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  • 2024年を振り返る「横山光輝から始まり手塚治虫で終わる」

    ずっと世の中に関係なく突っ走っている本ブログですが一年に一度くらいは振りかえってみましょうか。 今年2024年はおおむね前半と後半にくっきり分かれています。 たぶん去年もそうだったのでは。 というのは去年の6月から今年の6月までほぼ横山光輝を読み続けていたからです。 去年は6月から後半を横山光輝沼。 今年は最初から6月までの前半を横山光輝ひとすじ、だったと思われます。 とりあえず観てみましょうか。 gaerial.hatenablog.com はい。2024年1月1日横山光輝著『史記列伝/上』から始まりました。 『クイーンフェニックス』『赤影』『地球ナンバーV-7』『水滸伝』『三国志』『伊達政…

  • 『シュマリ』手塚治虫 その3

    すみません。がまんできずに最後まで読んでしまいました。 あまりの感動に言葉もありません。手塚治虫の最高傑作なのではと思えました。 しかしここでは地道に続けていきます。 ネタバレします。 ちょうど二巻から。 第九章「お峯」 1875年石狩幌内熊尻 太財炭鉱 太財一家の野望は「エゾ共和国」を作り上げることだった。 しかしその夢は遠い。 シュマリが持つ三万両を手にいれることができないまま炭鉱に着手したが坑内の事故が相次ぎアイヌの坑夫の事故死が相次いだ。 そんな中、太財峯はひとりシュマリのもとへと向かっていた。 シュマリはポン・ションの二人暮らしで馬を飼おうとしていたがその試みは困難なものだった。 「…

  • 『シュマリ』手塚治虫 その2

    開拓督務補佐役、島義勇とシュマリ ネタバレします。 第三章「刺青」 明治二年(1869年)12月札幌でシュマリは暴れ投獄される。 と言っても獄中にいたのはふたりだけ。 それは極寒の夜を迎えれば囚人たちは次々と死んでしまうからだった。 シュマリの目の前で一人が凍え死ぬ。シュマリは牢内で火を起こして火事を起こし今度は外で杭に縛られるがそれを率い抜いてさらに暴れる。 シュマリは北海道開拓督務補佐役で判官様と呼ばれる島義勇に呼ばれる。 島義勇は五稜郭の軍用金だった金を探していた。五稜郭が落ちる前に榎本武揚が密かに持ち出しどこかへ莫大な金を隠させた。そのありかを部下のひとりの身体に刺青でしるしたのだ。し…

  • 『シュマリ』手塚治虫 その1

    さて続けて手塚治虫先生の明治時代もの。 こちらはまったくの初読みです。 知らなかったのですが本作はあの(私も大好きな)『ゴールデンカムイ』の元ネタであると書かれていて「なにィ」となってしまいました。 まだやっと読みだしたばかりですが最初からなるほどなるほどです。 この表紙からして(この男の風貌からして)読みにくいのではと思っていたのですがやはり手塚治虫、読みだすとどんどん読めてしまうというなんというマンガ作者でしょうか。 初読み『シュマリ』楽しんで読んでいきます。 ネタバレします。 一巻、読み終わる。 幕末歴史をかなり勉強して&『ゴールデンカムイ』を先に読んでいるのもあって大体理解しているので…

  • 横山光輝『飛猿斬り』からの幕末の歴史を辿り、手塚治虫『陽だまりの樹』へ

    横山光輝『飛猿斬り』この作品を読んで以来、山田一郎(表紙のお人)が頭から離れずこの半年間幕末に入れ込んできました。 以前の記事はこちらです。 gaerial.hatenablog.com これを読んだ時は「天狗党」のなんたるかも知らず山田一郎の苦しみを理解してあげられないのが苦しくてこの半年間彼に近づこうと様々な文献&YouTubeを覗いていました。 横山先生に知られたら苦笑されそうですがこの年齢になっても幕末から明治維新の歴史がまったくわかっていなかったからです。 とりあえず「天狗党」とはなにか、を探ろうとしたのですがこれがまた驚くほど「天狗党」を題材とした小説マンガなどは少なく一番わかりや…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 十一巻「維新の章」

