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  • たらちねの母の命の言にあらば・・・巻第9-1774~1775

    訓読 >>> 1774たらちねの母の命(みこと)の言(こと)にあらば年の緒(を)長く頼め過ぎむや 1775泊瀬川(はつせがは)夕(ゆふ)渡り来て我妹子(わぎもこ)が家の金門(かなと)に近づきにけり 要旨 >>> 〈1774〉母の言われることなので、当てにさせたまま長くやり過ごすなんてことはありません。 〈1775〉泊瀬川を夕方に渡ってきて、いとしい女の家の門が近くなってきた。 鑑賞 >>> 舎人皇子に献上したとある『柿本人麻呂歌集』に出ている歌。1774の「たらちねの」は「母」の枕詞。「命」は、目上の人を敬っていう語。この歌の事情は複雑で、窪田空穂によれば、「娘が母に知らせずに男と結婚し、夫を…

  • 防人の歌(34)・・・巻第20-4390

    訓読 >>> 群玉(むらたま)の枢(くる)にくぎさし堅(かた)めとし妹(いも)が心は動(あよ)くなめかも 要旨 >>> 扉の枢に釘を挿し込んで堅く戸締りをするように、堅い契りを交わした妻の心は動揺しているだろうか、いやそんなことはない。 鑑賞 >>> 下総国の防人の歌。「群玉の」は多くの玉がくるくる回ることから「枢」の枕詞。「枢」は「くるる」とも言い、開き戸を開閉させる装置のことで、木に穴を穿ち、それに木を挿し、その木を回転させて開閉するもの。「なめかも」は「らめかも」の意で、反語、あるいは疑問か。疑問なら「動揺しているのかなあ」。 軍防令による兵役義務 大宝令における「軍防令」の規定では、正…

  • 朝にゆく雁の鳴く音は・・・巻第10-2137

    訓読 >>> 朝にゆく雁(かり)の鳴く音(ね)は吾(わ)が如(ごと)くもの念(おも)へかも声の悲しき 要旨 >>> いま朝早く飛んでいく雁の鳴く声は、何となく物悲しい、彼らも私と同じように物思いをしているからだろう。 鑑賞 >>> 「雁を詠む」歌。「朝に行く」の「朝に」は「つとに」と訓むものもあります。この歌について斎藤茂吉は、「惻々(そくそく)とした哀韻があって棄てがたい。『鳴く音は』『声の悲しき』は重複しているようだが、前はやや一般的、後は実質的で、他にも例がある」と述べています。

  • 人言は夏野の草の繁くとも・・・巻第10-1983

    訓読 >>> 人言(ひとごと)は夏野(なつの)の草の繁(しげ)くとも妹(いも)と我(あ)れとし携(たづさ)はり寝ば 要旨 >>> 人の噂が夏の野草が茂るようにうるさくても、あなたと私が手をとりあって寝てしまえば・・・。 鑑賞 >>> 「草に寄せる」男の歌。「人言」は他人の噂。その噂のうるささを、手がつけられないほど茂り放題となる夏草に喩えています。「我れとし」の「し」は強意。「携はり寝ば」は、共に寝たならばで、下に嬉しかろうの意が省かれています。集団的生活のなかで、個人的行動が難しかった嘆きの歌ですが、作家の田辺聖子は次のように評しています。「直截的な表現で、それをどこかぶきっちょに、ぶこつに…

  • 遣新羅使人の歌(15)・・・巻第15-3656~3658

    訓読 >>> 3656秋萩(あきはぎ)ににほへる我(わ)が裳(も)濡(ぬ)れぬとも君が御船(みふね)の綱(つな)し取りてば 3657年(とし)にありて一夜(ひとよ)妹(いも)に逢ふ彦星(ひこほし)も我(わ)れにまさりて思ふらめやも 3658夕月夜(ゆふづくよ)影立ち寄り合ひ天(あま)の川(がは)漕ぐ舟人(ふなびと)を見るが羨(とも)しさ 要旨 >>> 〈3656〉秋萩に美しく染まった私の裳が濡れようとも、川を渡って来られたあなた様(牽牛)の御船の綱を手に取って岸に繋ぐことができたら。 〈3657〉一年にただ一夜だけ妻に逢う彦星も、この私以上にせつない思いをしているとは思えません。 〈3658〉…

