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その後の数回のパーティーではカップリングできなかった。 相手があってのことなので、こちらの都合だけで状況は動いてくれない。 そこで、奇抜なアイデアというわけではないが、場所を変えてみようと思った。 まだ一度も参加したことがないラウンジ。 その一つが上野だった。 エリア「上野」で検索すると、次の土曜の希望時間帯にひとつあった。 テーマはたしか「自然体でいられる関係」的なもの。 正直なところ、普段ならあまりそそられる語感ではないが、何かを変えたい時にはむしろ好ましい選択に思えた。 変化という点では、自分のプロフィールにも変更を加える。 これまでの参加経験で、女性の趣味に「旅行」が多いことを学んでい…
上野ラウンジに到着。 受付を済ませて、席に案内される。 時間に余裕を持たせてあるのは、初めての場所で道順が不安だったから、という理由だけではない。 パーティー開始前に参加女性全員のプロフィールに目を通す。 それが第一の目的だ。 プロフィールから明らかになることも、確かにあるのだ。 ここである程度目標を絞って、かといってそれだけには囚われず、席を回遊する。 鳥の目と、虫の目と、魚の目を持って。 早めに到着するもうひとつの理由は、パーティー開始前の時間を使って、相席した人と仲良くなれる好機だから。 これは初回参加で恩恵を被って以降、意識してきたことだが、隣の人が自分と同じように早めに会場に来なかっ…
上野ラウンジに到着。 受付を済ませて、席に案内される。 時間に余裕を持たせてあるのは、初めての場所で道順が不安だったから、という理由だけではない。 パーティー開始前に参加女性全員のプロフィールに目を通す。 それが第一の目的だ。 プロフィールから明らかになることも、確かにあるのだ。 ここである程度目標を絞って、かといってそれだけには囚われず、席を回遊する。 鳥の目と、虫の目と、魚の目を持って。 早めに到着するもうひとつの理由は、パーティー開始前の時間を使って、相席した人と仲良くなれる好機だから。 これは初回参加で恩恵を被って以降、意識してきたことだが、隣の人が自分と同じように早めに会場に来なかっ…
この回の参加女性は12名だった。 9人ほどとトークタイムを終えた時点で、Dさん以外、いいなと思えた女性はいない。 自分のこだわりは緩めたはずなのに…… 勝手にそう思っているだけで、実際にはたいして基準を変えたり下げたりできていないのだろう。 長年のこだわりを捨て去ることは難しいのだ。 それでも気を取り直し、「こんにちは!」と笑顔をつくって次の席に入っていく。 それを残りの席数だけ繰り返してから、最初の席に戻った。 「戻りました」 「おかえりなさい」 優しく応じてくれるDさん。 「おかえりなさい」の言葉に、僕は気恥ずかしくなると同時に、ぎゅっと心を掴まれたような心地になった。 いい奥さんになるん…
まずはいいなアピールの送信。 その相手として、まっさきに隣に座っているDさんを選ぶ。 他の人はどうしようかな…… カップリング自体が目的ならば、ここは多くの人に送っておくべきだ。 アピールがマッチした二人は、互いに良い印象を持っていることがタブレット越しに共通認識として芽生え、カップリングに前進する確率が高くなる。 そもそもDさんからアピールをもらえるとは限らないし、Dさんを含む複数人からもらえた場合は、Dさんを第一希望にしてカップル希望を出せばいいだけだ。 仮に第二、第三希望の人とカップリングしたって、それはそれで喜ばしい。 カップリングする興奮を味わって、すぐにその人との再会が待っている。…
いいなアピールを送信して、その結果が出るまでしばし時間が空く。 Dさんに話しかけたかったが、そこは遠慮しておいた。 もし僕へいいなアピールをくれていたら、なんとなく嬉し恥ずかしだし、もらっていなければ、ちょっとカッコ悪い。 好意を持たれていると勘違いして声を弾ませても、相手にとっては迷惑でしかないだろう。 ちょっと気にしすぎかな、とも思うが、初対面の相手になかなか見栄は捨てられないものだ。 時間を潰すようにグラスに残っているお茶を喉に流し込んだ時、いいなアピールの結果が出たことを場内アナウンスが告げた。 意識して冷静さを保ち、タブレットの画面を更新する。 ……あった。 Dさんからいいなマークが…
「お待たせしました! 結果出ましたので、お手元のタブレットをご確認下さい!」 小さく一息ついてから、司会者の言葉に従って画面を更新する。 カップリングするぞ! と気張っていたせいか、普段よりも緊張していた。 すると…… 一瞬、画面が光ったかと思うと、すぐに文字が飛び込んできた。 「おめでとうございます! カップリング成立しました!」 ……よし! ついにきたよ! カップル希望は一人にしか出してないから、相手は自ずと知れた。 でもこんな時って……どうするのが一番いいのかな。 まずはお礼? それとも「下で待ってます」と一言だけの方が、妙な気を遣わなくてお互い楽かな…… そんなことが頭の中を駆け巡る。…
会場の入っている百貨店の玄関口でDさんを待つ。 通常の場合、会場を先に出るのは個室の廊下側に座っている男性の方だ。 女性は全ての男性が出た後で出口に向かうので、姿を現すまでにそれなりの時間がかかる。 さて、この後どこに行こうかな…… 時間は午後三時。 昼食は済んでるだろうから、お茶がいいか。 そして、肝心の話題は…… Dさんのプロフィールを思い出しながら、ふと辺りを見ると、自分と同じようにカップリング相手を待つ人が数人いた。 中には同じパーティーから出てきた男性もいて、はて、相手はどの女性かな? と思わずニヤッとしてしまう。 あのパーティーでの一番の美人さんはDさんだったけど…… そんなくだら…
Dさんと並んで歩きつつ、カフェを探した。 いくつか心当たりはあったが、土曜の夕方ということで、混雑が予想される。 「どこも混んでるかもしれませんね」 「そうですね」 「お茶で大丈夫ですか? 食事でしたら少し歩けば知ってますけど」 「あ、お茶でいいです。そんなに時間もないので」 駅前の繁華街だけにカフェや喫茶店は数多くあり、選ばなければ入れる店はあるだろう。 少し歩いたところで、通りに面した喫茶店の窓から店内の空席が見えた。 「ここでいいですか?」 「はい」 お洒落とは言い難い店構えだったが、「そんなに時間もないので」というDさんの言葉が、店を選ぶ難易度を下げてくれていた。 そして、その言葉が軽…
運ばれてきた飲み物に口をつける。 僕はアイスコーヒーで、Dさんはアイスティー。 ストローでミルクを掻き回しながら、同時に頭の中も高速で回転させる。 わかっているのは猫好きだということ。 「猫、飼ってるんですか?」 当たり障りのないことを訊いて、次の話題を捻り出すための時間を稼ぐ。 ペットの次は仕事関係が無難だろう。 たしか職業欄には「一般事務」と書かれていた。 漠然とした記載にしてあるのは、なにか理由があってのことか。 ① あまり突っ込まれたくないから ② 単純に特徴の薄い仕事だから 「実家では飼ってましたけど、今はいないです。飼いたいんですけど」 「今、一人暮らしなんですか?」 「ええ。まだ…
「私はまあまあです。忙しいですか?」 「たまに残業があって、遅くなったりします。あまりしないようにしてるんだけど、上司がしてるとどうしても」 「私もです」 この話題もたいして盛り上がりそうになかった。 こちらの職種や業務内容を具体的に話して、なにか質問でもしてくれればと思ったが、大きな反応はない。 まだしも「昇給しますか?」くらい訊いてくれた方が、笑えるシチュエーションになるのに。 ……もしかして、僕に興味がない? いや、少なくとも今の段階でそれはないはずだ。 35歳で婚活パーティーに参加する女性。 そこでカップリングした相手とお茶をしている。 その目的は相手の情報収集に他ならないはずで。 つ…
関連する話題で多少話した後、これ以上、Dさんに無理をさせるのも悪いと思って、「時間、まだ大丈夫ですか?」と尋ねた。 彼女が「そんなに時間もないので」と言っていたのを利用したのだ。 口にしてから、この問いかけは少し強引というか強制力が強すぎて、彼女に対して申し訳ない気持ちが湧いてくる。 このような場面で「時間は大丈夫か」と帰りを促されて、まだ話したいことがあったとしても、そうと告げられる女性は少ないだろう。 そのあたりの形式がわかっているから、お互い笑顔にはなれる。 そして、席を立つ前に、形式がもう一つ。 「もしよかったらLINE交換しませんか?」 これも断ることが難しい問いかけだが、訊く方もな…
婚活パーティーでマッチング、食事の支払いは男性。ですが・・・
