「似たような物件は二億五千万円で購入出来るようですよ?この物件とか、後はこちらとか……」 黒いマウスに載せた白く長い指が動く仕草は祐樹の視線の吸引力を根こそぎ持って行ってしまう魅惑に溢れていた。 しかし、遠藤先生が三億五千万円という祐樹にとっては天文学的
創作BL小説を書いています。 ヤフーブログから引っ越して参りました。
ヤフーブログ終了でライブドア様に引越しました。今日の夜中更新分からはこちらがメインです!
「幸いなことにお弁当も届いていないので、プレ逢瀬は充分可能だ。 現地集合だろうな?それとも一緒にランチのお店まで行くのか?取り敢えず返事を待っている」「プレ逢瀬であっても、世界で一番愛している祐樹と食事が出来るのは天から降って来たご褒美のようでとても嬉し
「うん、幸樹が俺を振る時って、絶対に俺が悪いコトをしちゃった時だけだと思うし、それにさ、そんな画像とか写真なんかバラまいても自分が虚しくなるだけだよね。恋人でいて楽しい思い出とかいっぱいある人が仮に心変わりをしてもさ、それはそれで仕方ないと思うし、恨みを
「それは分かったよ。引き受けたからにはキチンとする。 今も、聴衆を惹きつける選挙カーの上での話し方を勉強しようしてさ、映画を参考にしようとしていて……。 どうせなら二人で観たいんで、そのために駄菓子とか飲み物とかを買いに来ている途中なんだ。 取り敢えず委
「丑の刻参りって白装束の浴衣みたいなモノを着て、人知れず五寸釘を打ちにいくという呪いですよね。 今も釘が打ち込まれているようですよ? 昔の人間なら帯を結ぶことは私達がネクタイを締める程度の常識だったでしょうから解けたら多分自分で何とかしたとは思いますが…
「もちろん聞きたいですが、鈴木警部がお話したいような感じでさきほどからドアの前を行ったり来たりなさっています。 もう、谷崎君はK戸大学病院に運ばれたんですよね? 正式な逮捕じゃなくて参考人としての身柄拘束有難うございました。 警察の能力を疑うわけではないの
「やっと思い出した!!厚労省のリストに載っていた人物だ!! といっても写真だけだったし、アマゾンから直接帰ってきたばかりとかで日に焼けていたし、髪やヒゲ、そして全体的に引き締まっている感じの体だったので印象がまるっきり異なっていたので今まで思い出さなかっ
詳しくは聞いていないが、彼の話を断片的につなぎ合わせると物凄く大人しい子供だったみたいだし、お母さまは毎日の生活に追われて疲労困憊して病に倒れたという感じだった。 それに今の最愛の人のレベルならばどうかは分からないが、お母さまの心臓病は当時,手術不可能な
「やっと思い出した!!厚労省のリストに載っていた人物だ!! といっても写真だけだったし、アマゾンから直接帰ってきたばかりとかで日に焼けていたし、髪やヒゲ、そして全体的に引き締まっている感じの体だったので印象がまるっきり異なっていたので今まで思い出さなかっ
「すカっとライン」も突っ込みどころ満載のYouTube動画だったが、久米先生もその動画の見過ぎで影響を受けたのでないのかと本気で思ってしまった、もちろん悪い意味で。「馬と鹿」の歌詞をツイ連想してしまう。まあ、あの歌詞も秀逸で何故ああいう曲名にしたのかが
「――はい。上野教授のデータを精査してくださるそうです。 何か出てくればと願ってやみませんが……。 龍崎さんは、有吉さんの遺書とか谷崎君の言動が……言葉は悪いかもしれないですが攻撃的で、それ以前に『自殺』した人とは違うこと。 そして、有吉さん・谷崎君は
「幸樹君、自分を責めることはないよ。池上君も幸樹君もいわばコップ、いや金魚鉢の大きさかも知れないがね。そのガラスの中に入って必死に嵐というか、事件に対処しているだろう?つまりは当事者に近い立場で、私はその金魚鉢を外から眺めているのだから着眼点も自ずと異な
『今日のランチなのですが、執務室に患者さんからのお弁当などが届いていなければ、ご一緒しませんか? 取って置きのお店を教えて貰ったので、仮予約しておきますね。ダメならキャンセル出来ますのでその点はご遠慮』「ってタップミスで送ってしまいましたよ。いきなり甲高
