意思決定論の数学的背景を知りたいなら - 書評: 木下栄蔵『わかりやすい意思決定論入門』
木下栄蔵の『わかりやすい意思決定論入門』を読みました。 私はもともと多少はオペレーションズ・リサーチを勉強していたのですが、それでもこの本は「わかりやすい」とは言えませんでした。いろいろなツールが紹介されているものの、そのツールがどのようなものかということを説明する前に細かな数学的説明が始まり、しかも各変数の意味も順を追って詳しく説明されるわけではないので、初学者が読んでも全く意味がわからないと思います。 たとえば私はAHPをときどき実際に使用するので、AHPについての章は理解できました。しかし、何も知らない状態でこの本を読んで何かを得られたかというと、得られなかっただろうと思います。AHPの…
前職の後輩と食事をしました。部署が全く異なっており、退職する直前までほとんど交流もなかった後輩なのですが、何かきっかけがあったのか私のことを慕ってくれており、退職後に時々一緒に食事をするようになりました。話すことの大半はキャリアの相談なのですが、今回、働き方が話題になりました。 前職はフランス系の企業で、フランスをはじめとする海外のグループ企業との交流が頻繁にありました。私自身もしばらくフランスで仕事をしたことがあり、また、帰国後に働く中でも、色々な国の同僚達とともに仕事をしてきました。今回一緒に食事をした後輩は、先日2週間ほどヨーロッパに研修をしに行っていました。はじめてのヨーロッパでの2週…
台湾の歴史を手軽にしかし真剣に学ぶために - 書評: 胎中千鶴『あなたとともに知る台湾』
胎中千鶴の『あなたとともに知る台湾』を読みました。 少し時間は経ちましたが、この連休中に台湾に行きました。観光のためだけに海外に出かけるのは随分久しぶりのことでした。 せっかく台湾に行くのだからといくつか歴史関係の本を読んでみたのですが、この一冊はその中でも最も分かりやすく書かれていたものでした。語り口は軽妙なのですが、日本による侵略の時代から、中国復帰、そして中華民国としての曖昧な立ち位置に至る沈鬱な歴史を、正面からとらえて描いています。読みやすさと内容の真剣さとのバランスが、非常によくとれていると感じました。とりわけ、228事件の顛末については大変分かりやすく印象的に書かれており、台湾の歴…
世界の今を知る - 書評: ハンス・ロスリング『ファクトフルネス』
ハンス・ロスリングの『ファクトフルネス』を読みました。 私は一時期国際協力に興味があり、いろいろと勉強していました。この本には世界の今の姿をどのくらい正確に理解しているかというテストがあって、著者が出題した限りでは、全問正解した人はいなかったそうです。私も12問のうち、正解は9問でした。平均的には正答率は1-2割程度のようで、それに比べればよくできたのでしょうが、一見して「当然知っているべき」と思えるような問題ばかりで、それを知らないでいる(正答が多かったのも知っていたからではなく、考えて答えてたまたま合っていただけです)ということを、恥ずかしく思いました。 世界はよくなっているというのが主要…
想像力の源泉としての神話 - 書評: 後藤明『世界神話学入門』
後藤明の『世界神話学入門』を読みました。 世界の神話はゴンドワナ型神話群とローラシア型神話群という二つの系統に大別され、とくにローラシア型神話群にはプロットに一定の法則性が観察されるという、大変にスケールの大きな仮説が紹介されています。プロップの『魔法物語の研究』を神話に適用したような議論で、私は大学のときに中世文学のあるジャンルの作品群を同様の手法で分析したことがあったので、大変興味深く読みました。 私自身は、特定の神話が一つの地点から大陸を超える規模に拡散するということがあり得ると思いますが、直感的には人間の認知のあり方とか、自然環境の類似といった要素によって似た物語が生成されることの方が…
大人の教養娯楽としての高校倫理 - 書評: 『もういちど読む山川倫理』
