経済的決定の重要な要素は、競合選択肢間の選択に際し、結果として得られる可能性のある報酬とその確率に関する情報を統合することにあります。 多くの生物種では、リスキーな選択はあり得る結果の大きさ、成功確率、極端な事象が生じる可能性の影響を受けます。で、今回紹介する論文は、チンパンジー(Pan troglodytes)のリスク選好について検討した研究内容となっています。 Keupp, S., Grueneisen, S., Ludvig, E. A., W…
スマホの存在は初対面の人の関係の質や創造性に影響するとはいえない
実は2013年にノートがあるだけよりも携帯電話があるだけの方が、赤の他人の間の関係の質が損なわれるという2つの実験を報告した論文が出版されました(Przybylski & Weinstein, 2013)。 今回紹介する論文は、この2013年の論文の内容をできるだけ忠実に追試することを第一の研究目的としました。実は第二の研究目的もあって、それは携帯電話の存在がクリエイティビティ(創造性)に与える影響を検証することにありました。この第…
昆虫の間の相利共生関係で最もよく研究され、知られているものの1つにアリと師部(内樹皮)を食べる昆虫(内樹皮食性昆虫)との間の関係があります。この相利共生関係では、アリは、内樹皮食性昆虫が分泌した甘露を餌にし、その見返りに寄生バチ等の内樹皮食性昆虫の天敵を攻撃します。 しかし、寄生バチは自然選択を受けて、危険に関する情報を活用して、危険を避けるように進化してきました。 そこで、今回紹介する論文では…
教育は様々な要因に影響されます営みです。ですが、生徒が学校を楽しく感じているかどうかの程度が学業成績に果たす役割についての研究はほとんどありません。 そこで、今回紹介する論文では、イギリスのコホート研究のデータを使って、以下の3つの問いに答えることを目的とした調査を実施しました。 ・生徒の初期の学校の楽しさと後の学業成績との関連はいかなるものか? ・学校の楽しさと後の学業成績との関係にどの…
海洋では音は遠くまで伝わる感覚手がかりで、無脊椎動物からクジラまで様々な海生動物が海の環境を解釈、探索し、種内・種間で交流するのに利用しています。 ところが、産業革命前の時代と比較して、人新世の時代の海の音景は急速に変化しています。これは船舶、資源探査、インフラ開発といった 人間活動で生じる音が増加し、狩猟、漁業、生息地の劣化で生物起源の音が減少し、気候変動が非生物的な自然音(海氷や嵐等の地球…
生息地の個体群密度が高いと、動物は病気への暴露が多くなり、寄生生物負荷が高まるのが普通です。 しかし、社会的動物は、協力で免疫上も衛生上も便益を得ることができます。動物1個体としても感染に際してその社会-空間的行動を変えることもあり得ます。この両方が、個体群密度関連の寄生生物暴露の増加の影響を相殺することが可能です。 なので、動物の社会性が感染症の病気に対してコストになるのか、それとも便益にな…
1人より2人の方がパフォーマンスが高い(Two heads are better than one.)といわれます。ただ、研究によれば、集団のパフォーマンスが、一番成績の良いメンバーを上回ることは稀です。 そこで、1人より2人の方がパフォーマンスが高いのかどうかだけでなく、3人集まった方が1人や2人の時よりも良いのかどうかということを検証した研究が実施され、下記の論文に報告されました。 Harada, T. Three heads are better than two:…
ソーシャルメディアの利用制限でウェルビーイングが向上するメカニズム
ソーシャルメディアの使用が広まっている中で、その使用が精神的健康やウェルビーイング(幸福感/主観的幸福感)に有害ではないか?という心配もあります。 そこで、今回紹介する論文の主要目的は、ソーシャルメディアの使用制限がウェルビーイングの増進につながるかどうかを調べることとしました。また、本研究の副次目的として、ソーシャルメディアの使用とウェルビーイングとの間の考えられる関係に、睡眠の質が貢献してい…
ギニアヒヒのオスの鳴き声の類似性は遺伝的近接性よりも社会的交流による
ヒト以外の霊長類の発声が経験を通じた修飾に影響される程度は、ヒトの発話が進化した素地を理解する上で適切な研究対象となります。 そこで今回紹介する論文では、ギニアヒヒ(Papio papio)でそのことを検討した研究となっています。 Fischer, J., Wegdell, F., Trede, F., Dal Pesco, F., & Hammerschmidt, K. (2020). Vocal convergence in a multi-level primate society: insights into the evolution of vocal learni…
個々の話者の間の交流を通して、言語は人口集団レベルで出現、変化していきます。 しかし、1人の話者の言語上のイノベーションが言語の人口集団レベルの変化を促進する仕方を直接観察することは難しく、理論的説明にも多くのものがあります。 そこで、今回紹介する論文では、個人レベルの様々な言語行動を包含し、そこから生じる人口集団レベルの変化を統計学的に予測できる、一般性の高い数理モデルを導入しています。 …
反響定位とは、暗闇などで視覚が有効に機能しないときに、環境を調べる際にとる、音波の反響を利用した探知の行動や能力のことです。たとえば、コウモリやハクジラといった哺乳類が反響定位をする動物として、何年も前から知られていました。 しかし、近年、トゲヤマネ科(Platacanthomyidae)のホソオトゲヤマネ属の齧歯類、Typhlomys chapensisも反響定位するネズミであることが示唆されていました。しかし、T. chapensisが反…
