傾向としてはうすい感じの創作BLです。ハグやキス、前後のやりとりみたいなものはありますがほぼ最中の描写はぼやかし程度です。一緒にご飯食べているとかくつろいでるとかただただ主人公がみんなに愛されていてハッピーエンドみたいな話が多いです。
~テンタシオンな君とネクタイの話 その1~の小話的なもの。ある日の昼休みの会計課にて。 食堂で昼食を済ませ事務所に帰ってきた高木の部下の星野と土井が、あんぱん齧りながらパソコンを操作している高木の元にやってきた。 「係長~面白い話してあげましょうかぁ~?」 「面白い話?」 星野が高木に話を持ち掛け、パック飲料専用の自販機から買って来た「霧島山麓牛乳」を飲みながら小首を傾げた高木に、土井が星野の後を...
高木は一緒に飲んでいた安斎と別れ、最寄駅からマンションに続く坂をゆっくりとした歩幅で歩いていた。 本人は知られたくなかったかもしれないが、自分と出会う前にそんな心の痛手を負っていたなんて… 知らなかったこととは言え、胸を締め付けられる。 ……あの日、カフェテリアで会っていたという女性とはどんな訳があって会っていたのかわからないが… たった2日…顔見てないだけなのにこんなにも気になって…あいつのこと全幅の...
……こんなこと初めてだなぁ… 今日やっておくべきことは終わらせてみたもののなんとなく気分が乗らないと他の仕事は諦めて早い目に帰ろうとパソコンの電源を落とし、小さくため息をついて背後にあるロッカーからビジネスバックとコートを取り出し身支度を整えた。 スマホを確認すると高木からのLINEで「ちょっと飲みに行ってきます。日が変わるまでに帰ります!」の一文と水色のカエルが敬礼している横に「お疲れ!」とコミカルな...
*唐揚げ定食大好きコロ助係長と高木君が昼食とりながら丸山君で妄想しているだけの話。お昼休みは大好きな時間…職員食堂には5種類ほどの丼ものと3種類ほどのパスタとラーメンと2種類の定食、日替わりAランチとBランチ…Aランチは和食もの、Bランチは洋食もの。 その見た目と佇まいのユルさからコロ助というニックネームで親しまれている総務局総務課の総務係長、警視・五嶋健助が愛してやまないのは唐揚げ定食(800円)。 ...
「……あ?」 「だからね、昼休みに丸山が」 「…それ、どこ情報?」 「昼休みに外にランチしにいってたうちのコと人事課のコの目撃証言だって。例の自販機コーナーでめちゃくちゃ盛り上がってたよ。スマホの写真もあるし確かな情報じゃないかなぁ…」 「……へぇ」 会計課に後払い請求書を出しに来ていた五嶋がいつものように「高木~コーヒー奢ってよ~」とやってきて、めんどくさそうにしながらも自販機コーナーまでついてきて五...
想いが通じてから気づいたことがある。 滑稽な言い方かもしれないが俺は丸山のことを何があっても一生離したくない…と本気で思っている。 …今、自分の横で安らかな寝息を立てている恋人も…同じ思いだと言ってくれた。 不満はないしむしろ幸せすぎてどうにかなるんじゃないかって思っているくらいで… …でも…あと一歩…二人の間に距離があるような気がするのは…どうしてなんだろう。 **********「だからねっ!見ちゃっ...
一日中働き通しだったパソコンが静かな音をたて、その日の役目を終えた。 警察庁長官官房室室長付詰所。 二人の部下は大分前に帰路に着き、詰所内に残って今日のうちにやってしまっておきたい仕事を終わらせた丸山は、手早く机の上に広がっていたファイルや書類を片付け両腕を上に突出して事務椅子の背もたれに凭れ掛かりながら思いっきり伸びをした。 反らした顔の目線の先に見えた天地逆になった壁掛け時計が22時半過ぎ...
「350円になりまーす、ありがとうございます!」 秋晴れの青空が目に眩しいある日のお昼時。 「和樹~また完売だなぁ~」 「へへへ…」 キッチンカーの中でコーヒーを担当している和樹と呼ばれた青年の兄が、表に立って売り子をしている弟の和樹に声をかける。 赤と白のチェックのテーブルクロスが敷かれた小さいテーブルの上に置かれた5つほどのバスケットのうちの一つ『生ハムとカマンベールチーズのカスクート』完売。 ...