普段は婚活パーティーに参加した体験談を小説風に書いてますが、たまには関連トピックについても投稿したいと思います。 今回は、婚活パーティーでマッチング後の食事の支払いに対する、女性のお礼の言葉、について。 要約すると、ささやかな一言が女性としてのあなたの株を上げる、です。 実際の経験をもとに、おすすめの言葉とその理由を書いていきたいと思います。 お支払いは男性。代わりに女性は? まず、食事の支払いは男性。 これは共通認識だと思います(とりわけ初回)。 僕もカップリングした女性とパーティー後に食事に行ったら、全て払ってきました。 私、払います、とすら言われたことがありません(笑) もしかすると女性…
山手線の内回りに揺られながら、窓の外を眺めた。 隣にはDさんが立っているけど、初めのころのような緊張感はなく、過ぎてゆく時間もいい意味でゆるやかに感じられる。 日差しの眩しさに目を背けた拍子に、彼女の水色のペディキュアが目に入った。 綺麗ですね、と言いそうになって、それはやめておく。 マニキュアやネイルアートと違って、直截的な言及を控えさせる何かがあったから。 誰かに見せるのではなく、むしろ自分のために綺麗にしておいた。 そんな感じ。 彼女が乗り換えのために電車を降りるまで、あと二駅に迫っていた。 「パーティーはよく行くんですか?」 普通なら訊きにくい質問が、驚くほど自然に出てくる。 午後から…
そのうち停車駅を告げる車内アナウンスが始まって、電車のスピードも落ちていく。 Dさんが降りるまで、あと10秒くらい。 「次ですよね」 「はい」 「今日はありがとうございました」 「こちらこそありがとうございました。楽しかったです」 最後の「楽しかったです」は僕が最初に言うべきだったかもしれない。 そう思ってすぐに「僕も楽しかったです」と付け加えたが、なんだか後出しじゃんけんみたいで不格好だった。 「あとでLINEしますね」 「はい」 「気を付けて帰って下さい」 「駅でちょっと買い物していくので」 「甘いものも買うんですか?」 「バレました?」 その台詞を口にした時のDさんの挑戦的な表情が、一番…
電車を乗り換えて、運よく席に座ることができた。 そこでもう一度、疲れた頭を働かせる。 今後の道筋をつけるためにも、今日の出来事を振り返っておこう。 第一の目的はカップリングすること。 これは達成。 第二の目的はその相手とパーティーの外で時間を共有すること。 これも達成。 その時間で二人の関係を進展させるための手がかりらしきものを得られたかどうか。 ……不明。 相手をより深く知ることはできたが、付き合ってみたいというレベルに達するほどの高波はやってこなかった。 今よりもっと多くの時間を共に過ごせば、徐々にでも高まってくるのだろうか。 そんな気配くらいはあっただろうか。 もう一度会いたいな、とは思…
「雨、大丈夫でしたか? 通り雨かもしれませんけど」 雨? 天気はよかったはずだけど。 振り向いて窓を覗くが、濡れた模様はない。 彼女の言うように通り雨かなんかで、局所的なものだったのだろう。 メッセージの次に、傘をさすヒヨコ?の姿が愛らしいスタンプが送られてきた。 「こっちは降らなかったみたいです。同じ東京でも違うものですね」 微笑みながらそう打つと、今度は別の動物をモチーフにした「ラッキー」のスタンプが届く。 可愛いところもあるんだな、と思っていると、駅で電車が停車して、乗客が乗り込んできた。 一瞬、雨の匂いを感じ取った。 Dさんのいるあたりから移動してきたのかな…… そんな感傷ともつかない…
帰宅して、やっと一息つけたのは21時を回ってからだった。 PCに向かうと、半ば無意識のうちにParty Partyのサイトを訪れて、新たなパーティー情報に目を通していく。 たとえ気持ちの半分がDさんに残っていても、残りの半分が次の出会いを求めている。 一見、節操ないように見えても、この活動をしている人たちにとってはある意味当たり前であることを、この時点での参加回数を二桁に乗せている僕は知っていた。 なにも予備を準備しておくとかの話ではない。 今という時間が大切なだけだ。 パーティー会場で出会った多くの女性たちは、あからさまに口にはしなくても、差し迫った思いに駆られて足を運んできている。 その種…
その日、僕は新宿のパーティー会場に向かっていた。 夏本番少し前の、清涼感を残した風。 電車のつり革をつかみながら、もう片方の手でスマホを操作し、場所を確認する。 新宿にはパーティー会場が複数あって、今回は西口。 その西口のビルでもたくさんのパーティーが行われている。 この時はまだ無頓着だったが、新宿ラウンジでは定期的により大人数のパーティーがあって、頻繁に参加することになるのは半年ほどたってからの話だ。 それでも今回の募集人数も男女各16人ほどで、それなりの規模だろう。 やることはもうルーティーンになっている。 早めに席について参加女性のプロフィールを確認しつつ、相席の人と軽いトーク。 この日…
婚活パーティーへの参加が長引く原因として、よく「高望み」が挙げられています。 わかりみ深いですね(笑) たくさんの異性との出会いが待っている婚活パーティーでは、ついつい選り好みしがち。 参加したパーティーにいい人がいなければ、次のパーティーに期待して。 「次で、もっと高く」を繰り返すうち、身も心もお財布も疲弊して、婚活そのものが嫌になってしまう…… 残念ながらよくあるお話です。 それでは婚活パーティーでは理想を追い求めたりしないで、お手頃な相手とマッチングしていくのがよいのでしょうか? 個人的には、同調しかねます。 たくさんの異性と出会える婚活パ―ティーだからこそ、「高望み」が醍醐味。 そう考…
「こんにちは」 「はじめまして」 7番の個室に入って、オーソドックスなやりとりが始まる。 たまに、挨拶をするより早く相手の女性から特殊な反応をもらうことがあるが、実はこれはいい兆候で、その人なりに興味を示してくれている証拠になる。 その場で特に気付いたことがあったり、僕のプロフィールからなにかしら感じ取っている場合だ。 こちらがそうであるように、女性側だって事前に参加者のプロフィールをよく見ているのだ。 ここでは普通の挨拶から始まったので、その後の会話をリードするのは僕の役目。 「舞台お好きなんですね」 「ええ」 「最近観た中で、面白かったのはありますか?」 予定通りの順序で話を進めると、「最…
いよいよ12番の個室だ。 事前にプロフィールを見た段階でいいなと思っていた2人のうちの1人。 もう1人の7番さんは手応えが皆無だったし、他の席の人にも特に惹かれなかった。 12番の後にも13、14、15、16と4人残っているが、なんとなく期待できない。 当たりだといいな…… ガチャを引く時のような心境で中に入った。 「こんにちは」 12番のEさんは、同じ言葉を返しつつ、お辞儀をしてくれた。 でもそれは、挨拶をしたというよりも、視線が合うのを避けた感じ。 笑顔が少し引きつっていて、頬も赤みを帯びている。 一見して、慣れてないのがわかった。 32歳という、相手の僕よりもけっこうな年下であることも、…
今回は少し真面目な題材について書きたいと思います。 たいした知見はありませんが、現下の難局にあって、自分ができることをしたいという一心で。 まず…… 人との出会いが遠慮されるのがコロナ渦。 人との出会いを求めて行動するのが婚活。 残念ながら、両者は相容れないものです。 ではどちらを優先させるかといえば、当然、コロナ渦の状況を踏まえての自粛になるでしょう。 つまり婚活はしばしのお休み。 ……なのですが。 家族と同居している方ならまだしも、一人暮らしで婚活をされていた方は、たった一人きりで、いつ終わるとも知れないSTAY HOMEを余儀なくされます。 これは想像以上に辛いことです。 まるでこの世に…
「どんなスイーツが好きですか?」 Eさんの「はい」に引きずられるように、思わず的を得ない問いかけをしてしまった。 「えっと、洋菓子とか和菓子とか。いろいろありますよね」 慌ててフォローを入れると、彼女は「どっちも好きだけど、洋菓子を選ぶことが多いです」と満更でもなさそうに続ける。 「毎日、コンビニスイーツ買って食べてます」 恥ずかしがりながらも微笑む彼女に、この話題を選んだ自分を褒めたくなった。 ここでのトークタイムは数分しかないのだから、この話題で突っ切って、好感度を高めてカップリングを目指そう。 そう心に決めて、話を進める。 「あ、一緒です。僕も甘いの好きなんですけど、どちらかというと洋菓…
最初の個室に戻って、手早く隣の女性に挨拶を済ませると、タブレットに目を走らせた。 いいなアピール受付までの少しの時間を使って、Eさんのプロフィールを再確認するためだ。 カップリングして再会した後、どこかに移った場合に備えて、話題をストックしておく。 フフ、我ながら気の早いことだ。 自嘲に駆られはするが、実際問題として、彼女のデータを記憶しておけるのは今しかない。 プロフィールにしっかり書かれてあることを後からもう一度訊いてしまうと、時として大きな失点になる。 ネットショップ店員、あ、ランニングもやってて、お住まいは埼玉。出身地は…… 「お待たせしました! いいなアピールの送信をお願いします!」…
