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  • 黒井千次「石の話」

    ☆大学時代の恩師が亡くなって早くも3年。コロナ禍も落ち着いてきたので11月3日に「偲ぶ会」を開くという。祝日とはいえ、私は夜の授業があるので出欠を迷ったが、この機会に会わなければ一生会えない友もいると思い、出席することにした。★師の話ということで、黒井千次さんの「石の話」(「日本文学100年の名作第7巻」新潮文庫所収)を読んだ。★主人公の大学時代の教授の出版記念パーティーが開かれる。高齢ゆえ、先生にお目にかかる機会はこれが最後かもと、主人公は出席する。教授は、相変わらず頭は明晰ながら、奥さんに支えられ、足元はおぼつかない。★教授の話はそこまでで、主人公は奥さんの指にはめられた石に目が行く。そういえばと彼は妻との約束を思い出す。★彼は20代前半に結婚した。当時は誕生石をあしらった婚約指輪が流行っていたが、薄...黒井千次「石の話」

  • 高野和明「ジェノサイド(上)」

    ★人類はどのように滅ぶか。自分が生きている間には起こらないとは思うが、いつかは訪れる日。それにはいくつかのシナリオが考えられている。★地球外の小惑星が地球に激突し環境を一気に変えてしまうのか。地殻変動による巨大噴火や磁場の変化で環境が変わってしまうのか。★核戦争や原発事故による放射能汚染や未知のウイルスのパンデミックはありそうだ。★高野和明さん「ジェノサイド(上)」(角川文庫)を読んだ。地球規模のスケールの大きな物語だった。この作品の中で人類が直面する危機は、遺伝子の突然変異による「超人類」の出現だ。★「超人類」が現生人類を駆逐することを恐れたアメリカ政府は、民間の軍事会社を利用して、「超人類」とその証拠を葬り去ろうとする。一方、日本では一人の大学院生がこの大きな陰謀に巻き込まれてしまう。★彼らは、そして...高野和明「ジェノサイド(上)」

  • 堀江敏幸「傾斜面」

    ★毎日のルーティーンワークをこなして1日が終わる。変化はないが平穏な日々。案外こんなことが幸福なのかも知れない。★今日は堀江敏幸さんの「雪沼とその周辺」(新潮文庫)から「傾斜面」を読んだ。★主人公の中年男性、香月は、赤く焼けた夕空に見とれて、ふと車窓越しに目に入った青い物体に驚かされる。それから話は、過去へとさかのぼる。★香月は会社が倒産し失業していたところ、友人の紹介で仕事を得る。消火器の営業と点検を主とした会社だ。今までとは全く畑違いの営業職、給料も想像以上に低い。とはいえ文句を言える状況ではない。男性はその会社に勤めることにした。★それからしばらくして、就職を世話してくれた友人が亡くなった。墓参りを兼ねて故人の家を訪れ、かつて二人でつくった凧を見せてもらう。★ところで車窓に見た青い物体は果たして何だ...堀江敏幸「傾斜面」

  • 絲山秋子「袋小路の男」

    ★9月ももうすぐ終わるというのに、今の気温は31℃。今週末は近隣の小学校の運動会。無事に終わりますように。★さて今日は、絲山秋子さんの「袋小路の男」(講談社文庫)から表題作を読んだ。2004年「川端康成文学賞」受賞作。★主人公の女性の12年間に渡る片思いの記録。彼女がその男と出会ったのは高校生の時。悪友とバーでビールを飲んでいる時。男は高校の先輩で、出会った瞬間、惹かれてしまった。★離れては近づき、近づいては離れ、直接触れることもせず、男の握った10円玉で男の体温を感じるような関係だった。「友達」と言っては陳腐すぎる。もちろん「恋人」ではない。女性は男との切れない関係を悩む。しかし、離れられない。「恋人未満家族以上」だという。★男は袋小路に住んでいるのでそれがタイトルになっている。どうやら二人の関係も袋小...絲山秋子「袋小路の男」