長官官房室総括局官房室長付詰所に勤務する女子職員・相崎はるには、誰にも譲れないお楽しみがある。 「相崎君、時間とらせて申し訳ないんだけど…お願いできるかな」 「はい!大丈夫です!」 「今日は平井さんが休みだから…午後からでも大丈夫かな?」 「はいっ全然大丈夫です!それまでに下調べしておきます」 「じゃあ私はこれから会議に行ってくるから…あと頼むね」 「はい、お任せください!」 はるの元気いっぱいの...
燦々と降り注ぐ太陽の恵み。 絵にかいたような入道雲とただただ青い青い空。 派手な水しぶきを上げて半端ない体力をフル回転させる子供…その子供を見守る日焼け対策バッチリの母親、プールに来たにも関わらず水に入らず、ずっとプールサイドでいちゃついているカップル…でっかい浮き輪にずっぽりとはまり流れるプールに身をまかせる若者… ここに来るだけで体力使い果たして死んだように寝ているオヤジ…あちこちで上がるやたらと...
節分も過ぎ、2月も半ばにさしかかろうとしていたある日。 東京はじめ首都圏とよばれる地域では記録的な大雪となり、街は雪のおかげで日常生活に支障をきたすほどの大混乱となった。 慣れぬ雪に足をとられて転倒する者、通勤通学の足を奪われて困惑する者、スタックして立ち往生する車、それを後ろから押す互いに見ず知らずの親切者たち、普段持ったこともないスコップで黙々と雪かきに専念する者… 街のあちこちにはかいた雪が...
24時間眠らない街・東京。 その一画にある官公庁界隈のコンビニで買い物を済ませた丸山は、帰路に着くビジネスマンの波に逆らうように歩道を闊歩し、自身のフィールドである庁舎のエントランスに入りエレベーターの到着を待っていた。 無意識に顔をあげ、エレベーターホールに設置されている時計には20:10の表示。 程なく到着したエレベーターに乗り3階で降りると、エレベーターホールを右に曲がったすぐの「総務課」...
「高木っ!何なのコレ!」 「…え?お望みのものですが何か?」 庁舎3階総務課事務室の隣・総務課倉庫兼印刷室にて。 連日続く穏やかな週明けの秋の昼下がり。 会計係長の高木は昼休みが終了してすぐ、総務課の五嶋に呼び出された。 いつもなら「用事があるんならお前が来い!」と一刀両断にするところ、今日の予定から見て呼び出されることはすでに織り込み済みだったようで、高木は素直に担当の部下・朝倉ゆきのと2人総務...
なぜあの時、笑い飛ばせなかったんだろう? 2か月後に省庁を跨いだ大々的な会議が開催されるその準備とルーティンワークに追われ1週間ほど泊まり込みが続いたが、それが功を奏したのか仕事の進捗状況にも少しばかり余裕が出てきてとりあえずはこの土日くらい家に帰ってゆっくりしようと帰途についた金曜の夜のコト。 互いに多忙な身でなかなか一緒に過ごすことはできないくせに顔を合わせればお互い吹き出しそうな憎まれ口ばか...
それは一か月前のこと。 秋深し…といえど、まるで春のような暖かさが続いていたある日の昼下がり。 「あ~ぁ…そうだった」 午後一番の公用便で届いた自分宛ての一通の封筒を丸山から受け取り内容を確認していた小田桐が何か思い出したようにポツリと呟いた一言に、書類の決裁箱に積まれた書類を仕分けていた丸山がふっと顔を上げた。 「何かお忘れになっていたことでも?」 「同期会なんだけどね」 「同期会?」 「うん…...
外務省庁舎6階・国際協力局フロア。 「24時間年がら年中眠らないセクション」として有名なこのフロア…世界を相手に仕事をしている外務省だけあってその呼び名が単なる謳い文句でないことを示すかのように、一年でわりと手が空きそうなこの夏の夜でも半分以上の職員が昼間と同じように在席し自己の職責を果たしている。 そんなだだっ広いワンフロアをパーテーションで区切っただけの一番西側隅の一角…国際協力局海外開発支援室...
ある残暑厳しい土曜日の朝のコト。 午前9時を少し過ぎた日本の空は突き抜けるほどに真っ青で、でももうすっかり秋の色を漂わせていて… 約一週間のフランス出張を終え空の長旅から解放されて到着口を出た安斎は、スーツのポケットから携帯を取り出してメールをチェックした。 メル友が多いせいかすごいスピードでフォルダに振り分けられていくメール…その中でもほとんど使われることはないフォルダに「受信一件あり」の表...
