「ローンを完済した時には私の固定資産になって、その後の収益はまるまる手に残るという話でしたが?」 最愛の人は切れ長の目に澄んだ光を宿して遠藤先生と祐樹を交互に見ている。 祐樹も最愛の人をずっと見ているので視線が絡まるのは心が弾む出来事だ。 教授執務室に来
創作BL小説を書いています。 ヤフーブログから引っ越して参りました。
ヤフーブログ終了でライブドア様に引越しました。今日の夜中更新分からはこちらがメインです!
「呼んで下さって有難うございます。今日は和風フレンチですか?とても美味しそうですね」 透明な笑みを浮かべて祐樹の方へ向かって来る足取りが軽やかだった。「白河教授と桜木先生に先ほどお会いしましたよ。 医局運営のことで何かアドバイスなさったとか」 牛
無いとは思ったがそれにしては迷いのない足取りだった。「祐樹がシャワーを浴びている時にスマホでここの施設一覧を調べていた。 祐樹が最も休める場所を色々考えて」 デート自体はいつも楽しそうに応じてくれている最愛の人だったけれども、全て祐樹にお任せとい
「田中先生、お元気そうで何よりです。もう、香川教授や田中先生の家の方角には足を向けて寝られません。本当にお世話になっていますし、先の事件では……」 白河教授が平身低頭といった感じで祐樹に挨拶してきた。脳外科の狂気の研修医が仕出かした「夏」の事件のことに
「いや、それが……牛の革よりもワニの革の方が水に弱いらしい」 え!?と思った。「水に濡れたらどうなるのですか?」 ワニ革の製品には全く関心がないので全然知らない。「バッグの表面に、俗に言う水ぶくれ状態の物が出来たらしいな……。しかも直径15センチ
「よ、田中先生。執刀見ているぜ。香川教授とは全く違ってはいるが……、豪快というか天衣無縫というか、とにかく見ていて飽きないな。また時間が空いたら見に行く価値は充分有る見事な手技だ」 (教授執務階でエレベーターが停まっているよな……?)思わず階数表示を確
「もちろん……。祐樹……大丈夫なのか?」 半ば心配そうに、半ばは職業柄か体調を確かめるような眼差しを向けている最愛の人に無理をして微笑んだ。「大丈夫ですけれど、少し休憩を……。それにあそこのSA(サービスエリア)にはシャワールームが有ると書いていますの
録音アプリをタップして再生してみた。さて吉と出るか凶と出るかの博打(ばくち)打ちの心境だった。 彼らは多分お金のためだろうが、祐樹の場合は森技官への兵器として使用する。今の祐樹にとってお金よりも大切なモノだ。「ウチの~」とスマホから流れて来た音声はハ
「着いてからのお楽しみということで……。お菓子たくさん買って来られたのでしょう?自由に召し上がって下さいね」 後部座席に置いたカバンを取ろうとしてしなやかな肢体が優雅に動いた。その鮮烈な、そして硬質な色香に見惚れそうになって慌てて前を向いた。 人間の
「そんな願望、いや妄想かも知れないですが久米先生!それを脳外科のアクアマリン姫に言っても良いですか?」 久米先生も救急救命に派遣されている、最愛の人が選んだ将来有望な外科医の一人だ。 ただ、搬送がない凪(なぎ)の時間にポテトチップスやコーラといったモノ
「運転していると職務とは別の緊張感を味わえますので、大丈夫ですよ」 去年に約束していたにも関わらず、狂気の研修医が引き起こしたとんでもない事件のせいで中止にせざるを得なかったイベントだけに絶対に連れていきたい。 気持ちの問題だろうが、あの事件の厄落としも
「ドラマでチョーじゃなくてですね、とても人気の出た職業って目指す学生が多くなるんですよ」 久米先生の屈託のない声が医局の中に響いている。他の医局員達は「また久米先生のどうでも良い話が始まった」とでも言わんばかりに、敬愛する教授に会釈をしてはPCに向かった
「良かったですよ……いつも以上に……。愛しています」 額に貼りついた前髪を手で梳いたり、紅に染まった唇だけではなくて涙の雫を纏った睫毛にキスの雨を降らせたりしながらそう告げた。 繋がりこそ解いてはいたものの、最愛の人は愛の交歓の名残を惜しむかのように
「いやぁ、てっきり森技官の目的は愛する呉先生の精神科への復帰かと思っていたのですが、違ったのですね」 森技官の眼差しが更に冷たくなった。「バカなのですか?」と雄弁な眼差し。なまじ整っているだけに余計怖い。 そんな様子をハラハラした感じで見ている最愛の
