「有難う御座います。 後でも良いですから、田中先生、私に一円を下さいね」 遠藤先生は天井を仰ぐことを止めて不思議そうに最愛の人と祐樹の顔を交互に見ている。「法律上は、これで契約成立です。 ちなみにこのボールペンはネットショップで5万円程度が相場ですが、お
創作BL小説を書いています。 ヤフーブログから引っ越して参りました。
ヤフーブログ終了でライブドア様に引越しました。今日の夜中更新分からはこちらがメインです!
「書きますから『もう良いよ!』と言うまで瞳を閉じていて下さいませんか?」 最愛の人がパパラチアサファイヤのような煌めく笑みを浮かべていた。 祐樹は買ったことはないが、最愛の人に贈るために百貨店の宝石売り場で見た覚えがあった。そのピンクとオレンジの光が最愛
最愛の人は震える紅色の指で祐樹のキスを受けている。 そして見上げると滑らかな頬に涙の雫を零し続けていた。若干華奢な肢体も泣いているせいなのか震えていた。ただ、彼の全体の雰囲気は月の柔らかな光を纏っているような感じだったが。「今日は貴方のご両親にご挨拶だ
「『この夜のような幸せな日が一生続きますように』ですか。確かにその通りですね。 この夜というのは寝室での熱い逢瀬も含まれるのでしょうか?」 そろそろ、最愛の人の注意を寝室の方へと向けたい。今はまだ笹飾りの出来映えとそして素晴らしく美味しかった食事の余韻を
「私も貴方のご両親に語り掛けますから、どうか聞いていて下さいね……。 これから申し上げるのは全て本心です。 無神論者とか普段は言っていますが、こういう時には墓前で報告したら極楽にいらっしゃる貴方のご両親にも届くかと心の底から思いますので……」 傍らに佇む
「あの人着……!コンビニ強盗の!!」 ニンチャクという単語の意味は分からなかったんだけれど、西野警視正の鋭い目線が一点に集中していた。もしかして緊急配備が掛かっている犯人を見つけちゃったのかな? そういえば、何だか人目を憚るような感じで自転車を走らせてい
「ちなみに、柚子のピューレには砂糖を一切入れていないし、柚子特有の爽やかな酸味もキチンと残っていると思う。 柚子好きの祐樹のために――といっても、胡椒は入れていないが――」 その言い方に思わず可笑しくて笑ってしまう。「セブイレの柚子胡椒が大好きだからとい
「お墓、綺麗な状態ですよね?ここはお寺さんの境内でもなさそうですし。 もしかしたらご親戚が手入れに通って下さっているのかも知れないです」 街路灯の白い光を朧に受けている最愛の人は目を瞠っている。「藤井さんという患者さんのことを覚えていますか?」 藤井さん
「貴方が凱旋帰国をされた頃ですね……。 たまたま行く機会がありまして。といってもお義理で連れて行かれたのですが。 それ以降は私が貴方派に付いたので、それっきりです」 最愛の人は誰に連れて行かれたのかピンと来たのだろう。 形の良い眉を僅かに顰めていたものの
「西野警視正、もし宜しければ運転しましょうか?」 キーを手に持って駐車場に向かって歩いて来る飄々とした感じの西野警視正に――多分、何も知らない人が見たら、警察関係者とは思われないだろう、な。なんか財布とかを落としてこの署に預かってもらっていて、それを取り
まあ、仮に気付かれたとしても、祐樹が知っている事務局の女性陣は割とキャピキャピしている感じで、若い男にしか興味がなさそうな感じだった。 本来は無神論者だし霊なんてものを全く信じていない祐樹には――菊の花を抱えて隣を歩む最愛の人もそうだろうが――全く平気
「いえ、貴方の過去を笑えるほどの育ちでは全くないのですが……。というよりも、全く独力でプライベートバンクから声が掛かるほどの資産を作られたことに尊敬の念を抱いていますが……」 祐樹の所には信託銀行のダイレクトメールしか来ないのは――ちなみに信託銀行と銀行
「そうですか?以前に比べると料理の腕前は上がったとは思いますが、それでも貴方には遠く及ばないですし、最初にお出しした料理などは黒歴史ですからね……。 あれは料理というよりも化学実験といった方が的を射ているかと思います」 祐樹のマンションとは名ばかりのアパ
