そうはいったものの、これといって新しい動きはなかった。まあ、疑り深い客や変態が来るようになったのは新しいことだったのかもしれないし、以前ほど忙しくなくな…
それからは他愛のない話がつづいた。その中で大和田紀子はこう言ってきた。 「そう、最近うちに黒猫がよく来るんですよ。ほんとかわいいんですけど、その、玄関…
ただ、そういう訪問だけではなかった。大きな紙袋を提げた大和田紀子もやって来た。 「こんにちは。ご無沙汰しておりました」 ガラス戸があいた瞬間に二人…
しかし、これはまだマシな方だったのかもしれない。違う日に訪れた男(チェックの半袖シャツに色の褪せたジーンズといった格好でカメラをぶら下げていた)は店に入…
第11章 この頃から彼らの店には変なお客さんがちらほらやって来るようになった。ビラを見たとは考えにくいものの、そうとしか思えないほど突っかかってくる客だ…
これはほんと馬鹿げてて実にくだらないものなのでお時間の有り余ってる方だけお読みになって下さいませ。さて、タイトルの『ペコリ犬・ロマーノ』ですが、これはチーズの…
いえ、これはあくまでも一般論であって、特定の事案であるとか事象に関して言ってるんじゃないですからね。という前段を置いて――たとえば、これまで誰も経験してなかっ…
まだ暑くはあるものの空はまさに秋らしい雲に覆われてますね。こういう空を眺めているとなんか様々な面倒事が薄まっていく気がします。ま、薄まりはしても無くなりはしな…
「では、先方にはそのように申し伝えておきます。それで納得してもらえれば一番ですからね」 「すみませんね。お手数かけてしまって」 「いえ、こういうのはよ…
「それで、相談されたってことですか。しかし、あれは勘違いっていうか、まあ、行き違いみたいなことだったんですよ。そう仰ってはいませんでしたか?」 小太り…
警官を見上げながらカンナは頬を染めている。小太りが脇に立ったけど、そちらは見ようともしない。――うん、凝り固まってちゃ駄目ね。狭い世界にいると、どうした…
警察に相談するというのは前からあった話だったけど、幾つかのことがそれを阻害していた。まず、カンナがオマワリ嫌いということ、それに大和田や鴫沼に累が及ぶか…
「まあね」 彼はそうとだけ言った。どうしてかわからないけど、こいつは警察が嫌いだからな。――いや、なんか思い出せそうだぞ。それ絡みの映像を見たような気…
「あの爺さんは脅迫者なんだよ」 「脅迫者?」 「うん。細かいことは言えないけど、ここに相談しにきた人の中に、あの爺さんから脅迫されてたのがいるんだ。で…
居あわせた全員が鬼子母神の方へ折れるバイクを見ていた。何事もなかったかのようにそれは姿を消した。 「カンナちゃん?」 学生の一人が声をかけた。カン…
「今度は『あくりょう』ですか。しかし、あなた方はその正確な意味を知らないはずだ。いや、知るわけもない」 「はあ? どういう意味よ!」 カンナの怒りは…
「はい! そこのバイク! 停まりなさい! 停まるの!」 叫びながらカンナは全力疾走した。参道に居あわせた人は立ちどまって見てる。喫茶店から顔を出す者も…
バイクは参道の手前で停まり、一度視界から消えた。学生たちは笑いながら近づいてくる。 「片づけ? ああ、さっきのカップとか? そんなのすぐ片づけちゃうっ…
コーヒーを飲み終えると千春は優雅そうに手首を曲げ、目を細めた。 「じゃ、帰ろうかしら。そろそろ学生さんが来る時間なんでしょ?」 「ん? まあ、今は学…
その週末にも千春があらわれた。ビラを検分しに来たのだ。 「ほんと、あなたって順風満帆と縁がないのね。どこでなにしててもこういうことが起こるんだから。で…
「っていうか、ちょっとは考えようと思わないのか? さっきから『で?』とか『だから?』ばかりでさ」 「だって、考えるのはあなたの仕事でしょ。私は助手だもん…
第10 今回のビラも特徴は変わらなかった。A4サイズの厚紙に印刷されていて、裏に粘着の強いものが付いている。内容にも大きな差はなく、事実めかした嘘が並…
八月の第一週、休み明けの木曜にマンションを出たカンナは不忍通りを歩いていた。しばらく行くと日本女子大の校舎がある。さらに進むと陸橋があるのだけど、狭くな…
けっきょくのところ、彼らは有効な手立てを持つことなく日々を過ごしていたわけだ。犯人がわかってもなにもできなかった。いや、この時点における最善の方法など誰…
ただ、ほんとうにバイクは向こう端でエンジンを止めた。そっと顔を出すと、ヘルメットを外す姿が見える。白髪を綺麗に撫でつけた小柄な男で、身のこなし方には上品…
彼は古ぼけた建物に目を向けた。外廊下には剥き出しの蛍光灯が並んでいて、そこに蛾が集ってる。見てるだけで悲しくなるような絵面だ。 「いないみたいだな」 …
外面が良くたって、本当はどうだかわからないというのはその通り――彼もそう思っていた。それは、占い師稼業をしてる内にも実証できた。どこからどう見ても好人物…
カーテンが開き、疲れた顔が出てきた。 「どうしたの?」 「ん? ああ、いや、あの爺さんのことだけど、いい評判しか聞かないんだよ。調べれば調べるほど、…
猫たちは前にも増してやって来るようになった。どの時間にもあらわれては、ちょっとした情報を伝えて帰っていく。占いをしてるときは終わるまで待つこともあった。…
猫たちを見送ると彼はソファに身体を沈め、両手で顔を覆った。溜息がとめどなく出てくる。 「なんか面倒になってきたな」 遅い時間の参道は静かだった。自…
キティはテーブルに飛び乗り、正面から見すえてきた。 「ま、終わったことはもういいだろ。今日はね、これからどうするつもりか話そうと思って来たんだ。とりあ…
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