「ゆ……祐樹っ……、悦いっ……。祐樹も、私と同じで気持ち……悦い……か?」 白いシーツの上で紅に染まった最愛の人が艶やかな声を切れ切れに上げている。腰は高く掲げられて両脚は祐樹の腰に回した交わりの形だった。繋がった部分から淫らな音を二人して奏でている。
「改めまして、香川教授、田中先生こんにちは。お元気そうで何よりです。」 森技官が親しげな笑みを浮かべて挨拶した。 最愛の人は笑みを浮かべて一礼をしている。話すのは祐樹に任せたということだろう。 そう言えば斎藤病院長は森技官に二人を紹介しなかったなと
最愛の人の弱い場所を的確に、しかし弱い力で指を動かす。彼は強くされるのを好むので焦らして、いや彼の花のような唇と艶っぽい声で「寝室に行こう」と紡いで欲しかったので。 祐樹の指の動きに紅を刷いたようなしなやかな肢体がヒクリと反っていく。それに吐息も紅く
「精神科ですか……。確かに不定愁訴外来の医師から上がってくる、患者さんの不満度は高いですね。 ただし、病気が病気ですので、些細なことで不満を爆発させたり被害妄想だったりする可能性が高い科なのでそう問題視はしていなかったのですが……。 ちなみに要指導が
最愛の人が驚いたような光を瞳に宿して祐樹を再び見つめてきたのは、きっかり五分後だった。 それまでは舌を色々な角度や範囲で動かしていたのを祐樹の目でも指先に伝わってくる振動で感じていた。 最愛の人の真面目さからなのか、専門は異なるとはいえ職業的な熱心
「香川教授、そして田中先生お疲れ様。スケジュール通りこの後私の部屋に来て下さい」 入学式がつつがなく――まあ、入学式という儀式はドラマで観た覚えのある、赤字決算・無配当転落の株主総会のように反対意見が出る類いのものではないので当たり前だが―― 終わると
長期に亘ってブログ更新していなかったので以前から登録していた「日本ブログ村」さまと「人気ブログランキング」さま経由での読者様が多かったこともあり、再開を知って下さる読者様がいらっしゃるかな?程度の軽い気持ちでリンク貼っていました。予想外にも「人気ブログラ
「この大きさで充分でしょう」 黒文字楊枝で割と大ぶりなのを選び出した。 不思議そうな色を帯びた最愛の人の瞳が、無垢な子供のような感じで揺らいでいる。何となくだが、教師の言うコトが全く理解出来ない児童はきっとこんな風だろうなと思ってしまった。 ただ、
どう切り出そうかと楽しく思案を巡らせる、あくまでも誠実かつ真摯な笑みを浮かべながら。 下ネタが嫌いというか、祐樹が知る中でも最も優れた頭脳の持ち主の最愛の人の頭の中に「下ネタ」という概念すらないようだし、インターネットがこれだけ普及しているのに「そっ
エルメスは単に店舗を回って色々と選ぶのが面倒だということと、「大学教授」として患者さんから病院長までが認めてくれるという理由だけで、ファッション面に潔いほどの無頓着だということを知る人間は祐樹を除くとアメリカ時代からの付き合いの長岡先生しか知らないだろ
空白の二年間……。「鬼滅」とか「憂国のモリアーティ」とか「呪術」とか
母の緊急入院と突然の死で、本当に色々なことが一挙に訪れまして……。もうもう、心が折れる一歩手前を何度も味わいました。ただ、あまりネガティブなことは書きたくないので端折りますが。一番親しいリア友(大学時代からの親友)に「よくお墓のこと、スパッと整理出来たね
「山側のホテルは祐樹と一緒に布引ハーブ園に行った時に通り過ぎたホテルだろう? あの時のことを思い出させてくれるので……」 赤い唐辛子――と言っても、全く辛くなくてむしろ甘みの強い京野菜で、二人が行きつけの中々予約の取れないことでも有名なカウンター割烹
「問題ですか……?具体的には?」 わらび餅を作る手を休めることが出来ないのが残念だった。ただ、最愛の人の表情に僅かでも陰りがあったら即座に火を止めて聞くつもりだったけれど、楽しげに煌めいている瞳や綺麗な笑みを刻む唇に深刻さは微塵もないので、力仕事を続行
「祐樹が救急救命の仕事で夜居ない時があるだろう?そういう時にテレビをザッピングしていて料理番組で作り方を教えてくれていて、ゲストの食べる人が――どうやら甘いモノが苦手な俳優として有名な人らしい――『甘くなくてとても美味しい』と絶賛していて、祐樹も甘いモノ