  • 江國香織「ラブ・ミー・テンダー」

    ★塾生がまた増えそうで、うれしい悲鳴を上げたい日々。ありがたいことなのだが。★さて、忙しくてまとまった本が読めない。今日は江國香織さんの「ぬるい眠り」(新潮文庫)から「ラブ・ミ・テンダー」を読んだ。★70歳を超えた母親から「離婚する」と電話があった。よくあることなので気にもしなかったが、最近は話すことが少々おかしくなってきた。★母親はエルヴィス・プレスリーの大ファンだ。それも30歳を超えてからのファンで、墓参りと称して一人で渡米するほどに。★そんな母親、最近夢枕にエルヴィスが立つらしい。さらには毎夜、12時になると「ラブ・ミー・テンダー」をBGMにして、エルヴィスから電話がかかってくるという。★認知症と言うこともある。医者に診てもらった方が良いかもしれない。娘は慌てて両親を訪ねたのだが・・・。★何かほのぼ...江國香織「ラブ・ミー・テンダー」

  • 星新一「最後の地球人」

    ★寒暖の差が大きく、身体にこたえる。★さて今日は、星新一さんの「ボッコちゃん」(新潮文庫)から「最後の地球人」を読んだ。★科学の進歩により爆発的に増える人類。他の動物や昆虫まで駆逐し、砂漠や山地を開発しても、もはや地球に住む所はなく、中には宇宙空間へと旅立つものも。★もはや人類はあらゆる労働からも解放され、地球の完全なる支配者となったが、そうなればなるほど人口は増加を続けた。★しかしある日、この流れが止まる。夫婦から1人の子どもしか生まれなくなったのだ。原因は不明。瞬く間に人口は減少に転じ、かつて宇宙へと旅立った人々も地球に帰ってきた。それでも人口は減り続け、遂に1組の夫婦を残すだけになった。彼らは地球の王であり后であった。とはいえもはや彼らに仕える人類は存在しないが。★やがて、二人に子どもが生まれる。喜...星新一「最後の地球人」

  • 村上春樹「風の歌を聴け」

    ★1978年から1980年にかけて読んだ本。★この中から今日は、村上春樹さんの「風の歌を聴け」(講談社)を読んだ。何十年ぶりかの再読。散文詩のような軽快な文体で、村上作品の長編第1作目にして、1番好きな作品だ。★「この話は1970年の8月8日に始まり、18日後、つまり同じ年の8月26日に終る」という。★東京の大学に通う学生。夏休みで帰省している。高校時代から行きつけの「ジェイズ・バー」で「鼠」という名の知人とビールを飲んで時間をつぶしている。★今まで付き合った彼女の話やら、新たに出会った女性の話やら、街の様子やらが淡々と語られる。★「あらゆるものは通りすぎる。誰にもそれを捉えることはできない。僕たちはそんな風にして生きている。」★大事件が起こるわけではないが、スタイリッシュな文章が心地よい。村上春樹「風の歌を聴け」

  • 篠田節子「家鳴り」

    ★一雨ごとに季節が移る。酷暑に慣れた体に朝夕の冷え込みは寒ささえ感じる。暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったものだ。★さて今日は、篠田節子さんの「家鳴り(やなり)」(新潮文庫)から表題作を読んだ。夫婦愛の物語かと思いきやちょっとホラー感が漂っている。★ある夫婦。夫の精子が少なく子どもができないとわかった。その寂しさを紛らすように飼ったゴールデンレトリバーも4年で死んでしまった。★折しも、夫の会社が倒産し、入れ替わるように妻がつくる刺繍が芸術品として評価され、収入も家事分担も逆転する。ペットロスの食欲不振に陥った妻。夫は料理本を片手にせっせと料理を作り出す。★その腕前はなかなかで、妻の食欲も旺盛に。そしていつしか妻の肥大化が始まる。そしてついに家からも出られないほどに。★心の不調がもたらした悲劇だが、不調なのは...篠田節子「家鳴り」