銅や鉄の科学特性は、正常な脳機能にとって重要な役割を果たします。たとえば、正電荷の金属イオンであるCu+やCu2+、Fe2+、Fe3+を成分に持つ酵素やタンパク質には様々な種類がありますが、それらの酵素・タンパク質は生体にとって重要なプロセスを制御し、酸化的代謝を触媒し、神経伝達物質や神経ペプチドの産生に関与します。 で、今回はヒトの脳で酸化状態ゼロ(酸化数ゼロ)の強磁性鉄元素、Fe0および酸化状態ゼロの銅元素…
モジホコリの学習・記憶は、神経細胞がない構造で「脳」の仕組みを実現することで達成
モジホコリ(Physarum polycephalum)はニューロン(神経細胞)を持たないのに、先行経験からの情報を使って、行動を調整します。しかし、モジホコリがこのような記憶、学習を行うメカニズムは不明です。 で、今回紹介するレビュー論文では、モジホコリの学習・記憶における振動の役割を議論した内容となっています。 Boussard, A., Fessel, A., Oettmeier, C., Briard, L., Döbereiner, H-G., & Dussutour, A. (2021). Adap…
配偶者選択という形式での強い性選択は、条件依存的であり得る、別の代替的な繁殖戦略の進化を促進することが可能です。 ところで、カンタンと呼ばれるコオロギ科の昆虫のオスは、長距離まで届く音(鳴き声)を出します。このオスが発する鳴き声を使って、カンタンのメスは配偶相手(候補)の場所を特定、配偶者選択を行います。 今回はカンタンの繁殖で認められる条件依存的な代替方略に関する報告論文になります。 Deb, R…
時間選好、リスク選好、社会選好のばらつきは女性より男性の方が大きい
時間選好、リスク選好、社会選好における性差は、男女で異なる選択をするかどうかを左右する重要な要因で、ジェンダーに関わる社会的、経済的事象を議論する際に重要です。 選好の性差の形式に関する先行研究では、これまで男女の平均的な違いを検討する研究がほとんどでした。 今回は選好の性差の検討には、平均的な差の調査だけでは不十分で、ばらつき具合の性差も調べる必要があると警鐘を鳴らした論文をとりあげます。…
ユキウサギ、降雪シーズンが短くなっても適応的換毛反応を示さず
現在、生物を絶滅の危機に陥れている人為性ストレッサーに有機体が適応できるかどうかについて知見を深めることは、緊急に優先されるべきことです。 世界的にみても、多くの種が夏の黒い外見の毛色から冬に白い外見の毛色へと換毛します。これにより、雪が積もった景色に対するカモフラージュを維持するのです。ところが、気候変動によって、積雪で雪が土地を覆う期間が短くなっているため、動物の季節に合わせたカモフラージ…
毎年毎年、数えきれないほどの歌鳥が海洋や砂漠の上を夜に渡っていきます。 今回紹介する研究はそんな渡り鳥の飛行戦略についてのお話です。 Sjöberg, S., Malmiga, G., Nord, A., Andersson, A., Bäckman, J., Tarka, M., Willemoes, M., Thorup, K., Hansson, B., Alerstam, T., & Hasselquist, D. (2021). Extreme altitudes during diurnal flights in a nocturnal songbird migrant. Science, 372(…
腹側被蓋野尾部→外側傍小脳脚核のドーパミン回路の摂食制御における役割
生得的な摂食行動をドーパミン作動性で制御するのを支える神経回路メカニズムについてはまだ未解明な点が多々あります。 そこで、今回紹介する論文では、そのような摂食行動神経系を探求し、外側傍小脳脚核内のドーパミンD1受容体を発現するニューロンに直接神経投射するドーパミン作動性ニューロン下位群を腹側被蓋野尾部で発見したという研究をとりあげます。この神経回路は、満腹反応を増強させることで、食物摂取を抑制す…
情動と温度は、身体化過程を通して密接に関連しています。それゆえなのかどうか、人間には温度と情動とを連合させる傾向があるようです。 たとえば、冷たい感情、温かい感情といった表現があるように、日常で使う言語にも、情動と温度とを結びつける傾向が見て取れます。しかし、ヒトがどのように、またなぜ特定の温度を情動と連合させるのかについて検討した体系的な研究はこれまでのところありませんでした。 そこで、今…
素人の意見を聴いた時よりも専門家(ここでは経済学者)の意見を聴いた時に信念を改めるべきなのに、そうはしない人がいます(またはそうはしない場合があります)。もしかしたら、ほとんどの人が専門家の意見に従わなかったりするかもしれません。 今回紹介する研究は、一般人の意見よりも専門家の経済学者の意見に接した時に、心変わりするのを促すような要因に関する知見を深めることを目的として実施されました。5つの研究を…
現生人類の脳は、大型類人猿の脳とは大きさ、形状、皮質組織が異なり、これは特に社会的認知や道具使用、言語などの複雑な認知課題に関わる前頭葉で顕著です。ただ、これらヒトの脳の特徴が人類進化の過程でいつ生じたのかについては、まだ論争があり、科学者の間で見解の一致がありません。 そこで、今回の論文では、現生人類の脳特有の特徴の進化歴(進化史)を検討し、報告しています。 de León, M. S. P., Bienvenu, T…
複雑な環境から来る曖昧な感覚入力の洪水を、乳児の脳がカテゴライズする仕方に科学者の興味が集まっています。 そこで、今回紹介する論文は、乳児で視覚以外の感覚も複雑な視覚性カテゴライズの開始に重要な役割を果たしているという仮説を検証した研究となっています。 Rekow, D., Baudouin, J-Y., Poncet, F., Damon, F., Durand, K., Schaal, B., Rossion, B., & Leleu, A. (2021). Odor-driven face-like categorizat…
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