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  • 斎藤茂吉による万葉秀歌(6)

    うつそみの人にある我れや明日よりは二上山を弟背とわが見む(巻第2-165)~大迫皇女 磯の上に生ふる馬酔木を手折らめど見すべき君がありと言はなくに巻第2-166)~大迫皇女 あかねさす日は照らせれどぬばたまの夜渡る月の隠らく惜しも(巻第2-169)~柿本人麻呂 嶋の宮まがりの池の放ち鳥人目に恋ひて池に潜かず(巻第2-170)~柿本人麻呂 東のたぎの御門に侍へど昨日も今日も召す言もなし(巻第2-184)~日並皇子宮の舎人 朝日照る島の御門におほほしく人音もせねばまうら悲しも(巻第2-189)~日並皇子宮の舎人 敷栲の袖交へし君玉垂の越智野過ぎ行くまたも逢はめやも(巻第2-195)~柿本人麻呂 降…

  • 斎藤茂吉による万葉秀歌(5)

    あしひきの山のしづくに妹待つとわれ立ち濡れぬ山のしづくに(巻第2-107)~大津皇子 いにしへに恋ふる鳥かも弓絃葉の御井の上より鳴き渡り行く(巻第2-111)~弓削皇子 人言を繁み言痛み己が世に未だ渡らぬ朝川渡る(巻第2-116)~但馬皇女 石見のや高角山の木の際より我が振る袖を妹見つらむか(巻第2-132)~柿本人麻呂 小竹の葉はみ山もさやにさやげどもわれは妹思ふ別れ来ぬれば(巻第2-133)~柿本人麻呂 青駒が足掻きを速み雲居にぞ妹があたりを過ぎて来にける(巻第2-136)~柿本人麻呂 磐代の浜松が枝を引き結びま幸くあらばまた還り見む(巻第2-141)~有馬皇子 家にあれば笥に盛る飯を草枕…

  • 中臣宅守と狭野弟上娘子の歌(索引)

    巻15-3723 あしひきの山路越えむとする君を心に持ちて安けくもなし 巻15-3724 君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも 巻15-3725 わが背子しけだし罷らば白たへの袖を振らさね見つつ偲はむ 巻15-3726 このころは恋ひつつもあらむ玉櫛笥明けてをちより・・・ 巻15-3727 塵泥の数にもあらぬ我れゆゑに思ひわぶらむ妹がかなしさ 巻15-3728 あをによし奈良の大路は行き良けどこの山道は行き・・・ 巻15-3729 愛しと我が思ふ妹を思ひつつ行けばかもとな行き悪しかるらむ 巻15-3730 恐みと告らずありしをみ越路の手向けに立ちて妹が名 告りつ 巻15-3731…

  • 遣新羅使人の歌(索引)

    巻15-3578 武庫の浦の入江の渚鳥羽ぐくもる君を離れて恋に死ぬべし 巻15-3579 大船に妹乗るものにあらませば羽ぐくみ持ちて行かましものを 巻15-3580 君が行く海辺の宿に霧立たば我が立ち嘆く息と知りませ 巻15-3581 秋さらば相見むものを何しかも霧に立つべく嘆きしまさむ 巻15-3582 大船を荒海に出だしいます君障むことなく早帰りませ 巻15-3583 真幸くて妹が斎はば沖つ波千重に立つとも障りあらめやも 巻15-3584 別れなばうら悲しけむ我が衣下にを着ませ直に逢ふまでに 巻15-3585 我妹子が下にも着よと贈りたる衣の紐を我れ解かめやも 巻15-3586 我が故に思…

  • 防人の歌(索引)

    巻7-1265 今年行く新島守が麻衣肩のまよひは誰れか取り見む 巻7-1266 大船を荒海に漕ぎ出や船たけ我が見し児らが目見はしるしも 巻13-3344 この月は君来まさむと大船の思ひ頼みていつしかと・・・(長歌) 巻13-3345 葦辺行く雁の翼を見るごとに君が帯ばしし投矢し思ほゆ 巻14-3427 筑紫なるにほふ子ゆゑに陸奥の可刀利娘子の結ひし紐解く 巻14-3480 大君の命畏み愛し妹が手枕離れ夜立ち来のかも 巻14-3515 我が面の忘れむしだは国溢り嶺に立つ雲を見つつ偲はせ 巻14-3516 対馬の嶺は下雲あらなふ可牟の嶺にたなびく雲を見つつ偲はも 巻14-3567 置きて行かば妹は…

  • 長忌寸意吉麻呂の歌(索引)

    巻1-57 引馬野ににほふ榛原入り乱れ衣にほはせ旅のしるしに 巻2-143 磐代の岸の松が枝結びけむ人は帰りてまた見けむかも 巻2-144 磐代の野中に立てる結び松心も解けずいにしへ思ほゆ 巻3-238 大宮の内まで聞こゆ網引すと網子ととのふる海人の呼び声 巻3-265 苦しくも降り来る雨か三輪の崎狭野の渡りに家もあらなくに 巻9-1673 風莫の浜の白波いたづらにここに寄せ来る見る人なしに 巻16-3824 さし鍋に湯沸かせ子ども櫟津の檜橋より来む狐に浴むさむ 巻16-3825 食薦敷き青菜煮て来む梁に行騰懸けて休むこの君 巻16-3826 蓮葉はかくこそあるもの意吉麻呂が家なるものは芋の葉…

  • 『柿本人麻呂歌集』の歌(索引)③

    ① ② ③ 巻11-2431 鴨川の後瀬静けく後も逢はむ妹には我れは今ならずとも 巻11-2432 言に出でて言はばゆゆしみ山川のたぎつ心を塞かへたりけり 巻11-2433 水の上に数書くごとき我が命妹に逢はむとうけひつるかも 巻11-2434 荒礒越し外行く波の外心我れは思はじ恋ひて死ぬとも 巻11-2435 近江の海沖つ白波知らずとも妹がりといはば七日越え来む 巻11-2436 大船の香取の海に碇おろし如何なる人か物念はざらむ 巻11-2437 沖つ裳を隠さふ波の五百重波千重しくしくに恋ひ渡るかも 巻11-2438 人言はしましぞ我妹綱手引く海ゆまさりて深くしぞ思ふ 巻11-2439 近江…

  • 『柿本人麻呂歌集』の歌(索引)②

    ① ② ③ 巻10-2000 天の川安の渡りに舟浮けて秋立つ待つと妹に告げこそ 巻10-2001 大空ゆ通ふ我れすら汝がゆゑに天の川道をなづみてぞ来し 巻10-2002 八千桙の神の御代よりともし妻人知りにけり告げてし思へば 巻10-2003 我が恋ふる丹のほの面わ今夕もか天の川原に石枕まく 巻10-2004 己夫にともしき子らは泊てむ津の荒礒巻きて寝む君待ちかてに 巻10-2005 天地と別れし時ゆ己が妻しかぞ離れてあり秋待つ我れは 巻10-2006 彦星は嘆かす妻に言だにも告げにぞ来つる見れば苦しみ 巻10-2007 ひさかたの天つ印と水無し川隔てて置きし神代し恨めし 巻10-2008 ぬ…

  • 『柿本人麻呂歌集』の歌(索引)①

    ① ② ③ 巻2-146 後見むと君が結べる磐代の小松がうれをまた見けむかも 巻3-244 み吉野の三船の山に立つ雲の常にあらむと我が思はなくに 巻7-1068 天の海に雲の波立ち月の船星の林に漕ぎ隠る見ゆ 巻7-1087 穴師川川波立ちぬ巻向の弓月が岳に雲居立てるらし 巻7-1088 あしひきの山川の瀬の響なへに弓月が嶽に雲立ち渡る 巻7-1092 鳴る神の音のみ聞きし巻向の桧原の山を今日見つるかも 巻7-1093 三諸のその山なみに子らが手を巻向山は継ぎしよろしも 巻7-1094 我が衣色取り染めむ味酒三室の山は黄葉しにけり 巻7-1100 巻向の穴師の川ゆ行く水の絶ゆることなくまたかへり…

  • 大伴池主の歌(索引)

    巻8-1590 十月時雨にあへる黄葉の吹かば散りなむ風のまにまに 巻17-3944 女郎花咲きたる野辺を行きめぐり君を思ひ出た廻り来ぬ 巻17-3945 秋の夜は暁寒し白栲の妹が衣手着むよしもがも 巻17-3946 霍公鳥鳴きて過ぎにし岡びから秋風吹きぬよしもあらなくに 巻17-3949 天離る鄙にある我れをうたがたも紐解き放けて思ほすらめや 巻17-3967 山峽に咲ける桜をただ一目君に見せてば何をか思はむ 巻17-3968 鴬の来鳴く山吹うたがたも君が手触れず花散らめやも 巻17-3973 大君の命恐みあしひきの山野障らず天離る・・・(長歌) 巻17-3974 山吹は日に日に咲きぬうるはし…

  • 田辺福麻呂の歌(索引)

    巻6-1047 やすみしし我が大君の高敷かす大和の国は皇祖の・・・(長歌) 巻6-1048 立ちかはり古き都となりぬれば道の芝草長く生ひにけり 巻6-1049 馴つきにし奈良の都の荒れゆけば出で立つごとに嘆きし増さる 巻6-1050 現つ神我が大君の天の下八島の中に国はしも・・・(長歌) 巻6-1051 三香の原布当の野辺を清みこそ大宮所さだめけらしも 巻6-1052 山高く川の瀬 清し百世まで神しみ行かむ大宮所 巻6-1053 我が大君神の命の高知らす布当の宮は百木盛り・・・(長歌) 巻6-1054 泉川行く瀬の水の絶えばこそ大宮所移ろひ行かめ 巻6-1055 布当山山なみ見れば百代にも変る…

  • 紀女郎の歌(索引)

    巻4-643 世間の女にしあらば我が渡る痛背の河を渡りかねめや 巻4-644 今は吾は侘びそしにける息の緒に思ひし君をゆるさく思へば 巻4-645 白妙の袖別るべき日を近み心にむせび哭のみし泣かゆ 巻4-762 神さぶと否にはあらずはたやはたかくして後に寂しけむかも 巻4-763 玉の緒を沫緒に搓りて結べらばありて後にも逢はざらめやも 巻4-776 言出しは誰が言なるか小山田の苗代水の中淀にして 巻4-782 風高く辺には吹けども妹がため袖さへ濡れて刈れる玉藻ぞ 巻8-1452 闇夜ならばうべも来まさじ梅の花咲ける月夜に出でまさじとや 巻8-1460 戯奴がため我が手もすまに春の野に抜ける茅花…

  • 天智天皇・天武天皇・聖武天皇の歌(索引)

    天智天皇 巻1-13 香具山は畝火を愛しと耳梨と相あらそひき・・・(長歌) 巻1-14 香具山と耳梨山と会ひしとき立ちて見に来し印南国原 巻1-15 わたつみの豊旗雲に入日さし今夜の月夜あきらけくこそ 巻2-91 妹が家も継ぎて見ましを大和なる大島の嶺に家もあらましを 天智天皇 第38代天皇(在位668~671年)。舒明天皇の子で、母は皇極天皇。中大兄皇子ともいう。異母兄に古人大兄皇子、同母弟に大海人皇子がある。中臣鎌足と謀って蘇我氏を滅ぼし、孝徳・斉明両朝の皇太子として大化の改新の諸政策を行なった。斉明天皇崩御後も皇太子のまま称制し、百済援助の軍を派遣したが、白村江で唐・新羅連合軍に大敗。以…