    最終巻です。 ネタバレです。 ついに最終章となった。 伊武谷万二郎は頑固一徹のまま突き進んできた。 おせき殿を一筋に思い続けていた彼はもう少しのところでその糸はちぎれてしまい彼女は手の届かない場所に行ってしまう。 入れ替わるように現れた綾は万二郎にとって父の仇であった男の妹であり仇を取った万二郎は今度は綾の兄の仇となる。 そして万二郎の母にとっては愛した夫の仇の妹である。 万二郎は綾に惹かれるものを感じていた。恐ろしい拷問を受けた綾は植物人間となってしまうが万二郎は彼女を守り抜こうと考え仕事で遠出する際に母に綾の看護を頼む。 だが母は万二郎がいない間水や食事を与えず餓死させてしまおうと考えた。…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 十巻「桑海の章」

    ネタバレします。 緒方洪庵は慣れ親しんだ大坂適塾を出て江戸城の奥医師そして医学所頭取となるため江戸に住むこととなる。 これは体の弱い洪庵にはむしろ有難迷惑であったらしい。 特に大奥での仕事は神経の疲れるものであった。 さて緒方洪庵を通して良庵改め良仙は陸軍歩兵組付医師となる。 つまり伊武谷万二郎の隊の掛医師になるのである。 だが良仙は気が進まずお紺の店に隠れて時が過ぎ去り話が立ち消えになるのを待っていた。 品川で堂々たる豊屋の女将として活躍するお紺は今度は歩兵組屯所造成の材木調達を一手に引き受けるといい大仕事を手掛けようとしていた。 だが、競争相手である多磨屋の若旦那から「入れ札の時に尻の刺青…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 九巻「落花の章」その2

    ネタバレします。 後半は画像にあげた場面、万二郎が平助を伴って登城するところから始まる。 母上の前では乗馬で出たが途中で下馬し平助に馬を引かせて猛然と走っていく。 門前に行くと以前とはまったく違う礼を以て案内され、二の丸お留守居役の勝海舟に迎えられる。 勝は陸軍の歩兵組の重歩兵を農民を訓練することで作り上げようとしていた。 その百姓による軍事訓練を伊武谷万二郎に任せようというのである。 弱り果てた万二郎は母の勧めで父が面倒をみていたという永沢村へ行きそこで歩兵を集めることにした。 ところがいざ永沢村へ置くとそこでは無頼の徒が仕掛けた賭け事が蔓延しており村の男たちは困窮していた。 万二郎は村男た…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 九巻「落花の章」その1

    ネタバレします。 万二郎がおせき殿の異変を知るのは三日後だった。 ふたりの仲人をしようとしておせき殿の寺を訪ねた良庵が彼女がすでに尼寺に入って髪をおろしてしまったと聞いたのである。 良庵の知らせを聞き万二郎は善福寺へ走ったが住職とも会えず出てきたヒュースケンの口から彼がおせきを強姦しその後おせきが姿を消した、と言われたのだ。 万二郎はヒュースケンを斬ろうとして思いとどまった。 万二郎はおせきが入ったという全稱寺へと走り訴えるがその門は固く閉じられた。 ヒュースケンはもう別の女たちを手に入れ喜んでいた。 万二郎はアメリカ使節の護衛を辞退した。 その夜、プロシアの新任の使節が通訳を欲しておりヒュー…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 八巻「万延の章」その2

    一番左=勝海舟、左上=ハリス、左下=手塚良庵 真ん中上=ヒュースケン、真ん中真ん中おせき、真ん中下=福沢諭吉 右上=伊武谷万二郎、その下=平助、その下の左=大槻俊斎、その右=お紺、 俊斎の下=手塚良仙、一番右端=丑久保陶兵衛 ネタバレします。 さて、万二郎は禄高百石にて小姓組見習いを任じられる。 最初の仕事として命じられたのは現在ハリスから逃げてしまったヒュースケンを説得して以前の役職に戻すことだった。 ヒュースケンは赤羽はずれの百姓家にひそみ誰にも会わないらしい。 万二郎はヒュースケンの住む家へ向かう。 彼はひとりの寡婦を側に置いて世話をさせていたがそれでは物足りず「恋をしたい」と万二郎に訴…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 八巻「万延の章」その1

