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2018/11/24

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  • 『日ソ戦争』(麻田雅文)

    日ソ戦争 帝国日本最後の戦い (中公新書) 作者:麻田雅文 中央公論新社 Amazon 第二次世界大戦の最終盤にソ連が日ソ中立条約を破って参戦し、日本が降伏文書に調印した後まで続いた「日ソ戦争」の経過を論じた本です。 本書では、原爆の有無にかかわらず自軍の損耗を避けるためにソ連の参戦を求め続けたアメリカ、当初はそれを渋りながらも着々と準備を進め、最終的にはヤルタでの密約を実力で担保しようと参戦したソ連、「対ソ静謐」の建前上(ソ連領攻略はともかく)満州防衛の準備も十分にできず、千島はむしろ米軍に備えながらソ連は終戦の仲介を求め続けた日本・・・という戦略面の諸相をまず示します。 その上で、西から蹂…

  • 終戦後に島民を殺した日本兵/『沖縄戦』(林博史)

    沖縄戦 なぜ20万人が犠牲になったのか (集英社新書) 作者:林博史 集英社 Amazon 沖縄戦の経緯・展開を踏まえつつ、そこに人々がどのように巻き込まれ、動員され、多数の生命が失われるに至ったのかを豊富な事例とともに論じる本です。 凄惨な事例が多く、鬱々とした気持ちで読み進めざるを得ない箇所ばかりでしたが、特にショッキングだったのは6月23日はおろか、8月15日以降に離島で起こった日本兵らによる住民虐殺でした。敗戦の事実を知らず、それを伝えにきた島民が殺されたり、それを知りながらも朝鮮人男性をも含めて虐殺した事例が紹介されています。 一方で、日本兵にも米兵にも非戦闘員を守るべく行動した人*…

  • 『北朝鮮に出勤します』(キム・ミンジュ)

    [:contents] 北朝鮮に出勤します―開城工業団地で働いた一年間 作者:キム・ミンジュ 新泉社 Amazon ツン9割のツンデレ 南北経済協力の象徴だった開城工業団地の食堂で1年間、栄養士として働いた韓国人女性によるエッセイです。栄養士でありながら食堂のマネジメントにも関わる立場で*1、北の職員や彼女らを束ねる強権的な*2「班長」、食材をかすめ取っていく税関職員、父に似て優しい警備員…などと時に対峙しながら交流してきた様子が描写されています。 一言で言うと北の人たちは「ツン9割のツンデレ」で、公式の建前を非常に重視して*3自分たちの非はとことんまで認めず、南の食材や化粧品をけなす割には平…

  • 『NEXUS 情報の人類史』(ユヴァル・ノア・ハラリ)

    NEXUS 情報の人類史 上 人間のネットワーク 作者:ユヴァル・ノア・ハラリ 河出書房新社 Amazon NEXUS 情報の人類史 下 AI革命 作者:ユヴァル・ノア・ハラリ 河出書房新社 Amazon 「ネクサス」としての情報 『サピエンス全史』や、 canarykanariiya.hatenadiary.jp などの著作で世界的に有名な著者が、情報が人類史の中で果たしてきた役割を追いながら、AIというこれまでと異なる情報テクノロジーが何をもたらすか考察する本です。 著者は、情報が異なるものを結びつけて新しい現実を創り出す面に注目し、物語や聖典、文書などで他の大勢と協力できたことが、人間が…

  • 『日本のカルトと自民党 政教分離を問い直す』(橋爪大三郎)

    【目次】 カルトとは何か、何が該当するのか 「政教分離」にどこまで含めるか 日本のカルトと自民党 政教分離を問い直す (集英社新書) 作者:橋爪大三郎 集英社 Amazon カルトとは何か、何が該当するのか 自民党との関わりが指摘される生長の家・日本会議、旧統一教会の教理や歴史、政治との関わりを紹介しつつ、「カルトとは何か」「政教分離はどのようにあるべきか」を論じた本です。 まず冒頭で、カルトを「信徒の実生活と両立できないほどの貢献を求める宗教」と定義付けます。 その上で、生長の家がアメリカの相対主義的な思潮「ニューソート」の系譜で成立し、その可変性の高いあり方ゆえ戦時中に皇国主義と結びついた…

  • 『ルポ 国威発揚』(辻田真佐憲)

    ルポ 国威発揚 「再プロパガンダ化」する世界を歩く 作者:辻田真佐憲 中央公論新社 Amazon 長野県の山中にある安倍晋三をまつる神社、虎ノ門事件を起こした難波大助の実家、発泡スチロール製の神武天皇像、「救国おかきや」の三重塔、ムッソリーニの生家、相手への威嚇がショー化している印パ国境、北朝鮮を臨む丹東、そしてトランプタワー…国内外の国威発揚の現場を訪ねたルポです。 掲載旅行記一覧【先頭に固定】 - かぶとむしアル中 私自身、こういう旅は好きなので楽しく読むことができました。 印象深かったのは「モニュメントは永久不変なものではなく、まるで生き物のように呼吸し、新陳代謝する」との指摘です。時を…

  • 安倍官邸の事績と内実を追った大作/『宿命の子』(船橋洋一)

    【目次】 失敗に学び鍛えた「統治力」 本当にこの道しかなかったのか 政権「暗部」への検証は より分断した社会で 宿命の子 安倍晋三政権クロニクル 上下2巻セット 文藝春秋 Amazon 失敗に学び鍛えた「統治力」 著名なジャーナリストである著者が、7年8カ月にわたった第二次安倍政権の事績と意思決定の内実を追った、上下巻合わせて1100ページを超える大作です。安倍晋三元首相がアメリカ、中国、ロシア、韓国、北朝鮮、オーストラリアや欧州の首脳たちとどう切り結び、どのような外交・安全保障政策を展開してきたかを中心に詳述されています。各首脳とのやりとりという面では、 canarykanariiya.ha…

  • 切り口は興味深いが本としての編集が×/『自民党幹事長』(星浩)

    自民党幹事長 ――歴史に見る権力と人間力 (ちくま新書) 作者:星浩 筑摩書房 Amazon 朝日新聞社の政治記者などとして知られる著者が、自らの取材経験を交えながら自民党幹事長の役割や歴史について書いた本です。 歴代幹事長の列伝(特に息遣いの伝わる「安竹宮」以降)や主に総裁との関係に基づく類型論、党則上の権能や代行以下のバックオフィスについてなど、興味深い内容が少なくなく、戦後の日本政治を切り取る視角の一つとしての意義を感じることができました。 それだけに、全体として内容の重複(列伝で書かれたエピソードが何度も登場する)や誤字脱字が目立ったのは残念でした。取材していた橋本龍太郎の名前に誤植が…

  • 家族旅行の予習に/『台湾を知るための72章』

    台湾を知るための72章【第2版】 (エリア・スタディーズ147) 作者:赤松 美和子,若松 大祐 明石書店 Amazon 来月、諸事情で台湾への家族旅行をねじ込んだため読んでみました。外省人/本省人だけでなく、客家やオーストロネシア系の「原住民族*1」や東南アジアなどからの新たな移民も含めた多文化・多民族性、お馴染み「一つの中国」をめぐるさまざまな論点、民主化の過程で生じた「移行期の正義」に関する問題など、さまざまな論点がわかりやすく紹介されており、非常に興味深かったです。 前二つの絡みで特に印象的だったのは、現在も僅かに台湾に居住するチベットやモンゴル系の人たちの歴史です。彼らは中華民国の「…

  • この男が帰ってくる/『ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日』(ジョン・ボルトン回顧録)

    【目次】 政権内や各国首脳とのやりとりを詳述 第1期政権のアウトプットに影響した3要素 再登板まであと数日 ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日 作者:ジョン・ボルトン,梅原季哉,関根光宏,三宅康雄 朝日新聞出版 Amazon 政権内や各国首脳とのやりとりを詳述 第1期トランプ政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトンが、ホワイトハウスでの経験を綴った本です。イラン・シリアなどの中東や北朝鮮のみならず、中国・ロシア・ウクライナ・アフガニスタン・ベネスエラなどをめぐる問題で、トランプ大統領を中心にどのようなやり取りがなされ、結論に至った/至らなかったのかを詳述してお…

  • 「任那日本府」は百済にとっての「日本系のジャマな奴ら」/『加耶/任那』(仁藤敦史)

    加耶/任那―古代朝鮮に倭の拠点はあったか (中公新書) 作者:仁藤敦史 中央公論新社 Amazon 新羅・百済・高句麗の3国が争う中、統一した王権が確立しなかった加耶諸国の歴史を朝鮮古代史の中に位置付けながら論じつつ、そこにあったとされる「任那日本府」がどのようなものだったのか、様々な史料を批判しながら明らかにしていく本です。 結論だけ言ってしまうと「任那日本府」はヤマト王権の出先機関ではなく、ヤマト王権から遣わされた将軍・使者や、そういった人々が通婚・土着化したものの総称だった、というのが本書の主張です。そこには、日本の中国地方を根拠とする吉備氏を出自とするような人々も含まれています。彼らは…

  • 『島津氏と薩摩藩の歴史』(五味文彦)

    島津氏と薩摩藩の歴史 作者:五味 文彦 吉川弘文館 Amazon 日本中世史の大家といえる著者が、院政期から幕末までの島津氏と薩摩・大隅地方の歴史を追った本です。薩摩藩成立以降の支配制度や経済、文化、幕末に至るまでの藩政改革などについてはよくまとまっていると感じましたが、戦国以前の島津氏の歴史については、一族の争い*1が複雑なこともあってやや細切れ感がありました。土地支配のあり方などは比較的記述が充実しており、著者の眼目がそちらにあったということなのかもしれません。 *1:こちらに関心がある方は『図説 中世島津氏』(新名一仁)などの方がよいかもしれません

  • ポスト冷戦時代の終わりに冷戦時代を学ぶ/『冷戦史』(青野利彦)、『独仏関係史』(川嶋周一)、『ドイツ統一』(アンドレアス・レダー)