なにかまずったかな。 天を仰ぎたい気分だった。 いや、むしろ時間を巻き戻して、トークタイムをもう一度―― できるわけもなく、肩を落とすしかない。 楽しく会話して、盛り上がったはずなのに。 カップリング後の計画まで練っていた自分が恥ずかしく、恨めしい。 「それでは続いてカップル希望の提出をお願いします! カップリングしたからといって、それが直ちに交際を意味するわけではなく――」 すっかり当てがなくなってしまった僕は、虚しさを持て余してそのアナウンスを聞いていた。 いいなアピールをくれた人に送ってみようかな…… そんな邪心が芽生える。 忙しく画面をスクロールして、いいなアピールをくれた6人のプロフ…
……マジか? もう一度、画面を見直すが、間違いなくEさんとカップリングしている。 いいなアピールがなくて、一段飛びでのカップリング成立。 う~む。 Eさんにどんな心境の変化が起こったのだろう。 あるとすれば、僕からのいいなアピールを見て、その気になったとか。 あるいは、元々がいいなアピールをくれた人にカップル希望を出す主義なのかもしれない。 自分がいいなアピールを出した出さなかったにかかわらず…… 推論は尽きないが、ひとつ確かなのは、当然といえば当然だが、彼女もカップリングしたかったということだ。 一応、僕もその候補に入れてもらったらしく、多少なりとも縁があって今回カップリングした。 そんなと…
一階ロビーの玄関手前でEさんを待つ。 パーティーが終わって帰っていく人に、これから参加するために入ってくる人。 人通りはそこそこある。 エレベータ―が着く度に、出てくる人々を観察して、それを5回ほど繰り返した後、Eさんが現れた。 こんにちは、も変なので、ただ笑顔をつくって彼女を迎える。 「えっと、どうしましょう。時間、大丈夫ですか?」 「あ、はい。大丈夫です」 「お昼過ぎですけど、ランチでも行きますか?」 「じゃあ軽いので」 彼女のリクエストに沿うよう、近場のカジュアルなイタリアン店に向かった。 席に着くと、おすすめパスタのサラダセットを2つ注文して、先に運ばれてきた飲み物に口をつける。 「後…
ランチも半分くらい終えた頃には、スイーツネタも尽きかけていた。 パーティー中のトークタイムからここまで、ずいぶんお世話になった。 ありがとう、スイーツ。 次のネタはもちろん仕込み済みだ。 スイーツネタから自然な流れで、話題転換を図る。 「そういえば職場ではおやつを食べづらいって言ってましたけど、ネットショップの店員さんでしたっけ?」 「そうですよー」 「そのへん、あまり詳しくないんですけど、ネット専門のお店ですか?」 「うちは実店舗もあって、そこのネット部門です」 「あぁ、なるほど。だったらITにお強いんですね」 「実はそうでもなくて、周りの人たちに教わりながら、なんとか」 「その周りの人たち…
職場の話が一段落して、次の話題に移らないと、と思っていると、後から頼んでおいたデザートが運ばれてきた。 実のところ、職場の話題はあまり盛り上がらず、次の話題は何にしようかと、多少、焦っていたところだったので、助け舟を出してもらった感じになった。 とはいえ、猶予の時間は短い。 店員さんがデザートをテーブルの上に並べ、それを食べ始めるまでのわずかな時間で、適当な話題をチョイスしなければならない。 無言のデザートタイムなんて拷問だから…… そう思いつつも、直前に感じた疑問が消えずに残っている。 それは、僕の職業だったり職場について、たいして関心を示さなかったことだ。 年収だったらプロフィールに記載し…
忍君は、大学2年生で珈琲と出会います。あまりにその珈琲がおいしすぎて、珈琲にのめりこみます。珈琲屋さんで、バリスタの修業を始めました。朝一番電車で出かけて、終…
名画ですね。グラントリノは1973年製のビンテッジカーです。妻を亡くした彼は、変人で頑固なじーさんです。ベトナム戦争に行き、一杯殺して悪夢に悩んでいます。ひょ…
年末にやっていました。思わず見てしまいました。テーマ曲が悲しくて,哀しくて・・・イタリアからロシアに出兵した男・・・雪で行き倒れて、ロシア人の女性に助けられ暮…
高校3年生で、石原慎太郎さんとご結婚されました。幼馴染だったみたいですね。新婚旅行中に芥川賞を受賞し、熱海に置き去りにされたようです。夫の帰りを待って妻は玄関…
「そういえばランニングが趣味なんですか」 そう言ってから僕は、ちょっとまずかったかな、と思った。 さっきEさんが「でも最近、太ってきちゃって」と顔を赤らめたことを思い出したからだ。 ダイエットの一環としてランニングをしているのかもしれない―― 彼女の答えは、悪い予想が当たってしまった。 「矛盾してるけど。甘いもの食べた後に走って、また食べるって。悪循環」 「それはそれで健康的な気も」 埒もないことを言ってしまって、「どこを走るんですか?」と慌てて繕う。 「皇居ランとか?」 「本格的なのじゃなくて、家の近所を」 「公園まで行ったりですか?」 「そうです。散歩かも」 「ははは……」 この話題はこれ…
「結婚……そうですよね。したいですよね」 「したいです」 「パーティーではいい人に出会えませんでしたか?」 出会えていたら今日のパーティーに来てないだろ、と自分につっこみつつも、やはり気になるところで。 「そうですね、ちょっと男運、悪いかも」 またまた強力なフレーズ。 男運が悪い。 どのように悪いのだろう。 つっこみたい。 根掘り葉掘り。 これまでどんな男性を相手に、どんな恋愛をしてきたのか。 案外パーティーに通い始めたのも何か決定的な出来事があったからかもしれない。 相手の男が浮気して壮絶な修羅場を迎えたとか。 実は浮気したのは自分の方で、しかも不倫で、相手の奥さんが乗り込んできたとか。 い…
二人して、照れたような、可笑しいような、そんな仕草で視線を交わし合う。 「うまく行きませんね」 「本当に。結婚したいのに」 諦めにも似た笑みを漏らすEさんだったが、結婚、と自ら口にした彼女からは、俄然、強い「女」の気配が伝わってきた。 それは色気にも近いが、もっと現実的で、いい男をつかまえて結婚して子供を産み育ててよりよい老後を迎える、というような希望というか気迫がこもっている空気。 匂いまでしてきそうだ。 そんな彼女が魅力的に思えた一方で、結婚を重く捉えがちであることを自覚している僕は、内心、たじろぐ。 本気のEさんを受け止められるだろうか。 そこまで彼女のことを想えるだろうか。 お付き合い…
自宅へ帰る路線が違うので、Eさんとは駅で別れた。 まだ午後の盛りも始まったばかりで、新宿まで出てきたのに直帰するのはもったいなく感じて、デパートに立ち寄って買い物でもすることにした。 Eさんのおかげで今日の午後に開催される別のパーティーへ参加する必要がなくなった分、無駄遣いできる。 おしゃれな夏服でも買っておこう。 そう思って駅ビルのエスカレーターに向かい、乗る前に脇のスペースに入って、スマホを開く。 お礼は早い方がいいだろう。 「今日はありがとうございました。楽しい時間が過ごせました。気を付けてお帰り下さいね」 可愛いスタンプを添えて、Eさんに簡単なメッセージを送る。 彼女と別れる際、どこか…
Eさんからの返信はすぐに来た。 駅ビルの紳士服コーナーで半袖シャツを見る手をとめ、スマホを確認する。 「こちらこそ楽しかったです。よろしくお願いします」 これまた簡単なメッセージだった。 「よろしくお願いします」のところに先への示唆を読めなくもないが、たんなる社交辞令と解釈できなくもない。 間合いを取りつつ、探っていこう…… そう思った僕は、「こちらこそよろしくです。またメールしますね!」とだけ返した。 残りの週末は所用を済ませて、次にメッセージを送ったのは週明けの職場から。 おやつのコンビニスイーツを食べながらLINEを打つ。 「またファミマのスイーツ食べてます」 返信は夜になってからで、「…
連絡が途絶えていく中で、どうしたんだろ、とは思わなかった。 Eさんが乗り気になれなかっただけだ。 残念ではあるけれど、想定済みの展開の一つ。 そう割り切れる程度には、冷静でいられた。 特定の話題からレベルを下げて一般的な話題に切り替えると、Eさんもそれに合わせるようにより一般的な話題で返してくる。 そこにはもうデート云々のかけらもないし、落ちてしまったレベルは二度と上がらない。 次第に日常的な話題も尽きてきて、やりとりの頻度はさらに下がって…… 引き際だった。 「暑い日が続くから体調に気をつけて下さいね」 僕は最後になんとも無味乾燥なメッセージを送った。 そして、今回のことを考える。 Eさんが…
婚活パーティーは条件無視! フィーリングで突っ走っていいんじゃない?
