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  • J・F・フリードマ ンの『第一級謀殺容疑』<上>

    ◇『第一級謀殺容疑』(原題:AGAINSTTHEWIND)<上>著者:J・F・フリードマン(J・F・FREEDMAN)訳者:二宮磬1991.11新潮社刊(新潮文庫)本作はタイトルにある通りいわゆるリーガル・サスペンス(法廷もの)である。法廷ものと言えばジョン・グリシャム、スコット・トゥローなどが有名であるが、彼らの作品に決して引けを取らない面白さがある。それは対象事件の異常さ、法廷での丁々発止のやりとりの面白さもさることながら、主人公の弁護士ウィル・アレクサンダーのキャラクターが醸し出す空気がハードボイルド的で、マッチョでありながら時折自虐的な内心の吐露があったりして読者を惹きつける。作品中段では問題死刑囚が入っている刑務所で暴動が起き、受刑者側から州側の交渉役にはウィルが付くよう要求された。その事件現場...J・F・フリードマンの『第一級謀殺容疑』<上>

  • ブルガーコフの『巨匠とマルガリータ(下)』

    ◇『巨匠とマルガリータ(下)』著者:ブルガーコフ訳者:瑞夫忠夫2015.6岩波書店刊<承前>巨匠の恋人マルガリータは著名な科学者の妻で裕福な生活をしている。巨匠が消えてから1年。マルガリータは焼け焦げた巨匠の原稿、彼と映った写真帳などを目の前につらいひと時を過ごしたあと、クレムリンの公園で魔術者ヴォラントの使いアザゼッロから魔術師の大舞踏会で女主人として協力して欲しいと頼まれる。この機会を利用して巨匠に逢えるかもしれないと申し出でを受け入れる。全身に謎のクリームを塗ると魔女の力を得た。箒に乗ったマルガリータは空を飛び手始めに巨匠の作品を悉く否定した批評家ラトゥンスキイの家をぶち壊す。モスクワの地でヴォラントに会ったマルガリータは手下の小悪魔らと共に無事に女主人としての役目を果たす。舞踏会の成功に満足したヴ...ブルガーコフの『巨匠とマルガリータ(下)』

  • 令和6年のトマト栽培ー3ー

    ◇生育は順調ー収穫第一号その後トマトtの生育は順調で、木によっては第5果迄花をつけています。第5果が花を付けたら芯を摘む方が良いとする指導もあります。試しに第6果も収穫できるかやってみましょう。旅行から帰ってきたら初めて収穫できる実が1個ありました。初収穫です。今日は梅干しを漬けました(10キロ)。今年は南高梅は不作で店頭には少ししか並びませんでした。ほぼ2カ月、梅酢が上がるのを待ちます。それぞれ実が大きくなってきています。第1号のトマトホーム桃太郎という大玉種です。(以上この項終わり)令和6年のトマト栽培ー3ー

  • ブルガーコフの『巨匠とマルガリータ(上)』

    ◇『巨匠とマルガリータ(上)』著者:ブルガーコフ訳者:水野忠夫2015.6岩波書店刊近代ロシア文学の巨匠の一人ブルガーコフの代表作。死後26年経って完訳が出版された。彼の作品はスターリン時代にあって何度も出版が拒否された。大作「巨匠とマルガリータ」もゴルバチョフのペレストロイカによってようやく日の目を見たのである。出版社は幻想小説とうたっているが、確かに時空の飛躍と奇想天外なシチュエーションの展開で気も動転し息もつかせないことしばしばであるが、幻想的というよりは創作世界の中に巧みにリアルな世界(当時のロシアにおける政治的・思想的現実社会)を組み込ませる韜晦の手立てと見ても良いかもしれない。時空の飛躍とパトリョーシカのようなキリスト神話の登場、劇画のような黒魔術団の暗躍などが軽快かつコミカルな文体で流されて...ブルガーコフの『巨匠とマルガリータ(上)』

  • 令和6年のトマト栽培ー2ー

    ◇追肥を終えて次のステップへ翌日が雨予報なので、5月6日に支柱を立てました。苗を移植してから3週間。苗の脇に配合肥料で追肥を施しました(5/8)。すでに第1果がピンポン玉大になっている木があります。第1果が3個以上ある木は2~3個に摘果します。(以上この項終わり)令和6年のトマト栽培ー2ー

  • 目黒冬弥の『メガ銀行銀行員ぐだぐだ日記』

    ◇『メガ銀行銀行員ぐだぐだ日記』著者:目黒冬弥2022.10三五館シンシャ刊「汗と涙のドキュメント日記シリーズ」の一巻。人気シリーズで出版早々に図書館にリクエストして2年がかりで漸く読むことが出来た。かれこれ12業種でのドキュメントが刊行されているが、各巻とも業界で働いた人が綴った悲喜こもごもがもたらすドキュメントの迫真性が魅力である。今回のメガバンク銀行員と言えばリアルに三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行であり(目下第4のメガバンク入りの気配もあるが)、自ずと素性が知れて、しかも立て続けに3回もシステム障害で世間を騒がせたとあれば隠しようもないが、筆者はD銀行とF銀行が合併した時点からノンキャリ(非大学卒)の行員で、合併後も働き蜂行員として勤めたM銀行において、システム障害時の顧客へのお詫び行脚を...目黒冬弥の『メガ銀行銀行員ぐだぐだ日記』

  • 2013The Best Mysteries(ザ・ベストミストリーズ:推理小説年鑑)