「もしかしたらさ、ミツビ〇商事の薬剤部門の方が優秀な研究員って言うのかな?どう言うかは知らないけれども、そちらの方にも有吉さんとか国見君、そして谷崎君の尿とか血液とかを送った方が良いとか思うんだけど……」 だって大野さんが在籍していたとかいうK都大学の生物
ある日のこと、いつも行っているコンビニに足取りも軽く行きました。そして100円玉が不足しているので、滅茶苦茶お世話になっている店長が立っているレジに「コピー機使うので両替お願いします」と言ったら「あ!また印鑑証明ですか?大変ですね」と言われました。という
「斜めに切った方が切断面積も大きくなるので、花が水を吸う量も多くなるのですね?」 最愛の人が確認するような感じで山田さんに聞いていた。ラフな私服かつ前髪を下ろしているにも関わらず病院に来たからか怜悧かつ理知的な「公的」な声と表情だった。「そうです。流石、
テーブルの向こうでお吸い物を飲んでいた最愛の人はテーブルの上にお椀を置いて肩を竦めている。「個人的には投機だろうと思うのだが定義からは外れるな。 投機は数日、いや短ければ数秒で莫大な利益を上げるか失うかの世界だと言われている。 FXなどがそうだろうな。た
「ワイン研究家になるのは、物凄く難しいみたいですね。鋭敏な味覚を持っているとかの先天的な問題もあるようですが、フランスに行ったり色々なワインを呑んだりして物凄くコストも掛かるらしくて」 最愛の人は花のような笑みを浮かべて室内着に包まれた若干華奢な肩を竦め
いくら時間外のお墓参りとは言っても最愛の人のご両親が眠っているのだから、カジュアルな服装は避けるべきだろう。 色々考えて白のワイシャツに濃紺の模様の少ないネクタイ、そして最愛の人が贈ってくれた黒いスーツを身に着けてリビングに戻った。「祐樹、私もネクタイ
「その違いだよね……?あっ!ほら、ハ〇高原に二人で行った時にさ『上野教授のゼミは今年が初めて』ってわかば会のパートをしている若奥さんが言ってなかったっけ?」 推理力とかはないけど、咄嗟の閃きは俺の方が幸樹よりも優れている数少ない特技(?)だった。「ああ!
論評は祐樹のみならず食べている人なら誰でも出来るが、実際に作るのは物凄く難易度が高いので、その点は配慮しなくてはならない。親しき仲にも礼儀ありというコトワザもあったし。「パプリカのソテーも過熱したとは思えないシャキシャキ感でとても美味しいです。 お刺身
「映画も終わったので、貴方のご両親が眠っているお墓に行きましょうか? 散歩がてらお参りに行くのも良いですね。 ああ、しかしお線香とかお花とかそういう物を持って行かなければならないのでは? この時間だと花屋さんとか開いていないですよね?菊とかそういうのを持
「ご馳走稲荷寿司もお酢がキツイ感じではなくて、まろやかな良い香りですよね。錦糸卵やイクラにも程よく調和していてとても美味しいです。 貴方とこうしてテーブルに一緒に座って同じものを食するだけでもそれだけで最高の美味ですが、それ以上にこんなに美味しい七夕用の
「――母には市民病院がどうなっているのかという点も含めて聞いてみたいと思います。 あと、貴方の委任状を郵送しないといけないですよね……。役所が開いている時間は貴方も仕事でしょうし、母も『聡さんの負担にならないように』と釘を刺していましたからこき使ったら良
「そんな状態であの説得力か……。確かにプロの俳優でしかもずっと芸能界で生き残っているというか、バラエティ番組に出てギャラを稼ぐのではなくて、ドラマとか映画に脇役だが割と目立つ役を演じ続けている人なだけはあるな。 その点は見習うべきだろう。 その場のハッタ
「ああ、持っている画像を全部送ってくれたみたいだな。流石は院に残って研究者になって法曹資格を取ろうとしている人らしく――まあ、西野警視正が言っていたみたいにさ、実際に弁護士として活躍できるかどうかは知らないけれども――細部にまで拘ってくれたみたいだ……。
「そんな状態であの説得力か……。確かにプロの俳優でしかもずっと芸能界で生き残っているというか、バラエティ番組に出てギャラを稼ぐのではなくて、ドラマとか映画に脇役だが割と目立つ役を演じ続けている人なだけはあるな。 その点は見習うべきだろう。 祐樹は百点満点
