都合による詩誌に載せられなかった詩を掲載しています。全員が全員共感してくれるとは思いません。でも100人中、5~6人は共感してほしいな、という個人的希望を持っています。
私は六歳(むっつ)エコール・マテルネルに通っているわ今はママンがマルシェで買い物をしている間乳母車に乗った末の妹を見ているのチェックの鞄をもってウールの白いファーつきコートを着て今日はいつも私に意地悪をするジャンに押し倒されたでも私は泣かない 泣いたら負けだから そして私は泣かない人種だから死ねとも思わない 放っておいてもいずれどこかで野垂れ死ぬから今はあなたたち一般人の子供と一緒にエコール・マテ...
どんなにくだらない詩でもつくり続けることが重要だ詩だけが僕と世界の闇をつないでくれるから詩がなければ世界は僕から声帯を除去するも同じだ指を何本か欠落させるともだから 書け 詩を 死を生き永らえたかったら死後も世界に居残りたかったら言葉は神が造り給うたが神を喪っても言葉だけは喪ってはならないいつまでも降りやまない雨いつまでも治まらない暴風いつまでも終わらない排尿その永遠の輪廻を願ってたとえパソコンと...
人びとは俯き 列を作る足にも手にも絡まる沈黙が歩みを止まらせ思考を淀ませる明るく清潔な収容所は配給の食料を得るために診察の順番を待ちCTの洞窟空間を待ち会計が済むのを待つユダヤ人で溢れている自分の命は自分のものなのにここでは誰かに委ねられて計測器と眩い照明と忌まわしいほど清潔な白衣に操られ揺蕩(たゆと)いながら吹き抜けの大ホール空間を彷徨っている足の萎えているもの 気の憂いを持つもの血の汚れているも...
僕の眼鏡はすぐに汚れる僕の瞼が遠いモンゴルの祖先の代から腫れていてレンズの裏側をこするせいだだから頻繁に眼鏡を外し極細繊維の布で拭くでもモンゴルには眼鏡はなかった 多分それは遠くに放牧された羊を数えていたので近眼の祖先などいなかったからだだから僕もモンゴルに生まれていたら包に棲み山羊の乳を飲み遠くの羊を数え弧を描く草原を裸馬に乗って駆け夕焼けに顔を火照らせ頬を吹きゆく涼風を感じ夜には長老の物語を聞...
なけなしの勇気でいいから跳んでごらんぼくの回すなわをどんなに不細工な格好でも大丈夫学会の重鎮が顔を顰めたってSNSのアクセス数が伸びなくたって本当の価値は歴史が決めてくれる地球は回っているというガリレイの学説が証明されたのもゴッホの描く絵画の素晴らしさが認識されたのもダーウィンが唱えた人間は神が作ったのではないという進化論が評価されたのも彼らが天上の人間になって遥か経ってからだった生きているうちに名...
包丁を持って君は恐ろしくはないのか自分がふいに狂って隣で皿を拭いている妻の背中に突き立てないか不安にはならないのかそれほど確実に君は正気の世界に立っているのか私は毎日怖れながら調理する自分が正気と狂気の際どい狭間で辛うじて平衡を保っているということを誰よりもよくわかっているからテレビから今日昼前 大阪府に住む無職Uが隣にいた妻の背中を突然持っていた包丁で刺しというニュースが流れる夕方世界中の包丁は...
メキシコでは 人間は生まれながらに動物の化身を持ちその影を長く引きずって生きるものでありそれをナワルというらしい僕のナワルは 荒野の崖で吠える一匹の銀色の狼か市場にひかれていく尻の毛の禿げている老いた騾馬か残念ながら僕の心の折れやすさ僕の神経質な心配性僕の魂の裏側を灼く嫉妬深さ修羅場ですぐに逃げてしまう卑怯さそんなものから考えると騾馬としか思えないのだがそれを嗤う君のナワルはいったい何だい決して総...
寛いでいるところ誠に申し訳ないがちょっと畑に行って 頭のなる木から二、三個頭をもいできてくれないかそうだな あまり熟れていない かといって青すぎないのがいいな例えて言うなら 五千メートルの選手でインターハイには惜しいところで出られなかったあるいは コピーの仕事しか与えられていないのに綴じる順序を逆にしてしまったという程度の頭がいいと思う中身はさほど詰まっていないけれど もう少し追熟すればもしかした...