……こわ…こわい…誰か… 悪戯っ子のような風貌がこれ以上もないくらいに引き攣る… 額からは汗が噴き出し、訳も分からずさんざん追いかけ回されたのと何も悪いことした覚えないのにあれこれ考えて早くなっていく動悸…。 「…ど…どうしたんですか…みなさん…」 「今から順を追って詮議いたします」 「せ…詮議って」 「お…俺なんかした?」と恐々聞く男にこの徒党のリーダー格の女史が「お静かに!」と鋭い一言を投げかけ、男は体全...
………ぱた。 世間はすっかり秋の色。 降り注ぐ柔らかい陽差しも、周りの木々も、道行く人の服装も…そして今、自分の目の前に置かれている「さつまいもとカボチャと栗の秋色パルフェ」っていうスイーツも…。 秋もすっかり深まり朝晩はコートが欲しくなってきたある日の昼時。 官公庁街の真ん中に位置するビジネスマンの憩いの場所というべき公園の一角にある老舗のカフェテリアの一席で、安斎は手にしていた小冊子を閉じ大きなた...
「えっ!ほんと??」 「うん、ほんと」 「…うそぉ……」 目の前の男の顔は舌先三寸でいい加減なこと言ってるとか、見栄を張ってるとか、妄想が暴走してる…とかを駆逐した無双の達成感が漲っている。 この前あった時は出会ったその日から12年間もの間、おおっぴらにもド直球にも秘かにも思い続けてきた自分の大親友でもあり自分の恋人の従兄弟でもある男とつい先ごろ想いが通じたのはいいが、その先にどうしても進むことができ...
雨はだんだんとその激しさを増し、時折雷光が黒々とした雨雲の隙間に光を放つ。 朝の天気予報では今日、金曜日の夜半から日曜夜にかけて大雨と雷に注意が必要だと言っていた。 聞いてはいたけどまさか雨に降られるなんて…と小さくため息をつきながら、スーツを簡単に手入れをして掃除の行き届いた浴室のバーにハンガーを引っ掛けいつも通りに洗濯機のタイマーをセットしてから脱衣所を出た。 脱衣所のドアが閉まると同時...
「ただいま」 「お帰りっ…雨大丈夫だったか?」 「坂の途中で降り始めたから…ちょっと濡れたけど平気」 そういって軽く振った髪の先から小さな雨粒がスーツの肩に落ちる。 細く息を吐きながら靴を脱ぎ、さりげない仕草で靴を整えてからふりむいた丸山の頭を首にかけていたタオルで覆い、軽く目を見張った丸山の唇に己のそれを軽く重ねる。 ほんの数秒重ねられた唇を解き、視界をタオルで遮られた小さな世界で優しげに微笑む高...
空は底抜けに青く…昨日に引き続き風はひんやりと冷たく穏やかな日曜の朝…。 あれから身支度を整え宝生の愛車に乗って一路、あの絵画のモデルとなっているであろう湘南の江ノ電沿線を目指し出発した完全オフのふたり。 安斎は昨日のスタイルで、宝生はインの白Tシャツに上下黒の細身のジーンズジャケットにステップインタイプの革靴というシンプルなスタイル… 自分同様、こだわり派の宝生は公人としてのスタイルもオフのスタイル...
「………違う」 「…え?」 都内でも一等地と呼ばれる中心地に佇むハイエンドホテルの最上階。 20畳近いリビングルームと10畳のベッドルームというかなり広め空間はこのホテルのコンセプトが生かされ、ややオリエンタルな雰囲気が醸し出された非日常的な空間。 ベッドルームにはダブルベッドが一つと間接照明と小さなサイドデスク。 蒸し蒸しじめじめとした梅雨の合間の、吹く風爽やか陽射し穏やかな土曜の朝… 宝生はそんな...
いつの時代も、胸中の理想と思惑と野望とを笑顔と機知に富んだ会話の中にチラつかせながら、お互いの見えない糸を切れないように手繰り寄せ腹を探り合う駆け引きを楽しむ催しというのは必要不可欠なものであるらしく…。 エントランスを入ったロビー天井にはこのホテルが改装されたときにも話題となったクリスタル製の煌びやかなシャンデリア。 次から次にやってくる招待客の対応に追われる受付。 ゆったりと荘厳なバイオリンの...