  • 志賀直哉「赤西蠣太」

    ★吉田修一さんの「横道世之介」はなかなかの好人物だったが、志賀直哉が描く「赤西蠣太」も印象的な人物だ。★志賀直哉「小僧の神様・城の崎にて」(新潮文庫)から、「赤西蠣太」を読んだ。江戸時代初期の仙台藩。赤西蠣太は伊達兵部の家臣となる。彼は主命を受け、密かに重臣の不正を暴くために送り込まれたのだ。★容貌は優れず、野暮な「田舎侍らしい侍」だったという。才は乏しく、家中の若侍からも体よくこき使われる存在だった。楽しみと言えば将棋。同じく将棋を愛好する銀鮫鱒次郎という男がいた。彼は蠣太とは対照的な美男子。まったく容姿の異なる二人だが、鱒次郎もまた密命を帯び、重臣・原田甲斐の家に仕えていた。★機は熟した。蠣太はいよいよ重臣の悪行をしたためた報告書を国許へ届けることになった。問題はどうやって暇を得るか。そこで蠣太と鱒次...志賀直哉「赤西蠣太」

  • 開高健「掌のなかの海」

    ★月に一度の医者通い。高血圧やら糖尿病やら高脂血症やら、ひと月分の溢れんばかりの薬をもらって帰る。ヘモグロビンA1cが6.5まで下がった。悪いときには9台だったから、だいぶ良くなったとか。ダイエットの成果か。★さて今日は、開高健さんの「珠玉」(文春文庫)から「掌のなかの海」を読んだ。イギリスで印象に残っていることの描写から始まる。それはフィッシュンチップと酒場の床のおが屑だという。★話は30年前にさかのぼる。作者が小説家として駆け出しの頃、何ともいわれぬ焦燥にかられて、よく通ったバーの話。その店の床にもおが屑がまかれていたという。松の香りが森の中で飲んでいるような気分にさせるという。★わりと閑散としたバーだが、作者はそこがお気に入り。定番のマティーニを飲んで、心を静める。バーで知り合った男性。その男、もと...開高健「掌のなかの海」

  • 吉村昭「青い星」

    ★昨日の「それぞれの終楽章」に続き、今日も壮年の物語を読んだ。吉村昭さんの「遠い幻影」(文春文庫)から「青い星」。★40年の会社勤めを終え、主人公は思い出の数々を拾う旅を余生の楽しみにしている。彼の生地は戦争で焼け、すっかり姿を変えていたが、妻と結婚して3年間暮らしたアパートはかろうじて現存していた。★懐かしく歩を進めると、小学生時代の同級生と出会い、昔話に花が咲いた。ふと話題が主人公の兄のことになった。主人公には2人の兄がいた。長兄は家業の工場を継ぎ、次兄は徴兵され戦地に赴いた。★当時次兄には彼女がいたが、若い二人の交際に母親が反対していた。家業を継いだ長兄も仕事に精を出さず、色恋に溺れる弟を快く思わなかった。そうこうしているときの徴兵だった。そして、次兄は戦死した。★それから50年。今、昔の人々と話す...吉村昭「青い星」

  • 阿部牧郎「それぞれの終楽章」

    ★近隣の小中学校ではコロナが猛威をふるっている。学級閉鎖も聞こえてくる。マスクを装着している児童・生徒が少数派となり、当然のようにウイルスは活躍を始めたようだ。★さて、阿部牧郎さんの「それぞれの終楽章」(講談社文庫)を読み終えた。第98回(1987年)直木賞受賞作。巻末に「1991年5月28日読了」とメモしているから、再読になる。ただ、30代に読んだのと60代で読んだのとでは感慨が違った。★主人公の男は、高校時代の友人の訃報を聞き、久しぶりに東北地方の故郷を訪れる。かつての日々を懐かしむと同時に、高校卒業後に友人たちが歩んだ道に心を痛める。そしてそれぞれが人生の最終章を迎えようとしている。★終盤は、主人公が自らの人生を振り返る。エリート官僚でありながら戦争に翻弄され、紆余曲折の末、何とか東北地方の閑職にあ...阿部牧郎「それぞれの終楽章」