    ◇2013TheBestMysteries(ザ・ベストミストリーズ:推理小説年鑑)日本推理作家協会編2013.4講談社刊2012年に国内で発表された数百の短編から日本推理作家協会が選び抜いた短編推理の決定版である。巻末には日本推理作家協会の前身「探偵作家クラブ」、「日本探偵作家クラブ」を含め「日本推理作家協会賞」受賞リストのほか、「江戸川乱歩賞」、「横溝正史ミステリー大賞」、「オール読物推理小説新人賞」、「小説推理新人賞」、「小説現代推理新人賞」、「サントリーミステリー大賞」、「日本推理サスペンス大賞」、「鮎川哲也賞」、「日本ミステリ文学大賞」、「アガサ・クリスティー賞」受賞リストが掲載されている。面白かったのは「青い絹の人形」と「探偵・竹花と命の電話」、「機巧のイヴ」。有栖川有栖の「本と謎の日々」は有栖...2013TheBestMysteries(ザ・ベストミストリーズ:推理小説年鑑)

  • 令和6年のトマト栽培ーⅠー

    ◇気合を入れてトマト栽培に挑戦連作を嫌うなす科の植物の代表トマト。我が家で前裁の畑では小松菜とブロッコリーの後はトマトと決まっていて、間違いなく連作。去年もうどん粉病に悩まされた。今年は連作障害を防ぐという肥料を飼って撒いたのであるが、さて効果はあるだろうか。苗を移植したのが4月11日。3畝に各6本、品種は殆どが「ホーム桃太郎」。種苗会社が開発した接ぎ木苗も数本ある。これは「麗夏」「かんたん大玉」「薄い皮中玉ピンキーカクテル」「大玉強うま苗」鉢植えでは「極うま中玉」木がかなり気が太くなってきた。そろそろ支柱建てが必要なる。(以上この項終わり)令和6年のトマト栽培ーⅠー

  • S・Jローザンの『春を待つ谷間で』

    ◇『春を待つ谷間で』(原題:STONEQUARRY)著者:S・Jローザン(S.J.ROZAN)訳者:直良和美2005.8東京創元社刊ローザンのリディア&ビルシリーズ第6作目。ハードボイルドものである。リディア・チンは中国系アメリカ人ですっきりした美人の中年女性。一方ビル・スミスはアイルランド系アメリカ人で無類の酒好き(バーボン)ヘビースモーカーである。武骨な大男で血の気が多く、傷が絶えない。二人は時折コンビを組んで仕事にあたる私立探偵業である。ビルは普段ニューヨークに住んでいるがたまにNY北部の丘陵地帯アップステート地域のスコハリーにある山小屋に滞在する。そこで好きなピアノを心置きなく弾く(モーツァルトの変ロ短調アダージョ、ハ短調ソナタなどが好きだ)のが最高の時間である。そんなある日地元の農園主イヴ・コル...S・Jローザンの『春を待つ谷間で』

  • 大沢在昌の『熱風団地』

    ◇『熱風団地』著者:大沢在昌2021.8角川書店刊大沢在昌らしく雑多な国籍の人々が登場する。。刃傷沙汰もほとんどない割とほんわかとしたソフトタッチの劇画風痛快譚である。東南アジアの小国”ベサール”という王国の王位継承問題がテーマ。主人公はフリーの観光ガイド佐抜克郎とベサール人元女性プロレスラーのヒナ。外務省系NPO法人「南十字星」という得体のしれない団体にベサール国の王子を探してくれと依頼される。佐抜が日本では数少ないベサール語を操れる人材だったからである。アシスタントとしてつけられた元女子プロレスラー”レッドパンサー”は佐抜が大ファンだった。二人は中国情報機関員、インド、ラオス、タイ、インドネシア、ヴェトナム、カンボジア、ベサール人など雑多な人々が住む「アジア団地」に住んでいるらしい王子探索に奔走する。...大沢在昌の『熱風団地』

  • 信州松代の旧駅舎を描く

    ◇長野電鉄屋代線の旧松代駅舎を描くclesterF8(中目)絵に描いたような空と山という表現があるが、実際この日の空は抜けるような青空だった。雲一つない真っ青な空と、雪をまとった白馬の山脈。それと対照的に廃線となって役目を果たせなくなった駅舎の寂しげなたたずまい。この駅舎は大正11年(1922年)開業当時のままで、平成24年(2012年)に廃線となってからもバス停の待合室などに利用されている。公衆電話ボックスと飲み物の自販機がある。北アルプスの北縁白馬山系は実は駅舎の左寄りに見える。信州松代の旧駅舎を描く

  • 湊かなえの『ダイアモンドの原石たちへ』

    ◇『ダイアモンドの原石たちへ』著者:湊かなえ2023.12集英社刊副題は「湊かなえ作家15周年記念本」とある。『告白』で作家デビューした作者湊かなえがこれまでに書いた小説作品29の紹介(各概ね3ページ)と、多大の影響を受けたという漫画家の池田理代子との対談、47都道府県サイン会ツアーの編集者レポート、ロングインタビュー「未来の小説家たちへ」、高校生のための小説甲子園、淡路島取材ドキュメント、年譜など多彩な誌面構成に加えて書下ろし短篇小説を添えた興味深い文庫本である。とくに「高校生のための小説甲子園」は作者湊が若い人に小説を書いてほしいという思いから始めた若い人限定の新人賞という試みで、題名の「ダイアモンドの原石たちへ」は作者の強い思いの表れか。(以上この項終わり)湊かなえの『ダイアモンドの原石たちへ』

