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狩場宅郎
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2019/06/16

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  • 4人の男児

    山幸彦の自伝 28 わが后、トヨタマヒメが海に帰り、はや十数年。 トヨタマヒメは、わたしたちの子ウガヤフキアエズの養育のために妹のタマヨリヒメを送っていた。ウガヤフキアエズはタマヨリヒメの献身的な養育により、今では立派な青年に成長していた。 わたしは毎日、そんなタマヨリヒメの姿を見ては、妃のトヨタマヒメの姿に重ね合わせていたのである。ああ、トヨタマヒメ・・・お前がここにいてくれたら、ウガヤフキアエズも喜んだであろうに・・・ そんなある日のことだった。わたしの部屋に、ウガヤフキアエズとタマヨリヒメが入ってきた。 ウガヤフキアエズが言った。 「父上、お話があります」 「ん、なんだ、改まって?」 「…

  • ああ、トヨタマヒメ・・・

    山幸彦の自伝 27 トヨタマヒメが海に帰り、早数年の時が立った。 トヨタマヒメが残していった子は、ウガヤフキアエズと名付けた。ウガヤフキアエズはすくすくと育っていった。それというのも・・・ トヨタマヒメが自分の妹、タマヨリヒメを、子の養育のために地上に送ってくれていたのである。 タマヨリヒメは、ウガヤフキアエズに、まるで母親のごとく愛情をもって育てていた。 その姿・・・あたかも姉の、そしてわたしの后の、トヨタマヒメを見ているようだった。 そしてタマヨリヒメは、時に海神の宮殿に戻っては、トヨタマヒメの様子を私に知らせてくれた。聞けば、トヨタマヒメは元気にしているという。 ああ・・・トヨタマヒメ・…

  • 別れ

    山幸彦の自伝 26 トヨタマヒメが赤子を抱いて立っていた。 「トヨタマ、生まれたのか」 トヨタマヒメの正体を見てしまったわたしは、努めて平静を装っていった。 「ホオリさま・・・天の御子、あなたの子です・・・」 トヨタマヒメはそっと赤子を差し出した。わたしはその子を受け取る。 「トヨタマ、よくやったぞ・・・」 そうだ、この子はわたしとトヨタマの子なんだ・・・そしてトヨタマヒメはわたしの后だ・・・その正体が何であろうとも・・・ しかし、トヨタマヒメの次の言葉は、思いもよらぬものだった・・・ 「ホオリさま、お別れです」 「な・・・何・・・どういうことだ・・・」 「あなたはわたくしの正体を見てしまいま…

  • 赤子を抱いて・・

    山幸彦の自伝 25 産屋の中にいたのは・・・ワニだった! ワニがのたうち回って、子を産んでいたのだ! わたしはびっくりし、そして思わず一歩退き・・・ その時、足元の小石に足が当たり、カタッと小さな音を立ててしまった・・ ・・・しまった!・・・いや、こんな小さな音に気付くはずないだろう・・・ワニは・・・トヨタマヒメは、子を産む最中でそれどころではないはずだ・・・ わたしはそーっと後ずさりして産屋から離れると、一目散に駆け出した・・・ そして産屋から充分離れたところで立ち止まり・・・ ・・・まだ息が上がり、心臓の鼓動がドキドキしている。いや、走ったからではない!産屋の中を見た光景が、頭から離れない…

  • 産屋の中にいたのは・・・

    山幸彦の自伝 24 トヨタマヒメは出産のために産屋にこもった。その時、中を覗くなといった・・・どういうことなのだろう・・・気になる・・・ ・・・元の姿、ってなんだ・・・海神の宮殿で3年間を過ごした、あのきれいな姫の姿は仮の姿だったっていうのか・・・ わたしはトヨタマヒメが言った言葉が、気になってしょうがなかった・・・どうしても、抑えきれない・・・ わたしはそっと、気づかれないよう近づいて、鵜の羽の隙間から中を覗いてみることにした・・・なに、大丈夫だ。わたしはトヨタマヒメを愛している。たとえどんな姿だろうと、その気持ちは変わらない自信はある。 気づかれないよう、慎重に慎重にそーっと近づき、まだ未…

  • 見るな

    山幸彦の自伝 23 トヨタマヒメの出産に備えて、海のそばに産屋を建てることにした。 さっそくトヨタマヒメが上陸していた海岸に柱を立てていく。トヨタマヒメの出産も近い。 屋根と壁を葺いていくにあたって、陸上から萱を取ってくるより、手っ取り早く海岸で手に入る鵜の羽で葺いていくことにした。 しかし・・・ まだその産屋が完成しないうち、トヨタマヒメの子が生まれそうになった。トヨタマヒメは、まだ噴き終えていないその産屋に入っていった。 その時・・・トヨタマヒメは、そっと私に言ったのだ・・・ 「海の世界のものは、子を産むときは本来は元の姿になるのでございます。それで・・・わたくしも海の世界のものでございま…