あぁ〜いい天気だなぁ… ある日のお昼休み。 会計課の窓に頬杖ついて凭れかかり、高木はぼんやりと空を眺めていた。 連日続く好天の初冬の空高く、飛行機雲がその一点の曇りもない青空に綺麗な軌跡を描いている。 特に興味があるわけではないが空や景色を眺めるのは好きで、ついさっきまで薄く傷をつけたみたいだった雲は見ているうちにその輪郭がぼやけてなんだか気が抜けたような形になっていき「あぁ、明日は天気悪いんだな...
磨き込まれた全面ガラス張りのフロアをぐるりと囲むように何十台ものトレーニング機器やランニングマシンが設置され、スイミングクラブやダンススタジオなどの設備も充実したフィットネスジム。 官公庁街からのアクセスもよく、仕事帰りに一汗流すにはうってつけの立地に位置する人気のジムは20:00も過ぎるとそれなりに利用者も増えてくる。 「…意外に続いてるんだな」 「………」 その中で都下の夜景に目を向けながらラ...
その日の昼休み、偶然にも高木と一緒にランチしたときに聞いた胸の内。 でしゃばることではないけれど聞いてしまったからには何とかしてあげたいと、安斎は丸山にLINEを送り、行きつけの屋台で一杯飲まないかと誘ってみたら…一時間ほどして「19:00くらいなら大丈夫」という返事が来た。 こっちの仕事もやや進捗が好調なのを幸いに定時で職場を出て、先に待っていようと屋台のある川沿いに向けて歩いていた。 頭上を走る...
きっかけ? きっかけなんて、大好きな相手と 同じ空間にいて… お互いがもっと近くにいたいな…って思ったらで… それでいいと思わね? ************ 「えっ…まだ?」 「うん、まだ」 「……………」 目の前の男の顔は決して嘘をついてるとか、虚勢を張ってるとか、悲壮感が漂ってる…とかいうのは微塵も感じられず、むしろ清々しさが勝った雰囲気が漂っている。 寝る時は低反発枕と女が必須と豪語し、その眉目秀麗な...
……自分の思い通りに書くのが楽しいという話です。ブログというものをやってみたくて、日記でも100は超えてるだろう趣味のことでもよかったんだけど、最近「何か書きたい」という意欲が湧いてきて、それだったら自分の好きなものをぎゅうぎゅうに詰め込んだもの書こうと思って。何が好きってまずは歴史が好きで特に江戸幕末明治大正…あたりが好きで、じゃあ時代物がいいなと思ったんだけど「あ、そうか。源氏物語も大好きだ!」...
翌日…昼13時ごろ。 …ど…どうしよう… 丸山は自宅マンションの前に立っていた。 この日も連絡会議は開催されていたが当初からの予定で朝10時からの挨拶にだけ出席した小田桐を官用車内で待ち、所用が済んだ頃合いを見計らってエントランスに車を横付けした。 車から降りて上位者が乗るべき後部座席のドアの前に立って小田桐が出てくるのを待っていると、会場の方から大きな拍手の音が聞こえてきて、程なく会場から小田...
受付でルームキーを受け取り部屋に入ってさっさと部屋付きの風呂に入り一心地ついた丸山は、しんと静まり返る部屋の真ん中できちんと正座して両手でスマホを持ち、何の表示もしていない画面をじっと見ていた。 重厚そうな濃茶の座卓の上には、何やらびっしり書き込んだ今日の連絡会議の資料と立ち上げただけのノートパソコン…もちろん何にも手は付けていない…というか、手に付かないほどスマホに集中している。 …自分が避けて...
「あーきたきた!こっちこっちー!」 「ごめん…ちょっと迷ってしまって…」 自然に囲まれた会議会場兼保養施設からは車で30分ほど走ったところにある県下最大級のターミナル駅の近くの有名老舗和風旅館に千明を官用車で送り届けた丸山は、自身もそのホテルの一室を今日の宿にしていることからそのまま車をホテルに置いて、友人がLLINEに送ってきた今日の飲み会の会場である居酒屋を探していた。 時折スマホに目をやりながら人...