  • 小池真理子「食卓」

    ★敬老の日。65歳以上の人口が約3600万人。日本の全人口の29%を占めるという。平日の午前11時台のスーパーに行くと、この数字(いやそれ以上の高齢化率)を実感する。そういう私も、気持ちばかりは若いものの、きっちり高齢者の仲間入りだ。★さて、あと何年生きられますやら。★今日は小池真理子さんの「玉虫と十一の掌篇小説」(新潮文庫)から「食卓」を読んだ。★主人公の女性、彼女の理想は夫と共に老い、夫が先に旅立ったら、その遺影に毎日おいしい料理を備えること。目の前に夫がいなくとも、夫に愚痴を言い、夫と共に笑い、夫と語らいながら余生を楽しむこと。彼女はいつか観たドキュメンタリー映像の老婆にあこがれる。★彼女には離婚歴があった。結婚した相手から、自分は同性愛者だ告白され、別れを告げられたのだ。彼女にはわずかに親の遺産が...小池真理子「食卓」

  • サキ「肥った牝牛」

    ★ドラマ「VIVANT」最終回。いわゆる考察隊が話題を膨らましていたが、案外あっさりとした結末だった。何か続編がありそうな。しかし、「家政婦のミタ」も何かありそうで結局なかったけれど。★先日、津村記久子さんの「サキの忘れ物」を読んで、その中で紹介されていたエピソード、「サキ短篇集」(新潮文庫)から「肥った牝牛」を読んだ。★昭和33年(1958年)初版の文庫なので、活字が小さいし、中村隆三産の訳も少々古い。難渋しながらも主旨は読み取れた。★わけあって牛専門の画家となった男。近隣で飼っている牛が隣家の庭を荒らせていると助けを求められる。牛専門の画家ではあるが、牛の扱いには疎い。何とか追い払おうとしていると、牛は庭からリビングに。結局利隣家に小言を言われることに。★なんやかんやで牛は家を後にするのだが。ちょっと...サキ「肥った牝牛」

  • 佐々木譲「兄の想い」

    ★塾生は学校の様子をよく話してくれる。近隣の中学校では1年生の担任が休養に入ったという。40代のベテランの先生だというが、クラスをうまくまとめられなかったようだ。代わりに、教頭先生が授業を代行しているとか。しかし、それが子守唄のようでとのこと。★その教頭先生もベテランなのだが、管理職となり授業から遠ざかっているうちに、感覚が鈍ってしまったのだろうか。それにしても教員不足が深刻そうだ。学校の荒れは初期段階で手を打つのが最良の策だ。ところが、人手不足で後手に回っている様子。★恒例の合唱コンクール、あるクラスでは男子たちがボイコット(集団で参加しない)に動いているとか。この先、学校が大きく荒れなければよいのだが。★さて今日は、佐々木譲さんの「廃墟に乞う」(文春文庫)から「兄の想い」を読んだ。北海道警、わけあって...佐々木譲「兄の想い」

  • 津村記久子「サキの忘れ物」

    ★阪神タイガース18年ぶりの優勝。久しぶりなので優勝の瞬間を普段見ないサンテレビで観た。私は村山、江夏、田淵、掛布、岡田、バースの時代しか知らないから、選手の名前を聞いてもよくわからなかったが、とりあえずめでたい。★映画「Fukushima50」を観た。事実に基づいた作品で、原作が同じだから、NETFLIXの「THEDAYS」の復習と言う感じで観た。設計で想定された2倍以上の圧力に耐え、格納器が爆発しなかったのは、結局は「たまたま」だったのか。幸運だったのか。歴史に「たら、れば」は禁物だが、もしかしたらこの国の姿はすっかり変わっていたのかも知れない。この出来事から教訓を学べねばと思った。(それにしても当時の総理大臣は怒鳴るばかりで、ひどい)★さて今日は、津村記久子さんの「サキの忘れ物」(新潮文庫)から表題...津村記久子「サキの忘れ物」

