我が家の書斎には時折だが親指位の大きさをした男が現れ、本棚に並ぶ本を興味深そうに眺めている事がある。ただサイズ的に自力では読めないらしく悔しそうだったので本を広げたまま机に放置してみたら翌日何やら小さな欠片のような物が残されていて、試しに拡大してみたら読書への礼状だった。骨董品に関する物語・マイクロフォトグラフ
たかあきによる創作文置き場です。 メインはお題を使ったショートショートですが、たまに長編も載せます。 ジャンルは主にファンタジー寄りのホラーやSFです。
昔、奇妙な懐かしさを感じさせる瞳を持つ少女の存在が周囲の人間を徐々に狂わせていくが、実は彼らが見ていたのは少女の瞳に映る己自身の惨めな姿に他ならなかったという物語を読んだことがある。果たして本当に自分が見ているのは眼前に存在する相手の瞳そのものなのか、或いは。骨董品に関する物語・ドイツはラウシャ製のアンティーク義眼
病床の母から形見分けだと青いロケットを渡された。何が入っているのかと尋ねると、お前が入れたいものを見つけた時に開けなさいとだけ言われた。やがて亡くなった母の遺髪を入れようとロケットの蓋を開くと、そこから母の瞳と同じ青い色をした蝶が舞い上がり宙に飛び去っていった。骨董品に関する物語・青いモーニングロケット
とある人形師は、正しい人形の姿を自身の魂は死んでいる状態と言った。また別の人形師は、神に死を捧げるのと引換に永遠を生きるのが人形だと信じていた。つまり人形は本来、人間からの愛と奉仕を一身に受けながらも決して自ら人間を愛したりはしないのが正しい姿なのかもしれない。ドイツ製のビスクドール
私の暮らす屋敷で執事を勤めていた男は常に顔の上半分を仮面で覆っていた。何でも酷い傷を隠しているらしく、この屋敷で働いているのも他に行く場所が無いからだと父は言う。やがて私は男と死んだ母が嘗ては恋人同士で、男の傷は父に拠って負わされたのだと知ることになるのだった。ケチな老商人パンタローネの仮面
その宮廷道化は派手な衣装に鈴付き帽子を纏った姿で尖った靴を履き、その姿故に埒外の存在として侮られ嘲笑われ、同時に主君に対して際どい冗談を装った諫言を行うことを許されていた。人々はそんな哀れで愚かな道化の仮面の下に隠された素顔を知らず、むしろ知ろうともしなかった。イタリアの道化師アルレッキーノの仮面
呆れる程に多情な月は常に目移りしながら恋する相手を探していて、新しい相手に対して一方的に抱いた恋心に身を焦がして痩せ細り、やがて破れた恋を忘れようと肥え太る。ちなみにこの間、恋心を抱かれた相手は全く月からの思いに気づいていないというから目も当てられないのだった。骨董品に関する物語・三日月の振り子
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我が家の書斎には時折だが親指位の大きさをした男が現れ、本棚に並ぶ本を興味深そうに眺めている事がある。ただサイズ的に自力では読めないらしく悔しそうだったので本を広げたまま机に放置してみたら翌日何やら小さな欠片のような物が残されていて、試しに拡大してみたら読書への礼状だった。骨董品に関する物語・マイクロフォトグラフ
高等術式を用いて錬成した透明な硝子容器の蓋に描かれた花は、内部に納められた懐中時計の刻む時間と連動するように姿を変える。若芽が育ち蕾を結び花開き、やがて種を散らし枯れ果て姿を消すのだ。だから容器の花が装飾として機能している時期は一年のうちほんの僅かな期間となる。骨董品に関する物語・手描きの花々を散りばめたガラスのケース
可憐な薄紅と鮮烈な深紅、更に清楚な薄青。色彩だけでなく形状も全く異なる花の姿を眺めながら奴は青い花が仲間外れだと言った。それは色彩からの判断かと僕が尋ねると薔薇と石竹(カーネーション)は食用になるが昇藤(ルピナス)は種に猛毒が含まれていて食用にならないと答えが返って来た。全く以て煮ても焼いても食えない野郎だと思う。骨董品に関する物語・「初級者のための絵本植物界のレッスン」その2