婚活の仕方はいくつもあって、どう進めるかも人それぞれ。 結婚相談所を利用したり、アプリを使ったり、親による代理婚活まで。 そして多くの場合、「条件」を重視します。 たとえば婚活アプリの場合、理想の条件で検索をかけて、ヒットした順に目を通していく。 というのが通常の流れ。 しかし…… これを婚活パーティーにまで持ち込んでしまう人がいます。 トークタイムで対面して、好印象を得てもなお、いざマッチングの希望提出となって一人悩むのです。 でも学歴が、職種が、年収が、年齢が……あと少し、と。 これは婚活パーティーのメリットを自ら潰してしまう、非常にもったいない行為だと思います。 婚活パーティーでは条件に…
057. 婚活パーティー 真夏の新宿ラウンジをハシゴして(1)
とりあえず回数をこなそう。 出会いの確率を上げるにはそれしかない。 真夏の日差しを真っ向から受けながら、新宿駅東南口下のエスカレーターを下っていく。 目指す場所は新宿南口ラウンジ。 初めての会場で、少し迷ってしまった。 結局、駅の改札を出てから20分ほど彷徨った後、11時ぎりぎりでなんとか到着した。 パーティーのテーマはたしか、「高身長で自慢の旦那様」どうこうだったと記憶している。 僕は特に身長が高いわけではないけど、なんとか基準を満たしていたので、参加してみることにした。 心の中では、このパーティーに参加する女性は当然、高身長男性を求めているに違いなく、基準すれすれの僕では見向きもされないだ…
このパーティーの参加人数は8人だった。 これまでは12人くらいのパーティーを選んでいたので、ちょっと少なく感じる。 その分、一人当たりのトークタイムは長くなるとのこと。 「今日も暑いですね」 パーティー開始まで時間がないので、相席の女性にもこのくらいしか言えない。 「ええ。本当に暑いですね」 そういってハンカチを頬に当てる8番さんは、たしかに暑さに参っているようで、呼吸が浅く感じられた。 グラスもすでに空になっているのに気付き、自分の分もあるので、と言って、彼女のグラスにおかわりを注いで持ってくる。 ここのドリンクはセルフサービスだった。 「ありがとうございます」 「いえ、でもこれからたくさん…
059. 婚活パーティー 真夏の新宿ラウンジをハシゴして(3)
相席した8番さんのプロフィールに素早く目を通していくが、これといって気にかかるものはなかった。 平凡というか、あっさり。 プロフィールへの記載を重視していないのだろう。 そう思ったのは8番さんも同じようで、僕のプロフィールに特に興味を持てなかったせいか、なにかを口に出そうとする気配はしてくるものの、実際に言葉は出てこなかった。 それでも僕は、こんな場面での会話の紡ぎ方くらいは心得ていたので、小さな事柄から多少は関心を引けるくらいの話にまで広げていく。 「お仕事は……販売員さん、ですね。忙しいですか?」 「今、人が少なくて、残業とか多めです」 「大変ですね。サービス業だったら、休日は週末とは限ら…
061. 婚活パーティー 真夏の新宿ラウンジをハシゴして(5)
次に入ったのは7番の個室。 今日の最後の部屋になる。 3番さんと同じく、プロフィール的に興味を持った女性だった。 7番さんはうつむき加減で話をするため、全体の輪郭をつかめず、表情も読み取りにくい。 それでも会話自体は楽しくて、こちらのちょっとした言葉付きにもすぐに反応してくれる。 トークタイムの相手としては非常にありがたいタイプだ。 頭の回転が速くて、気遣い上手。 そんな好印象を受けつつも、ちらっと見えた飾り気のない素顔を、どうしてもさっきの3番さんと比べてしまう。 足して2で割ったら完璧だな…… とんでもない自己中なことを考えつつ、そんなことはおくびにも出さずに7番さんとの会話を楽しんでいる…
060. 婚活パーティー 真夏の新宿ラウンジをハシゴして(4)
ちょっと身なりを整えてから、3番の個室に入る。 ざっとプロフィールに目を通した限り、今日の参加者の中で一番の好みだった。 「こんにちは」 挨拶をしつつ3番さんの横顔を盗み見ると、プロフィールではわからなかった外見も、見事にタイプだった。 よし! 頑張らなきゃ! と内心で気合を入れる。 といってもそれが表に出てしまっては相手が引きかねないので、気持ちを落ち着かせて、差し障りのないペットの話題から軽く始める。 動物が好きで飼っている、という共通点も、プロフィールを見た段階で高感度が上がった理由の1つだった。 「ワンちゃん、いま、何歳ですか?」 「ちょうど10歳です」 「だんだんおじいさんですね」 …
062. 婚活パーティー 真夏の新宿ラウンジをハシゴして(6)
最初の個室に戻ると、すぐにいいなアピールの送信時間になった。 スマホをいじって、まずは3番さんを選ぶ。 トークタイムでの手ごたえは皆無。 反応はないだろう。 そうと断定できるほどなのに、まっさきに選んでしまう。 いつもはネチネチ悩むのに。 やっぱり外見の好みは強いよね…… 次は直前の7番さん。 形容しがたい感触に、後ろ髪を引かれる思い。 付き合いたいという明確な意思は生まれてないけど、もう一度会って、お茶でもしたいという希望はある。 いいなアピールを送るには十分すぎる理由だ。 3番さんに続き、7番さんも選ぶ。 そして最後に…… 何気ない風を装って横に視線を移す。 パーティー開始前よりは落ち着い…
063. 婚活パーティー 真夏の新宿ラウンジをハシゴして(7)
「いいなアピールの結果でました! 続いてカップル希望の送信をお願いします!」 アナウンスが流れて、スマホの画面を更新する。 届いたハートマークは3つ。 その相手を確認すると…… 7番さん、8番さん、それに2番さん。 やっぱり3番さんはないか…… 予想通りとはいえ、少し残念。 2番さんはあまり憶えてない。 そして7番さんと8番さん。 ここが悩みどころだった。 仮にこちらがこの2人にカップル希望を出したとしても、向こうが出してくれるとは限らないし、むしろ一般的に言えばその可能性は高くないので、出してしまえばいいのだ。 出して、カップリングしたら、その流れに乗ってしまえばいい。 それが楽だし自然だと…
064. 婚活パーティー 真夏の新宿ラウンジをハシゴして(8)
迷いから解放されるために7番さんと8番さんにはカップル希望を出さなかったけど、ちゃっかり3番さんには出していた。 ダメ元は悩まなくていいから最高に楽、それでもしカップリングしたら超ラッキー、という具合。 その上、連絡先は条件なく希望の人に送れるので、これも3番さんに送る。 他人がみたらやけくそにも見えるだろう。 多少の自覚もある。 そしてカップル希望の結果が出て…… 「今回はカップリングが成立しませんでした。ですが……」 2名の方からカップル希望が届いていました、と続いていた。 2名…… そこはかとなく罪悪感が満ちてくる。 例によってそれが誰かは記されていないが、今回は見当がついた。 そのうち…
新宿で3つのパーティーをはしごした翌日から、僕は体調を崩した。 原因はわかっている。 あの日、3つめのパーティーまでの時間潰しで立ち寄ったマンガ喫茶のエアコン。 おそらく掃除をしてなくて、ハウスダストのアレルギーが反応したのだ。 鼻をぐちゅぐちゅさせて、息苦しさを覚えながら考える。 世間は夏休みで、会社もそろそろお盆休みだ。 夏でも一番暑い時期。 パーティーは開催されるけど、無理に行くこともないだろう。 思えばパーティーにも週3ペースで通い詰め、その疲れも出ているのかもしれない。 心と身体を休ませるいい機会かな。 たまには遠くに遊びに行ってゆっくり温泉にでも…… 結局、アレルギーが収まるまでひ…
065. 婚活パーティー 真夏の新宿ラウンジをハシゴして(9)
炎天下の新宿の人ごみの中を、食事処を求めて歩いた。 ランチ営業をしているお店はたくさんあったけど、男一人ではちょっと気が引けて。 暑さからかさほど食欲もなかったし、チェーンのサンドイッチ屋さんで済ますことにした。 涼しい店内の席について、一息つく。 さっきのパーティーは…… 参加してよかったと思う。 しんみりもしたけど、タイプと思える女性もいた。 実際にもっと多くの時間を過ごすと、その人とはうまくやっていけないことがわかったとしても、自分の好みという最初の段階をクリアしてくれる女性と出会えたことは、とても貴重だ。 面倒すぎて嫌になる自分の性質。 チャンスはもらったと思える。 さて、次のパーティ…
066. 婚活パーティー 真夏の新宿ラウンジをハシゴして(10)
結果として、次の「結婚前向き」パーティーでいい出会いはなかった。 自分にとってもそうだけど、もらったいいなアピールが少なかったことを思えば、参加女性にとっても僕は望ましい相手ではなかったということで、多少の申し訳なさを感じる。 参加女性にとって、男性参加者枠のひとつを潰してしまったことになるから。 でも実際、そこまで考えてたら参加できないよな…… そんなことを思いながら、時間を潰せる場所を探して新宿の街中を歩く。 急遽追加したパーティーは同じ新宿西口ラウンドで開催される18時開始のパーティーだ。 ゆうゆう3時間はある。 カフェに3時間滞在する勇気はないな…… そこでスマホを検索して、マンガ喫茶…