    【目次】 国際システムとしての冷戦 「中原の大国・ドイツ」をどう位置付けるか 日韓関係との比較において 「ドイツ問題」の次は 「敗者」をちゃんと包摂してこそ 欧州を中心とする国際政治史を勉強してみました。 国際システムとしての冷戦 冷戦史(上) 第二次世界大戦終結からキューバ危機まで (中公新書) 作者:青野利彦 中央公論新社 Amazon 冷戦史(下) ベトナム戦争からソ連崩壊まで (中公新書) 作者:青野利彦 中央公論新社 Amazon 冷戦を「2陣営が地政学的利益とイデオロギーをめぐり対立し、多くのアクターがその構造を念頭に行動した」国際システムとして捉え、米ソ・欧州・東アジア・第三世界…

  • 『東大政治学』(東京大学法学部「現代と政治」委員会編)

    東大政治学 東京大学出版会 Amazon その名の通り、東大の1・2年生向けに法学部の政治系の教員が行ったリレー講義をもとにした本です。担当する各科目の基本的事項を説明する章もあれば、「戦間期フランスのある村における利益誘導事情」といった個別の事象や、時事的な内容から話を展開していく章もあり、それぞれ非常に興味深く読むことができました。 一番面白かったのは「憲法をめぐる政治学」(境家史郎)で、なぜ日本国憲法が外れ値的にまで改正されずに存続しているかを論じています。それによると、そもそも規律密度が低い(ざっくり規定されている)ため、重要な統治機構や選挙制度改革も法律の制定で対応できる点に加え、有…

  • やや地味だけど「元老の中の元老」/『西郷従道』(小川原正道)

    【目次】 兄との「一定の了解」 「賊将の弟」だから首相を固辞したのか 「元老の中の元老」 西郷従道―維新革命を追求した最強の「弟」 (中公新書) 作者:小川原正道 中央公論新社 Amazon 兄との「一定の了解」 明治維新の大功労者ながら「逆臣」として城山の露と消えた西郷隆盛の弟でありつつも、明治政府内で何度も首相候補に擬せられ、元老として遇されるに至った西郷従道の生涯を追った本です。 維新初期に洋行の機会を得た従道は、兄との一定の了解の下で政府に残り、奇しくも西南戦争における政府側の兵站を担うことになります。兄の死を知った際の描写は気の毒でなりませんでしたが、その後は海相、農商務相、内相など…

  • 『2030年の広告ビジネス』(横山隆治、栄枝洋文)

    2030年の広告ビジネス デジタル化の次に来るビジネスモデルの大転換 作者:横山 隆治,榮枝 洋文 翔泳社 Amazon 2023年時点で、30年の広告ビジネスを展望する本です。著者が通じる広告代理店業界目線の話が多めではありましたが、興味深い目線がいくつも得られました。例えば、 今や代理店のライバルはコンサル会社であり、戦い抜くためには広告というアウトプットのみならず顧客の課題を理解してマーケティング戦略全体を立案していかねばならない AIはクリエイティブ含め、いきなり広告やマーケティングの核心に入ってくる可能性がある コネクテッドTVでの(YouTuberのチャンネルというよりは)高クオリ…

  • 琵琶湖は最初、伊賀上野にあった/『日本列島100万年史』(山崎晴雄、久保純子)

    【目次】 日本アルプスはプレート沈み込みの「皺」 「大陸の端にある」意味 日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語 (ブルーバックス 2000) 作者:山崎 晴雄,久保 純子 講談社 Amazon 日本アルプスはプレート沈み込みの「皺」 現在の日本列島の地形に大きな影響を与えたとされる、ここ100万年の地形発達史をまとめた本です。日本列島全体の成り立ちから、各地域の特徴的な地形が形成された経緯までを紹介しています。 例えば▽日本アルプスはプレートがやや斜めに沈み込んでいることによる「皺」である*1▽かつて富士山が山体崩壊して土砂が足柄平野を埋めた▽琵琶湖は最初は伊賀上野あたりにあった▽近…

  • 『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか』(紺野大地、池谷裕二)など

    【目次】 脳に電極をブッ刺さなくても 内心の自由をどう守るか こちらも一緒に読みました 脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線 作者:紺野大地,池谷裕二 講談社 Amazon 脳に電極をブッ刺さなくても 生物(人間)の脳と人工知能を連携させることで、可能になる未来や課題について論じた本です。書名からは「頭蓋骨に穴を開けて脳に電極をブッ刺す!」みたいなSF的世界が思い浮かびそうで須賀、(確かにイーロン・マスクはそれをやろうとしているものの)そうでない連携方法も多く紹介されています*1。機材を装着することで脳の活動部位を測定し、精神疾患を抱えている人との類…

  • 『文系のためのめっちゃやさしい統計』(倉田博史)、『統計でウソをつく法』(ダレル・ハフ)

    東京大学の先生伝授 文系のためのめっちゃやさしい 統計 ニュートンプレス Amazon 統計でウソをつく法 (ブルーバックス) 作者:ダレル・ハフ 講談社 Amazon どちらも専門的な知識や計算に立ち入らずに学べる本です。 前者は本当に基礎のところをわかりやすく解説しています。最初の一冊にはおすすめできそうです。 後者はグラフや統計(のまがいのもの)が孕みうるウソをどう見破るか、洒脱な筆致で論じた本です。半世紀以上前のアメリカの本なので、分かりにくい事例がやや多かったですけれども、以下のくだりは非常に印象的でした。 統計というものは、その基礎は数学的なものであるが、科学であると同時に多分に技…

  • 決断主義に陥らないために/『暇と退屈の倫理学』(國分功一郎)

    暇と退屈の倫理学(新潮文庫) 作者:國分功一郎 新潮社 Amazon 「人は退屈とどう向き合うべきか」との問いを切り口に、多くの哲学者の考えてきたことや経済史の知見を追いながら、著者と一緒に思索の旅をする一冊です。話題になった本なので、読んでいなくてもタイトルは聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。 著者も言うように、通読することに楽しみや意味がある本だとは思いま須賀、結論に近い部分だけをかいつまんで言うと、ハイデガーの決断主義的な退屈論の枠組みを批判的に用いつつ「退屈だからといって決断(すること/した内容)の奴隷になるのではなく、うまく気晴らしを楽しめたり、外部のいろんな刺激を…

  • 「インナーサークル」による外交とその後/『近代日本外交史』(佐々木雄一)

    近代日本外交史-幕末の開国から太平洋戦争まで (中公新書 2719) 作者:佐々木 雄一 中央公論新社 Amazon ペリー来航からポツダム宣言受諾までの近代日本外交の歩みを概説した本です。「政治外交史」でなく「外交史」として、各時期の国内における外交アクター-その意思決定方法や国際秩序観-により着目した議論となっている点が興味深いです。 具体的には、第一次世界大戦ごろまでは特定のメンバー*1が外相・外務次官・主要国の大使を歴任するインナーサークルを形成しており、彼らは基本的に当時の国際秩序を一定程度信頼し、その中で日本が発展することは可能と見做していました。当時の価値観における自国の正当性を…

  • 『別冊 科学名著図鑑』(ニュートンプレス)

    別冊 科学名著図鑑 (ニュートンムック) ニュートンプレス Amazon 別冊 科学名著図鑑 第2巻 (Newton別冊) ニュートンプレス Amazon 新聞の書評欄含めブックガイドものは割と好きなので須賀、最近の研究動向含めて手広く知ることができてよかったです。折を見て、何冊か読んでみるつもりです。

  • 『ラザルス 世界最強の北朝鮮ハッカーグループ』(ジェフ・ホワイト)

    【目次】 侮れないサイバー攻撃力 より安価な「兵器」 北朝鮮についての記述はちょっと… ラザルス:世界最強の北朝鮮ハッカー・グループ 作者:ジェフ・ホワイト 草思社 Amazon 侮れないサイバー攻撃力 バングラデシュの中央銀行の資金を奪う、ソニー・ピクチャーズの内部情報を暴露する、イギリスの多くの病院をはじめとする多くのコンピュータをランサムウェアに感染させる、暗号資産を度々窃取する…こうしたサイバー犯罪に手を染めているとされる北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」を追った本です。 読み物として十分楽しめますので、個別の事件についてはぜひ読んでいただきたいと思いま須賀、やはり特筆すべきは、彼らがい…

  • 双子研究からジョン・ロールズへ/『能力はどのように遺伝するのか』(安藤寿康)

    【目次】 「行動は遺伝的である」とは 努力できるかは生まれつき!? 遺伝子伝達という無知のヴェール 能力はどのように遺伝するのか 「生まれつき」と「努力」のあいだ (ブルーバックス) 作者:安藤寿康 講談社 Amazon 「行動は遺伝的である」とは 双子研究など行動遺伝学の知見から、タイトルにもなっている「能力はどのように遺伝するのか」という問いの最前線を紹介する本です。 言うまでもなく「能力と遺伝の関係」という議論は、道を誤ると優生学にも辿り着きかねない歴史的にデリケートな分野でもあるため、著者は「能力」と「遺伝」それぞれの概念や研究成果を掘り下げていきます。具体的には「能力」あるいは「才能…

  • 『日朝極秘交渉』(増田剛)

    日朝極秘交渉――田中均と「ミスターX」 作者:増田剛 論創社 Amazon 2002年の日朝首脳会談に向けた北朝鮮との秘密交渉を担った田中均氏へのインタビューを中心に、交渉や平壌での首脳会談、その後の経過を振り返った本です。 田中氏や元・駐英北朝鮮大使館ナンバー2の太永浩氏の証言は臨場感もあり興味深いものでしたが、特に田中氏が置かれていた環境や晒されていた評価を踏まえ、多角的な証言からインタビューをより客観的な流れの中に位置付けていく作業は、やや中途半端に終わっているような気がしました。秘密交渉である以上、証言できる人がそもそも少ないということはあるでしょうけれども、「取材者としての筆者の感想…

  • 最新情勢も詳細に/『最新版 北朝鮮入門』(礒崎敦仁、澤田克己)