  • キミ・カニンガム・グラント『この密やかな森の奥で』

    ◇『この密やかな森の奥で』(原題:TheseSilentWoods)著者:キミ・カニンガム・グラント(KimiCunninghamGrant)訳者:山崎美紀2023.11二見書房刊(二見文庫)日系4世の作者デビュ―2作目のサスペンス。とはいうもののサスペンスの盛り上がりは物語中段以降である。最初は大自然に抱かれた自活生活と父と子の深い愛情と強固な結びつきが語られるが、なぜ外界からの侵入者に対し強い警戒を怠らないか、15・6年前の事件が問わず語りに述べられる。その語り口はほぼ主人公クーパーの独白にちかい(最終段のエピローグだけ娘のフィンチが述懐する)。人物造形が優れていることから父と娘の互いの思いやりと固い絆がひしひしと伝わってくる。主人公元軍人のクーパーは結婚を間近にして交通事故で亡くなったシンディという...キミ・カニンガム・グラント『この密やかな森の奥で』

  • 松代藩主邸を描く

    ◇信州松代藩の旧藩主邸を描くclesterF6(中目)今は長野市であるが、旧松代町は戦国時代から北信濃の雄真田家が治めた。今も藩主の館が、旧真田邸として観光スポットとして公開されている。穏やかな日差しの差し込む部屋から庭の一隅が望め、日本人が好む長閑な雰囲気がなかなか捨て難く、写真に収め水彩画で再現してみた。江戸末期松代藩第九代藩主真田幸教が義母お貞の方の住まいとして建てたもので、明治初期まで真田家当主がお住まいになっていたということで、大大名ではないが名将真田幸村の名残をしのぶ縁にはなった。(以上この項終わり)松代藩主邸を描く

  • 大沢 在昌の『黒石』

    ◇『黒石』著者:大沢在昌2022.11光文社刊久々の新宿鮫Ⅻ。「黒石」はヘイシと読む(中国語)。全編緊迫感がみなぎる新宿鮫シリーズ最新作。自らヒーローを自認する男は、正義の味方として悪=害虫を駆除するのが使命。次々と下される殺人指令に独自に開発した残酷な殺人凶器で使命を果たす。リーダーを決めずに活動する地下ネットワーク集団「金石」は中国残留孤児二世、三世など犯罪者とカタギが混在する。一方”徐福”という正体不明の人物がいてネットワークの支配権を狙って”黒石”を殺人兵器として使いネットワーク集団の”七石”という幹部級七人など邪魔者を次々と殺し始めた。新宿署生活安全課刑事鮫島は鑑識の藪、公安から来た相棒の矢崎、管理官阿坂と相談しながら「金石」のメンバー洗い出しと、キーマンの徐福の特定、殺し屋「黒石」の割り出しに...大沢在昌の『黒石』

  • 村木 嵐の『まいまいつぶろ』

    ◇『まいまいつぶろ』著者:村木嵐2023.5幻冬舎刊これは徳川幕府第九代将軍家重の物語である。家斉は幼名を長福丸と言った。生来右脚が不自由で、言語障害を持ち父親の吉宗も我が子が「何を言っているのか分からぬ」と嘆いたことがある。老中を初め取り巻きの誰もが家重は吉宗の後を継いで第十代将軍となるのは無理で、弟君で英邁間違いなしの宗武がふさわしいと信じ込んでいた。そこに誰ひとり理解できなかった家重の話す言葉を理解できる者が現れた。町奉行大岡越前守忠相の遠縁の子大岡兵庫(幼名:のちに忠光)である。誰しも家重の言葉と称し偽りを述べたりするのではなどと危ぶんだが、「家重殿の口代りに徹し、決して耳と目になってはならぬ」と忠相に釘を刺され、終生これを守った。家重は兵庫によってようやく思いを伝える言葉を口にできない辛さから抜...村木嵐の『まいまいつぶろ』

  • ジェフリー・ディーヴァーの『ハンティング・タイム』

    ◇『ハンティング・タイム』(原題:HUNTNGTIME)著者:ジェフリー・ディーヴァー(JefferyDeaver)訳者:池田真紀子2023.9文芸春秋刊超優秀なエンジニア、アリソン・パーカーが娘のハンナとともに姿を消した。勤務先のハーモン・エナジー・プロダクツ社の社長マーティー・ハーモンは青くなった。同社の目玉商品小型原発の基幹部品SITの開発者であり、今や同社の要だからである。アリソンにはジョン・メリットという、夫がいた。3年ほど前アリソンに対する暴力行為があって服役中であったが、2年も早く仮釈放された。そのジョンが服役中「ここを出たらアリソンを探し、殺すつもりだ」と言いふらしていたというのである。マーティは警官としては凄腕だったジョンの追跡を恐れ、懸賞金ハンターで知られたコルター・ショウにアリソン親...ジェフリー・ディーヴァーの『ハンティング・タイム』

  • 人情時代小説傑作選『親不孝長屋』

    ◇『親不孝長屋』著者:池波正太郎平岩弓枝松本清張山本周五郎宮部みゆき20015.7新潮社刊(新潮文庫)世話もの時代小説に定評のある作家五人衆のアンソロジーである。いずれも江戸時代の庶民の哀歓を描いた傑作である。とりわけ最終に置かれた<神無月>(宮部みゆき)が一番と思う。山本周五郎の<釣忍>もよかった。<おっ母、すまねえ>池波正太郎生さぬ仲の息子市太郎を可愛がって育てたおぬい。夫が死んで再婚したが市太郎は新しい父になつかず、グレ出した。かつての職場岡場所の朋輩お米は”殺し”を勧めるのだが…。おぬいは心の臓の発作で死んでしまう。それがきっかけで市太郎は立ち直って親父の煙管職仕事に精を出すようになった。「おっ母のおっぱいを、ほかの男にはやりたくなかったんだ」市太郎は継母の墓前で述懐するのだった。<邪魔っけ>平岩...人情時代小説傑作選『親不孝長屋』