『お骨って何個にでも分けられるのよ。分骨って言ってね……。 それはまあ良いとして、聡さんに煩い親戚が居ないようだったら、田中家のお墓に入ってもらうっていうのはどうかしらと思いついてね。 それで電話したのだけれども……』 祐樹も絶対に結婚はしない積りだった
「ああ、西野警視正から聞いているよ。私は龍崎俊介で階級は警視監だ。 幸樹君とは良いコンビだそうだね……。 お互いがお互いを補っているという感じだと聞いている」 え?警視監って幸樹のお父様もその階級じゃなかったっけ? お年賀に行くくらいだから部下というか格
「祐樹は短冊に書く願い事は決めたのか?」 宝石のように煌めく――確かゼリーか何かでコーティングしてあったハズだ――イチゴを薄紅色の唇にいそいそと運びながら最愛の人が聞いて来た。「決めたのですが、文字数が多くて短冊に書き切れないなと思って思案中です。 こん
「ずっと付き合って結婚に至ったカップルでも『初夜』は厳粛な気持ちで迎えるものだとどこかで読んだ覚えが有りますが、聡もそうですか?」 しなやかな身体を強く抱いて、キスの雨を降らせながら聞いてみた。 祐樹も一応はグレイスに常連として通っていたので、ゲイのコミ
意外という表現は少し違うというか、祐樹の番号に掛かってくることは殆どない母からの着信だった。 祐樹が仕事で不在の時に最愛の人のマンションの固定電話にはちょくちょく掛けてきては色々な話をしているのは聞いていたし、最愛の人も祐樹の母のことを物凄く大切に思っ
「そして、まずは谷崎容疑者――いや、逮捕前だから参考人だな、正確には。 K戸大学附属病院に警察病院の医師を派遣させることにする。 実は警察官には精神を病む人間が多くてね。なまじの精神科医よりも――と言ってもK戸大学病院の先生達が頼りないとかではない」 幸樹
「その映画、私も観たいな……。ちなみにリビングのテレビでもPCの画面は映るので、そちらで一緒に鑑賞しないか?」 いつの間にそういうふうにしたのかなと思った。 まあ、最愛の人のほうがこの部屋にいる時間は圧倒的に長いし、家事をしながらテレビを観ていることも知っ
「私は定番のショートケーキにしようと思っている。この生クリームというよりも牛乳のさらりとした味が大好きなので。 祐樹もタバコの銘柄を替えないだろう?それと同じ性質?いや性格なのか、厳密には忘れてしまったが、一つのモノに拘る人間は恋愛でも滅多に相手を替えた
俺が耳ダンボに――これって死語なのかもしれないけど――しているのを幸樹が気付いてスピーカー機能にしてくれた。 普段の幸樹ならもっと早く気づいてくれているハズで……それがお医者さんの処方した谷崎君用の「ちゃんとした」お薬のせいだと良いんだけれど、闇に囚わ
「古式ゆかしい『初夜』――まあ、私の大学入試の時の記憶なのですっかりうろ覚えなのですが、貞操観念というか初夜で初めて身体を開くというのは江戸時代からで……しかも、武士階級程度だったらしいですね。 平安時代などは密通し放題でしたし、何も知らない姫君を侍女が
「コンビニは祐樹も良く知っていると思うが、至るところにあるだろう?コンビニの大手三社はそれぞれ有名な洋菓子店とかと期間限定でコラボレーションもしているみたいだが、杉田弁護士事務所の有る烏丸御〇とかのオフィス街にもたくさん店舗が有って――あんなたくさん有っ
「黒木准教授は、私の代わりに講義をしてくださっているのは祐樹も知っているだろう? だから久米『君』時代から当然知っていて、その時の印象だったら『演説を真面目に聞いている』グループに属するのが相応しいと思うのだが……。あの当時は学生だったこともあって取り敢
「幸樹君、……このスマホ相手に聞こえないようにしてくれるかい?」 スマホを思いっきり離した西野警視正が耳元で囁いた。 同じキャリア組とはいえ、西野警視正はN宮K警察署の署長さんで、龍崎さんはH庫県で一番偉い人なのでやっぱり遠慮というか超えられない壁が有るのだ