    【目次】 2024年冒頭まで紹介 「韓国は外国。」それなら… 改めて「金主」を掌握できるか 最新版 北朝鮮入門―金正恩時代の政治・経済・社会・国際関係 作者:礒崎 敦仁,澤田 克己 東洋経済新報社 Amazon 2024年冒頭まで紹介 『LIVE講義 北朝鮮入門』(礒粼敦仁、澤田克己) - かぶとむしアル中の最新版が出たとのことで、買って読んでみました。2024年冒頭までが扱われており、金正恩体制下の近況がしっかり扱われているのが最大の特徴です。章立てが国内政治史・政治体制・安全保障(核とミサイル)・経済・社会・外交(日朝・米朝・南北・中朝)とテーマ別になっており、特に政治や安全保障と外交は話…

  • 生産の「急所」と地政学的リスク/『半導体戦争』(クリス・ミラー)

    【目次】 同じ土俵での「競争」 中国台頭が招いた新たな展開 「急所」は分散してこそ 半導体戦争――世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防 作者:クリス・ミラー ダイヤモンド社 Amazon 半導体技術の黎明期から、それが安全保障上の主要テーマとなった現在までを扱った一大歴史物語です。 同じ土俵での「競争」 アメリカで生まれ育った産業でありながら、より安価にチップを作れる環境を求めて東アジアなどにオフショアされていきます。そこには、半導体工場を建設し現地の雇用・産業を守り育てることで、現地政府をアメリカを中心とする西側に繋ぎ止めておく意図も含まれており、これは日本も例外ではありませんでした。…

  • 「辺境」から日本史を再考する/『東と西の語る日本の歴史』(網野善彦)・『隼人の古代史』(中村明蔵)・『アイヌ学入門』(瀬川拓郎)など

    「日本史」にも地域差があります。京都や江戸で起きたある事象が東北から九州までに同様の影響を与えていたということはあり得ず、そもそもそうした地域の直接的な影響をさほど受けてこなかった地域もあります。そんな視点から、家や図書館にあった本を数冊読んでみました。 『東と西の語る日本の歴史』(網野善彦) 『図説 中世島津氏』(新名一仁) 『隼人の古代史』(中村明蔵) 『写真で見る種子島の歴史』(鮫嶋安豊) 『アイヌ学入門』(瀬川拓郎) 『東と西の語る日本の歴史』(網野善彦) 東と西の語る日本の歴史 (講談社学術文庫) 作者:網野 善彦 講談社 Amazon 古いハードカバー版を読みました。土地制度・度量…

  • 『現代日本の新聞と政治』(金子智樹)

    【目次】 地方紙に焦点を当てた計量分析 突然の廃刊が突きつけるもの 現代日本の新聞と政治: 地方紙・全国紙と有権者・政治家 作者:金子 智樹 東京大学出版会 Amazon 地方紙に焦点を当てた計量分析 これまで見落とされがちだった地方紙を中心に、新聞と政治(世論や政治家)との関係を計量的に論じた本です。一口に「地方紙」と言ってもその地域でのシェアやプレゼンスはまちまちであり、そうした「メディアシステム」が各新聞社の社説の論調や政治報道に影響を与えており、またそれらは有権者の政治意識や投票行動と関係があることが示されていきます。一方で、この「関係がある」を「新聞購読が有権者の政治意識や投票行動に…

  • 『教養としてのインターネット論』(谷脇康彦)

    教養としてのインターネット論 世界の最先端を知る「10の論点」 作者:谷脇 康彦 日経BP Amazon インターネットが社会的なインフラとなり、データに基づいて動くようになってきた社会の展望について論じた本です。 特に興味深かったのは以下の二つの指摘でした。一つ目は、データという無形資産を基盤にする市場ルールや評価指標が必要というもの。もう一つは「集中か分散か」という論点です。当初からオープンでフラットな場とみなされてきたインターネットで須賀、 canarykanariiya.hatenadiary.jp canarykanariiya.hatenadiary.jp 巨大プラットフォーマーに…

  • 多元的な明治憲法体制の「奥の院」/『枢密院』(望月雅士)

    【目次】 待望の枢密院概説書 政党内閣への牽制 軍部に抗し得なかった理由は 「補助輪役」を誰が担うべきだったか 枢密院 近代日本の「奥の院」 (講談社現代新書) 作者:望月雅士 講談社 Amazon 待望の枢密院概説書 明治憲法体制下で天皇の諮問機関として存在した枢密院とその歴史についてまとめた本です。当時の多元的な政治体制について、特に公式の制度ではない元老の果たした役割には以前から関心があり、いくつか本も読んできたので須賀、 canarykanariiya.hatenadiary.jp 枢密院に関する初学者向けの本がなかなかなく、個人的にも待望の一冊でした。 政党内閣への牽制 簡単に振り返…

  • 「対峙する」だけではないはず/『プラットフォーマー 勝者の法則』(ブノワ・レイエなど)、『集中講義デジタル戦略』(根来龍之)

    【目次】 プラットフォーマーに対峙する プラットフォーマーになる 「デジタル戦略」をバランスよく プラットフォーマー 勝者の法則 コミュニティとネットワークの力を爆発させる方法 (日本経済新聞出版) 作者:ブノワ・レイエ,ロール・クレア・レイエ,根来龍之 日経BP Amazon プラットフォーマーに対峙する 「2つ以上の顧客グループを誘致・仲介し結びつけ、お互いに取引できるようにすることで大きな価値を生み出す」プラットフォーム企業について、その特徴、成長のためにフェーズごとに取り組むべき施策、内外から見た課題などについて論じた本です。 やはり新聞社の目線に立つと、プラットフォーム企業とどのよう…

  • 『運動脳』(アンデシュ・ハンセン)

    運動脳 作者:アンデシュ・ハンセン Amazon 『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン) - かぶとむしアル中で知られる著者が、同様のロジックから運動の効用を説いた本です。 論旨は明快で、「人間の生活様式は近年大きく変わったが、その脳や肉体は狩猟採集時代から変化していない。運動をすれば脳からさまざまな『報酬』がもらえるのも変わっておらず、そのことを利用すれば心身の健康のみならず、脳の機能も活性化することができる」というものです。 4年前にサイクリングを始めたので須賀、一人で走っている最中は仕事のことを考えていることが多いです。「チームメンバーの作業時間を確保するために、自分はこの順番でタスクをこ…

  • 戦略的なコンテンツ制作を/『データ思考入門』(荻原和樹)

    【目次】 キャプチャが拡散される前提で どう収益に繋げるか データ思考入門 (講談社現代新書) 作者:荻原和樹 講談社 Amazon キャプチャが拡散される前提で 東洋経済オンラインでコロナ感染者ダッシュボードを手掛けるなど、報道におけるデータの可視化に取り組んでいる著者がその手法や考え方を紹介する本です。 「何を伝えたいのか」を常に意識して使うデータや表現方法を選びましょう、とは当たり前のようで須賀、常に軸として保ちながら作業するのは案外難しいと感じることがあります。また、キャプチャなどさまざまな形で拡散されることを想定して制作しましょう、というのもまさに今のウェブらしい指摘で、これも忘れて…

  • 戦艦武蔵とプロダクトマネジメント/『プロダクトマネジメントのすべて』(及川卓也、曽根原春樹、小城久美子)

    【目次】 プロダクトマネジメントという仮説検証 戦艦武蔵の失敗に学ぶ プロダクトマネジメントのすべて 事業戦略・IT開発・UXデザイン・マーケティングからチーム・組織運営まで 作者:及川 卓也,小城 久美子,曽根原 春樹 翔泳社 Amazon プロダクトマネジメントという仮説検証 著者の一人が新聞協会で講演していたのを聞き、手に取ってみました。 ニュースサイトという既存のプロダクトをどう育て環境に適応させていくか、新しい収益の柱となりうるプロダクトをどうつくっていくか、という目線で読み進めました。 印象的だったのは、最初からピカピカの完成品を作って未来永劫同じように使い続けるという発想ではなく…

  • 『ナショナリズムとは何か』(アントニー・スミス)

    ナショナリズムとは何か (ちくま学芸文庫) 作者:スミス,アントニー・D. 筑摩書房 Amazon ナショナリズム論における近代主義*1に対峙する最も有名な論者*2の一人が、「入門書」として諸論点を紹介する本です。 抽象的な議論が続くため、正直(私のような)初学者がスラスラ読めるような本ではなかったです。少し古い本で須賀、概論的に読むならこちらの方が優れていると思います(こちらは再読しました)。 ナショナリズム論・入門 (有斐閣アルマ) 有斐閣 Amazon 論旨については、用語の定義や着眼点(強調するポイント)の違いによる部分が大きいのではないかと思いましたが… *1:ざっくり言うと「ナショ…

  • 『目的ドリブンの思考法』(望月安迪)

    目的ドリブンの思考法 作者:望月安迪 ディスカヴァー・トゥエンティワン Amazon 目的を立てて達成するまでの過程について、<目的−目標−手段>という三層ピラミッドと、<予測−認知−判断−行動−学習>という基本動作として解説していく本です。印象的だった点をものすごくかいつまんで言うと、 常に目的に回帰して頭を整理する重要性 コンサルの思考法の一端が垣間見える (妥当な)アナロジーで知識をヨコ展開するためにはある程度の蓄積が必要 といったところでしょうか。 「現場リーダー、あるいはそうあろうとする人」くらいの目線で書かれており、話には入っていきやすかったです。

  • 『学習まんが日本の歴史』(小学館版)

    【目次】 懐かしのシリーズの全面改訂版 実質的に別モノ 近現代史も古代史も 小学館創立100周年企画 小学館版 学習まんが日本の歴史 全20巻 (小学館学習まんがシリーズ) 作者:小学館 小学館 Amazon 懐かしのシリーズの全面改訂版 上の子から借りて通読しました。 私自身、小学生の頃に(同じ小学館版の)前作を愛読しており、休みの日に1巻から読み通す遊びをよくやっていました*1。 良くも悪くも、個々の人間たちがその時の価値観にそれなりに影響を受けながらしでかしてきたことの積み重ねに過ぎない歴史を、暗記すべき事項の集合体としてでなくストーリーとして描いてくれるこのシリーズは、非常に優れた歴史…