「これは熱燗がいいな…キッチン借りるぞ」 「あ、俺やろうか?」 「熱燗は何度か知ってるか?」 「えーあんまり考えたことない。徳利の底に掌あてて触れるくらいが大体いい温度って親父に倣ったから」 「日向燗は30度、人肌燗は35度、ぬる燗は40度、上燗は45度で熱燗は50度くらい…燗のつけ加減ひとつで同じ日本酒でも味わいは全然違ってくる… 酒の燗は熱くしすぎないことが肝だ…」 「あんたすごいねぇ…」 …昨日といい今日と...
会議はいつもの課業終了時間、17時に終了した。 これから催される宴会会場に向かうもの、上司と何やら打ち合わせをするもの、再会した友人や職務上での知り合いに挨拶するもの、帰りの電車の時間を気にして足早に会場を後にするもの。 丸山と会議場を一緒に出た竹内は、ついさっき久しぶりに会った同じ同期の藤堂と話が盛り上がっている丸山の様子を横目でこっそり窺う… 自分の記憶にある入庁当時の頃も、自分のように格闘技...
「この時期だと山の紅葉が綺麗だね…」 「昨日のニュースでは今ぐらいが見頃だと言ってました」 時刻は朝7時すぎ… 遠距離のトラックとちらほらと走る乗用車以外は見当たらない朝の東北道。 道路に沿って連なっているような山々が赤や黄色に染まっているのを横目に秋の柔らかい陽射しを片頬にうけながら、丸山は磨き込まれた官用車を目的地に向けて巡行速度で走らせる。 「…にしても毎年毎年ご苦労なことだよね…企画立ち上げて...
「ふふふ…結局起きなかったな」 「まぁ…想定内だ」 翌朝・5時ちょっと前 丸山的には謎の盛り上がりを見せた昔語りのあと「日も変わることだし…」と就寝して、一応何回か宝生と二人で交互に起こしてはみたもののまったく起きる気配のない安斎を置いて丸山は宝生の運転するGT‐Rで職場に向かった。 始発も動き出した街はそれなりに人の流れはあるものの車は順調に幹線道路を流れていく。 おおよそ30分足らずの道のり… 宝生は...
安斎が風呂から上がってリビングに来ると、広々としたバルコニーに全く見わけのつかない後ろ姿が二つ。 抜群の立地で少し高台に位置しているのと角部屋ということもあって、東京の夜景が一望できる絶好の光景。 この景色を眺めるのが好きで、夜になってもカーテンを閉めずにいることが多くて…普段なら宝生が煙草を吸うのにバルコニーに出ていることもあるが、今日はもう一人大切な「預かり人」がいる。 「……後ろから見るとほん...
ー今日、おたくの千明君を預かりますー 安斎からラインが来たのはその日の19時ごろ…。 まぁ…どこかわからないところに雲隠れされるよりかはいいけれど……これは暗に「迎えに来るな」と言ってるようなもんで… なんかわからんけど、なんていうんだろうこういう気持ち… 「あーそういうの、不安っていうんだよ」 「………」 さして広くもない店内には満員の客…目の前にはもうもうと上がる煙とみるみるまに美味しそうに焼きあがって...
「ねぇ~高木ぃ~高木くん~高木さまぁ~…これ何とかなりませんかぁ?」 「……ならねぇよ」 昼休みも終わり、午後の業務が始業してから30分ほど… 会計課の係員はさっきから堂々めぐりしている議論とも言えないじゃれあいのようなやり取りを笑いを堪えながら見守る。 …午後一番に会計課にやってきた、総務係長の五嶋が持ってきた頭痛の種にしかならないであろう仕様書を受け取った部下の朝倉ゆきのが「まずは予算の確保が先」...
…昼休みの会計課会計係は持ち回りで電話番が決まっていて、それ以外の職員が在席していることはほとんどない。 この日、朝から丸山を捕まえるのに躍起になって必要以上に席を外していた高木の机にはかなりの件数の精査書類が溜まっていて、さすがにこれでは仕事が回らないと思い直し今日の電話番と交代して、地下の簡易売店でほとんど市場ではお目にかからない業者のパンと牛乳を買ってきてパクつきながら書類の処理をしていた。 ...
昼休みのカフェのテラス席にて。 珍しく丸山からのランチの誘いがあって、仕事が手隙なのとちょっと前に受け取った高木さんからのメールの内容にちょっと気になることがあって誘いに乗ってみた。 お互いのフィールドの中間地点にあるいつものスタバが、部下たちの話によれば今度放送されるドラマのロケ地として聖地化しているらしく「オアシスがカオス…」と、ちょっとした不満を漏らしているところから、自分の職場寄りのところ...