昔の映画で、安物の時計でも砂漠に埋めて百年経てば宝物になるという台詞があったが、安物の時計を真の宝物に変成させる為には、単なる経年による風化以外に人知の及ばない領域で発生する大小様々な奇跡が必要であり、更に奇跡が発生した後になお形状を保ち続けるという奇跡も必要だ。骨董品に関する物語・ガラスの割れた少女の写真
帰らない船を待ちながら涙を流し続けた娘の青い瞳は、やがて同じ色の花となったと話してくれた叔母は、青い花は悲しみの象徴であり、それ故に薔薇たちは様々な色彩を纏う際に決して青だけは選ばなかったのだと続けた。なら青い薔薇に焦がれ追い求めてきた人々が最後に手にするのも悲しみとなるのだろうか。骨董品に関する物語・銅板手彩色の植物図版
容器に納めた物質、例えば瓶の中身を変容させるのは錬金術の基本だ。具体的には厳選した素材で製錬された容器を用途から導き出される術式を刻んで完成させるのだが、残念ながら未だに水をワインに変容させる術式は発見されておらず、せいぜい葡萄の搾り汁を酒に変えるのが精一杯だ。骨董品に関する物語・エングレーヴィングが施されたデキャンタ
地獄の魔王も人間に掛かれば道化のような姿を晒しながら子供に弄ばれる存在だと古い玩具を示す僕に対して、奴は、本当の意味で平和な世界とは民が為政者の悪口を言っても罰せられない世界を言うが、現在に至るまでの歴史で、そんな期間がどれだけ続いたやらと言って意味深に笑う。骨董品に関する物語・"LEREPASDESATAN"「サタンの食事」という玩具
歳を取ると細かい字が読み辛くなるとぼやいた私に、店主は柄に精緻な細工が入った拡大鏡を幾つか取り出して来て、正直者と嘘つきのどちらが良いかと尋ねてくる。正直者は正確だが冷酷に、嘘つきは優しい虚偽を浮かび上がらせ伝えてくる、もちろん真実はお客さん次第だと。私は普通の拡大鏡を選んだ。骨董品に関する物語・銀の拡大鏡
昔の日本には士農工商という概念があって支配階級の侍、米を作る農民、物を作る職人、売る商人の順に偉いとされていた。対する欧州ではトランプに戦う騎士、祈る聖職者、儲ける商人、耕す農民が描かれていたが、貨幣経済の発達によって結局は東西どちらの文化圏でも商人が最大の権力を有するに至った。骨董品に関する物語・19世紀フランスで作られた古いカードゲーム"piquet"「ピケ」用のセット
巡礼地で購入した鍔のない剣を思わせる形をした栞は実際にペーパーナイフとして使う事が出来た。そして結果的に刃の付いていない刀身で相手を刻むような物言いをしてくる彼女との縁を断ち切る手助けをしてくれた。彼女は今でも己の鍔のない剣を鞘に納められぬままでいるのだろうか。骨董品に関する物語・ルルドの巡礼記念のブックマーク兼ペーパーナイフ
奇跡の泉の巡礼から戻った彼からの土産は可憐な花の意匠をあしらったペーパーナイフだった。実は栞にもなるのだと自慢気に教えてくれた彼とはその年に別れる事になったが、彼との縁が切れた今でもそのペーパーナイフは栞として本から私の記憶が消えてしまわないように扶けてくれる。骨董品に関する物語・オダマキのブックマーク兼ペーパーナイフ
もう二度と目覚めない彼女の寝姿を写したペンダントヘッドを掌の上に乗せ、わたしは彼女が病床で遺した言葉を独りで噛みしめる。貴方は最期まで私を見てくれなかったと呟いてから瞼を閉じた彼女は、これからも生前と全く同じように、わたしから目を背けたまま存在していくのだろう。骨董品に関する物語・ヴォルカナイトのモーニングペンダント
究極の書味を求めて際限なく筆記具の蒐集を続ける友人が、今度はとうとう骨董品にまで手を出した。もはや行き着く処まで逝ってしまった感に意見を差し挟む気にもなれないでいると、今度は一切の蒐集を止め今までのコレクションも手放してしまった。何でも彼女が嫉妬するのだとか。骨董品に関する物語・アメジスト付きのメカニカルペンシル