  • 「脱魔術化」するロシアで/『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)

    【目次】 文豪最晩年の大長編作品 ロシア社会の脱魔術化と「カラマーゾフシチナ」 宗教の役割は カラマーゾフの兄弟 1 (岩波文庫) 作者:ドストエーフスキイ 岩波書店 Amazon カラマーゾフの兄弟 2 (岩波文庫) 作者:ドストエーフスキイ,米川 正夫 岩波書店 Amazon カラマーゾフの兄弟 3 (岩波文庫 赤 615-1) 作者:ドストエーフスキイ,F.M. 岩波書店 Amazon カラマーゾフの兄弟 4 (岩波文庫 赤 615-2) 作者:ドストエーフスキイ,F.M. 岩波書店 Amazon 文豪最晩年の大長編作品 ロシアの文豪・ドストエフスキーの最晩年に著された大長編作品です。 …

  • 『何もしないほうが得な日本』(太田肇)

    何もしないほうが得な日本 社会に広がる「消極的利己主義」の構造 (PHP新書) 作者:太田 肇 PHP研究所 Amazon 会社、行政、町内会、PTA、そして学校といった日本の様々な組織で「何もしないほうが得」という態度が広まっている状況について論じた本です。 ごく簡単に言うと、これらの組織で共同体の基盤が崩れつつあるにもかかわらず、「全体と個の利害対立は存在しない」といった建前論が幅を利かせた結果、水面下でフリーライド的態度が増幅したーと著者は論じています。 教育現場については、 canarykanariiya.hatenadiary.jp PTAについては、 canarykanariiya…

  • 『2050年のメディア(文庫版)』(下山進)

    2050年のメディア (文春文庫) 作者:下山 進 文藝春秋 Amazon 文庫版の新章を読むために、改めて最初から目を通してみました。まさに新章に出てくるプラットフォーマーへの対応というのは、単なるPV単価の話ではなく、どこに収益源を求めるのか、そしてそのためのコンテンツはどうあるべきかのか-といった報道機関のデジタル戦略全般に関わってくる問題のはずです。そこを自社の経営陣がどの程度理解してくれているのか・・・と、ふと思いました。 以前のレビューはこちらです。 canarykanariiya.hatenadiary.jp

  • 『先生、どうか皆の前でほめないで下さい-いい子症候群の若者たち』(金間大介)

    【目次】 真面目で素直だけど・・・ 冷静に読むには面白すぎる 先生、どうか皆の前でほめないで下さい―いい子症候群の若者たち 作者:金間 大介 東洋経済新報社 Amazon 真面目で素直だけど・・・ モチベーション・イノベーションの研究者である著者が、さまざまなデータや自身の教育経験を踏まえて「いい子症候群」と名付けた若者の傾向を論じた本です。 具体的には「真面目で素直だけど打たれ弱く、何を考えているか分からない」という上の世代からの評価から始まり、いずれも自身のなさに起因する「とにかく目立ちたくない」横並び意識の強さ、変化を好まず決断や挑戦を避け、守り一辺倒の内向き思考に陥っている(とする)あ…

  • 「コロナ重症化遺伝子はネアンデルタール人起源」説/『人類の起源』(篠田謙一)

    【目次】 「弥生人」は「縄文人」の親戚だった 人類史の複雑さを暴く 人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」 (中公新書) 作者:篠田謙一 中央公論新社 Amazon 「弥生人」は「縄文人」の親戚だった 古代DNAから人類の起源を探る試みについて、2021年までの成果をまとめた本です。近年急速に発展している研究領域でもあり、人類の歴史をさらに知るための新たな有力アプローチとして、個人的にも関心を持っています。 canarykanariiya.hatenadiary.jp canarykanariiya.hatenadiary.jp 別著も複数読みましたが、今回の一冊は全世界…

  • 『だから僕たちは、組織を変えていける』(斉藤徹)

    だから僕たちは、組織を変えていける ――やる気に満ちた「やさしいチーム」のつくりかた【ビジネス書グランプリ2023「マネジメント部門賞」受賞!】 作者:斉藤徹 クロスメディア・パブリッシング(インプレス) Amazon 時代の転換点に立つ個々人が、内部でどんな立場であれ、その組織を変えていくための考え方や方法論が詰まった本です。 知識社会において求められる組織像(顧客の幸せを追求し「学習する組織」・社会の幸せを追求し「共感する組織」・社員の幸せを追求し「自走する組織」)を実現するために、 心理的に安全な場をつくって、人間関係の質を上げる 仕事の意味を共有して積極性を高め、思考の質を上げる 自律…

  • 『武田三代』(平山優)

    【目次】 三代記の決定版 外交を仕掛けた信玄、翻弄された勝頼 「決勝ラウンド」での失敗の重み 武田三代 信虎・信玄・勝頼の史実に迫る (PHP新書) 作者:平山 優 PHP研究所 Amazon 三代記の決定版 武田信虎・信玄・勝頼という三代の興亡を紹介する決定版と言ってよい一冊です。 甲斐国内外入り乱れながらの戦乱を戦い抜き、統一された甲斐と首府・甲府をつくりあげた信虎。巧みな調略と戦術、外交を繰り広げつつ領土を拡大した信玄。父以上の武勇を示しながらも、周囲の敵に翻弄されつつ信長に滅ぼされるに至る勝頼。それぞれの事績を丹念かつ平明に追っています。 外交を仕掛けた信玄、翻弄された勝頼 やはりどう…

  • ブロジェクトも折り返し地点に/『文系AI人材になる』(野口竜司)

    文系AI人材になる―統計・プログラム知識は不要 作者:野口 竜司 東洋経済新報社 Amazon 「文系」云々はともかく(私はド文系で須賀)、エンジニアとして作るだけではない「AIとの仕事の仕方」を紹介してくれる本です。AIとは大まかにいってどんなものか*1、AIをめぐる(開発以外の)仕事にはどんなものがあるか、AIがどのように活用されつつあるか、などを噛み砕いて説明しています。 AI技術だけで社会変化がもたらされるのではなく、それを使う側のアイデアと実行力で推進されていくものだ、という指摘はメディア論的とも言えます。 canarykanariiya.hatenadiary.jp そしてそれを担…

  • 『焼酎の履歴書』(鮫島吉廣)

    焼酎の履歴書 (発酵と蒸留の謎をひもとく) 作者:鮫島 吉廣 イカロス出版 Amazon もうアル中と名乗るほど飲んでいるわけでもありませんが、実は焼酎自体について何も知らないなと思い至り、紐解いてみました。 「さつま白波」というゴツい芋焼酎で知られる薩摩酒造に長年勤めた著者が、芋焼酎を中心とした焼酎の製法や歴史を、東アジアまで視野を広げて論じた本です。 ごくごく簡単に言うと、日本酒・ワインなどの醸造酒を蒸留すれば米焼酎・ブランデーなどの醸造酒ができます。元々はそうやって米焼酎を造っていたようで須賀、米作に適さない南九州ではサツマイモを用いるようになりました。ただこれが蒸すと甘くなって腐りやす…

  • 『わたしを離さないで』(カズオ・イシグロ)

    わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) 作者:カズオ・イシグロ,土屋 政雄 早川書房 Amazon 現代イギリスを代表するノーベル文学賞作家の代表作です。 自然豊かな学園寮の描写から始まっていくので須賀、「何かが違う」雰囲気もまた序盤から漂っています。密な人間関係を育む同級生同士の機微が丁寧に語られつつも、徐々に明かされていく奇怪な世界観に慄かされました。 薄々予感されていた結末は、最終盤にはっきりと明かされることになります。人は皆いつかは死に、それが満足のいく形で訪れるかどうかは全くもって保証の限りではないことはある意味共通しているはずです。それでも、他人の犠牲になることがそもそも運命付…

  • 『AI監獄ウイグル』(ジェフリー・ケイン)

    【目次】 AIチャットによるレビュー AIをブラックボックスにしないために ランキング参加中読書 AI監獄ウイグル 作者:ジェフリー・ケイン 新潮社 Amazon AIチャットによるレビュー 「AI監獄ウイグル」は、ジェフリー・ケイン氏が著した書籍であり、ウイグル族の人権侵害問題について、顔認識技術やAI技術を利用した監視システムなどの現状を詳細に解説しています。 本書は、中国政府によるウイグル族の弾圧が激化している現状を報告しており、中国政府がウイグル族を「テロリスト」として扱い、監視システムや再教育施設を利用して強制的に管理していることについて指摘しています。これらの行為には、ウイグル族の…

  • 『中核vs革マル』(立花隆)

    【目次】 中核VS革マル(上) (講談社文庫) 作者:立花 隆 講談社 Amazon 中核VS革マル(下) (講談社文庫) 作者:立花 隆 講談社 Amazon 想像を絶する暴力の連鎖 『中核vs革マル』は、立花隆氏が1970年代に発生した極左暴力集団「中核派」と「革命的共産主義者同盟」(通称・革マル派)の歴史を追い、その背景や思想、行動について考察した著作です。 立花氏は、本書で中核派と革マル派が抱えていたイデオロギーの違いを詳しく分析し、それが彼らの暴力行為やテロ行為にどのような影響を与えたかを明らかにしています。また、両グループの歴史を追いながら、当時の日本社会や政治情勢、学生運動の背景…

  • 『日本共産党』(中北浩爾)、『日本共産党の研究』(立花隆)