  • トヨタマヒメが訪ねてきた

    山幸彦の自伝 22 兄ホデリが去っていったあと、わたしは高千穂宮に戻っていた。 高千穂宮に戻ってしばらくしてからのことだった。わたしが執務を取っていると、従者が入ってきた。 「ホオリさま、若い女性の方が面会を求めておられます」 「ん?若い女性・・・誰だろう」 わたしはそのものを通させた。その瞬間、わたしは叫んでいた。 「おお!トヨタマ!」 そう、入ってきたのは、海神の宮殿に残してきた、后のトヨタマヒメだったのだ。 「ホオリさま、会いとうございました!」 トヨタマヒメは喜びあふれる表情でわたしに語りかける。 「トヨタマ!それはわたしも同じだ!いや、もっと早く迎えに行きたいとは思っていたが、兄上と…

  • ホデリは降伏した

    山幸彦の自伝 21 わたしが頭上に塩満珠を掲げると、海から大きな波が押し寄せ、兄ホデリの軍勢を押し流していく。 わたしの従者らは、屋根の上からあっけにとられてこの光景を見ていた。ホデリの兵士たちは次々と波にのまれていく。 「うわああっ」 「助けてくれ~」 兵士たちの叫び声が飛び交う。そして、兄、ホデリも・・・ ホデリが一目散に高台目指して走って逃げているのが見えた。しかし、たちまちのうちに波は追いつき、ホデリも飲み込んでいく・・・ 「わあーっ!助けてくれ!」 ホオリの絶叫が、ここまで聞こえてきた。よっぽど恐怖だったのだろう・・・ もう、ここらで潮時だろう・・・そう考えたわたしは、潮乾珠(シオフ…

  • 津波!!

    山幸彦の自伝 20 兄ホデリがわたしの宮に攻撃を仕掛けてきた。わたしと従者は屋根の上に上がり、わたしを中心に従者が周りを取り囲み、戸板で作った急ごしらえの盾で護る。 そうこうしているうちにも、ホデリの軍勢は私の宮の目の前まで進軍していた。先頭に立っているのはホデリだ。兄ホデリが自ら軍を率いて攻撃してきたのだ。 「おい、見ろよ!あいつら、馬鹿じゃないのか?みんな屋根の上に上がって、あれじゃ、格好の的じゃないか!!」 軍勢の兵士たちはそう思ったに違いない。 びゅわ~~ん!! 鏑矢が飛んだ。それを合図に、一斉に矢が飛んできた。 宮の四方から雨あられとふってくる矢・・・ 「ホオリさま!これではとても、…

  • 屋根に上がれ!

    山幸彦の自伝 19 兄ホデリがわたしの宮に攻撃を仕掛けてきた。 「ホオリさま!兄君の軍が攻めてきています!!」 宮の周りを警護していた従者から、その第一報はもたらされた。従者たちの間で動揺が走る。 ホデリは没落したといっても、高千穂宮の大軍を手中にしている。一方、わたしのもとにはわずかな従者しかいない。 普通に考えたら、わたしのほうに勝ち目はない。 その時だった。従者たちが口々にわたしに向かって叫びだした。 「ホオリさま、すぐに逃げてください!」 「我々が撃って出ます!ホオリさまはそのすきに、はやく!」 「さあ、ホオリさま、こちらへ!」 さすが、わたしの腹心の部下たちだ。自分たちは死を覚悟して…

  • 田を開けば・・・

    山幸彦の自伝 18 わたしは高千穂宮を出て、海神の宮殿から帰ってきたときに上陸した海岸に新たに宮を建て、そこに拠点を移すことにした。 その頃の施政者にとって、新田開発は重要な課題だった。田が広がり米が多く取れれば、それだけ国力も強くなり支配力も高まる。 その年、兄ホデリは高台に田を開墾していた。それを見たわたしは、その年、低湿地に田を開墾した。 その年は雨が少なく、日照り続きだった。高台にある田は水はけがよく農作業は楽だが、雨が降らなければたちまちのうちに水不足となる。ホデリの田は乾き、ひび割れ、その年は全く米がとれなかった。 一方低湿地に作ったわたしの田では、水を得るのが容易かったためにたく…