『もういちど読む山川倫理』を読みました。 高校の倫理の教科書を一般書として装丁を変えたものです。日本の高校教育には哲学の科目がありませんので、哲学的なことを学ぶ機会は、国語の現代文か倫理かしかありません。私は、基礎的な哲学教育は誰にとっても有意義なものだと思っているので、哲学に一番近い倫理という科目が必修でないことが遺憾です。 話は脱線しますが、かく言う私自身は、高校で倫理を学んでいません。そもそも、私の学んだ高校では倫理を選択することができませんでした。一方で、簡単な哲学書はいくらか読んでいたので、高校倫理の知識は意識しないままにある程度蓄えていました。入試の少し前に、たまたま見かけて解いて…
ストレスを自分の問題として捉えること - 書評: 見波利幸『心が折れる職場』
見波利幸の『心が折れる職場』を読みました。 ストレスに悩む知人から、自分の状態を理解するのに役立ったと勧められました。メンタルヘルスケアに関心があったので、せっかくの機会だからと読んでみました。 内容としては、メンタルヘルスケアの具体的な内容に触れる一歩手前で、「なぜメンタルヘルスケアが必要か」ということを説いています。ある程度の知識がある人にとっては物足りないかもしれませんが、最初の一冊としては大変よいと思います。 仕事のせいで鬱になってしまう原因として、著者は、潜在的な能力不足の意識を重要視しているようです。この視点は私にはあまりありませんでしたが、言われてみればなるほどと思えるものでした…
宇宙の構造についての最新の研究成果を知る - 書評: 松原隆彦『図解宇宙のかたち』
松原隆彦の『図解宇宙のかたち』を読みました。 宇宙の大規模構造について、美しい図をふんだんに使ってわかりやすく説明しています。わかりやすくとは言っても、物理学の最先端の内容ですから、もともとかなりの知識をもっていないと完全に理解することは難しいでしょう。私も、パワースペクトルやバリオン音響振動のところはよくわからないままにとりあえず文字だけ追いかけました。それでも、太陽系から銀河系、銀河群、銀河団、超銀河団と、スケールを広げながら宇宙の構造を説明していくところなどは、大変に知的好奇心をくすぐるもので、またロマンにあふれるものでした。ここだけでも、一読の価値はあると思います。 宇宙が、世界が、ど…
生き方の表現としての場所 - 書評: 三浦展『100万円で家を買い、週3日働く』
三浦展の『100万円で家を買い、週3日働く』を読みました。 4章から構成されていますが、とくに第1章を大変興味深く読みました。そこでは、7人の実験的な生き方が描かれています。離島に移り住んで、古い家屋をリノベーションしながら町に活気を与える女性。広い農地付きの物件を買って、子どもに自然とのふれあいの場を提供するNPOを運営する夫婦。地域住民の憩いと体験の場としてのランドリーカフェをつくった女性。どのエピソード中の人物も、自分の意志に素直であり、しかもその意志は人を動かし惹きつける力をもっていました。 私は、こうした人たちの生き方を羨ましく思います。いずれのエピソードにも共通しているのは、人との…
出身学科の教授が一人退官され、公開の最終講義が行われたので、久しぶりに大学に行きました。私は文学部の出身です。文学といえば、世間からすると、世の中の役に立たないもの、就職するにしてもつぶしの効かないものと考えられているでしょう。出身者としても、これは半分当たっていると思います。 文学をやる人の半分くらいは、文学が役に立たないものだということを認めた上で、しかし自分にとっては大事なものだからと取り組んでいるようです。残りの半分は、文学は言葉という基本的なものを考えるものであるからとか、人間の心理を解明する資料になるといった理由で、世の役に立つはずだと考えているように見えます。 私は、後者の意見に…
自分らしくあるために個を尊重する - 書評: 菅野仁『友だち幻想』
菅野仁の『友だち幻想』を読みました。 流行っていたのでてっきり最近の本だと思っていたのですが、10年以上前に書かれたもので、著者はすでに亡くなっていたのですね。 相手のことをすべて理解し受け容れられるような人間関係は幻想にすぎず、それを追い求めすぎることは、かえって人とのつながりを窮屈で不快なものにしてしまう。より深い人間関係を志向しつつも、合わない人とは無理に合わせようとはせず、またそうせずにすむ社会をつくることが望ましい。これが、本書のメッセージだと思います。 周囲からの同調圧力を論じた本としては山本七平の『「空気」の研究』がありますが、こちらが同調圧力のために判断を誤ってしまうという実利…