薔薇の花束をお祝いに選んだのは森技官だか呉先生だかは分からないが、あの二人が出会って――というか、今薔薇色の唇で焼きティラミスを食べている最愛の人の手術ミスの画像をでっち上げて呉先生に身体の関係を迫って、そしてその画像が本物かどうかを確かめにありったけ
短冊の願い事は「国際公開手術を無事に、いや誰もが称賛を送らざるを得ないほどの完璧さで成功させて、その後のパーティでは『上司・指導医』としての最愛の人と肩を並べたり、握手をしたりして拍手喝采を浴びること。そして国際公開手術の会場では共通認識というか常識に
「今日はフィナンシェにしようかな……」 最愛の人は祐樹だけに見せる妖艶な笑みではなくて、呉先生のお屋敷とか、ケーキバイキングに行った時のような無邪気な笑みを浮かべている。 食べ放題という言葉を聞くと、根っからの庶民である祐樹は「元を取る!絶対!」というナ
「あの!西野警視正……。龍崎県警本部長殿からお電話が……!!! それも、私のスマホに着信が有って『龍崎だがね』といきなり仰って……。谷崎をK戸大悪付属病院に搬送出来るようにウチの署長と掛け合った直後だったので、いささか気が立っていまして、お恥ずかしながら。
「この度は不肖の愚息がとんでもないご迷惑をお掛け致しまして、お詫びの言葉も見つかりません。 もう……なんと申し上げたら良いのか……」 「平身低頭」というよりも土下座しそうな勢いのお母さまに西野警視正が宥めるような笑みを浮かべている。 幸樹も俺もそう
「いや、多分まだだと思うが?山田君、確かめて来てくれないかい?」 西野警視正は幸樹の言葉にポンと手を打つと――多分大学病院という線は幸樹の言葉で思いついたに違いない――山田巡査に意味ありげな眼差しを送った。 The沖縄って感じの――つまりは本場のハワイにして
「ん!美味しいっ……。 普段から好きな味だが、こうして祐樹に食べさせて貰っているからより一層美味しく感じる……」 愛の交歓の後の甘く薫る肢体の上半身を起こして――ちなみに肝心な場所というか、行為の後の真珠や水晶の雫が飛び散っている素肌は最愛の人がシーツで
「そうだな……。明石教授が今度ウチの大学病院にいらした時に祐樹の手技がどれだけレベルアップしたのか見て貰って、あの先生のお眼鏡に適ったら国際公開手術の推薦状を書いて下さるだろう。全てはそこからだな……」 え?と思った。確かに斎藤病院長よりも医学界の重鎮だ
「そんなに重いのか……。下襲(したがさね)という布切れを正装の時に男性も身に着けるという話は『大鏡』だかで読んだ覚えが有るが……。座っている分には優雅だが歩くとなると大変そうだな……と高校生の時に思ったな……。 女性が50キロの服を着て歩ける、いや髪の毛
「お辛いことを思い出してしまうような質問なのですが、犯人はたまたま雄太君を、そのう……拉致した時に何か言っていませんでしたか? そして、お母様もご覧になったかもですが、犯人はあんな風に精神に異常をきたしている感じでしたか?」 西野警視正の質問の意図が正直
「ああ、久米先生からのラインです。噂をすれば……という感じですが、実際は私が送っていたのです。 久米先生は以前、映画のエキストラに参加したらしいのです。 まあ、その『貴重』なシーンはカットされて放映されなかったという悲劇的な目に遭ったらしいのですが。 ま
最愛の人が愛の交歓の時に眠り込んでしまうのは珍しい。激しかった行為が終わって後の戯れに髪の毛を梳かれてとか、シャワーで花園を綺麗に洗い流した後に祐樹の胸元にぴったりと身体とか頬を寄せて眠りに就くというのは過去に何度も有ったが。 ただ、今日の場合は出版ラ
「祐樹が作ったモノなら何でも欲しいのだが……。 障子や、ふすまが紙で出来ていることは当然知っていたが破ったことはないので、そうやって応急処置とでも言うのか?そういうこともしたことがないな……」 最愛の人が祐樹のように家の中でも身体いっぱい使って遊びまわる
「お話し中済みません。幸樹が飲んでしまったお薬は何時間で切れるのですか?」 幸樹を起こして良いモノなのだか皆目見当も付かなくて、窓際で話している西野警視正と鈴木警部の話しに失礼だとは思いつつも割り込んでしまった。「ああ、その薬は30分以内で確実に眠り込む
