「宇田川寛之第一歌集『そらみみ』」(2017年・いりの舎刊)」を読む
待ち合はせ時間に遅れ焦る吾を背後から呼ぶこゑはそらみみわれよりも花に詳しき子とともに春まだ遠き団地をあゆむ鉄棒にぶらさがる子のまなざしの先ひらきたる花水木、白前髪をはじめて切られ泣きべそをかきにし吾子はわが膝に乗るお気に入りの枯れ葉をポケットに入れて全力疾走繰り返す子よ補助輪をつけて娘は疾駆せりそのあとを追ふわれの小走り補助輪をけふより外せる自転車よ団地の庭の子のあとを追ふ長靴を履いて駆け出す子の...
〇 くっついた餃子と餃子をはがすとき皮が破れる方の餃子だ〇 煌々とコミュニケーション能力が飛び交う下で韮になりたい〇 壜詰めに静かなものをこさえてはこさえてばかりの祖母の壜詰め〇 屋根のあるプラットホームに屋根のないところがあってそこからが雨〇 男子用公衆トイレ掃除する女性の横で男性はする〇 小便を仲立ちにしていま俺は便器の水とつながっている〇 履歴書の空白期間訊いてくるそのまっとう...
「大口玲子第六歌集『ザベリオ』」(2019年・青磁社刊)を読む
〇 菜の花は何を忘れて この春もひたむきに黄をこぼしつつ咲く〇 山茶花のくれなゐこぼす木の下へわれは密書を携へて来つ〇 生ハムを一枚いちまいはがすとき鎌倉彫のお箸をつかふ〇 九階にのぼればあをき海の見えパジャマの人の背中うごかず 〇 面倒をやり過ごさむとする時に言ふなり「夫と相談します」〇 口論のさなか目を閉ぢ天からの雪に感応して立ち上がる〇 祈りとは遠く憧るることにして消しゆく われ...
「鈴木美紀子第一歌集『風のアンダースタディ』(2017年・書肆侃侃房刊)」を耽読する
〇 ハンガーに綿のブラウス羽織らせて今日のわたしのアンダースタディ〇 ばらされるときがいちばん美しい花束のような嘘をください〇 どちらかが間違っている 夕闇の反対車線、あんなに空いてる〇 過去からかそれとも未来からなのか夫がわたしを旧姓で呼ぶ〇 旧姓で今でも届くDMは捨てないでおく雨に濡れても〇 この指環はずしてミンチをこねるときわたしに出来ないことなんてない〇 本心が読み取れなくて何...
事の序でに「山田航第一歌集『さよならバグ・チルドレン』」も読む
〇 誰からもパスを回されないままに僕ら昭和のロスタイムを生きる〇 走らうとすれば地球が回りだしスタートラインが逃げてゆくんだ〇 うろこ雲いろづくまでを見届けて私服の君を改札で待つ〇 嘘を吐くさまも愛しき少女より盗み来たれる緋のトゥ・シューズ〇 やや距離をおいて笑へば「君」といふ二人称から青葉のかをり〇 地球儀をまはせば雲のなき世界あらはなるまま昏れてゆくのか〇 僕らには未だ見えざる五...
〇 水に沈む羊のあをきまなざしよ散るな まだ、まだ水面じゃない〇 倉庫街にプレハブ建てのラーメン屋一軒ともりはじめる日暮れ 〇 鉄塔の見える草原ぼくたちは始められないから終はれない〇 溺れても死なないみづだ幼さが凶器に変はる空間もある〇 球根の根が伸びてゆく真四角の教室にそれぞれの机に〇 彫刻刀を差し込む音が耳穴にがさりと響く夕影のなか〇 走るしかないだらうこの国道がこの世のキリトリ...
「安井高志遺歌集『サトゥルヌス菓子店』(コールサック社刊・2018年)」を読む
〇 子供たちみんなが大きなチョコレートケーキにされるサトゥルヌス菓子店〇 おびただしいガラスの小瓶 あの人は天使をつかまえようとしていた〇 遠い目の灰色ガラスの水の底むすめはひとり歌をうしなう〇 霧のなかに歌がきこえる繭のなか滅びをまってるバレリーナたち〇 朝摘みのぶとうと共に収穫された娘たち 霧に果てたい〇 髪の毛が塩をふく朝焼けにただただ真っ白い兄さんのシャツ〇 ハッカ水飲まして...