  • ふきのとう顔を出す

    ◇自然界は時を忘れず大きな地震があったり、季節外れの高気温が続いたり、春は通り過ぎたのかと思っていたら、小旅行から帰って見たら庭にはふきのとうが。昨年も同じ時期でした。地面の外の気温はあまり影響がないのかも。タラの芽は山菜の王者などともてはやされていますが、フキノトウは苦み走って、香りに気品があって、コシャブラと共に一級品と軍配を上げます。(以上この項終わり)ふきのとう顔を出す

  • 黒川博行の『勁草』

    ◇『勁草』著者:黒川博行2017.12徳間書店刊巷間オレオレ詐欺と呼ばれる特殊詐欺がテーマの作品である。今の日本では小金を持った高齢者がターゲットにされ、いくら注意を呼び掛けても被害者は増える一方である。詐欺グループにはターゲットを探る名簿屋、ターゲットの財産、家族状況など情報収集を受け持つ下調べ屋がいる。掛け子、出し子、受け子と分業システムになっていて、指示役に従って動くので基本互いに連係はない。本作では橋岡と矢代という名簿屋のリストに従って下調べをするチームと特殊詐欺グループを追う大阪府警特殊詐欺捜査班の佐竹と湯川という二人の刑事の戦いが中心である。ちなみに詐欺グループのリーダーは高城という名簿屋上りで、「ふれあい荘」というアパートを持っており受け子供給源である。また「大阪ふれあい運動事業推進協議会」...黒川博行の『勁草』

  • ロバート・クレイスの『天使の護衛』

    ◇『天使の護衛』(原題:TheWotchman)著者:ロバート・クレイス(RobertCrais)この作品の主人公ジョー・パイクは大富豪コナン・バークリーの娘ラーキンの警護を依頼された。パィクはロサンゼルス市警の警官だったが、辞めて私立探偵をしている。パイクを推薦したのはバッド・フリンだが彼はパッドが新米警官だった時教育警官だった。今は企業調査会社をやっている。二人はLA市警以来強い絆で結ばれている。パイクはバッドから得難い教訓を受けた。”我々の仕事は人を殺すことではない。人を生かし続けることだ”はバッドの理念。だがパイクは最初の仕事で二人に抵抗した銃器犯罪者ともみ合ううちにバットをナイフで狙った被疑者を射殺してしまった。パイクはバッドの命の恩人である。そんなことで二人に絆は一層強くなった。警護対象の女性...ロバート・クレイスの『天使の護衛』

  • 温井 徳郎の『誘拐症候群』

    ◇『誘拐症候群』著者:貫井徳郎2001.5双葉社刊作者の「症候群」三部作『失踪症候群』、『誘拐症候群』、『殺人症候群』の一つ。主役を演じるのが警視庁人事二課の環敬吾が指揮する特殊工作班の一人武藤。警察組織の枠外グループで、諸般の事情で警察が表立って扱いにくい案件を処理するいわば時代物の「必殺仕置人」の現代版と言った役回りである。今回の「誘拐」案件は身代金小口誘拐(身代金が何とか都合できる額)と営利誘拐対象者(男児)が殺害されるという本格大型誘拐(身代金1億円)が交錯し、誘拐グループを暴く環班の面々も交錯し合うところが読みどころ。環のグループは概ね元警官である。世間的には私立探偵や建設現場作業員、ホームレスなどさまざまである。チームの何人かが事案の調査データを持ち寄って犯人の特定し、環の指示で対処する。今回...温井徳郎の『誘拐症候群』

  • 鈴木荘一の『ロシア敗れたり』

    ◇『ロシア敗れたり』<日本を呪縛する「坂の上の雲」という過ち>著者:鈴木荘一2023.9毎日ワンズ刊日露戦争前後の歴史に関する著作。司馬遼太郎は自作の『坂の上の雲』について、「この作品は、小説であるかどうかじつに疑わしい。ひとつは事実に拘束されることが百パーセントにちかいからであり、ひとつは、この作品の書き手ー私のことだがーは同にも小説にならない主題をえらんでしまっている」とあとがきで書いているという。これは一切のフィクションを排した史実デア履歴書であると主張しており、著者は『坂の上の雲』を繰り返し何度も読んだあげく副題にあるように国民的作家司馬遼太郎によってゆがめられた史実が、あたかも日本の正史であるがごとく定着することを憂いた。そして『坂の上の雲』が通俗小説の枠を超えて人々の深層心理に食い込んでいる以...鈴木荘一の『ロシア敗れたり』

  • みかんとメジロくん

    ◇我が家のメジロくん”我が家の”などと、まるで自分が飼っているように聞こえてしまうが、実感としてはその通りである。今年はみかんが豊作で毎日メジロくんたちのためにみかんを半分に割って柿の木の枝に吊るす。向こうにも時間表があるのかすぐには現れない。しばらくするとすごい速さで偵察に来て、前後左右に視線を巡らし、異様なものの気配がないかを確かめながら、柿の木の枝から枝を渡りながらミカンに辿り着く。とにかく気配に敏感である。カメラのレンズを少し方向を変えるだけで、すっとミカンを離れる。大体番いなのか2・3羽で現れる。上の枝で啄む順番を待っていて、適当なところで交代する。ツグミなど大型の鳥もこうした獲物を狙っていて木のミカンを襲撃するが、吊るしたミカンには足場がないので寄ってこない。みかんが終わったら砂糖水で歓迎する...みかんとメジロくん