    【目次】 100年史を簡明に紹介 戦前共産党を鮮やかに描く 変わったこと、変わらないこと 100年史を簡明に紹介 日本共産党 「革命」を夢見た100年 (中公新書) 作者:中北浩爾 中央公論新社 Amazon 非合法な状態だった戦前から国政政党化した現在まで、日本共産党の100年の歴史を説明する本です。 地下活動を通じて特高と闘うも壊滅した戦前、戦後の間もない時期の武装闘争を放棄し、ソ中共産党と決別して平和革命路線に転じてからの選挙・国会戦略などを、まとまりよく紹介してくれています。序盤と後半で議論の趣きが大きく異なるさまに、100年という時間、そして時代の変化を感じさせられます。 一つ興味を…

  • 『戦国武将、虚像と実像』『武士とは何か』(呉座勇一)

    【目次】 「タヌキ親父」から平和主義者へ ナメられたら終わり ステレオタイプを破る楽しみ 戦国武将、虚像と実像 (角川新書) 作者:呉座 勇一 KADOKAWA Amazon 武士とは何か(新潮選書) 作者:呉座勇一 新潮社 Amazon 前者は有名な戦国武将がそれぞれの時代にどんな人物として描かれてきたか、後者は中世人たちの名言から見える武士のメンタリティ、を読み解こうとする本です。 「タヌキ親父」から平和主義者へ 儒教倫理の強い江戸時代には明智光秀のような裏切り者は基本的には批判され、当然幕府を開いた徳川家康は顕彰されま須賀、庶民に人気があるのは豊臣秀吉でした。明治維新後は立身出世や対外拡…

  • 『戦争はいかに終結したか』(千々和泰明)、『国際秩序』(細谷雄一)

    【目次】 朝三暮四?のトレードオフ 三つの体系が織りなす秩序 戦争終結と新たな秩序 想像を超える複雑な因果律が編み出すのが歴史で、その切り口も非常に多彩であり得る半面、切って見せる以上は、断面がどんな模様になったか常に問われます。国際政治学において、歴史を踏まえてモデル化をするのはそんな営みなのではないでしょうか。 朝三暮四?のトレードオフ 戦争はいかに終結したか-二度の大戦からベトナム、イラクまで (中公新書 2652) 作者:千々和 泰明 中央公論新社 Amazon この本は、戦争がどのような形で終結するかを「現在の犠牲」と「将来の危険」のトレードオフから検討しています。前者が後者を上回っ…

  • 『テクノロジーが予測する未来』(伊藤穰一)

    【目次】 「アウラ」の復権? 技術は社会を決めない 12年ぶり3度目の… テクノロジーが予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる (SB新書) 作者:伊藤 穰一 SBクリエイティブ Amazon NFTを中心に、web3時代の技術と社会を論じる本です。話題のNFTについて分かりやすく解説されており、遅ればせながら勉強になりました。 「アウラ」の復権? その上で興味を持ったのは、この技術と芸術作品の一回性(ベンヤミンが言うところの「アウラ」)との関係です。ものすごく雑に言うと「芸術作品が複製可能になることで作品からアウラが奪われた」というのがベンヤミンの主張なわけで須賀、オリジ…

  • 探すのをやめたとき 見つかることもよくある話で/『思考の整理学』(外山滋比古)

    思考の整理学 (ちくま文庫) 作者:外山滋比古 筑摩書房 Amazon 非常に有名な本ですが、思考をどう熟成させ、整理し、結びつけていくかについての著者の実践や持論がエッセイ風にまとめられています。▽風呂・トイレ・寝床といった意外な場所でアイデアは生まれやすいので、それを忘れず書き留めておくべし、▽煮詰まったらわざと寝かせておくべし*1-などはよく言われることがありますね。これを単純に真似て成果を求めるということよりは、自分がものを考えるときの無意識の傾向に目を向けたり、それを洗練させていくためのちょっとしたアイデアのきっかけに使うということなのだと思います*2。 興味深かったのは、一冊を通底…

  • 『明治史講義 グローバル研究篇』

    明治史講義【グローバル研究篇】 (ちくま新書 1657) 作者:瀧井 一博 筑摩書房 Amazon 明治維新150年を機に企画された国際シンポジウムの内容から編まれた本です。日本の近代化の成功と失敗を世界史の中に位置づけることを主眼に、各国(の人々が)近代日本をどう見たか、同時代の人々がどのように振る舞ったか、などを各報告者が描き出しています。 www.chikumashobo.co.jp 個人的に大変お世話になっているこのシリーズの中でも、かなり多彩(悪く言えば雑多)な内容が盛り込まれており、いろんな問題意識や切り口を知る上では興味深かったです。トルコ・エジプト・中国・ベトナム・タイといった…

  • 『明治史講義 グローバル研究篇』

    明治史講義【グローバル研究篇】 (ちくま新書 1657) 作者:瀧井 一博 筑摩書房 Amazon 明治維新150年を機に企画された国際シンポジウムの内容から編まれた本です。日本の近代化の成功と失敗を世界史の中に位置づけることを主眼に、各国(の人々が)近代日本をどう見たか、同時代の人々がどのように振る舞ったか、などを各報告者が描き出しています。 www.chikumashobo.co.jp 個人的に大変お世話になっているこのシリーズの中でも、かなり多彩(悪く言えば雑多)な内容が盛り込まれており、いろんな問題意識や切り口を知る上では興味深かったです。トルコ・エジプト・中国・ベトナム・タイといった…

  • 踏み留まる人として/『大久保利通』(瀧井一博)

    【目次】 「知を結ぶ指導者」として 踏みとどまる責任 現代に続く大久保の系譜 大久保利通―「知」を結ぶ指導者―(新潮選書) 作者:瀧井一博 新潮社 Amazon 「知を結ぶ指導者」として 征韓論政変後の明治政府を指導した大久保利通を、「冷厳な専制政治家」というよりは副題にあるような「知を結ぶ指導者」として描いた重厚な伝記です。 幕末の時代に「非義の勅命は勅命にあらず」と言い放つほど、道理へのこだわりを持ち続けた大久保。産業振興と民力養成のため、出自に捉われない知のネットワークを築くことに身を砕いてきたものの、その一方で自分を見出してくれた旧主や竹馬の友ら*1を断ち切る役回りをも演じざるを得なか…

  • 『ジョン・ロールズ』(斎藤淳一、田中将人)

    【目次】 ロールズ自身の「反照的均衡」 分断の時代に共存の契機を探す ジョン・ロールズ 社会正義の探究者 (中公新書) 作者:齋藤純一,田中将人 中央公論新社 Amazon ロールズ自身の「反照的均衡」 20世紀の政治哲学はこれ抜きには語れない、とされる(そして「難解な本」としても知られる)『正義論』。その著者であるロールズの人生と思索の辿った道を分かりやすく紹介してくれる本です。 しかし私が理解するに、この本の最大のキーワードはよく知られている「無知のヴェール」や「正義の二原理」というよりは、「反照的均衡」だったように思います。まさに無知のヴェールに代表されるような抽象性・仮想性がロールズの…

  • 行動経済学つながりで3冊/『予想通りに不合理』(ダン・アリエリー)、『選択の科学』(シーナ・アイエンガー)、『スタンフォードの自分を変える教室』(ケリー・マクゴニガル)

    【目次】 『予想通りに不合理』(ダン・アリエリー) 『選択の科学』(シーナ・アイエンガー) 『スタンフォードの自分を変える教室』(ケリー・マクゴニガル) 自分自身にも、ビジネスにも、社会課題にも 予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 作者:ダン アリエリー 早川書房 Amazon 選択の科学 コロンビア大学ビジネススクール特別講義 (文春文庫) 作者:シーナ アイエンガー 文藝春秋 Amazon スタンフォードの自分を変える教室 スタンフォード シリーズ 作者:ケリー・マクゴニガル 大和書房 Amazon 人間の(時に)不合理な選択や行動にスポットライトを当てつつ、…

  • 『LIFE SHIFT2』(アンドリュー・スコット、リンダ・グラットン)

    技術的発明と社会的発明 人生100年時代の「働き方」 「社内転職」をどう生かすか コロナ禍に見た「自由に浮動」する関係 LIFE SHIFT2―100年時代の行動戦略 作者:アンドリュー スコット,リンダ グラットン 東洋経済新報社 Amazon 技術的発明と社会的発明 「人生100年時代」の問題提起で話題を呼んだ著作の続編です。 canarykanariiya.hatenadiary.jp 前著でも扱った長寿化と、「技術的発明と社会的発明のタイムラグ」に焦点を当て、教育→仕事→引退という紋切り型の人生の3ステージが通用しなくなりつつある今、一人一人の個人や企業・教育機関・政府がどんな未来を見…

  • 『ロードバイクの作法』(竹谷賢二)

    ロードバイクの作法 やってはいけない64の教え (SB新書) 作者:竹谷 賢二 SBクリエイティブ Amazon www.nhk.jp でお馴染みの「ドクター竹谷」が、脱・ロードバイク初心者のためのアドバイスをまとめた本です。ロードバイクの調整、ペダルの漕ぎ方、乗る時のフォーム、練習法などについて、自身のアマチュア時代からの経験・理論を踏まえて解説してくれています。 クロスバイク2年半、ロードバイクでようやく半年ちょっと、という私が脱初心者を目指すレベルなのかはもとより疑問ではありま須賀、「ハンドルとサドルに体重を預けすぎ」「なので重心も高くてカーブもぎこちない」といった自分の傾向は把握できた…

  • 自由世界の「北極星」/『メルケル』(カティ・マートン)

    メルケル 世界一の宰相 (文春e-book) 作者:カティ・マートン 文藝春秋 Amazon プーチンとの因縁 東ドイツ出身の女性科学者が統一ドイツの首相、そして「自由世界のリーダー」になるまでの軌跡を描いた本です。 ユーロ危機・中東の難民受け入れと台頭するポピュリズム・ブレグジット・新型コロナウイルスなどの課題にどう取り組んだか、またプーチンやトランプ、オバマ、マクロン、習近平といった一筋縄ではいかない各国のリーダーとどう渡り合ってきたかなど、16年にわたる首相時代の課題や業績が紹介されています。 興味深いエピソードにも事欠きません。共に東ドイツで長く過ごし、それぞれドイツ語とロシア語を操る…