    幕末から明治維新。 よく日本人は江戸城無血開城で平和的だと自慢する向きがありますが事実はそんな生易しいものではないのですよねえ。 ネタバレします。 安政六年の秋から冬にかけて大獄の嵐が吹きすさんだ。 頼三樹三郎、鵜飼吉左衛門、吉田松陰は斬首。水戸藩家老安島帯刀切腹。徳川斉昭永蟄居。越前藩主松平慶永隠居謹慎。 福井藩士橋本佐内、斬首。 さて良庵は善福寺のおせきを訪ね万二郎の無事を伝え、おせきが万二郎に好意を持っていることを確信する。 しかしここで(あの暗殺された)多磨屋の若旦那成吉というのが登場する。 この男化粧しているのか赤い唇(?といっていいのだろうが?)のなよなよした風情なのだが物凄い女た…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 七巻「大獄の章」

    まさかここまで望んだとおりのものだとは思ってもいませんでした。 ネタバレします。 伊武谷万二郎は橋本佐内・西郷吉之助の名で送られてきた手紙に誘われ雨の中向かった屋敷で捕らえられてしまう。 その首謀者は井伊直弼の謀臣、長野主膳だったが万二郎は知らない。 万二郎は拷問を受けるが平助に助けられる。 家に戻った万二郎は母を山岡鉄舟の家に預け、平助と共に自宅にこもり自分を狙う敵が来るのを待った。 しかし訪ねてきたのは岡っ引きの伝吉という男だった。 ここからの展開がややこしいのだがとにもかくにも万二郎は再び捕らえられより酷い拷問を受けることになってしまう。 そしてこの牢で小浜藩の梅田雲浜、橋本佐内などが投…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 六巻「虎狼痢の章」

    いっそうおもしろくなっていきます。 ネタバレします。 上様の口の中の黒いシミを調べたい良庵はイギリスの医書の中にその症例が書いているのではないかと考えるが英語が読めない為どうしようもない。 そこで思いついたのが伊武谷万二郎に頼めば来日しているアメリカ人に読んでもらえるのではないかということだった。 急ぎ江戸に戻り無理を押し切ってヒュースケンに訳してもらい黒いシミの原因とその治療を知った良庵は伊東玄朴先生に伝えるが橋渡し役の元迫が監禁され元の木阿弥に終わる。 万二郎はいつもどおりヒュースケンたちの護衛をしていたがヒュースケンの馬に毒針が刺さっているのを発見し犯人を捜し出した。 その様子を見ていた…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 五巻「謁見の章」

    やっぱり手塚治虫マンガは読みやすくてわかりやすくて面白いなあ。 ネタバレします。 橋本佐内は適塾の緒方洪庵を訪問。適塾出身者であった。 ゆっくり語らうつもりが阿部正弘が急死との知らせに慌ただしく去っていく。 刑死人一体の腑分けが行われる。 研修生らは立ち合い見学となり良庵も参加する。 この時、突如夜鷹のお紺が現れ腑分けを見学したいと言い出す。 お紺は男装して紛れ込んだ。 腑分けの途中、陰茎の部位になった時お紺は忍び泣き始める。 腑分けされた男はお紺の亭主だったのだ。 虐待をする酷い男だったが忘れられずにいたのである。 が、夜鷹に腑分けを見せたことが洪庵先生の知るところとなり良庵は破門すると言い…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 四巻「竜胆の章」

    ネタバレします。 最初は比較的良い人だったヒュースケンが一転嫌な感じに。 よくわからんハリス氏は良い人になったかと思ったらやっぱりよくわからん人に。 しかし伊武谷はヒュースケンの一言から興味を抱き韮山の反射炉を見ることになる。 そこで福井藩校明道館教監、橋本佐内と出会う。 佐内が藤田東湖を尊敬しているという一点で伊武谷は仲良くなる。そして佐内から「近いうちあなたにも一役買ってもらうことになりそうです」と言われるのである。 そしてこの直後に会う不気味な中年男平助に出会う。 この男、マジで謎である。 いったいなぜこの男が登場したのか。 すごく印象深い存在なのだけど意味が良くわかっていない。 今回の…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 三巻「下田の章」