長い期間休止して申し訳ありませんでした。お詫びと今後について
ツイッターの方では呟いていたのですが、ただ読者様がどの程度ツイッターフォローしてくださっているか(0人という可能性も 泣 宜しければ無言フォローお願いします!!)分からないのでお詫びとその理由を書いておこうと思いまして。二年前に相次いで実の両親が亡くなり
「相変わらずとても美味しいコーヒーですね」 香ばしい湯気の向こうに不定愁訴外来の野に咲くスミレの風情の呉先生の顔が揺らいで見えた。 彼は華奢な肩を竦めて少し皮肉な笑いを浮かべている。出会った頃にはこういう表情を浮かべなかった人だったが恋人の冷笑癖が知
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「ローンを完済した時には私の固定資産になって、その後の収益はまるまる手に残るという話でしたが?」 最愛の人は切れ長の目に澄んだ光を宿して遠藤先生と祐樹を交互に見ている。 祐樹も最愛の人をずっと見ているので視線が絡まるのは心が弾む出来事だ。 教授執務室に来
支配人が何だか探るような視線を向けているのは気のせいだろうか? 不審者を見る警察官のような眼差しのような気がする。尤もそんな場面はテレビの中だけでしか知らないのだけれども。 嘘を吐(つ)くという心に疚しいことをしているせいで疑心暗鬼を生じているだけだと信
「はい、それでお願いします。 ところで空腹ではありませんか?ルイス君から分けて貰ったスコーンはとても美味でした。 そして、食べ方も私達とは異なるようで……。 本場だからかそれともオックスフォード大学独自なのかは生憎存じませんが?」 最愛の人は切れ長の目を
祐樹を魅了してやまない端整で理知的な顔が曇っている。 もし仮に二人きりでこんな表情を浮かべられたら、あたふたと原因を探すだろう。そして大輪の花のような笑みを浮かべて貰うために何だってする。 祐樹は最初こそ彼の見た目に強く惹かれていたが、付き合いが長くな
最愛の人は白く長い指で繊細なロイヤルコペンハーゲンのコーヒーカップを持っているだけで絵になる。白と濃いブルーの模様がしなやかな指を精緻に彩ってくれているので。「済みません、説明不足でしたね」 コーヒーの湯気が頬を薄紅色に染めていくような気がした。 遠藤
その手が有ったかと刮目してしまった。 特に舞妓さんや芸子さんの料金、確か「花代(はなだい)」と言ったような気がするが定かではない。 ともかく彼女達を呼ぶには莫大なお金が掛かりそうで、あの時はチームとして機能するようにと必死にテンションを上げていて、その場
「医学部生は国際公開手術のスタッフとして動員されていたみたいです。正装でもあるアカデミックガウン着用という命令が出ていたみたいですね。 そう言えばオックスフォード大学に格別の思い入れがある黒木准教授に手術成功の報と共にアカデミックガウン姿のルイス君と撮っ
ただ、彼女の部屋で同棲を始めて引っ越していって家賃を浮かそうとした人がいたり、極端な例では生きた化石のようなマルクス主義を標榜する共産党員にいつの間にか傾倒してしまって共産党員と共同生活をするために部屋を引き払ったりしたと聞いた、あくまでもウワサだった
「なるほど……。景気があまり宜しくない日本経済を回すための外貨獲得のために頑張って耐えたということなのですね。 レセプション会場で協会長などに顔を売るために森技官は鋼(はがね)の精神力で耐えたというわけですか……。そして手術が終わって気が抜けてトイレに駆け
「教授執務室に参りましょう。長くお待たせするのは失礼ですから。 その封筒やパンフレットなど参考になりそうなモノは全て持って行かれることを強くお勧めします」 いくら手技がイマイチだと言ってもそれは香川外科に所属しているからで、公立病院なら執刀医になれるポテ
「億単位の大きな買い物は営業マンの言い分だけではなくてセカンドオピニオンを受けてみられては如何でしょうか? 尤も私にとって億単位のお金を動かすなどということは、Ai(死亡時画像診断)センターのMRIなどしか縁がないのですが、相(あい)見積(みつ)もりを取るよう
今は祐樹も外科医として至高とまでは行かないがそこそこのレベルには達している。いるのだけれども医局のムードメーカーとして振る舞うように心掛けているし、香川外科では一介の医局員に過ぎないので声は掛けやすい。 医局員が後日問題になりそうな言動をした場合は厳然