  • ロバート・B・パーカーの『盗まれた貴婦人』

    ◇『盗まれた貴婦人』(原題:PaintedLadies)著者:ロバート・B・パーカー(Robert・B・Parker)訳者:加賀山卓朗2010.11早川書房刊パーカーのスペンサーシリーズ第38作である。パーカーは39作『春嵐(Sixkill)』を最後に2,010年に亡くなった。今回の事件は題名にあるように17世紀の名画『貴婦人と小鳥』という名画が美術館から盗まれ、犯人から身代金の要求があって、スペンサーは受け渡しに向かうという美術史教授プリンスの依頼でその警護を請け負った。しかし金を渡し受け取った絵画(とみられた)が爆発、依頼人は爆死した。ろくに仕事をしなかったスペンサーは依頼料を返したものの腹の虫が収まらないので無報酬で事件の背景を探る。関係者を探っているうちに犯人の痛いところを突いたのか、スペンサーの...ロバート・B・パーカーの『盗まれた貴婦人』

  • デニス・ルヘインの『シャッターアイランド』

    ◇『シャッターアイランド』(原題:ShutterLsLand)著者:デニス・ルヘイン(DennisLehane)訳者:加賀山卓郎2003.12早川書房刊ミステック・リバー』でおなじみのデニス・ルヘインの作品。本書は一味違う。保安官を主役としているが、捜査小説でも、冒険小説でもない。読んでいくうちに「シャッター・アイランド」という孤島、密室、暗号の登場でまるで本格ミステリー小説と見紛う構成である。物語は1954年9月、主人公のアメリカの連邦保安官テディ・ダニエルズと相棒のチャック・オールが、ボストン沖のシャッターアイランドにあるアッシュクリフ病院という精神障害犯罪者病院を訪れるところから始まる。女性患者の一人が行方不明になったことで二人が派遣されたのである。主人公のテディは放火事件で妻を亡くしており、放火犯...デニス・ルヘインの『シャッターアイランド』

  • 2023年の大みそかを迎えて

    ◇疾風怒濤の一年いつも感じることながらこの年も実に慌ただしい一年でした。我が国の宰相岸田さんなどはもっと慌ただしく感じているでしょう。埒もない些事が因で(晩秋のパーティー券事案はダメ押し)、幾度もボディブローを食らって、支持率がみるみる危険水域(喫水線?)を超えるとは思ってもいなかったでしょう。大仕事はやっていないものの、それなりに一生懸命に仕事をしているのに、取り巻く人達が足を引っ張ってダメッジを与えているのが実態で気の毒です。岸田さんを例に出し失礼千万ながら、かくいう小生も寄る年波には勝てず、身体的にダメッジを受け、日常の活動が停滞し、あまり間を置かず更新を心掛けてきたブログを中断することもあって本人もショックでした。若いころは高度成長期の初期で明日に、あくる年に夢と希望が持てました。30年も給料が上...2023年の大みそかを迎えて

  • トニ・モリスンの『暗闇に戯れて』

    ◇『暗闇に戯れてー白さと文学的想像力』(原題=PLAYINGINTHEDARKWhitenessandtheLiteraryImagenation)著者:トニ・モリスン(ToniMorrison)訳者:都甲幸治2023.9岩波書店刊(岩波文庫)本の題名で一瞬サスペンスか何かと誤解しそうになるが、違う。キャザー、ポー、トウェイン、ヘミングウェイなどアメリカ文学者の作品にみる人種的差別の構造を分析した批評書である。アメリカ文学史の根底にある「白人男性を中心にした思考」形態を鋭いタッチで抉り出す。”白人ではない、アフリカ的な(あるいはアフリカ系の)存在や人物が想像力の中でどう構成されてきたのか、そしてまた、こうして捏造された存在が想像力の中でどう利用されてきたのかを、この研究では堀り下げる。””文学的想像力にお...トニ・モリスンの『暗闇に戯れて』

  • みかんを描く

    ◇我が家の青島ミカンclesterF6(中目)今年は我が家の柿がほとんど実を付けなかった。昨年が豊作だったので諦めていたところ、花が沢山咲いたみかんが驚くほどたくさん実を付けた。先週の水彩画教室でみかんを描くというので葉枝付きのミカンを持って行った。店頭のミカンと違って枝と葉を付けただけで新鮮さが伝わってくる。皮を抜いた姿も捨てがたい。(以上この項終わり)みかんを描く

  • 荒山 徹の『風と雅の帝』

    ◇『風と雅の帝』著者:荒山徹2023.9PHP研究所刊歴代天皇の系列に数えられていない天皇。王政復古、天皇親政を頑なに追い続けた後醍醐天皇に対抗し「天皇とは何か」を追い求めた「光巌帝」の激動の人生を描いた歴史小説。鎌倉時代から室町時代にかけて、万世一系の天皇家は持明院統、大覚寺統という二系列の王朝が互いに正当性を主張し合う皇統分裂時代があった。学校の歴史教科書でもあまり詳細には語られていない。この渦中にあった光厳天皇(量仁帝)に焦点を合わせ、この時代の幕府の権力構造の波に翻弄された天皇の苦悩を描いたのが本書である。作者は数多の史料、文献、著作を跋渉し魅力的な天皇像をヴィヴィッドに描き出した。皇統分裂は後嵯峨上皇が後深草帝と亀山帝とどちらを後継者にするかを定めないまま薨去したことに発する。一時は双方10年を...荒山徹の『風と雅の帝』

  • 水彩で魚の干物を描く

    ◇魚の干物・目刺しclesterF4(中目)前々回の水彩画教室のモチーフは魚の干物。昨年と同様アジの開きとイワシの目刺し。普段は目刺しはもちろんホッケの開きなど好物で良く食べるのだが、絵の素材には載ってこない。ましてや高橋由一画伯の超有名な「荒引鮭」などは論外。目刺しというが店頭に並ぶ目刺しはえらを竹串や藁で刺したのが多い。教室では藁は鰓から外されていた。新鮮な目刺しは皮肌が光り輝いている。鰓は陽に焼かれてべっこう色になっている。目にひかりはないが恨めしそうで、じっと見てはいけない。竹ざるにヒバなどの枝が敷いてあると色彩的にバランスがよく引き立ったと思うがそれは贅沢というもの。目の周辺をよく観察し丁寧に描けばよかったと後悔(下手にいじるとかえっておかしくなること必定)。(以上この項終わり)水彩で魚の干物を描く