鈴木警部は部下の警察官に命じて。、睡眠薬で眠っている手錠を填められ山田巡査が入念に縛り上げた谷崎君の身体を四人がかりで運び出すようにと指示を下してから西野警視正の元へと近付いてくる。 敬礼も何だか恭しいのは、西野警視正がレポーター役という大任を無事果た
幸樹が谷崎君みたいになってしまったらろうしよう。犯人確保の情報を聞いて鈴木警部以下の、所轄の警察官達が一挙に押し寄せて来たが、俺には何だか遠い世界の出来事のようだった。 幸樹のことだけが頭の中をグルグルと、まるで竜巻のように回っていたので、雄太君の元気
「ああ、久米先生からのラインです。噂をすれば……という感じですが、実際は私が送っていたのです。 久米先生は以前、映画のエキストラに参加したらしいのです。 まあ、その『貴重』なシーンはカットされて放映されなかったという悲劇的な目に遭ったらしいのですが。 ま
「一応、手錠は填めておくか……。幸樹君は谷崎と違い、用量以下で眠ってしまうし、谷崎は谷崎で、用量以上を混入させたコーヒを与えたのに、今は薬の作用で眠ってはいるが、本来ならば、幸樹君と同様に、舌のもつれなどの副作用が出るハズなのにそれもなかった。また、薬が
何故、警察が要請した強力な睡眠薬を多量に摂取した谷崎君は効き目が遅くて、少量しか飲んでないハズの幸樹がダウン寸前なのを考えると、雄太君を早急に脱出させなければならない。俺や幸樹は一応、防弾チョッキを着ている――多分、援軍に入ってくれた西野警視正も山田巡
「遼、身体を低くして!そして頭を抱えるんだっ」 幸樹の怜悧な声が凜然との響いた。 俺はその言葉に手放しかけていた意識をかろうじて取り戻した。 「頭を抱えろ」ということは、首とかを露出するなってコトだろう。でも、それをダイレクトに伝えれば、谷崎君にも弱点を
「確かに揚げ物とか天ぷらとかはキッチンに油が飛び散るな……。しかし、私の場合はそれを綺麗にする作業も好きなので全く問題はない。 それにニュースなどを聞きながらなので良い気分転換にもなるし……。 家事は患者さんの命が掛かってないのでリラックスして出来るし…
「肥大したら、そうなるようですが……。といっても怪しげなゲイ雑誌なので医学的な根拠には乏しいかと……。都市伝説的に尤もらしく書かれただけかも知れませんし……。 万が一、あくまでも万が一ですが、その記事が本当だったとしても、聡の場合はこのルビーよりも紅く煌
「確かに『あみ飾り』とか提灯……なのですかね。そういう物は、永久保存版にはならないですよね。 素材が紙ですし、ぶら下げるトコロもないですから……」 祐樹の部屋には最愛の人が折った折り鶴をガラスケースの中に入れて保存してあるし、最愛の人の書斎にもお揃いのケ
「僕の名前は、池上遼って言うんだ。僕の名前は何て言うの?」 谷崎君に聞こえるようにワザと大きな声で言った。「そのような悠長な会話を致している場合ではないことを心得よ。良い日本人は煉獄に落ちた日本人のみであることを忘却したのでは有るまいな?池上は同志として
そんな言葉で言われたら――まぁ、着ているのがシャツにジーンズなのでそうでもないのだけれども、これが時代劇のお奉行様が着ている裃(かみしも)とか――土下座してしまいそうだ。ただ、谷崎君は背中の出血が酷いのかも知れない。顔色はますます青ざめていて、その上、
「先ほど、そちが申しておった人質の解放は、奸智に長けた日本人を相手にする以上いささか拙速ではないか?」 谷崎君は貧血気味で真っ青な顔なのに、目は精神に障害の有る人――といっても俺が見たのは、掛かり付け医の菊地先生のクリニックの患者さんだけで、菊地先生が「
「いや、祐樹がキチンと料理の腕前を上げていたのは電話越しに分かった上で仰ったので、本気でアドバイスする気ではないと思うのだが……」 一人暮らしの時にはそんな時間もなければ心の余裕もなかったし、食事を作って食べて後片付けをするという一連の作業をするくらいな