龍が潜むと言われる淵で疑似餌釣りをしていたら大きめの蜥蜴を引っ掛けた。回収してみると実は龍の幼体で文句を言われたが、そもそも何で龍が疑似餌に引っ掛かったのかと問うと、この辺では見ない珍しい虫だったからと言い訳される。とにかく親龍が来る前に疑似餌を渡して退散した。骨董品に関する物語・イギリス製の擬似餌
この黄金の森は嘗て本当に存在していたのだと祖父は僕に語って聞かせた。鹿の王が支配する奥深い森は森に生きるものと訪れるものに恵みと死をもたらす優しく無慈悲な存在であり、この器は森の欠片を基に作り出されたのだと。だからこの器に収められた菓子には森の香りが宿るのだと。骨董品に関する物語・ボヘミアンガラスのボンボニエール
蛤のような二枚貝の殻は、どれほど同じような大きさや型をしていようと決して対になるもの以外とぴったり重なり合うことはないと、彼は丁寧な動作で眼前の二枚貝で出来た小物入れの蓋を開いた。そして微笑みながら、之からもずっと離れる事なく一緒にいるねと呟いてから蓋を閉じる。骨董品に関する物語・本物の貝殻を使った小物入れ
人間は往々にして規定額に収まる品物の等価交換より、リスクを含んだ想定外の品物売買に魅力を感じるものだ。それを天使の導きと取るか悪魔の誘惑と取るかは人と場合によるが、生涯で一度も天使の導きも悪魔の囁きも体感したことのない人生は、恐らく不幸であると言わざるを得ない。骨董品に関する物語・聖人像、メダイ、フィギュア、フェーブ、クロモスカードなど
遺されたものは人生を終えた愛する人が確かに存在していた証として墓標を建て、記憶を残そうと絵姿を保存する。やがて絵姿を遺したものがこの世を去り、僅かな記述以外は語られることなく失われた物語を隠した絵姿だけがこの世に遺され、やがて全く異なる物語を生み出していくのだ。骨董品に関する物語・デスカードと写真のセット
醜い姿の下級悪魔が愛したのは、俗世の醜さを嫌って睡蓮と化した美しい尼僧だった。彼女の気を惹こうとする悪魔は尼僧に居ないものとして扱われ、魔界の掟に反して他者に愛を抱いた下級悪魔は魔王の裁きを受けるまでもなく、己の裡から絶えず湧き上がる炎に際限なく身を焦がされる。骨董品に関わる物語・J.J.グランヴィルによる「花の幻想」図版
以前、骨董品店で店番の手伝いをしていた時に暇だったので気を利かせたつもりで店内と展示品のあらかたを綺麗に清掃したら、何故か言われもしないのに余計なことをするなと怒られた。この店には骨董品が長い時間を掛けて纏うことになった歳月の気配を愛する客が訪れる場所なのだと。骨董品に関わる物語・真鍮とピューターのビアマグ
巡礼地で購入した鍔のない剣を思わせる形をした栞は実際にペーパーナイフとして使う事が出来た。そして結果的に刃の付いていない刀身で相手を刻むような物言いをしてくる彼女との縁を断ち切る手助けをしてくれた。彼女は今でも己の鍔のない剣を鞘に納められぬままでいるのだろうか。骨董品に関する物語・ルルドの巡礼記念のブックマーク兼ペーパーナイフ
奇跡の泉の巡礼から戻った彼からの土産は可憐な花の意匠をあしらったペーパーナイフだった。実は栞にもなるのだと自慢気に教えてくれた彼とはその年に別れる事になったが、彼との縁が切れた今でもそのペーパーナイフは栞として本から私の記憶が消えてしまわないように扶けてくれる。骨董品に関する物語・オダマキのブックマーク兼ペーパーナイフ
もう二度と目覚めない彼女の寝姿を写したペンダントヘッドを掌の上に乗せ、わたしは彼女が病床で遺した言葉を独りで噛みしめる。貴方は最期まで私を見てくれなかったと呟いてから瞼を閉じた彼女は、これからも生前と全く同じように、わたしから目を背けたまま存在していくのだろう。骨董品に関する物語・ヴォルカナイトのモーニングペンダント