    幕末・維新にはまり中の今。 注目すべきは薩長土肥よりも水戸藩なのではなかろうかと思っています。 本作ではあまり出てこないかもしれませんが、水戸藩の浪人牛久保が登場しています。 ネタバレします。 緒方洪庵の適塾で手塚良庵はダメ人間ながらもなんとか医学を学んでいく。 まずは仲間たちで嫌がられながらもアンモニア精製をし、洪庵先生の付き人として痘瘡にかかった大店の主人に会いに行く。 しかしそこの主人は種痘には嫌悪感を持っており自分自身の診察はさせず使用人にも種痘は禁じ調べるだけならというのであった。 すると店で下働きをしている若い女が風邪で休んでいるという。 洪庵に命じられ良庵はその女の家を訪ねる。 …

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 二巻「鳴動の章」

    ネタバレします。 冒頭の丑久保陶兵衛とその妻のエピソードが怖くて一番記憶に残ってしまった。 本書の熊菱という蘭方医に臨月の妻を診せたところ「すぐに産ませた方が良い」と言って薬を飲ませたが生まれる気配はなく妻は苦しみだした。 慌ててその医者は陰部を切り裂いて子供を引きずり出したというのだ。 それ以後その妻は子どもを産めぬと言われたうえ顔に痣ができ頭髪も抜けはじめた。 丑久保は恨みを晴らそうとしたがその蘭方医はどこかへ逃げてしまったのだ。 牛久保は手塚良仙に「同じ蘭方医の責任で妻の身体を元に戻せ」と無理難題をもちかけ「できないならその指を全部斬り落とす」と迫った。 出産のアクシデントは最も辛いこと…

  • 『陽だまりの樹』手塚治虫 一巻「双鯉の章」

    幕末から明治維新にかけての読書を希望しているのですが手塚治虫作品ではこれを外すわけにはいかないだろうと思い再読&感想を書いてみます。 何度も読んだ作品ですがこの思いで読めばまた一味違うかもしれません。 もともと手持ちの本なのでこのための散財もなし。嬉しき事なり。 ネタバレします。 手塚治虫作品はとにかくわかりやすくて嬉しい。キャラクターの違いが明確でストーリーがびしびし入ってくる。 本作はダブル主人公というのだろうか。 貧乏武士のせがれである伊武谷万二郎と外科医の手塚良庵のふたりの男の生き様を描いていく。 伊武谷万二郎は架空の人物だが手塚良庵は手塚治虫氏の実在の曽祖父である。 直情型真面目一本…

  • 『合葬』杉浦日向子 その4

    ネタバレします。 (了) 「維新は実質上維新(これあらた)なる事はなく末期幕府が総力を挙げて改革した近代軍備と内閣的政務機関を明治新政府がそのまま引き継いだにすぎない。 革命(revolution)ではなく復位(restoration)である」 雨降る夜分、腕に傷を負った極は柾之助に支えられながら秋津家の分家を訪ねる。 が、奥から「ならぬ、匿えば家が絶える。奥州へでも逃げよと云え」という主人の声が聞こえ極は柾之助に「出よう」と告げた。 追ってきた爺がとある店屋に小判と米を渡して「この雨の中。せめて一晩匿ってほしい」と土下座して頼み込んだ。 いったんふたりは納屋にかくまわれたが「ひとり一両」とい…