  • 防人の歌(33)・・・巻第14-3569~3571

    訓読 >>> 3569防人(さきもり)に立ちし朝明(あさけ)の金門出(かなとで)に手離(たばな)れ惜しみ泣きし児(こ)らはも 3570葦(あし)の葉に夕霧(ゆふぎり)立ちて鴨(かも)が音(ね)の寒き夕(ゆふへ)し汝(な)をば偲(しの)はむ 3571己妻(おのづま)を人の里に置きおほほしく見つつそ来(き)ぬるこの道の間(あひだ) 要旨 >>> 〈3569〉防人として出立した夜明けの門出の時に、私の手から離れることを惜しんで泣いたわが妻よ。 〈3570〉水辺に生える葦の葉群れに夕霧が立ち込め、鴨の鳴く声が寒々と聞こえてくる夕暮れ時には、なおいっそうおまえを偲ぶことだろう。 〈3571〉自分の妻なの…

  • 防人の歌(32)・・・巻第20-4343

    訓読 >>> 我(わ)ろ旅は旅と思(おめ)ほど家(いひ)にして子 持(め)ち痩(や)すらむ我(わ)が妻(み)愛(かな)しも 要旨 >>> 自分は、どうせ旅は旅だと割り切ればよいが、家で子供を抱えてやつれている妻が愛しくてならない。 鑑賞 >>> 駿河国の防人の歌。「我ろ」の「ろ」は、接尾語。「思(おめ)ほど」は「思へど」の方言。「家(いひ)」は、家の方言。「持(め)ち」は「もち」の方言。「妻(み)」は「め」の方言。窪田空穂は、「こうした別れの際、自身のことはいわずに、相手のほうを主として物をいうのは、上代では儀礼となっていたのであるが、これは儀礼を超えた、真実の心の溢れ出たものである。若くして…

  • 山の辺にい行く猟夫は・・・巻第10-2147

    訓読 >>> 山の辺(へ)にい行く猟夫(さつを)は多かれど山にも野にもさを鹿(しか)鳴くも 要旨 >>> 山の辺に行く猟師は多くて恐ろしいものだが、それでも妻恋しさに、牡鹿があんなに鳴いている。 鑑賞 >>> 「鹿鳴を詠む」歌。「い行く」の「い」は接頭語。「猟夫」は猟師、狩人。この歌は、斉藤茂吉によれば、「西洋的にいうと、恋の盲目とでもいうところであろうか。そのあわれが声調のうえに出ている点がよく、第三句で、『多かれど』と感慨をこめている。結句の、『鳴くも』の如きは万葉に甚だ多い例だが、古今集以後、この『も』を段々嫌って少なくなったが、こう簡潔につめていうから、感傷の厭味に陥らぬともいうことが…

  • 楽浪の連庫山に雲居れば・・・巻第7-1170

    訓読 >>> 楽浪(ささなみ)の連庫山(なみくらやま)に雲(くも)居(ゐ)れば雨ぞ降るちふ帰り来(こ)我(わ)が背(せ) 要旨 >>> 楽浪の連庫山に雲がかかると雨が降るといいます。帰ってきてください、あなた。 鑑賞 >>> 「覊旅(旅情を詠む)」歌。「楽浪」は、琵琶湖西南岸地方を言い、また近江国の古名でもあります。「楽浪の」は「滋賀」「大津」「長等」「比良」など近江各地の地名に冠して枕詞のように用いられ、ここの「連庫山」も同じです。ただし「連庫山」がどの山を指したのかは不明で、比良山や比叡山とする説があります。作者は琵琶湖東岸に住んでいる女性で、夫は湖上で漁をする漁夫でしょうか。連庫山に雲が…