究極の書味を求めて際限なく筆記具の蒐集を続ける友人が、今度はとうとう骨董品にまで手を出した。もはや行き着く処まで逝ってしまった感に意見を差し挟む気にもなれないでいると、今度は一切の蒐集を止め今までのコレクションも手放してしまった。何でも彼女が嫉妬するのだとか。骨董品に関する物語・アメジスト付きのメカニカルペンシル
龍が潜むと言われる淵で疑似餌釣りをしていたら大きめの蜥蜴を引っ掛けた。回収してみると実は龍の幼体で文句を言われたが、そもそも何で龍が疑似餌に引っ掛かったのかと問うと、この辺では見ない珍しい虫だったからと言い訳される。とにかく親龍が来る前に疑似餌を渡して退散した。骨董品に関する物語・イギリス製の擬似餌
この黄金の森は嘗て本当に存在していたのだと祖父は僕に語って聞かせた。鹿の王が支配する奥深い森は森に生きるものと訪れるものに恵みと死をもたらす優しく無慈悲な存在であり、この器は森の欠片を基に作り出されたのだと。だからこの器に収められた菓子には森の香りが宿るのだと。骨董品に関する物語・ボヘミアンガラスのボンボニエール
蛤のような二枚貝の殻は、どれほど同じような大きさや型をしていようと決して対になるもの以外とぴったり重なり合うことはないと、彼は丁寧な動作で眼前の二枚貝で出来た小物入れの蓋を開いた。そして微笑みながら、之からもずっと離れる事なく一緒にいるねと呟いてから蓋を閉じる。骨董品に関する物語・本物の貝殻を使った小物入れ
人間は往々にして規定額に収まる品物の等価交換より、リスクを含んだ想定外の品物売買に魅力を感じるものだ。それを天使の導きと取るか悪魔の誘惑と取るかは人と場合によるが、生涯で一度も天使の導きも悪魔の囁きも体感したことのない人生は、恐らく不幸であると言わざるを得ない。骨董品に関する物語・聖人像、メダイ、フィギュア、フェーブ、クロモスカードなど
遺されたものは人生を終えた愛する人が確かに存在していた証として墓標を建て、記憶を残そうと絵姿を保存する。やがて絵姿を遺したものがこの世を去り、僅かな記述以外は語られることなく失われた物語を隠した絵姿だけがこの世に遺され、やがて全く異なる物語を生み出していくのだ。骨董品に関する物語・デスカードと写真のセット
醜い姿の下級悪魔が愛したのは、俗世の醜さを嫌って睡蓮と化した美しい尼僧だった。彼女の気を惹こうとする悪魔は尼僧に居ないものとして扱われ、魔界の掟に反して他者に愛を抱いた下級悪魔は魔王の裁きを受けるまでもなく、己の裡から絶えず湧き上がる炎に際限なく身を焦がされる。骨董品に関わる物語・J.J.グランヴィルによる「花の幻想」図版
以前、骨董品店で店番の手伝いをしていた時に暇だったので気を利かせたつもりで店内と展示品のあらかたを綺麗に清掃したら、何故か言われもしないのに余計なことをするなと怒られた。この店には骨董品が長い時間を掛けて纏うことになった歳月の気配を愛する客が訪れる場所なのだと。骨董品に関わる物語・真鍮とピューターのビアマグ
普段なら人間の眼には見えない世界に焦点を合わせてあるという小さな三連のルーペは、それぞれに異なる容姿の精霊を垣間見る事が出来たが、残り一枚のレンズが嵌めていないホールからは文字通り何も見えず不思議に思って尋ねると、いずれは喇叭を持つ天使が見える筈だと言われた。骨董品に関わる物語・水牛の角で出来たルーペ
この世界の総ては時間の経過によって研削され、いずれは跡形も失くなるものだか、人間の心身もその例外には成り得ない。それ故にか、財と権勢を手にした人間の殆どは高価な布や石をあしらった金物で少しでも我が身を覆うのだ。しかし、きらびやかに覆われた肉体はやがて朽ち果て腐り落ち、後に残るのは薄汚れた骨ばかりと成り果てる。骨董品に関する物語・ハンス・ホルバインの手彩色木版画「死の舞踏」