  • 釣れない魚

    山幸彦の自伝 17 釣りに出掛けた兄ホデリが帰ってきた。しかし、その顔は明らかに不機嫌だ。魚が釣れなかったのだろうか。 「兄上、どうしたのですか」 「どうしたもこうしたも、一匹の魚も釣れやしない。おかしい、こんなこと、初めてだ・・・お前、針を返す時、背を向けてなんかぶつぶつ言ってたな・・・まさか何か、呪いをかけたんじゃないだろうな」 「そんなわけないですよ、たまたまですよ」 口ではそう言いながら、心の中で 『これが海神から教えてもらった言葉の意味か・・・すごい効き目だ、恐ろしいな・・・』 と、思ったものである。 ホデリは次の日も、その次の日も海に釣りに行った。しかし、小魚一匹つれなかった。 そ…

  • 針を返す

    山幸彦の自伝 16 3年ぶりに日向に帰ったわたしは、高千穂宮に戻っていった。 「兄上、ただいま帰りました」 「ん、ホオリか?お前、この3年の間、どこに行ってたんだ?お前がいない間、わたしは一人で政務を見ていたんだぞ! ・・・それで・・肝心の針は、見つけてきたんだろうな?!」 「はい、探し出してまいりました」 そう言って、わたしは赤鯛の喉に引っ掛かっていた針を差し出した。 「おお、確かに、この針だ!!」 兄ホデリは、喜んで針を受け取ろうとした。その時、わたしはくるりと後ろを向き、ホデリに背を向けて 「オボチ、ススチ、マヂチ、ウルチ」 と、海神から教えてもらった言葉をつぶやいた。 ホデリは「なんだ…

  • 日本に帰る

    山幸彦の自伝 15 わたしは海神の宮殿から地上の日本に戻ることになった。 海神は今度はワニを集めると 「天の御子が地上にお戻りになることになった。お前ら、地上まで何日でお送りすることができるか」 と問うた。 すると、集まったワニの中で一尋ワニ(ひとひろわに)が 「わたくしめであれば一日でお送りすることができます」と答えた。 「ならばそなたが天の御子お送りせよ。海中を渡るときに怖い思いをさせたりしないように、気を付けるんだぞ」 こうしてわたしはその一尋ワニに乗って地上の日本に帰ることになった。 「ワタツミさま、大変お世話になりました。 トヨタマヒメ、いずれ迎えに来る。その日まで、待っててくれよ」…

  • 海神が言った・・・

    山幸彦の自伝 14 海神は赤鯛の喉から小さなものを取り出し、それをきれいな水で洗い清めてからわたしに見せた。 針だ!・・・確かに、あの時なくした釣り針だ!! 「ホオリさまがなくしたのは、この針ですか?」 「は、はい、そうです!確かにこの針です!!」 わたしは喜んでその針を受け取ろうとした。 すると、海神が言った 「お待ちください、この針を兄君にお返しするとき『オボチ、ススチ、マヂチ、ウルチ』と唱えて、後ろ手にお渡しください」 「え・・・なんですか?それは・・・」 「なに、ちょっとしたおまじないですよ」 わたしが腑に落ちない顔をしていると、海神は続けて言った 「お帰りになった後、兄君が高いところ…

  • 針があった!

    山幸彦の自伝 13 海神ワタツミの宮殿に来て3年、わたしは海神にここに来たいきさつを聞かれて話した。 わたしの話を聞き終わった海神は 「さようでございましたか。天の御子ともあろうものが、なんでこんな海の底までおいでになったのか、不思議に思ってはおりましたが・・・ よろしゅうございます。兄君の針をお探しして差し上げましょう」 「え・・針を探すって・・・この広い海の中から、ですか?」 「はい、その通りですよ。まあ、海のことならわたくしにお任せくださいませ」 海神はそういうと、海の魚をすべて宮殿に集めた。大小色とりどりの無数の魚が海神の宮殿に集まった。 魚たちの前で、海神は言った 「こちらの天の御子…

  • 3年の果てに

    山幸彦の自伝 12 わたしが海神ワダツミの宮殿に来てから、早3年の月日がたった・・ わたしは3年の間、海神の宮殿で妻のトヨタマヒメと一緒に、何一つ不自由なく楽しく暮らしていた。 そんなある日、ふっと思い出したのだ。 私は何でここに来たのか・・・そうだ、兄ホデリの釣り針を探しに来たんだ! そして私は思わず「ああ・・・」と声を漏らした。 その声を妻のタマヨリヒメは聞き逃さなかった。そして心配して父の海神に話したらしい。 わたしは海神に呼ばれた。 「娘から聞きました。この3年間娘と一緒に楽しく過ごされていたのに、今日初めて大きなため息をなさったと。ホオリさま、何か心配事でもおありですか? いや、そも…