  • ぬばたまの夜渡る月を留めむに・・・巻第7-1077

    訓読 >>> ぬばたまの夜(よ)渡る月を留(とど)めむに西の山辺(やまへ)に関(せき)もあらぬかも 要旨 >>> 夜空を渡る美しい月を押しとどめるために、西の山辺に関所でもないものだろうか。 鑑賞 >>> 「月を詠む」歌。「ぬばたまの」は「夜」の枕詞。「ぬかも」は願望。この歌の発想は後世にも取り入れられ、たとえば在原業平が惟喬親王とともに狩に出た折、酒にうち興じているうち親王が酔ってしまい、奥へ引っこもうとしたため、業平が引き留めようとして即興で詠んだ、「飽かなくにまだきも月のかくるるか山の端にげて入れずもあらなむ」(『古今集』)という歌があります。「山の端」が逃げて、月(親王)を山陰に入れな…

  • 防人の歌(31)・・・巻第20-4351

    訓読 >>> 旅衣(たびころも)八重(やへ)着重(きかさ)ねて寐(い)ぬれどもなほ肌寒(はださむ)し妹(いも)にしあらねば 要旨 >>> 旅の着物を何枚も重ねて寝るのだけれど、やはり肌寒い。妻ではないので。 鑑賞 >>> 上総国の防人の歌。「八重着重ねて」は、何枚も重ねて着て。時は2月です。作者の玉作部国忍(たまつくりべのくにおし)の故郷である望陀郡は房総半島の現木更津市・君津市の辺りです。東京湾に臨む温暖な地であり、東山道を行く旅はさぞ寒かったことでしょう。 防人に指名されて国庁に集まった防人たちとその家族は、そこで防人編成式に臨み、そのあと家族と別れ、国司職の部領使(ことりづかい/ぶりょう…

  • 若ければ道行き知らじ・・・巻第5-904~906

    訓読 >>> 904世の人の 貴び願ふ 七種(ななくさ)の 宝も我は 何(なに)為(せ)むに わが中の 生まれ出(い)でたる 白玉の わが子 古日(ふるひ)は 明星(あかぼし)の 明くる朝(あした)は 敷妙(しきたへ)の 床の辺(へ)去らず 立てれども 居(を)れども 共に戯(たはぶ)れ 夕星(ゆふつづ)の 夕(ゆうべ)になれば いざ寝よと 手を携(たづさ)はり 父母(ちちはは)も 上は勿(な)下(さか)り 三枝(ささくさ)の 中に寝むと 愛(うつく)しく 其(し)が語らへば 何時(いつ)しかも 人と成り出でて 悪(あ)しけくも 善(よ)けくも見むと 大船(おほぶね)の 思ひ憑(たの)むに 思…

  • 持統太上天皇と文武天皇の紀伊国行幸の折の歌(3)・・・巻第9-1676~1679

    訓読 >>> 1676背(せ)の山に黄葉(もみち)常敷(つねし)く神岡(かみをか)の山の黄葉は今日(けふ)か散るらむ 1677大和には聞こえも行くか大我野(おほがの)の竹葉(たかは)刈り敷き廬(いほ)りせりとは 1678紀の国の昔(むかし)弓雄(ゆみを)の鳴り矢もち鹿(しし)取り靡(な)べし坂の上(うへ)にぞある 1679紀の国にやまず通はむ妻(つま)の杜(もり)妻寄しこせに妻といひながら [一云 妻賜はにも妻といひながら 要旨 >>> 〈1676〉背の山にもみじ葉はいつも散り敷いているけれど、神岡の山のもみじは、今日あたり散っているのだろうか。 〈1677〉大和にいる妻は知っているだろうか、…