  • 天智天皇・天武天皇・聖武天皇の歌

    天智天皇 巻1-13 香具山は畝火を愛しと耳梨と相あらそひき・・・(長歌) 巻1-14 香具山と耳梨山と会ひしとき立ちて見に来し印南国原 巻1-15 わたつみの豊旗雲に入日さし今夜の月夜あきらけくこそ 巻2-91 妹が家も継ぎて見ましを大和なる大島の嶺に家もあらましを 天智天皇 第38代天皇(在位668~671年)。舒明天皇の子で、母は皇極天皇。中大兄皇子ともいう。異母兄に古人大兄皇子、同母弟に大海人皇子がある。中臣鎌足と謀って蘇我氏を滅ぼし、孝徳・斉明両朝の皇太子として大化の改新の諸政策を行なった。斉明天皇崩御後も皇太子のまま称制し、百済援助の軍を派遣したが、白村江で唐・新羅連合軍に大敗。以…

  • 久にあらむ君を思ふにひさかたの・・・巻第12-3208~3210

    訓読 >>> 3208久(ひさ)にあらむ君を思ふにひさかたの清き月夜(つくよ)も闇(やみ)のみに見ゆ 3209春日(かすが)なる御笠(みかさ)の山に居(ゐ)る雲を出(い)で見るごとに君をしぞ思ふ 3210あしひきの片山雉(かたやまきざし)立ち行かむ君に後(おく)れてうつしけめやも 要旨 >>> 〈3208〉旅に出て当分帰れそうもないあなたのことを思うと、この清らかな月の夜も、まるで闇夜を見ているようです。 〈3209〉春日野の御笠の山にかかっている雲。その雲を門に出て見るたびに、旅先のあなたのことが思われてなりません。 〈3210〉片山に棲む雉が、不意に飛び立っていったかのようにあなたに旅立た…

  • 難波潟漕ぎ出る舟のはろはろに・・・巻第12-3171~3175

    訓読 >>> 3171難波潟(なにはがた)漕(こ)ぎ出(づ)る舟のはろはろに別れ来(き)ぬれど忘れかねつも 3172浦廻(うらみ)漕(こ)ぐ熊野舟(くまのぶね)着きめづらしく懸(か)けて思はぬ月も日もなし 3173松浦舟(まつらぶね)騒(さわ)く堀江(ほりえ)の水脈(みを)早み楫(かぢ)取る間なく思ほゆるかも 3174漁(いざ)りする海人(あま)の楫(かぢ)の音(おと)ゆくらかに妹(いも)は心に乗りにけるかも 3175若(わか)の浦に袖(そで)さへ濡れて忘貝(わすれがひ)拾(ひり)へど妹(いも)は忘らえなくに [或る本の歌の末句には「忘れかねつも」といふ] 要旨 >>> 〈3171〉難波潟を漕…

  • 紀伊の国の牟婁の江の辺に・・・巻第13-3302

    訓読 >>> 紀伊(き)の国の 牟婁(むろ)の江(え)の辺(へ)に 千年(ちとせ)に 障ることなく 万代(よろづよ)に かくしもあらむと 大船(おおふね)の 思ひ頼みて 出立(いでたち)の 清き渚(なぎさ)に 朝なぎに 来寄る深海松(ふかみる) 夕なぎに 来寄る縄海苔(なはのり) 深海松の 深めし児(こ)らを 縄海苔の 引けば絶(た)ゆとや 里人(さとびと)の 行きの集(つど)ひに 泣く子なす 靫(ゆき)取り探(さぐ)り 梓弓(あづさゆみ) 弓腹(ゆばら) 振り起こし しのぎ羽(は)を 二つ手挟(たばさ)み 放ちけむ 人し悔(くや)しも 恋ふらく思へば 要旨 >>> 紀の国の牟婁の入江のあたり…

  • 神風の伊勢の海の朝なぎに・・・巻第13-3301

    訓読 >>> 神風(かむかぜ)の 伊勢の海の 朝なぎに 来寄(きよ)る深海松(ふかみる) 夕なぎに 来寄る俣海松(またみる) 深海松(ふかみる)の 深めし我(わ)れを 俣海松(またみる)の また行き帰り 妻と言はじとかも 思ほせる君 要旨 >>> 神風が吹く伊勢の海の、朝なぎに岸に寄ってくる深海松(ふかみる)、夕なぎに岸に寄ってくる俣海松(またみる)、その深海松のように深く恋い焦がれてきたのに、俣海松のようにまた戻ってきて、私を妻と呼ぼうとは思っていないのですか、あなたは。 鑑賞 >>> 男から絶縁された女が復縁を訴えている歌とされます。「神風の」は「伊勢」の枕詞。「朝なぎ」は、朝、陸風から海…

  • あしひきの山菅の根のねもころに・・・巻第12-3053~3056

    訓読 >>> 3053あしひきの山菅(やますが)の根のねもころに止(や)まず思はば妹(いも)に逢はむかも 3054相(あひ)思はずあるものをかも菅(すが)の根のねもころごろに我(あ)が思へるらむ 3055山菅(やますげ)の止まずて君を思へかも我(あ)が心どのこの頃は無き 3056妹(いも)が門(かど)行き過ぎかねて草結ぶ風吹き解(と)くなまたかへり見む 要旨 >>> 〈3053〉山菅の長い根のように、ねんごろに心をこめて止むことなく思い続けていたなら、あの子に逢えるだろうかな。 〈3054〉両想いをしているのではないのに、私の方は山菅の根のように、ねんごろに心を込めて思っているのだろうか。 〈…

  • 春日野に浅茅標結ひ絶えめやと・・・巻第12-3050~3052

    訓読 >>> 3050春日野(かすがの)に浅茅(あさぢ)標結(しめゆ)ひ絶(た)えめやと我(あ)が思ふ人はいや遠長(とほなが)に 3051あしひきの山菅(やますげ)の根のねもころに我(あ)れはぞ恋(こ)ふる君が姿に 3052かきつはた佐紀沢(さきさは)に生(お)ふる菅(すが)の根の絶ゆとや君が見えぬこのころ 要旨 >>> 〈3050〉春日野で、浅茅に標を張ってずっと自分のものとするように、仲が絶えるものかと私が思い定めたあの人は、いつまでも変わらずにいてほしい。 〈3051〉山菅の長い根のように、ねんごろに私は恋い焦がれています、あなたのお姿を。 〈3052〉佐紀沼に生えている菅の根が、引けば…

  • 東歌(81)・・・巻第14-3520~3522

    訓読 >>> 3520面形(おもかた)の忘れむ時(しだ)は大野(おほの)ろにたなびく雲を見つつ偲(しの)はむ 3521烏(からす)とふ大軽率鳥(おほをそどり)の真実(まさで)にも来(き)まさぬ君をころくとぞ鳴く 3522昨夜(きそ)こそは児(こ)ろとさ寝(ね)しか雲の上(うへ)ゆ鳴き行く鶴(たづ)の間遠(まとほ)く思ほゆ 要旨 >>> 〈3520〉あなたの面ざしを忘れそうになったら、広々とした野にたなびいている雲を見つつ、あなたを偲びましょう。 〈3521〉カラスという大慌て者の鳥めが、本当においでになったわけではないあの方なのに、ころく、ころくと鳴く。 〈3522〉昨夜あの子と寝たばかりなの…

  • 藤波は咲きて散りにき卯の花は・・・巻第17-3993~3994

    訓読 >>> 3993藤波(ふぢなみ)は 咲きて散りにき 卯(う)の花は 今そ盛りと あしひきの 山にも野にも ほととぎす 鳴きし響(とよ)めば うちなびく 心もしのに そこをしも うら恋(ごひ)しみと 思ふどち 馬うち群(む)れて 携(たづさ)はり 出で立ち見れば 射水川(いみづかは) 湊(みなと)の洲鳥(すどり) 朝なぎに 潟(かた)にあさりし 潮満てば 妻呼び交(かは)す 羨(とも)しきに 見つつ過ぎ行き 渋谿(しぶたに)の 荒磯(ありそ)の崎に 沖つ波 寄せ来る玉藻(たまも) 片縒(かたよ)りに 縵(かづら)に作り 妹(いも)がため 手に巻き持ちて うらぐはし 布勢(ふせ)の水海(みづ…

  • 玉櫛笥見諸戸山を行きしかば・・・巻第7-1240~1243

    訓読 >>> 1240玉櫛笥(たまくしげ)見諸戸山(みもろとやま)を行きしかば面白くしていにしへ思ほゆ 1241ぬばたまの黒髪山(くろかみやま)を朝越えて山下(やました)露(つゆ)に濡(ぬ)れにけるかも 1242あしひきの山行き暮(ぐ)らし宿(やど)借らば妹(いも)立ち待ちて宿貸さむかも 1243見わたせば近き里廻(さとみ)をた廻(もとほ)り今ぞ我(わ)が来る領巾(ひれ)振りし野に 要旨 >>> 〈1240〉御室処山(みむろとやま)を行けば、神秘的であり、はるか神代のことが思われる。 〈1241〉黒髪山を朝越えして、山かげに落ちてくる露にしとどに濡れてしまったよ。 〈1242〉山路を一日歩き暮…

  • 玉葛幸くいまさね山菅の・・・巻第12-3204~3207

    訓読 >>> 3204玉葛(たまかづら)幸(さき)くいまさね山菅(やますげ)の思ひ乱れて恋ひつつ待たむ 3205後(おく)れ居(ゐ)て恋ひつつあらずは田子(たご)の浦の海人(あま)ならましを玉藻(たまも)刈る刈る 3206筑紫道(つくしぢ)の荒礒(ありそ)の玉藻(たまも)刈るとかも君は久しく待てど来(き)まさぬ 3207あらたまの年の緒(を)長く照る月の飽(あ)かざる君や明日(あす)別れなむ 要旨 >>> 〈3204〉葛の蔓が長く伸びるようにご無事でいらして下さい。私は山菅の根のように、思い乱れ恋い焦がれながらあなたをお待ちします。 〈3205〉取り残されてあの人を恋い続けているくらいなら、い…

  • 飼飯の浦に寄する白波しくしくに・・・巻第12-3200~3203

    訓読 >>> 3200飼飯(けひ)の浦に寄する白波(しらなみ)しくしくに妹(いも)が姿は思ほゆるかも 3201時つ風(かぜ)吹飯(ふけひ)の浜に出(い)で居(ゐ)つつ贖(あか)ふ命は妹(いも)がためこそ 3202柔田津(にきたつ)に舟乗りせむと聞きしなへ何(なに)ぞも君が見え来(こ)ざるらむ 3203みさご居(ゐ)る洲(す)に居(ゐ)る舟の漕ぎ出(で)なばうら恋しけむ後(のち)は逢ひぬとも 要旨 >>> 〈3200〉飼飯の浦に寄せている白波のように、しきりに家にいる妻のことが思い出される。 〈3201〉時つ風が吹く吹飯の浜に出て立ち、神に幣を捧げて無事を祈るこの命は、愛しい妻のためのことだ。 …