  • トヨタマヒメを后に

    山幸彦の自伝 11 侍女は器を持って宮殿の中に入っていった。 わたしは井戸のそばに立って待っていた。 ほどなく、きれいな若い女性が出てきた・・・この宮殿の姫様だろうか・・・ その娘と目が合った・・・ 娘が言った 「侍女が勾玉が張り付いた器を持ってきましたが・・・不思議に思って様子を見に来ましたが・・・あなた様だったのですね・・・」 わたしはその娘の目を見返す・・・なんだ、この胸の高まりは・・・不思議な心地だ・・・ わたしは 「ああ、そうだが・・・そなたは?」 と尋ねた。 娘は「わたくしはワタツミの娘、トヨタマヒメと申します・・・どうぞ、こちらへ」 トヨタマヒメは私の手をそっと取り、宮殿の中に連…

  • 侍女が出てきて

    山幸彦の自伝 10 わたしは籠舟に乗って、海の底と思われるところにたどり着いた。そこにはシオツチが言った通り、魚のうろこのように立ち並ぶ宮殿があった。門の横には井戸があり、井戸の側には大きな桂の木が茂っていた。 わたしはシオツチの言う通り、桂の木に登って待つことにした。 すると、門から一人の女が出てきた。服装からして、どうやらこの屋敷に仕える侍女のようだ。 その侍女は美しい器を持っていた。井戸に水を汲みに来たようだ。 侍女はつるべを落とし、くみ上げた水を器に遷す。 と、その時だった。侍女は器に映る、私の影に気が付いた。そして木の上を見上げる。木の上にいた私と目が合った。 侍女は驚いたようだ・・…

  • 海の底へ

    山幸彦の自伝 9 わたしはシオツチが編んでくれた籠の船に乗って、大海原に流れ出していった。 どれくらい沖に出たのだろうか・・・あたりは水ばかりである。 シオツチを信頼することにはしたが、果たしてこんなんで兄ホデリの針を見つけて帰ることができるのだろうか・・・ ・・・もう、考えるのも疲れてしまった・・・ ・・・わたしはどっと疲労を感じ、うとうとと寝入ってしまったのであった・・・ ・・・そして、目が覚めた。 籠舟は止まっていた。地の上にあった。 ここはどこだろう・・・知らない間に陸に上がっていたのか・・・ しかし、何か様子が違う。あたりは明るいが、それは陽の光ではない・・・柔らかく、優しい光に包ま…

  • ホオリの籠舟

    山幸彦の自伝 8 シオツチは私の話を聞くと「良い知恵をお授けいたしましょう」というと、海岸わきの竹やぶに入っていった。 ・・・一体、何をしてくれるのだろう・・・ 不安な気持ちで待っていると、シオツチは竹を何本か切って戻ってきた。シオツチは竹を器用に裂いては、それを編み上げていく。 「あの・・・シオツチさま・・・一体、何を作っているのですか?」 わたしは不安でいたたまれなくなり、シオツチに尋ねてみた。 「ホオリ様が乗る舟を作っているのですよ」 「え・・・舟って・・・まさか・・・」 まさか、竹を編んだ船に乗って海の中に針を探しに行けというのか・・・そんな無茶な・・・ シオツチはそんなわたしの気持ち…

  • シオツチに出会う

    山幸彦の自伝 7 わたしは兄ホデリの針をなくし、海岸で途方に暮れていた。こんな広い海原の、どこを探せば小さな針を見つけて持って帰れるというのだ・・・ ・・・どれだけ時間がたっただろうか・・・すでに日が暮れようとしていた。 「もし・・・失礼ですが、ホオリさまではございませんか」 ふと、背後で声がした。その声にわたしは振り向いた。そこには年を取った、一人の神が立っていた。 「・・・あ、やはり、ホオリさまでございますね」 「はい、そうですが・・・あなた様は?・・・」 「はい、わたくしはシオツチと申します。」 シオツチというと・・・潮の満ち引きをつかさどる神だ。 シオツチは言葉を続けて言った。 「それ…

  • 針を探せ!

    山幸彦の自伝 6 わたしは兄ホデリの釣り針をなくしてしまった。そして、ホデリの怒りようは尋常ではなかった・・・ 「な、なに!お前、あの針をなくしただと!!あれほど言っておいたではないか!!それを・・・それを・・・何てことしてくれたんだ!!!」 もともと気性の荒い兄ではあったが、それにしてもここまで真っ赤になって怒った姿は見たことがない。 「お前、戻って針を探してもってこい!!今すぐにだ!」 ええ・・・海まで行って針を探して来いって・・・そんなの無理だ・・・ わたしは腰にさしていた十拳剣(とつかのつるぎ)を鋳つぶして、500本の釣り針を作り、ホデリに差し出した。しかしホデリは 「そんなものいらん…

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