障害を障害でなくしていくこと - 書評: 菊池良和『吃音の世界』
菊池良和の『吃音の世界』を読みました。 私は吃音をもっているわけではありませんが、言葉が出にくいことはあります。文章を書くことは嫌いでありませんが、小さいころは、人前で話すことが苦手でした。成長してからはむしろ大勢の前で話すことを楽しめるようになったのですが、ときどき困ることもありました。いまでも、電話を受けることは問題なくても、電話を自分からかけるのは苦手です。 一番よく思い出すのは、大学生のときのこと。アルバイト中、「ありがとうございます」という言葉が、なぜかうまく言えなくなったことがありました。うまく言えないかもしれないと思うと、そのためにまた言葉がぎこちなくなり、悪循環に陥りました。た…
少しだけ自由になるための対話の方法 - 書評: 梶谷真司『考えるとはどういうことか』
梶谷真司の『考えるとはどういうことか』を読みました。 この本では、考えるための手段として、哲学対話という営みが紹介されています。具体的な方法はいろいろとありえるのでしょうが、著者は以下のようなルールを推奨しています。 ①何を言ってもいい。②人の言うことに対して否定的な態度をとらない。③発言せず、ただ聞いているだけでもいい。④お互いに問いかけるようにする。⑤知識ではなく、自分の経験にそくして話す。⑥話がまとまらなくてもいい。⑦意見が変わってもいい。⑧分からなくなってもいい。 こうしたルールによって、自分の考え方の枠組みから離れることができます。すると、少しだけ自由に考えられるようになる。自由を獲…
仕事が忙しいときほど、自分のための時間をなんとかして確保すべきだと思います。その時間は、自己投資や気分を高めるために使います。私は仕事ばかりしていると、たとえそれが自分の好きなことであっても、果たしてこんな生活をつづけていていいものかという疑問をもってしまいます。 ただ、仕事が溜まっているときにあえて別のことを優先するのは、勇気のいることです。私がいま自分の時間を毎日なんとか確保しているのも、そうすることがメリットであると信じたからではなくて、実際にやってみたら効果があったからです。 きっかけは、佐藤優の『読書の技法』を読んだ(正確には、audibleで聴いた)ことです。私はもともと人よりは読…
リーダーは部下と理念に奉仕する - 書評: 池田守男、金井壽宏『サーバントリーダーシップ入門』
池田守男、金井壽宏の『サーバントリーダーシップ入門』を読みました。 リーダーシップ関連の最近の書籍を読んでみて分かるのは、命令し、周囲の人々を自分が思うように動かして成果を出すタイプのリーダーは、すでに過去の像だということです。組織が社会の変化に対して柔軟に姿を変えていかねばならない時代には、個々人の多様性と能力が最大限に発揮されねばなりません。そのためには、構成員一人ひとりが自ら考え行動するようになることが必要です。 反対に、こうした状態が実現できていれば、リーダーが箸の上げ下げまで指図する必要はありません。むしろ、構成員の能力を開花させる手伝いをすることこそ、よい組織をつくるためのリーダー…
日本で生きていきにくいと感じたら - 書評: 中島義道『非社交的社交性』
中島義道の『非社交的社交性』を読みました。 後半は著者の主催する哲学塾において、他者の考えや「常識」が分からないために参加者たちが引き起こす珍事件の紹介にあてられており、前半は著者自身の現代社会における生きにくさ(と強かさ)が描かれています。哲学に魅せられる人の生態を明らかにすることを基調としつつも、テーマは多岐にわたり、中にはどうして一緒に収録されているのか分かりかねる部分もありました。しかし、そうした部分も含めて、哲学をするということが(少なくとも著者のような人にとって)どういうことなのか、アイロニカルでしかも切実な思いが綴られて、心揺さぶられるものでした。 たとえば息子がウィーンの日本人…
一人ひとりがリーダーだと自覚する組織の強さ - 書評: 伊賀泰代『採用基準』