  • パット・パーカーの『女たちの沈黙』

    ◇『女たちの沈黙』(原題:TheSilenceofGirls)著者:パット・パーカー(PatParker)訳者:北村みちよ2023.1早川書房刊西洋文学の巨頭ホメロスによるギリシャの「イリアス」という戦争叙事詩を、奴隷となった女性たちの視点からトロイア戦争の前後の出来事を描いた長編小説である。「イリアス」の主要人物と言えばアキレウスを初めアガメンノンなど男が主役であるが本書では攻略されたリュルネソスというトロイ近郊の王国の王妃プリセイスなど女性たちが戦争捕虜として囚われ、戦利品としてギリシャ連合軍のために働らかされる。リュネソスなど高貴な出の女性は側女として、その他は奴隷としてトロイを攻める側のために働かされた。本書を読むにはまずトロイア戦争を頭に入れておかなければならない。今から3000年以上前地中海で...パット・パーカーの『女たちの沈黙』

  • 冬の野菜を描く

    ◇透明水彩で描く冬の野菜clesterF4先週の金曜日は写生会が予定されていたのだがあいにくの雨。このところ写生会は雨で流れることが多い。金曜日は特異日かも。今週は冬の野菜ということで、カボチャと里芋。レンコンも今の時期が旬なのだが、幹事さんはサツマイモを選んだ。しかも焼き芋。生のサツマイモと違って、半分に折った皮と実の質感を描き出すのがむつかしい。カボチャも皮が同じ色でもなく個性がある。半分に割った中の種がまた悩ましい姿である。それにしても里芋の皮はどうして何段もひげがあるのだろう。(以上この項終わり)冬の野菜を描く

  • レイチェル・ホーキンスの『階上の妻』

    ◇『階上の妻』(原題=TheWifeUpstairs)著者:レイチェル・ホーキンス(PachelHawkins)訳者:竹内要江2021.8早川書房刊物語の舞台はアメリカ南部アラバマ州のソーンフィールド・エステイトという高級住宅地。その一画の邸宅にエディ・ローチェスターとビーという新婚夫婦が住んでいる。ある夜ビーは友人のブランチ・イングラムと湖にボートを出し、二人は行方不明となった。ビーという妻はサザン・マナーズという室内装飾企業を興した経営者でハワイでエディと知り合い3か月で結婚した。ビーの総資産は2億ドルにのぼる。湖で遭難した二人の女性は溺死が推定されるものの行方が分からない。そのうちブランチの遺体が湖から発見された。死因は打撲によると見られ夫のトリップが逮捕された。ビーは依然行方不明である。独り身とな...レイチェル・ホーキンスの『階上の妻』

  • エマ・ホリーの『料理人』

    ◇『料理人』(原題:CookingupaStrom)著者:エマ・ホリー訳者:山崎久美子2002.6光文社刊舞台はアメリカ・マサチュセッツ州ケープコッド。アビゲイル・コーツ(アビー)という簡易レストランのオーナーとストーム・デュプレというロサンゼルスから流れついた青年シェフ。この二人が主要登場人物である。さてストームは心から満足できる料理を作ることを別にすれば、女が官能の深みに目覚めることを助けてやることこそ、自分の才能、使命だとさえ思っているというプレーボーイだった。だから彼をシェフとして雇ったアビーは間もなくストームの虜になって彼なくば日も夜も明けない状態に陥る。幸いストームは料理の腕が良く、ストームを雇ってから店は大繁盛、二階を改築するプラン迄持ち上がった。小説タイトルは「料理人」であるが、登場する料...エマ・ホリーの『料理人』

  • 浅田次郎の『一路』<下>

    ◇『一路』<下>著者:浅田次郎2015.5中央公論新社刊<承前>吹雪の中難路の「和田峠」を越した蒔坂左京大夫の参勤交代の一行。到着日は一日でも遅れてはならない厳しい御法度のため急ぎに急ぐ。お家乗っ取りを企む殿様後見役の蒔坂将監は侍医の辻井良軒を抱き込み眠り薬に砒素を仕込む暗殺を命じたが良軒に拒まれて企みは頓挫した。碓氷峠は江戸に下る際はさしたる苦労はない。一行は途中で加賀藩百六万石の大大名の妹君乙姫様が江戸を目指す300人を超す行列に遭遇するが「参勤道中」を盾にして風の如く駆け抜ける。其騒ぎの一瞬の間に一路を垣間見た乙姫君は恋に落ちる。遠足(とおあし)で知られる安中宿を駆け足で抜け次の宿松井田宿を目指す。ところが無理が続いた御殿左京大夫様は安中宿にて発熱、このままでは江戸到着日が遅れる。老中にその旨遅延届...浅田次郎の『一路』<下>

  • 浅田次郎の『一路』

    ◇『一路』著者:浅田次郎2015.4中央公論新社刊これは時代小説。本の表題「一路」とは主人公の名前である。小野寺一路は父親が亡くなって急遽江戸から郷里美濃の田名部に呼ばれた。跡継ぎなので、仕えている知行7500石の旗本蒔坂左京大夫の御供頭の役目を継ぐためである。父は失火が因で亡くなっているので本来ならばお家断絶でもおかしくないところ、参勤交代の期日が迫っているため急遽一路に御供頭として差配を任せることとしたのである。江戸までの12日間の参勤道中である。ところが一路は父親からは道中御供頭としての何たるか、その作法などまるで教わっていなかった。そこでこの本の作者浅田次郎の出番である。人情話はお手のもの、一路を助ける数多の人々が登場する。父の友人勘定役国分七左衛門、代々の御供頭添役の栗山真吾、武士道に忠実な佐久...浅田次郎の『一路』