  • 持統太上天皇と文武天皇の紀伊国行幸の折の歌(2)・・・巻第9-1672~1675

    訓読 >>> 1672黒牛潟(くろうしがた)潮干(しほひ)の浦を紅(くれなゐ)の玉裳(たまも)裾(すそ)ひき行くは誰(た)が妻 1673風莫(かざなし)の浜の白波いたづらにここに寄せ来(く)る見る人なしに [一云 ここに寄せ来(く)も] 1674我(わ)が背子(せこ)が使(つかひ)来(こ)むかと出立(いでたち)のこの松原を今日(けふ)か過ぎなむ 1675藤白(ふぢしろ)のみ坂を越ゆと白栲(しろたへ)のわが衣手(ころもで)は濡れにけるかも 要旨 >>> 〈1672〉潮が引いている黒牛潟を、鮮やかな紅の裳裾姿で行き来している宮廷婦人は、いったい誰の思い人だろう。 〈1673〉風莫の浜の静かな白波は…

  • 持統太上天皇と文武天皇の紀伊国行幸の折の歌(1)・・・巻第9-1668~1671

    訓読 >>> 1668白崎(しらさき)は幸(さき)くあり待て大船(おほぶね)に真梶(まかぢ)しじ貫(ぬ)きまたかへり見む 1669南部(みなべ)の浦(うら)潮な満ちそね鹿島(かしま)なる釣りする海人(あま)を見て帰り来(こ)む 1670朝開(あさびら)き漕(こ)ぎ出て我(わ)れは由良(ゆら)の崎(さき)釣りする海人(あま)を見て帰り来(こ)む 1671由良(ゆら)の崎(さき)潮(しほ)干(ひ)にけらし白神(しらかみ)の磯の浦廻(うらみ)をあへて漕ぐなり 要旨 >>> 〈1668〉白崎よ、今の美しい姿のままで待っていてくれ。大船に多くの梶を取りつけて、また帰りにお前を眺めるから。 〈1669〉こ…

  • 防人の歌(30)・・・巻第20-4355

    訓読 >>> よそにのみ見てや渡(わた)らも難波潟(なにはがた)雲居(くもゐ)に見ゆる島ならなくに 要旨 >>> 自分とは無関係に思っていた難波潟、ここは、雲の彼方の遠い離れ島というわけではないのに、その難波潟よりさらに遠い筑紫に向かうことになるとは。 鑑賞 >>> 上総国の防人の歌。「よそにのみ」は、無関係なように。「見てや」の「や」は疑問。「ならなくに」は、ではないのに。難波に着いて出航の日を待って過ごしている間に詠まれたもののようです。この歌について窪田空穂は、「屈折の多い言い方をしているもので、これを中央の京の歌としても、あまりにも文芸的な言い方で、解しやすくないものである。防人の歌と…

  • 春されば樹の木の暗の夕月夜・・・巻第10-1875

    訓読 >>> 春されば樹(き)の木(こ)の暗(くれ)の夕月夜(ゆふづくよ)おぼつかなしも山陰(やまかげ)にして 要旨 >>> 春になって木々が萌え茂り、それが山陰であるので、ただでさえ光の薄い夕月夜が、いっそう薄くほのかだ。 鑑賞 >>> 「月を詠む」歌。「春されば」は、春になったので。「木の暗」は、木が茂って暗くなっているところ。「おぼつかなし」は、はっきりしない。「山陰にして」は、山陰なので。斎藤茂吉は、「巧みでない寧ろ拙な部分の多い歌ではあるが、『おぼつかなしも』の句に心ひかれる」と言っています。

  • 防人の歌(29)・・・巻第20-4354

    訓読 >>> 立鴨(たちこも)の発(た)ちの騒(さわ)きに相(あひ)見てし妹(いも)が心は忘れせぬかも 要旨 >>> 立つ鴨のような出立のあわただしさの中を、逢いに来てくれたあの子の心根は忘れようにも忘れられない。 鑑賞 >>> 上総国の防人の歌。「立鴨の」の「こも」は、鴨の方言。譬喩として「発ちの騒き」の枕詞。夫婦関係は結んでいるものの、絶対に秘密にしている間柄であったとみえ、女は、素知らぬさまを装っているのに堪えられず、村の見送りの者の中に立ちまぎれて、よそながら見て別れを惜しんだようです。 防人は任務の期間も税は免除されなかったため、農民にとってはたいへん重い負担でした。また、徴集された…