真球だとはとても言えない魂はなぜほかの魂を求めるギリシャ哲学を誰もが忘れ去った今自分の無理矢理奪われた片側を埋め合わせるのが愛の定義であるわけもないしかし細い糸の目を持った人間が大きな瞳を持った異性を選ぶのは疑いもない嗜好だろう花がミツバチの受粉を誘うため鮮やかな色彩と強力な芳香を競うように無意識に自らの瑕疵を癒そうとするようになぜ人は人を求めるのだろう一人で生きていけるはずなのになぜ同伴者を探し...
今夜も首のない大男が扉をぴったり締め切った死に絶えたような街を彷徨する俺の首はどこだ俺の思想は俺の誠実は扉をこっそり開けて隙間から覗けば大男が架空の瞳から大粒の涙を流しているのがわかるはずだ誰か勇気があったら大男に言ってやるといい誰でも首は持っていないのだと誠実も思想すら抱いてはいないのだとそれどころか小さな頭の中に詰まっているのは言い訳と虚偽と仮初の愛だけなのだとしかし大男は夜な夜な自分の理想と...
屹立する一本の橙色のカーネーションの美しさ(美しい花はあっても、花の美しさはないらしい)それは絶対的に俺の部屋の唯一の色誰かが耳元で囁くもう死んでいるのだと俺は答える始めから生きてはいないと本棚の「民族差別とは何か」のテキストが開かれぬまま黄ばんでいくのをじっと耐えて見ているのはそれだけが理由ではない屹立するカーネーションの美しさを誰にも損なわせたくないからだいつだって死んでいくものだけが美しいな...
草食動物は植物を食べ肉食動物は草食動物を食べる肉食動物は草食動物を食べつくしてしまっても植物を食べることはしないそして飢えて死ぬ僕も君しか愛することができない君がもしもいなくなったら飢えて死ぬそれは永遠の愛情ではなく僕が自然から与えられた宿命的本質なのだほかの誰かでは代替できない君しか僕の飢えを癒すことはできないしかし僕は君の飢えを癒すこともできない何故なら君は植物を食べる草食動物だからだだから僕...
そんなの気休めにしかならないわよ君はそう言ったその声音が吐き捨てなのか、やさしい口調だったのかそれさえ即座に思い出せないがしかしどちらにしてもそれで君の気が休まるのなら良いのではないだろうか僕たちはいつもイライラしている進まない会議や落ちてゆく株価や先の見えない同居生活や陰茎が入らない肛門のためにそんな時の気休めならそれは十分に存在意義があろうというものだそんなのカエルの面にしょんべんよ君は確かそ...
愛読書は、と問われたら、自分の詩集と答えるだろうなぜならそこには知らないことばかりが刻まれているから僕は僕を知らない 君が僕を知らない以上にだから襞の一枚一枚を捲って自分自身を解剖する解剖するほどに新しい内臓が発見され美しくも醜い言葉が紡がれるしかしその詩集をまだ1冊も編んでいないとしたらまさに乞うご期待だがふざけた奴だと殴ってくれ蹴倒してくれ肛門を蹂躙してくれそれがまた美しく醜い言葉を紡がせるだ...
放たれた矢が俺の心臓に届くまで三分三十三秒だったこの永遠にして刹那の間に俺は全てを果たさなければならなかった借金の返済も資産一覧の作成も遺産配分の公正証書の依頼も葬儀での故人の挨拶の録音もエロサイトの閲覧履歴の消去もそしてお前への愛を言い遺すことも風が吹いている陽も射している鳥も鳴いているしかしお前の体温だけが感じられないこれが俺の待っていた世界なのか眠れぬ夜を耐えさせた最後の望みだったのかとは言...
ご存知でしたかあなたがトイレから出られた直後に入ると薔薇の香りがすることをそれはあなたが薔薇を排出されているのかうんこというものがそもそも薔薇の香りなのかそれとも私の嗅覚中枢が破壊されているのかいずれにしてもあなたの大腸は花咲く薔薇園で経口で栄養を補給されます私はそのために毎日食材を買い求め料理をしているのですならば私は薔薇を作っているのかうんこを育てているのかしかしあなたのお美しさは変わられませ...
パソコンの画面から手がにゅっと出て十六ギガバイトの世界に引き込まれるほら雑多な情報の津波の中でウサギが私のゆく道を示してくれるひとつひとつのステータスを降りて行けばいつの間にか金光る言葉を得たり得なかったりそれがネット社会というものだ 情報化というものだすれ違う人がすべてクッキーのしっぽをぶら下げてエロサイトに行きましたと宣伝して歩いているここでの王様はユーザ-という唯一の人格的存在ではなく一万八...
