chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
arrow_drop_down
  • 昔馴染み・23 挙げました。

    昔馴染み・23挙げました。予想通り・・・ラストになりませんでした。が・・・実はもう、考えがまとまらず戸口に駆けつける二人お島にきかせたくないことこのキーだけで、成るように成れ・・と書き始めました。神頼みか棚からぼた餅か破綻か・・・とにかく、書きながらこいつら、どう動く?と一種ー写生状態ー出てきたのが、兆治の命乞いでしたが・・・・これが、すんなり通るのが、ー織田?てめえ、お島に何をした。ま・・まさかーお島を殺した?ー惚れた女を殺すなんて、できませんよ。それは、兆治さんも同じでしょうーの件(くだり)があるから。どうこういって、兆治さん心底お島さんに惚れている。自分が捕まるというのにお島さんのことを心配する。だったら、命乞いする兆治もありだな・・・お島さんとずっとくらしたい。心底思ってるから・・・と、まあ、勝手...昔馴染み・23挙げました。

  • パンパンとチョコレートに・・・

    パンパンとチョコレート(12)を、再投稿しました。この作品は大江健三郎の初期作品から影響を受けました。戦後の少年に、メスをいれてみたいという思いが有ったと思います。戦後の少年・少女という設定では柿食え!!馬鹿ね。我鳴る成。放流児(8)パンパンとチョコレート(12)蛙(3)が、ありますが、このパンパンとチョコレートの最初の構想は中学生の頃でした。そのころ書いたものは、短いものでしたが中の表現・・1節が気に入っていて書き直した時は、それを使いました。女がくれた慰めの言葉は一時のまやかしにしかすぎないけど、僕はそれを、あるかなしかの、安心の芽の肥やしにしてやることができた。安心の芽の肥やしという言い回しが気に入って20年以上、昔の言い回しを覚えていたのです。で、実際、書き直した時には野坂昭如の火垂るの墓とかアメ...パンパンとチョコレートに・・・

  • パンパンとチョコレート・・・終

    腹がくちると、僕は猛烈な眠気に襲われていた。椅子に背を当て僕は目をつぶりそうになる。「いやじゃ、なかったら・・・」女は僕に女達の戯れの後の布団で、眠らないかと言葉をそえた。「うん」畳の上。屋根の下の布団。空腹の無い眠り。その条件は魅惑的だった。女は台所の横のふすまを開けた。そこには、夜具がしきのべられ、乱れた布団はさっきまでのハローと女の狂態をにおわせた。だけど、僕はただ、ひたすら、眠りの中に落ち込みたかった。女は布団の乱れを取り繕い、僕がそこで安息を得る手続きをしてくれた。僕は遠慮なく・・・。と、いうより、寄せてくる睡魔に抗う事も出来ず、布団の中にもぐりこんだ。久しぶりの安住。それが僕の体の疲れを思い切りとびださせて。着ている服のまま、布団の中に飛び込んだ。女は斜めに入り込む夕暮れの光をさえぎる術も無い...パンパンとチョコレート・・・終

  • 瓜割り~~~★新之助シリーズ第8話

    瓜割り・・・/前置きです。まずは題名ですが・・・。瓜割りに致しました。そのまま、「うりわり」とうちこんで、変換をかけますと「瓜破」と変わりますが・・。この「瓜破」は、女性側の初喪失をあらわす言葉であり、本編の場合は女性側でもなく、今では、初喪失でもない物語に相成っておりますので、「瓜破」では、意味合いが違ってきます。では何ゆえにそれでも、一種女性器の隠語とも解釈できる、『瓜』という、言葉を題名に持ち出したか?あ~~た。ようは、そこなのですよ。『瓜』が女性器をにおわすという事で、殿と新之助の(またも)不埒な物語が始まるわけです。憂生は白蛇抄というオムニバス長編を書いておりますが・・。あ、そのまえに・・・、憂生のことを「うい」と、読むってこと・・・ごぞんじでしたか?あ、話を戻しますで、その白蛇抄というのは、よ...瓜割り~~~★新之助シリーズ第8話

  • 恋敵 ~~~ ★新之助シリーズ第7話

    恋敵・・・1例のごとく。師範代の控えのまでございます。そこにぽつねんと・・・今日も剛乃進は師範代を待っておりまする。大根事件がまだ、目新しい?読者さまはきっと、剛乃進がまた、なにかやらかすと、おもってるでしょう?あたり!!おおあたり!!あ~たはするどい!!なんて、ほめてる場合じゃないな。待ちぼうけの剛乃進の観察日記?をつづけてゆきましょうか。恋敵・・・2剛乃進が待てど・・・師範代はやっぱり現れない。う~~む。早く・・・ナントカしたいと思ってるのは剛乃進も今まさに馬上の人である師範代もおなじなのであるが・・・・。師範代は馬のたずなをひくという用事があるが、剛乃進はぽつねん・・・。することがなく、否が応でも、妙な場所の渇きを意識する。意識するとその存在が大きくなるというのは当然のことで・・・。「あ~~~。まっ...恋敵~~~★新之助シリーズ第7話

  • 法祥 回向せしむるかや 1 白蛇抄第10話

    謎の多い事件が片付いたを見届けると、法祥はこの地を後にして行くつもりであった。立ち寄らなかった家々を托鉢に巡り歩き夕餉らしき物にありつくと、件のお堂にて、寝入るつもりだった。明日も晴れるだろう。旅立ってゆくには良い朝になる。腹がくち、静かなお堂の中にねころがっている法祥の耳に微かな話し声が聞こえだした。話がこみいってきたのか、小道を避け、堂へ登る五段ほどの階段に座り込んだのは、二人の男だった。「何でも・・・それだけではないらしい」「柊二郎さんとこの墓はあらされていたらしい」法祥の仕業である事をそのまま、つげてない。しもうたと、思いながら法祥が聞き耳をたてたのは、それだけではないらしいという言葉がさわったせいである。「すると?なんぞ、その木乃伊に関係があるのかの?」「わからぬ。不知火導師がきておったが・・・...法祥回向せしむるかや1白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 2 白蛇抄第10話

    理屈づけることは簡単な事であろう。が、たとえ奈落の底に落ちようと離れまい、離すまいと決めおうた男と女はいとも簡単に死を選び取れるものかとおもう。心の深みに落ち込んだ男と女が情痴の限りを尽くさずに置けぬのも何故であろう?なれ初めおうたばかりの者が忍び合い乱行をくりひろげるのも、いつか来る別れをしって、お互いの中に忘れえぬものを刻みつけようとするせいであったのだろうか?京の都で取沙汰にされる色恋も様々ではあるが、知念寺の法祥と武家筋である染木藤ヱ門の娘、伊予との話は肉欲深きがゆえにその後の話が哀れであった。知念寺の法祥は八つの歳に宗門をくぐった。その歳から十余年。一日たりとも僧侶としてのお行を惰ることはなかった。が、どうしたはずみであろうか。法祥は伊予を見たその日から十戒さえ、どこかに忘れはて、ひがな座禅をく...法祥回向せしむるかや2白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 3 白蛇抄第10話

    東條の八十姫の塚の前に立つ不知火がいる。塚の中に眠るのは八十姫だけではない。八十姫と共に剣を刺し貫かれた康輔が共に眠っている。乳母の一子であった康輔は八十姫が人を喰らうことを絶てなくなっているとしると、八十姫の最後の餌食になるべく、八十姫をかきいだいたという。康輔を喰らう八十姫と康輔が共に相抱きあう姿のまま、歓喜の最中に二人を刺し貫いたのは康輔の母であり八十姫の乳母でもあった絹女であった。二人を共に相抱きあう姿のまま葬り去ってやると、絹女もその墓に被さる様にして自害したときく。二人の塚の後ろにある御守塚は、その絹女を祭ったものである。その八十姫が人を喰らうようになったのにも、わけがある。今を去ること百有余年、昔にさかのぼる。今はこの地に合戦があったことさえ遥かな昔語りになっているが、小さな山城でしかなかっ...法祥回向せしむるかや3白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 4 白蛇抄第10話

    康輔の血をすすり肉を喰ろうたのは八十姫だけではなかったのであるが、狂いは姫にだけあらわれてきた。十六の娘が生きる事をあがなうにはあまりにも過酷な通り様であったのである。康輔の腕を見る八十姫の心中はいかなるものであったのだろう。無残な棒のような腕を見る姫の幼い神経が病み始めた。己の通りようを肯定するほかなくなってくると、姫は「喰いたい」と、いいだしたのである。いかにもいとしいものはいとしさゆえに姫におのが肉をはませるのである。ならば、それをくろうてやるのが、誠。こんな肯定なぞあったものではない。が、病んだ神経はそれをうのみにしていった。やがて、羅生門に鬼が現れる。鬼は屍(かばね)をあさり、その肉を喰らう。この鬼はいわずと知れた八十姫のはてのすがたである。鬼が人を食うなぞという伝承はそも八十姫のせいなのである...法祥回向せしむるかや4白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 5 白蛇抄第10話

    「私は貴方が見抜いたとおり関藤兵馬というものです」男は最初に自分から己が関藤兵馬である事を認めた。この関藤兵馬は、阿波の国主の命をうけ養蚕の技術を学ぶために砺波の地にやってきてたのである。三年後その技術を習得した兵馬は、故郷にかえって、小作の者に覚えた事を伝授するだけが、残すしごとになったのである。「『これで、おおでをふってかえれるわい』と、おもうておったのです」ところが、京の都にちかずくにつれ、都の女人にふれもせず、匂いも知らずに阿波に帰るはいかにも、おしくてしかたなくなった。夕刻になって長浜までたどり着いた兵馬は法祥よろしく古びたお堂をその日の宿にする事にした。干し飯をはむと、兵馬はごろりと床に寝転んだ。歩きとおした足が棒のように張って硬い。足をさすり上げながら、もう少しで京だと思うとこの足の張りをほ...法祥回向せしむるかや5白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 6 白蛇抄第10話

    兵馬の話はまだ続く。「それで・・・あきたらず」兵馬は再び女人に挑んだ。同じ高揚をやりすごし、女人を明け方までせめさいなんだ。「が、いつの間にか、私はねいってしまったのです」と、兵馬は思い込んでいたのである。兵馬は朝になって、驚いた。「あの騒ぎでしょう?」お堂の外がやけに騒がしい。女人は何時の間にやら姿をけしていた。外の騒ぎに先にお堂を出たと見える。兵馬も外に出ると、人だかりが覗き込んでいるものを見に行った。「それがわたしだなんて・・・」人々が覗き込んでいたのは―木乃伊だった―井戸が枯れたのが元で不知火が村長(むらおさ)に呼ばれた。風水事は陰陽師に聞けとばかりに飛び込んできた村長におされるようにして、新しい井戸の場所を探った。地水の流れが変わっている。不知火はどうした故かと思いながらも、とりあえず村人の願い...法祥回向せしむるかや6白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 7 白蛇抄第10話

    「木乃伊の名は関藤兵馬。兵馬がこの地に埋められたのは今をさること・・六十年前」立ち去りかけていた兵馬は耳をそばだてた。自分と同じ名前の木乃伊。だが、関籐という名前はそんなにあるものではない。おまけに下の名まで同じである。不知火の瞳が兵馬をとらえた。「この木乃伊はまだ、己が死んだ事を知らずにおる」村人の中でさざめきが起きた。「うかびやらず、おのれがしんだともしらずに、そこらをうろつきまわっておる」「不知火さん。そいつはなにかとんでもねえことをやらかしていませんかね?」柊二郎の墓を暴かれた事を聞き及んだ男だった。墓荒らしは不知火のいう木乃伊になった男がうろつきまわった挙句の仕業とかんがえたようである。「いや。その兵馬には、これといった存念を感じぬ」わるさをするようではない。「あるといえば」不知火は木乃伊の男根...法祥回向せしむるかや7白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 8 白蛇抄第10話

    ここにおいて、やっと話の振り出しに戻ったのである。話し終えた兵馬に残る疑問に今度は不知火が答えねばならない。「得心できるかの?」ふん、ふん、ふんと兵馬はうなづいた。自分は既に死んでいる。と、考えるしかない事態である。が、死んでいる自分が、自分は死んでいると思う。思うという事自体は生きている人のようである。が、生きている人であれば、生きていると思うであろう。死んでいると思うという事がすでにやはり死んでいるのだなと兵馬は何度も自分に頷いたのである。「それで一体、私はなんで、死んでしまったのですか」自分が死んだわけさえ、おぼえていない。「それだがの」やや、つらそうな不知火である。「お前はどうやらこの塚の八十姫の怨霊にとりころされたようにおもえるのだがの」「八十姫?」「八十姫は人の血をすすり人の肉をあさるようにな...法祥回向せしむるかや8白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 9 白蛇抄第10話