  • 『合葬』杉浦日向子 その3

    続きます。 ネタバレします。 (五) 悌二郎の妹砂世は別の人に嫁ぐこととなった。 その前に一目、極に会いたいという。妹の頼みを悌二郎は極に伝えに行く。 極はその頼みを断る。その時に「山は官軍に取り囲まれている」と報がはいった。 即刻戦闘準備がなされたが具体的な作戦指令はない。 春日左衛門が檄を飛ばす。 弾避けは畳だった。 悌二郎は逃げ遅れしまう。 丸毛靱負は「一人一殺だ。死ぬ前に必ず敵を一人以上殺せ。銃声がしたら木に隠れるか伏せろ。弾に当たって死ぬほど無駄なことはない」と言い渡す。 極は悌二郎に謝った。 悌二郎は昔兄と共に蝉が脱皮する瞬間を見たことを思い出し極に話す。 「いや、なんでもない」 …

  • 『合葬』杉浦日向子 その2

    さて続きです。 ネタバレします。 (参) 彰義隊はすでに三千名を越え存在そのものが巨大な反政府勢力とみなされていたが、彼らには新政府を倒し幕府の再建を謀るという所思はなくしいて言えば「義憤」が彼らの原動力にすぎなかった。 しかし数度の解放勧告を拒否するうち、初志とかけ離れた軍事的組織へと変貌していく。 福原悌二郎は上の寛永寺彰義隊屯所へと向かった。 ここで悌二郎は秋津極の除隊を頼むつもりだったが逆に入隊したまえと誘われてしまう。 そう言ったのは森篤之進、二十四歳。体内穏健派の川村敬三の懐刀である。 川村らは戦争回避のために派遣されていた。主戦論を持つ強硬派を危ぶんでいた。 福原悌二郎のような論…

  • 『合葬』杉浦日向子 その1

    初めての杉浦日向子作品読です。 今幕末から昭和初期までの歴史にはまっており本作に巡り合いました。 私はとりあえず生まれた場所的に官軍側の人間なのですが、だからといってこれまで大した幸運はなかったよなと思っていました。しかしよくよく考えれば歴史による何かしらはあるはずです。もし賊軍側の場所に生まれていれば何かと悔しい思いもしたのかもしれません。 本作はいわば賊軍となってしまう彰義隊の物語です。 本作を読んで何かを知りたいと思っています。 ネタバレします。 (壱) 旗本笠井家三百石小普請(非役)に養子としての恩義がある吉森柾之助が語る。 ある夜、養父が酒席で死んだ。 酔って抜刀したのを相席していた…

  • 『「坊っちゃん」の時代』第五部「不機嫌亭漱石」 関川夏央・谷口ジロー

    第四部までを総括する一巻となっています。 また幻想的な文学作品とも言えます。 ネタバレします。 夏目漱石の胃の痛みがますますひどくなる。 漱石は伊豆修善寺の菊屋旅館で転地療養することにした。 しかし雨が降り続く上に旅館は部屋の用意をしておらず漱石の気分はより沈鬱なものになっていく。 出された食事の刺身は食べず生卵二つを混ぜて三杯の飯をかき込む。 隣ではゴム長で儲けたという男たちが歌って騒ぐのがうるさく漱石は怒鳴りこむ。 ここでも漱石は伊集院警視が監視をよこしたと疑っている。 漱石の教え子である松根東洋城(豊次郎)がなにくれとなく世話を焼いた。 漱石の物語は次第に幻想的なものになっていく。 かつ…

  • 『「坊っちゃん」の時代』第四部「明治流星雨」 関川夏央・谷口ジロー

    関川夏央氏による「あとがき」に第三部から三年半の時日を経て関興できた、とされています。 そのせいもあってかかなり絵柄が変わった感があります。 しかしこの内容にはこの筆致が適切だったのではないでしょうか。 ネタバレします。 「坊っちゃん」の時代、というタイトルが示す通りの物語だ。 なぜか皆体が弱い。 興味深い話なのだけど「どうしてこうなっていくのか」というもどかしさがある。 若き日の幸徳秋水が「一夜にして天下をとれましょうか」と問う。 芸術で人々の心を捕らえるという意味でならあるだろうけれど社会改革のそれは不可能だろう。 しかしこの時はまだ何もわからない。 やがて世界的な戦争が始まりそして共産主…