「大満足ですね。ランチも充分美味しかったですが、この力作揃い料理を拝見するとディナーのフルコース、しかもワインは飲み放題でなければお返し出来ないと思います」 行きつけのカウンター割烹の板長さん曰く「和食は目でも味わうものです」という言葉が脳裏に蘇ってくる
「上野教授のゼミの研究室に残ってさ、ウチの大学でも良いし他の大学でも良いから教授職に就いて数年間で法曹資格を取ろうって人だけに上野教授との画像が多いみたいだな。 フェイスブックには上げてない画像まで送ってくれているらしくてさ、どうも容量の関係で、まだ情報
「まあ、母がボケ防止にボランティア活動に行っている人は与党の市議先生らしいので、内容はパクり……いえ、参考にはならないと思いますがああやって市民の不安を提示して、その解決策を語るという手法は良いですね。 それに選挙カーの上だから出来るのでしょうが、大袈裟
「これは豪華版ですね。 特に五色の素麺に赤や黄色の星が綺麗に切られていますね」 他にも祐樹がリクエストしたご馳走稲荷寿司にもイクラの二つの小さな島の間に赤と錦糸卵のごく薄いモノが川のように流れている。天の川に見立てられていることが充分分かった。「色付きの
「あのう……。弁護士資格なんて、物凄く難しいと思いますし、取得するのに時間もお金も、そして努力も物凄く費やすものだってことは俺にも分かります。それに一度弁護士になったらご両親とか親戚とか付き合いの有った人は皆『凄い』とか思っているでしょうし、ワーキングプ
流石に俳優さんだけあって――いや、映画監督から演技指導とかを受けているのかも知れないが詳しいことは分からないが――研修医時代と比べると今は金銭的にさほど困っていない祐樹も「この人に一票を投じても良いな」と思わせる熱演に見入っていた。 言葉に感情を思いっ
「ただ今帰りました」 定時上りの時にはドアチャイムを鳴らして最愛の人に出迎えて貰うことの方が多かったが、今日は料理に余念がないだろうからドアを開けた。 上司なのでシフト表は当然把握している最愛の人は祐樹が救急救命室とか夜勤などで夜に帰れない日も当然把握し
「なるほど……そういうことか。 では、今夜の夕食は腕によりをかけて作ろうと思う。今日支払ってもらった金額分の価値を料理で祐樹に認めてもらうために……」 やっと納得してくれたらしい最愛の人に返事をしようとしたら、背後から内田教授の声がした。「香川教授、患者
ポケットから出しかけた財布を仕舞ってから極上の笑みを浮かべて「有難う、ご馳走様」と言ってくれた。「いえいえ、どう致しまして。今夜の夕食のメニューに『ご馳走稲荷寿司』を加えてくれとリクエストしたのも私ですから。その手間代とでも思って下されば」 そう告げる
「自己破産した場合に就けない職業が有ってね、その中には弁護士も含まれるんだよ……。 だから自己破産したらせっかく取得した弁護士資格も泡のように消えていくという末路を辿ることになる。だから自己破産の方法とか手続きは知っていても自分は出来ないというジレンマに
「そう言えば、貴方のご両親が眠るお墓は京都市内に有るのですか?」 ひんやりと冷たい唇の感触を心行くまで味わって熱を上げてから離すと、二人の間に銀色の束の間の水の糸が掛かっていた。「そうだな。母が亡くなった時には覚悟はしていたとはいえ、やはりショックで呆然
「まあ私たちは『二人で末永く幸せに暮らしました』というのは決定事項ですが……。見てしまったからといってそれは変わりませんが、ね? でも、貴方の驚きとか七夕の夜に相応しい、甘くて激しい愛の交歓のために見ない方が良いと思います。 このプリン……良かったら召し
「四回生の上野ゼミ所属の人知っているってさ! しかも、その先輩はロースクールじゃなくて、法学部教授を経てから法曹資格を取りたいらしくって、その根回しも兼ねて上野の部屋に良く相談と称して行っているらしい。 流石はウチの大学が全国に誇るアメフト部なだけに顔が
「――私なんかが、田中家のお墓に入って……良いのだろうか……」 思ってもいなかったという雰囲気を醸し出している声が震えている。 それに、涙が盛り上がって今にも滑らかな素肌に零れてしまいそうな感じだった。 その瞠った目に唇を当てて、そっと吸った。 先ほど