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「似たような物件は二億五千万円で購入出来るようですよ?この物件とか、後はこちらとか……」 黒いマウスに載せた白く長い指が動く仕草は祐樹の視線の吸引力を根こそぎ持って行ってしまう魅惑に溢れていた。 しかし、遠藤先生が三億五千万円という祐樹にとっては天文学的
「はい、拡張……、それはともかく術式は……」 具体的な説明をしようとしたら、個人的には悔しいが苦み走った整った顔にドロドロと青色の簾(すだれ)が下りていくようだった。 普段の祐樹ならもっと具体的かつ生々しく説明するところだ。 しかし、かの「一力(いちりき)亭
祐樹行きつけの、つまり救急救命室から最も近いコンビニは店員さんがバーコードだかを読み取る仕組みだった。 ちなみに、高校生まで過ごした実家だったら未だに値段を書いた小さなシールという店もある。 実家に帰る時は実の息子の祐樹よりも母に気に入られている最愛の
「その言葉は単なる営業トークでしょうね。 マンションをローンで購入した場合、銀行は抵当権を付けるのが普通です。 要は担保でして、万が一、ローンの返済が滞って返済不可になった場合はその部屋を売却してローンの残債に充てることが出来ます。 仮想通貨は詳しくは存
アメリカには借金が返せなくなった人の代わりに肩代わりする連帯保証人という制度はない。 自分の知る限り日本独自の慣習のようで、生粋のアメリカ人のコナーズ教授が良く知っているなと逆に感心した。「借金を肩代わりして下さるなら、そうですね。 ハロッズを一棟丸ご
「ローン返済中に遠藤先生に万が一のことが有ったり、三大疾病(しっぺい)に罹ってしまったりした場合には保険の契約形態にも因りますが、それ以降のローンは保険が利いて支払いは免除されます。 つまりそのマンションは相続される方(かたの財産になるということになります。
クロテッドクリームの油分が付いた薄い唇がより艶めきを放っている。 その唇が瑞々しい花のように大輪の笑みを浮かべている、華やかに。「美味しいですよね」 最愛の人と笑い合って同じ物を食べる時は常に最高の味だけれども、手術の達成感のせいかより一層美味だ。「ク
「ローンを完済した時には私の固定資産になって、その後の収益はまるまる手に残るという話でしたが?」 最愛の人は切れ長の目に澄んだ光を宿して遠藤先生と祐樹を交互に見ている。 祐樹も最愛の人をずっと見ているので視線が絡まるのは心が弾む出来事だ。 教授執務室に来
支配人が何だか探るような視線を向けているのは気のせいだろうか? 不審者を見る警察官のような眼差しのような気がする。尤もそんな場面はテレビの中だけでしか知らないのだけれども。 嘘を吐(つ)くという心に疚しいことをしているせいで疑心暗鬼を生じているだけだと信
「はい、それでお願いします。 ところで空腹ではありませんか?ルイス君から分けて貰ったスコーンはとても美味でした。 そして、食べ方も私達とは異なるようで……。 本場だからかそれともオックスフォード大学独自なのかは生憎存じませんが?」 最愛の人は切れ長の目を
祐樹を魅了してやまない端整で理知的な顔が曇っている。 もし仮に二人きりでこんな表情を浮かべられたら、あたふたと原因を探すだろう。そして大輪の花のような笑みを浮かべて貰うために何だってする。 祐樹は最初こそ彼の見た目に強く惹かれていたが、付き合いが長くな
最愛の人は白く長い指で繊細なロイヤルコペンハーゲンのコーヒーカップを持っているだけで絵になる。白と濃いブルーの模様がしなやかな指を精緻に彩ってくれているので。「済みません、説明不足でしたね」 コーヒーの湯気が頬を薄紅色に染めていくような気がした。 遠藤
その手が有ったかと刮目してしまった。 特に舞妓さんや芸子さんの料金、確か「花代(はなだい)」と言ったような気がするが定かではない。 ともかく彼女達を呼ぶには莫大なお金が掛かりそうで、あの時はチームとして機能するようにと必死にテンションを上げていて、その場
