「ここの先生、有名な先生だと聞きましたわ」 「えっ、どの先生が?」 「ほら、いつも赤いネクタイをしている先生」 「へえ、あの狸みたいな顔している先生が」 狸と言う言葉がおかしかったのか、彼女は笑った。明るい笑顔。この笑顔だけは欲しいと正一郎は思った。 狸先生が移植の権威者とは知らなかった。それほど優秀な医者とは思えなかった。 a id="&blogmura_banner" href="//novel.blogmura.com/novel_li…
「僕は小さい頃、堀炬燵に飛び込んで左手を大火傷をして、ここで移植手術をしたのですが、移植した部分が黒くなりまして、手術したのが良かったのか悪かったのかよくわかりません。けれど手術せずにはいられなかったけど」 「お国はどちらですの?」 彼女はと一寸としんみりした表情で聞いた。 「九州です」 「大変ですね。九州から出てくるのは」 「この病院が形成外科では一番進んでいると聞いたものですから」 …
けれど彼女はあまり気にしない様子で、口元には笑みさえ浮かべていた。嫁入り前の娘が腕に火傷を負うのは大変なショツクだと思うのだが。彼女はにこにこしているのである。これには正一郎も驚いた。彼女の明るさは天性なのか。天性だとしても苦しみを外に現わさない性格は素晴らしいと思った。自分もいつもこうしてにこにこしていたいと正一郎は思った。 a id="&blogmura_banner" href="//novel.blogmura.com/novel_litera…
看護婦の説教に発憤した正一郎は片手に洗濯物を持って11階の洗濯場に向かった。 洗い場に行くと先客がいた。右腕に包帯を巻き、左手でごしごしと下着を洗濯板の上に乗せて擦っている。25歳くらいの若い娘である。 「おや、片手で洗濯ですか?」と正一郎は聞いた。 「ええ」 「右腕はどうしたのですか?」 「火傷です」 「またどうして?」 「クリーニング店に勤めています。アイロンで火傷しまして」 「ひどかったですか…
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