  • 『政治学者、PTA会長になる』(岡田憲治)

    政治学者、PTA会長になる 作者:岡田 憲治 毎日新聞出版(インプレス) Amazon 民主主義をテーマとする政治学者が小学校のPTA会長に就任してからの、ドタバタや人間ドラマを本人が語った一冊です。 任意団体であるはずのPTAにおいて、なぜこれほどの強制的な行為や言い分がまかり通っているのか。やれる範囲のことをやって感謝し合い、共に子育てする楽しさを感じ合える場にしていくべきではないのか-。著者はそんな思いから会長職を引き受け、組織運営のあり方を変えようと奮闘するものの、現状のあり方に様々な思いを託していた人の存在に気付き、彼らの気持ちをも踏まえながら無理なく楽しめるPTAを模索していきます…

  • 『マネジメント(エッセンシャル版)』(ドラッカー)

    マネジメント[エッセンシャル版] 作者:P F ドラッカー ダイヤモンド社 Amazon マネジメントは何のために、どのように進めるべきなのか-。この分野において、世界で一番有名な本だと言って差し支えないでしょう。 エッセンシャル版ということもあってか、一文一文が非常に濃厚で、例えば先日読んだ『両利きの経営』の基本的なコンセプトに相当することが、サラリと書かれていたりします。全体的に文意が取れないような難解な記述はなかったように思いま須賀、私自身通読してみて、どの程度血肉化されたかと問われると、かなり怪しい気がしています。 一方で、自分が今のプロジェクトの中で心がけるべきことであるとか、5章で…

  • 「鎌倉殿の13人」好きならこちらもぜひ/『頼朝と義時』(呉座勇一)

    平家との和睦を目指した頼朝 公武関係を大逆転させた義時 「13人」が権力の運用を学ぶまで 頼朝と義時 武家政権の誕生 (講談社現代新書) 作者:呉座勇一 講談社 Amazon 武家政権の誕生に大きな役割を果たした源頼朝と北条義時の事績を追いながら、その歴史的意義を整理した本です。 平家との和睦を目指した頼朝 頼朝が当初、最重要課題としたのは朝廷から自立した武家政権の樹立でもなければ父の仇である平家を打倒することですらなく*1、源氏の棟梁としての地位を確立することでした。なので朝廷に対しては、「王家の侍大将」として奉仕するという意識を持ち続けていました。 しかし内乱の結果、その勝者として唯一絶対…

  • 主力事業と新事業の「不即不離」/『両利きの経営』(オライリー、タッシュマン)

    【目次】 主力事業と新事業は「水と油」? 「不即不離」を保つための試行錯誤 両利きの経営 作者:オライリー,チャールズ・A.,タッシュマン,マイケル・L. 東洋経済新報社 Amazon 主力事業と新事業は「水と油」? 成熟事業を緻密に磨き込んでいく「深化」と、新しい事業の機会を見出していく「探索」。水と油ほど違うこれら二つの営みを、一つの企業内でどう両立させていくかについて論じた本です。 一定期間存続している会社であれば、当然その主たる事業に習熟しており、さらに洗練度を増そうと日々そこに人的・経済的資源を投下しているはずです。しかし、特定の分野に特化し続けるだけでは、いわゆる「破壊的イノベーシ…

  • 『「させていただく」の使い方』(椎名美智)

    「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ (角川新書) 作者:椎名 美智 KADOKAWA Amazon 近年、使用頻度も違和感を表明する声も多い「させていただく」の用いられ方や違和感の原因などについて、アンケートや「青空文庫」の定量的な分析なども踏まえて論じた本です。 その上で「させていただく」一語への分析だけでなく、▽社会の変化(明治以降の近代化・社会の流動化、敗戦後の民主化)により礼儀正しい言葉遣いが必要とされるようになったこと▽そもそも敬語自体が使われ続けるとありがたみが減っていくものである(敬意漸減の法則)こと▽社会における自己と他者のあり方の変化ーといった問題系の存在を明ら…

  • 『民族とネイション』(塩川伸明)、『民族という名の宗教』(なだいなだ)

    民族とネイション: ナショナリズムという難問 (岩波新書) 作者:塩川 伸明 岩波書店 Amazon 民族という名の宗教: 人をまとめる原理・排除する原理 (岩波新書) 作者:なだ いなだ 岩波書店 Amazon 前者は再読ですが、旧ソ連地域を専門とする研究者がナショナリズムを整理した本です。 canarykanariiya.hatenadiary.jp 「ナショナリズムの発生・展開に典型例はない」というところで、豊富な事例をうまくフェーズごとに紹介できている印象です。 後者は、まさに旧ソ連や社会主義陣営が崩壊しつつあった時期に、人をまとめる原理としてのナショナリズムや宗教、そして社会主義の役…

  • 煙害に立ち向かった善人たちの物語/『ある町の高い煙突』(新田次郎)

    ある町の高い煙突 (文春文庫) 作者:次郎, 新田 文藝春秋 Amazon 茨城県・日立鉱山の煙害にさまざまな立場から立ち向かった人たちの物語です。特に被害が大きかった村の名家の若き当主と、鉱山会社の社長が実在の人物をモデルとしているということもあってか(後者は立憲政友会総裁も務めた久原房之助)、ストーリーとしては興味深いものでありながらも、登場人物にあまり影がないというか、善人が多い話だなあという印象でした。 ちなみに著者は、『国家の品格』で一世を風靡?した藤原正彦のお父さんなんですね。知りませんでした… 自転車で訪ねた物語の舞台 この本を読んだのは、舞台となった日立鉱山あたりにサイクリング…

  • 権力と対峙し、自らの権力性に向き合う/『地方メディアの逆襲』(松本創)

    地方メディアの逆襲 (ちくま新書) 作者:松本創 筑摩書房 Amazon 元・神戸新聞記者である著者が、秋田魁新報、琉球新報、毎日放送、瀬戸内海放送、京都新聞、東海テレビ放送といった地方メディアのジャーナリストを追いつつ、ローカルだからできる報道・果たせる役割は何かを考える本です。 登場するのは、現場に足を運び、人の話を聞き、主張よりも事実を淡々と記録していく記者たちです。著者は、その地道かつ地元の一員として逃げ隠れしない(そもそもできない)姿勢、さらに言うと「大阪ジャーナリズム」に代表される中央=東京へのある種の反骨意識に、ジャーナリズム全体が細る現状における希望を見出そうとしています。 報…

  • 「宇宙人」を探す時空の旅/『地球外生命』(小林憲正)

    地球外生命 アストロバイオロジーで探る生命の起源と未来 (中公新書) 作者:小林憲正 中央公論新社 Amazon 地球の外に生命はいるのか? 地球の生命史から、火星・木星の衛星エウロパ・土星のエンケラドゥスなど太陽系の天体、そして太陽系外までを旅しながら、その問いに対する現時点での知見を示してくれる本です。 よくまとまっていると思いますので、内容に関心のある方は一読されることをオススメしま須賀、一つ印象的だったのは、著者がアストロバイオロジー(地球内外における生命研究)における「予断を持たないこと」の重要性を繰り返し強調している点です。 これまでの生命探査では、水がある(あった)天体が重視され…

  • 異動しますが仕事は変わりません/『世界のエリートが学んでいるMBAマーケティング必読書50冊を1冊にまとめてみた』(永井孝尚)

    【目次】 マーケティングの名著を平明に紹介 4月に異動になります、が… マーケティングの名著を平明に紹介 世界のエリートが学んでいるMBAマーケティング必読書50冊を1冊にまとめてみた 作者:永井孝尚 KADOKAWA Amazon 書名通りの本で、マーケティングの古典から最近の話題書まで、洋の東西問わず紹介してくれています。 canarykanariiya.hatenadiary.jp この姉妹書で、事例も豊富かつ平明ですので、私のような初学者が議論の要旨や流れを把握したり、ブックガイドとして用いたりするのに適していると感じます(紹介されている何冊かを図書館で予約しました)。自分のビジネスに…

  • ウクライナ侵略の前提にある世界観/『「帝国」ロシアの地政学』(小泉悠)

    【目次】 「内弁慶」的なロシアの二重基準 NATOに加盟させないために「併合しない」 「独自の世界観」に至った道筋は 無力感と「戦後」への展望と 「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略 (東京堂出版) 作者:小泉 悠 PHP研究所 Amazon 「内弁慶」的なロシアの二重基準 ロシアにおいて「主権」「勢力圏」という言葉の持つ独自の意味合いから、同国の対外政策を読み解く本です。ロシアのウクライナ侵攻よりも前に書かれた本で須賀、その伏線を分かりやすく説明してくれています。 ソ連崩壊によってエスニック集団の居住域と国境が一致しなくなったロシアは、そのギャップに悩みながら、旧ソ連を(消…

  • 『ネット社会と民主主義』(辻大介編)、『メディア論の名著30』(佐藤卓己)

    【目次】 「5ちゃんねる」利用は寛容性を高める 「フィルターバブル」はそんなにない? 「なぜその本を読んだか」は面白い 節穴読書に開き直る 「5ちゃんねる」利用は寛容性を高める ネット社会と民主主義 有斐閣 Amazon インターネット利用と民主主義のあり方との関係について、アンケート調査と統計的手法を駆使して論じた本です。 ▽ネット利用による政治的意見への選択的接触はさほど起こっていない▽自民党の継続的な支持層であることと有意な相関があるのは「経済的自由主義」「ナショナリズム」「男性」「経済的ゆとり」「朝日新聞以外の新聞閲読」「産経ニュースの閲覧」▽Twitterや「5ちゃんねる」の閲覧は異…

  • 新聞社でCRMを考える/『CRMの基本』(坂本雅志)、『マーケティング・イノベーション』(内山力)