「医学部生は国際公開手術のスタッフとして動員されていたみたいです。正装でもあるアカデミックガウン着用という命令が出ていたみたいですね。 そう言えばオックスフォード大学に格別の思い入れがある黒木准教授に手術成功の報と共にアカデミックガウン姿のルイス君と撮っ
ただ、彼女の部屋で同棲を始めて引っ越していって家賃を浮かそうとした人がいたり、極端な例では生きた化石のようなマルクス主義を標榜する共産党員にいつの間にか傾倒してしまって共産党員と共同生活をするために部屋を引き払ったりしたと聞いた、あくまでもウワサだった
「なるほど……。景気があまり宜しくない日本経済を回すための外貨獲得のために頑張って耐えたということなのですね。 レセプション会場で協会長などに顔を売るために森技官は鋼(はがね)の精神力で耐えたというわけですか……。そして手術が終わって気が抜けてトイレに駆け
「教授執務室に参りましょう。長くお待たせするのは失礼ですから。 その封筒やパンフレットなど参考になりそうなモノは全て持って行かれることを強くお勧めします」 いくら手技がイマイチだと言ってもそれは香川外科に所属しているからで、公立病院なら執刀医になれるポテ
「億単位の大きな買い物は営業マンの言い分だけではなくてセカンドオピニオンを受けてみられては如何でしょうか? 尤も私にとって億単位のお金を動かすなどということは、Ai(死亡時画像診断)センターのMRIなどしか縁がないのですが、相(あい)見積(みつ)もりを取るよう
今は祐樹も外科医として至高とまでは行かないがそこそこのレベルには達している。いるのだけれども医局のムードメーカーとして振る舞うように心掛けているし、香川外科では一介の医局員に過ぎないので声は掛けやすい。 医局員が後日問題になりそうな言動をした場合は厳然
「なるほど、良く分かりました。河川敷とか堤防は確かに景観を損ないますよね。 ビックベンと国会議事堂のごく近くまで川が流れているのには驚きましたが……」 嘘を見抜かれていないことに安堵した。 普段の祐樹だったら気付くだろうことを、術者に選ばれてからスルーし
アニメの真似も――アニメを全く知らない人が見たら余計怪しい――最愛の人が望むなら是非したいけれど、愛車と納屋で良い感じに人目を避けてくれている。 ただ、野外で男が二人藁に包まっているという状況は通りすがりの人が居たら「どうかしたか?」的な声を掛けられる
「そうなのです!!観光名所としてのお寺は限られていますよね?」 祐樹も神社は――何しろ時間が来れば門が閉まるお寺と異なってほとんどの神社は24時間出入り可能な穴場スポットだ――行くけれども、そして最愛の人と見事な桜吹雪のみが藤の花に散っているお花見ランチ
長岡先生は金銭感覚が祐樹とは三桁(けた)くらい異なるし、医師としての矜持は持ち合わせているけれども無駄に高かったり根拠がなかったりするプライドは持っていない。 そういう点からも附属病院は避けたのだろう。「ただ、その率直な意見を申し上げた後に見たことのない
「キリスト教の神様は私達のような人間が大嫌いでしたよね。ま、今ではゲイだとカムアウトする聖職者の方もいらっしゃったり、同性婚の式を挙げてくれる教会があったりしますけれど。 聖書には同性愛と獣姦は絶対に駄目だとも書いてありますよね?」 聖書やキリスト教の教
「代々京都に住む人間ならば『白(しろ)足袋族(たびぞく)には逆らうな』という言い伝えが脈々と言い伝えられています」 手術以外の時にこんなに真剣な表情を浮かべたことが有ったか?と思うほどの鬼気(きき)迫(せま)る久米先生の顔に圧倒された。 シロタビ族?多分「族」の
「卓越した手技を持つ外科医として、また尊敬出来る上司としての教授は出会った時から変わりませんけれども、私生活では何だか感情のどこかが欠落した感じで……少し危なっかしいなと密かに案じておりましたの。 それが田中先生と出会って、そして一緒に暮らしていらっしゃ
「そういえば、大根を買いましたよね?鬼退治のマンガの登場人物の一人が好きな料理が『鮭大根』だそうです。どんな味だか食べてみたいのですけれども……」 物凄く食べたいというわけではなくて会話のキャッチボールという側面の方が大きい。「ああ、『生殺与奪の権を他人