067. 婚活パーティー 真夏の新宿ラウンジをハシゴして(11)
その日最後のパーティーは、「婚姻歴理解者」のテーマがついていた。 男女とも、×歴所有者の参加が予想される。 僕は未婚だったけど、相手女性の経歴は気にならない。 「今」のその人を偏見なしでみれる、というのが、なにかとこだわりがちな僕のせめてもの長所かもしれない。 その一方で、ひとつだけ条件があった。 お子様がいないこと。 これを書いている2021年時点では別の観点を持っているが、当時は無理だと思っていた。 正直にいうと、元々が子供が苦手で、どうしても欲しいというわけではない。 他人の子となれば、なおさら自信がなくて、それ以前にピンとこなかった。 加えて、その子の目にも母親の交際相手の男は微妙に映…
068. 婚活パーティー 真夏の新宿ラウンジをハシゴして(12)
どのパーティーでも男女問わず数人の遅刻はあったりするけど、最初の個室で当たったのは初めてだった。 開始前の時間が一人きりなのは、相席の女性と仲良くなれる機会がなくなってちょっと残念だな、くらいは思うけど、その分、他の参加者のプロフィールをじっくり見るなど、手持ち無沙汰になることはない。 しかし、一旦パーティーが始まると、最初のトークタイムの相手は相席した人なので、一人目が不在ということになる。 こんな場合、どうなるんだろう? そう思っていたら、スタッフの方がやってきて、お相手様はまだ会場に到着していません、なので最初のトークタイムが終わるまではここにいて、終わり次第、次の席にお移り下さい、女性…
069. 婚活パーティー 真夏の新宿ラウンジをハシゴして(13)
パーティーも半分ほど終わって、僕は10番の部屋へと向かう。 その時点でトークタイムを一緒した女性は、良くも悪くもプロフィール通りという印象。 男性がそうであるように、女性もそれなりに年齢を重ねると、軸がぶれないというか、振り幅が小さくなってくるのだろう。 「こんにちは」 「こんにちは」 笑顔で迎えてくれた10番さんは、気立ての良さそうな美人さんだった。 年齢は年上の45歳。 バツ1であることはわかっているが、その理由が妙に気になってしまうほどに綺麗だった。 男から三行半を突き付けられたってことはなさそうだな。 勝手な空想の中でもつい贔屓してしまう。 離婚の原因は……なんて質問から会話を始めるわ…
070. 婚活パーティー 真夏の新宿ラウンジをハシゴして(14)
「お子さん、おいくつなんですか?」 「高校生」 「もう大きいんですね」 真ん中をとって高校2年とすれば大体17歳で、10番さんが45歳だから、28歳のときの子供になる。 ごくごく普通のことだろう。 むしろ少しでも驚いた自分の方が幼くて、ずいぶん甘ったるい時間を過ごして来たのだと思い知らさせるようだ。 世間並の経験値がない。 薄々は気付いていたけど、少しの恐怖と恥ずかしさが込み上げてきた。 「早く自立したいって言ってるから、好きにさせて、私もそうしようかなって」 それで再婚ですか、と口に出そうになって、やめた。 婚活パーティーに来ている以上、それは訊くまでもないことで、これまでの苦労とこの先の不…
071. 婚活パーティー 真夏の新宿ラウンジをハシゴして(15)
相席の女性がいない最初の個室に戻って、静かにタブレットをいじる。 結局、隣の女性は欠席だったようで、計11名と話した。 気持ちが揺れたのは10番さんひとり。 その他、楽しく会話してくれた4名の人にいいなアピールを押した。 この頃になると、いいなアピールを重く考えることはなく、楽しく話ができた人にお礼の意味を込めて、気軽に送信するようになっていた。 さて、肝心の10番さんだけど…… アピールはいいとして、問題はその後。 カップル希望をどうするか。 出したとして、彼女が出してくれなかったらそれでいい。 寂しいけど、様々な理由を言い訳にして諦めもつく。 なにより彼女にはお子さんがいて…… そうこうし…
072. 婚活パーティー 真夏の新宿ラウンジをハシゴして(16)
「お待たせしました! カップル希望の結果でました! お手元のタブレットをご確認下さい!」 多少の緊張を感じながら、タブレットを更新する。 「今回はカップリングが成立しませんでした。」 ……そうか。 カップリングはなし。 10番さんからもらえなかった…… ほっとしたような気持がなかったといえば嘘になるが、迷いがあったにせよ僕はカップル希望を送ったのだから、彼女からもらえなかったのは失望が大きい。 やはり僕が幼く見えたのだろう。 年齢がどうこう以上に、ひとりの男性として。 自覚があるからなおさら堪えた。 このパーティーでも、マッチングと関係なしに気になった女性に事務局を通して連絡先を伝えることがで…
パーティー情報を眺めていると、「オタクパーティー」なるものが目に入る。 そういうパーティーがあるのは知っていたが、自分には縁のないものだとたいして気にとめてなかった。 ちょっと興味が引かれてクリックしてみる。 「オタクだっていいじゃない。アニメ・ゲーム好き集まれ!」 こんな宣伝文が現れた。 う~ん。 熱心なファンではないけど、嫌いってわけじゃない。 ゲームは年で1、2本だけど、映画やドラマが好きなことからアニメは比較的観ている方だと思う。 話題作になれば映画館にも出かける。 1ヵ月の休み明けだし、軽く参加できそうで悪くないかな…… 問題なのは参加する女性のタイプだった。 当然、オタクな女子が来…
池袋ラウンジに着くと、受付でいつものタブレットの他にシートを渡され、記入を勧められた。 好きなアニメと推しキャラを書く、というもの。 詳細は憶えてないが、他にも記入事項があったような。 正直、困った。 僕が好きで観ていたのは新海監督の「君の名は。」といった一般的にも広く受け入れられているようなアニメ。 同じヒットアニメでも、例えば視聴者層が夕方や深夜枠に固定されているようなタイプのものではなかった。 これ書かなきゃ嘘になるよな…… まずったかな、と5番の個室の中でペンを回していると、相席であろう女性がやってきた。 「あ、すみません」 通路側の席に座っている僕が、その女性が奥の席に進めるように一…
いつも婚活パーティーの体験談をお読みいただき、ありがとうございます。 たまに婚活パーティーに関してちょっと知りたいことがあるのだけど、とのお言葉をいただきますので、電話でお話できるサービスを始めてみました。 有料ですが、思ってたのと違うな、と感じましたら、すぐに通話を切っていただいて構いません。 パーティー全般のことから恋バナまで、なにかお役に立つことができれば幸いです。 下記リンクから、お気軽にご利用下さればと思います。 よろしくお願い致します。 婚活パーティーのあれこれアドバイスします 91回の個室式婚活パーティーへの参加経験者 !function(d,s,id){var js,fjs=d…
5番さんの可愛らしい声が、アニメ好きという一面といかにもマッチしているように思えて、微笑ましくなった。 「たくさんあって迷ってるんですか?」 「はい、好きなのたくさんあって。もう書きましたか?」 「いいえ。実は最近、ちょっとアニメから遠ざかってて」 少しごまかして話すと、「お仕事が忙しいんですか?」と、これまた可愛らしく訊いてきた。 彼女にすれば「アニメ好き」は当たり前のことで、そこを疑う気持ちは生まれないらしい。 このパーティーの趣旨からいっても異質なのは僕の方で、申し訳なさを感じると同時に、フォローしなければと思った。 「仕事もそうですけど、ゲームやってて、時間が」 「わかります。睡眠時間…
その後のトークタイムも順調にこなした。 ジブリ作品のおかげで。 パーティー参加の目的が本来のものからちょっとずれてしまっているのを感じながらも、これはこれで楽しく、いよいよ社会勉強の趣を帯びてきた。 異なる文化圏に触れる旅。 次はどんなオタク女子かな? 多少の余裕すら持ち始めた僕は、鼻歌でも歌い出しそうな勢いで4番の個室に入る。 本日最後のトークタイムだ。 「こんにちはー」 そこで待っていたのは…… 切れ長の目が特徴的な美人さん。 「こんにちは」 最初の5番さんとは対照的な、冷ややかな声で迎えられた。 突き放すような素っ気なさに、長い髪が微かに波打つ。 背筋はすっと伸び、首元の白い肌が見え隠れ…
……虫の居所でも悪いのかな。 それともプロフィールの段階から僕に興味がなくて…… 「他に好きなアニメとかゲームはありますか?」 「アニメはたまに観ますけど、ゲームはあまり」 「ジブリ作品はどうですか?」 アニメネタはしつこいかな、と思いつつも、別のネタをこしらえるまでの時間稼ぎのつもりで訊いてみる。 すると4番さんは「あの」と前置きしてから、予想外のことを口にした。 「私、このパーティーがそういうテーマってのはわかってましたけど、特にオタクってわけじゃないし、もっと軽い気持ちで……」 苛立ちが含んでいる声を聞いて、得心した。 おそらく彼女は、ちょっと興味が引かれて試すくらいのつもりで参加したの…
