのだろうか。なんとなくもやもやとしている。誰が言い出したか、..

  • 中国山地幻視行~大峰山・ああ、経年劣化

    中国山地幻視行~大峰山・ああ、経年劣化 乗り入れた駐車場はまっさらな雪に覆われていた。轍の跡などなかった。「よしよし」と心の中でつぶやいた。止めた車のタイヤを見ると、3分の1ほど埋まっていた。 西日本を含む列島を強力寒波が襲った12月19日。防寒を周到に整え、歩き出した。別荘地の中を行く。足首まで雪に埋まった。杉林に入った。さらに急登になる。アイゼンを履き、再び歩き出した。違和感。なんと、アイゼンを固定するゴムバンドが両脚とも切れていた。バックル式で締める6本爪を常用しているが、考えてみれば相当期間使っている。経年劣化だろう。しかし、代わりがない。かんじきは車の中だ。この山は頂上に近くなるにつれ傾斜が増し、おまけに階段が多い。かんじきで苦労した記憶があり、アイゼンが最上と判断したのだ。それがこんな壊れ方をするとは…。 仕方なく、滑り止めなしで上がる。雪はどんどん深くなる。スリップによる..

  • 中国山地幻視行~窓ヶ山・青い空と光る海

    中国山地幻視行~窓ヶ山・青い空と光る海 快晴の一日。こんな日を小春日和というのだろう。近くの山から広島湾を眺めたくなり、窓ヶ山(711㍍)に向かった。 11月25日、魚切の登山口。ここには毎年今頃、皇帝ダリアが咲く。作業場らしき建物の敷地内、見上げるような位置に薄紫の花。原産は中米当たりのはずで、もちろん自生ではないだろう。横目に眺めてコンクリートの舗装道を登り、鬱蒼とした林に入った。 この山は、最初は緩くだんだんと急登になる。山頂に近くなると、ほとんど岩場になる。そこまで行くと、なぜこの山にしたのかといつも後悔する。そんな気持ちを押し殺し、あえぎながら山頂につくと、広島湾の展望が眼下に広がる。青い空、光る海。先ほどの後悔はどこかに吹き飛んでいる。現金なものである。 皇帝ダリアが咲いていた 窓ヶ西峰の山頂から。中央右の大きな島が厳島 薄く刷毛で描いたよ..

  • 厳島の紅葉、今がピーク~四季・彩時記

    厳島の紅葉、今がピーク~四季・彩時記 快晴の11月18日、ピークを迎えた厳島の紅葉を楽しみました。約70年ぶりとなる2019年以来の改修工事をほぼ終えた大鳥居も、洋上の足場を除いて囲いが取り払われ、姿を見せていました。足場は27日まで見学用に使われるそうです。   満潮時でもそばに近づけるよう、足場だけ残っています 2020年1月に撮影

  • さすらう冒険行の始まり~山の図書館

    さすらう冒険行の始まり~山の図書館 「裸の大地 第一部 狩りと漂泊」(角幡唯介著) 冒険とは何か。角幡はいつも、こう問いかける。高い山に登ることが冒険なのか。未踏の地に踏みこむことが冒険なのか。確かにこれらは必要な条件かもしれないが十分な条件ではない。例えば角幡は対談・エッセイ集「旅人の表現術」で、こんなことを述べている。 偉大な先達・本多勝一の定義を下敷きにしつつ「冒険とは体制(システム)としての常識や支配的な枠組を外側から揺さぶる行為でなければならない。(略)反逆的な方法で新しい世界に飛び出して可能性の扉を開き、時代の体制(システム)をぶち壊さなくてはならないのだ」―。 その前段として、エベレスト登山が多くの人の目に冒険とは映らなくなった理由を挙げている。「登山の戦略が完全にマニュアル化し、そのマニュアル通りに事を進めることが登頂につながる最大の近道になってしまったのだ」 私..