  • 記事掲載中断のお知らせ

    ◇記事更新中断この度一身上の都合により本欄の記事更新を一時中断のやむなきに至りました。誠に残念ですがしばらく事態が落ち着くまでお休みいたします。いつも本ページをお開きいただきありがとうございます。ごんべえ記記事掲載中断のお知らせ

  • 倉井眉介の『怪物の町』

    ◇『怪物の町』著者:倉井眉介2023.7宝島社刊第17回『このミステリーがすごい』大賞を受賞した『怪物の木こり』に次ぐ第2作目という。どんな作品か興味があったが、途中まで読んでこれはホラーでもスリラーでもない高校生のスリラーもどきの作品かと思った。主人の「僕」良太(高校生)と友人の「先輩」が、町の多くの人が殺人者であるという不思議な町に引っ越してきて不可解な出来事に遭遇する。噂通りの「殺人者がうごめく怪物の町」を実感しつつも、家族(両親と姉)の誰ひとり不審な状況に遭っておらず、彼も自分の体験を彼らに素直に話してもいない。もしかして自分たちが何か錯覚しているのではないかとか、実態がが明らかにならないのは町民が自分たちに不都合なことには「見て見ないふりをしている」からではないか。などと人間心理の不安定さをさり...倉井眉介の『怪物の町』

  • 高野和明の『踏切の幽霊』

    ◇『踏切の幽霊』著者:高野和明2022.12文芸春秋社刊作者11年ぶりの新作。まず題名がストレートでいい。読み始めてすぐに単純な心霊ものではないことがわかった。踏切の心霊写真をきっかけに、今は女性誌の取材記者だが、元社新聞社会部記者が踏切付近の殺人事件との奇妙な符合を手掛かりに手堅く関連事実を追って行き、盛り場世界、裏社会、政治家の汚職、殺人などを手繰りながら巧みにエピソードを織り交ぜ、読者を倦ませない手口が憎い。主人公の元新聞記者松田は愛する妻を亡くして2年、今は泣くことにも慣れた。心霊写真を初め殺人事件の被害者でもある「髪の長い細身の女」を追跡するにつれて、作り笑いで周囲をはぐらかして生きるしかなかったその女の哀れな育ち、過酷な人生に深い同情を覚えて彼女を死に追いやった人非人に果敢に立ち向かう一徹さが...高野和明の『踏切の幽霊』

  • ジョン・グリシャムの『大統領特赦(上・下)』

    ◇『大統領特赦(上・下)』(原題:THEBROKER)著者:ジョン・グリシャム(JOHNGRISHAM)訳者:白石朗2007.3新潮社刊(新潮文庫)アメリカ議会の名うてのロビイスト(フィクサー))ジョエル・バックマン。莫大な額の不正取引疑惑で逮捕され司法取引の末容疑を認め刑務所に入っていた。刑期を6年ほど消化したある日、突然釈放された。格別の成果を上げることもなくホワイトハウスを去る大統領アーサー・モーガンによる任期切れ直前大統領特赦のおかげ。当然バックマンから莫大な買収金が払われたと取りざたされた。しかし実は真の目的はバックマンをどこの国の誰がバックマンを殺すか見定めるというCIAの企みだった。ジョン・グリシャムといえば、押しも押されぬ法廷もの作者。リーガル・スリラーの第一人者である。そのJ・グルシャム...ジョン・グリシャムの『大統領特赦(上・下)』

  • 中西智佐乃の『狭間の者たちへ』

    ◇『狭間の者たちへ』著者:中西智佐乃2023.6新潮社刊新潮新人賞受賞後第3作目。「狭間の者たちへ」、「尾を喰う蛇」2作の小説集。<狭間の者たちへ>さえない、ダサいことを自認している中年男。妻と娘がいるが、妻を愛しているわけでもない。保険会社支店の営業担当であるが、成績も上がらず、年下の上司にコケにされている日常の鬱憤が積もりに積もっている。二人目の子供を求める妻に迫られても必死に拒む。結婚前には風俗店の「あーちゃん」という女性に入れ込んで通い詰めた。高価なプレゼントもしたのに結局逃げられた。彼女を「底辺から救ってやる」ような上から目線が疎ましかったからだ。週2回、早番のある時間帯の電車で一緒になる女子高生。咲きたての花のような、青みががかった甘い匂いがする。彼女の後ろに立ち息をつめてせい一杯吸い込む。元...中西智佐乃の『狭間の者たちへ』

  • 陳思宏の『亡霊の地』

    ◇『亡霊の地』著者:陳思宏訳者:三須祐介2023.5早川書房刊台湾中部台北近くの永靖の出身である作者が、故郷の地での思い出を背景に紡いだ、陳一家9人の壮絶なエピソードである。作者はこの永靖の地を「亡霊の地」という(原作は『鬼地方』)。鬼の地である。鬼には幽霊や亡霊という意味の外に劣悪な、どうしようもないという形容詞でもある。だから作者は「鬼の地=くそったれの地」という意味も持たせた。保守的で結構どろどろした因習が根付いた田舎町の中で濃密すぎる人間関係が織りなす悲喜劇にふさわしい題名かもしれない。永靖という町の情景描写が優れ、作者がこの故郷の町に持つかぎりない愛着と哀切あふれる思いが十分に伝わってくる。また日本統治下の台湾、毛沢東の中国を逃れた国民党支配時代の台湾、そして民主化の道を選んだ今の台湾の姿を垣間...陳思宏の『亡霊の地』