「…聞いてほしいんだけど…この前の…俺がそばにいてほしい人って…」 人生、何が起こるかわからない。 わからないけど…これは多分…いや、絶対起こるべくして起こった… …俺の人生には必ず起こるべき出来事だったんだ。 それは本当にごくありふれた「日常」から始まった。 ある秋風がさわやかな昼下がりの給湯室でのこと。 「ねえ、平井さん。今朝から室長付ちょっとおかしくありません?」 「ん?なに...
ある日。 無事に新部署が立ち上がり、当該本部長で丸山の元上司である大貫警視長がその報告とお礼がてら挨拶も兼ねて表敬訪問にやってきた。 5階にある古巣の外事局にかる~く顔を出し、11階長官官房フロアに着いてまっすぐに向かった先は長官室がある左側フロア…ではなく、副長官兼官房室長の小田桐の部屋…でもなく。「丸山君お久しぶり、元気そうだね」 「あっ本部長!ご無沙汰いたしております」…自分の元から巣立ってい...
長官官房室統括局所属長官付秘書官の箱崎雄一郎には尊敬を超えてもはや崇拝といっても差し支えない人物がいる。 昼下がりは睡魔がいちばん活発な時間。 学生時代だってそうだった……午後からの授業なんて「寝るな」という方が無理というもの。 これは社会に出てからも例外じゃない。 警察庁11階にある大会議室。 各部署の長クラスが一斉に集められて業務の進捗状況や問題点などを相互連絡しあう「指揮監督者会議」。 だだっ...
連日の猛暑にへたり気味になりそうなある土曜の朝のこと。 一年のうち、夏は割と業務に余裕がある会計課でも各課からの要求は年がら年中絶えることがなく… 前日、ちょっとした契約ミスがあって解決はしたものの全ての事柄が解決したのが日をまたいで終電もなくなった時間で… 「車で迎えに行こうか」と連絡くれた丸山にありがたくは思ったが、部下たちが泊まると言っているのに自分だけ帰るわけにはいかないと始発で帰ることを伝...
今年最大級といわれた台風が過ぎ、少しばかりの暑さと秋の雲を残した連休明け。 この日の午後、防衛省大臣秘書官室の給湯室でちょっとした事件があった。 「…ナオミ先輩、これ…どういうことでしょう?」 「わからないわ…全く検討がつかない」 「でもこれ…宝生秘書官がご自分で買ってこられたんだと思うんですけど」 「…うん」 給湯室に設置してある3ドアの冷蔵庫の中にこの界隈で有名なスイーツ店の淡い水色の小さな...
「まずは一献」 「あ…ありがとうございます」 大都会東京の巨大ターミナル駅の近隣とは思えない静かな空間。 とある老舗ホテルの地下が全面日本庭園風に造園された料亭の個室から臨むことができる景色には、今の季節によく見合った落ち着いた緑の木々とさらさらと耳を擽る小さな渓流。 寝殿造りを模したとされる一室で今日のこのささやかな宴の席を設けた主が差し向けた酒を受けた高木は、すぐさま自分の手元にある銚子を手に...
「どうしてどうして僕たちは出会ってしまったのだろう…なぁ?」 「知らないわよ、そんなこと」 「いくらこっちが押しても引いてもこの気持ち一つも通じないってどういうことなんだぁ…」 「不感症なんじゃないのぉ?そいつ」 「そんなわけないだろうが!」 和洋折衷の創作料理が人気のちょっとこじゃれた創作ダイニングのスタイリッシュな木目調テーブルに向かい合って座り、おまかせでオーダーした彩り美しい料理を前に力なく...
首都圏を直撃すると言われていた大型台風が進路を変えて通り過ぎ、蒸し暑さだけを残していったある秋の日のこと。 いつものように一日のスケジュール確認のために室長室に赴いたら… 「おはようございま…」 「おはよう」 ノックを2回…この部屋の主の許可を得てドアを開けると、この部屋の主の小田桐と、人事調整係長で丸山の2年先輩にあたる高見沢警視正が応接セットに座っていた。 丸山はちょっと驚いたような顔で「お取り...