    CRMの基本 作者:坂本 雅志 日本実業出版社 Amazon マーケティング・イノベーション 作者:内山力 産業能率大学出版部 Amazon 業務の勉強を兼ねて読んだ2冊です。 前者は、CRMを「顧客を適切に識別し、ターゲットとする顧客の満足度と企業収益の両方を高めるための経営における選択と集中の仕組み」と定義し、その要素ごとに順序よく解説を加えています。後者はそのCRMを含むマーケティング全般について、「マーケットをどう見るか」「そこにどうアプローチするか」「どんな事例がヒントになるか」を、整理された形で提示しています。具体的な内容については私がヘタに紹介するより、実際に読むのがよいかと思い…

  • 『独ソ戦』(大木毅)と『スターリン』(フレヴニューク)

    【目次】 双方グロッキーの大消耗戦 ヒトラーと対照的な少年時代 史料に拠って独裁者の心象風景を描く レーニンから受け継いだ?ナンバー2叩き 独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書) 作者:大木 毅 岩波書店 Amazon スターリン:独裁者の新たなる伝記 作者:オレーク・V・フレヴニューク 白水社 Amazon 一冊目はナチス・ドイツとソ連の凄惨な戦争を論じています。二冊目は、独裁者としてヒトラーと並び立つ悪名を誇るスターリンの伝記です。 双方グロッキーの大消耗戦 独ソ戦を一言で言えば、軍事的合理性を欠いた両独裁者による「双方グロッキー」の大消耗戦です。序盤から後退を続けるソ連軍と、決定打に欠き次…

  • 蘇我氏・藤原氏から紀伊国造家まで/『古代史講義 氏族編』

    蘇我氏・藤原氏から紀伊国造家まで 必ずしも親戚ではなかった物部氏 古代国家の変化と連続性 古代史講義【氏族篇】 (ちくま新書) 筑摩書房 Amazon 蘇我氏・藤原氏から紀伊国造家まで こちらのシリーズの「氏族編」です。 canarykanariiya.hatenadiary.jp 大伴氏・物部氏・蘇我氏・藤原氏・源平といった有名氏族から、土師氏(菅原氏)、東漢・西文氏、あるいは紀伊国造としての紀氏*1など、知名度は前者に劣るものの興味深い系統までを扱っています。 個別の論点は読んでいただいた方が面白いと思いま須賀、特に古代氏族に共通して印象的なのは、倭王権を支えた頃の氏姓制から律令制への変化…

  • 「衰退のはけ口」とか「新しい資本主義」とか/『私は本屋が好きでした』(永江朗)

    読書会の二冊目です。 私は本屋が好きでした──あふれるヘイト本、つくって売るまでの舞台裏 作者:永江朗 太郎次郎社エディタス Amazon 恥ずかしながら出版流通の仕組みについてはほとんど知らなかったので、その中でいわゆる「ヘイト本」がなぜ書店の一角を占め続けるかも含めて勉強になりました。 その上で話題になったのは、ヘイト本の顧客像でした。日本の勢いが官民ともに下向き続けている今、かつて中韓への優越感の中で価値観を育んできた人たちがある種の「郷愁」を感じて、これらの本に手を伸ばしている。これは本書でも挙がっていた仮説だったように思います。 とするならば、"Japan as No.1"と謳われた…

  • アイデンティティの複数性/『ある男』(平野啓一郎)

    【目次】 アイデンティティの複数性 主人公が「ある男」に惹かれた理由 よく作り込まれたストーリー 友人とのオンライン読書会で扱った本、その一です。 ある男 (コルク) 作者:平野啓一郎 コルク Amazon 映画化されるそうですし、筋書きには触れません。 アイデンティティの複数性 「過去に関係なく人を愛せるのか」というところが主題とされているのは否定しませんが、私の印象に残ったのは、人間の多面性、もっと言えばアイデンティティの複数性でした。 canarykanariiya.hatenadiary.jp この本からの着想でもあるので須賀、一人の人間には先天的・後天的を問わずさまざまな属性がありま…

  • 原敬と「大衆の大正」/『原敬』(清水唯一朗)、『真実の原敬』(伊藤之雄)、『大正史講義』

    【目次】 「賊軍」から山県も認める首相へ 多元的体制の基底にあった「大衆」の登場 原敬-「平民宰相」の虚像と実像 (中公新書, 2660) 作者:清水 唯一朗 中央公論新社 Amazon 真実の原敬 維新を超えた宰相 (講談社現代新書) 作者:伊藤之雄 講談社 Amazon 「賊軍」から山県も認める首相へ どちらも「初の平民宰相」などとして名高い原敬の評伝です。 「賊軍」となった盛岡藩に生まれ、新聞記者、外務省などでの(高級)官僚などのキャリアを経て政友会に身を投じた原。その政友会内でも最初から人望があったわけではもちろんなく、いわゆる「党人派」との関係や世論の批判になんとか対処しながら総裁・…

  • 『ヒトラーとナチ・ドイツ』(石田勇治)、『ヒトラー』(芝健介)、『「ナチスの手口」と緊急事態条項』(長谷部恭男・石田勇治)

    【目次】 薄氷の軍事的成果 国民的合意と側近の忖度に支えられた政権 「合法的に成立した独裁」は誤り 「むき出しの主権独裁」をどう防ぐか ヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書) 作者:石田勇治 講談社 Amazon ヒトラー: 虚像の独裁者 (岩波新書 新赤版 1895) 作者:芝 健介 岩波書店 Amazon ナチスの「手口」と緊急事態条項 (集英社新書) 作者:長谷部 恭男,石田 勇治 集英社 Amazon ヒトラーとナチ・ドイツを巡る3冊です。 薄氷の軍事的成果 前2冊はヒトラーの出生から語り起こしながらも、前者は彼が総統として独裁的権力を握る(ワイマール共和国が崩壊する)過程と「国家…

  • 選挙の日に読んだ本/『民主主義とは何か』(宇野重規)

    民主主義とは何か (講談社現代新書) 作者:宇野重規 講談社 Amazon ギリシアからの民主主義を巡る紆余曲折の歴史を、参加と責任をキーワードに語る本です。 先日行われたような選挙や、それが前提とする議会制はそもそも民主主義と由来を同じくするものではありません。自由民主党を中心とする政権が維持されることになりましたが、個人の多様性を前提に少数派の尊重を重んじる「自由主義」と、多数決で物事を進めようとする「民主主義」は、その長い歴史の中でむしろ対立しかねない概念と見做されてきました*1。そしてむしろ多くの場合、民主主義こそ危険なものと考えられてきたのです。 著者は本書の中で、何か具体的な主張や…

  • 維新が伸びた理由とまだまだ続きそうな政界再編/『政界再編』(山本健太郎)

    【目次】 立憲民主党が減らし、日本維新の会が伸びた理由 政界再編を巡る動きは続きそう 『自公政権とは何か』との併せ読みがオススメ 政界再編 離合集散の30年から何を学ぶか (中公新書) 作者:山本健太郎 中央公論新社 Amazon 他党と選挙協力や合流を重ねると「選挙目当ての野合」と批判され、政策で純化すると党内対立が激化し分裂するー。主に現行選挙制度下で野党が抱える政界再編のジレンマについて論じた本です。10月31日の総選挙とその後の政局に深い示唆を与えてくれる議論もありますので、そこを切り口にご紹介します。 立憲民主党が減らし、日本維新の会が伸びた理由 著者は、政治改革後に登場した新進党を…

  • 方言だけでなく地名も同心円状に分布する/『日本の地名』(鏡味完二)

    【目次】 日本の地名 付・日本地名小辞典 (講談社学術文庫) 作者:鏡味 完二 講談社 Amazon 全国分布や地形を検討 日本の地名の語源や起源、地名の伝播や分布の法則などについて、地理や言語(方言)・歴史の知見を使いながら読み解いていく本です。もともと1964年に刊行され、今年になって講談社学術文庫に収められたので須賀、なかなかすごい本です。 具体的には、①似た地名を全国的に集めて比較する、②地図上にプロットしたり実際に訪ねたりして細かく地形を分析する、③全国の方言で似た言葉がないか調べる、④歴史や民俗に関係ある意味でないか確認する、という手法を採っています。その地道さにも頭が下がりま須賀…

  • 『2050年のジャーナリスト』(下山進)、『教養としてのデータサイエンス』

    最近、お勉強で読んだ本など。 2050年のジャーナリスト 2050年のジャーナリスト 作者:下山進 毎日新聞出版(インプレス) Amazon 雑誌連載を再録した本です。 canarykanariiya.hatenadiary.jp こちらの本が非常に興味深く、今回も買い求めました。内容的には比較的雑多でしたが、前著の延長線上で読めば引き続き学びが多い一冊です。 私自身、今は新聞社のビジネス側からデジタル収益増に取り組んでいるので須賀、このところビジネス側の「売る努力」に加え、古巣・編集サイドによるコンテンツ制作の重要性を感じることが多くなってきました。その点で本書の指摘と共通する課題感があると…

  • 中東・イスラーム世界は特殊な地域か?/『中東政治入門』(末近浩太)、『イスラーム世界の論じ方』(池内恵)

    【目次】 イスラーム教と独裁は関係ある? 公理としての「我々の優位」 いかに折り合いをつけるのか 中東政治入門 (ちくま新書) 作者:末近浩太 筑摩書房 Amazon イスラーム教と独裁は関係ある? 地域研究とサイエンスとしての政治学の双方から、中東政治にアプローチした本です。国家の成立やあり方、独裁国家や紛争が多い理由、石油資源が経済発展などに及ぼす(多くの場合負の)影響、世俗化や宗派対立の内実などを切り口に、政治学的な知見を駆使しながら議論を展開していきます。 これらを通じて著者が挑んでいるのは、「中東はイスラーム教の影響が強く、民主化も経済成長も進まない世界的にも特殊な地域である」との主…

  • 「現場の勝手な交渉」を招いた硬直的な国際秩序/『文禄・慶長の役』(中野等)