伊賀泰代の『採用基準』を読みました。仕事をする上でもっとリーダーシップについて学ぶ必要があると考え、ネットでよい参考書がないかと検索して見つけた本です。タイトルだけでは全くリーダーシップの本だとは思えないので、もし書店で探しただけであれば、決して見つけられなかったでしょう。書店にも、リーダーシップの棚ではなく、採用の棚にありました。タイトルで損をしてしまっているように思えてなりません。 さて、その中身ですが、大変勉強になりました。働き方、仕事に対する意識に大きなインパクトを与えるもので、読んでよかったですし、もっと早くに出会っていればと思いました。これから社会に出る人にも、すでに社会に出て働い…
日本人にとっての空気と水 - 書評: 山本七平『「空気」の研究』
山本七平『「空気」の研究』を読みました。すでに古典的な評価を受けている作品ですので読みたいとは思っていたのですが、思うだけでなかなかそのタイミングがなく、今回ようやく時間を確保することができました。 正直なところ、議論に完全についていくことはできませんでした。多少古い著作だということもあり、常識として説明なく引用されている時事的なことがらが一体どういう意味をもつとして紹介されているのか、分かりかねるところが多かったからです。しっかりと理解しようと思えば、田中角栄とかカーターとかの時代の出来事を、言及されるたびに調べて意味づけしていかなくてはいけません。これはなかなか骨の折れる作業で、私にはちょ…
妻の言動はすべて家族のため - 書評: 黒川伊保子『妻のトリセツ』
黒川伊保子の『妻のトリセツ』を読みました。 仕事で毎晩遅くに帰り、妻に家事や子育ての負担をかけているので、それを多少なりとも軽減するすべはないものかと思っていました。もちろん、早くに帰宅できない以上、物理的に手伝いをすることはできません。それでも、精神的な面から、何かしらサポートができないかと考えています。 その一方で、妻がどのようなことになぜストレスを感じるかということが、よくわかっていませんでした。私がストレスを感じるポイントと、妻がストレスを感じるポイントとが大きく異なっていて、よかれと思ったことがなかなか想定した通りの反応を引き出さない、ということがしばしばです。 そうした中で、この本…
あらゆる情報と自分の生き方をつなぐものとしてのメモ - 書評: 前田裕二『メモの魔力』
前田裕二の『メモの魔力』を読みました。書店のランキングで一位になっている本はとりあえず読む、ということをやっているので購入してみたのですが、読んでよかったと心から思っています。 自己啓発の本でたびたび目にするのは、「読むだけで終わりにするのではなく、行動に移さねばならない」ということ。この点で、『メモの魔力』はまさに、行動への強い動機を与える本です。メモを取るということが、単なる勉強とか仕事術といったレベルではなく、生き方そのものとして論じられています。第五章の題は、そのものずばり、「メモは生き方である」というものです。 紹介されている方法は、至ってシンプルです。 ①インプットした「ファクト」…
私は星のことには詳しくないのですが、基本的な星座の形くらいは分かります。ただ、形はわかっても、それが空のどの方角にあるのかということは分かりません。なので、たとえば小熊座はどちらの方角に見えるかといった質問を受けても、分からないと答えるしかありません。 しかし、夜中に家路についていると、ふと、オリオンが見えることに気づきました。これは数ある星座の中でも最も見つけやすいものではないかと思います。それでも、星座を見つけたというので少し嬉しくなって、あたりをぐるりと見回してみると、北斗七星がありました。そこから目を少し転じると、カシオペアもありました。 さて、北斗七星やカシオペアから北極星を見つけら…
仕事をしていて一つどうしても慣れないことがあります。夕方に仕事の電話やメールをすることです。社内の人相手ならまだしも、社外の相手だと、その電話やメール一本で関係を損ねてしまうのではないかと、心配になってしまいます。それは、私自身が夕方に仕事の連絡を受けたくないことの裏返しです。 人によって理想的な働き方は様々でしょう。独身であればいくらでも仕事をして構わないかもしれませんが、家族がいれば家族との時間を確保せねばなりません(家族をかえりみずに働く人も大勢いるようですが…)。仕事が終われば、大切な家族との約束、友人との約束、自分の趣味、自己投資など、その人独自の時間が始まります。そうした他者の時間…