    肉体を揺り動かされた兵馬が目覚める。本来ならば、八十姫が木乃伊を掘り出し、兵馬を目覚めさせその身体に魂をもどして、たぶん、交接を与え、その最中に兵馬をくらうはずだったのではないか?だが、兵馬はすべてをしった。そんな兵馬が。「もう、お前が八十姫の手におちることはなかろう?そうなると、八十姫は新しいにえをさがすことになろう?そのほうがきになるのだ」「はあ」だが、この男は未練を残している。己の死を知った今も成仏しないのはそれゆえである。八十姫の中に放ちたい物がこの男を成仏させないのである。たったそれだけである。だが、どうしてやれる?八十姫にあえて食われると覚悟させて、八十姫とまぐわせるか?兵馬が覚悟がついたとしても、たぶん、八十姫は兵馬の事はままならぬとあきらめをつけておろう。厄介な陰陽師が後ろにいる兵馬なぞ、...法祥回向せしむるかや9白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 31 白蛇抄第10話

    兵馬がどこにおるか。不知火は手繰った先にむかうことにした。不知火が手繰った先が妙である。兵馬がいる先は兵馬の木乃伊を安置したあの堂である。「なるほど」兵馬の考え付いた事に思い当たる不知火である。法祥を救えぬか?この思いから兵馬の思いつくことといえば。『しかし・・・やはり・・・・阿呆じゃ』堂の前に来て見れば、堂を遠巻きに人が耳をそばだてている。朝早くから伝え聞いた木乃伊を見物しに来た者たちであろう。堂の扉は錠をかけられていた。扉の隙間から中を覗きこんでみた者達は一様に驚愕の色をなす。干からびた木乃伊が台に安置されていた。誰かが白装束を夜具のように着せ掛けてやっていた。それでも白装束から突き出た顔といい、首筋といい、十分におぞましい様を呈していた。「朝はようから物見だかいのものだの。」物見高い人々が、堂を覗き...法祥回向せしむるかや31白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 32 白蛇抄第10話

    堂の鍵を開けると不知火は中にはいりこんだ。木乃伊の中に入り込んだ兵馬が不知火をみるより先に「あほう!」不知火の一喝がとどろいた。「ふやあ」おそらく兵馬は「ひええ」と、声を漏らしたつもりであろう。声帯も干からび、声が声のままに発音できもしない。「ばか者!」「ふぃい?」なんで、馬鹿だの阿呆だのといわれねばならない?だいたい、自分の身体に戻っただけでないか?それだけでないか?兵馬のどんよりしたまなこを覗き込んだ不知火である。薄ら見っとも無い身体を隠すように白装束をまといつけた兵馬は、不知火に叱りつけられ、わけが判らぬとばかりに目をぱちくりさせたい所であろうがそれさえもかなわず、まなこがよどんでいる。哀れも無様も通り越しておかしくなってきた。「ほんに・・おまえは・・あほうじゃ」「られど」こんな干からびた木乃伊の身...法祥回向せしむるかや32白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 33 白蛇抄第10話

    赤々と燃える火を人々は見詰ている。炎の真中の黒い物体はいきなりぐーんと反り返ったかと思うと、全身に火がつき体から炎を噴出した。「よう・・もえますな」「乾いた木よりよほど、脂もあるし」「まさに業火のさまですな」話の種が消えさるが、消え去る様もまた話の種になる。「やれんのお」面白半分に群がる姿、人の心。今の兵馬には程遠い。不知火も兵馬も幸せな人間の気楽さにさむざむとさせられていた。とにかく、人々には木乃伊は成仏したとおもいこませた。「なんまんだぶ」と、唱える人々の目の中の好奇は念仏をおまじないにさせている。回向に程遠い呟きを口に乗せ、己の薄さへの微かな痛みをなだめている。自分への念仏にしか過ぎない。『どちらが、すくわれるべきことやら』これが生きている事であるのかと思うと、尚更に康輔の思いに習えといってくれた法...法祥回向せしむるかや33白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 34 白蛇抄第10話

    人がおらぬようになると、ありがたい木乃伊になった兵馬が「そうなんですか?」いきなりそうなのかといわれても、なんのことやら。「な、なんじゃ、藪から棒に」「いえ、あの、ほれ・・明神に成るって」「ああ」いささか、あきれた。こっちの僑心をほぐすつもりでいったことではない。またも、あほうといいかけて不知火は黙った。仮に兵馬が法祥への心残りで成仏できねば、ここで明神になっておるのも一手かもしれない。だが、その前に法祥とともに死出を行く事をえらぶかもしれぬ。伊予に取り付いた八十姫を抱けるだけの心根はみせてもらった。あとは成仏する法をとかねばならない。うんというだろうか?見た目は法祥の女子である。白銅の懸念することを法祥がうんといったところで、兵馬がここまで法祥を思い始めている。兵馬が法祥の男心を考えるだろう。法祥より兵...法祥回向せしむるかや34白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 35 白蛇抄第10話

    兵馬だに救えない・・・。寝苦しさが法祥をうがつ。兵馬さえ救えない。そんな己が何もかも振り捨て伊予を追う。「兵馬・・が」呟きは夢をさます。だしぬけ。起き上がると法祥は兵馬を探した。どこに消えたか。兵馬は居ない。「兵馬」呼んでみたが、兵馬は現れなかった。変わりにあらわれたのが伊予である。「う・・」伊予は法祥の前に現れるとしっかりとぬかずいた。「もう、おわかりでしょう?」「ああ」伊予の想いはわかる。伊予が八十姫にとらわれているのもわかる。「そ、そ、それでいいのか?」「貴方がおきずきなら」伊予は法祥に抱(いだ)かれる事をのぞんでいる。「お前はおらんようになるのだぞ」「はい」八十姫もろとも成仏させろという伊予である。「わしへの思いものうなるのだぞ」「はい」「本当に、それでいいのか?」頭(こうべ)を振りかけた伊予であ...法祥回向せしむるかや35白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 36 白蛇抄第10話

    きこえる。きこえる。きこえた。たしかにきこえた。法祥が自分を呼んでいる。兵馬は自分を呼ぶ法祥の声が何を意味するかわかっていた。身体を揺さぶるように起こし兵馬は声の聞こえたほうに心を傾けた。伊予をかき抱く法祥の悲しい喜びがむねにつたう。いとしい人と思い一つに結ばれる法祥がみえる。思い一つしかないはずの法祥が兵馬をよんでいる。この身体を使い今こそ八十姫への存念をはらせ。法祥のせつなのどこに兵馬を哀れむ気持ちがわいてくるのであろうか。優しい男だけでない。伊予を真に思う男は兵馬の中の八十姫への哀れみをも十分すぎるほどに解していた。真に女子に惚れる男はこんな男の劣情にまで思いをはせる。「いいえ」兵馬は頭をかきむしった。くるしかろう。想う女子の横顔を見るのはかなしかろう?抱く事が女子を潰える。兵馬はまだ、よい。この自...法祥回向せしむるかや36白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 37 白蛇抄第10話

    「な?」兵馬の身体をつかめる者がいるわけがない。が、白くくすんだ光りのもやに包まれた存在が実態を明らかにしながら兵馬の胸倉を掴み、その頬をぴしゃりとならせあげた。「あ・・え」初め不知火かと想ったが違う。もやが静まる中に立ち尽くした男が平手を返して叫んでいた。「まだ、わからぬか?」「あ、あああ」噂に聞いた事がある。冷たい瞳に漆黒の長い髪。白絹をまとい、凍りつくような美貌。その後ろに白蛇がまとわる影が出来る。それが、白峰大神の姿なのである。「え、ええええ」なんで・・・。「はよう、いけ」白峰大神は兵馬の迷いをしっていた。「今しかないのだぞ」判っている。この機を逃せば兵馬は永遠にこの世を彷徨い続ける事になる。「けれど」兵馬の心をどう言い表せばよい。「不知火のいうとおりじゃ。お前は阿呆じゃ」兵馬はぎょっとする。不知...法祥回向せしむるかや37白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 38 白蛇抄第10話

    兵馬には大きな勘違いがある。八十姫の喰らいを自分に振り向ける事が出来るのは事実である。だが、それはあくまでも想いの世界の中。事実は兵馬が伊予と交わる法祥の身体を借りるように、八十姫が喰らうのは法祥の身体なのである。「まあ・・よい」白峰には白峰の策がある。法祥の生死を伊予にかける気などもうとうない。白峰大神と呼ばれる男が一か八かなどにかけはせぬ。あとはなるようになる。姿をくゆらせるかと想うた白峰がふと留まった。べたりと床にひれ伏す不知火がいた。白峰に気が付いた不知火は事の成り行きを見守るしかなかった。兵馬の想いを変えた白峰に、不知火が礼を示す姿だった。「不知火。惚れた女子を泣かせとうなかったのはわしがさきじゃ」「はっ」不知火がひのえをなかせとうないと、思ったことを白峰は言っている。「・・・」だが、法祥は死ぬ...法祥回向せしむるかや38白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 39 白蛇抄第10話

    「あああ」伊予の吐息がふかい。法祥は伊予をみつめている。最後の伊予はかぐわしい。思い残す事もない。「伊予」八十姫が現れるときまで、存分に伊予を法祥にひたりこませる。法祥の背に手を回す指先があらわしてくれる。伊予の快さを知らせる法祥の背中の痛みさえ快い。「伊予・・よいか?」「ああ」実を蠢かす動きは止むに止まれぬ恋情である。「恋しい・・・こんなに・・恋しい」慟哭に劈かれてしまいそうな。狂おしい激情もこれで最後。その刹那、兵馬を垣間見た。『来や』頷いた兵馬が確かに、法祥のなかにはいりこんだ。『共にはてようぞ』いとしい女子の中に命の息吹きをうめつくし男は静かに眠ることができる。「伊予・・・・・・・」この時をどんなに長くあじわいつくしたいか。果てそうになる肉欲をやりすごし、何度、兵馬を待ったか。待つ事が堪えさせる。...法祥回向せしむるかや39白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 40 白蛇抄第10話

    きらめく金色の光りが天井から降り注ぐ。「?」成仏してゆく者がみせるものか?「法祥さん」兵馬の声が響いた。「あなたは、よい。貴方には想いがのこる」伊予が消え果て、法祥に残されるものは。想いだけ。声のしたあたりに、法祥は叫んだ。「わしを、わしも・・つれていってくれ」静まり返っているだけの無しか見えない。もう、兵馬もいない?「伊予?」返事はない。探ってみても、気配さえない。「八十姫」これさえない。「伊予・・・伊予・・・伊予ぉーーーーーー」いきろというか。いきろというか。「伊予ぉお」号泣さえ、力ない。「うわああああああああああああ」床に突っ伏し今はなく事しかない。「わああああああああ」静まり返った堂の中、生をなげうつはずだった男の泣き声だけがひびきわたった。静かに溜息を付いたのはひのえである。「な・・・・なんとで...法祥回向せしむるかや40白蛇抄第10話

  • グッジョブ!!

    検索をみますと、アラハバキは、どこの星人・・というのがありました。お~~~~い。だいじょうぶかあああ?苦笑しておりますと、思い出すことがある。歴史的検索をおこなっていた(つもりの)憂生です。ヒッポタイト・・・有名ですよね・・・・。(ところが、相変わらず、どこかでぽろりん・・・。おまけによぶんにひろってきて・・・。)ヒッポタイト・・・。なんだっけ、歴史の教科書でみたっけ・・。どこだっけ・・。まあ、いい、ぐぐるか。ぐぐりますね・・・・ヒッポタイト星・・え?ヒッポタイト星人・・・え?え?またも、ぐりぐり頭はまよいまちがって、どこぞのスピリチュアル用語を歴史用語とまちがったのだな。シリウスが、ど~の、白鳥座銀河がど~~のよくわからんことが、いっぱいあったが、ヒッポタイト星人というのもいるのかもしれない。これは、き...グッジョブ!!