  • 中国山地幻視行~高岳・黄金の緞帳

    中国山地幻視行~高岳・黄金の緞帳 聖湖畔の道を行く。小さな橋の真ん中あたりに車が止まっていた。頭の中を「?」が駆け巡った。事故だろうか…。近づくと、事情が呑み込めた。入り江に朝日が当たり、湖面に映る紅葉が「絵」を構成していた。さすがに橋の中央で見とれるには気が引け、たもとに車を置き、引き返してシャッターを押した。 11月7日、目当ての山の登山口付近に車を置くと後続車の女性が声をかけてきた。「すごい天気ですね」。「紅葉もちょうど頃合いのようですね」と返した。 広葉樹の中を緩く登る登山道は、陽を浴びて黄金の緞帳のようだった。ついついカメラを向けるのに忙しく、「歩き」がおろそかになった。しかし、1時間もあれば頂につく山である。ほどなく360度展望の広場に出た。 登山口の女性は直後に来た車に同乗、引き返していった。聖山からここ高岳まで縦走をかけたらしい。そのための分散駐車のようだった。若い..

  • 中国山地幻視行~牛曳から毛無へ・紅葉には少し早かった

    中国山地幻視行~牛曳から毛無へ・紅葉には少し早かった そろそろ紅葉の季節、というわけで10月26日、広島県北・比婆連山へ車を飛ばした。ここ数日、天候ははっきりしなかったが、この先3日間は気象庁の保証付きだった。例年なら見ごろのはずだが、山仲間から「今年は紅葉が遅い」の声。若干の危惧を抱きながらの山行だった。 昨年はパスした牛曳山の登山口。この地では珍しい白樺林と紅葉のコラボが楽しめる。足を運ぶと、既に男性が2人、シャッターを切っていた。カメラを構えると、背後を二人連れが登って行った。まずまずの人出だが、紅葉見物にはやはりタイミングが早すぎたか。ところどころ緑が目立ち、紅葉だけをフレームに収めるには工夫がいった。 ひとしきり写真を撮り、頂上(1144㍍)を目指した。目指す地点は展望なく、三差路のような山道に古びた標識が立つだけだ。呼吸を整え、伊良谷山(1149㍍)を目指した。ピークから大..

  • 中国山地幻視行~三倉岳・田は黄色く色づいて

    中国山地幻視行~三倉岳・田は黄色く色づいて 林間を走っていると、フロントガラスにぽつりと雨。予想外の事態に慌てた。予報では、曇りのち晴れだった。駐車場でザックの底を探る。幸い、雨具は持ってきた。 10月11日、三倉岳。階段状の急登の頭上で声がする。それも日本語ではない。おそらく米国人二人。体がごつい。壁に取り付き、楽しんでいるようだ。岩国基地からではないか。ここから山口県境までわずかだ。ようやく9合目までたどりつき、一休みしていると先ほどの二人が追い付いてきた。「モウイイヨ」と笑っている。石段を堪能したようだ。 10分ほどで夕陽岳(西峰)の山頂。足元に広がる栗谷の集落では、田の稲穂が黄色く揺れ、収穫間近を告げていた。いつ来てもここからの眺めは素晴らしい。やがて二人連れも来て、風景を楽しんだのち「ウツクシイネ」と一言、下山していった。心配した雨に降られることはなかった。 夕陽岳の山..

  • 中国山地幻視行~再び台風一過の・大峰山

    中国山地幻視行~再び台風一過の・大峰山 再び台風一過を狙った。ただ、前回とは少し様子が違っていた。気温が急降下していた。おまけに、風速数㍍はあろうかという風が冷たかった。最初の休憩地のベンチで気温計を見ると、17度だった。風を考えると、体感は10度と少しあたりと思われた。汗が冷たく、ウインドブレーカーを着込んだ。 9月21日、大峰山。頂上の大岩には先客がいた。途中の山道には台風の名残か、折れた枝や木の葉が散乱していたが、大岩から見上げた空は見事な秋の空だった。四方の山々や広島湾もきれいに見渡せた。ちなみに、眼下の厳島まで約20㌔、江田島まで約30㌔の位置関係である。 午後の下山時、やっと風がやんだ。路傍を彩る彼岸花は、多くがすでに盛りを過ぎていた。 大峰山頂から西方面を望む。空には秋の雲広島方面を望む。右手に広島湾が広がる 芸北方面を望む。左手とがっ..