  • 東歌(69)・・・巻第14-3487~3490

    訓読 >>> 3487梓弓(あづさゆみ)末(すゑ)に玉巻きかく為為(すす)ぞ寝(ね)なななりにし奥(おく)を兼(か)ぬ兼ぬ 3488生(お)ふ楉(しもと)この本山(もとやま)の真柴(ましば)にも告(の)らぬ妹(いも)が名(な)象(かた)に出(い)でむかも 3489梓弓(あづさゆみ)欲良(よら)の山辺(やまへ)の繁(しげ)かくに妹(いも)ろを立ててさ寝処(ねど)払ふも 3490梓弓(あづさゆみ)末(すゑ)は寄り寝む正香(まさか)こそ人目(ひとめ)を多(おほ)み汝(な)をはしに置けれ 要旨 >>> 〈3487〉梓弓の弓末に玉を巻いて飾り立てるように大切にしてきたのに、共寝しないままになってしまった…

  • あしひきの山の木末のほよ取りて・・・巻第18-4136~4138

    訓読 >>> 4136あしひきの山の木末(こぬれ)のほよ取りて挿頭(かざ)しつらくは千年(ちとせ)寿(ほ)くとぞ 4137正月(むつき)立つ春の初めにかくしつつ相(あひ)し笑(ゑ)みてば時じけめやも 4138薮波(やぶなみ)の里に宿(やど)借り春雨(はるさめ)に隠(こも)りつつむと妹(いも)に告げつや 要旨 >>> 〈4136〉山の木々の梢から、ほよを取って挿頭にしているのは、千年の寿命を祝ってのことだという。 〈4137〉正月が来た春の初めに、このように互いに笑みを交わしているのならば、まことに時宜を得たことではないか。 〈4138〉薮波の里で宿を借りたところに、春雨に降りこめられている。こ…

  • 十二月には沫雪降ると知らねかも・・・巻第8-1648

    訓読 >>> 十二月(しはす)には沫雪(あわゆき)降ると知らねかも梅の花咲く含(ふふ)めらずして 要旨 >>> 十二月には泡雪が降ることを知らないからだろうか。梅の花がちらほらと咲き始めた。蕾のままでいないで。 鑑賞 >>> 紀少鹿女郎(きのをしかのいらつめ)の梅の歌。紀少鹿は、紀小鹿と同じ。紀朝臣鹿人(きのあそみかひと)の娘で、志貴皇子の孫の安貴王(あきのおおきみ)の妻だった女性。夫の安貴王の八上采女事件に際し怨恨歌(巻第4-643~645)を残し、この事件後に安貴王と離別し、大伴家持との交流が始まったとされます。『万葉集』には12首。 「沫雪」は、はらはらと降る泡状の雪。「知らねかも」は「…

  • 秋萩の花野のすすき穂には出でず・・・巻第10-2285~2288

    訓読 >>> 2285秋萩(あきはぎ)の花野(はなの)のすすき穂には出(い)でず我(あ)が恋ひわたる隠(こも)り妻(づま)はも 2286我(わ)が宿(やど)に咲きし秋萩(あきはぎ)散り過ぎて実になるまでに君に逢はぬかも 2287我(わ)が宿(やど)の萩咲きにけり散らぬ間(ま)に早(はや)来て見べし奈良の里人(さとびと) 2288石橋(いしばし)の間々(まま)に生(お)ひたるかほ花の花にしありけりありつつ見れば 要旨 >>> 〈2285〉萩の花が咲く野にまじっているるススキ、そのススキがまだ穂を出さないように、私が人知れず恋い続けている隠り妻は、ああ。 〈2286〉我が家の庭に咲いた萩の花が、散…

  • 引き攀ぢて折らば散るべみ梅の花・・・巻第8-1644~1647

    訓読 >>> 1644引き攀(よ)ぢて折(を)らば散るべみ梅の花(はな)袖(そで)に扱入(こき)れつ染(し)まば染むとも 1645我(わ)がやどの冬木(ふゆき)の上(うへ)に降る雪を梅の花かとうち見つるかも 1646ぬばたまの今夜(こよひ)の雪にいざ濡(ぬ)れな明けむ朝(あした)に消(け)なば惜(を)しけむ 1647梅の花(はな)枝にか散ると見るまでに風に乱れて雪そ降り来る 要旨 >>> 〈1644〉枝を手繰り寄せて折ったら散ってしまいそうなので、梅の花を袖にしごいて入れた。袖が染まるなら染まってもよい。 〈1645〉我が家の庭の冬枯れの木の上に降る雪を、梅の花かとふと眺めやったことだ。 〈1…

  • 蜻蛉島大和の国は神からと・・・巻第13-3250~3252

    訓読 >>> 3250蜻蛉島(あきづしま) 大和の国は 神(かむ)からと 言挙(ことあ)げせぬ国 しかれども 我(わ)れは言挙げす 天地(あめつち)の 神もはなはだ 我(あ)が思ふ 心知らずや 行く影の 月も経(へ)行けば 玉かぎる 日も重なりて 思へかも 胸安からぬ 恋ふれかも 心の痛(いた)き 末(すゑ)つひに 君に逢はずは わが命の 生(い)けらむ極(きは)み 恋ひつつも 我(わ)れは渡らむ まそ鏡 直目(ただめ)に君を 相(あひ)見てばこそ 我(あ)が恋 止(や)まめ 3251大船(おおぶね)の思ひ頼(たの)める君ゆゑに尽(つ)くす心は惜(を)しけくもなし 3252ひさかたの都を置きて…

  • 心をし無何有の郷に置きてあらば・・・巻第16-3851

    訓読 >>> 心をし無何有(むがう)の郷(さと)に置きてあらば藐孤射(ばこや)の山を見まく近けむ 要旨 >>> 心さえ無何有の郷に置いていれば、藐孤射の山を見ることのできる日も近いだろう。 鑑賞 >>> 「心をし」の「し」は、強意の副助詞。「無何有の郷」は、『荘子』逍遥遊篇に見える、自然のままで何の作為もない理想郷。無心(無念無想)の譬え。「心を置く」というのは、心のよりどころを置く、精神をそこに安置するの意で、ここは「心を俗世から離し、悟りの境地に置く」というニュアンス。「藐孤射の山」は、同じく『荘子』に見える、中国で不老不死の仙人が住んでいるという想像上の山。「見まく」は、見ること。「近け…

  • 東歌(78)・・・巻第14-3511~3514

    訓読 >>> 3511青嶺(あをね)ろにたなびく雲のいさよひに物をぞ思ふ年のこのころ 3512一嶺(ひとね)ろに言はるものから青嶺(あをね)ろにいさよふ雲の寄そり妻(づま)はも 3513夕(ゆふ)さればみ山を去らぬ布雲(にのぐも)のあぜか絶(た)えむと言ひし子ろはも 3514高き嶺(ね)に雲の付(つ)くのす我(わ)れさへに君に付(つ)きなな高嶺(たかね)と思(も)ひて 要旨 >>> 〈3511〉あの青い峰にたなびく雲のように、心落ち着かず物思いをしている。一年もの長い間を。 〈3512〉一つ峰の仲だと噂されているのに、いざ私と寝ろと言ったら、あの青い峰に漂う雲のようにためらっている、あの寄そり…

  • 防人の歌(31)・・・巻第20-4385~4386

    訓読 >>> 4385行(ゆ)こ先(さき)に波なとゑらひ後方(しるへ)には子をと妻をと置きてとも来(き)ぬ 4386我が門(かづ)の五本柳(いつもとやなぎ)いつもいつも母(おも)が恋(こひ)すす業(な)りましつしも 要旨 >>> 〈4385〉船の行き先に波よ高くうねらないでおくれ。後ろには、子や妻を置いてきたのだから。 〈4386〉我が家の門口に立つ五本(いつもと)柳、その名のように、いつの時も母は私のことを思いながら働いておられるだろう。 鑑賞 >>> 下総国(千葉県北部と茨城県南西部)の防人の歌。作者は、4385が葛飾郡(かつしかのこおり)の私部石島(きさきべのいわしま)。「葛飾郡」は、埼…

  • 奈呉の海の沖つ白波しくしくに・・・巻第17-3988~3990

    訓読 >>> 3988ぬばたまの月に向(むか)ひて霍公鳥(ほととぎす)鳴く音(おと)遥(はる)けし里遠(さとどほ)みかも 3989奈呉(なご)の海の沖つ白波しくしくに思ほえむかも立ち別れなば 3990我(わ)が背子(せこ)は玉にもがもな手に巻きて見つつ行かむを置きて行かば惜(を)し 要旨 >>> 〈3988〉夜空の月に向かって鳴くホトトギスの声が、遙か彼方から聞こえてくる。里から遠い山の中にいるからだろうか。 〈3989〉奈呉の海の沖から白波がしきりに寄せてくるように、しきりにみなさんのことが思われることでしょう。このままお別れした後は。 〈3990〉あなたが玉であってくれたらなあ。そしたら手…

  • 印南野は行き過ぎぬらし天伝ふ・・・巻第7-1178~1181

    訓読 >>> 1178印南野(いなみの)は行き過ぎぬらし天伝(あまづた)ふ日笠(ひかさ)の浦に波立てり見ゆ [一云 飾磨江(しかまえ)は漕ぎ過ぎぬらし] 1179家にして我れは恋ひむな印南野(いなみの)の浅茅(あさぢ)が上に照りし月夜(つくよ)を 1180荒磯(ありそ)越す波を畏(かしこ)み淡路島(あはじしま)見ずか過ぎなむここだ近きを 1181朝霞(あさがすみ)止(や)まずたなびく龍田山(たつたやま)舟出(ふなで)せむ日は我(あ)れ恋ひむかも 要旨 >>> 〈1178〉印南野はもう通り過ぎたようだ。はるか向こうの日笠の浦が波立っているのが見える。 〈1179〉家に帰ってからも私は恋しく思い出…

  • 浜清み礒に我が居れば見る人は・・・巻第7-1204~1207

    訓読 >>> 1204浜清み礒(いそ)に我(わ)が居(を)れば見る人は海人(あま)とか見らむ釣りもせなくに 1205沖つ楫(かぢ)やくやくしぶを見まく欲(ほ)り我(わ)がする里の隠(かく)らく惜しも 1206沖つ波(なみ)辺(へ)つ藻(も)巻き持ち寄せ来(く)とも君にまされる玉寄せめやも〈一に云ふ 沖つ波 辺波(へなみ)しくしく寄せ来(く)とも〉 1207粟島(あはしま)に漕ぎ渡らむと思へども明石(あかし)の門波(となみ)いまだ騒(さわ)けり 要旨 >>> 〈1204〉浜が清らかなので、それを愛でて一人で磯に立っていると、見る人は私のことを海人と思うだろうか。釣りなどしていないのに。 〈120…

  • しなたつ筑摩左野方息長の・・・巻第13-3323

    訓読 >>> しなたつ 筑摩(つくま)左野方(さのかた) 息長(おきなが)の 遠智(をち)の小菅(こすげ) 編(あ)まなくに い刈り持ち来(き) 敷かなくに い刈り持ち来て 置きて 我(わ)れを偲(しの)はす 息長(おきなが)の 遠智(をち)の小菅 要旨 >>> 筑摩の左野方の人は、息長の遠越の小菅を、編みもしないのに刈り取ってきたり、敷きもしないのに刈り取って持って来たりして、そのまま捨て置いて気をもませるなんて、息長の遠智のこの小菅に。 鑑賞 >>> 結婚する気もないのに関わってくる男を恨む女の歌とされます。「しなたつ」は、語義未詳ながら「筑摩」にかかる枕詞。「筑摩」は、滋賀県米原市の琵琶…