  • つじつま合わせの賜物

    法祥回向せしむるかや白蛇抄第10話終えました。順番替えは明日にしようと思ってます。この物語を書くとき・・・(まあ・・・いつもでは有るのですがwww)内容に見合ったシーン(どういえば良いか)にできるかどうか・・・というところにもがきます。今回は、情交というより情結?情融?きれいを通り越した美しいくらいのせつなさをこめたいと思いつつ書いていたのですが(当時)語彙不足があったり、時代物調の言葉のむつかしさ。瞬時にみつけきれず(なにせ、どんどん書いていたので、言葉を選んでる暇がない)とにかく、文字を置く。と、いう状態で、あとから読むとな~~んか生臭くなってるなあ・・と、感じたりしつつも推敲するどころじゃなかった。(でてこないwwww)深淵にふれるシーンもある一方笑い飛ばして読める「性」もありだな。と、いう考えも有...つじつま合わせの賜物

  • 法祥 回向せしむるかや 終 白蛇抄第10話

    堂の中にうずくまった男がようやく身体を起こした。端座して、想いを逸にする。やがて、堂の中にいつ止むとも知れない静かな回向経が篭る。後ろに現れた白峰に気が付いている法祥であるのに、振り向くこともなかった。気が済むまで法祥は回向経を唱えるだろう。唱え終わるまで、白峰もじっと待つ気でいるのである。膝を崩すことなく、白峰も座り続けていた。日が翳り夕闇が堂の中まで入り込んでも、まだ、法祥は唱えていた。春冷えが夜鳴く鳥の声までふるわせている。白峰の端座もまだ、つづいている。―ほほう―堂のやねにとまったか、ふくろうの声がやけに近い。「法祥・・ほうほう、ほうと鳴け」法祥は白峰の声をきいているのであろうか?白峰は委細を構わずひとりでしゃべりはじめていた。「しっておるか?ふくろうの鳴く声を・・」法祥の回向経は止む事はない。そ...法祥回向せしむるかや終白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 42 白蛇抄第10話

    「ひのえ。どこも水汲みにいそがしい。たってのむりをいうてかりてきた。はよう・・みずを」汲みにいく算段をせよといいかけた白銅が不知火にきずいた。「不知火か?どう・・だ?」やはり気になる事は兵馬であり、法祥がことである。不知火がここに来るという事自体、なにか事がおきたせいであろう?「まあ・・よいわ。水をくんできてから」ゆっくりはなそう。もうしまつはついておるのだ。言いかけた不知火のことばがとまった。言葉をとめる不知火に気が尽きてひのえも白銅もだまった。耳を澄ますまでもない。異様な音がする。ごぼごぼと水が湧き上がる音がきこえてくるのである。音がするのは裏手の井戸からである。「そうか」白銅のつぶやきがもれた。水脈が元にもどったのである。水脈が元に戻る。すなわち、それは、康輔の想いが平らになったという事である。「成...法祥回向せしむるかや42白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 41 白蛇抄第10話

    「それで、もうひとつは?」「もう、一つこそが白峰です」「なんと?」「あれは。こうなる事をとうの昔にしっていたのでしょう」「こうなることとは?」「法祥が八十姫にくわれることです」「だが、それをすくうたというのだな?いったい、どうやって?」「井戸の柊二郎のときに、白峰が法祥を使ったのは、不知火にはなしましたね?」「おお」うなづいてみせて、不知火はひのえの言葉を待った。「その折に。白峰は神の役に立ったと、記証をあたえているのです」「ふ。上手く行けば褒章で、失敗すれば帳合点けられるという・・勝手な神約束か」「ええ」「で、なんと?」「白峰は、法祥が伊予さんを回向せぬ事によって刻まれる因縁をとりはらうてやると」「な、なんと」ならば、たとえ伊予が策が功をなさずとも、法祥は八十姫にくわれることはなかったと、いうことである...法祥回向せしむるかや41白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 30 白蛇抄第10話

    不知火は朝餉を食い終わり、茶をすすっている。頭の中では、兵馬が右往左往している。「ひのえ。おまえはどうおもう?」ひのえは不知火の茶をつぎたしながら「不知火がかんがえついているとおりにするしかないかと」「そうか、おまえも・・そうか?」白銅もだまってうなずいてみせた。「そうだの」考え付いた事は。八十姫もろとも、女子を成仏させるためにも、法祥が女子を抱く。その刹那に兵馬が法祥の中に入り込む。これしか考え付かなかった。肉体のない兵馬を八十姫は求めはしない。だが、逆の見方をすれば兵馬は法祥の肉体を八十姫もろともえじきにするようなものである。兵馬はその痛みにたえられるだろうか?己の業の深さにいたたまれなくなれば兵馬は成仏できはしない。新たな悔いが存念になりかわる。「できることだろうか」「わかりません」ひのえがこたえる...法祥回向せしむるかや30白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 29 白蛇抄第10話

    烏の行水とはいうが、朝餉を前に自分を待っている二人を思うと烏にならざるを得ない。間の悪い時を選んだ己の足りなさを悔やんでも仕方ない。だいたい一人身の男は食いたいときに食い。眠りたい時に寝る。思い立ったが吉日のごとく、主眼はじぶんである。万事がお気楽な不知火にくらべ、どうも、夫婦者は困る。どちらが事であろうや?と、示唆してやりたくなる不知火であるが、それでも、出来うる限りにさっさと体を洗うと風呂を出て膳の前にすわったのだから、よしにしておくしかない。憎めない男はもさもさと飯をあさりだすと、ぐいと汁椀をつきだす。おかわりなのであるが、むっとした顔で白銅も負けじとひのえに茶碗を突き出している。『ああ・・しもうた』人の女房をわが女房のようにして、当り前に、無言で給仕を要求すれば夫たる白銅がおもしろくなくなる。『素...法祥回向せしむるかや29白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 28 白蛇抄第10話

    兵馬が行った先はどこあろう。不知火はくたびれ果てた身体を屋敷までどうにか、はこびいれた。自分の身体であるのに、重い物体に帰している。女達が炊き出した握り飯が夕餉であり、夜食になった。たいまつに照らし出された地を村人と共に掘り続けたればようやく水は湧き出した。にごった水が次々沸いて、わききり澄んでくるのを見届けるまでもない。不知火は夜おそく。いや、もしかすると朝早くかもしれない。やっと家路に着いた。「おらぬの?」ほっとすると、不知火は布団を放り投げるように床に敷き詰め、泥のついたからだのまま、文字通りへたばった。くたびれたからだが泥睡を呼ぶ。だが、不知火を身体の芯から眠らせた深睡はかくも快い目覚めをもたらす。「なんと?」目を開ければもう朝である。熟睡がくれたものは、明らかな覚醒と爽快感である。おきてしまえば...法祥回向せしむるかや28白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 27 白蛇抄第10話

    思いは天かける。兵馬の後ろを木立が家が森がとびすさってゆく。兵馬のその姿を見るものがいれば、人魂が中空を飛んでゆくのに腰を抜かさんばかりにおどろいたことであろう。兵馬が行き着いた先はあの女陰陽師の寝間のなかだった。「おや?」自分でもふしぎである。先ほど法祥の背を抱いていた兵馬である。どうにかならぬか?そう想った時この女陰陽師の顔が浮かんだ。あの人なら・・どうにか・・・。思った時には兵馬はもうここにきていたのである。いったいどうなっているのかより、これてよかったことがさきである。「おきてくだされ」白銅に添うように眠っている女陰陽師をおこすのさえ、気にならない。兵馬の気はせいていた。「おきてくだされ」二度呼ばれ、ひのえはがばりとはねおき、布団の上に仰臥した。「ああ・・たいへんなのです」まだ目がしばたたかれてい...法祥回向せしむるかや27白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 26 白蛇抄第10話

    丑三つ時を過ぎた頃に兵馬はむくむくと起き出して来た。この世の人が考える幽霊の倣いもその身におきているようである。「おや?」眠っていると思った法祥が膝をだかえ飄然とあらぬ方向をみつめている。「どうなさいました?」「あ」兵馬の声にこたえようとした法祥の顔がゆがんだ。「今度は何を・・泣きなさる?」「伊予があらわれた」「伊予というのは、貴方に取り付いているといった女子のことですか?」「ああ」「ふうん」法祥が涙を流すのはなぜであろうか?兵馬が考えつく事は「回向してあげれたのですな?伊予さんは成仏なされた?」伊予をとうとう失くし去った法祥の惜別の涙か?「いや。伊予はこの世にいる」「では・・・」なんで、泣きなさる?同じ言葉を繰り返して聴かれるのもつらかろうと思えて兵馬は暗黙に言葉を濁した。「伊予は、成仏するきになってお...法祥回向せしむるかや26白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 25 白蛇抄第10話

    埋火が薪をいぶらせ、やっと大火(おおび)がわいた。これで安心して横になれる。横になろうとした法祥は肩肘を突いたままみじろぎをとめた。「伊予?」決って伊予は法祥が死を意識した時に現れる。今しがたの法祥の思いの裏側に伊予を追おうかという迷いがある。法祥の底の迷いが伊予の法祥にかける生きろという願いを震わせるのであろう。囲炉裏をはさんだ法祥の前に伊予は座り込んだ。伊予は座ったまま軽く膝をくずしだそうとしている。哀愁を帯びた瞳が酷くなまめかしく、法祥をさそうようにみえた。「生きろというか?」先の法祥の思いを伊予は感じ取ったのだろうか?この伊予をだいてしまえ。この伊予を失くして、法祥だけの人生になってしまえ。もう・・かまわないのだ。成仏してもいい。伊予の心はそうさだまったのか?「おまえは、もう、わしへの想いも要らぬ...法祥回向せしむるかや25白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 24 白蛇抄第10話

    薄ら寒さを覚え法祥は目を覚ました。横になっただけのつもりであったのに、いつの間にやら、寝入っていたのである。囲炉裏を見れば、薪が燃え尽き、埋ずみ火になっていた。太い薪が燃え尽きているところからして、長い事眠っていた様である。溜息をついて、薪を取りに行った。兵馬は先に見たと同じ格好で眠っている。さむくもないらしい。寒くもない男が目をさまして、法祥の代わりに薪を継ぎ足しておいてくれるわけもない。いや。それより先に薪もつかめぬかと考え直して「いかぬ。つい、人がおるとあてにしてしまう」兵馬を人とはよべぬが、己の人恋しさはここにも現れる。どこかで自分に心配りを見せてくれる者がほしい。だが、こんな男の寂しい心は埋めたくはない。けして、人に思いをかけてもらえるような己ではない。が、無性に人恋しいときがある。伊予の思いは...法祥回向せしむるかや24白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 23 白蛇抄第10話

    堂に戻った法祥は火を起こし始めた。堂の中に放り捨てておいた托鉢の鉢に米をつぎいれ、そのまま竹筒の水をそそいだ。米を洗うにも外の井戸も枯れている。致し方ない。米を掴んだ手がふと兵馬の分もつかんでいた。「私はいりませんよ。貴方がそれだけ要るならべつですが」見咎めた兵馬が口をはさんだ。「そうだったの」「べんりなものですな」鉢がそのまま鍋になる。「あとが大変だがの」火にすすけた鉢を洗わなければならない。だが、水はない。飯は粥。米の分量に対し注ぎいれた水が多いから、兵馬にもわかる。焦げ付かさねば空になった鉢は拭い取るだけでもよいだろうが、「どうするんです?」擦り砂というてがある。「なるほど・・」「強い鉢ですな」よい香りがしてきて、米は粥に変わる。「くうぞ」くわない兵馬であると判っていても、遠慮が起きる。「どうぞ」喰...法祥回向せしむるかや23白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 22 白蛇抄第10話

    「法祥が塚に行った途端に八十姫がきえうせたというたの?」「ええ」やはり、白銅もその事を一番にきにしていたのである。「八十姫はせいておろうの」獲物をさがす。思念にひかかる者はいないか?女子に餓えた男がいないか?「が、男供はそれどころでない。井戸を掘るのに必死であろう?女子事にうつつをぬかしているばあいではない」それも康輔の計算にはいっていたのであろうか。八十姫の喰らう相手が見付からない。木乃伊がでてくる。塚が水をふきだす。陰陽師が動き出すのは目にみえている。「そして、不知火がいった」「はい」「たぶん。この男でもと八十姫はおもったことだろう」だが、不知火は甘い男ではない。かと言って後ろについてきた兵馬は事の全てをしってしまう。今更どんな手管で兵馬をおとしめることができよう?いとしいなぞという思いを露ほどに沸か...法祥回向せしむるかや22白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 21 白蛇抄第10話