鈴木大拙の『禅とは何か』を読みました。禅の何を学びたいかによって、満足度に差が出る本だと思いました。 タイトルは『禅とは何か』ですが、そのスコープは禅や仏教にとどまらず、「宗教とは何か」というところまで議論が及びます。その一方で、禅がいかに成立してきたかといった、個別的な歴史も紹介されています。 しかし、禅の実践について具体的なことは書かれていません。たとえば、経典の成立した背景についての説明はあっても、その経典の内容を解き明かすといったことはされていません。このため、座禅をどのようにするかとか、公案にはどのようなものがあるかといった、具体的な作法について学びたい人にとっては、適切ではありませ…
10月の終わりごろから、日々の幸福感、体調、集中力、睡眠時間などを記録しています。これを振り返ることで、自分がどのようなときに調子がよいのかとか、どのようなときに幸せを感じるのかなど、いろいろと見えてくると思ったからです。実際に、その通りでした。 この取り組みで、私は自分をよりよく知ることができました。たとえば、自分の幸福感と、その他の要素との相関を見てみます。すると、幸福感は、家族との関わり方や、直前数日間の睡眠時間と強く相関していることがわかりました。こうした傾向を知ることで、たとえば休日に子どもと遊んでやれなかったらきっと後悔するだろうとか、最近睡眠が足りていないから早めに休もうといった…
現代の子育て事例集 - 書評: 『NewsPicks Magazine vol. 3』
NewsPicks自体は私は利用していないのですが、最近書店でたまたま見かけた『NewsPicks Magazine』を購入しました。「未来の子育て」というテーマに興味を惹かれたからです。 買って正解でした。父親として、子どもをどのように育てるかということは日ごろから考えています。その見本となる事例が多々収録されていて、大変興味深く読みました。 やはり、と思ったのは、子どもをあまり束縛せず、好きなものにのめりこめるよう自由に育てるのがよい、という意見がほとんどであったことです。私自身も、自分が子どもだったころの経験から、自分の子どもはそのように育てようと思い、実践してきました。私の子どもはまだ…
決断のための拠り所としての普遍化可能性 - 仕事と父親としての役割
最近、前職の後輩と食事をしました。退職した身だからかえって相談しやすいのか、会社の中でどのような仕事をするべきかとか、何を勉強するべきかといったことを訊かれました。その中で、私自身がどのようなことをしたいのか、ということも話す時間がありました。 やりたいことはいろいろとありますが、それを全部挙げたところで、時間を浪費するばかりであまり意味はないと思います。そこで、もう少し抽象的に簡潔に答えられはしないものかと考えました。 私の答えは、「世の中の大半の人が私と同様の生き方をするようになっても、社会が回っていくような生き方がしたい」というものです。倫理学の言葉を使うなら、「普遍化可能性が高い生き方…
家族にとっても自分にとっても望ましい生き方を見つけること――2019年を実りある一年にするために
年末に書いたことはあくまで私個人についてのことだったのですが、今回は、もう少し範囲を広げて、家族についてのことを書きます。 ここ数年、年始にはいつも一年の目標を立ててきました。昨年の目標は、生き方を見直すきっかけをつくること、具体的には、転職をすることでした。その目標は、完全に願った形でとはいきませんでしたが、達成できました。それ以前は、仕事と自分のやりたいこととが乖離しており、仕事をすることが自分の前進につながっているという実感がありませんでした。今は、仕事の全部が自分の望んだものというわけではありませんが、自分の成長につながる仕事ができています。これは、転職という決断をしなければ得られなか…