最初の個室に戻るとすぐに、いいなアピールの受付が始まった。 愛想よくジブリの話に付き合ってくれた隣の5番さんをまずはポチっと。 次は…… やはり仲良く会話できた数人を選ぶ。 その中には僕があまりオタク系のアニメに通じてないとわかった上で、話を合わせてくれた人もいたに違いない。 そして…… 4番さんで指がとまった。 もし次の機会を得られたら、オタク的でない話題で盛り上がれるかもしれない。 先ほどの様子からすると、カップリングの可能性は極めて低いけど…… 様子を探るつもりで、4番さんもポチって、いいなアピールの送信を完了する。 「趣味の合う人はいましたか?」 結果が出るまでの合間に、5番さんに話し…
やっぱりな、としか感想が出てこない。 でもこれで、こちらが好意を持っていることは伝わったはず。 万にひとつの奇跡を求めて、4番さんをカップル希望の相手に選ぶ。 そして5番さんは…… ちらっと横を見ると、興奮気味に喜ぶ姿。 意中の人からいいなアピールをもらって、カップリングへの期待を高めているのだろう。 それでいい。 彼女に執着してるわけじゃない僕は、4番さんだけを選んだまま、カップル希望を送信した。 今日はダメかな。 まぁ社会見学できたしよしとしよう。 諦めの心境になりかけた時、カップル希望の結果を知らせるアナウンスが流れた。 タブレットを確認すると、すかさず「成立せず」の文字が現れる。 お隣…
前回の池袋でのオタクパーティーで失敗した僕は、少しむしゃくしゃした気持ちで次のパーティーを探していた。 社会勉強という点で得るところはあったけど、やはり5000円払って参加したからには、せめて誰かとカップリングしてお茶くらいはしたかった、と今更ながらに考える。 それでこそ知見が広がるというもの…… 妙な欲が湧いてきたところで目にとまったのが、「憧れの職業」を謳ったパーティーだった。 人気職業の女性と出会うチャンス。 場所は渋谷ラウンジ。 男性側の参加条件は…… それなりに厳しいが、なんとかクリアしている。 正直、セレブな雰囲気にためらいを感じた。 男性にとっての女性の人気職業といえば、自ずと想…
その日、渋谷は雨だった。 JR渋谷駅からほど近いカフェで遅いランチを取りながら、時間を確認する。 今日のパーティー開始は15時で、まだ1時間ほどある。 あえて早めに家を出てここで食事しているのは、パーティー会場付近のカフェを下調べするため。 最近めっきり渋谷に来る機会が減っていた僕は、カップリング後の移動先を見つける必要を感じていた。 せっかくカップリングしても行く当てがなければ困ってしまうし、雨の日ならなおさら、当てを求めて女性を連れ回すわけにはいかない。 幸い、この店の雰囲気はほどよく落ち着いていて、大人の男女が雑談するのに問題なさそうだ。 カップリングしたらここに来よう。 パーティーは1…
いつも婚活パーティーの体験談をお読みいただき、ありがとうございます。 先日、婚活パーティーに関する電話相談を始めた旨、お知らせしましたが、今度は婚活パーティーに限らず、恋愛一般についてもご相談に乗ったり、お話を聞けたらと思って、類似の電話サービスを開始しました。 有料ですが、思ってたのと違うな、と感じましたら、すぐに通話を切っていただいて構いません。 愚痴も聞きますし、なにかお役に立てれば幸いです。 下記リンクから、お気軽にご利用下さればと思います。 よろしくお願い致します。 恋愛研究家が恋愛相談承ります 幅広い知識と経験で恋愛サポート、なにげない恋バナも !function(d,s,id){…
このパーティーのテーマは「憧れの職業」の女性。 当然のように参加女性のプロフィールチェックも職業欄からになる。 視点を職業欄に定め、どんどん画面を弾いていく。 保育士、出版社、看護師、営業事務、客室乗務員…… うん、どれも女性らしい職業。 その中でも特に「客室乗務員」に惹かれた。 正確にいえば、学生時代、航空会社は就職先として同窓の女子たちに人気だったので、「客室乗務員」という語感が当時の記憶とまではいわなくてもアバウトな雰囲気を呼び覚まし、感傷的な気分にさせた。 彼女たちは元気かな。 希望が叶って客室乗務員になれていたら、その後はモテ人生を送って、今頃はセレブママにでもなって…… いや、皆が…
「こんにちは」 「こんにちは」 隣に腰をかけた女性に型通りの声をかける。 ここは4番の席だから4番さん。 ふっくらしていて、30代半ばくらいかな。 職業は…… 慌ててプロフィールを確認すると、看護師さんだった。 それっぽい。 なにか話かけようと思ったが、すぐにパーティーの開始を告げるアナウンスが流れ始めたので、それが終わるのを待った。 「今座っているお席の隣の方が最初のお話相手になります。それではトークタイムスタートです!」 あらためてお辞儀をしあって、それぞれがスマホで相手のプロフィールを見ながら、言葉を発する。 「看護師さんなんですね」 「そうですよ。実は今も夜勤明けで」 「え。じゃあ寝て…
数名とトークタイムを終えて、いよいよ8番の席に向かう。 例の客室乗務員がいる席だ。 「失礼します」 「こんにちは!」 彼女は最高の笑顔で迎えてくれた後、僕を正面に見据えたまま、しばらく視線を外さなかった。 見まごうことのない美しさ。 僕はその間、魂を絡め取られでもしたかのように動けなかった。 10秒くらいあったかもしれない。 はっと我に返って、女性を凝視してしまって失礼だったな、と思ったが、彼女は笑顔のまま。 ……これが彼女一流のオモテナシだろうか。 その破棄力に世の中の9割5分の男性は骨抜きにされるに違いない。 僕はむしろ用心して会話に臨んだ。 「お仕事は客室乗務員なんですね」 「はい」 香…
清潔な媚態。 周りにいないタイプだった。 CAさんだし、さぞかしモテてきたことだろう。 なのになぜ…… 婚活パーティーなのか。 同じ婚活パーティーでも、ハイスペックな男性が集まる企画ならまだわかる。 でも今回はそうじゃない。 多少の条件はあっても、年収は平均で足りる。 ということは…… 案外、質素倹約をよしとする賢妻タイプか。 いやいや、そう思わせること自体が男をおびき寄せるエサで。 気がついたら身ぐるみ剝がされて無一文。 だったらハイスぺ男子の方がより効率的な気が…… そんなことを考えている最中にも、8番さんとの会話が進む。 この時点で主導権はすっかり彼女に握られていた。 「ペット飼ってるん…
すべての参加女性とのトークタイムを終えて、最初の席に戻った。 隣の4番さんと「戻りました」「お疲れさまー」と言葉を交わすが、心ここにあらずといった状態で。 頭の中は当然、8番さんで占められている。 8番さんの後にも3人の女性と話したが、彼女たちをほとんど憶えてないくらいに。 「どうでしたー」 4番さんが気兼ねなく訊いてきたので、「そうですねー、難しいかな?」と軽く笑いながら答える。 「そちらはどうでした?」 「いい男って少ないから」 「性格的にですか?」 「そんなとこです。人のこと言えないけど」 いつもならその朴訥な正直さが好ましく思えて、いいなアピール送ろうかな、でもカップル希望までは、など…
雨があがってればいいですね、と4番さんと少し雑談していると、いいなアピールの結果が出た。 明確な狙いがあるときは、少し緊張する。 その8番さんは…… あった! 心の中で拳を握りしめる。 あの思わせぶりなあの態度は、僕への好意の表れ。 ニヤッとしつつも、期待だけでなく不安も胸にわだかまるのを感じる。 あの手のタイプは、すべての男性に対して同じ接し方をするものだ。 送られてきたいいなアピールも、その一環としてのただのリップサービス。 ――まあ、それでもいい。 次のカップル希望で事の真相は明らかになる。 もしカップリングしたら…… あの媚態を独り占め。 ああしてこうして……! 8番さんをカップル希望…
「カップル希望の結果でました! スマホをご確認ください!」 ついにやってきた。 体調不良によるひと月の休止と池袋での惨敗の記憶。 久しぶりの高揚感に胸を高鳴らせ、スマホ画面を更新すると…… 「今回はカップリングが成立しませんでした。」 ………… 時がとまった。 しばらくしてから、絶望を現実の感覚として受け止める。 負けたのだ。 他の競争相手に。 8番さんを一言でいえばミステリアスなCA美女。 ここにいる男性全員が彼女にカップル希望を出したと断言できる。 そして僕は弾かれてしまった。 彼らと、彼女に。 他の2名の女性からカップル希望があったらしく、1人は隣の4番さんかな、とうっすら思ったけど、強…
090. 婚活パーティー【体験】恵比寿でキレイ系の女性編(1)
その後、渋谷ラウンジの「憧れの職業の女性」のパーティーには2回ほど参加した。 参加女性はそれぞれに魅力的で、なるほどと思える人気職業についていたが、正直なところ物足りなさを感じた。 原因は同ラウンジ初参加時に出会ったあの女性にあるのは間違いない。 意識などまるでしてないかのように膝を擦り寄せてくるCA美女…… ミステリアスな8番さんだ。 思い出しただけで、彼女の香水が匂ってくる。 その香りにつられるように、スマホをまさぐって確認してしまう。 パーティー中に彼女に送ったこちらのメアドに返信がきてないか。 彼女とのトークタイムを終えて、世の中の大半の男は骨抜きにされてしまうこと疑いないと思ったが、…