    二人が帰るとひのえはあわただしく夕餉の支度に取り掛かった。「また、小松菜か?」「はい。沢山あります」ふんと鼻を鳴らして、白銅はてつないをするきである。「大根も・・」「まかせておけ」春の大根はとうをたちかけている。薄く半月にすると味噌煮にすることにして、「魚がくいたいの」白銅のねだる言葉にひのえは干魚をみつめた。「いや・・やはり・・いい」これも木乃伊である。気がうせた。「明日。もろこでももとめましょう」琵琶の湖の小魚である。「それを、甘露煮にしましょう」うんと頷いた白銅の喉がなったようにおもえた。「鯉こくもよいな」卵を抱いた雌の鯉の腹の丸みが思い浮かぶ。「そうですね」水に染みらせて、柔らかく解いた丸麩を小松菜の煮物にいれてゆく。大根と小松菜。今日の膳は二品である。「なるほどの」麩が戻るとひのえは水を絞るため...法祥回向せしむるかや21白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 20 白蛇抄第10話

    「塚の男は康輔という名であるがの。先にも言ったとおり、八十姫の行状を見かね己を食らわせてやる事にしたのだろう」それで、八十姫の狂いがおさまるわけもない。「それが・・・わたしをすくった?」「まあ、訊け」康輔は八十姫にその身を差し出し、いとしいといいつのったことであろう。その言葉は嘘でない。が、本来なら下僕である康輔が姫に言える本心ではない。康輔が本心を存分に姫に吐き出したには、わけがある。その思いで姫を抱き包み共に姫をあの世につれさろうとしたのである。姫の行状を見ているのはあまりにも酷い。姫の狂いはもはやどうにも成らぬと判ると、八十姫を静める方法はただ一つしかなかった。残された方法を選ぶしかない。覚悟を決めた康輔は八十姫を抱いた。そして。母を呼んだ。「もろとも、つきころしてくれ」絹女は康輔の今わの際の思いを...法祥回向せしむるかや20白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 19 白蛇抄第10話

    「どうでした?」ひのえは法祥に白銅の存在を誇示するかのように目をくばせてみせた。「ああ・・・ご亭主殿ですな?」法祥は一礼を返した。井戸の柊二郎の一件よりこの女陰陽師の夫なるものに逢うのは初めてである。白銅の狂いはあからさまにされてないことである。が、正気の白銅の姿を法祥に見せしめる事が、ひのえの深き礼を指し示していた。『よかったの』ひのえに胸のうちで応えると法祥は「八十姫は今しがた塚から姿を消しました」このたび、一番問題になる八十姫の行動を告げるとその後ろから現れた康輔の事を話す事にした。「その男が水脈をかえたのです」「そうですか」説明されなくても康輔が八十姫にどんな因果のある男かはよみとれる。「つらかったですね」ひのえは康輔を見た法祥の思いを宥めようとしていた。「い・・や」と、言葉が詰まった法祥である。...法祥回向せしむるかや19白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 18 白蛇抄第10話

    「それで・・・いかせたというか?」帰って来た白銅は不知火のつれてきた兵馬のことやら、兵馬をおってきた法祥のことを聞かされた。八十姫の塚から水が吹き出た事を既に白銅も村人から伝え聞かされたのであるが、井戸を定める事をさきにしたのである。加圧の薄い水脈に、これ以上、井戸を増やせば水が上がらぬようになると見定めると白銅は帰路に着いた。帰って、ひのえに八十姫の塚の湧き水のことやら、表上に出でた木乃伊の事を話そうと思っていた。が、案に相違して、既にひのえは全てを知っていた。知っているには知っているだけの事がおきていたのである。知っていただけではない。深い因縁が絡んだ寄り合い所帯が解因を求めて動き出していたとしか言いようがない。ひのえの口から聞かされてゆく事に白銅は少しばかりの怪訝を感じた。「だいじょうぶ・・・なのか...法祥回向せしむるかや18白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 17 白蛇抄第10話

    山際の裾野に抱かれるように窪地がある。窪地は杉の木立にさらに囲まれている。窪地にふみいってゆく。杉の木立の枝振りがしんなりとした陰をおとしていた。水の匂いが揺らめき、水にわかされた土の匂いが起ちこめていた。「土砂崩れのときのようなにおいがするな」呟いた法祥の足駄が水をふくみだしていた。眼前が既に水溜りをつくっている。水溜りというより、池に近い水量である。水面の真中にこんもりとした土饅頭がある。水の中に浮かぶ島のようである。それが、八十姫の塚であった。塚の一箇所で丸い肩がなでられている。そこから水がわきだしていた。すでに濁りをなくし清い湧き水になっている。池のよどんだ水に透明な湧き水は澄んだ墨流しを描いていた。「ふううん」法祥は目を瞑った。八十姫がいた。と、思ったのも、束の間。気配がきえうせた。「どうやら・...法祥回向せしむるかや17白蛇抄第10話

  • 委細は判らない。 判る筈もない。

    法祥回向せしむるかや白蛇抄第10話(16)不埒な男の思考であるが、ひとつ、思い出すことがある。その昔、母が朝永振一郎からサイン?をもらった。食事中に何か紙はないか?と尋ねられた母はありあわせのちょっと分厚い紙(端切れ?)をもっていったところ2枚「なにか」を書いてくれた。そして、「困ったことがあったら、売りなさい」と、言われたとの話だった。1枚はノーベル物理学賞の方程式・・・で、後にそれを欲しいという人が公式を調べてきて間違いない、と、50万で、と言い出したが断わった。(と、いう話を聞いている)そして、起業に当たって家にある金目のものを売りさばいて道具や材料などなどの操業資金にあてた。この2枚のサイン(色紙に表装しなおしている)も売ればいいと言われたのだがーいや、もっと、どうしようもなくなってからで良いーと...委細は判らない。判る筈もない。

  • 法祥 回向せしむるかや 16 白蛇抄第10話

    「え?だったら。本当は例えばこうやって私みたいに宙ぶらりんで彷徨っていても構わない?なのに、無理やりお経をきかせ引導をわたしていたというのですか?」それでは殺生である。いや、既に死んでいるのだからそうではないが。「お前が生きているのは・・・まあ、一つの思いのせいだわの?」生きているというのとも違うが、法祥のいう事の意味はわかる。「はあ、まあ、そうですな」一応、異論はない。「わしはその思いをなくさせてよいものだろうかと考えるのだ」「存在理由というやつですな」こ難しい言葉を知っている男である。確かにこの思いという物が幽霊をこの世に存在させる。思いこそが存在の理由である。「それで?」あっけらかんと聞きなおす兵馬である。成仏しないという裏に、思いをなくしたくないという気持ちはないのだろうか?伊予の思いを探るように...法祥回向せしむるかや16白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 15 白蛇抄第10話

    「よく、わからぬお方だ」兵馬は思った事を口に出した。死んだ事は今までの習慣をかえる。相手の顔色を見て、当たり障りのない事をいう。こんなことは生きている人間の上手く世の中を渡ってゆこうという術でしかない。「わしもそうおもう」伊予への心が自分でも色あせているように思える。なぜなのか?わからぬことなのである。「私にききたいことってなんですか?」兵馬は法祥の頷きの下にあるものにきがつきもしない。「おまえは、成仏したくないのか?」いきなり問いかけられた言葉に兵馬は考え込んでしまった。「成・・仏・・ですか?」法祥も問い直されるとは思いもしない。だが、考えてみれば当り前かもしれない。この男はまだ、自分が死んだ事をしったばかりである。「そうですねえ」やけにのんびりと兵馬は答える。「わたしは・・・・」考えている。「これとい...法祥回向せしむるかや15白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 14 白蛇抄第10話

    白銅がつかさどるのは青竜である。不知火がつかさどるのは玄武である。共に水のものである。だから、白銅もあらたな水脈を探る事にかりだされている。ひのえの側に白銅がいないのはそういうわけであるが、不知火の救援を求める者が不知火をさがしている。「飄々としているのは良いが、こんな肝心な時におらぬではないか」文句の一つを言うと、男は不知火の屋敷をとびだしてゆく。動静を見守っていたひのえであるが、ここまで、不知火を捜しに来る者がいる。「ここにおります」男は水に関ることであるのだから玄武の不知火にはなすべきだろうとおもいつつ、このさい、同じ陰陽師であると、はなしだした。「いえ。井戸は捜してほしいのですが」くちはばったい物言いである。「なんだという?」玄関先に不知火が顔をだしてたずねた。「八十姫の塚から水がふきだしているの...法祥回向せしむるかや14白蛇抄第10話

  • 師範代 ~~★新之助シリーズ第6話

    剛乃進である。あれから、師範代と妙な仲になりたいという困った欲望を妙なところがうったえるのである。「う~~ん」なんだか、妙にもよおしてくるのだが、剛乃進を慰める師範代はまだ、あらわれそうにない。「なにか・・・」師範代の変わりになるものはないものかと剛乃進はあたりを見渡した。が、ない。道場の師範代の控えの間で剛乃進はさっきから師範代をまっているのだけど・・・。「はやくこないかなあ・・・」まったく、その気になった男は一途というか、酔狂というか、閑というか・・・。「まだ・・・かなああああ」師範代の部屋の戸をあけて、外を見てみた剛乃進である。そこからは道場の裏門が見える。そして、道場の裏には畑がある。そこをつっきって師範代がこっそり、剛乃進と逢引しにくるはずである。が・・・。「ん?」畑にはやっと、おおきくなりだし...師範代~~★新之助シリーズ第6話

  • 剛之進 ~~~★1 新之助シリーズ第5話

    剛之進・・・・・その1題名が剛之進で有るに、関わらず新之助である。出仕が叶い、新之助は殿の傍役として、重鎮にあたいする存在になったのであるが・・・。今日は久方ぶりの連日非番の初日である。しばらくぶりに道場に顔をだしてみようと、出向いた新之助である。で、あるのに、「あれ?」誰も居ない。う~~~ん。よくよく、考えてみれば今日は出稽古だと師範代がいっていた気がする。それでは、仕方が無い。新之助は一人で素振りをしてみたり、黙想をしてみたり、今で言うストレッチをしてみたり、とにかく、皆が帰ってくるのを待つことにしたのである。出稽古とはいうものの、簡単に言えば他流試合である。その試合ぶりがどうであったか、他流の技がどうであったか、新之助は聞いてみたいのである。いろんな事をしながら、ひたすら、みなの帰りを待つ新之助であ...剛之進~~~★1新之助シリーズ第5話

  • 剛之進 ~~~★終 新之助シリーズ第5話

    剛之進・・・8朝はやくから、おきだして、新之助は今日は練習試合についてゆこうと、身支度を整えていた。なのに~~~~~。「しんちゃ~~~ん」垣根のむこうから、殿が呼ばわる。「あれ~~~。どうなされたんですか?」「う・・うん」なんだか、奥歯に物が挟まりきった、返事も無理がない。殿にすれば、昨日、狼藉物の侵入に新之助をほうりだして、にげだしてしまったことが、やましいのである。やましくもあるが、新之助がどうなったか、心配でもある。たまらず、新之助の家にきてみれば、新之助は怪我一つもない様子。安心すると、今度は、新之助がおこってるのではないかと、うかがい顔になってしまうのに、新之助は何事もなかったように、にこやかである。「大丈夫だったのか?」まあ、同じ道場の仲間のことだから、新之助がひとこと、「新之助だ」と、宣言す...剛之進~~~★終新之助シリーズ第5話

  • 引っ張ってしまって・・ごめん。

    昔馴染み・・・次がラスト・・・のはず。プロットの無い状態で、次々載せていくため(その間にキャラが個性をもちはじめそんなことはいわないここのところはおさえておけとか、注文がくるようになる)書くと気が付くwwで、なんとか、MIXすることにつとめるとラストのはずがラストでなくなる。もう1章とか・・・増えちゃう。で、今は、すっきりと終える話にするため、どう、もっていくか・・・いわば、扇の要を〆る作業。上手に〆ないと、ららら~~~?骨が抜けるよ・・開かないよ・・・と、いうことになるので、足りない頭をこねくり中。白峰大神のラストもこうだった。白銅はこんなことしない。子蛇はどう考える?などなど、さっぱり出てこず3日、ラストにもがいた。納得できる「筋」が、でてくりゃもう、なんで、こんな簡単な事を思いつかない!!と、いうほ...引っ張ってしまって・・ごめん。