  • 中国山地幻視行~道後山・台風一過の縦走路

    中国山地幻視行~道後山・台風一過の縦走路 台風11号は北の海へ抜けた。秋晴れを期待して9月7日、広島県北へと車を走らせた。目当ては岩樋山・道後山縦走である。1271㍍から1268㍍のピークへ、花々が咲くプロムナードである。 午前10時、月見ヶ丘の駐車場に乗り入れる。先行車が1台。思ったより少ない。 1時間かけて岩樋山の頂へ。手前の道でフウロが迎えてくれた。広場に飛び出すと、鮮やかな紫が目に飛び込んだ。トリカブト。猛毒で知られる。足元にリンドウ。標識の周りにはマツムシソウ。夏から秋へ、季節の移り変わりを告げている。 北東を望む。大山がどっしりと座っているはずだ。しかし、厚い雲に覆われ確認できなかった。見上げた空は青く抜けていたが、日本海方面は秋晴れとはいかなかった。 気を取り直して道後山に向かう。道の両側にフウロとマツムシソウが咲き誇る。時折、白い花。ヤマハハコグサである。山頂につく..

  • 中国山地幻視行~深入山・夏の花を見に行く

    中国山地幻視行~深入山・夏の花を見に行く 8月23日、深入山に向かった。夏の花に出会うためである。このところ天候は不順で、この日も曇り予想だったが雨が降らないだけまし、ということで車を走らせた。 現地着午前9時半。曇り、気温32度。風はなく蒸し暑い。先が思いやられた。 キキョウは今が季節だった。山道の両側に、案内人のように並んで咲いていた。時折、ナデシコ。ツリガネニンジンやワレモコウも地味にたたずんでいた。それにしても暑い。 山頂までたどり着き、昼食の時間にしていると、男性が登ってきた。言葉を交わすうち、山頂のすぐ下にあるオレンジの花は何でしょう? と聞く。花のある場所へ行ってみた。鮮やかなオレンジ色の平べったい花弁。吉和冠で見た花だった。その時は名前を調べたが、とっさには思い出せなかった。そのように伝えた。 山頂から南側に回り込む。東屋へ向かう道だ。このあ..

  • 壮大な物語、重量感は今一つ~映画「神々の山嶺」

    壮大な物語、重量感は今一つ~映画「神々の山嶺」 夢枕獏の壮大な冒険小説を、仏映画界が谷口ジローの画で映像化した。阿部寛、岡田准一で2016年に実写映画化された時もそうだったが、今回もどこか緊迫感に欠ける。原作の行間ににじむ冒険行のひりひりした感じがない。今回の仏作品は、特にその感が強い。 ストーリーの骨格はあまりにも有名で、今更紹介することもないが、少しだけ触れる。 主人公は孤高のクライマー羽生丈二。おそらく、谷川岳・一ノ倉沢「三スラの神話」で世に出た森田勝が原作者の頭にあったであろう。もちろん、そのままなぞってはいない。夢枕獏の造形力が存分に発揮されている。羽生の横を通り過ぎたもう一人の登山家がいた。長谷常雄。これはどう見ても、長谷川恒男であろう。美しいクライミングで知られ、商業主義ともよく付き合った。森田とは真反対の人格である。 しかし、夢枕の原作では、長谷は全くのわき役である。羽..

  • 中国山地幻視行~恐羅漢山・深い緑と夏空と

    中国山地幻視行~恐羅漢山・深い緑と夏空と 7月になって1回も山に行っていないことに気が付いた。もう月も終わりだ。計画してこなかったわけではないが、天候不順で流れたのが数回。今夏、酷暑と思えば雨が数日続いた。そんなわけで(どんなわけ?)、大急ぎで山行計画を組んだ。 谷筋は避けた。理由は前回書いた。開放的な尾根筋で風の通りがよいこと。しかし、中国山地にそんな好条件の山がそうそうあるわけではない。熟慮の末(どこかで聞いたフレーズ、自民党議員のよく使うやつ?)、恐羅漢山(1346㍍)に決めた。 7月29日朝、当地は午前中晴れ、午後下り坂で夕刻から雨と予報。まあいいか、と車を走らせた。牛小屋高原の駐車場に車を置く。思ったより風は涼しい。気温計は25度あたり。標高は900㍍を超していた。山頂まで高度差400㍍余。 スキー場のゲレンデ横を直登する。首筋を焼く日差しはさすがにきつい。しかし、木陰に入る..