    【目次】 女真族と戦った加藤清正 正確な状況規定を欠いた日本側 現場が勝手に交渉をまとめようとする理由 拉致され、世界各地で売られた朝鮮人奴隷たち 文禄・慶長の役 (戦争の日本史16) 作者:中野 等 吉川弘文館 Amazon タイトル通り、豊臣秀吉の朝鮮出兵「文禄・慶長の役」を概説した本です。日本史の中でもよく知られた出来事ではありま須賀、まずは本書に沿って経緯をおさらいしてみましょう。 女真族と戦った加藤清正 東アジア秩序の再編を目指した秀吉は、明の征服と天皇の北京入城などを企て、そのための「侵攻路を貸せ」という理屈で朝鮮半島に兵を出すに至ります。序盤は明らかに準備不足の朝鮮側を日本側が圧…

  • 「ざっくり理解」と「じっくり修正」の両輪/『学びとは何か』(今井むつみ)

    【目次】 まずやってみて、修正していく 私の「概説書から読みたい病」 「優れた探究」の両輪 学びとは何か-〈探究人〉になるために (岩波新書) 作者:今井 むつみ 岩波書店 Amazon まずやってみて、修正していく 認知科学の視点から、何かを学んで熟達していくプロセスについて考える本です。 著者の研究領域である赤ちゃんの言語習得のみならず、外国語学習、将棋や音楽演奏などを取り上げながら、システムとしての知を構築する過程を論じていきます。すごく雑に言ってしまえば、「まずはやってみて理解の枠組みを立ち上げ、それを批判的に修正しながら精度を上げていくのがよい」という趣旨と理解しました。 私の「概説…

  • 分断を癒すリベラルの増税論とは/『幸福の増税論』(井手英策)

    【目次】 リベラルによる増税論 増税で社会を変える 政治のコンセンサスが大前提 分断を癒すカギは地方に 幸福の増税論――財政はだれのために (岩波新書) 作者:井手 英策 岩波書店 Amazon リベラルによる増税論 非現実的な経済成長の夢を追うのではなく、再分配によって低所得層のみを救済するのでもなく、消費税と富裕層課税を組み合わせて広く課税することで、福祉や医療・教育などの公共サービスの所得制限を外し、「みんなで負担し、みんなで受益者になる」頼りあえる社会を築くべきだー。リベラルを自任する財政社会学者による、異色の提言です。 増税で社会を変える 最大の特徴は、よく言われる再分配政策との違い…

  • 結果として補い合って難局を乗り切った島津義久・義弘兄弟/『不屈の両殿』新名一仁

    【目次】 「両殿」関係の変遷と御家の存続 対照的な「キャラ」が浮かび上がる 晩年の微笑ましい兄弟仲 足利兄弟に劣らない名コンビ 「不屈の両殿」島津義久・義弘 関ヶ原後も生き抜いた才智と武勇 (角川新書) 作者:新名 一仁 KADOKAWA Amazon 「両殿」関係の変遷と御家の存続 一時は九州全土を勢力下に置こうとしていた戦国島津家が、秀吉への降伏や関ヶ原での敗戦といった危機をいかに乗り越えていったのかを、「両殿」と称された義久・義弘兄弟を軸に描いた本です。 義久は、九州を北上していく過程で弟・義弘を「名代」とし、「両殿」が重臣会議に諮問する形で進出方面などの重要政策を決めていました。しかし…

  • 『英語独習法』(今井むつみ)

    英語独習法 (岩波新書) 作者:今井 むつみ 岩波書店 Amazon 認知科学の観点から言語と思考の関係、ことばの発達、学びと教育などについて研究してきた著者が、それらの成果を踏まえた英語学習法を提案する本です。 ポイントは英語のスキーマを習得することです。言語という「氷山」の水面下には非常に複雑で豊かな知識のシステムがあり、人は無意識にそれを参照しながら外界を知覚し、言葉を発しています。その枠組みは言語によって大きく異なっており、日本語のスキーマのまま英語を話したり書いたりしようとすると、一語一対応で直訳する*1ような「間違ってはいないけど不自然な」英語になってしまう、と著者は指摘します。 …

  • 聖典をいかに読み解くか/『コーランを読む』(井筒俊彦)・『コーランの読み方』(ブルース・ローレンス)

    【目次】 「開扉の章」をじっくり論じる コーランの発展史と2系統の「神の名」 「読まれ方」の変遷史 発話状況の理解あってこそ 『コーラン』を読む (岩波現代文庫) 作者:井筒 俊彦 岩波書店 Amazon 「開扉の章」をじっくり論じる コーラン冒頭部にあり、そのエッセンスが残らず含まれているとされる「開扉の章」を中心に、コーランのレトリックや思想を読み解こうとする本です。40年ほど前の著者の講座から構成されており、書名に似合わず(?)読みやすい本です。 本書を通じて著者は、コーランの各文言がどのような意味で用いられ、どのように理解されていたかを文献全体から検討し、神(アッラー)から預言者(ムハ…

  • 『金正恩と金与正』(牧野愛博)

    【目次】 大事な妹を「一時避難」させる 3階書記室のエリートたち トップダウン一辺倒では通用しない 金正恩と金与正 (文春新書 1317) 作者:牧野 愛博 文藝春秋 Amazon 大事な妹を「一時避難」させる 最近の情勢のキャッチアップのつもりで読みました。 兄の信頼は厚いが、目立ちたがり屋で「打ち手が当たっている」とは言い難い金与正。今年に入って降格扱いになったのは、兄妹仲に亀裂が入ったわけではなく、妹を思いやればこその「一時避難」であるという見解が示されています。 その他、俺たちの正男暗殺や米朝首脳会談など、最近の北朝鮮を巡る情勢をまとめています。金丸信の息子・信吾氏の話は興味深かったで…

  • 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(マックス・ヴェーバー)

    【目次】 宗教社会学の代表的名著 重要な契機の一つとして 「禁欲」なき後の資本主義 宗教社会学の良書で復習 プロテスタンティズムの 倫理と資本主義の精神 (岩波文庫) 作者:マックス・ヴェーバー,大塚 久雄 岩波書店 Amazon 宗教社会学の代表的名著 カルヴァン派の予定説を典型とするプロテスタントの諸教理が(修道院ではなく)世俗内での禁欲を浸透させ、強制的な節約と財の獲得の正当化によって、結果的に資本形成と生活態度の合理化を促進した。これが、近代資本主義の発展の一大要因となったー。非常によく知られた宗教社会学の名著です。 難解とされることもあるそうで須賀、訳が平易ということもあるのでしょう…

  • 『感染症の日本史』(磯田道史)

    感染症の日本史 (文春新書) 作者:磯田 道史 文藝春秋 Amazon 古代から100年前のスペイン風邪まで、日本における感染症の歴史から、新型コロナウイルスが流行する現代への教訓を得ようとする本です。雑誌連載を中心に再構成された本なので、エッセイ風の文章になっています。 著者もわかっているはずで須賀、歴史上の一見類似した事象をどこまで現代にあてはめ、教訓にするのが適切であるかは、非常に難しい問題です。特に本書の場合、既述のように時代に並走しながら、現在進行形の出来事を手探りで書いたものが元になっていますので、その悩ましさはなおさらでしょう。 それを措いても、特に江戸中期以降の科学的思考の萌芽…

  • 『アフターデジタル』『アフターデジタル2』(藤井保文、尾原和啓)など

    アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る 作者:藤井 保文,尾原 和啓 日経BP Amazon アフターデジタル2 UXと自由 作者:藤井 保文 日経BP Amazon デジタルがリアルを包摂する「アフターデジタル」時代のビジネスのあり方について論じた話題書です。アリババ、テンセント(やその系列の諸サービス)など中国での事例が多く紹介されており、「昨今の中国デジタル事情」を追っていくだけでも非常に面白いで須賀、この本の主題はそこではありません。 こうした企業が持つOMO(オンラインとオフラインを一体のジャーニーとして捉え、オンラインの競争原理から考える)の思考法を解説し、さらにはそれが…

  • 『デジタルエコノミーの罠』(マシュー・ハインドマン)

    【目次】 インターネットの理想と現実 サイトの「粘着性」とは 生き残りの前提条件 デジタルエコノミーの罠 作者:マシュー・ハインドマン,山形浩生 NTT出版 Amazon インターネットの理想と現実 インターネットは、その普及当初から想像されてきたほど平等・分権的で、「ジャイアントキリング」が頻発する世界ではない。巨額の投資による僅かずつのサイト改善の積み重ねが大きな差として広がり、GAFAのように安定した地位を得るに至った巨人とその他大勢に二極化しているー。そんな身も蓋もない事実を、データを用いながら立論していく本です。 サイトの「粘着性」とは 著者は、サイトがユーザーを引きつけ、長く滞在さ…

  • 『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン)

    【目次】 ヒトはデジタル社会向けに進化していない 日々の実践こそ ヒトはデジタル社会向けに進化していない スマホ脳(新潮新書) 作者:アンデシュ・ハンセン 新潮社 Amazon 著名なスウェーデンの精神科医が、スマホの人間の脳や精神状態への影響を紹介した本です。 ごく簡単にまとめると、 人間の身体や脳は狩猟採集時代に適応した進化を遂げており、現代社会には必ずしも適していない。特にSNSには脳の報酬系に刺さる中毒性があり、スマホはそこにあるだけで人の集中力を削ぎ、睡眠やメンタルヘルスに悪影響を与える(特に子供)。よく眠りよく運動し、社会的な関係を構築してスマホの使用を制限することが、人々を健康に…

  • 親子の2021年4・5月読書「月間賞」

    私の分から。 4月『アフター・ヴィクトリー』(アイケンベリー) canarykanariiya.hatenadiary.jp ナポレオン戦争と両世界大戦、さらには冷戦の後を比較しながら戦後構築を語る、という視座が非常に興味深く、現在の国際政治を考える上でも示唆深い議論を展開しています。 canarykanariiya.hatenadiary.jp 次点はこちら。戦争と平和をデータで分析し、平明に語っています。 5月『民主主義対民主主義』(レイプハルト) canarykanariiya.hatenadiary.jp 累計論としても、制度設計のための実践的議論としても面白い比較政治学の必読書です。…

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