医局のドアをスライドさせて部屋を見回そうとする前に久米先生が飼い犬――しかも飼い主が可愛がって欲しがるままに餌(えさ)を上げてしまって可愛いと言われるよりも「貫禄の有る」とか言われそうな――のように走り寄って来た。「田中先生お疲れ様です。その感じだと特に
「え?香川教授の欲しがっていらっしゃる物ですか?」 確認するかのような鸚鵡返(おうむがえ)しの返答だったけれども、淡いピンク色の口紅をつけた唇が可笑しそうな笑みを浮かべている。 「患者さんと冗談を交わして大笑いさせる」という点では医局一の座を不動のモノにし
「……学生時代にキャンパスで祐樹に一目惚れしたのは話したことがあるだろう?」 しばらくは二人が踏みしめる雪の音だけが聞こえていた。その後に薄紅色の唇が白い息と共に言葉を紡いだ。「はい。それは伺っています。というか、今思えば、同じ専攻なのに、どうして声を掛
患者さんとして扱われるのが嫌いなタイプが一定数いらっしゃるのは経験上知っていたし、山科さんはそのタイプだろうと判断したので頼んでみた。「この土日ですか。分かりました、さっそく秘書に手配させましょう。いらしたことを完全秘匿ということで宜しいのですよね?」
「ああ!それは有りますわね。昨日はヒマラヤを持って行きましたの。お恥ずかしながら30の物なのですけれども……」 最高峰と言われるバックなのは知っていたけれどもどこが「恥ずかしい」のか分からない。 祐樹などの感覚ではそういう物凄く高いバッグを京都市指定ゴミ
傘を少し上げた最愛の人は薄紅の頬と唇がモノクロームの世界に一際鮮やかな花の趣きだった。「祐樹がそう言ってくれるから頑張れる……。 しかし、やはりスキーをするのは停年後……いや、外科医として現役を退いてからになるな……。斎藤病院長が骨折しても秘書以外誰も
「大正時代までは皇族の皆様方が宿泊していた建物なので大正ロマンも感じさせる和洋折衷の建物です。宮内庁は耐震性がどうのとも言って皇族の皆さまに泊まらせない意向ですけれど、先の地震の時にはびくともしなかったし調度品全てが無事でした。 これだから宮内庁の役人な
「え?いいえ報告は致しておりませんが、申し上げた方が宜しいのでしょうか?」 祐樹が恐る恐るコーヒーに似た生ぬるい液体に口をつけていると長岡先生のピンク色に塗られた唇が優雅に動いていた。「医局外干渉は病院のご法度(はっと)なのはご存知ですよね?」 どう淹れた
ただ、鬼の情緒というか気持ちには恋愛感情も含まれているのだろうか?主人公が最初に対峙した強い鬼は家族愛に飢えていた。それに遊郭に居た鬼の妹はどうやら鬼のボスに対して特別な感情を抱いていた感じで描かれていたし、懐いた感じで寄り添っていた記憶がある。 ただ
山科さんと目の高さが同じになるように腰を屈めて真摯な笑みを浮かべた。「以前は心臓の手術というだけで命が危険だという固定観念が有りましたけれども、息子さん世代の場合はインターネットでも情報が入手出来ますし、それに何よりウチの香川の素晴らしいとしか言いよう
「あら、田中先生。昨日はLINEをわざわざ有難うございます」 午後の手術(オペ)の執刀を無事に済ませて医局へと戻るべく廊下を歩いていると長岡先生からそう挨拶された。LINE……ああ、そう言えば森技官からスタッフさんの機嫌を取れというミッションを受けて長岡先生を紹介
祐樹はしていないがSNSだと「同好の士」が集まって話す機会がたくさんあるらしい。 小林さんも祐樹同様にそういうネットの使い方はしていないようだった。だからこの時とばかりに話して来るのだろう。 中間管理職は部下からも上からも色々言って来て大変だという程度
「病棟に行って来ますね」 医局のスライドドアを開きながら医局長の柏木先生に届くように声を張り上げた。手術(オペ)も無事に終了した医局には小さな達成感という感じの空気が流れている。 といっても祐樹は午後の手術は最愛の人の第一助手だった。ただ執刀医も務めている