私は流行の音楽に疎いのですが、年に一度、紅白歌合戦だけは観ています。音楽に限らず、その年にどのような出来事があって、どのような人が活躍したかということがダイジェストで紹介されるので、これだけで、ある程度は流行が分かります。ただ、やはり楽しみなのは音楽そのものです。 私は音楽の経験がないので、それぞれの音楽家が技術的にどれくらい優れているのかといったことは分かりません。それでも、音楽には心揺さぶられます。今この文章を書くことにしたのも、椎名林檎と宮本浩次のパフォーマンスに強い印象を受けて、それを忘れないようにしたいと思ったからです。 私は本来文化・芸術に関わることをして生きていきたいと望んでいま…
時間に追われる生活を楽しいと思えるかどうかは、人によって大きく異なると思います。一方、やらねばならないことがたくさんあっても、それが好きなことであれば大した苦にはならないかもしれません。 時間に追われているかどうかと、好きなことができているかどうかとの二つの軸で、四つの象限をつくることができます。理想は、時間に追われておらず、しかも好きなことができていることです。この状態であれば、たとえ不意に忙しくなったり、つまらない仕事が舞い込んできたりても、少しの我慢でやっていけるものです。 反対に、つまらない仕事で忙殺されている場合は、あまり悩む余地がありません。それは全く望ましい状況ではないので、状況…
仕事の効率化をしたいと考えていたので、その前段階として、今日から、時間研究というほどではありませんが、一つ一つの作業にどのくらいの時間がかかっているのかを記録し始めました。まだ初日なので、それをもとに何かしら判断するといったことはできませんが、いろいろと思うことはあります。 第一に、想像していた以上に、予期しない仕事や用事がふりかかってくるものだということ。作業に取り掛かるのと同時にその目標終了時間も記録していたのですが、実際には途中で声をかけられるなどして仕事を中断せざるをえない場面が多々ありました。 第二に、時間を記録するという一手間をかけることで、かえって作業にかかる時間を減らせるように…
毎日の小さな積み重ねが長期的には大きな差を生む、ということは、誰でも理解していることでしょう。しかし、それを実践するのは難しい。ただ、何かを習慣化しようと思うだけでは、なかなかうまくはいきません。 私は、習慣としてやるべきことをグーグルカレンダーに登録しています。毎日の決まった時間に、15分だけ時間を確保しておき、通知が来るように設定しておく。そして、その時間には、15分だけだからと、とにかくその習慣を実践します。 こうした15分の習慣を、朝、昼、晩と、一日三回設定しています。短い時間でも、集中できるので、かえって長い時間を割くより効果があったりもします。 時間に追われる日々の中でも、細かな習…
政治とは何のためのものか? - 書評: 橋爪大三郎『政治の哲学』
議会の議席数とか、日本にどんな政党があるかといったことは、学校の政治経済でも教わりますし、社会に出れば教養として知っておくべきこととみなされます。しかし、なぜ議会というものが生じたのか、なぜ政党というものが生じたのかという質問に対しては、明確な答えを提供できる人は少ないのではないでしょうか。 橋爪大三郎の『政治の哲学』は、こうした政治にまつわるものごとを、日常的に目にするより一段深い階層から論じています。いわゆる、「いまさら聞けない」ような基本的なことから、「そもそも聞いたことがない」ような本質的な理解まで、政治というものを理解するための土台を提供してくれます。 難易度は決して高くありません。…
複雑な仕事をルーティンとして進めるために - 書評: 水野学『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』
チームとして仕事をする機会が増え、プロジェクトをうまく動かすにはどうすればよいかということを頻繁に考えるようになったので、参考になるかと思って、水野学の『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』を読んでみました。 多くのプロジェクトをこなす人気のデザイナーだけあって、書かれていることはどれもシンプルながらも経験に根ざした実践的なものだと感じました。仕事というものは基本的にはどんなものも 調べる→大まかな方向性を決める→具体的なプランをまとめる→仕上げ作業をする→完成 というプロセスにのっとって行われるものであるということを前提に、各プロセスで具体的にどうするべきかということを説明し…