「シェフも向いていると思いますが、やはり手術室で大胆かつ繊細にメスを動かしている貴方が最も輝いていると、個人的には思います。 久米先生も自分を医師だからとか思っていないフシが有りますよね? アクアマリン姫と人として向き合うというか……。 まあ、久米先生の
「それも思いっきり越権行為なのでは?署長さんが良く許しましたね? ちなみに緊配って言うのは、犯人と思しき人間が所轄管内に逃亡の恐れありという事態で、署の全機能を止めてまで道路に注視しないといけないんだ……。緊急配備の略語だけれど、警察組織は隠語めいたもの
「まあ、久米先生は知らないでしょうけれど今となっては懐かしの、凱旋帰国なさった頃の医局とは全く違って良い雰囲気になっていて本当に居心地が最高だとは思いますよ、個人的な感想ですが……」 サーモンを口に入れて香草の香りとまろやかな味を楽しむ。確かに美味しいな
そして、小姑という単語がさらっと出て来たので、例の話を切り出すいい機会のような気がした。 長岡先生が祐樹最愛の人を職場では尊敬する上司としても、そして私生活では兄のように慕っているのは知っている。 だから「小姑」というのはあながち間違ってもいないだろう
ハラハラしながら幸樹の目をじっと見てしまう。おかしくなった谷崎君も目つきが普通の人というよりも掛かりつけの心療内科の菊池先生のクリニックでたまに見かける精神的に逝ってしまっている人っぽい感じだった。 でも、幸樹の揺るぎなくて強靭な光を宿す眼差しは見慣れ
「――映画館にはそういう使い方も有ったのか……。私はてっきり映画を観に行く場所とばかり思っていたが……。 祐樹は過去に『そういう』場所として、いやデートの一環ではなくて、出会いの場所という意味だが……使ったことが有るのか……」 画面に割く集中力よりも祐樹
「この店の味はとても美味しいので、こうして時間が限られるランチではなくて、ゆっくりと楽しむことの出来るディナータイムに来たいな。 それに個室のしつらえとかもとても気に入った。 それに隠れ家めいた雰囲気で独立している分、二人きりで食事を楽しむことも出来るし
だって、幸樹は俺なんかよりもずっと頭の回転も良いし、色んな事に聡いっていうのも知っている。 その上、こんな「事件」に巻き込まれてしまった時から何だか生き急いでいるような気がするのは俺の気のせいだったら良いんだけど……。 でも、普段のキャンパスでのんびり
今頃はハウスキーパーさんが鏡を寝室に運び入れてくれた頃だろうか? まあ、なるべく隠して置いて欲しいという要望は伝えておいたので大丈夫だろうとは思ったが、念には念を入れた方が良いだろう。 最愛の人が職場を抜け出して――という話は一度たりとも聞いたことがな
「ソファーに座って鑑賞するのと、床に直接ポップコーンとコーラを置いて座って観るのと、どちらが良いですか?」 ポップコーンの懐かしい香りがリビングに漂っている。そしてコーラという普段は飲み慣れない飲料のシュワシュワと微かな音を立てているのもリビングを非日常
「呂律の回らなさ……か……。確かに向精神薬とか睡眠薬の副作用としては良く知られているな。 薬学――大野さんが昔居たっていう薬学の研究室を訪ねるのも良いかも知れない。 薬学部なのかどうかは龍崎さんからの情報待ちということで……。 それにさ、西野警視正が見た
「そうだな……。ここなら店の中に入ってしまえば誰にも顔を合わせないし、経費をある程度使えるポジションの人間の接待の場所としても使えそうだ……。そういう客を見込んで建てたのだろうか……? ウチの患者さんのお見舞いとかにいらしたご家族も使いそうだが、遠方の患
「ポップコーンは冷めやすいので、二人で一気に作った方が効率的ですよ? パックに入っているモノとは異なって、豆状のままで弾け切れないのも残ってしまいますが、それもご愛敬でしょう」 キッチンに行って、取り敢えずコーラは冷蔵庫に入れた。「こういうお菓子もあるの