  • 中国山地幻視行~深入山・夏色

    中国山地幻視行~深入山・夏色の 梅雨が明けた。夏本番である。さて、どこに登るか。歳と共に発想は一元化し、この時期の定番の「あの山」に決まった。 沢や谷伝いの山道か、それとも開放的な尾根筋か。谷沿いだと木々が日差しを遮ってくれる。渓流があれば、多少とも涼しい。難点は風がないこと。湿度も高い。下手をすると角幡唯介の「空白の五マイル」の世界になる。そんなわけで、開けた尾根筋を選んだ。 7月1日、深入山南登山口の駐車場へ車を入れた。誰もいない。予報は猛暑を告げていたし、実際に麓に近い安芸太田町加計では(翌日の新聞が伝えたところでは)最高気温37.4度を記録していた。こんな日に熱中症のリスクをおかす酔狂もいないということだろう。 山道では、ウツボグサが出迎えてくれた。地味なたたずまいだが、今の季節、路傍を彩るのはこの花ぐらいだ。 じりじりと首筋を焼く日差し。なかなか過酷だ。夏草茂る尾根を渡る..

  • 中国山地幻視行~大峰山・梅雨の合間に

    中国山地幻視行~大峰山・梅雨の合間に 大峰山に6月16日、登った。2日前に当地方の梅雨入り宣言が出て直後の晴れ間を狙った。しかし、予報に反して朝から厚い雲が垂れ込めた。 麓の広場に車を入れる。先行車はなかった。気温は20度あたり、湿気がまとわりつく。登山口あたりに白い花。シャクナゲのようだ。自然に生えたものか園芸用か。このあたり別荘地である。判別はつかなかった。 登り始めて気づいた。ときおり弱い日差しがのぞくものの、風がやけに冷たい。その割に高湿のため、汗が噴き出る。メッシュのベストに半袖シャツで家を出たが、途中でもう一枚重ね着する羽目に。 山頂の岩峰に男性2人。周囲を見渡すが曇り空の下、もやって見通しはきかない。湿気のせいか、それとも梅雨期に山に登る酔狂のせいか。心を残して下山にかかると、途端に木漏れ日が山道で揺れた。皮肉なものだ。 登山口付近のシャクナゲ 杉林を抜ける風が冷たい..

  • 中国山地幻視行~三倉岳・すっかり夏山

    中国山地幻視行~三倉岳・すっかり夏山 影が濃くなった。緑は光を反射し、風は熱を帯びている。手元の温度計では、既に27度を超している。すっかり夏の山だ。 6月2日、三倉岳。ひたすら石段登りの山だ。トレーニング目的で何度も登っているので特別な感動はないが、それにしても暑い。少し登っただけで、シャツは既に汗にまみれている。 こうして訪れた岩峰からの眺めは、靄で霞んでいた。風があるのが、わずかな救いだった。 石段に続く石段… 7合目。路肩が崩れ要注意 9合目の稜線に出ると、風が心地よかった 数年前の豪雨禍で、縦走路は通行止め 夕日岳の岩稜から。もやって視界は悪かった 眼下はこんな景色 山口方面を望む。正面は羅漢山 小さな花。シモツケソウに見えるが、自信はない 5合目の大岩。下山途中に登る 辛うじて山頂付近が見えた 登山口から、三倉岳の全容。左から夕日岳、中岳、朝日岳の..

  • 中国山地幻視行~道後山・満開のイワカガミ

     中国山地幻視行~道後山・満開のイワカガミ   鳥取県境に近い道後山(1269㍍)を5月21日、訪れた。イワカガミの可憐な花を見るためだった。 予報では曇りのち晴れだったが、夕方まで空が晴れることはなかった。予想外だったのは冷たい強風が吹き付けることだった。シャツを一枚重ね着して出発した。 岩樋山(1271㍍)の山頂付近、イワカガミは無数といっていいほど咲いていた。しかし小さな、地味な花である。目を凝らさなければ見過ごしてしまいそうだった。それは、道後山の頂までの縦走路で続いていた。 風は相変わらず強かった。昼食は風裏を求めて山頂下に退避するほどだった。いつも北東方向に見える大山は低い雲に隠れていた。 右下眼下に出発点の月見が丘駐車場。正面左は猫山岩樋山山頂。右は道後山への縦走路の中間点となるピーク道後山への最後の登り道後山の頂。大山は見えなかった縦走路は快適な笹原が広がる<咲..