人はなぜ恐怖を楽しむことができるのか? - 書評: 戸田山和久『恐怖の哲学』
戸田山和久の『恐怖の哲学』を読みました。 著者は哲学に関する最新の話題を色々な書籍で分かりやすく紹介しています。『哲学入門』はとくにお勧めです。 書評: 戸田山和久『哲学入門』 (1) - 頭の中に種をまく さて、本書は恐怖をテーマとしつつも議論が多岐にわたっているため簡単に要約することはできませんが、前半は恐怖あるいは広く情動というものの性質について述べ、後半はホラーというジャンルがいかにして成立しうるのかということを論じています。 私自身は、ホラーというものがあまり好きではありません。暗い夜道を歩くといった実際のことには恐怖を感じないのですが、映像では何か予期しえないことが起こるという不安…
私は一年弱ですが、フランスで働いていたことがあります。社会人となって間もないころに出向したので、フランスでの働き方が世間一般での働き方だと思っていたのですが、日本に帰ってから、どうもそうではないようだと理解しました。 フランスは権利の国であり、一方で労働は義務です。労働という義務に対しては、休暇という権利が与えられますし、対価として給与が支払われます。サービス残業というものはありません。週の労働時間は35時間や37時間で、それを万一超過すれば管理者が責任を問われます。 私の勤務先はフレックスタイム制だったので、各々好きな時間に来て好きな時間に帰っていました。だいたい、8時から9時の間に始業する…
やりがいを求めて転職をしてから、おおよそ二ヶ月半が過ぎました。いま、難しい時期に来ています。 新しい職場はベンチャー企業であり、やる気に溢れた人々が、凄まじい量の仕事をしています。私にとっても、仕事は、多少は期待と違うところはあるにせよ、学ぶ機会が多く有意義な時間をすごせていると思います。 しかし、家族にとっては、私が土日にまで仕事のことを考えていることは、決してよいことではありません。妻には多くの苦労をかけています。 これは私自身にとっても、あまりよいことではありません。忙しくなって、改めて、自分にとって何が大事かを強く自覚しました。私にとっては、何よりも家族が大事です。子どもたちが遊んでほ…
三連休なので、家族と旅行に出かけました。 子どもが乗り物好きなので大宮の鉄道博物館へ行きました。私自身はとくに鉄道が好きというわけでもないのですが、科学技術史を専攻していたので、鉄道という技術がどのように発展してきたのかということは、多少は知っているつもりでいました。 しかし、鉄道博物館の展示を見ると、その歴史の深さに圧倒させられる思いでした。これまで想像したことがありませんでしたが、いま誰もが当たり前に利用している鉄道も、それをつくるために無数の技師たちが費やした努力は、ただならぬものだったのでしょう。 最近、仕事とは何かということをよく考えます。鉄道にかかわった人々がどのような志をもって仕…
「そもそも」という言葉は、好き嫌いが分かれると思います。これが好きか嫌いかは、労力を費やしたことに対する価値観の違いで決まるところが多いように思います。 いわゆるサンクコストに見切りをつけて新しいことに取り組むのがよい人は、そもそもという言葉が好きなのではないでしょうか。反対に、せっかく苦労をしたのだからとさらに努力を重ねる人は、そもそもという言葉は嫌いかもしれません。 私はこの言葉が好きです。かと言って、サンクコストが気にならないわけでもありません。それまでの努力をなんとか実らせようとして袋小路に迷い込むこともしばしばあります。 しかし、経験的に、心が晴れ渡るように思うのは、立ち止まり振り返…
「ブログリーダー」を活用して、ensemencementさんをフォローしませんか?
指定した記事をブログ村の中で非表示にしたり、削除したりできます。非表示の場合は、再度表示に戻せます。
画像が取得されていないときは、ブログ側にOGP(メタタグ)の設置が必要になる場合があります。