〇 わたくしが樹木であれば冬の陽にただやすやすと抱かれたものを〇 飴玉のようなボタンと言いながら外してくれた夜 雑司ヶ谷〇 横にいるあなたの点滅たしかめるさっき魚を殺めた指で 〇 ほの暗い空蟬橋を渡るとき握らずにいた手だったと思う〇 自転車の冷たい管に触れている手を取らぬまま駅で別れた〇 おばさんでごめんねというほんとうはごめんとかないむしろ敬え 〇 太腿も腕も絡めて眠りたり目覚...
〇 したあとの朝日はだるい 自転車に撤去予告の赤紙は揺れ〇 年下も外国人も知らないでこのまま朽ちてゆくのか、からだ〇 なんとなくみだらな暮らしをしておりぬわれは単なる容れ物として 〇 あんなにも輝いていたホタルイカためらうことなく醤油にひたす〇 振り向けばみんな叶ってきたような うす桃色に焼き上がる鮭〇 やわらかい部分に指を入れやれば鋭く匂い立つ早熟みかん〇 肉食んで皆が呆けていたり...
〇 親指はかすかにしずみ月面を拓くここちで梨を剥く夜〇 さよならのようにつぶやくおはようを溶かして渡す朝の珈琲〇 椎茸はふくふく満ちるとりもどせない夕暮れをかんがえている〇 かみさまの真似をしてみる20°Cの試験管にはみどりが澱む〇 消えてしまえきえてしまえと冬の夜に紙石鹼をあわだてている〇 声をひとつ抱いて乗り込む車輛には北行きとのみ記されており〇 遠くまできたねと深夜営業のあかりをふ...
「小川佳世子第一歌集 『水が見ていた』(ながらみ書房刊 ・2007)」を読む
〇 永遠の入口としてあの日すこし開いてた窓を水が見ていた〇 この川に蛍がいたという人の横顔になにか聞けないでいる〇 どうしてもいたたまれずに席を立つ確かにあったずっと前にも〇 まちなかはもうあきまへんと人は言うあかん一人が此処に住みおり〇 もうええんちゃうのと君は言っていた私は麦酒の泡を見ていた〇 のりものがあたたかかったころのこと 白(あお)馬黒馬そなたの背中〇 どうしたらよいかわか...
〇 鮟鱇の部長課長と並びおり〇 産みたての赤子並べる日雷〇 十六夜のひとりのためにバス停まる〇 椅子あげて春の渚が広がりぬ〇 おじさんの空気を抜いて桜餅〇 軽々と猫放り投げ春の月〇 黒板をぬぐえばみどり卒業す〇 気に食わぬ口紅ならべチューリップ〇 黒土の大根浮かす力かな〇 化粧臭き母と並んで春惜しむ〇 股間よりのぞく青空春休み〇 ゴム跳びの次は冬日の高さまで〇 埼玉の富士...
〇 アイスキャンディー果て材木の味残る〇 秋の湖しばらく息を吐かずにおく 〇 朝顔や硯の陸の水びたし〇 足長蜂足曲げて飛ぶ宝石屋〇 暗室に時計はたらく冬の蝶〇 空蝉に指の湿りを移しけり 〇 海に着くまで西瓜の中の音聴きぬ〇 音いつぱいにして虫籠の軽さかな〇 牡蠣噛めば窓なき部屋のごときかな〇 傘差すに音のいろいろ芝青む〇 傘立てに日傘の影を忘れけり 〇 逆光の汽船を夏と見しこ...
「本田瑞穂第一歌集『すばらしい日々』 (2004年・邑書林刊)」を再読する
〇 はじめからゆうがたみたいな日のおわり近づきたくてココアをいれる〇 まひるまにすべてのあかりこうとつけたったひとりの海の記念日〇 忘れ物とりに戻った玄関のおぼえていたい靴の大きさ〇 新潟のさといもぬめるしっかりとここで暮らして雪を見なさい〇 春を待つ気持ち支える屋根からは降った以上に落ちてくる雨〇 手を振ると女はすこし手を振って自分の産んだものをみていた〇 踏切でひとの叫びに似た音...
http://tobasan88.blog.fc2.com/blog-entry-467.html
制服の下に君との夏かくし地理の時間は潮風を聴くまなうらを流れる星の鋭角よ たしかにすきなひとがいた夏あたらしい蛍光灯のまばゆさで白衣が君のことばを照らす深海の珊瑚のことをおもいつつ指は探せり君の背骨をワイパーがぬぐい残した雨つよく光るね駅へ近づくほどに冬のひとでしたあなたは 背景の余白をうみの色に染めてもみずうみを塗っていた筆あらうときしずかに透けてゆくきみの声背の高きひとから秋になることをふいに...
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