「蛍を楽しみつつ、もしかして川床料理を召し上がるといった趣向ですか?」 貴船神社の辺りは、自然も豊かだし京都市街の湿度と気温の高さとは全く縁がない場所という認識が有った。「どうしようかな……と二人で話しているところです。お店も予約していないんですよね……
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「有難う御座います。 後でも良いですから、田中先生、私に一円を下さいね」 遠藤先生は天井を仰ぐことを止めて不思議そうに最愛の人と祐樹の顔を交互に見ている。「法律上は、これで契約成立です。 ちなみにこのボールペンはネットショップで5万円程度が相場ですが、お
「薬剤科を通すと上層部に知られるというリスクも確かに有りますが……、内科で処方した眠剤や精神安定剤を山のように貯めている患者さんも多数いらっしゃるので……。 服薬コントロールをどの程度しているかも兼ねて科の現状を、いわば抜き打ち調査するという目的の一石二
「私の手術の成否を心中深く案じた最愛の恋人は、呉先生に薬の処方をお願いしたのではありませんか?」 その一言で豪奢かつ居心地の良い客室の空気が凍り付いた。 最愛の人は端整な顔が青褪めていて、右の手を左手に重ねて白くしなやかな指がプラチナの指輪を御守りのよう
「似たような物件は二億五千万円で購入出来るようですよ?この物件とか、後はこちらとか……」 黒いマウスに載せた白く長い指が動く仕草は祐樹の視線の吸引力を根こそぎ持って行ってしまう魅惑に溢れていた。 しかし、遠藤先生が三億五千万円という祐樹にとっては天文学的
「はい、拡張……、それはともかく術式は……」 具体的な説明をしようとしたら、個人的には悔しいが苦み走った整った顔にドロドロと青色の簾(すだれ)が下りていくようだった。 普段の祐樹ならもっと具体的かつ生々しく説明するところだ。 しかし、かの「一力(いちりき)亭
祐樹行きつけの、つまり救急救命室から最も近いコンビニは店員さんがバーコードだかを読み取る仕組みだった。 ちなみに、高校生まで過ごした実家だったら未だに値段を書いた小さなシールという店もある。 実家に帰る時は実の息子の祐樹よりも母に気に入られている最愛の
「その言葉は単なる営業トークでしょうね。 マンションをローンで購入した場合、銀行は抵当権を付けるのが普通です。 要は担保でして、万が一、ローンの返済が滞って返済不可になった場合はその部屋を売却してローンの残債に充てることが出来ます。 仮想通貨は詳しくは存
アメリカには借金が返せなくなった人の代わりに肩代わりする連帯保証人という制度はない。 自分の知る限り日本独自の慣習のようで、生粋のアメリカ人のコナーズ教授が良く知っているなと逆に感心した。「借金を肩代わりして下さるなら、そうですね。 ハロッズを一棟丸ご
「ローン返済中に遠藤先生に万が一のことが有ったり、三大疾病(しっぺい)に罹ってしまったりした場合には保険の契約形態にも因りますが、それ以降のローンは保険が利いて支払いは免除されます。 つまりそのマンションは相続される方(かたの財産になるということになります。
クロテッドクリームの油分が付いた薄い唇がより艶めきを放っている。 その唇が瑞々しい花のように大輪の笑みを浮かべている、華やかに。「美味しいですよね」 最愛の人と笑い合って同じ物を食べる時は常に最高の味だけれども、手術の達成感のせいかより一層美味だ。「ク
「ローンを完済した時には私の固定資産になって、その後の収益はまるまる手に残るという話でしたが?」 最愛の人は切れ長の目に澄んだ光を宿して遠藤先生と祐樹を交互に見ている。 祐樹も最愛の人をずっと見ているので視線が絡まるのは心が弾む出来事だ。 教授執務室に来
支配人が何だか探るような視線を向けているのは気のせいだろうか? 不審者を見る警察官のような眼差しのような気がする。尤もそんな場面はテレビの中だけでしか知らないのだけれども。 嘘を吐(つ)くという心に疚しいことをしているせいで疑心暗鬼を生じているだけだと信
「はい、それでお願いします。 ところで空腹ではありませんか?ルイス君から分けて貰ったスコーンはとても美味でした。 そして、食べ方も私達とは異なるようで……。 本場だからかそれともオックスフォード大学独自なのかは生憎存じませんが?」 最愛の人は切れ長の目を