  • 何すとか君をいとはむ秋萩の・・・巻第10-2273~2276

    訓読 >> 2273何すとか君をいとはむ秋萩(あきはぎ)のその初花(はつはな)の嬉(うれ)しきものを 2274臥(こ)いまろび恋ひは死ぬともいちしろく色には出(い)でじ朝顔(あさがほ)の花 2275言(こと)に出でて云はばゆゆしみ朝顔(あさがほ)の穂(ほ)には咲き出(で)ぬ恋もするかも 2276雁(かり)がねの初声(はつこゑ)聞きて咲き出(で)たる宿の秋萩(あきはぎ)見に来(こ)我(わ)が背子(せこ) 要旨 >>> 〈2273〉何だって、あなたのことを嫌だなんて思うでしょうか。秋萩のその初花を見た時のように嬉しくてならないのに。 〈2274〉転げまわって恋焦がれて死のうとも、決して顔色には出し…

  • 神さびて巌に生ふる松が根の・・・巻第12-3047~3049

    訓読 >>> 3047神(かむ)さびて巌(いはほ)に生(お)ふる松が根の君が心は忘れかねつも 3048み狩(か)りする雁羽(かりは)の小野の櫟柴(ならしば)の馴(な)れはまさらず恋こそまされ 3049桜麻(さくらを)の麻生(をふ)の下草(したくさ)早く生(お)ひば妹(いも)が下紐(したびも)解かざらましを 要旨 >>> 〈3047〉神々しく巌の上に生える松の根のような、しっかりしたあなたの心は忘れようにも忘れられません。 〈3048〉狩りをなさる雁羽のならの雑木ではありませんが、あなたと馴れ親しむことは少なくて、恋しさが募るばかりです。 〈3049〉桜麻の麻原の下草が早く生えるように、私がもっ…

  • 東歌(80)・・・巻第14-3517~3519

    訓読 >>> 3517白雲(しらくも)の絶えにし妹(いも)をあぜせろと心に乗りてここば愛(かな)しけ 3518岩(いは)の上(へ)にいかかる雲のかのまづく人ぞおたはふいざ寝(ね)しめとら 3519汝(な)が母に嘖(こ)られ我(あ)は行く青雲(あをくも)の出(い)で来(こ)我妹子(わぎもこ)相(あひ)見て行かむ 要旨 >>> 〈3517〉切れた白雲のように、とうに関係が絶えてしまった妻なのに、いまさらどうしろというのか、心に乗りかってきてこんなにも愛しくてならない。 〈3518〉岩の上に次々とかかる雲のように、いつも騒ぎ立てている連中のお節介もおさまった。さあ共寝をしようか、かわいい女よ。 〈3…

  • 雨降らば着むと思へる笠の山・・・巻第3-374

    訓読 >>> 雨降らば着(き)むと思へる笠(かさ)の山(やま)人にな着せそ濡(ぬ)れは漬(ひ)つとも 要旨 >>> 雨が降ったら着ようと思っている笠、その名を持つ笠の山よ、我以外の人には着せないでくれ、たとえその人がびしょ濡れになっても。 鑑賞 >>> 石上乙麻呂朝臣(いそのかみのおとまろあそみ)の歌。「雨降らば着むと思へる」は、雨が降れば着ようと思っている意で、「笠」を導く序詞。「笠の山」は、三笠山あるいは桜井市の笠の山。「な着せそ」の「な~そ」は、禁止。「濡れは漬つとも」は、「濡れ漬つ」を強めるために「濡れ」と「漬つ」の間に「は」を入れたもの。単に笠の山の面白さを愛でて歌ったものとも取れま…

  • 月数めばいまだ冬なりしかすがに・・・巻第20-4492~4495

    訓読 >>> 4492月(つき)数(よ)めばいまだ冬なりしかすがに霞(かすみ)たなびく春立ちぬとか 4493初春(はつはる)の初子(はつね)の今日(けふ)の玉箒(たまばはき)手に取るからに揺(ゆ)らく玉の緒(を) 4494水鳥(みづとり)の鴨(かも)の羽色(はいろ)の青馬(あをうま)を今日(けふ)見る人は限りなしといふ 4495うち靡(なび)く春ともしるく鴬(うぐひす)は植木(うゑき)の木間(こま)を鳴き渡らなむ 要旨 >>> 〈4492〉暦の上ではまだ冬なのだが、そうはいっても霞がたなびき、やはり春がやってきたのだろうか。 〈4493〉新春になって初めての子の日の今日、玉箒を手にとるとゆらゆ…

  • あしひきの山より出づる月待つと・・・巻第12-3002~3005

    訓読 >>> 3002あしひきの山より出(い)づる月待つと人には言ひて妹(いも)待つ吾(われ)を 3003夕月夜(ゆふづくよ)暁闇(あかときやみ)のおほほしく見し人ゆゑに恋ひ渡るかも 3004ひさかたの天(あま)つみ空に照る月の失(う)せむ日にこそ吾(あ)が恋止まめ 3005十五日(もちのひ)に出でにし月の高々(たかだか)に君を坐(いま)せて何をか思はむ 要旨 >>> 〈3002〉山から出てくる月を待っていると人には告げながら、実はあの子を待っている私であるよ。 〈3003〉夕月の夜の、明け方の闇のように、ほのかに見かけたお人であるのに、恋い続けていることだ。 〈3004〉空高く照る月がこの世…

  • 東歌(77)・・・巻第14-3507~3510

    訓読 >>> 3507谷(たに)狭(せば)み峰(みね)に延(は)ひたる玉葛(たまかづら)絶えむの心(こころ)我(わ)が思(も)はなくに 3508芝付(しばつき)の御宇良崎(みうらさき)なるねつこ草(ぐさ)相(あひ)見ずあらば我(あ)れ恋ひめやも 3509栲衾(たくぶすま)白山風(しらやまかぜ)の寝(ね)なへども子ろが襲着(おそき)のあろこそ良(え)しも 3510み空(そら)行く雲にもがもな今日(けふ)行きて妹(いも)に言問(ことど)ひ明日(あす)帰り来(こ)む 要旨 >>> 〈3507〉谷が狭いので峰に向かって伸びている玉葛の、引けば絶えるような、そんな関係を絶やそうなどという心は持っていませ…

  • 君が行きもし久にあらば梅柳・・・巻第19-4238~4239

    訓読 >>> 4238君が行きもし久(ひさ)にあらば梅柳(うめやなぎ)誰(た)れとともにか我(わ)がかづらかむ 4239二上(ふたがみ)の峰(を)の上(うへ)の茂(しげ)に隠(こも)りにしその霍公鳥(ほととぎす)待てど来(き)鳴かず 要旨 >>> 〈4238〉あなたの旅が長くなったら、春の梅や柳を、私は誰と一緒にそれらを縵(かずら)にして楽しんだらいいのだろう。 〈4239〉二上の峰のあたりの茂みにこもってしまったホトトギスは、いくら待っても里に来て鳴いてくれない。 鑑賞 >>> 大伴家持の歌2首。4238は、天平勝宝3年(751年)2月2日、正税帳使として近く上京する掾(じょう)の久米広縄を…

  • 難波辺に人の行ければ後れ居て・・・巻第8-1442~1443

    訓読 >>> 1442難波辺(なにはへ)に人の行ければ後(おく)れ居(ゐ)て春菜(はるな)摘(つ)む児(こ)を見るが悲しさ 1443霞(かすみ)立つ野の上(うへ)の方(かた)に行きしかば鴬(うぐひす)鳴きつ春になるらし 要旨 >>> 〈1442〉難波の方へ夫が行ってしまい、ひとり残されて春菜を摘んでいるその妻を見るとあわれに感じる。 〈1443〉霞がかっている野山のあたりに行ってみたら、ウグイスが鳴いていた。今こそ春になったらしい。 鑑賞 >>> 1442は、大蔵少輔(おおくらのしょうふ:大蔵省の次官)丹比屋主真人(たじひのやぬしのまひと)の歌。丹比屋主真人は、神亀元年(724年)従五位下、天…

  • 夕影に来鳴くひぐらしここだくも・・・巻第10-2153~2157

    訓読 >>> 2153秋萩(あきはぎ)の咲きたる野辺(のへ)はさを鹿ぞ露(つゆ)を別(わ)けつつ妻問ひしける 2154なぞ鹿のわび鳴きすなるけだしくも秋野(あきの)の萩や繁(しげ)く散るらむ 2155秋萩(あきはぎ)の咲たる野辺(のへ)にさを鹿は散らまく惜(を)しみ鳴き行くものを 2156あしひきの山の常蔭(とかげ)に鳴く鹿の声聞かすやも山田(やまだ)守(も)らす子 2157夕影(ゆふかげ)に来鳴(きな)くひぐらしここだくも日ごとに聞けど飽(あ)かぬ声かも 要旨 >>> 〈2153〉萩が咲いているこの野辺は、牡鹿が露の置いた枝を押し分け押し分けしては、妻を求めて歩き回ったのだな。 〈2154〉…

  • 真木の葉のしなふ背の山偲はずて・・・巻第3-291

    訓読 >>> 真木(まき)の葉のしなふ背(せ)の山(やま)偲(しの)はずて我(わ)が越え行けば木(こ)の葉知りけむ 要旨 >>> 真木の枝葉が美しく生い茂る背の山なのに、ゆっくり愛でるゆとりもなく私は越えて行く。でも、山の木の葉はこの気持ちを分かってくれただろう。 鑑賞 >>> 題詞に「小田事(をだのつかふ)の背の山の歌」とあります。小田事は、伝未詳。「真木」は、杉や檜などの立派な木。「しなふ」は、若くしなやかな、美しい曲線をなす状態をいう語で、春の山、秋萩、藤の花房、美しい人の姿などに言います。「背の山」は、和歌山県伊都郡かつらぎ町にある山で、大和から紀伊に旅する人は、この山を越すと、国を離…

  • 妹が手を取石の池の波の間ゆ・・・巻第10-2166~2167

    訓読 >>> 2166妹(いも)が手を取石(とろし)の池の波の間(ま)ゆ鳥が音(ね)異(け)に鳴く秋過ぎぬらし 2167秋の野の尾花(をばな)が末(うれ)に鳴くもずの声聞きけむか片聞(かたき)け我妹(わぎも) 要旨 >>> 〈2166〉妻の手を取るという取石(とろし)の池の波間から、水鳥がいつもと違う声で鳴いている。秋が深まったようだ。 〈2167〉秋の野の尾花の穂先で鳴くモズの声を聞いただろうか、よく聞いてごらん、わが妻よ。 鑑賞 >>> 「鳥を詠む」歌2首。2166の「妹が手を」は、取ると続き、「取石」にかかる枕詞。集中に類の多い即興的枕詞です。「取石の池」は、大阪府高石市の東部にあった池…