  • 法祥 回向せしむるかや 13 白蛇抄第10話

    法祥が生きながらえたと衆目の知るところとなるのは、法祥が弥勒池にたちよってからこの地を逃れたせいである。旅姿の僧が念唱する。やけに念入りなことよと、窺い見たものはその顔が法祥であることにきがついた。そして、法祥は流浪の僧になった。伊予の未練が死体さえもうかばせなかった。漁師が伊予の亡骸が上がらぬと教えてくれた時、法祥の胸はいたんだ。「とむろうてやれ」禅師は法祥にいきろといった。もぬけのようになった心と身体のまま法祥は北をめざした。側に人がおらぬようになると、心はくらやみになるとみえる。禅師がおる御坊堂はよかった。だが、この堅田の浮き御堂は波が攫う音だけを寄せてくる。水の音は伊予のさそいのようであった。「いま・・・ゆく・・・」立ち上がった法祥の前に伊予が現れた。これが最初で伊予は時折法祥の前に姿を現すように...法祥回向せしむるかや13白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 12 白蛇抄第10話

    水脈がかわった。この長浜の地水は琵琶の湖(うみ)を基縁にしている。京はどうであろう。東山三十六峰に降り注ぐ慈雨が山肌に染み入ってゆく。やがて、雨は京の平地の地下深く集積し湧き水になる。もといが違う。法祥は首を振った。法祥が思ったのは弥勒池のことである。池というより沼である。その、沼には今も伊予が眠っている。沼は広く深い。淵に落ちれば死体もあがらぬ。藻が繁茂し、入水した人間を絡め二度と浮かび上がらせないはずだった。だが、手をくくり石を抱いて、あいだきおうて、共に死出の旅路にたった伊予だけを弥勒池は飲み込んだ。法祥、一人が何故うかびあがったのか、くくりつつけた荒縄の先には伊予はいなかった。(寿命ではなかったのだろう)法祥をかくまい隠遁を勧めた禅師はいった。伊予はこれが寿命だったというか?己を責めては成らぬと禅...法祥回向せしむるかや12白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 11 白蛇抄第10話

    その法祥である。木乃伊が出たと聞いて、早速足を向けるとそのお堂に入ってみた。「・・・・」なんともはや・・・。男の欲情が哀れを通り越し、ぶざまである。木乃伊のひからびた一物には女子の中にいき果てたいという情欲がとどこおっている。死しても尚、情欲を示す物があわれなものである。哀れな男の情念を見ていると、法祥はふと思いがうかぶ。(伊予)法祥の前に現れるようになった伊予の霊である。が、どうしたわけか、あれほど求め狂うた女であるのに法祥の身体には何の兆しも起こらなかった。(伊予・・・)法祥がもし、伊予を求める事が出来れば伊予は法祥の心に得心して、成仏できたのかもしれない。幽霊になっても、なお法祥の女である事に伊予は存念を昇華できたのかもしれない。が、伊予を死においやった己の欲望が、法祥を打ちのめすほうがさきだった。...法祥回向せしむるかや11白蛇抄第10話

  • 法祥 回向せしむるかや 10 白蛇抄第10話

    「白銅が、妬くか・・」と、不知火はすこしわらった。だが、「妬くような男でなければとうの昔におまえをあきらめておっただろうの」そうであろう?おめおめと、白峰のことでひき下がらなかった裏には、我が物にするという強い心があったせいであろう?その強い心の裏側で白銅が己の嫉妬に苦しんだのは当然であろう?逆をいえば、その心があらばこそ、白銅はひのえをあきらめなかった。嫉妬はいやがおうでも、いかにひのえを己一人の者にしたいかを白銅につきつけてくる。白銅は故にこそ、あきらめなかったのであるが、男から見れば当り前の感情も女子にはそうではないらしい。「それは、もうよいのですが」と、ひのえは心持顔を赤らめた。それがどういうことであるか不知火は気がつかぬふりをして見せた。「私が身動きが取れなくなっていた時に白峰が遣ったおとこがい...法祥回向せしむるかや10白蛇抄第10話

  • 次の物語・・・

    井戸の柊次郎・壱白蛇抄第8話(14)井戸の柊次郎・弐白蛇抄第9話(12)井戸の・・・をふたつにわけた。今までのパターンだと一つの話の中で2つの事の因縁納所?もしくは解決を行って来た。悪童丸では、悪童丸と勢姫の因縁と政勝(かのと)に仕掛けられた蟷螂の謀の解決白峰大神では白河澄明と白峰大神の1000年かけての因縁を解決白銅の妹鼎を我気道(あえて、こう書いている我の気の中に閉じこもってしまい、抜けられなくなるという意味も含めている)から救い出す。邪宗の双神では、双神を元一つの物にもどし波陀羅に関わる因縁をつぶしていく(子供も助かる*微妙な仔細があるが・・)と、いう具合に2つ、あるいは3つと話をこよらせたり、対比させたりしてー解決の糸口をつかんでいくーところが、井戸の柊二郎壱は、しいて言えば、蟷螂の様な「布石」の...次の物語・・・

  • 井戸の柊次郎・弐 1 白蛇抄第9話

    井戸の柊二郎をふさぎこんだ二人は屋敷を見ていた。「白銅のいうとおりでしたね」ひのえは柊二郎と比佐のさまをいった。「おもうよりはやかったの」「ええ」だが、これで井戸の柊二郎の諦念が定まることであろう。「あきらめがつくかの?」「つきましょう」井戸の柊二郎は、他の男を知る女子を嫌った。おそらく、あの最後の「由女」と、いう呟きもそうであろう。本当は妻である由女をのぞんでいたのであろう。が、どういう心情の絡みかは判らぬが、井戸の柊二郎は自分とは他の男を知る由女をうとみ始めた。兄の妻であったのだから、由女が生娘のわけはありはしない。当り前の事であるのに、いつのまにか由女への愛憎は鬱屈し、井戸の柊二郎だけを知る由女に似た久を心の糧にしようとしたのであろう。だが、井戸の柊二郎の偏愛は由女によって潰えられた。今の世でやっと...井戸の柊次郎・弐1白蛇抄第9話

  • 井戸の柊次郎・弐 2 白蛇抄第9話

    家にたどり着くと、この前のように白銅は寝入るかとおもった。が、「ひのえ」と、呼ぶ。「どうなさいました」「わしも、わしだけのひのえを確かめとうなった」言うが早く白銅はひのえを捕まえた。なんの遠慮も要らぬ夫婦になった二人である。ひのえもまた白銅の腕に包まれながら、自ら帯を解いていった。「ひのえ」「はい」ひのえが滴りを覚えるのも早い。白銅もいちはやくそれに気付く。「ほしかったかや?」ひのえが白銅の問いに答えるより早く白銅の物がひのえをつらぬいていた。「白銅」「お前は、わしだけのものじゃ」白銅の体が大きく揺らめき、ひのえの答えを嗚咽に変えさせていた。「そうじゃろう?気持ちがよかろう?ひのえを喘がせるは、この白銅ただひとりにゆるされるものであろう?」「ああ・・・はい」ひのえに与える白銅の兆着はあまりにも甘美過ぎる。...井戸の柊次郎・弐2白蛇抄第9話

  • 井戸の柊次郎・弐 3 白蛇抄第9話

    玄関を立ち去った柊二郎の姿が門をくぐるのを見届けるとひのえはくどに戻ることにした。朝の用意がまだ途中であった。くどに戻りかけたひのえは寝間の気配が変わっているのに気が付いた。「白銅?」小さな声で白銅の目覚めを確かめてみると「おう?」と、返事があった。襖を開けながら、「おこしてしまいましたか?」「なにや・・話し声がきこえたが?」白銅の声はまだ眠たげであったが、ひのえは襖を開き中に入った。陰陽ごとの報酬を白銅に知らせたくもあった。夫婦になって初めての陰陽ごとによる報酬である。「柊二郎さんですよ。貴方の小束を見つけたと持ってきてくださってそれと・・これ」和紙に包まれた銭をひらいてみせると「ほう?」かなりの枚数のぜにである。「ふううん。たっきの道になったかや」と、銭を当て込んだわけでないが、救いの法があっさりと銭...井戸の柊次郎・弐3白蛇抄第9話

  • 井戸の柊次郎・弐 4 白蛇抄第9話

    どのくらい、そうしていたのか、再び眠りの中に落ちていたひのえを呼び覚ます声がきこえた。白銅から身体を離すと、ひのえは聴こえてきた声の主の居る玄関をあけてみた。戸を開けるとそこには、托鉢を求める鉢を差し出す僧都がいた。「ああ。おまちなさい」ひのえはくどにはいり、米びつを開け三合ほどの米を布の袋にうつし僧都の元に戻り鉢の中に入れてやった。僧都は手をかざすと深い礼をひのえにささげながら「亭主殿の悋気は厄介じゃの?要らぬ因をうまぬとよいがの」と、いう。白銅の様子はただならぬことがよびよせるぞと、僧都には察する所があると言うのか?僧都の妙な言葉に、白銅の悋気が安堵のせいと高を括った事は、当たっていなかったのかと、ひのえは考え始めた。先行きを知らせる、はからいはいろいろな形をとる。虫の知らせというものもある。己自らが...井戸の柊次郎・弐4白蛇抄第9話

  • 井戸の柊次郎・弐 5 白蛇抄第9話

    「ひのえ」白銅の声にひのえははっとして、振り向いた。―目覚めた横にひのえがいない―白銅の猜疑を煽るにたる、ひのえの行動がむしかえされたのであろう。「わしの眼をあざむいて、どこにいっていた?」「どこにも・・いっておりません」「わしの目をぬすんで、白峰の所にいったことがあるに」「あ・・・」すんだことでしかない。其の事とて、白銅は重々承知していた事である。それがむしかえされるのは、井戸の柊二郎のせいである。ひのえは白銅が柊二郎の存念に差配されているとつげようとした。「まだ、おもうておるのか?」ひのえが言葉にする前に白銅の悋気がひのえを問いただし始めた。「そんなことはありません。其れを一番良く判っているのは白銅でしょうに?」白銅の正気が悋気を払ってくれる事を祈りながら、正気を引き戻すかのようにひのえは白銅に問い直...井戸の柊次郎・弐5白蛇抄第9話

  • 井戸の柊次郎・弐 6 白蛇抄第9話

    「やれ・・」托鉢に巡り歩いた村の外れの古ぼけたお堂に上がりこむと法祥は托鉢の鉢の中を覗き込んだ。確か、蔀葉に包んだ握り飯をくれたものがいたはずである。はたして、鉢の中には、大きな蔀葉飯があった。「かたじけなや」直ぐに食せるものは其れはそれで、有り難い。竹筒の水を確かめると法祥は握り飯にかぶりついた。―しかし。あの陰陽師は今頃弱り果てておろうの―托鉢に歩く村の中の屋敷に井戸がある。其の中に、優しく悲しい存念があるのを法祥は気が付いていた。―が、関るまい―およそ僧とは考えられない法祥の思い方である。が、この事に触れるのはあとにする。さりとて、法祥とて井戸の中の存在が気にならないわけではなかった。村を訪れるようになって二年。今日もあの存念は浮かびもやらずに居るのだろうと井戸をうかがってみた。優しい存念が得体の知...井戸の柊次郎・弐6白蛇抄第9話

  • 井戸の柊次郎・弐 7 白蛇抄第9話

    「いつまでそうしておる気じゃ」突然の声に法祥は辺りを見回した。「げっ」目の前に湧いて出てきたものに法祥の度肝は抜かれ、大きく口を開けたまま揺らめきあがる影を見詰るばかりであった。「し・・・白、白峰大神?」噂に聞く美しい姿態から蛇の性が揺らめき立っている。「な・・?」なんで?「ひのえをすくえ。白銅をときはなて・・」其の名が二人の陰陽師のものである事は法祥にもわかった。なぜ、白峰大神が二人を護る?大きな因縁の通り越しは読めた。が、ひのえを奪われた白峰がうらみこそすれ、助きを口にする?「な、なにゆえ?」白峰の冷たい目線が床を這い足元から登ると法祥の瞳をとらえた。「お前は、ほれた女子に命をかけた事がないか?ほれた女子の幸せを願うてやれぬか?」「わしは・・・」いまもって、伊予を回向できずにこの世にとどめさせているの...井戸の柊次郎・弐7白蛇抄第9話