「なるほど、良く分かりました。河川敷とか堤防は確かに景観を損ないますよね。 ビックベンと国会議事堂のごく近くまで川が流れているのには驚きましたが……」 嘘を見抜かれていないことに安堵した。 普段の祐樹だったら気付くだろうことを、術者に選ばれてからスルーし
遠藤先生とは業務連絡と当たり障りのない世間話をするだけの祐樹だけれども、香川外科の一員だ。 それに最愛の人も業務以外の相談も歓迎すると言っていた。祐樹がそれほどの知識を持っていながら勿体ないとアドバイスをしたことが切っ掛けで。 遠藤先生の手技は香川外科
「私も貴方の隣に座っている森技官は緊張の余り幻覚でも見たのかと思いましたよ。 といっても貴方の幻覚なら大歓迎ですけれども、森技官が出て来るとはまさに『心外』といった感じですけれどね。 しかし、あの場に居たのは驚愕でした。手術に集中しないといけないのでチラ
「香川と一緒に吞んでいた時に資産運用の具体例とか、投資用のマンション購入はよくよく考えた方(ほう)が良いとか言っていたような気がするのだが、あいにく酔っぱらっていたので良く覚えていない……」 頭を掻いて恥ずかしそうな表情を浮かべている。 最愛の人と柏木先生
祐樹はより一層輝く笑みを浮かべて真っ直ぐに自分を見てくれている、とても優しい眼差しで。 それだけでこのホテルに来て良かったとしみじみと思った。「このホテルの規約上、どうなっているか良く分からないのですが……、今夜一晩貴方が一緒に居て下さる方(ほう)が私も
「田中先生、お疲れ様。病棟の患者さんについて俺に報告すべきことはなかったか?」 医局に戻った祐樹に医局長の柏木先生がのんびりとした声を掛けてくる。 夜勤・宿直や救急救命室に行く医師達も居るが、一日の仕事を終えたという弛緩した空気が漂っている。「特にないで
「このままキスを続けたいのは山々なのですが、次のステップに移りたくなってしまいます。 生憎、呉先生と森技官もいずれは来るでしょうし。 続きはレセプションが終わってからの最高の私のご褒美として取っておきます、ね?」 昨夜リッツホテルで最愛の人と二人きりにな
ただ、祐樹が嬉しそうな、そして太陽の輝きにも似た笑みを浮かべているのを見て心の底から安堵した。 そして太陽に照らされて咲く花のように笑みを浮かべてしまう、祐樹の笑みにつられたように。「いえ、絶対ロンドンにはいらっしゃれないものだと諦めていた……。いえ最
ただ、鬼の情緒というか気持ちには恋愛感情も含まれているのだろうか?主人公が最初に対峙した強い鬼は家族愛に飢えていた。それに遊郭に居た鬼の妹はどうやら鬼のボスに対して特別な感情を抱いていた感じで描かれていたし、懐いた感じで寄り添っていた記憶がある。 ただ
山科さんと目の高さが同じになるように腰を屈めて真摯な笑みを浮かべた。「以前は心臓の手術というだけで命が危険だという固定観念が有りましたけれども、息子さん世代の場合はインターネットでも情報が入手出来ますし、それに何よりウチの香川の素晴らしいとしか言いよう
「あら、田中先生。昨日はLINEをわざわざ有難うございます」 午後の手術(オペ)の執刀を無事に済ませて医局へと戻るべく廊下を歩いていると長岡先生からそう挨拶された。LINE……ああ、そう言えば森技官からスタッフさんの機嫌を取れというミッションを受けて長岡先生を紹介
祐樹はしていないがSNSだと「同好の士」が集まって話す機会がたくさんあるらしい。 小林さんも祐樹同様にそういうネットの使い方はしていないようだった。だからこの時とばかりに話して来るのだろう。 中間管理職は部下からも上からも色々言って来て大変だという程度
「病棟に行って来ますね」 医局のスライドドアを開きながら医局長の柏木先生に届くように声を張り上げた。手術(オペ)も無事に終了した医局には小さな達成感という感じの空気が流れている。 といっても祐樹は午後の手術は最愛の人の第一助手だった。ただ執刀医も務めている
このマンションはファミリー向けの物件だ。 彼は祐樹に振られる前提で帰国していたと後から知った。このマンションは帰国前の引継ぎなどで多忙を極めていたせいで長岡先生に任せていたら「手頃な広さ」と言われて契約したらしい。 まあ、家の値段ですか?と突っ込みたく
