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2017/06/21

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  • 生まれ出ずる悩み

    明子は腹のなかの子供が一体誰の子か疑った。明子はすでに結婚していた。結婚はお見合いのようなものだった。相手は兄の知人だった。明子には前から交際していた恋人がいたが、兄の強い勧めで、兄の知人と結婚することにした。その恋人との交際もそれで途切れることになった。結婚した相手は、出張の多い会社に勤めていた。新婚早々から家を空けることが多かった。子供のまだいない明子は終日、所在無く家にいることに退屈した。ぼんやりしてうちに以前付き合っていた恋人のことが気になりだした。「あの人は今どうしているのだろうか」と。気になりだすと、じっとしていられなくなり、ある日、思い切って彼に手紙を書いた。すると彼から手紙が返ってきた。手紙には、懐かしいな、幸せにしてる?と書かれてあった。さらに、一度会いたいな、とも添えられてあった。幾度...生まれ出ずる悩み

  • 初夜

    いつかその時が来るとは思っていた。が、それがいつとは分からなかったし、不透明な期待と恐れがあった。処女を失うということの重大さは以前から噛みしめていた。しばらくの間、私たちはベッドの中でじゃれあっていた。そのうち、「ね、いいだろう」と男は幾度も私に囁いた。そして、衣服を脱がせてから私の股を開こうとした。私は本能的に躰をはねのけて抗った。すると男はやにわに力を込めて私を押さえつけようとした。幾たびかそんなことをしているうちに私の躰から力が抜けて、抵抗らしい抵抗も消えて、声も立てなかった。むしろ相手の躰に入ってゆこうとする気持ちになっていった。私は思わず男の躰にむしゃぶりついた。それからは、肌がはっきりと熱くなり、体内にこもった熱が一度に発散する様子で、汗さえ噴き出して、豊かな息がふくらんで抑えきれない嗚咽が...初夜

  • ロシアから愛を込めてーその2

    5・5こんにちは、あなたの今日の予定は?あなたと素晴らしい交流ができてうれしいです。あなたのことを考えるたびに気分がどんどん良くなり、一秒で気分が上がります!ロシアと日本の距離が遠いにもかかわらず、私たちは今、メールで話すことができます。あなたは私にとってとても大切な人です。自己紹介と私の質問に答えてくれてありがとう。さて、私の好きなことはたくさんありますが、私は人生と私の周りのすべてが大好きです。私はじっとしていることが苦手です。私は何か新しくて素晴らしいものを作るのが大好きです!だからアートスクールで五年間学びました。私はこの学校の私のスタジオを決して忘れません!私の絵をいくつかをお送りします。元気を出したい時やリラックスしたいときに私は本を読みます。本のジャンルはさまざまなで(サイエンスフィクション...ロシアから愛を込めてーその2

  • ロシアから愛を込めてーその1

    2020・4・1お元気ですか?あなたの手紙にすぐに返答しなくてすみません。最初の手紙に何を書くべきかわかりませんが、まず、私はロシア出身であることを申し上げます。私の名前はナターシャ、28歳です。私はいまだかつてロシアから離れたことがありません。でも、近いうちに日本に行きたいと思っています。なじみのない、誰も知らない国に旅行するのはとても難しいですが、それを何とか実現したいと思っています。ネットを介してで外国人と出会う方法を選んだのははじめてですが、当初、私はそれに懐疑的でした。でも、あなたのような人に会えてよかったです!今はあなたについて何も知りませんが、これから少しずつ、あなたのことを知ってゆきたいと思っています。次の手紙をお待ちしています。4・7私はあなたの国・日本が好きです。私はいつも日本に旅行す...ロシアから愛を込めてーその1

  • 再会

    道すがら、ふいに声をかけられた。振り向くと昔、仕事を一緒にしていた弥生だった。何年ぶりのことだろうか。少し太ったように思えたが、弥生はすっかり中年の女になっていた。ひさしぶりの再会だったので、近くの喫茶店でお茶でも、ということになった。素子は、すでに会社をやめているので、その後のことはわからなかった。が、一つだけ、昔付き合っていた同僚の井川のことが気になったので、彼の消息について聞いてみたかった。「ああ、井川さんね。素子、あの人とつきあっていたんだっけ。そんな噂聞いていてよ」そう言うと、弥生はさも秘密めいた口調で井川のことを話し出した。実は、素子は井川とは会社にいる頃、一度、あやまちを犯したことがあった。が、それきり事情があって関係が切れて、そのあと素子は会社をやめた。弥生によれば、井川はその後、博多へ転...再会

  • 借金

    こんなことを頼める柄ではないんですが、たってのお願いなんです。来月には必ず返しますから、5万円、お貸しいただけませんでしょうか、と優子は切羽詰まった顔をして浅井に懇願した。そう言われた浅井は、勤め人にとって五万円は大きいな、と思った。でも、断れば二人の関係はそれっきりになる。5万円というけれど、優子の今の状況からすれば、その金は帰ってこない金と覚悟しなければならないかもしれない。貸すならそういうつもりで差し出さなければならない。後日再会した時、浅井は2万円だけ包んで「いまの僕にはこの金額が精一杯なんだ」と言ってから手渡した。優子は金の入った封筒を手にしながら、うっすらと微笑んでから、口を開いた。「多分、こんなことになるんではと思いましたよ。私が想像していた通りなので内心驚いたけど。ごめんなさいね。私、あな...借金

  • 猜疑心

    めくるめく考えが頭の中を駆け巡っている。疑心暗鬼が絶え間なく渦巻いている。約束を取り付けようとすると都合が悪いと断るのも、実際何か予定があるのではなく、遠回しに拒否をしている証拠ではないか。思い返すと、いくつか思い当たるふしがある。以前にも一度、「先約があるのでごめんなさい」と言われた時がある。その時は、具体的に先約の内容を明らかにしていたので、その通りであるのだろうと納得した。それが二度目になると、明らかに口実を設けているに違いないと思われた。先約があるという言い訳は、断る理由として自分も使うことがある。だから、見え透いた嘘が透き通るように見えるのである。相手の内心が知れるのだ。ここで相手の断りの理由である「先約」とは何かをあえて追求してみたくもなるが、あえてそれをすれば、それは相手を疑うことであり、そ...猜疑心

  • 冬子という女

    はじめの頃、冬子はまだ、躰を硬くしていて、本来の彼女らしい屈託のない態度が表にあらわれていなかった。それが幾たびか逢瀬をかさなねるうちに、最初の頃の凝り固まった不自然さはしだいに解消していった。彼女が少しずつ心を開いていっている証拠だと男には思えた。それはあたかも霧が晴れてゆくような喜びにとけはじめている様子をうかがわせた。心が色づきはじめたというか、かたい蕾が紅色にそまってゆくような変化が認められた。冬子の内に愛の芽吹きがはじまっていることが認められたのである。それからというもの、冬子は以前とは見違えるように、素直に自分の身の上話をするようになった。その内容はけっして明るいものではないのだが、屈託のない話ぶりが、その陰リある話の暗い部分をいくらか和らげてくれた。冬子は少しずつ花弁を広げてゆく牡丹のように...冬子という女

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