  • 中国山地幻視行~船通山・冷雨にたたられ

    中国山地幻視行~船通山・冷雨にたたられ 広島から北東へ直線距離で100㌔余り、島根・鳥取県境にある船通山(1143㍍)に向かった。5月2日。目当ては山頂に咲くカタクリの花である。5年ぶりのことである。 登山口に車を置くと張り紙が目に入った。「山崩れ危険」とある。不吉な予感。登り始めてすぐ大きな倒木が道をふさいでいた。それほど古くはないようだ。慎重にのっこす。「危険」を予測させるものはこれだけだった。道は二股に分かれ、健脚(直登)コースと一般コースを示す標識。トシを考え、迷わず「一般」へ。 このコースは、整備は行き届いているが、その分階段が多い。歩幅が制限されるのが嫌で、端っこの斜面を歩くが、それもままならないことが多い。 …などと不満を漏らしていると、ぽつりと雨。おいおい、と少し慌てる。自宅を出る前に入念に天気予報は確認した。島根、鳥取、広島の予報を突き合わせ、すべて晴れマークだったの..

  • 中国山地幻視行~高岳・清楚な花と快適な尾根道

    中国山地幻視行~高岳・清楚な花と快適な尾根道 尾根を歩くのにいい季節になった。庭に注ぐ陽光を見ていると、家にくすぶっているのがもったいない気がしてくる。どこかいい場所はないかと頭を巡らし、広島・島根県境の高岳(1054㍍、広島県北広島町)に向かった。4月22日のことである。 空に雲一つなかった。風は冷たくもなく暑くもなく。聖湖畔の路肩に車を置き、登山道に分け入った。小さな沢にかかる木橋を渡ると、うっそうとした杉林が広がった。急登をしばらく我慢すると快適な尾根道が続いた。 両側の林にピンクの花。ヤマツツジであろう。緩いアップダウンを繰り返すうち、急斜面の先に青空が見えた。さすがに汗が滴る。開けた山頂に飛び出した。光あふれる空の下、西中国山地の山々が出迎えてくれた。眼下に聖湖、北東に臥龍山、南東に深入山。ほぼ南の方向に聖山と恐羅漢山が望める。360度の展望である。 登りでは気付かなかっ..

  • 中国山地幻視行~恐羅漢山・まつりのあと

    中国山地幻視行~恐羅漢山・まつりのあと 広島県の最高峰・恐羅漢山(1346㍍、広島県安芸太田町)に4月8日、登った。残雪が心配だったが、連日の好天で消えているだろうと根拠のない予測のもとに出発した。 果たして、ゲレンデには白い帯のように雪が伸びていた。さすが県内有数の豪雪地帯である(だからスキー場もあるのだが)。 雪のないゲレンデの端っこを登ったが、最上部でついにつかまった。つま先をけりこみ、乗り切ったところで早い休憩をとった。 林間に入ると雪は消えた。このまま頂上まで行けるかな、と思っていたら直下で再び残雪。日当たりはよかったが、この山で最も雪の多いあたりである。そのためであろう。 山頂は日差しが降り注ぎ、暑いほどであった。ザックの寒暖計を見ると25度近くになっていた。 帰途は夏焼峠を経由し、三角形のコースをとるつもりで途中まで下りたが、残雪が深く時間がかかりそうだったので引き返し、..

  • 爛漫の桜~四季・彩時記

    爛漫の桜~四季・彩時記 4月4日、好天の中国山地をめぐった。 桜の樹の下には屍体が埋まっている―とは梶井基次郎の言葉だが、満開の桜は私たちの情念を揺さぶる何かがありそれほど美しい、という事実を文学的に表現しているように思う。果たして爛漫の桜は、裏切ることはなかった。 広島・湯来町のしだれ桜 広島・湯来町のしだれ桜 旧可部線安野駅(通称花の駅) 旧可部線安野駅(通称花の駅) 旧可部線安野駅(通称花の駅) 旧可部線安野駅(通称花の駅) 旧可部線安野駅(通称花の駅) 五日市・神原のしだれ桜

  • 中国山地幻視行~深入山・冬から春へ

    中国山地幻視行~深入山・冬から春へ 前日、麓の施設へ電話した。 「雪はまだありますか」 「あっ、雪ですか。ほとんどなくなりました」 「いつもより早めですね」 「この2、3日ですよ。好天続きで急に」 「上の方は?」 「登ってないので、分かりません」 そんな事前情報をもとに3月16日、深入山(広島県安芸太田町、1153㍍)に登った。念のためアイゼンは持った。 駐車場に車を入れる。隣接の休憩所は硝子戸の前面にベニヤ板を張ったまま、営業はまだのようだった。 南登山口から見上げたヤマは春の様相だった。点在する小さな雪原が冬の名残りを思わせた。少し登ると、北から強い風。仰いだ空は雲一つなく、出がけにチェックした予報の「快晴」マークそのものだった。振り返れば県の最高峰、恐羅漢山が望めた。雪の残るゲレンデが帯のように伸びていた。 突然現れた小さな雪原を越えて山頂を踏んだ。 下山にかかり、北側の林道コー..

