文化内でのイノベーションの出現、拡散、確立によって、人為性の変化に対する適応反応が促進され得ます。 そんな文化内でのイノベーションの中でも、今回は都会環境に対して文化的適応が発展したと考えられるケースを取り上げた論文を紹介します。それは、野生のキバタン(Cacatua galerita)というオウムが家庭のごみ箱を開けることです。 Klump, B. C., Martin, J. M., Wild, S., Hörsch, J. K., Major, R. E., & Aplin,…
熱帯に生息する哺乳類の多くは、熱(暑さ)に弱いです。これは、水収支のために、熱を相殺するための蒸発冷却の活用に限度があるためです。したがって、地球温暖化等の要因で温度がさらに上昇し、乾燥化が進行すると、動物の体温調節能の限界を超えることが懸念されます。 本研究では、動物が持つ暑さへの対処を行うための効率的なメカニズムとして、通常なら冬の低温環境や食物資源の不足に対する応答で生じるはずの休眠をとる…
ブチハイエナの仔の社会的関係性の母親からの継承は社会的ランク依存的
動物の社会的ネットワークの構造は、病原体伝播や情報伝達だけでなく、生存や繁殖成功度にも影響します。 しかし、社会的構造を決定する一般的なメカニズムついての知見は不足しています。 そこで、野生のブチハイエナ(Crocuta crocuta)を対象に、27年間にわたって収集した73,767もの社会的交流データを使った本研究による解析が実施され、下記の論文に報告されました。 Ilany, A., Holekamp, K. E., & Akçay, E. (20…
研究者自身の個人的関心に従った研究が、科学の信頼性、信用性評価に与える影響
研究は研究者の科学的関心によって促進されますが、それだけではありません。科学者の個人的関心でも研究が促されることがあります。つまり、特定の研究上の疑問に答えることが研究者自身に特有の関係があるため、研究者がそのような研究上の問いを追求するのを決定する場合もあるのです。 今回紹介する論文では、そのような科学者の個人的関心に基づく研究のことを"me-search"と呼んでいます。このme-searchは研究の質だけで…
クロアシナガバチは顔の全体処理ができるが、ヨーロッパアシナガバチはそうでない
刺激認知のほとんどは、その特徴を同定することでなされます。ですが、霊長類が有する顔認知の特殊化は全体処理と呼ばれる別のメカニズムによります。全体処理とは、複数の顔の特徴が合わさって、部分の寄せ集め以上のゲシュタルト知覚が形成されることです。 で、今回紹介する論文ではアシナガバチの個体の顔認知能力にも全体処理が関与しているかどうか検証した研究を実施し、その結果を報告しています。本実験ではアシナガ…
不確実性は、ヒトの経済行動でありふれた要素ですが、リスク選好は人口(個体群)、個人(個体)、異時点によって違います。 不確実性は、動物の意思決定の多くの側面の特徴ともなっています。なので、動物種間、動物種内の比較研究によって、生物学的な差異または成熟に伴う変化 vs. 文化的学習といった、リスク選好のばらつきを生む可能性のある様々なメカニズムについて評価する助けになり得ますし、経済的意思決定でヒトに特…
社会経済的地位が高いことは、向社会的行動が低いことを予測するのでしょうか? この問題に答えるために様々な研究がされてきたとはいえ、それらはいずれも向社会性を測るのに自己申告法をとった調査研究に依拠していたり、実験での相対的なインセンティブの統制が不十分だったり、サンプルが無作為でなかったりと、方法論的問題を抱えていました。これらの方法論的問題ゆえに、社会経済的地位と向社会性との間の負の関連があ…
貯食行動をとる鳥類、エボシガラの海馬の空間表象は哺乳類と類似している
脊椎動物が空間記憶力を発揮するには、哺乳類での海馬に相同する脳領域が必要です。 しかし、脊椎動物のクレードが違えば、海馬(相同領域)の解剖学的特徴に差異があるし、神経活動も異なった空間パターンを示します。 では、進化的に遠い脊椎動物の中でも、空間記憶への依存性が強いことが共通の生物の間の海馬の活動でも根本的に異なる特徴を示すのでしょうか?この問いに答えることを目的とした研究が実施され、下記の論…
神様のことに言及する時に使うメタファーには様々なものがあります。たとえば、神様が顎鬚を生やした男性だったり、光だったり愛だったり。 メタファーの理論に基づけば、神様に言及する際に使うメタファーは、神様のことをどう考えているのかを反映し、さらにいえば世界観までも反映しているとされます。 しかし、神様メタファーで使用頻度が比較的多いタイプについての調査はほとんどありません。したがって、比較的使わ…
コブハクジラ・アカボウクジラ、集団潜水しても採餌への影響はほぼなし
反響定位をする動物で社会的集団で採餌する生物は、他の集団メンバーの盗聴をしたり、協同採餌をしたり、社会的防衛をすることで、社会的便益を得られる可能性があります。ただ、その一方で、他のメンバーとの音響干渉や獲物をめぐる集団内の競争といった問題も生じてくるかもしれません。 そこで、このような動物の社会性のトレードオフ関係を、クジラで調査した研究が実施され、下記の論文に報告されました。 Alcázar-…
コウモリの海馬CA1領域が表象する空間情報は過去から将来までと幅広い