  • 井戸の柊次郎・弐 終 白蛇抄第9話

    白銅の淀んだ眼には白峰の真意がうつらなかったということである。白峰の仕組んだ事がひのえには読める。『何をたくらんでおる?ひのえを取り戻すつもりか?』女々しくも婚礼の朝に挑戦的に白銅の前に立った白峰の姿がおもいおこされる。『いったい、井戸の柊二郎をどう利用するきだ?』その柊二郎の様子を見るために塞ぎを解く事は白峰の思う壺にはまるようにも思える。が、このままでは柊二郎の様子は裏の世界の事であり、みえることではないのである。「どうするか・・・」ひのえをねめつけるように見詰た白銅である。白峰の図りがあるのなら、塞ぎを解けば見えてこよう。ひのえの本意があかされることになろう。傀儡を抱くようなむなしさをおぼえさせられるくらいなら、いっそはっきりひのえの本意をみさだめてやろうではないか。「奪えるものなら、奪ってみせろ。...井戸の柊次郎・弐終白蛇抄第9話

  • 井戸の柊次郎・弐 11 白蛇抄第9話

    朝早くから戸をたたくものがいる。白銅が、嫌な目つきでひのえをみたが、その同じ眼で行ってみろと指図した。良くない状況である。ひのえに近寄る男にまで、猜疑の目を向け始める白銅になっている。が、その白銅がいってみろという。その後が思いやられるのである。おそらく、白銅はひのえをひどく、なぶることであろう。嫉妬が、白銅をとらえるだけである。どうぞ、男でなく、おかみ連の誰かである事を祈りながら、ひのえは戸口の錠を開いた。「ああ。澄明さん」柊二郎であった。「たいへんなのです。よし女の墓が・・あらされ・・」後ろからぬっと、顔を出した白銅のかおつきの変わりように柊二郎は言葉をうしなった。「あ・・・」白銅に言ってなかった礼をあわてて、つげだした。が、「白銅さん?どうなさりました?」尋ねずにおけなかった。「なにが?」「あ、いえ...井戸の柊次郎・弐11白蛇抄第9話

  • 井戸の柊次郎・弐 10 白蛇抄第9話

    黙り込んだまま法祥は土をかいだしている。法祥が今、やっている事は墓あばきである。(神の成させることとはおもえぬわ)法祥は白峰に一つの引導をわたされた。己の生き様を考え直せという白峰の言葉は、今までの法祥をあの世に送り出す事である。伊予と共に死ねなかったあの法祥を今度こそ黙させるのである。「でき・・ぬ」霊になって法祥の前に立つしかない伊予であるが、それでも、未来永劫、伊予を失くす定めを受け入れられない。(伊予)せめても、伊予の悲しそうな顔を消し去りたい。せめて、陰陽師の被りをとりのぞいてやろう。だが、実際伊予はどうなのだろう?この法祥に回向されたいのか?回向されたくなくて、あのような悲しい顔をするのか?それとも、二人が回向されるべき者と回向するべき者との対峙でしかなくなった事にか?(伊予・・・)暴きあげてゆ...井戸の柊次郎・弐10白蛇抄第9話

  • 井戸の柊次郎・弐 9 白蛇抄第9話

    「ふーむ」法祥は大きな溜息を付いた。「どうおもう」白峰に問われ法祥は「なぜ、由女の事を信じてやれなかったのかとおもいます」と、返した。「あやつが井戸の中で存念をだかえるようになったのは、其の由女に井戸に突き落とされ命をおとしたせいではあるがの」「あ?」「信じようにも信じれなくなった女子の挙動が何ゆえであったかなぞをもう、考え及ぶ付く柊二郎ではなくなっている」「由女の行動は何ゆえかは判りませぬが、其の事で、柊二郎は成仏できぬ怨念にからめとられたと?」「そういうことだろうの。もともと、柊二郎という男の真意は由女にしかない。裏切りも飢えも悲しみもひがみも由女を心底わがものと思えぬ憔悴が生み出した心の形に過ぎないとは、おもわぬか?」(そうだろう)と、法祥は思う。己が心さえ見ておれるものなら、伊予がどこにとつごうが...井戸の柊次郎・弐9白蛇抄第9話

  • 井戸の柊次郎・弐 8 白蛇抄第9話

    井戸の存念の正体は先祖の柊二郎である。その柊二郎は、次男にうまれた。当然、立場的には世で言う冷や飯喰らいである。おらぬ方が良いくらいなのに、役にも立たぬばかりか、生きている限りくわねばならぬわけである。おらぬ方が良い存在。と、なった柊二郎の心に、哀しいひがみが生じる。なにかにつけ、兄の存在が柊二郎をさいなむ。ところが、どうしたことか、その兄は病魔に冒されるとあっけなくこの世を去った。途端に手のひらを返したように柊二郎の存在が重く尊く扱われ始めた。このまま嫁さえもらえず、我が子を見る事もなく一生をおえるか?と、思っていた柊二郎に、兄の妻になったばかりの由女までもがあたわれた。なんという。奇遇であろう。兄の死を喜んではいけないことであろうが、柊二郎の日陰の身は一遍にひのあたる場所におどりだされたのである。柊二...井戸の柊次郎・弐8白蛇抄第9話

  • 与一~~~!!★新之助シリーズ第4話

    与一~~~!!/其の壱新之助。今日は殿の弓のお稽古に同道である。やってきたのは、城内のはずれに作られた弓道場。早速殿に弓をささげ渡す新之助である。「どりゃ」みておれ。あの、的に当ててみせる。矢をつがえると、一射!!「お見事」新之助の賛辞をききながら、殿はおもしろくない顔である。矢は的のど真ん中を見事に射抜いている。「どうなされました?殿?」なんで、そんな苦虫を噛み潰したお顔をなされるのです?「新之助。よくみてみろ」「はい?」よくよく、みてみれば、矢は殿のたつ直線状の的でなく、三っつ横の的にたっているのである。「はあ・・」どう、おなぐさめすればよろしいのだろう。「しかし、偶然といえど、的にはあたった」新之助が考え込んでいる間につぶやいた殿の一言。つ・・・つまり。ま・・・的に当たる事が偶然?つまり・・・。殿の...与一~~~!!★新之助シリーズ第4話

  • 黒~~~~!!★新之助シリーズ第3話

    黒~~~~!!/其の①新之助。今日は馬術である。殿は例のおひんにまたがり颯爽と新之助はもう一頭の馬。黒にまたがり・・・。またがってない。それどころではないのである。あぶみをつけようにも、黒は否否否~んと、にげまどう。新之助は背中にのせてもらえないどころか、黒にくいつかれ・・・。「殿・・・さては、こうなるのがわかっておいでだから、新之助に黒をおしつけたのですね」「だって・・・。黒はいう事をきかないんだも~~ん」はああああ。まずは黒を手なずける事が先のようである。だけど、新之助には妙案があるのである。お話はいきなりとんで、次の日である。「さあ、いくぞ」殿は今日も馬のお稽古だという。だけど、本当は新之助が困るのを楽しんでいるようである。新之助は昨夜のうちにすでに策をろうしている。だから、落ち着き払って、厩に向か...黒~~~~!!★新之助シリーズ第3話

  • 馬鹿単純

    井戸の柊次郎・壱9白蛇抄第8話を、読み直していた。ここまで、書いちゃ、まずいと思う部分は有る。が、宿業・・終白蛇抄第7話でも、そうなのだが・・・沙奈の叫び。『朋世。お前がわしに応えたのはなんじゃったんじゃ?何故、わしにあれほどに応えてみせたんじゃあああああ?』その言葉の中、あれほど・・・その「あれほど」を、書いておかねば「あれほど」の「程」が通じない。と、いう馬鹿単純さで書いておく。同じように、井戸の柊次郎・壱9白蛇抄第8話悪しき存在がいかように悪しきことをするか・・・そのまがまがしさを醸し出すとともにもう一つの恐ろしい事実を、肯定させる。餓鬼を追い払うことはできるだろう。が、娘の中に仕組まれた「女」を解く事は出来ない。まがまがしさ・恐ろしさの薄い、別の視覚での物語と読み比べてみるともしかして、まがまがし...馬鹿単純

  • 井戸の柊次郎・壱 1 白蛇抄第8話

    どちらも譲らないまま、澄明いや、ひのえと白銅に決済はゆだねられた。白銅の父、雅は白銅を養子に出すという。鼎の事に恩義を感じているせいでもあるが、正眼のところには後がない。餓鬼に落ちて助かった事なぞ皆無である。諦めていた娘が帰ってきたのである。一人の娘の人生が救われたのである。この事を思えば後のない正眼に白銅を差し出す事は物事の礼節であろう。が、ありがたいと喜ぶはずの正眼は、がんとして首を縦に振ろうとしなかった。《女子は外に出すもの。生まれた時から其のつもりであった》と、いう。体の弱かった今は亡き妻を望んで子までもうけた正眼にとって、それ以上の事は過分の事であった。「ふううう」溜息をついたのは雅のほうであった。言い出したら聞かない。温和で優しい男のくせにひどく強情な正眼なのである。ひのえの母である呼世を娶る...井戸の柊次郎・壱1白蛇抄第8話

  • 井戸の柊次郎・壱 2 白蛇抄第8話

    あつらえ向きの一軒の空き家の前に白銅とひのえはたたずんでいた。近所のものに尋ねて家主を請えば、すぐ近くの在所と知り二人は家主の家を訪ねた。「ああ。ようございますよ」二人の家の中を見せて欲しい、良ければ借り入れたいという申し出に家主はこころよく承諾すると「つい、この間にも掃除に入った所だし、綺麗なものですよ。何鍵なんぞかけてない。入ってみてよく見てから決めなさればよい。だが、二人で住みなさるにはひろすぎるでしょう?」一室には祭壇を置く事になる。陰陽ごとで訪ね来るもののために応談の部屋も欲しいひろすぎることはないのではなかろうか?家主の許可を得ると二人は家の中に入って行った。東南の小部屋の戸を開け放つと小さな庭が目の前にあった。「明るいの」「ええ」ひのえはくどに歩んで行った。後から付いていた白銅が「いいではな...井戸の柊次郎・壱2白蛇抄第8話

  • 井戸の柊次郎・壱 3 白蛇抄第8話

    明けて三月。雛の日をむかえ白烏帽子のひのえを迎え入れる新居に膳は運び込まれ、白銅は落ち着きなくうろうろと歩き回っている。産土神社では、やがて、やってくる花嫁と花婿の儀式のためのしたくを神主は調え終えていた。なれたことである。白銅の落ち着かぬに比べ神主はゆくりと腰を落とすと出された梅の花茶をすすっている。とうとう待ちくたびれたのか白銅は産土神社の前で花嫁を待ち始めていた。「ひとりかの?」白銅の後ろに立った気配に声をかけられた。ゆっくりと振り向いた白銅が見定めた相手は「ああ」祝い事のひとつでものべてみせるつもりであったのだろう。白峰であった。が、白銅の推量とは違い、白峰もさすがにこの日は男の見栄も何もあったものでない。ひどく、悲しげな顔をしていた。それはしかたがないことであろう。産土神の差配を受ければもう、ど...井戸の柊次郎・壱3白蛇抄第8話

  • 井戸の柊次郎・壱 4 白蛇抄第8話

    新居にて朝をむかえると近所の口さがないおかみ連中が入れ替わり立ち代りとやってくる。手ぶらでは様子伺いがあからさますぎるので、おかみ達は畑で作った野菜を手に持ってくる。くちうらは同じで「何かと物入りでありましょう。うちの畑で取れた野菜ですがどうぞ」と、朝から何度同じ言葉をきかされたことであろう。くどはあっという間に野菜置き場になり其れが小さな山を作っていた。野菜なぞを持ってくるのはきっかけが欲しいだけで、皆やってきた新造さんをみてみたいのである。「えらく綺麗な人だよ」先にひのえを見てきたおかみが噂をふりまいてゆけば、物見高い女の性は臆する事なく次々に野菜をはこびこむことになった。そんな事が二、三日続いたが、後はぱたりと治まった。「可笑しな事」野菜の到来はありがたくはあるが、ひっきりなしに人が来るのもかんがえ...井戸の柊次郎・壱4白蛇抄第8話

  • 井戸の柊次郎・壱 5 白蛇抄第8話

    「陰陽ごとをなされると?」男が尋ねてきた。「はい」居間に男を通し、白銅をよぶと、ひのえは茶を入れて、男と話し始めた白銅の傍らに座った。男は陰陽師であるという事を聞き及んだついでにひのえもまた陰陽師であると言う事もきかされていたようで、女子が話しに介在する様子に訝しげな顔を見せなかった。「澄明さんですよね?」名前もきかされているようである。「白峰大神をしずめられた。あの澄明さんですよね?」「あ・・はい」白峰を鎮めたといわれると、違うともいえずひのえは頷くしかなかった。元を正せば、ひのえのせいで、白峰にあふりをあげさせてしまっているのである。種を蒔いた本人が芽を摘むのはあたりまえのことであり、いわんや、お前のせいであふりがあがったといわれたとしても、しかたのないことである。だがら、手柄ごとのように言われるのも...井戸の柊次郎・壱5白蛇抄第8話