残暑もなんとなく収まってきた9月も終わりのよく晴れた日のこと。 警察庁長官官房室会計局会計課は夏の大掛かりな会計監査も終わり、その後始末もなんとなく終わりが見えて きて、この日の秋の気候のようにのんびりまったりとした雰囲気が流れていた。 会計係長の高木にしても、まったく暇ではないにしても毎日のルーティンワークと各部署から上がってくる予算要求の精査さえなければ、特に急ぎの仕事もなく定時に帰ろうと...
丸山君とたよれる仲間シリーズ~ころすけかかりちょうのばあい~
「……こんなに?」 「これでも減らした方だけど?」 「噓でしょ~…丸山君、俺に何か恨みある?」 「仕事には『できるだけ』私情は持ち込まないように心がけてますが?」 「その『できるだけ』怖いよね…」 庁舎3階エレベーター降りてすぐ右手・総務課に籍を置く総務係長・五嶋幸助警視は丸山から手渡されたバインダーの夥しい数の付箋に思わず大きなため息をついた。 五嶋は丸山と高木とは同期入庁で妻と3歳に...
「はぁ…やっと座れたぁ…」 「すっごい人だかりだよね~」 気候もさわやかな秋の土曜日昼下がり。 つい先週リニューアルオープンをした東京近郊にあるファッション・グルメから映画館やアミューズメント施設など多彩な店舗が集結した大型ショッピングモールにて。 野外イベントで賑わう広大な芝生が広がる中庭を臨む3Fグルメエリアの屋外カフェテリアの席についた二人の女子。 一人は警察庁長官官房室会計局会計課に勤務する...
「失礼しまーす」 「あっ高木さん、お疲れ様です」 「あ、平井さんお疲れっす!あれ、丸山は?」 「室長付は会議に出られてますよ?11時までなんでもうそろそろ帰ってこられるかと…」 のんびりとした空気流れるある日の詰所にて。 持っているバインダーでトントンと肩をたたきながら周りを見渡す来客に、平井は椅子を反転させて手元のファイルを背後のキャビネットにしまいながら返事した。 「あ、そうなんだ…じゃ待たせ...
警察本庁庁舎6階・長官官房室会計局。 長い廊下と だだっ広いフロアに会計課はじめ契約課、経理課、監査課などの部屋が並び、殆んどの部屋が業務を終了し廊下も真っ暗になっている中。 ただ一室…会計課には未だ人の気配があって最小限の照明の下、ワイシャツの袖を捲りあげネクタイをかなり大胆に緩めた姿で残務処理に追われている男がいた。 ダカダカとやや乱暴にキーボードを叩く音と手荒に書類を捲る音…優男風の見た目に反...
高木という男は全くわからない。 カラオケ行く前といい…あの部屋の中でのことといい… ……わからなさすぎて分析どころの騒ぎじゃないし仕事の時の何倍もの疲労感を覚える。 宝生は自分が持ち掛けたこととはいえ、ふいに襲ってきた眠気と疲労感に思わず弱音を吐きそうになった。 カラオケ出たら交差点を渡ってすぐのゲームセンターに引っ張り込まれ… 「ああああああ!!こわいこわいこわいこわい!!」 「すっげっ!!怖いって...
♪い~つまで~も~離さないぃ~今夜君は僕のものぉ~♪ 部屋の広さに対して不自然なまでに存在感を示しているワイドモニターと通信機器…ガラス製のテーブルと安っぽい革張りのソファ… テーブルの上にはウィスキーの醍醐味なんか知らないだろう店員がマニュアル通りに持ってきた水割りのセットと半分まで減っているどこにでも売っているハーフサイズのウィスキーボトルが一本… 大体4人くらいの客を想定している部屋は正直言って...
丸山が入院している病院を2人して出た後、「予定がないなら付き合え」と言われ何となく一人になりたくなかった高木は宝生の誘いに応じて宝生の車に乗り込んだ。 週末ということと帰路につく車が一段落ついた時間帯でもあって、いつも交通量が多い桜田通りもわりとスムーズに進んでいた。ごくごく小さな音でつけられたFMラジオから聞こえるクラシックの音以外は特に会話もなく、宝生の的確な運転に身を任せて車窓の景色に目を向け...
目の前には安心しきったように眠っている男。 「儚いよねぇ…」と呟いた室長の言葉に特別な感情はないとわかっていても軽い嫉妬が芽生え、点滴が効いてるのか目を覚ます気配のない丸山のあどけない寝顔にチクリと心が痛くなる。 誰かのコトが気になって、それを「好き」だと勘違いしてそれが楽しくて仕方ないことは今までいくらでもあった。 だけどこれはこれまでの恋愛ごっこの「好き」とはかなり違う…もどかしくて、イライラし...