  • 三浦哲郎「おおるり」

    ★東日本大震災で起こった東京電力・福島原子力発電所事故。それをテーマにしたNETFLIXのドラマ「THEDAYS」を全話観終わった。面白かった。当時の吉田所長を役所広司さんが演じられていた。★決死の覚悟で事故対応にあたる現場。それに引き換え、メンツにこだわり、あたふたと慌てるだけの東電の経営陣や政府関係者のぶざまな様子が印象的だった。★中でも、原子力保安院の院長や原子力安全委員会の会長はまったく無能で役に立たず、それに閣僚だろうかそれとも政党の幹部だろうか、国会さながらにただ喚き散らすだけの政府関係者。中でもひどいのがイラつき怒鳴るばかりの総理大臣。総理大臣が現地に飛んで何か成果があったのだろうか。★これを見るに、この国の危機管理のもろさを実感した。廃炉作業は今も続き、「処理水」(あるいは「汚染水」)や残...三浦哲郎「おおるり」

  • 野坂昭如「ベトナム姐ちゃん」

    ★季節の変わり目のせいか、コロナに感染して休む生徒が増えてきた。5類に移行し、もはや第9波ともなるとニュース性は薄れてきたが、コロナ感染症は決して終息していない。★さて今日は、野坂昭如さんの「ベトナム姐ちゃん」(「日本文学100年の名作第6巻」新潮文庫所収)を読んだ。第6巻は1964年から1973年の作品が収められている。激動の時代、政治の時代だけあって、なかなか面白い作品が集まっている。★世の中が乱れると面白い作品が現れるというのも興味深い。★物語の舞台は横須賀の歓楽街。時代はベトナム戦争の雲行きが怪しくなったころ。横須賀にはベトナムから帰還した海兵隊員が上陸し、ひと時の休息を過ごす。そしてその街には、彼らに性のサービスを提供する女性たちもいた。★この作品に出てくる弥栄子という女性もその一人。もはや30...野坂昭如「ベトナム姐ちゃん」

  • 辻原登「家族写真」

    ★ドラマ「VIVANT」はSNSを巧みに使って成功している。筋書きに込められた謎、あちこちに散りばめられた伏線。その回収をめぐって、諸説奮発するのが面白い。視聴者参加型謎解きという感じか。★NETFLIXで「THEDAYS」を観始めた。2011年3月11日、東日本大震災でメルトダウンの危機に瀕した原子力発電所を描いている。東京電力が「東央電力」になっていたり、菅直人総理大臣が「東総理大臣」になったりと若干のデフォルメが施されているが、大筋は実際に起こったことが描かれている。★第1回から、事故の実態がつかめずにいら立つ総理大臣の姿が印象的だった。原子力保安院の院長に「君の出身大学はどこか」と聞き、脇谷院長(モデルは寺坂院長)が「東京大学経済学部です」と答えるあたり、なかなか面白かった。★さて今日は、辻原登さ...辻原登「家族写真」

  • 川上弘美「さやさや」

    ★「論集」の原稿を提出。一仕事終えたという感じ。11月には「偲ぶ会」が催されるという。★日曜夜の楽しみは「VIVANT」だ。第9話も面白かった。来週はいよいよ最終回。昨年は「鎌倉殿の13人」にはまったが、今年はこの作品だ。★さて今日は、川上弘美さんの「さやさや」(「日本文学100年の名作第9巻」新潮文庫所収)を読んだ。★主人公の女性が年齢不詳(たぶん主人公より相当年上かな)の男性と蝦蛄を食べ、その後、暗い夜道をどこまでも歩いていく話。★主人公と男性が並んで蝦蛄を食べている風景は「センセイの鞄」の場面を思い出す。★男性とひたすら歩く話に、幼い頃の叔父のエピソードをうまく織り込んでいる。接吻や「したばき」と上品な表現が良い。酔っぱらった女性が夜明け前に、カエルの声が騒がしい草むらで、小雨に濡れながら放尿する話...川上弘美「さやさや」