091. 婚活パーティー【体験】恵比寿でキレイ系の女性編(2)
恵比寿にはParty Party様のラウンジがいくつかあって、今回の会場は駅からほど近いビルの2階。 この辺りは昔の職場からほど近く、それなりに土地勘はある。 男性たちが「恵比寿」という語感から連想されるオシャレな女性を求めて参加してきているということは、女性たちだってそれに相応しいハイステ男性を期待しているだろう。 僕はハイステじゃないけどね、と内心で舌を出す。 ハイステでない自分が陽気に会場に向かえるのは、婚活パーティーに限っていえば、条件が絶対ではないと気付いたから。 実際に対面した時のフィーリングの行方。 そこに勝機を見出す。 自分が参加女性に恵比寿的美人を期待しておいて、こっちは条件…
092. 婚活パーティー【体験】恵比寿でキレイ系の女性編(3)
最初の個室で相席した女性は、恰幅のいい地方公務員の方だった。 今回のパーティーテーマである「キレイ系」に該当するかどうかは微妙だけど、美の尺度は千差万別ということで納得はいく。 それより困ったのは、たいして緊張している様子でもないのに、会話が進まないことだった。 トークタイムが始まって以後、タブレットでプロフィールを見ながら、書かれていることの上から順というように質問を繰り出すが、どれにも食いついてこない。 機嫌が悪いのかな。 それともよっぽど僕のことが気に入らないのかな…… このような場合、職業についての話題が一番無難で、受け答えのマニュアルらしきものが通用しやすいが、「公務員」というわかっ…
093. 婚活パーティー【体験】恵比寿でキレイ系の女性編(4)
その後も期待に胸を膨らませながら個室をめぐったが、取り立てて目新しさを感じるような出会いはなかった。 若干の寂しさを覚えつつ、終わりも近くなった4番の個室に向かいながら、パーティーのテーマが漠然としている分、女性にとっては窓口が広く、男性にとっては狭いのかな、と考察してみる。 たとえば先日に渋谷で開催された「憧れの職業」のケースだと、職業がマストなだけあって、参加する女性は他はどうあれそこだけは外さない。 それが今回のように「キレイ系」となると、解釈の自由という範囲に収まる。 そこに恵比寿というブランドがつくことで、女性にとっては敷居が、男性にとっては期待が高まるのだけど、存外、男性ほどに女性…
094. 婚活パーティー【体験】恵比寿でキレイ系の女性編(5)
「失礼します。こんにちは」 「あ、こんにちは」 僕が挨拶をすると、4番さんは面接官にするように、すっと背筋を伸ばして挨拶を返してくれた。 膝の上で折りたたんだ指先が小さなポーチを掴んでいて、少しの緊張が伝わってくる。 フォーマルな服装と可愛らしいポーチのアンバランスさが、むしろ表裏のなさを感じさせて好感が持てた。 真面目でしっかり者の学級委員タイプ。 それだけにパーティーにも真剣な気持ちで参加しているに違いない。 こちらも真剣で向かわないと礼を失するな…… そう思った僕は、タブレットでしっかりと4番さんのプロフィールを確認する時間を稼ぐため、何気ない話題を振った。 「普段はお仕事、忙しいですか…
はてなブログ10周年特別お題「好きな連ドラ10選」 おすすめの連ドラ特選
はてなブログから特別お題が出ていたので、これについて書こうと思います。 「好きな◯◯10選」で、連ドラを選びました。 やはり恋愛ドラマがメインになります。 ・東京ラブストーリー 当時観て、DVDを購入して、たぶん100回は観たと思います(世界最多!?)。 自分の原点かもしれません。 柴門ふみさん原作、坂元裕二さん脚本の切ない恋愛ドラマです。 (function(b,c,f,g,a,d,e){b.MoshimoAffiliateObject=a; b[a]=b[a] function(){arguments.currentScript=c.currentScript c.scripts[c…
はてなブログから特別お題が出ていますので、引き続きこれについて書きたいと思います。 ブログ名もしくはハンドルネームの由来は? 自粛生活が続く中、海を見にいきたいなぁと思ったのがこのハンドルネームのきっかけです。 イメージは横浜あたりです。 ブログ名はそのまま、婚活パーティーへの参加体験を追想する、です。 はてなブログを始めたきっかけは? 婚活パーティーに参加してみようと思ってネットで探したとき、思いのほか、いい情報が得られませんでした。 その後、参加し続けていい経験ができましたので、参考や一助になればと思って、このブログを始めました。 同時に、小説や脚本を書いてきましたので、この記事で書籍化と…
095. 婚活パーティー【体験】恵比寿でキレイ系の女性編(6)
「でも残業がないって派遣さんの特権というか、いいことだと思います」 とっさのフォローだったが、明らかなミス。 派遣であることに不満を抱いている4番さんにとって、屈辱的にすら思える言葉だったかもしれない。 「あ、いえ、うちにも派遣さんいますけど、仕事終わりは遊びに行ったりしてとても充実してるみたいですし、僕も残業ばっかりで、正直働くのが嫌になったりで……」 隣から苦笑とも自嘲ともつかない低い笑いの振動が響く。 「でも派遣の給料なので、残業はむしろしたいです。でもさせてくれないんですよ」 事情は承知している。 僕の職場の派遣さんは特殊なスキルもあって時給2400円。 時給だけなら正直、社員と比べて…
096. 婚活パーティー【体験】恵比寿でキレイ系の女性編(7)
そこまで考えて、チラッと隣を見た。 フォーマルな服装の4番さんは、慎重な手付きでグラスを口に運んでいる。 着ているものを汚さないように気をつけているのだろう。 仕事もできそうな彼女の場合、問題はより複雑かもしれない。 職場を腰かけ程度にしか思っていなければ、婚活パーティーにももっと陽気に臨んで、あっけらかんとした口調で「私、早くいい男と結婚して子供産みたいんです」と甘えればいい。 男はそんな女性を可愛いと思うから、魅力さえあれば事がうまく運ぶ可能性だってある。 しかし4番さんからは、本当はバリバリ仕事をこなせるはずだという自負と悔しさみたいな濃密な空気も伝わってくる。 そしてお金も欲しい。 年…
097. 婚活パーティー【体験】恵比寿でキレイ系の女性編(8)
パーティー会場を出た僕は、近くのこじんまりとしたカフェに入った。 気分が優れないのは、どうしたって4番さんの片影だ。 彼女とのやりとりが、小さな爪痕となって僕の心に残った。 誰が悪いわけじゃない、状況とかタイミングとか、つまり婚活の相手として縁がなかっただけだ…… そう思おうとして、うまくいかない。 口につけたコーヒーは、味がわからないまま、ただ胃の中に落ちていく。 みんなが幸せになれればいいのに…… 結局、今回のパーティーでは誰ともカップリングしなかった。 正確にいえば、いいなアピールもカップル希望も自分からは送らず、もらったのもゼロに近かった。 そして、総括してみる。 「キレイ系の女性」に…
098. 婚活パーティー【体験】新宿でバリキャリと再遭遇(1)
良くも悪くも恵比寿ラウンジでの余韻を残しつつ、Party Party様のサイトで次に参加するパーティーを探す。 その週末は土日ともに空いてはいたが、できれば片方に複数パーティーを突っ込んで、もう片方はゆっくり休養したいと思っていた。 同日複数参加といえば…… 僕は新宿に当たりをつけて検索する。 同じ日に複数参加する場合、パーティー間の時間が空きすぎても嫌だし、会場が離れすぎていても不便、といった問題が発生する。 それを解消してくれるのが、西口と南口にそれぞれラウンジがある新宿だった。 過去にも数回、お世話になっている。 とはいえ…… 時間や場所の問題はクリアできても、テーマ的に参加したい、ある…
『恋庭』やってみました! 婚活・恋活 ゲーム・マッチングアプリ【体験談】
いま、話題のマッチングアプリ『恋庭』に夢中です。 先日、もしコロナ渦において対面式の婚活パーティーへの参加がためらわれるならば、一時的にしても、別の恋活・婚活の手段を講じてみてはどうでしょう、という記事を書きました。 こちら↓↓↓ minaton-blog.com そのような記事を書いた手前、自分でも探してみたところ、『恋庭』というゲーム×マッチングアプリを発見! ご存じの方も多いと思いますが、このアプリ、かなり面白いです。 概要は、自分の「庭」を育てつつ、誰かとマッチングしたらその人との「恋庭」が解放され、そちらは二人で協力しながら育てていく、というもの。 「庭/恋庭」では、オブジェのレベル…
099. 婚活パーティー【体験】新宿でバリキャリと再遭遇(2)