いつも読みに来て下さって有難うございます!!先程、操作をミスってしまいまして明日未明(1時半)に予約投稿しようとした記事がうっかり「公開」になってしまいました。LINEで通知が行った読者様やにほんブログ村・人気ブログランキングの新着にも載ってしまった(現
「大丈夫ですか?」 知らない人が声を掛けて彼に傘を差しだしてくれた。「有難うございます。うっかり凍結した場所を踏んでしまったようですがもう大丈夫です。ご心配とご迷惑をお掛けして申し訳ないです」 親切な人と最愛の人に向かってそれぞれに頭を下げた。「あのう、
「ああ、そう言えば患者さんに山科さんっていらっしゃいましたよね、私が主治医の。あの人は京都でかなりの影響力を持つ人らしいです。久米先生が『患者さんでなければ、畏れ多くて話も出来ないほど偉い人』と教えてくれました」 至って普通の人という感じの患者さんだった
「祐樹、お帰り」 静謐で暖かな部屋に最愛の人の明晰な声が闇に溶け込んでいくように小さく響いた。「祐樹が帰宅する午前三時頃には自然と起きてしまう」と言っていた人はやはり目覚めていてくれていた。そういう細かな心遣いもとても愛おしい。眠って体力を回復して欲しい
「私が出来ることなら喜んで祐樹のお願いは聞くが? それはそうと、祐樹は車を持っているという点を病院では内緒にしているのではなかったか?」 最愛の人が降りしきる雪の中で春の陽射しのような笑みを浮かべている。 以前の彼は直球勝負というか全く嘘が吐(つ)けない人
「私は不調法なので茶道を嗜んでいないのですけれど……」 最愛の人も高校時代までは経済的に恵まれていなかったと聞いている。 全国模試の結果は――本人が匿名を希望しない限り――受験者に配布されて、上位の人間の名前と高校名は載るというシステムだ。祐樹も別に匿名
今年のホワイトデーは平日なので、直近の土日に大阪のホテルを予約しよう。 豪華客船の映画を二人で観に行った時に交わした会話を思い出した。ソファーだか寝(カ)椅子(ウチ)だかに横たわってヌードの絵を描かせたヒロインのことを肯定的に言及していた最愛の人なので、ヌ
「祐樹、この見事な岩と雪が降りしきる様子を画像に撮って内田教授や浜田教授にも是非見せたいのだが……?」 最愛の人がいかにも重大なことを相談するといった風情で聞いてきた。ちなみに主人公の羽織(はおり)を着た青年は――ただ、アニメではこの岩を斬った段階で隊士で
「わぁ……。桜の木が見えないのに、こんなに桜の花びらが舞い散っていて……。しかも藤の花の紫との調和が……。何だか夢のような景色だな……。着物の模様みたいでとても綺麗だ……」 二個目の「おかか」つまり鰹節(かつおぶし)のおにぎりを唇に運びかけている状態で手を
「あれ?支払ってくれるのか?なんかさ、田中先生にそんなにたかって良いのかな?とは思っていたんだけど……」 ケーキを奢ると言ったのは紛れもなく祐樹だ。だから自分の発言には責任を持ちたい。「いえ、ここは私が支払い……」 嵩張る紙袋を二つ取り出そうとした分、身
降りしきる雪が割れた岩に幻想的かつ荘厳なイメージを付け加えている。 鬼退治のアニメでは一年中藤の花が狂い咲くという山に――そんな山が本当に有るのかどうか祐樹は知らないし、多分ないだろうなとも思う――弱い鬼がたくさん生け捕りにされて閉じ込められているとい
祐樹が最も気に入っているコンビニのロゴが付いたポリ袋に目を留めた人が満面の笑みを浮かべている。 この神社はこんなに人が来ないのに、経営(?)が成り立っているのが不思議なくらいだ。祐樹にとっては、人が居ない点が気に入っているのだけれども。最愛の人の細い髪
「そうか。だったらピザを取らないか?『ピザーラスタイル』のさ『チーズ&ハニー』が食べたいな……」 祐樹はそのピザを食べたことはない。ないけれども、医局の細やかな催し物の際(さい)にダイエット中にも関わらず久米先生がオーダーしていた。 チーズがドバっと掛かっ
ちなみに羽織を着た若者は岩の近くで自撮りをしている。SNSにでも投稿するのだろう。 そういうコアなファンのコミュニティが有ることを小児科の浜田教授から聞いた覚えがある。その他の観光客は社会現象とまで評されたように年齢はまちまちだった。 これならば成年男