  • 眉根掻き鼻ひ紐解け・・・巻第11-2808~2809

    訓読 >>> 2808眉根(まよね)掻(か)き鼻(はな)ひ紐(ひも)解け待てりやもいつかも見むと恋ひ来(こ)し我(あ)れを 2809今日(けふ)なれば鼻ひ鼻ひし眉(まよ)かゆみ思ひしことは君にしありけり 要旨 >>> 〈2808〉眉を掻き、くしゃみをして、紐を解いて待っていてくれたんですか、早く逢いたいと恋しく思ってやって来た私を。 〈2809〉今日は何だか、鼻がむずむずして、くしゃみが出て、眉が痒い、と思ったら、あなたに逢える前兆だったんですね。 鑑賞 >>> 作者未詳の問答歌。2808は、恋人のもとを訪れた男の歌、2809はそれに答えた女の歌です。「鼻ふ」は、くしゃみをすること。当時の習俗…

  • 朝寝髪われは梳らじ・・・巻第11-2578

    訓読 >>> 朝寝髪(あさねがみ)われは梳(けづ)らじ愛(うるは)しき君が手枕(たまくら)触れてしものを 要旨 >>> 朝の寝乱れた髪を梳るまい、愛しいあなたの手枕が触れた髪だから。 鑑賞 >>> 「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。夫が去って行った朝に詠んだ女の歌。「君が手枕触れて」は、夫の腕を枕にして寝る意。愛しい夫が愛撫してくれたと思うと、自分の体のそれぞれの部分がいとおしく思える女心・・・。万葉集ではめずらしく直接的な性愛表現の歌です。当時の女性は一般的に髪を長く伸ばしており、夜寝る時は髪を解き、昼間は結い上げたようです。結い上げる前に、朝、寝乱れた髪を櫛梳るのです。「触れてし…

  • うつせみの命を長くありこそと・・・巻第13-3291~3292

    訓読 >>> 3291み吉野の 真木(まき)立つ山に 青く生(お)ふる 山菅(やますが)の根の ねもころに 我(あ)が思(おも)ふ君は 大君(おほきみ)の 任(ま)けのまにまに〈或る本に云ふ、大君の命(みこと)恐(かしこ)み〉 鄙離(ひなざか)る 国 治(をさ)めにと〈或る本に云ふ、天離(あまざか)る 鄙(ひな)治(をさ)めにと〉 群鳥(むらとり)の 朝立(あさだ)ち去(い)なば 後(おく)れたる 我(あ)れか恋ひむな 旅なれば 君か偲(しの)はむ 言はむすべ 為(せ)むすべ知らず〈或る書に、あしひきの 山の木末(こぬれ)にの句あり〉 延(は)ふ蔦(つた)の 行きの〈或る本には、行きのの句なし…

  • をちこちの礒の中なる・・・巻第7-1300

    訓読 >>> をちこちの礒(いそ)の中なる白玉(しらたま)を人に知らえず見むよしもがも 要旨 >>> あちこちの海辺の石の中にひそむ美しい玉(真珠)を、どうかして他人に知られず見ることができないだろうか。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から「玉に寄せる」歌。「白玉(真珠)」は、尊く美しい女、「をちこちの磯」は、その白玉を厳しく取り巻いて護っている人々を意味しており、作者は近づきがたい高い身分の女に恋しています。そうした女性はずっと家の中にいたため、男は垣間見(かいまみ)、ありていに言えば「のぞき見」するよりほかなかったのです。それにしても「をちこちの」と言っていますから、ひょっとしたら「のぞ…