  • 河野多惠子「半所有者」

    ★大学時代の恩師が亡くなって3年。追悼論集の話を頂いてエントリーしたのが4月。それから5か月がたつというのに一向に筆が進まず、さすがに締め切りが迫ってきたので、この2日間で書き上げた。★恩師との思い出を述べつつ、恩師の教えを経営に生かしていることを綴った。私にとっても個人塾経営45年の総括と言うところだろうか。★さて今日は、河野多惠子さんの「秘事・半所有者」(新潮文庫)から「半所有者」を読んだ。★まだ若くして亡くなった(満49歳だという)妻への夫の究極の愛だろうか。前半は、病院で亡くなった妻が自宅に帰り、夫が「おかえり」と声をかける風景。身近な人々の弔問、葬儀業者との打ち合わせなど慌ただしさも漂う。★人々が帰り、がらんとした家には夫ともはや何も答えてくれない妻だけ。夫は妻の面影を追いつつ、冷たくなった彼女...河野多惠子「半所有者」

  • 村上春樹「アイロンのある風景」

    ★録画してあったNHK「世界サブカルチャー史欲望の系譜3日本逆説の60-90’s」を観る。私が生きてきた半生を振り返るようで面白かった。いろいろとあったなぁ。★さて今日は、「日本文学100年の名作第9巻」(新潮文庫)から村上春樹さんの「アイロンのある風景」を読む。さすがは村上春樹さんと言う感じで、面白く読んだ。★主人公の順子は実家に馴染めず、高校を辞めて家出してきた。たどり着いたのが北関東の海沿いの街。コンビニでバイトしながら、2歳年上のサーファー・啓介と同棲を始める。★コンビニで知り合った40代の男性、三宅。画家だというが正体は不明。浜辺で流木を拾い、それを組んで焚火をすることに生きがいを感じている。順子もいつしかこの男と焚火を楽しむようになる。★炎と言うのは不思議なもので、見るものの心次第でいろいろな...村上春樹「アイロンのある風景」

  • 吉本ばなな「田所さん」

    ★関西のローカル「551蓬莱の豚まん」のCM、豚まんが「あるとき」の明るい雰囲気と「ないとき」の陰鬱な雰囲気の対比が表現されている。★豚まんに限らず、いるだけでパッと場が明るくなったり和んだり、いないと何となく物足りないという人がいる。「田所さん」もそういう人だ。★吉本ばななさんの「体は全部知っている」(文藝春秋)から「田所さん」を読んだ。面白かったし、何か胸にジーンときた。★田所さんは60代後半の男性。背が低く髪の毛が薄い。ずっと独身でもはや独居老人だ。(他人事とは思えない)★田所さんは、主人公が勤める健康食品会社に在籍している。といって、特に仕事があるわけではなく、ただそこにいるという感じ。現社長は若い頃、かなりグレていた。その時、田所さんが彼の面倒をよく見ていたらしい。実際はカネを奪われたり、時には...吉本ばなな「田所さん」

  • 大城立裕「レールの向こう」

    ★大城立裕さんの「レールの向こう」(新潮社)から表題作を読んだ。★主人公の奥さんが脳梗塞で倒れた。運よく洗濯機に寄り掛かったのと発見が早かったので一命はとりとめたが、身体の麻痺と記憶障害が残った。★身の回りのことを一手に引き受けていた妻が倒れたことにより、日常生活に戸惑う高齢の夫。★妻のリハビリの様子や、脳出血で急逝した知り合いの作家のことなどが沖縄の風景を交えながら描かれていた。川端康成文学賞受賞作(2015年)。☆沖縄にモノレールが開通していることを初めて知った。西表の漁の様子が興味深かった。大城立裕「レールの向こう」

  • 山本文緒「庭」

    ★季節の変わり目か、時折激しい雨が降る。朝から半年に1度の歯科検診。お陰様で以上なく、歯の掃除をしてもらって半年後に予約をとる。★さて今日は、山本文緒さんの「庭」(「日本文学100年の名作」第9巻、新潮文庫)を読んだ。★母親の急逝。庭付きの家に残されたのは、定年を迎えた父と31歳の「私」。父娘の何となく居心地の悪い生活を経験し、その家が「母の家」であったことを思い知る。★母が愛した庭の手入れをする人もなく、いっそ家を売り払って、それぞれ別々にマンションでも買おうかと言う父。会社人間だった父は時間をもて余している様子。★そんな時、ある手紙が届く。母はイギリスへのガーデニングツアーを予約していたらしい。母に代わってそのツアーに参加するという父。さて、どうなりますやら。☆私のような自営業者は幸か不幸か定年がない...山本文緒「庭」