  • 『「坊っちゃん」の時代』第三部「啄木日録 かの蒼空に」 関川夏央・谷口ジロー

    読み込むのに時間と努力が必要だった前回の森鴎外編とは違い本編石川啄木は初読で入り込んでしまった。 ネタバレします。 貧乏なダメ男の話を読むほど辛いことがあるだろうか。 しかも才能はあり自尊心も高い。 が才能はあってもそれがすぐに認められることもなく金に換える力はない。もともと家柄もよく甘やかされて育っただけにそれなりの贅沢が当たり前になっているのだ。 しかもこのルックス。 谷口ジローキャラデザはいかつい男が多くそこが魅力だ。漱石も鴎外も必要以上にいかめしく描かれていたが啄木に至って実像以上に愛らしく描かれてしまうというのがおもしろいところ。 谷口氏本当に絵が上手い。こんな可愛い男も描けるのだ。…

  • 『「坊っちゃん」の時代』第二部「秋の舞姫」 関川夏央・谷口ジロー

    この第二巻は冒頭を除けば森鴎外の『舞姫』で描かれたそのモデルとなるエリスバイゲルトと森鴎外の物語となっています。 ネタバレします。 この物語をどのように受け止めていいのか迷ってしまう。 正直今の自分には本作を良しとしていいのか否定すべきなのかもわからない。 しかしそう言ってばかりでは先に進まないので思った通りに書いていこう。 まずは森鴎外という人物の人格を怖れる。 エリスに日本へ行って結婚しようと言いながら共にではなく別便で後を追わせている。 別に手をつないでとは言わないがこの時代に女性一人で渡航させてしまうことに人間性を疑う。この時点で鴎外はエリスが自分の後を追うことをあきらめさせようと思っ…

  • 『「坊っちゃん」の時代』第一部 関川夏央・谷口ジロー その2

    続きます。 ネタバレします。 第六章 マドンナと清 「坊ちゃん」を思い出し、そうかーとなった。 しかし清は印象深いがマドンナのことはさっぱり覚えていない。 坊ちゃんは清から物凄く褒められおだてられて大きくなった。すごく幸福な少年なのだ。 誰もが自分にとっての清を欲しいだろうと思う。が、清は日本における旧時代の女性だったのか。 小説として坊ちゃんは最終的に清を選ぶ。 清と一緒に暮らすのだと願う。しかし清と暮らせたのはごくわずかの間で彼女は死んでしまうのだ。 坊ちゃんは清のことは「婆さん」と呼んでいるから恋する相手ではなかったのだが一緒に暮らしたいと願う相手はその婆さんである清だった。 しかしマド…

  • 『『坊ちゃん』の時代』関川夏央・谷口ジロー

    「漫画アクション(双葉社)」1987年~1996年 作者名は原作・作画に分けず共著という形であるということです。 最近、幕末から明治そして昭和初期まで、つまり日本近代史に凝っています。 ところがその辺が舞台のマンガ作品は極端に少なく、且つ興味が抱けるものとなればますます限られてきます。 その中で本作は非常に気になる作品です。 谷口ジロー氏作品自体初めてなのですがこれから楽しく読んでいこうと思います。 ネタバレします。 まずは読前情報として、この作品は「この人とこの人がこの時点でもしも出会っていたら」という仮定を織り交ぜる手法であるらしい。主人公夏目漱石をはじめ多くの実在の文豪や有名人物が登場す…

  • 『ポーの一族』「青のパンドラ」(2016年)萩尾望都

    「フラワーズ」2022年7月号- 8月号、10月号、2023年1月号 - 2月号、6月号 - 7月号、9月号、11月号、2024年1月号、8月号、10月号 と、前回悲劇的な感じに襲われましたが今回本作そんなことは忘れたかのように面白いのでありました。 ネタバレします。 どういうわけか本作は『ポーの一族』始まって以来最高の活劇ものになっている。 神のように美しく千年間眠り続けている兄を持つ悪魔的なバリー。明るくハンサムなファルカと美しいブランカ夫妻。 そして御大と呼ぶにふさわしい大老ポーの登場。 エドガーは燃え尽きて炭と化したアランをアタッシェケースに入れて持ち歩いている。 萩尾氏は少女マンガの…