  • 井戸の柊次郎・壱 6 白蛇抄第8話

    白銅の問いに男、いや、柊二郎の顔色がさっと、変わった。「何か、いわれはありませなんだか」「あの井戸に?」「何かがひそんでおります」柊二郎は頭をだかえこんだ。「あの・・・井戸は」柊二郎は唐突に話し始めた。「昔、色に狂うた先祖がおりましてな。それが、私と同じ「柊二郎」といったそうなのですが」先祖の柊二郎はその名が表すとおり次男坊であった。が、長男の病死で家督を継いだ。やってきたばかりであった亡兄の妻を我妻に治すことにも依存はなかった。由女は物静かで優しい女子で面立ちも柊二郎の好みに叶っていた。幸せで平穏な日々が続いた。何の過不足もないはずの柊二郎であったのに何に魔がさしたのか柊二郎は、家に出入りする手伝いの女に手をつけた。それが最初で、柊二郎は次々と女に手をつけ狂い始めていった。「むごい様が今も屋敷の中にのこ...井戸の柊次郎・壱6白蛇抄第8話

  • 井戸の柊次郎・壱 7 白蛇抄第8話

    ―判りました。明日でてゆきます―由女はうなづいた。柊二郎のことである。一旦身体をあわせた以上は、気が済むまで久をだきつくすだろう。もはや、なってしまった事を元に戻す事は出来ない。それよりも下手に柊二郎の狂気を煽ってしまうことがおそろしい。獣姦をやりのけているのも由女はしっている。雌鶏をなぶっていた柊二郎が声をもらした。―よい・・ようしまりよるわ―くえという押しつぶされた声は雌鶏を締めたせいであろう。おそらく絶命の時の筋肉のしまりを楽しんでみたのであろう。それも、女子を連れ込むよりは良いと由女は目をつぶった。が、それを久でためさせられてはかなわない。狂気は柊二郎の意識をどこにはねのかせるか、わかったものではないのである。次の日になると、由女は柊二郎の元に行った。―おいとまいたします―と、いうと―ひとつだけお...井戸の柊次郎・壱7白蛇抄第8話

  • 井戸の柊次郎・壱 13 白蛇抄第8話

    わが身を奪われ、暗い井戸の底に住み続けながら柊二郎は娘の身をあんじていたのである。「私に成り代わった井戸の柊二郎は早速存念をはらそうとばかりに・・・・」まだいたいけない比佐を押さえつけ陵辱をくりかえしてきたのである。この三年の間に生身の大人の男が少女を蹂躙しつくしたのである。信じられない恐怖が比佐をつつんだ。其の恐怖を与える男が父親であるばかりに寄る辺を求めるしかなく比佐は父親の要求にしたがってきた。が、恐怖はいつしか均衡を崩した。自分の体が比佐が女である事を教え始め、柊二郎を父親としてでなく、男として迎え入れる女をつくりはじめていた。「あれは、自分から・・あやつをもとめるように」それでも柊二郎は比佐の変貌ぶりを井戸の底から見詰ているしかなかった。が、其れはある日突然終止となった。「あなた方がこの地を浄化...井戸の柊次郎・壱13白蛇抄第8話

  • 井戸の柊次郎・壱 終 白蛇抄第8話

    「ひのえ。塞ぎしかなかろう?」そうなのだ。井戸の柊二郎を塞ぎでさにわするしかない。「それに、いずれ、なることであろう?」白銅が浮かぶ事をひのえに暗示した。「そうですね」遅かれ早かれ、井戸の柊二郎を成仏させなければならない。が、井戸を出てきては比佐を抱く柊二郎では、成仏への法は開けない。「どのみち、塞ぐしかなかろう」ひのえが頷くのを見た柊二郎は「あの?塞ぎ・・とは?どうすることです?」「井戸の柊二郎を祭神に祭り上げます。井戸に柊二郎を閉じ込め、神域を作り、逆の結界を張り、柊二郎の神域を定めそこからでてこれなくするのです」神に祭ると言う言葉に柊二郎は驚いたようであるが、其れが一種の言いのけ、大義名分としての祭りであるとわかると、「騙すようなものですね」と、柊二郎は己の身勝手にいくばくか悲しむ、人の良い優しい一...井戸の柊次郎・壱終白蛇抄第8話

  • 井戸の柊次郎・壱 12 白蛇抄第8話

    ひのえは白銅をさがし居間に戻った。祭壇の祭られた部屋の清めに行ったのか白銅はいなかった。それならばとひのえは榊をとりにいった。「なんだ。もう、帰ったのか?」縁から降り立った白銅が既に榊の側により枝をえらんでいた。「はい。其れよりも妙な事をききました」ひのえの顔色を見て取った白銅の顔がひきしまったものになった。ひのえはおかみに聞かされた話を白銅に話した。「すると・・娘さんはすでに・・」どちらの柊二郎にかは判らぬことではあるが、てをかけられていたということになる。「三年も前から井戸の柊二郎との事があったというのを今の柊二郎さんが知らぬと言うのもげせぬことでしょう?」「たしかに・・」「が、あの柊二郎が先に娘さんを手篭めにしていた?これもげせない」「確かに。後釜に納まる。つまり養子であろう。が、あの人は養子の性分...井戸の柊次郎・壱12白蛇抄第8話

  • 井戸の柊次郎・壱 11 白蛇抄第8話

    二日もせぬうちにおかみ連の中の一人が聞きつけた噂話をたしかめにやってきた。戸口に突っ立ったまま「やはり、あんたは澄明さんなんだね?」と、尋ねた。「そうだよね。で、あの屋敷にいったんだよね?」夜遅くの二人の行動をどこで、しったのであろうか?柊二郎の娘の元にやってくる物の怪のことまでしっているということであろうか。「なにか?」と、尋ね返すひのえを見ながら、口幅ったいのはいやなのであるが、と「いやね。何が何だかよくわかんないんだけどね。あそこの男はよくないんだよ」随分歯に挟まった物のいいかたをして、ひのえが聴く気になるのかを探る顔をしていた。「どうよくないんです?」切り替えされた言葉の手ごたえは悪くない。「そりゃぁ、これからはなすけどさ。そんな男が陰陽師に何の用事があるかって、おもっちまうんだよ」どうやら、この...井戸の柊次郎・壱11白蛇抄第8話

  • 井戸の柊次郎・壱 10 白蛇抄第8話

    二人は思案する。柊二郎には、なんといえばよい。それもある。だが、実体のない物が精をはきだすことまでやってのけた。あまつさえ精も確かな実在であった。あの生臭いにおいがまだ部屋のなかにある。「この臭いも常人にはわからないものなのでしょうね?」「そうであろう・・の」「でも・・どうします」「調伏が効く相手ではなさそうだの」「はなしあえましょうか?」「う・・む」無理であろう。あのときの薄ら笑いには、お前らではどうしようもなかろうという愚弄と余裕がみえた。ましてや先祖の柊二郎の狂気をおもわば、人の話しなぞ聞き入れる気はないだろう。すぐに打つ手も思いつかず、二人は思案に暮れた。「どうします」今度のどうするは、やはり柊二郎にどういおうかということであった。「ままよ。どうせ柊二郎もわかっておることであろう。はなすまでよ」「...井戸の柊次郎・壱10白蛇抄第8話

  • 井戸の柊次郎・壱 9 白蛇抄第8話

    「もう、しばしで丑三つどきになりましょう」「うむ」もうしばし、二人は端座する。夜半の鐘が丑三つ時をしらせはじめた。「逢魔刻です」ひのえが小さく呟く声が静まりかわりに耳をふさぎたくなる声が隣室から漏れ出してきていた。「嗚呼」声が漏れてくる部屋の襖をわずかばかり開いてのぞきこんでみた。夜具はめくり上げられ娘の白い太ももがあらわになっている。その太ももを両手で抱きこむようにして娘の開かれた足の間に男根を突き入れている醜い姿のものがいた。薄い藻のような物が全身をおおっている。餓鬼なのであるが、普通の餓鬼の様相ではない。執心が餓鬼の身体をつくっているようであるが、実体はあるようにみえない。いわば、白峰と同じで執心の深さが有り得ない像を実体化させてしまっているのである。それで、柊二郎にはみえなかったのである。そして、...井戸の柊次郎・壱9白蛇抄第8話

  • 井戸の柊次郎・壱 8 白蛇抄第8話

    「柊二郎が水を汲むのを見計らって由女は井戸に柊二郎をつきおとしたのです」と、今の柊二郎は井戸にまつわる話を終えた。「柊二郎の存念が祟っているということか」白銅の推察にひのえは頷いた。「久という娘さんへの情念を果たしきれずに死んだ」「だとすると、男と言う者はしまつにおけぬ困ったものよな」白銅が言うのは白峰の事でもあり、また自分のことでもある。「とにかく。夜半にまいりましょう」柊二郎に送り出されるとひのえと白銅は井戸の思念に照準をあわせはじめていた。「おりますね」「気配をころしておるようだがの」井戸の中は静かであったが、確かに何かがいる。「その娘への執着心だけのようであるな?」「ええ。でも」ひのえはどうにも、腑に落ちぬ事を考えなおしていた。「なんじゃ?」「いえ。なぜ、あのように優しい存念であったのにこのように...井戸の柊次郎・壱8白蛇抄第8話

  • 殿~~~~~!!★新之助シリーズ第2話

    春。爛漫の春。桜。花開き家老、野原新左衛門も胸を撫で下ろす。嫡男である新之助の主家へのご奉公がかなった。それだけではない。新之助は若殿の近習に抜擢された。いきなりの異例の出世である。もちろん、父である、家老の新左衛門の七光りもあろう。若殿がこのたび跡目をついだという実権の交代もあった。上に新之助とは年齢的にもかわらぬ殿である。腹心の存在。これが、殿の必要な条件になったのでもあろう。これからの世代を繁栄させてゆく若者である殿。そして、新之助。時代が変わってゆくのだ。新左衛門の胸に押し寄せてくる感慨は、主家に勤め20年以上を越してきたものでなければわからぬものがある。「新之助。殿をお守りもうすのだぞ」息子に語った言葉はまた、新左衛門の半生の「決意」其のままである。親子2代で殿にお仕えできる幸いに新左衛門は涙ぐ...殿~~~~~!!★新之助シリーズ第2話

  • 白峰大神の登場は???かもしれないが・・・

    宿業白蛇抄第7話終えました。順番替えも・・・www昔馴染みがもうすこし・・で、終わる。宿業の中・・・宿業・・・5白蛇抄第7話宿業・・26白蛇抄第7話で、白峰大神がでてくるわけだけど、この物語だけを読んだ人はなんのこっちゃ?とってつけた?と、感じるかもしれない。これは、邪宗の双神・・1白蛇抄第6話「しかし、気になる事が一つ、残ってしもうた」「ん?なんじゃな」八代神も実を喰らうのをふと止めて尋ね返した。「鼎を助けた折の事じゃ」ひのえが我気道に落ちた白銅の妹を救い出した事を言うのである。「ああ。餓鬼に落ちたを救うた事か?」「ああ・・・」「で、気になる事というは、やはりひのえかの?」「うむ。あれはその事で魂に業を受けておろう?」「ああ、、山童がの」酷いほどの山童の陵辱をひのえが一身に替わり、引き受けたのである。「...白峰大神の登場は???かもしれないが・・・

  • 宿業・・・1 白蛇抄第7話

    佐奈と朋世からこの物語は始まってゆく。佐奈の指先が細かく震えていた。佐奈のしでかした事に脅える眼のまま、少女は僅かに身体を動かした。男、いや、少年がもう自分を押さえ込むことはないと判ると少女ははだけられた着物の前を合わせていたが、今更逃げる気もうせはてていた。陵辱の痕に少女が気付くと、呆然としたまなざしでその血の色を見定めていた。―何かが死んだ。自分の中の何かが死んだー血の色は朋世の瞳の中でじっとうずくまっていた。―自分の中の何かが血を流し、ここで息絶えたのだー既に失われた物をこれ以上失うことはない。朋世は逃げる事も忘れはて、陵辱のその場所にじっと座り込んでいた。―これ以上、もううしなう物などありはしないのだーおびただしい破瓜の血の跡を、座り込んだまま見つめている少女の肩に佐奈は手を置いた。恐れる心もなく...宿業・・・1白蛇抄第7話

