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2017/06/21

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  • 再会

    道すがら、ふいに声をかけられた。振り向くと昔、仕事を一緒にしていた弥生だった。何年ぶりのことだろうか。少し太ったように思えたが、弥生はすっかり中年の女になっていた。ひさしぶりの再会だったので、近くの喫茶店でお茶でも、ということになった。素子は、すでに会社をやめているので、その後のことはわからなかった。が、一つだけ、昔付き合っていた同僚の井川のことが気になったので、彼の消息について聞いてみたかった。「ああ、井川さんね。素子、あの人とつきあっていたんだっけ。そんな噂聞いていてよ」そう言うと、弥生はさも秘密めいた口調で井川のことを話し出した。実は、素子は井川とは会社にいる頃、一度、あやまちを犯したことがあった。が、それきり事情があって関係が切れて、そのあと素子は会社をやめた。弥生によれば、井川はその後、博多へ転...再会

  • 借金

    こんなことを頼める柄ではないんですが、たってのお願いなんです。来月には必ず返しますから、5万円、お貸しいただけませんでしょうか、と優子は切羽詰まった顔をして浅井に懇願した。そう言われた浅井は、勤め人にとって五万円は大きいな、と思った。でも、断れば二人の関係はそれっきりになる。5万円というけれど、優子の今の状況からすれば、その金は帰ってこない金と覚悟しなければならないかもしれない。貸すならそういうつもりで差し出さなければならない。後日再会した時、浅井は2万円だけ包んで「いまの僕にはこの金額が精一杯なんだ」と言ってから手渡した。優子は金の入った封筒を手にしながら、うっすらと微笑んでから、口を開いた。「多分、こんなことになるんではと思いましたよ。私が想像していた通りなので内心驚いたけど。ごめんなさいね。私、あな...借金

  • 猜疑心

    めくるめく考えが頭の中を駆け巡っている。疑心暗鬼が絶え間なく渦巻いている。約束を取り付けようとすると都合が悪いと断るのも、実際何か予定があるのではなく、遠回しに拒否をしている証拠ではないか。思い返すと、いくつか思い当たるふしがある。以前にも一度、「先約があるのでごめんなさい」と言われた時がある。その時は、具体的に先約の内容を明らかにしていたので、その通りであるのだろうと納得した。それが二度目になると、明らかに口実を設けているに違いないと思われた。先約があるという言い訳は、断る理由として自分も使うことがある。だから、見え透いた嘘が透き通るように見えるのである。相手の内心が知れるのだ。ここで相手の断りの理由である「先約」とは何かをあえて追求してみたくもなるが、あえてそれをすれば、それは相手を疑うことであり、そ...猜疑心

  • 冬子という女

    はじめの頃、冬子はまだ、躰を硬くしていて、本来の彼女らしい屈託のない態度が表にあらわれていなかった。それが幾たびか逢瀬をかさなねるうちに、最初の頃の凝り固まった不自然さはしだいに解消していった。彼女が少しずつ心を開いていっている証拠だと男には思えた。それはあたかも霧が晴れてゆくような喜びにとけはじめている様子をうかがわせた。心が色づきはじめたというか、かたい蕾が紅色にそまってゆくような変化が認められた。冬子の内に愛の芽吹きがはじまっていることが認められたのである。それからというもの、冬子は以前とは見違えるように、素直に自分の身の上話をするようになった。その内容はけっして明るいものではないのだが、屈託のない話ぶりが、その陰リある話の暗い部分をいくらか和らげてくれた。冬子は少しずつ花弁を広げてゆく牡丹のように...冬子という女

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