  • 小池真理子「一角獣」

    ★少しずつ涼しくなってきたので、夏の疲れからか睡魔がちょくちょく訪れる。特に読書は眠りを誘う。★今日は小池真理子さんの「一角獣」(「日本文学100年の名作第9巻」新潮文庫所収)を読んだ。★何となくその日暮らしで生きてきた女性。多くの男と関係を持ち、もはやそれを苦とも思わなくなった。気づけば32歳。そんな彼女が知人から紹介された家政婦の仕事。今の生活が嫌になっていた彼女はその仕事を受け入れることにした。★その家の主は50歳代の無口な版画家。妻子はいるが別居中とのこと。そうであるなら色恋を求めてのことかと彼女は想像したが、男はそんなことに全く関心がない様子。ただ芸術に熱中している。★その家には一匹の猫がいた。人に懐かないという猫が、彼女には懐いた。その様子を見て男は一角獣のエピソードを語る。★小池真理子さんと...小池真理子「一角獣」

  • 江國香織「清水夫妻」

    ★今日は早朝から五ツ木の京都模試。いよいよ受験シーズンの開幕だ。★新潮文庫の「日本文学100年の名作第9巻」から江國香織さんの「清水夫妻」を読んだ。★「私」が蕎麦屋で元カレ(今は友人)と捨て猫を拾った話をしていると隣の席のご婦人が話に割り込んできた。あまりに自然な割り込み方だったから、話が発展し、その猫(毛が黄色いので「きいろ」と名付けた)を引き取ってもらうことになった。★それから「私」と清水夫妻の付き合いが始まる。30代後半かあるいは40歳頃か、清水夫妻は遺産で生計を立てているとかで、のんびりとした時間を過ごしている。趣味と言えば、新聞の死亡欄で目にした葬儀に参列すること。知人であろうがなかろうが気にしない。厳粛な式に参列することで心が安らぐようだ。★「私」も夫妻と共に葬儀への参列をするようになる。する...江國香織「清水夫妻」

  • 堀江敏幸「ピラニア」

    ★昨夜、NHK-BSで放映された「英雄たちの選択」、地震計の研究で有名な大森健吉が取り上げられていた。★明治以降、創設された地震の研究。研究者たちの地道な調査の結果、地震の本質が少しずつわかるようになってきた。しかし、どこで、どのような規模の地震がいつ起こるのか、地震予知は非常に困難な問題であった。★ある程度の予想はついたとして、不用意な発表(それも地震学の権威による発表)はパニックを助長しかねない。選択を迫られた大森の苦しい胸の内が探求されていた。★さて、古本で注文していた「日本文学100年の名作」(新潮文庫)の第6巻、第8巻、第9巻が届いたので、第9巻から堀江敏幸さんの「ピラニア」を読んだ。これは堀江さんの「雪沼とその周辺」(新潮文庫)にも収められている。★町中華の店長と近くの信金職員のエピソード。店...堀江敏幸「ピラニア」

  • 泉鏡花「露宿」

    ★昨夜は見事な満月だった。今年も8か月が過ぎ、残るは4か月。日の入りが急に早くなった気がする。★さて今日は、関東大震災から100年だという。1923年9月1日午前11時58分。相模湾北西部を震源とするマグニチュード7.9の地震は、東京市(当時)、横浜市の大部分を焼き尽くし、死者・行方不明者10万人を超える大惨事だったという。★地震に付随する虐殺事件や復興財源に費やされた費用が昭和初期の金融恐慌に影響を与えるなど、後世への影響も大きい。★当時の様子を知るために、泉鏡花の「露宿」(青空文庫)を読んでみた。被災者、泉鏡太郎(鏡花)のリアルなる体験談である。★ルポルタージュとしては修飾が豊富であるが、そこは小説家の習性か。身近に迫る火の手やわずかな空間を求めて避難してきた人々の様子。窮地の中で知り合いと出会った感...泉鏡花「露宿」

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