  • 堂場 俊一の『敗者の嘘(アナザーフェイス2)』

    ◇『敗者の嘘(アナザーフェイス2)』著者:堂場俊一2011.3文芸春秋社刊(文春文庫)子持ちでバツイチの刑事、巡査部長大友鉄33歳。バツイチとは言うが10年前に妻奈緒を交通事故で亡くし10歳の息子優斗と暮らしている。奈緒の母聖子に育児の一部を依存しいる。聖子はしきりと再婚を勧めてくる。今は捜査一課の刑事から外れ、定時で帰れる刑事部刑事総務課で研修などの事務中心の部署についているが、刑事部特別指導官の福原から時折特捜の応援を指示される。神田神保町で強盗殺人事件が発生。容疑者渋谷が重要参考人で取り調べ中であったが、自殺。ところが自分が犯人だという女性弁護士(柴崎優)が出頭し特捜本部は混迷に陥る。柴崎は訊問においても状況説明、証拠物件などに不可解な点が多くその意図がつかめない。例によって大友は福原指導官から特捜...堂場俊一の『敗者の嘘(アナザーフェイス2)』

  • 重光 葵の『外交回想録』を読む

    ◇『外交回想録』著者:重光葵2011.7中央公論新社刊この本は巻末に「『重光葵外交回想録』<1978年8月毎日新聞社刊を底本とし、改題しました。」とあります。戦後間もない1953.9出版の『重光葵外交回想録』毎日新聞社刊とは目次に若干の違いがあります。内容がどう違うのか分かりません。重光氏の著書は『昭和の動乱(上/下)』(中公文庫)、『巣鴨日記(正・続)』など知られていますが、本書は現場にいた人のドキュメントでありリアリティに富み、迫力があります。満州事変当時、がむしゃらな軍部と南京政府との間に立って、事態不拡大に奔走する姿が生々しく、真に日本国の将来を見据えた信念に感動しました。また「絶対に欧州の争いに巻き込まれては日本の為にならない」という彼の強い意見報告にもかかわらず、日独伊三国軍事同盟を結び、強大...重光葵の『外交回想録』を読む

  • 令和5年のトマト栽培=6=

    ◇既に収穫ピークを迎えたか我が家の狭いキッチンガーデンで取り組んでいる「トマト栽培」事業は以下の状況からみて敗北宣言をし、撤収段階に入らざるを得ないようです。今のところ毎日2・3個採っていますが、もうピークではないかという気がします。(1)第5果以上が結実しない木が多い。(2)すでに下部の葉が枯れ始めている木がある。(3)結果した実もなかなか大きくならない。ただ今年投入した土壌改良剤は効を発揮したらしく、うどん粉病は回避できたようです。追肥時期と分量は注意深く実行しないといけないと反省しています。(以上この項終わり)令和5年のトマト栽培=6=

  • 赤城 毅の『氷海のウラヌス』

    ◇『氷海のウラヌス』著者:赤城毅2005.7祥伝社刊(祥伝社文庫)太平洋戦争開戦前後を視野に旧日本海軍の一作戦を想定、北極海を舞台にした冒険サスペンス。日本単独でアメリカと戦っても勝利はおぼつかない。何としてもドイツを引きずり込む必要がある。昭和15年(1940)に日独伊三国軍事同盟を結んではいるがこれは日米開戦時にドイツが直ちに参戦義務を負うものではない。何か決定的な代償を提供しヒットラーを同時宣戦布告に同意させなければならない。海軍省きっての対米強硬派、軍務局の石川課長と海軍省軍令部永見大佐は「暁計画」なる秘密作戦を練った。骨子は日本が誇る最新鋭の酸素魚雷製作技術をドイツに提供し、米英の戦艦に大打撃を与えるという交換条件。日本は高速48ノット、射程40キロ、ほとんど雷跡を残さないという世界に誇る魚雷「...赤城毅の『氷海のウラヌス』

  • カーリン・アルヴテーゲンの『喪失』

    ◇『喪失』(原題:SAKNAD)著者:カーリン・アルヴテーゲン(KarinAlvtegren)作中主人公の女性シビラは社会のアウトサイダーである。社会システムの枠外にあって社会から何の恩恵も受けていないし掣肘も受けない。神様に祈ったこともあるが助けてもらったことは一度もない。唯一の関心事は食べ物とその日の寝場所を得ること。過去を忘れ、過去からも忘れられたい。ある日の朝、シビラは突如猟奇殺人事件容疑者として追われる身になった。シビラは裕福な資産家の一人娘だが、厳格な両親の元で自主性を持たずに育った。散歩中に出会ったた若者との出来事のせいで成人前に妊娠する。シビラは精神的な病療養と称して自宅に引きこもり、病院で出産した。(許可なしに私のお腹で育った子が、いま許可なしで私を離れる。なぜ何もかも私の許可なしで進む...カーリン・アルヴテーゲンの『喪失』

  • 令和5年のトマト栽培=5=

    ◇漸く色づいたトマト初採り漸くトマトが赤く色づきました。この画像は早く食べたがった妻が6月26日に採り入れたホーム桃太郎です。例年の桃太郎はもう少し大きかったような気がするのだが…。小さい方は近くの花屋で「麗夏」と言われて買った苗だが、ご覧のように小粒のまま大きくはならなかった。現時点での反省点は元肥と追肥をもっと気前よくやればよかった、元肥に堆肥をたっぷり使えばよかったのではないかということである。大玉の麗夏と言われて買った小玉中玉のトマト大玉ホーム桃太郎これから色づく中玉で採り入れ秒読みついでに鉢植えのミニトマト更についでに鉢植えのきゅうり(以上この項終わり)令和5年のトマト栽培=5=

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