風景が、遠ざかっていく――。ユウキの視界は、まるでフィルムを逆回しにしたかのように、ぐるぐると回転していた。見慣れた東京の街並みは溶けてゆき、摩天楼は土煙となり、電車の音は鳥のさえずりへと変わった。――そして、目を開けたとき。彼は、1500年前のインドの大地に立っていた。強烈な陽射し。赤土の地面。どこまでも続く道の先に、ひとりの青年がいた。腰に粗末な布を巻き、頭を剃り、裸足で歩く。背には経巻の束、手には木の杖。その姿には、見覚えがあった。――夢で何度も見た、あの“僧侶”。だが今はまだ、彼は「完成された導師」ではなかった。まだ若く、迷いを抱えた一人の修行者にすぎない。彼の名は、ディーパンカラ。釈尊の教えが口伝されていた時代。師から弟子へ、言葉から心へと真理が渡されていたその時代。ディーパンカラは、己の心の苦...第5章:かつての旅人