  • あぢかまの塩津をさして漕ぐ船の・・・巻第11-2745~2747

    訓読 >>> 2745港(みなと)入りの葦(あし)別(わ)け小舟(をぶね)障(さは)り多み吾(あ)が思ふ君に逢はぬころかも 2746庭(には)清み沖(おき)へ漕ぎ出(づ)る海人舟(あまぶね)の楫(かぢ)取る間(ま)無き恋もするかも 2747あぢかまの塩津(しほつ)をさして漕ぐ船の名は告(の)りてしを逢はざらめやも 要旨 >>> 〈2745〉港に入る小舟が葦を押し分けて進むように邪魔が多いので、私の思うあの方になかなか逢えないこのごろだ。 〈2746〉海が凪いで沖に漕ぎ出す漁船が休みなく楫を操るように、絶え間のない恋を私はしている。 〈2747〉あじかまの塩津を目指して漕ぐ船が大声で名乗るように…

  • かけまくもあやに畏し藤原の都しみみに・・・巻第13-3324~3325

    訓読 >>> 3324かけまくも あやに畏(かしこ)し 藤原の 都しみみに 人はしも 満ちてあれども 君はしも 多くいませど 行き向かふ 年の緒(を)長く 仕(つか)へ来(こ)し 君の御門(みかど)を 天(あめ)のごと 仰ぎて見つつ 畏(かしこ)けど 思ひ頼みて いつしかも 日(ひ)足(た)らしまして 望月(もちづき)の 満(たた)はしけむと 我(わ)が思ふ 皇子(みこ)の命(みこと)は 春されば 植槻(うゑつき)が上の 遠つ人 松の下道(したぢ)ゆ 登らして 国見(くにみ)遊ばし 九月(ながつき)の しぐれの秋は 大殿(おほとの)の 砌(みぎり)しみみに 露(つゆ)負ひて なびける萩を 玉た…

  • この岡に小鹿踏み起しうかねらひ・・・巻第8-1576~1580

    訓読 >>> 1576この岡に小鹿(をしか)踏(ふ)み起(おこ)しうかねらひかもかもすらく君(きみ)ゆゑにこそ 1577秋の野の尾花(をばな)が末(うれ)を押しなべて来(こ)しくも著(しる)く逢へる君かも 1578今朝(けさ)鳴きて行きし雁(かり)が音(ね)寒(さむ)みかもこの野の浅茅(あさぢ)色づきにける 1579朝戸(あさと)開けて物思(ものも)ふ時に白露の置ける秋萩(あきはぎ)見えつつもとな 1580さを鹿(しか)の来(き)立ち鳴く野の秋萩(あきはぎ)は露霜(つゆしも)負(お)ひて散りにしものを 要旨 >>> 〈1576〉この岡で鹿を追い立てて狙うように、あれこれ心を尽くすのは、あなた様…

  • 隠り沼の下に恋ふれば飽き足らず・・・巻第11-2719~2721

    訓読 >>> 2719隠(こも)り沼(ぬ)の下(した)に恋ふれば飽き足らず人に語りつ忌(い)むべきものを 2720水鳥の鴨(かも)の棲(す)む池の下樋(したび)無(な)みいぶせき君を今日(けふ)見つるかも 2721玉藻(たまも)刈る井堤(ゐで)のしがらみ薄(うす)みかも恋の淀(よど)める吾(あ)が心かも 要旨 >>> 〈2719〉隠れた沼のように、心密かに恋い焦がれているのでは飽きたらず、とうとう人に話してしまった、憚るべきなのに。 〈2720〉水鳥の鴨が棲む池に下樋が無くて水が滞っているように、心が晴れませんでしたが、あなたに今日やっとお逢いできました。 〈2721〉玉藻を刈る堤のしがらみが…

  • 雲の上に鳴くなる雁の遠けども・・・巻第8-1574~1575

    訓読 >>> 1574雲の上に鳴くなる雁(かり)の遠けども君に逢はむとた廻(もとほ)り来(き)つ 1575雲の上に鳴きつる雁(かり)の寒きなへ萩(はぎ)の下葉(したば)はもみちぬるかも 要旨 >>> 〈1574〉雲の上で鳴いている雁のように、遠いところに住んでいる私ですが、あなた様にお会いしたいと、巡り巡ってやって参りました。 〈1575〉雲の上で鳴いている雁の声が寒々と聞こえますが、折も折、この庭の萩の下葉はすっかり色づいていますね。 鑑賞 >>> 天平10年(738年)8月20日、右大臣橘家で行われた宴の歌7首のうちの2首。宴が行われたのは、橘諸兄の別邸で、奈良京から離れた井手(京都府綴喜…

  • 天照らす神の御代より安の川・・・巻第18-4125~4127

    訓読 >>> 4125天照(あまで)らす 神の御代(みよ)より 安(やす)の川 中に隔(へだ)てて 向かひ立ち 袖(そで)振り交(かは)し 息の緒(を)に 嘆(なげ)かす児(こ)ら 渡り守(もり) 舟も設(まう)けず 橋だにも 渡してあらば その上(へ)ゆも い行(ゆ)き渡らし 携(たずさ)はり うながけり居(ゐ)て 思ほしき 言(こと)も語らひ 慰(なぐさ)むる 心はあらむを 何しかも 秋にしあらねば 言問(ことど)ひの 乏(とも)しき児(こ)ら うつせみの 世の人 我(わ)れも ここをしも あやに奇(くす)しみ 行(ゆ)き変はる 年のはごとに 天(あま)の原 振り放(さ)け見つつ 言ひ継(…

  • 住吉の岸の浦廻に重く波の・・・巻第11-2735~2739

    訓読 >>> 2735住吉(すみのえ)の岸の浦廻(うらみ)に重(し)く波のしくしく妹(いも)を見むよしもがも 2736風をいたみいたぶる波の間(あひだ)無く吾(あ)が思ふ君は相(あひ)思ふらむか 2737大伴(おほとも)の御津(みつ)の白波(しらなみ)間(あひだ)無く我(あ)が恋ふらくを人の知らなく 2738大船(おほぶね)のたゆたふ海に重石(いかり)下(お)ろしいかにせばかも吾(あ)が恋やまむ 2739みさご居(ゐ)る沖つ荒礒(ありそ)に寄する波(なみ)行(ゆ)く方(へ)も知らず吾(あ)が恋ふらくは 要旨 >>> 〈2735〉住吉の岸の浦辺に繰り返し寄せ来る波のように、しばしばあの子に逢える…

  • 東歌(94)・・・巻第14-3559~3561

    訓読 >>> 3559大船(おほぶけ)を舳(へ)ゆも艫(とも)ゆも堅(かた)めてし許曽(こそ)の里人(さとびと)顕(あら)はさめかも 3560真金(まかね)吹(ふ)く丹生(にふ)のま朱(そほ)の色に出(で)て言(い)はなくのみぞ我(あ)が恋ふらくは 3561金門田(かなとだ)を荒垣間(あらがきま)ゆ見(み)日が照(と)れば雨を待(ま)とのす君をと待(ま)とも 要旨 >>> 〈3559〉大船を船首と船尾から綱を出してしっかり結ぶように、堅く約束した二人の仲を、許曽の里の人たちがばらしたりできようか、できるはずがない。 〈3560〉鉄を製煉する炎のように赤い丹生の赤土のように、顔色に出して言わない…

  • うつつにと思ひてしかも夢のみに・・・巻第19-4236~4237

    訓読 >>> 4236天地(あめつち)の 神はなかれや 愛(うつく)しき 我(わ)が妻(つま)離(さか)る 光る神 鳴りはた娘子(をとめ) 携(たずさ)はり 共にあらむと 思ひしに 心 違(たが)ひぬ 言はむすべ 為(せ)むすべ知らに 木綿(ゆふ)だすき 肩に取り掛け 倭文幣(しつぬさ)を 手に取り持ちて な放(さ)けそと 我(わ)れは祈れど まきて寝し 妹(いも)が手本(たもと)は 雲にたなびく 4237うつつにと思ひてしかも夢(いめ)のみに手本(たもと)巻き寝(ぬ)と見ればすべなし 要旨 >>> 〈4236〉天にも地にも神はいないのだろうか。愛しい我が妻は遠くへ去ってしまった。光る神が鳴り…

  • 月夜よみ門に出で立ち足占して・・・巻第12-3006~3009

    訓読 >>> 3006月夜(つくよ)よみ門(かど)に出で立ち足占(あしうら)して行く時さへや妹(いも)に逢はざらむ 3007ぬばたまの夜(よ)渡(わた)る月の清(さや)けくはよく見てましを君が姿を 3008あしひきの山を木高(こだか)み夕月(ゆふづき)をいつかと君を待つが苦しさ 3009橡(つるはみ)の衣(きぬ)解(と)き洗ひ真土山(まつちやま)本(もと)つ人にはなほ及(し)かずけり 要旨 >>> 〈3006〉よい月夜なので門口に出て足占いをして、あなたに逢えると出たから来たのに、やはり逢えないのでしょうか。 〈3007〉夜空を渡っていく月が清らかに照っていれば、心ゆくまで見ることができただろ…

  • 我妹子に恋ひて乱ればくるべきに・・・巻第4-642

    訓読 >>> 我妹子(わぎもこ)に恋ひて乱ればくるべきに懸(か)けて寄せむと我(あ)が恋ひそめし 要旨 >>> あの子にしかけた恋がうまくいかなければ、乱れた心を糸車にかけてうまく縒り直せばいいと、そう思って恋をしかけたのだ。 鑑賞 >>> 題詞に「湯原王の歌一首」とあり、631~641の娘子との贈答とは別に、王の独泳としてのものです。「我妹子」とあるのは、贈答を交わした娘子のことと見られます。「くるべき」は、糸を操る道具、糸車。「懸けて寄せむ」は、くるべきに糸を巻いて縒り合せ、二筋の糸を一筋の糸に合わせる意で、乱れた心を元通りにする、平常心に戻ることの譬喩。「恋ひそめし」は、恋し始めたことだ…

  • み吉野の水隈が菅を編なくに・・・巻第11-2837~2840

    訓読 >>> 2837み吉野の水隈(みぐま)が菅(すげ)を編(あ)まなくに刈りのみ刈りて乱りてむとや 2838川上(かはかみ)に洗ふ若菜(わかな)の流れ来て妹(いも)があたりの瀬にこそ寄らめ 2839かくしてやなほや守らむ大荒木(おほあらき)の浮田(うきた)の社(もり)の標(しめ)にあらなくに 2840いくばくも降らぬ雨ゆゑ吾(わ)が背子(せこ)が御名(みな)のここだく滝もとどろに 要旨 >>> 〈2837〉吉野の川隅に生える菅を、笠に編みもしないのに刈るだけ刈って、ほったらかしにしておくつもりですか。 〈2838〉川上で洗っている若菜のように流れて行って、彼女の住む家のそばの瀬に寄りたいのだ…

  • 我が宿の時じき藤のめづらしく・・・巻第8-1627~1628

    訓読 >>> 1627我(わ)が宿(やど)の時じき藤のめづらしく今も見てしか妹(いも)が笑(ゑ)まひを 1628我(わ)が宿(やど)の萩(はぎ)の下葉(したば)は秋風もいまだ吹かねばかくぞもみてる 要旨 >>> 〈1627〉私が家の庭に、季節はずれの藤が咲きました。珍しいその美しい藤のような、愛しいあなたの笑顔を、今すぐにも見たいものです。 〈1628〉我が家の庭の萩の下葉は、まだ秋風も吹かないのに、もうこんなに色づきました。 鑑賞 >>> 大伴家持の歌。家持と坂上大嬢が竹田の庄で再会した翌年の天平12年(740年)夏6月、家持が季節はずれの藤の花と萩の黄葉をよじり折って、坂上大嬢に贈ったもの…