  • 住吉の小集楽に出でて

    訓読 >>> 住吉(すみのえ)の小集楽(をづめ)に出でてうつつにもおの妻(づま)すらを鏡と見つも 要旨 >>> 妻と二人で住吉の歌垣の集まりに出てみたが、自分の妻ながら、夢ではなくまざまざと、鏡のように光り輝いて見えた。 鑑賞 >>> この歌には次のような注釈があります。昔、ある田舎者がいた。姓名はわからない。ある時、村の男女が大勢集まって野で歌垣を催した。この集まりの中にその田舎者の夫婦がいた。妻の容姿は大勢の中で際立って美しかった。そのことに気づいたこの夫はいっそう妻を愛する気持ちが高まり、この歌を作って美貌を讃嘆した。 「小集楽」の「小」は親しんで呼ぶ接頭語で、「集楽」は橋のたもと。歌垣…

  • 防人の歌(28)・・・巻第20-4393~4394

    訓読 >>> 4393大君(おほきみ)の命(みこと)にされば父母(ちちはは)を斎瓮(いはひへ)と置きて参(ま)ゐ出(で)来(き)にしを 4394大君(おほきみ)の命(みこと)畏(かしこ)み弓の共(みた)さ寝(ね)かわたらむ長けこの夜(よ)を 要旨 >>> 〈4393〉大君の恐れ多いご命令であるので、父上、母上を斎瓮とともに後に残して、家を出て来たことだ。 〈4394〉大君のご命令の恐れ多さに、弓を抱えたまま寝ることになるのだろうか。長いこの夜を。 鑑賞 >>> 下総国の防人の歌。4393「されば」は「しあれば」の約。「斎瓮と置きて」は、斎瓮のように残して。「斎瓮」は、神に供える酒を入れる器。4…

  • みもろの神の帯ばせる泊瀬川・・・巻第9-1770~1771

    訓読 >>> 1770みもろの神の帯(お)ばせる泊瀬川(はつせがは)水脈(みを)し絶えずは我(わ)れ忘れめや 1771後(おく)れ居(ゐ)て我(あ)れはや恋ひむ春霞(はるかすみ)たなびく山を君が越え去(い)なば 要旨 >>> 〈1770〉みもろの神が帯となさっている泊瀬川、この水の流れが絶えない限り、私があなたを忘れることがあろうか。 〈1771〉後に残された私は恋い焦がれてばかりいるでしょう。春霞がたなびく山を、あなたが越えて行ってしまわれたなら。 鑑賞 >>> 大神大夫(おおみわだいぶ)が長門守に任ぜられた時(702年)に三輪の川辺に集まって送別の宴をした歌。大神大夫は三輪高市麻呂(みわの…

  • ひさかたの月夜を清み・・・巻第8-1661

    訓読 >>> ひさかたの月夜(つくよ)を清(きよ)み梅の花(はな)心開けて我(あ)が思(も)へる君 要旨 >>> 夜空の月が清らかです。その月光のなかで梅の花が開くように、私も心をすっかり開いてあなたのことをお慕いしています。 鑑賞 >>> 紀女郎(きのいらつめ)の歌。前夫の安貴王、そして今度は、年下の恋人?大伴家持の心変わりに出会った?紀女郎。しかし、この歌の相手が誰であるのかはわかりません。「ひさかたの」は「月」の枕詞。「月夜を清み」は、月の光がすがすがしいので。「心開けて」には、男のすべてを迎え入れようとする誘いかけの気持ちが表れています。『万葉集』屈指の妖艶な歌とされます。 国文学者の…

  • 天にある日売菅原の・・・巻第7-1277

    訓読 >>> 天(あめ)にある日売菅原(ひめすがはら)の草な刈りそね 蜷(みな)の腸(わた)か黒(ぐろ)き髪に芥(あくた)し付くも 要旨 >>> 天にある日に因む、この日賣菅原の草を刈らないでくれ。せっかくの美しい黒髪にゴミが付いてしまうではないか。 鑑賞 >>> 『柿本人麻呂歌集』から、旋頭歌形式(5・7・7・5・7・7)の歌。「天にある」は天上の日の意で、「日売菅原」の枕詞。「日売菅原」は地名か、あるいは姫菅(ひめすげ:カヤツリグサ科の多年草)の生える野原の意か。ここでは共寝をする場所として言っています。「草な刈りそね」の「な~そね」は禁止。「蜷の腸」は「か黒き」の枕詞。「か黒き」の「か」…