新宿の南口ラウンジに到着すると、今日はご自身のスマホを使ってのパーティーです、と説明を受け、スタッフに誘導されて席に向かう。 タブレットのかわりにスマホを使うパーティーはたまにあって、仕様が大きく変わるわけではなく特に不便は感じないが、席が個室でなくオープンだったのはこれが初めてだった。 横に並ぶタイプの二人掛けのテーブル席で、前後左右のテーブルとは一定間隔が空いているものの、空気感は伝わってくる。 あのペアは会話が弾んでいるようだ、逆にあっちは気まずい雰囲気が漂ってるな…… 具体的な内容まで聞こえてくることはなく、それほど気になるわけではないが、なんとなく、相席した女性と会話するのがためらわ…
100. 婚活パーティー【体験】新宿でバリキャリと再遭遇(3)
「こんにちは~」 「こんにちは」 僕が席につきながら挨拶すると、7番さんは姿勢を崩さずにわずかに顔だけをこちらに傾けるように挨拶をした。 すぐに前に向き直った彼女の横顔に一瞬、失望の表情が浮かんだのは気のせいだろうか。 さて、どのあたりから話題にしようかな…… スマホで7番さんのプロフィールを見ながら会話のネタをひねりだそうとする間、7番さんからなにか話しかけてこないかと期待したが、それはなかった。 というか、スマホさえ見ていない。 会話をリードするのは男性の役目だと決めつけているのか、それとも僕のプロフィールに関心がないのか…… 正直、やりにくいな、と思いつつも、想像したくらいには美人だった…
「猫、飼ってるんですね」 「ええ」 「可愛いですよね」 「保護猫だったのを引き取って」 「なるほど」 相槌を打ちつつ、僕はチラッと7番さんの横顔を盗み見た。 彼女の意外な優しさに反応してしまったからだ。 マンガなどでよくある、一見冷たそうな人が雨に打たれる子猫を猫を放っておけずに連れて帰る、というアレだ。 僕も動物を好きなだけに、保護猫を可哀そうと思うだけでなく実際に引き取った7番さんにリスペクトを覚える。 なかなか、好きなだけではできないことだ。 仕事ができて、それなりに美人さんで、その上保護猫を引き取って育てる優しさと気概がある…… リスペクトと同時に親しみも湧いてきて、心なしか僕の口ぶり…
7番の席を立ち、小さく息を吐き出して気持ちを立て直す。 次の席に向かう前に、7番さんに踏ん切りをつけなければならない。 その間、約2秒。 席の後方にはすでに次の男性が迫っている。 オープンな会場だからこそ、落ち込んだ姿を晒すことはできなかった。 意識して明るい表情を繕い、次の8番の席に入る。 「こんにちは~」 「あっ、こ、こんにちは!」 焦ったように挨拶を返してくる8番さん。 せわしくお辞儀までしてくれた様子からは、焦りというよりは、緊張がそうさせたのだと感じ取れた。 「このパーティーは個室じゃないんですね。今までは個室ばかりでした」 緊張までしてくれる8番さんに申し訳なくなって、まずはその場…
103. 婚活パーティー【体験】新宿でバリキャリと再遭遇(6)
「お仕事は……雑貨屋さん、なんですね」 「はい、かわい目の小物とか、普通に日用品とか」 「100円ショップとは違うんですよね?」 「違うくもないです。ショッピングモールに入ってるんですけど、同じフロアに百均もありますから。けっこう似てるかも」 屈託ない笑顔に、こちらも釣られて笑顔になる。 少し懐かしいような、清々しい春風のような…… こんな気持ちになったのはいつ以来だろう。 社会の不条理に身を晒し、日々の生活にまみれ、異性とのやりとりに右往左往する…… もう一度この子くらいの年からやり直せたら、と思ったところで、頭を振る。 そうじゃない。 自分のことはともかく、8番さんだって働く社会人として、…
104. 婚活パーティー【体験】新宿でバリキャリと再遭遇(7)
選択肢1 素直に諦める。 なんといっても年齢が違う。こちらより一回り以上若い。それだけに魅力的で、笑顔も可愛いくて、仲良くなれたら楽しいに決まっている。しかし……一般論として、彼女が僕をパートナーとして選ぶはずがない。きっと趣味だって違うし、周囲の目もある。さっさと諦めよう。 選択肢2 恋人として。 彼女はまだ26歳。婚活パーティーに参加しているとはいえ、必ずしも即座の結婚志向とは限らない。まずは遊び仲間や恋人を見つけ、あわよくば結婚に進む……つまり婚活というよりは恋活。その相手としてだったら、僕にだってワンチャンあるかも。軽快なフレンドトークでカップリングを狙おう。 選択肢3 結婚相手として…
105. 婚活パーティー【体験】新宿でバリキャリと再遭遇(8)
最初の席に戻って、まずは誰にいいなアピールを出すかについて、頭を働かせる。 直前の若くて可愛い8番さん。 トークタイム中の思考を再開させるが、やはり答えはでない。 3つの選択肢の中で、最も妥当なのは「恋人として」だろうか。 目を瞑ってただ通り過ぎていくのを見送るのは残念すぎるし、かといって結婚相手として臨むのはかなり図々しく思われる。 友達からあわよくば恋人に…… 正直にいえば、自分にとってこれが一番理想的で、同時に楽だ。 もしいいなアピールをもらって、間違ってカップリングしてしまったら、これでいこう。 8番さんをポチっと。 次に…… バリキャリの7番さん。 好感を持つ点がいくつかあって、いい…
106. 婚活パーティー【体験】新宿でバリキャリと再遭遇(9)
相席の女性と二言、三言話すうちに、いいなアピールの結果がでた。 もらったいいねは…… 3つ。 8人中、3人から。 ちょっと少ない方かもしれない。 その内訳は…… なんと8番さん! たしかにトークタイム中は楽しく話ができたけど、年の差を考えれば、期待しつつも本心では諦めていた。 それでももらえたということは、どこかに脈があったのかもしれない。 それはおそらく…… 真剣な結婚相手として、ではないだろう。 彼女が僕に向ける視線は、どこか兄に向けるそれだった。 ちょっと安心できる相談相手、くらいのポジション。 それならそれでいい。 友達からだって文句ないのだから、下心なしにOKだ。 残り2つは…… あ…
107. 婚活パーティー【体験】新宿でバリキャリと再遭遇(10)
「カップル希望の結果でました! スマホでご確認ください!」 いい異性がいなかったという隣の女性を気にしつつも、遠慮気味にスマホを操作する。 希望はもちろん…… 「今回はカップリングが成立しませんでした。」 スマホ画面を支配したその表示に、時が止まる。 ……そうか、そうだよな、ははは。俺はなにを期待していたんだ。 噛み締めるように、スマホの画面を消す。 「やっぱり僕も、いい人はいませんでした」 自嘲気味な笑みがこぼれる僕に、隣の女性も苦笑する。 「また今度、がんばりましょう!」 「で、ですね。また今度、僕もがんばります、はは……。今日はありがとうございました」 親しくもならなかった相席の女性に慰…
108. 婚活パーティー【体験】新宿でバリキャリと再遭遇(11)
翌日の午後、僕は昨日と同じJR新宿駅の今度は西口に降り立っていた。 これから参加するのは14時開始の「一緒にいて癒される女性」がテーマのパーティー。 さて、どんな女性に出会えることやら…… 会場に向かいながら、昨日と同様のケースに遭遇した場合に備えて思考を巡らせる。 つまり、自分よりずっと若くて魅力的で、付き合いたいと思える女性。 一見、結婚に焦るような状況でないように思えて、内実は本人にしかわからない。 まだ20代の半ばであっても、仲間とわいわい騒いでいるような日常が似つかわしくあっても、切実に結婚を望んでいるのかもしれない。 そう、いまさらながらに、これは婚活パーティーなのだ。 結婚を前提…
109. 婚活パーティー【体験】新宿でバリキャリと再遭遇(12)
スタッフに案内されて最初の個室に入ると、すでに相席の女性が座っていた。 「こんにちは」 「こんにちは」 ぱっと見は同年代のアラフォーといったところ。 黒くて短く整えられた髪型に、控えめなイヤリング。 なんとなく専門職を思わせる。 早めに到着して事前に参加女性のプロフィールを確認する僕よりも早く来るとは、教師っぽくもある。 「曇り空ですけど、雨、降らなきゃいいですね」 「ええ……」 とりあえずなにか会話を、と思ってありきたりな話題を持ち出すが、反応は薄く、すぐに手元のタブレットに視線を落とした。 僕のプロフィールにはすでに「興味なし」の烙印が押されているのかもしれない。 まあ、それはそれでわから…
110. 婚活パーティー【体験】新宿でバリキャリと再遭遇(13)
その女性が待っているのは偶然にも前日と同じ7番の個室だった。 十中八九、間違いないよな…… 名前こそ憶えてなかったが、その他の項目が指し示すのはただ一人、あのバリキャリ風の7番さん。 いろいろな意味で気まずかった。 第一に、婚活パーティーで同じ異性と別のパーティーで再会するのはけっこう気まずい。 控えめに言って両人とも相手に恵まれなかったということであり、またしても異性を求めてパーティーに参加している事実が、決して恥ずかしがることではないにしても心情として恥ずかしい。 第二に、その気まずさの度合いは最初に会った回の二人の結果による。 カップリングしていればさあ大変。 正式にお付き合いが始まるま…