  • 衣手の別かる今夜ゆ妹も我れも・・・巻第4-508

    訓読 >>> 衣手(ころもで)の別(わ)かる今夜(こよひ)ゆ妹(いも)も我(わ)れもいたく恋ひむな逢ふよしをなみ 要旨 >>> 袖を交わすことがなくなり遠ざかる今夜から、妻も私も互いに強く恋い焦がれることになるだろうな。直接逢うすべがないので。 鑑賞 >>> 三方沙弥(みかたのさみ:伝未詳)の歌。何らかの事情で、夫婦が遠く別れることになった時に、妻に与えた歌です。「衣手」は、袖。「今夜ゆ」の「ゆ」は、起点・経由点を示す格助詞。「恋ひむな」の「な」は詠嘆で、恋しくなることだろうな。「逢ふよし」は、逢う方法。「なみ」は、無いゆえに。巻第2-123・125に園臣生羽の娘を娶った早々の時の歌があります…

  • 夕なぎにあさりする鶴潮満てば・・・巻第7-1165~1169

    訓読 >>> 1165夕(ゆふ)なぎにあさりする鶴(たづ)潮(しほ)満てば沖波(おきなみ)高み己妻(おのづま)呼ばふ 1166いにしへにありけむ人の求めつつ衣(きぬ)に摺(す)りけむ真野(まの)の榛原(はりはら) 1167あさりすと礒(いそ)に我(わ)が見しなのりそをいづれの島の海人(あま)か刈るらむ 1168今日(けふ)もかも沖つ玉藻(たまも)は白波(しらなみ)の八重(やへ)をるが上(うへ)に乱れてあるらむ 1169近江(あふみ)の海(うみ)港(みなと)は八十(やそ)ちいづくにか君が舟(ふね)泊(は)て草結びけむ 要旨 >>> 〈1165〉夕なぎ時に餌をあさっている鶴たちは、潮が満ちてくると…

  • 秋立ちて幾日もあらねばこの寝ぬる・・・巻第8-1555~1556

    訓読 >>> 1555秋立ちて幾日(いくか)もあらねばこの寝(ね)ぬる朝明(あさけ)の風は手本(たもと)寒しも 1556秋田刈る仮廬(かりいほ)もいまだ壊(こほ)たねば雁(かり)が音(ね)寒し霜(しも)も置きぬがに 要旨 >>> 〈1555〉秋が立ってまだ幾日も経っていないのに、起き抜けのこの夜明けの風は、袂(たもと)に寒く吹いている。 〈1556〉秋田の田を刈り取るために作った仮小屋もまだ取り払っていないのに、早くも雁が寒々とした鳴き声を発している。霜が降りるばかりに。 鑑賞 >>> 1555は、安貴王(あきのおほきみ)の歌。安貴王は、志貴皇子の孫、市原王の父。天平元年(729年)従五位下、…

  • 大和には鳴きてか来らむ霍公鳥・・・巻第10-1956~1960

    訓読 >>> 1956大和(やまと)には鳴きてか来(く)らむ霍公鳥(ほととぎす)汝(な)が鳴くごとになき人思ほゆ 1957卯(う)の花の散らまく惜(を)しみ霍公鳥(ほととぎす)野に出(い)で山に入(い)り来(き)鳴き響(とよ)もす 1958橘(たちばな)の林を植(う)ゑむ霍公鳥(ほととぎす)常(つね)に冬まで棲(す)みわたるがね 1959雨晴(あまば)れの雲にたぐひて霍公鳥(ほととぎす)春日(かすが)をさしてこゆ鳴き渡る 1960物思(ものも)ふと寐寝(いね)ぬ朝明(あさけ)に霍公鳥(ほととぎす)鳴きてさ渡るすべなきまでに 要旨 >>> 〈1956〉大和には、今ごろ来て鳴いているだろうか、ホト…

  • 佐保渡り我家の上に鳴く鳥の・・・巻第4-663

    訓読 >>> 佐保(さほ)渡り我家(わぎへ)の上(うへ)に鳴く鳥の声(こゑ)なつかしき愛(は)しき妻の児(こ) 要旨 >>> 佐保の辺りを飛び渡ってきて我が家の上で鳴く鳥のように、心惹かれる声の、いとしい我が妻よ。 鑑賞 >>> 安都宿祢年足(あとのすくねとしたり:伝未詳)の歌。『続日本紀』の養老3年(719年)の条に正八位下阿刀連人足らに宿祢姓を賜うとの記事があります。『万葉集』には、この1首のみ。 「佐保」は、平城京の北部で、貴族の住宅地だった所。「佐保渡り」は、佐保の地の上空を飛び渡っての意。佐保川を渡って、と解するものもあります。「我家(わぎへ)」は、ワガイヘの約。上3句は「声なつかし…

  • 遠音にも君が嘆くと聞きつれば・・・巻第19-4214~4216

    訓読 >>> 4214天地(あめつち)の 初めの時ゆ うつそみの 八十伴(やそとも)の男(を)は 大君(おほきみ)に まつろふものと 定(さだ)まれる 官(つかさ)にしあれば 大君の 命(みこと)畏(かしこ)み 鄙離(ひなざか)る 国を治(をさ)むと あしひきの 山川へなり 風雲(かぜくも)に 言(こと)は通へど 直(ただ)に逢はず 日の重なれば 思ひ恋ひ 息づき居(を)るに 玉桙(たまほこ)の 道来る人の 伝(つ)て言(こと)に 我れに語らく はしきよし 君はこのころ うらさびて 嘆かひいます 世間(よのなか)の 憂(う)けく辛(つら)けく 咲く花も 時にうつろふ うつせみも 常なくありけり…

  • 卯の花を腐す長雨の始水に・・・巻第19-4217~4219

    訓読 >>> 4217卯(う)の花を腐(くた)す長雨(ながめ)の始水(はなみづ)に寄る木屑(こつみ)なす寄らむ子もがも 4218鮪(しび)突(つ)くと海人(あま)の灯(とも)せる漁(いざ)り火の穂にか出(い)ださむ我(あ)が下思(したも)ひを 4219我(わ)が宿の萩(はぎ)咲きにけり秋風の吹かむを待たばいと遠みかも 要旨 >>> 〈4217〉卯の花をだめにする長雨で増水した川、その流れの先に木屑を寄せるように、私に寄り添ってくれる子がいたらなあ。 〈4218〉鮪を突いて捕ろうと、海人が灯す漁り火のように、はっきりと表に出してしまおうか、胸に秘めたこの思いを。 〈4219〉我が家の庭の萩が咲き…

  • 東歌(64)・・・巻第14-3469~3471

    訓読 >>> 3469夕占(ゆふけ)にも今夜(こよひ)と告(の)らろ我(わ)が背(せ)なは何故(あぜ)ぞも今夜(こよひ)寄(よ)しろ来まさぬ 3470相(あひ)見ては千年(ちとせ)や去(い)ぬるいなをかも我(わ)れや然(しか)思ふ君待ちがてに 3471しまらくは寝(ね)つつもあらむを夢(いめ)のみにもとな見えつつ我(あ)を音(ね)し泣くる 要旨 >>> 〈3469〉夕占いに「今夜いらっしゃる」と出た愛しいあの方は、その今夜になってもどうして逢いに来て下さらないのだろう。 〈3470〉あなたとお逢いしてからもう千年が過ぎたのでしょうか。そうではなく、私だけがそう思っているだけなのかな。あなたを待…

  • 君に逢はず久しくなりぬ玉の緒の・・・巻第12-3082~3085

    訓読 >>> 3082君に逢はず久しくなりぬ玉の緒(を)の長き命の惜(を)しけくもなし 3083恋ふること増(ま)される今は玉の緒の絶えて乱れて死ぬべく思ほゆ 3084海人娘子(あまをとめ)潜(かづ)き採(と)るといふ忘れ貝 世にも忘れじ妹(いも)が姿は 3085朝影(あさかげ)に我(あ)が身はなりぬ玉かぎるほのかに見えて去(い)にし子ゆゑに 要旨 >>> 〈3082〉あなたに逢えず、ずいぶん久しくなりました。このように切ない思いをするのなら、先の長い命であろうとも少しも惜しいと思いません。 〈3083〉恋い焦がれて苦しさがつのる今はもう、玉の緒が切れて玉が乱れ飛ぶように、死んでしまいそうです…

  • 君に逢はず久しくなりぬ玉の緒の・・・巻第12-3082~3085

    訓読 >>> 3082君に逢はず久しくなりぬ玉の緒(を)の長き命の惜(を)しけくもなし 3083恋ふること増(ま)される今は玉の緒の絶えて乱れて死ぬべく思ほゆ 3084海人娘子(あまをとめ)潜(かづ)き採(と)るといふ忘れ貝 世にも忘れじ妹(いも)が姿は 3085朝影(あさかげ)に我(あ)が身はなりぬ玉かぎるほのかに見えて去(い)にし子ゆゑに 要旨 >>> 〈3082〉あなたに逢えず、ずいぶん久しくなりました。このように切ない思いをするのなら、先の長い命であろうとも少しも惜しいと思いません。 〈3083〉恋い焦がれて苦しさがつのる今はもう、玉の緒が切れて玉が乱れ飛ぶように、死んでしまいそうです…

  • この里は継ぎて霜や置く夏の野に・・・巻第19-4268

    訓読 >>> この里は継(つ)ぎて霜(しも)や置く夏の野に我(わ)が見し草はもみちたりけり 要旨 >>> この里は止むことなく霜が降りるのだろうか。夏の野に私が見たこの草は、もう色づいている。 鑑賞 >>> 天平勝宝4年(752年)、孝謙天皇が、母の光明皇太后とともに大納言藤原家に行幸なさった時に、色づいた沢蘭(さわあららぎ:キク科のサワヒヨドリの古名)を一株抜き取って、内侍(女官の称)の佐々貴山君(ささきやまのきみ:伝未詳)に持たせて、藤原仲麻呂(ふじわらのなかまろ)と陪従の大夫らにお贈りになった歌。藤原仲麻呂は光明皇太后の甥にあたり、平城京近くの田村の里に邸を構えていました。「この里」は、…

  • 谷近く家は居れども木高くて・・・巻第19-4209~4210

    訓読 >>> 4209谷近く 家は居(を)れども 木高(こだか)くて 里はあれども 霍公鳥(ほととぎす) いまだ来鳴かず 鳴く声を 聞かまく欲(ほ)りと 朝(あした)には 門(かど)に出(い)で立ち 夕(ゆふへ)には 谷を見渡し 恋ふれども 一声(ひとこゑ)だにも いまだ聞こえず 4210藤波(ふぢなみ)の茂(しげ)りは過ぎぬあしひきの山霍公鳥(やまほととぎす)などか来鳴かぬ 要旨 >>> 〈4209〉谷の近くにわが家を構えてはいますが、木々が高く、里中ではありますが、ホトトギスはまだ来て鳴きません。鳴き声を聞きたいと思って、朝は門に出て立ち、夕方には谷を見渡して、ひたすらに待ち焦がれています…