  • 中国山地幻視行~窓が山・思わぬ残雪

    中国山地幻視行~窓が山・思わぬ残雪 2月25日、広島市近郊の窓が山(711㍍)に登った。山道は残雪に覆われていた。予報はこの日、久々の二ケタ気温を告げていた。そのため、雪上を歩くことはまったく予想しなかった。むろん、アイゼンも携行していなかった。 7合目まで登ると、雪は一段と深くなった。頂上近くまで来ると、雪のついた岩場は慎重な歩行が必要だった。なんとか西峰の頂に着き、おんな岩(この命名には多少抵抗があるが)でランチとした。日の当たる岩に雪はなく、見上げた空に雲はなかった。海岸線の明るい風景が、眼下に広がっていた。 この山は山頂部に巨大なキレットを持ち、したがってピークが二つある。西峰から東峰へと向かった。雪の積もった急な下りは、さらなる慎重さが求められた。アイゼンがあれば時間短縮になったが、後悔先に立たず、である。 東峰は広い山頂を持つ(標高は西峰の方が高い)。暖かい日差しを受け寝転..

  • 中国山地幻視行~大峰山・山頂には大きな看板が

    かすんでかさなって山がふるさと(山頭火)

  • 中国山地幻視行~三倉岳・冷気は一段と厳しく

    かすんでかさなって山がふるさと(山頭火)

  • 追悼・笹本稜平さん

    かすんでかさなって山がふるさと(山頭火)

  • 中国山地幻視行~年の初めの厳島

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  • 中国山地幻視行~吉和冠・冬の予兆

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  • 中国山地幻視行~白木山・地蔵さんを撮る

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  • 四季・彩時記~厳島の紅葉

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  • 中国山地幻視行~高岳・晩秋の風情

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  • 自然との一体化を目指す~山の図書館

    かすんでかさなって山がふるさと(山頭火)

  • 中国山地幻視行~比婆連山・紅葉は今一つ

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  • 中国山地幻視行~窓が山・夏を引きずって

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  • 中国山地幻視行~大峰山・風は秋の色をして

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  • 中国山地幻視行~深入山・山道に人の列

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  • 中国山地幻視行~道後山・花を見にいく

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  • 中国山地幻視行~不運に不運が重なって・恐羅漢山

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  • 中国山地幻視行~三倉岳・酷暑の山頂

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  • 中国山地幻視行~深入山・夏草茂る

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  • 中国山地幻視行~道後山・雲上の散歩道を満喫

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  • 中国山地幻視行~比婆連山・イワカガミとウツギ

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  • 四季・彩時記~入梅のころ

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  • 中国山地幻視行~吉和冠・道は荒れていた

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  • 中国山地幻視行~寂地山・なんとか間に合った

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  • 中国山地幻視行~恐羅漢山・季節が迷子になった日

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  • さくら 今咲き誇る~四季・彩時記

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  • 中国山地幻視行~大峰山・桜と板チョコ

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  • 中国山地幻視行~深入山・残雪のころ

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  • 中国山地幻視行~三倉岳・風雲急を告げる

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  • 中国山地幻視行~窓が山・麗らかな日差しを浴びて

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  • 中国山地幻視行~大峰山・雪の山頂

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  • 中国山地幻視行~三倉岳・こんなはずでは

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  • 歴史ミステリーと山岳ノンフィクションの味わい~山の図書館

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  • 中国山地幻視行~深入山・晩秋を登る

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  • 炎のごとく~四季・彩時記

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  • 中国山地幻視行~白木山・天高く

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  • 中国山地幻視行~比婆連山・祝祭の時

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  • 中国山地幻視行~窓が山・キレットを渡る

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  • 中国山地幻視行~三倉岳・空は青く高く

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  • 中国山地幻視行~恐羅漢山・秋の日の

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  • ヘッドウォールは越えられるのか~山の図書館

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