  • 宿業・・・2 白蛇抄第7話

    佐奈が見せれる事はもう何もしないという事だけであった。佐奈は伸ばした手を引き込めると立ち上がった。立ち上がりながら、佐奈は自分の口から出てくる言葉を一旦は飲み込んだ。が、今。その言葉を少女にかけることしか、少女を慰めるすべがなかった。同時に己を正当化させ愚かな佐奈自身を慰める言葉であった。「お前が・・・好きじゃ」口をついた言葉を、佐奈は自分でも、そうなのだと言い聞かせていた。少女の瞳から、つうううと涙が零れ落ちてくるのが見えた。「だから・・おぼえておけ」立ち上がったまま、佐奈は、少女の涙に胸を切り裂かれる痛みを覚えた。その言葉どおりなのだ。だから、しでかさずにおれなんだ。そうに違いないのだ。佐奈は何度も自分に言い聞かせながら、少女の前から立ち去っていった。立ち去ってゆく男がもう謝ろうとはしなかった。謝って...宿業・・・2白蛇抄第7話

  • 宿業・・・3 白蛇抄第7話

    「なぐさみものにされただけだったわよ」幼馴染のお甲が笑って言い放った。村の神事の夜にお甲は定太に夜這われた。「これで一緒になれる。と、おもったのに、うまくゆかないもんだね」と、付け加えた。思う人に忍ばれる事を願って村の女子達は、しん張り棒をそっとはずしておく。「生娘じゃなかったのが、きにいらなかったんだろうね」お甲はあっけらかんといいのけた。しん張り棒を自からはずした以上、誰が夜這うて来ても、致し方ない。思う人は来ないかも知れぬ。それでも一縷の望みをかけて覚悟を決めるしかない。「おなごになるからね」しん張り棒をはずす事を決めた時にお甲は言った。「わかってるかい?男のあそこが身体の中にはいっちまうんだよ?」とも、いった。「あんた。ちゃんと、定さんに言ったのかい?きておくれっていったのかい?」「う、ううん。ま...宿業・・・3白蛇抄第7話

  • 宿業・・・4 白蛇抄第7話

    木陰から佐奈は少女をじっと見ていた。無事に村への抜け道にたどり着くのを見届けると佐奈は再び森の中に走り出した。走り出しながら「あれが・・・いかんかったんじゃ」佐奈は呟いていた。少女に出会う前、森外れにある炭焼き小屋で佐奈はくたびれた身体を休めていた。積み上げられた薪の後ろに隠れて佐奈は身体を伸ばした。いつの間にか、佐奈が深い眠りに落ちていたと、気が付かされたのは女の妙な声が聞こえたからだった。「陸・・・」男が女の名を呼んだ。媚を売るような鼻にかかった女の声がはっきり佐奈の耳に届いた。続けてその声がみだらな音色に変わったとき、薪山一つの向こうで男と女が何をしているか佐奈にも判った。「周さん・・」女が吐息とともに男の名を呼んだ。その場所から出ることも叶わず、佐奈は固唾をのんでいるだけだった。「周汰さ・・・ん・...宿業・・・4白蛇抄第7話

  • 宿業・・・5 白蛇抄第7話

    水を飲み干し、佐奈は身体にまとわりついた血を洗い流した。「く・・・うう、あわう」奇妙な声がひどく苦しげに聞こえてきていた。佐奈は声の主を探し始めた。よどみの淵に突き出た川の曲がりはなの岩の上にそいつがいた。「河童(かわっぱ)か」佐奈は目を凝らして河童をみた。苦しげにうめく声は確かに河童の喉から漏れ出していた。よくよく見れば河童の足に杭が貫いており、河童は杭を引き抜こうとしながら引き抜ききれぬ痛みにもがいていた。「じっとしておれ、逃げぬでよい。俺が手当てしてやる」佐奈は叫ぶと河童のいる岩肌に泳ぎだしていた。河童はめったと人の前には姿を現さないものである。だが、足を貫いた杭の痛みが河童を岩肌に留まらせていた。「助けてやる。おそれんでもいい」声をかけながら佐奈はにじり寄っていった。人の言葉を解するのか、あるいは...宿業・・・5白蛇抄第7話

  • 宿業・・・6 白蛇抄第7話

    夜半を過ぎ、朋世の寝間の脇の戸が微かにきしんだ。何度となく、朋世がしん張り棒をはずしたかどうかを確かめに来ている男であろう。それがたった一人なのか、それとも、何人かなのかは朋世にもわからない。が、そっと今宵も戸が開かぬ事を確かめるだけだったはずの男の手が止まった。―はずしてある―男は息をのみこんだことであろう。そして、確証を得るために男はもう一度戸を開き始めてゆく。そっと、忍び込んだ男は朋世の布団ににじり寄っていった。「朋世・朋世・・」男は朋世の名を呼んだ。男の手が伸びてくると朋世は男に抱き寄せられた。荒々しい息が寄ってくると朋世は口を吸われ、まだ、硬い胸に手をさしこまれた。そうしておいて、男は朋世のひそかな場所に己の一物を滑り込ませるために、朋世の裾をさばき、いともたやすく、朋世の中心を肉棒で探り当てる...宿業・・・6白蛇抄第7話

  • 宿業・・・7 白蛇抄第7話

    次の日。朋世は、小さな竹篭をだかえて、山に入っていった。「なんだい?いっしょにいこうかい?」朋世の背中から声をかけてきたのはお甲だった。春の山は、恵みの宝庫である。蕨やぜんまいを摘むのは、女子の仕事でもある。「うん」お甲と、一緒ならば心強い事である。朋世を先に立たせて歩いていたお甲であったが、ふと、「朋ちゃん。あんた・・」口ごもった。「なに?」お甲のようなはきはきした娘を口ごもらせた事がなんであるのか、朋世は気になって山の坂の平らに開けたさもどりに出たとき、お甲を振り向いた。「ああ。ちょっと、やすむ?」軽く息が荒れていたお甲を別段気に止めずに柔らかな春草の上に朋世はすわりこんだ。「なんね?」尋ね返すとお甲も聡く、朋世にどういおうか、迷った顔をして見せたが「で、相手は誰やったね?」朋世が女子になったことをき...宿業・・・7白蛇抄第7話

  • 宿業・・・8 白蛇抄第7話

    定太がお甲の元に来るようになったのはお陸に愛想を着かされたからだったが、お陸が定太に愛想尽かしを食らわせたのは、お陸の中に周汰が入り込んだせいであるのをお甲はしっていた。「くそお・・・周汰のやろう」思わず定太が呟きお甲に挑んでくると狂ったようにお陸の名を呼んだ。そして、頂点に達する前になると「くそお。なんでおまえはお甲なんだよ」うっかり女をはらませてはいけない夜這いの定法どおりに脈を打ち出した物を、お甲の中から引き抜いた。多分。男を知りぬいたお陸は自分の身体の摂理を知っていて孕まないときに、男たちの刹那を粘液質に包まれた生暖かい肉の中に吐き出す事を許してやっていたのだろう。そんな女に定太は見事に溺れ切っていた。吐き出しきれないときこそ定太はお陸の名を呼んだ。だが、お甲の中で果ててしまったとき、男根が果てる...宿業・・・8白蛇抄第7話

  • 宿業・・・9 白蛇抄第7話

    あれから・・・・―もう何度か周汰に抱かれた―五月の空に鈍い雨音が開き、山田の苗が慈雨を受けて伸びたった。朋世は炭焼き小屋に雨を逃れていた。遅い春に蕨はもう葉になり始めていたが、最後の摘み物のつもりで朋世は山に出かけていった。雨が降り出すのは判っていたが昼を過ぎてだろうという朋世の予想は外れてしまった。篠つく雨というが、まさにその通りに雨はそぼそぼと地べたを濡らし始め、やがて、朋世もぐっしょりと濡れ込んでしまった頃に炭焼き小屋に辿り着いた。炭焼き小屋に行けばみのがある。きっと、爺がおろうし、火もたかれておるはずであると、思った朋世であった。炭焼きの煙が見えないのを訝りながら、小屋に辿り着いたものの、爺もおらなければ、もちろん火もたかれていなかった。悄然としながら、それでも、朋世は小屋の中を見渡した。「爺やあ...宿業・・・9白蛇抄第7話

  • 宿業・・17 白蛇抄第7話

    無残にも、時は過ぎて行く。朋世が孕んだと判ると、周汰は手放しで喜んでいた。「今度はおなごのこがよいの」周汰は朋世を抱き寄せた。「草汰のように朋世ににているとよい」「周汰さん?」草汰が自分に似てないのではない。朋世に似ているのだと周汰は思っている。朋世に似ているから、尚更かわいい。切れ長の瞳も朱を受けたような形の良い唇も朋世そのものに見えた。男の子である草汰でさえあれほどに、愛くるしいのなら、朋世に似た娘はいかほどに周汰の胸をつまらせるであろうか。「ああ・・楽しみじゃの」周汰は子の生まれる日を待った。そして、その日を過ぎればまた、朋世への周汰の思いを見せ付けられるようにもなる。草汰をつれて周汰は浴場に歩いていった。「とうちゃ。かあちゃは湯に、はいらねえんかな?」「かあちゃは、ののさまに身体をふいてもらうに」...宿業・・17白蛇抄第7話

  • 宿業・・18 白蛇抄第7話

    草汰の背とあまり変わらぬ手桶を持って、草汰は山の湯を目指していた。やがて、山の湯に辿り着くと、草汰は湯を汲んだ。湯の中からやっと引き上げた手桶には草汰が思うほどに湯は入ってなかった。「うー、これだけかやあ」手桶を覗き込んでみたが、手桶半分にも満たない湯の重さに草汰はあきらめるしかなかった。坂道に、手桶を中途中途で地べたに下ろしては草汰は降りくだっていた。が、三つの子には過酷な労働でしかなかった。「うっしょ」掛け声をかけ地べたに置いた手桶を僅かに持ち上げたとき草汰は、坂に足を取られぐっと掴んだ手桶ごと転んでしまった。「あっ」膝をすりむいた痛みより坂道に手桶の中が全て零れ落ちたことが悲しくて草汰は泣き出していた。「あーあああん」草汰が気を取り直して、もう一度、湯を取りに行くか、あきらめて帰るか。どうする?佐奈...宿業・・18白蛇抄第7話

  • 宿業・・19 白蛇抄第7話

    「このばかたれがああああ」周汰の大きな声が聞こえ、草汰が大きく泣き出した。親を死ぬほど心配させた草汰を見つけると周汰は怒り付けてしまった。「かあちゃが・・かあちゃが、ぽんぽが・・」男が立ち去った傍の手桶には山の湯がたっぷり入っておった。「判っておるよ。なあ。なれどな。とうちゃはおまえがおらんで、心配で心配で」「うん」しゃくりあげながら草汰は頷いた。「かあちゃもむこうの畑のほうをさがしておるに」「う・・う・・ん」周汰は手桶を持つと「かあちゃにはよう、つかわせてやろうな?」と、草汰を促した。「さっきの人がはこんでくれたんだの?ちゃんと、ありがとうはいったかや?」「うん」草汰の手を引いて周汰は歩き出していた。こんなことがあったあとまた、草汰はそのときのおじちゃんを見かけた。おじちゃんは草汰の傍に誰もいないときに...宿業・・19白蛇抄第7話

  • 宿業・・20 白蛇抄第7話

    二人に気が付いたのはやはり陸であった。逢引の場所に出かけるために森を通っただけである。童の声に重なる男の声があると判ると、陸は小道を外れて、木陰に隠れた。それが、ただの親子連れならば陸の胸もこんなに締め付けられる事はなかっただろう。だが、通り過ぎた童と男の関係はただ事ではない。『な・・なんで?』陸の脳裏には朋世の姿が浮かんだ。そろ、そろ六ヶ月になるのではないだろうか?あの男を見た日を逆にさかのぼって考えてしまう陸である。考えると、厭な予感がしてくる。あの男は、周汰から朋世を奪い取る気なのではないか?だから、草汰をなつかせ、事の事実を周汰に暴露し、腹の子ごと朋世が周汰の元におれなくなるようにして、草汰ごと、朋世を奪い取る気ではないのか?朋世のことだ。腹の子のことを草汰のことを周汰にぶちまけられたら、周汰の元...宿業・・20白蛇抄第7話

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、hakujyaさんをフォローしませんか?

ハンドル名
hakujyaさん
ブログタイトル
憂生’s/白蛇
フォロー
憂生’s/白蛇

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用