  • 言急くは中は淀ませ水無川・・・巻第11-2712~2715

    訓読 >>> 2712言(こと)急(と)くは中は淀(よど)ませ水無川(みなしがは)絶(た)ゆといふことをありこすなゆめ 2713明日香川(あすかがは)行く瀬を早(はや)み速(はや)けむと待つらむ妹(いも)をこの日暮らしつ 2714もののふの八十宇治川(やそうぢがは)の急(はや)き瀬に立ち得ぬ恋も吾(あれ)はするかも [一云 立ちても君は忘れかねつも] 2715神(かむ)なびの打廻(うちみ)の崎の岩淵(いはぶち)の隠(こも)りてのみや吾(あ)が恋ひ居(を)らむ 要旨 >>> 〈2712〉噂が激しいようでしたら、通うのは一時お休み下さい。でも、水無川のように途絶えることはないように、決して。 〈2…

  • み吉野の岩もとさらず鳴くかはづ・・・巻第10-2161~2165

    訓読 >>> 2161み吉野の岩(いは)もとさらず鳴くかはづうべも鳴きけり川を清(さや)けみ 2162神(かむ)なびの山下(やました)響(とよ)み行く水にかはづ鳴くなり秋と言はむとや 2163草枕(くさまくら)旅に物思(ものも)ひ我(わ)が聞けば夕(ゆふ)かたまけて鳴くかはづかも 2164瀬を早み落ちたぎちたる白波(しらなみ)にかはづ鳴くなり朝夕(あさよひ)ごとに 2165上(かみ)つ瀬にかはづ妻呼ぶ夕(ゆふ)されば衣手(ころもで)寒(さむ)み妻まかむとか 要旨 >>> 〈2161〉ここ吉野川の岩蔭ごとにカジカガエル鳴いている。それももっともだ、川が清らかなので。 〈2162〉神なびの山の麓を…

  • 霍公鳥鳴く羽触れにも散りにけり・・・巻第19-4192~4193

    訓読 >>> 4192桃の花 紅色(くれなゐいろ)に にほひたる 面輪(おもわ)のうちに 青柳(あをやぎ)の 細き眉根(まよね)を 笑(ゑ)み曲がり 朝影(あさかげ)見つつ 娘子(をとめ)らが 手に取り持てる まそ鏡 二上山(ふたがみやま)に 木(こ)の暗(これ)の 茂き谷辺(たにへ)を 呼び響(とよ)め 朝飛び渡り 夕月夜(ゆふづくよ) かそけき野辺(のへ)に はろはろに 鳴く霍公鳥(ほととぎす) 立ち潜(く)くと 羽触(はぶ)れに散らす 藤波(ふぢなみ)の 花なつかしみ 引き攀(よ)ぢて 袖に扱入(こき)れつ 染(し)まば染(し)むとも 4193霍公鳥(ほととぎす)鳴く羽触(はぶ)れにも散…

  • 道の辺のいつ柴原の何時も何時も・・・巻第11-2770~2774

    訓読 >>> 2770道の辺(へ)のいつ柴原(しばはら)の何時(いつ)も何時(いつ)も人の許さむ言(こと)をし待たむ 2771吾妹子(わぎもこ)が袖(そで)を頼みて真野(まの)の浦の小菅(こすげ)の笠を着ずて来にけり 2772真野(まの)の池の小菅(こすげ)を笠に縫(ぬ)はずして人の遠名(とほな)を立つべきものか 2773さす竹の世隠(よごも)りてあれ吾(わ)が背子(せこ)が吾許(わがり)し来(こ)ずは吾(あれ)恋ひめやも 2774神奈備(かむなび)の浅小竹原(あさしぬはら)のうるはしみ妾(あ)が思(も)ふ君が声の箸(しる)けく 要旨 >>> 〈2770〉道のほとりのいつ柴原、その柴原ではない…

  • 天離る鄙としあればそこここも・・・巻第19-4189~4191

    訓読 >>> 4189天離(あまざか)る 鄙(ひな)としあれば そこここも 同(おや)じ心ぞ 家離(いへざか)り 年の経(へ)ゆけば うつせみは 物思(ものも)ひ繁(しげ)し そこゆゑに 心なぐさに 霍公鳥(ほととぎす) 鳴く初声(はつこゑ)を 橘(たちばな)の 玉にあへ貫(ぬ)き かづらきて 遊ばむはしも 大夫(ますらを)を 伴(とも)なへ立てて 叔羅川(しくらがは) なづさひ上(のぼ)り 平瀬(ひらせ)には 小網(さで)さし渡し 早き瀬に 鵜(う)を潜(かづ)けつつ 月に日に しかし遊ばね 愛(は)しき我(わ)が背子(せこ) 4190叔羅川(しくらがは)瀬を尋ねつつ我(わ)が背子(せこ)は…

  • 君が家に植ゑたる萩の初花を・・・巻第19-4252~4253

    訓読 >>> 4252君が家に植ゑたる萩(はぎ)の初花(はつはな)を折りてかざさな旅別るどち 4253立ちて居(ゐ)て待てど待ちかね出(い)でて来(こ)し君にここに逢ひかざしつる萩(はぎ) 要旨 >>> 〈4252〉あなたの家に植えられている萩の、その初花を手折って髪飾りにしましょうか、旅の途次に別れてゆく私たちは。 〈4253〉立ったり座ったりして待っていたけど待ちきれずに旅に出て、こうしてあなたにここで出逢えて、髪に萩をかざせました。 鑑賞 >>> 4250・4251で、もっとも親しかった部下の久米広縄に逢えずじまいで越中国庁を出立した家持でしたが、越前の国を通過する折りに、掾としてそこに…

  • 波の間ゆ雲居に見ゆる粟島の・・・巻第12-3167~3170

    訓読 >>> 3167波の間(ま)ゆ雲居(くもゐ)に見ゆる粟島(あはしま)の逢はぬものゆゑ我(わ)に寄(よ)そる子ら 3168衣手(ころもで)の真若(まわか)の浦の真砂地(まなごつち)間(ま)なく時なし我(あ)が恋ふらくは 3169能登(のと)の海に釣(つ)りする海人(あま)の漁(いざ)り火の光りにい行く月待ちがてり 3170志賀(しか)の海人(あま)の釣りし燭(とも)せる漁(いざ)り火のほのかに妹(いも)を見むよしもがも 要旨 >>> 〈3167〉波の間からはるかに見える粟島のように、逢ってもいないのに、私と関係あるように噂を立てられている子よ。 〈3168〉真若の浦の白い砂浜のように、絶え…

  • 東歌(59)・・・巻第14-3461~3464

    訓読 >>> 3461何(あぜ)といへかさ寝(ね)に逢はなくに真日(まひ)暮れて宵(よひ)なは来(こ)なに明けぬ時(しだ)来(く)る 3462あしひきの山沢人(やまさはびと)の人さはにまなと言ふ子があやに愛(かな)しさ 3463ま遠くの野にも逢はなむ心なく里の真中(みなか)に逢へる背(せ)なかも 3464人言(ひとごと)の繁(しげ)きによりて真小薦(まをごも)の同(おや)じ枕は我(わ)はまかじやも 要旨 >>> 〈3461〉何ということよ、逢って共寝もせず、日が暮れた夕方には来ないで、夜が明けた時分に来るなんて。 〈3462〉山沢の人たちの多くが手出しをしてはいけないというあの娘が、むしょうに…

  • 思ふどちますらをのこの木の暗の・・・巻第19-4187~4188

    訓読 >>> 4187思ふどち ますらをのこの 木(こ)の暗(くれ)の 繁(しげ)き思ひを 見明(みあき)らめ 心(こころ)遣(や)らむと 布勢(ふせ)の海に 小舟(をぶね)つら並(な)め ま櫂(かい)掛け い漕(こ)ぎ廻(めぐ)れば 乎布(をふ)の浦に 霞(かすみ)たなびき 垂姫(たるひめ)に 藤波(ふじなみ)咲きて 浜清く 白波騒き しくしくに 恋はまされど 今日(けふ)のみに 飽き足(だ)らめやも かくしこそ いや年のはに 春花(はるはな)の 茂(しげ)き盛りに 秋の葉の もみたむ時に あり通ひ 見つつ偲(しの)はめ この布勢の海を 4188藤波(ふじなみ)の花の盛りにかくしこそ浦(うら…

  • 山吹を宿に植ゑては見るごとに・・・巻第19-4185~4186

    訓読 >>> 4185うつせみは 恋を繁(しげ)みと 春まけて 思ひ繁けば 引き攀(よ)ぢて 折りも折らずも 見るごとに 心(こころ)和(な)ぎむと 繁山(しげやま)の 谷辺(たにへ)に生(お)ふる 山吹(やまぶき)を やどに引き植ゑて 朝露(あさつゆ)に にほへる花を 見るごとに 思ひは止(や)まず 恋し繁しも 4186山吹(やまぶき)を宿に植ゑては見るごとに思ひはやまず恋こそまされ 要旨 >>> 〈4185〉この世の人は、とかく人恋しくなるもので、春ともなると物思いが多くなり、枝を掴んで引き寄せて折ろうと折るまいと、見るたびに心がなごむだろうと思って、木々が茂る山の谷のあたりに生える山吹を…

  • 君により言の繁きを故郷の・・・巻第4-626

    訓読 >>> 君により言(こと)の繁きを故郷(ふるさと)の明日香(あすか)の川にみそぎしに行く [一には、尾に、龍田越え御津の浜辺にみそぎしに行く、といふ] 要旨 >>> あなた様のせいであまりにも人が噂を立てるので、旧都の明日香の川へみそぎをしに参ります。(龍田の山を越えて、御津の浜辺にみそぎをしに参ります) 鑑賞 >>> 八代女王(やしろのおおきみ)が聖武天皇にさし上げた歌。八代女王は系譜未詳ながら、「女王」が付いていることから、三世から五世の皇族だったと考えられます。天平9年(737年)に無位から正五位上に叙せられており、この頃に聖武天皇の嬪になったようです。しかし、天皇の崩御後に他の男…

  • 我が背子と手携はりて明けくれば・・・巻第19-4177~4179

    訓読 >>> 4177我(わ)が背子と 手(て)携(たづさ)はりて 明けくれば 出で立ち向ひ 夕されば 振り放(さ)け見つつ 思ひ延(の)べ 見なぎし山に 八(や)つ峰(を)には 霞(かすみ)たなびき 谷辺(たにへ)には 椿(つばき)花咲き うら悲し 春し過ぐれば 霍公鳥(ほととぎす) いやしき鳴きぬ 独りのみ 聞けば寂(さぶ)しも 君と我(あ)れと 隔てて恋ふる 砺波山(となみやま) 飛び越え行きて 明け立たば 松のさ枝(えだ)に 夕さらば 月に向ひて あやめぐさ 玉(たま)貫(ぬ)くまでに 鳴き響(とよ)め 安寐(やすい)寝(ね)しめず 君を悩ませ 4178我(あ)れのみし聞けば寂(さぶ)…

  • 人見ずは我が袖もちて隠さむを・・・巻第3-269

    訓読 >>> 人見ずは我(わ)が袖(そで)もちて隠(かく)さむを焼けつつかあらむ着ずて来(き)にけり 要旨 >>> 人が見ていなければ、私の袖で隠してあげたいのだけれど、この屋部の坂は、これからもずっと赤茶けて焼け続けるのだろうか。これまで何も着ないまま居続けてきたのですね。 鑑賞 >>> 阿倍女郎(あべのいらつめ)が、屋部の坂で作った歌。阿倍女郎は、伝未詳。ほかに中臣東人などとの贈答歌がありますが、同一人かは疑問とされます。「屋部の坂」は、諸説ありますが、所在未詳。国境の赤肌の坂をいとおしむ歌であるものの、「人見ずは」は、見る人がないならば、また「我が袖もちて隠さむを」とあるのは、見るに忍び…