顔を替え胸を巨大化させ肌の色を白くし不特定多数の男と交合する 喘ぎ声さえ造ってオリジナルはどこにあるのかそれは魂、と言ってやりたいが魂すらすでに天来のものではない誰でも皮一枚下の顔と本当の顔は違う周囲が思っている魂と真実の魂も違うそれは自分自身だと信じていたとしてもロックヒーローは偽りの魂と偽りの美しさで男に抱かれる姿を絶望と悲哀で唄っただろうがしかしそれほど悪くはないかもしれない誰でも本当の自分...
私はどこにも辿り着けない巡礼だそも巡礼とは何ぞやと問えば古義に礼とは敬って拝することとあり巡とはその場所をひとつひとつ訪ねることとある私は彷徨いながらまさに敬い拝している自分の仮面を外した顔を探して日々心の中の子猫の尾を踏む災厄事や根拠のない悪魔の雑言に晒されながらも崖の縁で強い風の中 辛うじて堕ちずに平衡を保っているそしてその際どさを経巡って巡るという文字の曲折さながらにあちらこちらに顳顬(こめ...
子供っぽいのねと 頬をつんつんしてくれるお姉さんしかし実は私はあなたが思う以上に老成している見る夢は子供のころの場面ばかりで私はそこで自分の陰部を人に見せつけて歩いているのだが夢の中であってさえそれは快感ではなく自罰行為であり自虐行為でありすでに成人の羞恥だでもねお姉さん そのように胸を押し当てないでくれ私は既に使い物にならないと言って陰部は常に屹立しているのだがそれ以前に自分にも他人にも関心がな...
雨が降り始める雨音もしないまま深夜の無音の街が完璧に音のない世界となり雨の降り始めを教える母のことは待っていなかった帰ればまた怒鳴られ殴られるからでは私は何を待っていたのだろうしかし確かに何かを待ちながら庇から落ちる雨の雫を北向きの寒くて暗い四畳半でずっと見つめていた独りが怖くないのは一人で育ったからではなく誰にも助けてもらえなかったからだその部屋にいけば無条件に迎えてくれた祖母は父の奪い合いで母...
友よ いつかまた会おう 妊娠中の慰安婦のように腹を見せ合っても僕たちには何の意味もなかった美しい思い出として心に秘めているのは僕だけで友よ 君たちには醜悪な背後からの肛門撮影だから君たちと別れる永遠に 会陰に 友には友の家族やそのまた友たちがいて大切なのはその友たちとの思い出なら自分の思い出はゴミの日に出そうそれは生ゴミなのか資源ゴミなのか知っているか 広大な砂漠の中で揺らめく陽炎のようにあちらこ...
語られない言語共有されない記憶生き返らない蘇生助けのない救済男は三十二年間 世界で二人しか話さない言語を語り続けた相手が理解しているか否かは関係なくなぜ語り続けることができたのか言語は自らを語るために存在するだけではなく記憶を他者と過去とに共有するためのものでもあるはずなのに男は孤独だったろうかいやそうではない なぜなら男の渾身には常に言葉が力強く満ち溢れておりその迸り自体で充足していたからだここ...
侍ジャパンとは何ぞや知っているか 江戸時代におけるサムライの割合は6.4%しかないしかし百姓は79.2%だつまり球を投げ、打つガタイの大きな男どももヤジを飛ばすおっさんもテレビの前でビールを飲むお父さんも応援歌に合わせてジャンプする若い女たちも先祖のほとんどは百姓だだからむしろ称するべきは百姓ジャパン季節の移ろいを知るように試合の流れを読み自然の摂理に従うようにルールを守り田を耕すように一つ一つの努力を...
魔女っ子メグちゃんは魔女の子供だから悪戯好き今日もクレムリンの奥の奥の部屋にある、ガラスを破って押す赤いボタンにハゲ散らかったおじさんの指を触れさせたり妻のいる男が夫のいる妻と交合したことを夫のいる妻と妻のいる夫に告げて二人の咬合を促したり天空に十三色の虹をかけて六十三年間観察している天体学者の心臓を止めたり大忙しでも魔女っ子メグちゃんは魔女の子供だから寂しがり屋お母さんは台所に立って世界の六十億...
もう少し寝ていたいこの冷たい石棺の中で俺自身が同じくらい冷たくなるまでその頃には出し忘れた恋文も置き忘れた孔雀の骨で作った唐傘も意気地なしと言われた深夜1時のBarも全て遥か次元のゴミ箱に入っているだろうその後起き上がった俺がどこへ行くのか俺は知らない いや知っているそれは芳しき死臭の満ちる都妙かなる声で鳴く鵺の住む都鮮やかに飾りたてた木乃伊の眠る都だからもう少し寝かせてくれこの冷たい石棺の中で重い蓋...
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