松尾芭蕉『野ざらし紀行』口語訳金澤ひろあき<前半2>大和の国(奈良)に行脚して、葛下(かつげ)の郡、竹の内という所にこの同行人ちりのふるさとがあるので、数日とどまって足を休める。わた弓や琵琶になぐさむ竹の奥二上山当麻寺に詣でて庭の松を見ると、たぶん千年も経ているのだろう。『荘子』の大木の話と同じく、大きさは牛を隠すとも言っただろう。この松は心がないといっても、仏縁にひかれて伐採の罪を免れたのが、幸いであって貴い。僧朝顔幾死にかへる法の松ひとり吉野にたどり着いた時に、まことに山深く、白雲は峰に重なり、霧雨は谷を埋めて、きこりの家がところどころ小さく、西に木を伐る音が東に響き、寺々の鐘の音は心の底にこたえる。昔よりこの山に入って世を忘れた人が、多くは詩に逃れ、歌に隠れた。いやもう唐土の聖地盧山と同じようだと言...松尾芭蕉『野ざらし紀行』口語訳<前半2>