祐樹を魅了してやまない端整で理知的な顔が曇っている。 もし仮に二人きりでこんな表情を浮かべられたら、あたふたと原因を探すだろう。そして大輪の花のような笑みを浮かべて貰うために何だってする。 祐樹は最初こそ彼の見た目に強く惹かれていたが、付き合いが長くな
最愛の人は白く長い指で繊細なロイヤルコペンハーゲンのコーヒーカップを持っているだけで絵になる。白と濃いブルーの模様がしなやかな指を精緻に彩ってくれているので。「済みません、説明不足でしたね」 コーヒーの湯気が頬を薄紅色に染めていくような気がした。 遠藤
その手が有ったかと刮目してしまった。 特に舞妓さんや芸子さんの料金、確か「花代(はなだい)」と言ったような気がするが定かではない。 ともかく彼女達を呼ぶには莫大なお金が掛かりそうで、あの時はチームとして機能するようにと必死にテンションを上げていて、その場
「医学部生は国際公開手術のスタッフとして動員されていたみたいです。正装でもあるアカデミックガウン着用という命令が出ていたみたいですね。 そう言えばオックスフォード大学に格別の思い入れがある黒木准教授に手術成功の報と共にアカデミックガウン姿のルイス君と撮っ
ただ、彼女の部屋で同棲を始めて引っ越していって家賃を浮かそうとした人がいたり、極端な例では生きた化石のようなマルクス主義を標榜する共産党員にいつの間にか傾倒してしまって共産党員と共同生活をするために部屋を引き払ったりしたと聞いた、あくまでもウワサだった
「なるほど……。景気があまり宜しくない日本経済を回すための外貨獲得のために頑張って耐えたということなのですね。 レセプション会場で協会長などに顔を売るために森技官は鋼(はがね)の精神力で耐えたというわけですか……。そして手術が終わって気が抜けてトイレに駆け
「教授執務室に参りましょう。長くお待たせするのは失礼ですから。 その封筒やパンフレットなど参考になりそうなモノは全て持って行かれることを強くお勧めします」 いくら手技がイマイチだと言ってもそれは香川外科に所属しているからで、公立病院なら執刀医になれるポテ
「……実はそう思った。『仮にバカと言われたら』という前提条件が付いていたので……」 雪はもう直ぐ止みそうな感じだった。ただ二人して藁(わら)に包(くる)まって雪を見ているだけで愛の交歓の後とは異なった種類の親密さのようなモノが温かい体温としなやかな肢体と密着
エレベーターではなく敢えて階段を使ってLINEを送った。「相談したいことが有りますので執務室に行っても大丈夫ですか」と。「五分待って欲しい」既読マークが付くと即座に返信が来た。 以前は祐樹に送るメールやメッセージはどれだけ素っ気ない文面であっても熟考した後
「田中先生と香川教授は桜木先生とはお親しいのでしょう?お二人からも説得なさってはいかがかしら?岩松のオファーはもちろんそれなり、いえ破格の金額を提示すると思います。 しかし、長年教授の黒子役(くろこやく)として手術をこなしていらっしゃったわけですよね?ウチ
「……その小説では徳川家康も関ケ原で戦死して影武者が入れ替わったという説も盛り込まれていて、その影武者も所謂(いわゆる)士農工商の身分から離れた人間だったので、同じ身分だった吉原遊郭の創設者への御免状(きょかしょう)に『我が同胞』という一文を入れたという設定
祐樹の吐(つ)いた嘘はグレーゾーンなような気がする。最愛の人の「寸志」代わりに桂離宮や大宮御所を使用する許可が出たのだから。 もうこうなったら王族は祖国で何か重大なことが起こったことにして急遽来日を取り止め、代わりにかねてから興味を持っていた最愛の人が見
「多分ご想像の通りかと思います。彼と付き合って行くうちに徐々に心を開いて下さったので。 いえ、彼だけではなくて私も今までのような割と投げやりな性格から前向きに医療に取り組もうと思えるようになりました。仮に、本当に仮定の話ですけれど彼が帰国して私と共に人生