世界が離散的でなく、連続している以上は生物が移動の際に示すナビゲーションは、時空間の連続上で生じます。 脳の海馬は、動く動物のすぐ間近の位置に関する情報をエンコードすることが知られています。しかし、能動的ナビゲーション、特に高速なものが必要なのは、今この時の現在を超えた過去や未来のナビゲーション情報の表象だと考えられます。 そこで、脳の海馬が現在だけでなく、過去や未来の情報も表象しているかど…
場所細胞とは、空間上の動物の位置を表象する海馬ニューロンのことで、周囲の環境を探索する際に重要な神経細胞になります。場所細胞はその場所受容野となる空間の特定の領域を動物が通過した時に、スパイク活動を増加させます。 半世紀前に場所細胞が発見されて以来、哺乳類の脳の空間表象に関する研究のほぼすべてが動物モデルにラットやマウスを使用し、実験環境も小型ボックスか~1-2 mほどの短い直線のアームのような小さ…
気候変動に対する認識や関心が世界的に増大しているというエビデンスが蓄積されつつあります。 ですが、高齢者よりも若者の方が気候変動問題を気にかけているという世代間ギャップがあるとの議論もあります。なので、実際のところどうなの?という点を調べた研究が実施され、下記の論文に報告されました。 Milfont, T. L., Zubielevitch, E., Milojev, P., & Sibley, C. G. (2021). Ten-year panel data confirm generatio…
固体境界近くを水泳または飛行する動物や機械は、パフォーマンスが向上することが知られています。しかし、ほとんどの動物は、固体表面近くを遊泳したりはしません。 航空機の場合は、翼の両端で発生する翼端渦が揚力低下の要因になりますが、地面効果ではこのような渦と渦との間の相互作用が重要となります。 そこで、これまで知られている生物の中でも遊泳のエネルギー効率が最も高いミズクラゲ(Aurelia aurita)の泳ぎ方…
環境に累積しているプラスチック汚染は、そこで天然に生じる無機化プロセスがゆっくりで、エンジニアリングによる修復での解決策がありそうになければ、可逆性が低いと考えられます。したがって、これらの環境でネガティブなことがプラスチック汚染の結果として生じるのであれば、そのようなネガティブな環境事象は実質上、不可逆的にならざるを得ません。 今回紹介するレビュー論文は、そんなプラスチック汚染の影響と対策に…
人類の活動が地球環境を変えています。それによって、気候変動が生じ、生物多様性の喪失が広まっており、それらに加えて今やプラスチック汚染が世界中の生態系を変容させるのに重要な役割を果たすようになっています。 そこで、今回紹介するレビュー論文では、野生生物によるプラスチックの摂取の発生についてまとめています。 Santos, R. G., Machovsky-Capuska, G. E., & Andrades, R. (2021). Plastic ingestion as an …
ネシェール・ラムラ・ホモという新たな古代ヒト属をイスラエルで発見
ネアンデルタール人は、ヨーロッパ大陸で発生し、繁栄したと長い間考えられてきました。ですが、近年の形態学的研究、遺伝学的研究によれば、ネアンデルタール人はこれまで未知のままであった非ヨーロッパ系のヒト属からも遺伝的継承を受けていることが示唆されています。 で、下記の論文において研究チームはこれまで知られていなかった古代ヒト属、ネシェール・ラムラ・ホモ(Nesher Ramla Homo)を発見したと報告しています…
「読唇術効果」は発話だけでなく、日常生活で接する物体起源の音にも当てはまる
読唇術、つまり唇の動きを読み取ることで、耳から入ってくる音響発話の知覚が向上することが知られています。 ですが、ヒトの唇の動きに限らず、物体の場合はどうでしょうか?つまり、物体そのものを見ると、その物体から生じる音がよく聞こえたりするのでしょうか? 今回は、このような疑問に挑んだ研究を紹介します。 Man, K., Melo, G., Damasio, A., & Kaplan, J. (2020). Seeing objects improves our hearing of …
発達性相貌失認とは、顔認知能力の障害が生涯にわたって続く、先天性の神経発達障害のことです。 発達性相貌失認に関する文献は検索すれば割とヒットするので、研究はされていることが分かります。ですが、顔処理以外の視覚性障害がもっと広範に発達性相貌失認の人に認められるか?認められるとしたらその障害はどの程度なのか?といった点がまだ研究不足であります。 そこで今回紹介する論文では、発達性相貌失認者に色知…
オオフクロネコよりも野良猫の方が被食者に与える影響が大きいのはなぜ?
生物多様性の世界的な喪失に、外来の肉食哺乳類が大きくかかわっていることが知られています。 たとえば、オーストラリアでは、野良猫やアカギツネによる捕食が、在来脊椎動物の減少の最も大きな原因の1つだとされています。 そこで、在来捕食者よりも野良猫の方が被食者への影響が大きい理由を検討することを目的とした研究が実施され、下記の論文に報告されました。 Hamer, R. P., Gardiner, R. Z., Proft, K. M., Jo…
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