台風一過…空は高く、陽差しはすっかり秋めいていて。 三連休も明けた火曜日…警察庁長官官房室室長付の詰所には少しばかりの異様な空気が流れていた。 カタカタとキーボードを叩くリズミカルな指の動きを止めて向かい側の机に座るこの部屋の先任の警部・平井と目が合った女子職員・相崎は、微妙な笑顔を浮かべてその異様な空気の原因をちらりと横目で伺った。 いつもならこの部屋の長である丸山が座っているはずの席に今日は「珍...
「ひゃあ!降ってきた!」 「…高木さん…アンタ…ちょっと顔色悪くないか?」 「宝生さんこそ指先震えてない?」 「……震えてない」 夏から秋へ変わる近頃の気候は本当に気まぐれで…。 夕方近くから徐々に低く黒い雲が空を覆いだして日暮れとともに空が低く唸りだし、少しずつ強く吹き出した風と共にとうとう大粒の雨まで降りだして…… 「うおっ!今すっげえ目の前真っ白になった!」 「……………っ!」 目の前がホワイトアウトし...
「あっ!あれ!あれ食べたい!!ちょっと行ってきていい?」 「うんうん、行ってらっしゃい」 「まだまだイケるぞおお!」 「…………」 目の前にはきちんと積み上げられた10枚ほどの皿…食べ方が上手だからか猫が舐めたみたいに綺麗だ。 「高木さんのも取ってきてあげるね~」とパタパタ手を振る安斎に高木は手を振って応えた。 なんだろうなぁ…癒される。 なーんか似てるんだよなぁ………自分と一つしか違わない人にいうのも失...
「…いつもは仕事に追われて気にする暇もないけど…こうやって見てみると東京も捨てたもんじゃないな…」 都下の夜景を見ていた丸山のそう呟いてこちらを向いた切れ長の瞳がふと笑みの形に緩む…夜景ではなくその横顔をじっと見つめていた高木は己の心を読まれたかもしれないという小さな焦燥にかられ、食後に用意されたデザートワインを口にした。 貴腐ワインの熟れきった果実のような甘い香りが口の中でふわりと広がる。 目の前...
★キャラクター概要★ *高木 祐輔(たかぎ ゆうすけ) 警察庁会計局会計課会計係長。警視・35歳 庁内はいうに及ばす界隈でも噂のチョイ悪風正統派イケメン。天才肌で話術が巧み、男気があってみんなの兄貴的 存在。とんでもなくモテる。2.5枚目っぽく妄想半端ない。 警察大学校入庁のその日から丸山に片想いしていて、ひょんなことから丸山のマンションに住むことになって淡い初 恋がガチ恋に発展し、色恋...
「う~……眠ぃ…」 とにかく連日猛暑のこの時期…いくら陽が翳ってきはじめる夕暮れでも陽差しは寝不足と疲労のたまった体に容赦なく突き刺さる…。 本日は土曜日…時刻は16時を回ったところ。 改札をくぐりスーツのポケットにパスケースをしまいながら陽の下に出てきた高木は、おしゃれなこの男にしては聊かだらしなく縒れてしまっているネクタイを緩めながら、ある事情で居候しているマンションに続く大きな坂道をゆっくりゆっく...
時刻は24時を少し回ったところだった。 近いうちに全国規模で行われる各都道府県警連絡会議の詳細を詰めるのに長官と上司の小田桐、長官付の箱崎と自分の4人での連日の打ち合わせに追われ、ここ2週間ほどこれぐらいの時間に帰宅の途についているのだがここに引っ越してくる前は泊まり必至だったのを思うと随分と楽になった。 終電間近の東京メトロ日比谷線が次の中目黒に向けて発車し、車両が発する風切音と構内に吹き渡る風...
突然とは予期せぬことが急に起きることを言う…。 「丸山すまん!今晩だけでいいから俺を泊めてくれ!頼む!」 「…どうしたんだお前」 「……うん…家帰ったら家ン中ビショビショに…」 「はぁ?」 それは本当に「突然」というにピッタリな出来事だった。 つい2時間前までうちにいた友人がとるものもとりあえず飛び出してきたといわんばかりの荷物を抱え、ちょっと引き攣り気味な笑顔でうちの玄関の前に立っていた。 新年度が始...
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