届きました💖ずっと読んでくださるばかりか、「ホワイトデー狂想曲」で祐樹が貰ったと思しきGODIVAのチョコまで頂いてSさま、本当に有難う御座います!!このお返しは気に入ってもらえるような小説書きます!!そして画像をたくさん頂いたM様。『離宮デートで日本庭園の画像
アニメの真似も――アニメを全く知らない人が見たら余計怪しい――最愛の人が望むなら是非したいけれど、愛車と納屋で良い感じに人目を避けてくれている。 ただ、野外で男が二人藁に包まっているという状況は通りすがりの人が居たら「どうかしたか?」的な声を掛けられる
「そうなのです!!観光名所としてのお寺は限られていますよね?」 祐樹も神社は――何しろ時間が来れば門が閉まるお寺と異なってほとんどの神社は24時間出入り可能な穴場スポットだ――行くけれども、そして最愛の人と見事な桜吹雪のみが藤の花に散っているお花見ランチ
長岡先生は金銭感覚が祐樹とは三桁(けた)くらい異なるし、医師としての矜持は持ち合わせているけれども無駄に高かったり根拠がなかったりするプライドは持っていない。 そういう点からも附属病院は避けたのだろう。「ただ、その率直な意見を申し上げた後に見たことのない
「キリスト教の神様は私達のような人間が大嫌いでしたよね。ま、今ではゲイだとカムアウトする聖職者の方もいらっしゃったり、同性婚の式を挙げてくれる教会があったりしますけれど。 聖書には同性愛と獣姦は絶対に駄目だとも書いてありますよね?」 聖書やキリスト教の教
「代々京都に住む人間ならば『白(しろ)足袋族(たびぞく)には逆らうな』という言い伝えが脈々と言い伝えられています」 手術以外の時にこんなに真剣な表情を浮かべたことが有ったか?と思うほどの鬼気(きき)迫(せま)る久米先生の顔に圧倒された。 シロタビ族?多分「族」の
「卓越した手技を持つ外科医として、また尊敬出来る上司としての教授は出会った時から変わりませんけれども、私生活では何だか感情のどこかが欠落した感じで……少し危なっかしいなと密かに案じておりましたの。 それが田中先生と出会って、そして一緒に暮らしていらっしゃ
「そういえば、大根を買いましたよね?鬼退治のマンガの登場人物の一人が好きな料理が『鮭大根』だそうです。どんな味だか食べてみたいのですけれども……」 物凄く食べたいというわけではなくて会話のキャッチボールという側面の方が大きい。「ああ、『生殺与奪の権を他人
医局のドアをスライドさせて部屋を見回そうとする前に久米先生が飼い犬――しかも飼い主が可愛がって欲しがるままに餌(えさ)を上げてしまって可愛いと言われるよりも「貫禄の有る」とか言われそうな――のように走り寄って来た。「田中先生お疲れ様です。その感じだと特に
「え?香川教授の欲しがっていらっしゃる物ですか?」 確認するかのような鸚鵡返(おうむがえ)しの返答だったけれども、淡いピンク色の口紅をつけた唇が可笑しそうな笑みを浮かべている。 「患者さんと冗談を交わして大笑いさせる」という点では医局一の座を不動のモノにし
「……学生時代にキャンパスで祐樹に一目惚れしたのは話したことがあるだろう?」 しばらくは二人が踏みしめる雪の音だけが聞こえていた。その後に薄紅色の唇が白い息と共に言葉を紡いだ。「はい。それは伺っています。というか、今思えば、同じ専攻なのに、どうして声を掛
患者さんとして扱われるのが嫌いなタイプが一定数いらっしゃるのは経験上知っていたし、山科さんはそのタイプだろうと判断したので頼んでみた。「この土日ですか。分かりました、さっそく秘書に手配させましょう。いらしたことを完全秘匿ということで宜しいのですよね?」
「ああ!それは有りますわね。昨日はヒマラヤを持って行きましたの。お恥ずかしながら30の物なのですけれども……」 最高峰と言われるバックなのは知っていたけれどもどこが「恥ずかしい」のか分からない。 祐樹などの感覚ではそういう物凄く高いバッグを京都市指定ゴミ
傘を少し上げた最愛の人は薄紅の頬と唇がモノクロームの世界に一際鮮やかな花の趣きだった。「祐樹がそう言ってくれるから頑張れる……。 しかし、やはりスキーをするのは停年後……いや、外科医として現役を退いてからになるな……。斎藤病院長が骨折しても秘書以外誰も