  • 春のうちの楽しき終へは梅の花・・・巻第19-4174~4176

    訓読 >>> 4174春のうちの楽しき終(を)へは梅の花(はな)手折(たを)り招(を)きつつ遊ぶにあるべし 4175霍公鳥(ほととぎす)今来鳴きそむ菖蒲(あやめぐさ)蘰(かづら)くまでに離(か)るる日あらめや 4176我が門(かど)ゆ鳴き過ぎ渡る霍公鳥(ほととぎす)いやなつかしく聞けど飽き足(だ)らず 要旨 >>> 〈4174〉春のうちの一番の楽しみは、梅の花を手折って招き迎え、楽しく遊ぶことであろう。 〈4175〉ホトトギスは今来て鳴き始めた。菖蒲を蘰にする五月の節句まで、ここを離れる日があろうか、ありはしない。 〈4176〉我が家の門をかすめて鳴き過ぎてゆくホトトギスは、いよいよ懐かしくて…

  • 霍公鳥鳴き渡りぬと告ぐれども・・・巻第19-4194~4196

    訓読 >>> 4194霍公鳥(ほととぎす)鳴き渡りぬと告(つ)ぐれども我(わ)れ聞き継(つ)がず花は過ぎつつ 4195我(わ)がここだ偲(しの)はく知らに霍公鳥(ほととぎす)いづへの山を鳴きか越ゆらむ 4196月立ちし日より招(を)きつつうち偲(じの)ひ待てど来鳴かぬ霍公鳥(ほととぎす)かも 要旨 >>> 〈4194〉ホトトギスがここを鳴いて渡っていったと、人は言うけれど、私はその鳴き声を聞いていない。藤の花がどんどん散っていくというのに。 〈4195〉私がこんなにひどく恋い慕っているのを知らないで、ホトトギスは今ごろどこらあたりの山を鳴いて越えているのだろうか。 〈4196〉月が代わった日か…

  • 常人も起きつつ聞くぞ霍公鳥・・・巻第19-4171~4172

    訓読 >>> 4171常人(つねひと)も起きつつ聞くぞ霍公鳥(ほととぎす)この暁(あかとき)に来鳴く初声(はつこゑ) 4172霍公鳥(ほととぎす)来鳴き響(とよ)めば草取らむ花橘(はなたちばな)を屋戸(やど)には植ゑずて 要旨 >>> 〈4171〉世の人の誰も今夜は起き続けて聞くぞ、ホトトギスがこの夜明けに来て鳴く、その初声を。 〈4172〉ホトトギスが来て鳴き立てたら、私は草取りをしよう、花橘を家の庭に植えたりなどせずに。 鑑賞 >>> 大伴家持の歌。題詞に「二十四日は、立夏四月の節に応(あた)れり。これによりて二十三日の暮(ゆふへ)に、たちまちに霍公鳥の暁に喧かむ声を思ひて作れる歌」とあり…

  • 祝部らが斎ふ社の黄葉も・・・巻第10-2309~2311

    訓読 >>> 2309祝部(はふり)らが斎(いは)ふ社(やしろ)の黄葉(もみちば)も標縄(しめなは)越えて散るといふものを 2310こほろぎの我(あ)が床(とこ)の辺(へ)に鳴きつつもとな 起き居(ゐ)つつ君に恋ふるに寐(い)寝かてなくに 2311はだすすき穂(ほ)には咲き出(で)ぬ恋をぞ我(あ)がする 玉かぎるただ一目のみ見し人ゆゑに 要旨 >>> 〈2309〉神官たちが祭って大事にしているお社のもみじでさえ、張り巡らせた標縄を越えて散るというのに。 〈2310〉コオロギが寝床のあたりでしきりに鳴き続けていて、しようがなく起きているが、あなたのことが恋しくて寝ようにも寝られません。 〈231…

  • 娘子らが麻笥に垂れたる績麻なす・・・巻第13-3243~3244

    訓読 >>> 3243娘子(をとめ)らが 麻笥(をけ)に垂れたる 績麻(うみを)なす 長門(ながと)の浦に 朝なぎに 満ち来る潮(しほ)の 夕なぎに 寄せ来る波の その潮の いやますますに その波の いやしくしくに 我妹子(わぎもこ)に 恋ひつつ来れば 阿胡(あご)の海の 荒磯(ありそ)の上に 浜菜(はまな)摘む 海人娘子(あまをとめ)らが うながせる 領巾(ひれ)も照るがに 手に巻ける 玉もゆららに 白栲(しろたへ)の 袖(そで)振る見えつ 相(あひ)思ふらしも 3244阿胡(あご)の海の荒礒(ありそ)の上のさざれ波(なみ)我(わ)が恋ふらくは止む時もなし 要旨 >>> 〈3243〉娘子が麻…

  • ここにしてそがひに見ゆる我が背子が ・・・巻第19-4207~4208

    訓読 >>> 4207ここにして そがひに見ゆる 我(わ)が背子(せこ)が 垣内(かきつ)の谷に 明けされば 榛(はり)のさ枝に 夕されば 藤の繁(しげ)みに はろはろに 鳴く霍公鳥 我が宿の 植木橘(うゑきたちばな) 花に散る 時をまだしみ 来鳴かなく そこは恨みず しかれども 谷(たに)片付(かたづ)きて 家(いへ)居(ゐ)せる 君が聞きつつ 告げなくも憂(う)し 4208我(わ)がここだ待てど来鳴かぬ霍公鳥(ほととぎす)ひとり聞きつつ告げぬ君かも 要旨 >>> 〈4207〉ここからだと後ろの方に見える、あなたの邸内の谷には、夜が明ければ榛の木の枝で、夕方になると藤の花の茂みで、遙かに鳴く…

  • 紀の国の飽等の浜の忘れ貝・・・巻第11-2795~2798

    訓読 >>> 2795紀(き)の国の飽等(あくら)の浜の忘れ貝 我(われ)は忘れじ年は経(へ)ぬとも 2796水くくる玉に交じれる磯貝(いそかひ)の片恋ひのみに年は経(へ)につつ 2797住吉(すみのえ)の浜に寄るといふ打背貝(うつせがひ)実(み)無き言(こと)もち我(あ)れ恋ひめやも 2798伊勢の海人(あま)の朝な夕なに潜(かづ)くといふ鮑(あはび)の貝の片思(かたもひ)にして 要旨 >>> 〈2795〉紀伊の国の飽等の浜の忘れ貝、その名のようにあなたを忘れたりはしません、幾年経っても。 〈2796〉水中にひそむ玉に混じった磯貝のように、私は片思いをするばかりで年は過ぎていく。 〈2797…

  • この岡に草刈る童児然な刈りそね・・・巻第7-1291~1294

    訓読 >>> 1291この岡に草刈る童児(わらは)然(しか)な刈りそね ありつつも君が来(き)まさむ御馬草(みまくさ)にせむ 1292江林(えばやし)に宿(やど)る猪鹿(しし)やも求むるによき 白栲(しろたへ)の袖(そで)巻き上げて獣(しし)待つ我(わ)が背 1293霰(あられ)降り遠つ淡海(あふみ)の吾跡川楊(あとかはやなぎ) 刈れどもまたも生(お)ふといふ吾跡川楊 1294朝づく日(ひ)向(むか)ひの山に月立てり見ゆ 遠妻(とほづま)を待ちたる人し見つつ偲(しの)はむ 要旨 >>> 〈1291〉この岡で草を刈っている童子(わらべ)よ。そんなふうに根こそぎ刈らないでおくれ。そのままにしておけ…

  • 夕置きて朝は消ぬる白露の・・・巻第12-3039~3042

    訓読 >>> 3039夕(ゆふへ)置きて朝は消(け)ぬる白露(しらつゆ)の消(け)ぬべき恋も吾(あれ)はするかも 3040後(のち)つひに妹(いも)に逢はむと朝露の命は生(い)けり恋は繁(しげ)けど 3041朝(あさ)な朝(さ)な草の上(うえ)白く置く露の消(け)なば共にと言ひし君はも 3042朝日さす春日(かすが)の小野に置く露の消(け)ぬべき吾(あ)が身惜しけくもなし 要旨 >>> 〈3039〉夕べに置いて翌朝は消えてしまう白露のように、はかなく消えてしまいそうな恋を、私はしていることです。 〈3040〉将来はきっとあの子に逢えると信じて、朝露のようにはかない命だが今も私は生きている。逢え…

  • はねず色のうつろひやすき心あれば・・・巻第12-3074~3077

    訓読 >>> 3074はねず色のうつろひやすき心あれば年をぞ来経(きふ)る言(こと)は絶えずて 3075かくしてぞ人は死ぬといふ藤波(ふぢなみ)のただ一目のみ見し人ゆゑに 3076住吉(すみのえ)の敷津(しきつ)の浦(うら)のなのりその名は告(の)りてしを逢はなくも怪(あや)し 3077みさご居(ゐ)る荒礒(ありそ)に生(お)ふるなのりそのよし名は告(の)らじ親は知るとも 要旨 >>> 〈3074〉はねずの花の色のように移り気な心をお持ちなので、お逢いできないまま年月が経ってしまいました。音信だけは絶やさずに。 〈3075〉こうして人は死ぬというのですね。藤の花のような、ただ一度だけ見たあの人…

  • ほととぎす来鳴く五月に咲きにほふ・・・巻第19-4169~4170

    訓読 >>> 4169ほととぎす 来(き)鳴く五月(さつき)に 咲きにほふ 花橘(はなたちばな)の かぐはしき 親の御言(みこと) 朝夕(あさよひ)に 聞かぬ日まねく 天離(あまざか)る 鄙(ひな)にし居(を)れば あしひきの 山のたをりに 立つ雲を よそのみ見つつ 嘆くそら 安けなくに 思ふそら 苦しきものを 奈呉(なご)の海人(あま)の 潜(かづ)き取るといふ 白玉(しらたま)の 見(み)が欲(ほ)し御面(みおもわ) 直(ただ)向かひ 見む時までは 松柏(まつかへ)の 栄(さか)えいまさね 尊(たふと)き我(あ)が君 4170白玉(しらたま)の見(み)が欲(ほ)し君を見ず久(ひさ)に鄙(ひ…

  • 東歌(54)・・・巻第14-3449~3453

    訓読 >>> 3449白栲(しろたへ)の衣(ころも)の袖(そで)を麻久良我(まくらが)よ海人(あま)漕ぎ来(く)見(み)ゆ波立つなゆめ 3450乎久佐壮丁(をくさを)と乎具佐助丁(をぐさずけを)と潮舟(しほふね)の並(なら)べて見れば乎具佐(をぐさ)勝ちめり 3451左奈都良(さなつら)の岡に粟(あは)蒔(ま)き愛(かな)しきが駒(こま)は食(た)ぐとも我(わ)はそと追(も)はじ 3452おもしろき野をばな焼きそ古草(ふるくさ)に新草(にひくさ)交(まじ)り生(お)ひは生(お)ふるがに 3453風の音(と)の遠き我妹(わぎも)が着せし衣(きぬ)手本(たもと)のくだりまよひ来(き)にけり 要旨 …

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