  • 我が紐を妹が手もちて・・・巻第7-1114~1115

    訓読 >>> 1114我(わ)が紐(ひも)を妹(いも)が手もちて結八川(ゆふやがは)またかへり見む万代(よろづよ)までに 1115妹(いも)が紐(ひも)結八河内(ゆふやかふち)をいにしへのみな人(ひと)見きとここを誰(た)れ知る 要旨 >>> 〈1114〉私の着物の下紐をあの子が結い固める、その”結う”の名がついた結八川、この川をまた訪ねて眺めよう、いついつまでも。 〈1115〉あの子が下紐を結うという名の結八川、その河内の景色を昔の人も眺めていたというが、それを誰が知ろう。 鑑賞 >>> 「河を詠む」歌。1114の上2句は「結八川」の「結」を導く序詞。男女が交わったあと、互いに相手の衣の紐を…

  • 東歌(36)・・・巻第14-3465

    訓読 >>> 高麗錦(こまにしき)紐(ひも)解き放(さ)けて寝(ぬ)るがへに何(あ)どせろとかもあやに愛(かな)しき 要旨 >>> 華麗な高麗錦の紐を解き放って共寝をしたけれど、この上どうしろというのだ。無性に可愛いくてたまらない。 鑑賞 >>> 国名のない東歌(未勘国歌)。「高麗錦」は、高麗から渡来した錦で、衣の紐としたことから「紐」の枕詞。「何どせろ」は「何とせよ」の東語で、どうしろというのか。「あやに」は、無性に。なお、高麗錦は在来の技術では作れない豪華な模様の織物であるため、東国でこのような高級品を知っていた、あるいは持っていたのは、一握りの豪族層であったと考えられます。それとも、恋を…

  • この小川霧ぞ結べる・・・巻第7-1113

    訓読 >>> この小川(をがは)霧(きり)ぞ結べるたぎちゆく走井(はしりゐ)の上に言挙(ことあ)げせねど 要旨 >>> この小川に白い霧が立ち込めている。たぎり落ちる湧き水のところで、言挙げなどしていないのに。 鑑賞 >>> 「河を詠む」歌。「走井」は、勢いよく湧き出る泉。「言挙げ」は、言葉に出して言うこと。言挙げをすれば霧が立つという信仰を踏まえた歌とみられ、また、この歌から「井」が言挙げ、すなわち誓いの言葉を言う場であったことが窺えます。『古事記』『神代記』にも、天(あま)の真名井(まない)で天照大御神(あまてらすおおみかみ)と須佐之男命(すさのおのみこと)が誓約を行ったという記事がありま…

  • 防人の歌(27)・・・巻第20-4391~4392

    訓読 >>> 4391国々の社(やしろ)の神に幣(ぬさ)奉(まつ)り贖乞(あがこひ)すなむ妹(いも)が愛(かな)しさ 4392天地(あめつし)のいづれの神を祈らばか愛(うつく)し母にまた言(こと)問はむ 要旨 >>> 〈4391〉国々の社の神々に幣を捧げて、私の旅の無事を祈っているだろう妻が愛しい。 〈4392〉天の神、地の神のどの神様にお祈りしたら、愛しい母とまた話ができるようになるのだろうか。 鑑賞 >>> 下総国の防人の歌。4391の「幣」は、神に祈る際に捧げるもの。「贖乞すなむ」の原文「阿加古比須奈牟」で語義未詳ながら、①「贖乞」だとして、災難を逃れるために物を捧げて祈る意、②「我が恋…

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