  • 『ポーの一族』「秘密の花園」Ⅰ・Ⅱ(1888年)萩尾望都

    「フラワーズ」2019年7月号、2020年8~11月号 「フラワーズ」2021年6~8月号、10~11月号 第10作「ランプトンは語る」の前日譚です。 アーサー・クエントンとエドガーとアランの物語。 ネタバレします。 この二巻の間に一年以上の時間が経ち萩尾氏の絵がはっきりと変化していくのがわかる。 物語は40年前と比較すると格段に円熟し深みを感じさせるが絵は肉体の変化が露骨に出てくるものなのだろう。 構成、演出、構図は素晴らしいのだが「線」だけはどうすることも出来ないのかもしれない。 逆に言えば萩尾氏はペン入れを他の人に任せることなく自身で行っているのだろう。 人はこの作品をどんな気持ちで読む…

  • 『ポーの一族』「ユニコーン」(2016年、1958年、1975年、1963年)萩尾望都

    1976年にロンドン、エヴァンズ家での火事でエドガーとアランが姿を消してから四十年経ち2016年にエドガーとファルカが再会する、というところから始まります。 そのための先に『春の夢』だったのでしょう。 つまりエドガーはアランが火の中に落ちた後ひとりだけで行動することはなかったのですね。 ネタバレします。 ファルカは「壁を通り抜けて思った場所に出られる能力の他に「鳥のネットワーク」を持っているという。 なんだかわくわくする展開だ。 そしてエドガーはずっとグールのような怪物の姿になっていたという。 さらにエドガーはアタッシェケースを出して「アランはここにいるよ」と言うのだ。 ここで「ダイモン」と呼…

  • 『ポーの一族』「春の夢」(1944年)萩尾望都

    2016年7月号~2017年3~7月号 とうとうここに辿り着きました。 これまでの何度も読み返した作品群とは違いここからは私目を通してはいますが解像度はかなり低いです。 とはいえ自分自身楽しんで書いていきます。 ネタバレします。 40年ぶりの新作。そしてそれ以上に再びアランが登場すると聞いて私も他のファンと同じように嬉しく読んだ。 且つ新作が単なる懐かしさに留まるものではなく新しい局面を見せていくことに萩尾望都の物凄さを感じる。 40年前のエドガーは孤高の超人の思わせた。恐れを知らぬ佇まいと高い能力に魅了された。彼がなぜ怯えもせず生活できるのかわからなかったが本作を読んでエドガーもまた労働無く…

  • 『ポーの一族』「エディス」(1976年)萩尾望都

    1976年「別冊少女コミック」4~6月号 『ポーの一族』シリーズ15作目。現在の再開に至るまでは長い間ここで最終作となっていました。 ネタバレします。 この一作については様々な思い出があります。 まずはなんといっても衝撃的な終わり方。 私はどんな終わり方であろうともエドガーとアランは永遠の時を生きるのでしょう、というような夢みる終わり方になるとなんとなく信じ切っていて疑わないでいたのだ。 それがアランの死、というそれまでのどんなマンガいやコンテンツから受けたことのない残酷な仕打ちをされしばらく茫然とするしかなかった。 なぜ作者はこんな冷徹なエンディングを与えたもうたのか。 悲しかった。 折りし…

  • 『ポーの一族』「一週間」萩尾望都

    1975年「別冊少女コミック」12月号 アランの一週間の物語です。 ネタバレします。 というか上に書いた通りでエドガーが出かけて一人切りになったアランの一週間を描いたほのぼのほっこり一編。 この作品がラストのひとつ前とは思えない。というかラストひとつ前と思って読むと泣けてしまうではないか。 という以前の涙も今は払拭されたことがなにより嬉しい。 雨の日に出かけなければならないというエドガーに文句をいうアラン。 なら留守番してな、悪さするんじゃないよ一週間で帰ると言ってエドガーは出かけてしまう。 こども扱いするエドガーに愚痴るアランだが考えたらうるさいエドガーは一週間いないんだとはしゃぎだす。 翌…

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