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  • 大沢 在昌の『黒石』

    ◇『黒石』著者:大沢在昌2022.11光文社刊久々の新宿鮫Ⅻ。「黒石」はヘイシと読む(中国語)。全編緊迫感がみなぎる新宿鮫シリーズ最新作。自らヒーローを自認する男は、正義の味方として悪=害虫を駆除するのが使命。次々と下される殺人指令に独自に開発した残酷な殺人凶器で使命を果たす。リーダーを決めずに活動する地下ネットワーク集団「金石」は中国残留孤児二世、三世など犯罪者とカタギが混在する。一方”徐福”という正体不明の人物がいてネットワークの支配権を狙って”黒石”を殺人兵器として使いネットワーク集団の”七石”という幹部級七人など邪魔者を次々と殺し始めた。新宿署生活安全課刑事鮫島は鑑識の藪、公安から来た相棒の矢崎、管理官阿坂と相談しながら「金石」のメンバー洗い出しと、キーマンの徐福の特定、殺し屋「黒石」の割り出しに...大沢在昌の『黒石』

  • 村木 嵐の『まいまいつぶろ』

    ◇『まいまいつぶろ』著者:村木嵐2023.5幻冬舎刊これは徳川幕府第九代将軍家重の物語である。家斉は幼名を長福丸と言った。生来右脚が不自由で、言語障害を持ち父親の吉宗も我が子が「何を言っているのか分からぬ」と嘆いたことがある。老中を初め取り巻きの誰もが家重は吉宗の後を継いで第十代将軍となるのは無理で、弟君で英邁間違いなしの宗武がふさわしいと信じ込んでいた。そこに誰ひとり理解できなかった家重の話す言葉を理解できる者が現れた。町奉行大岡越前守忠相の遠縁の子大岡兵庫(幼名:のちに忠光)である。誰しも家重の言葉と称し偽りを述べたりするのではなどと危ぶんだが、「家重殿の口代りに徹し、決して耳と目になってはならぬ」と忠相に釘を刺され、終生これを守った。家重は兵庫によってようやく思いを伝える言葉を口にできない辛さから抜...村木嵐の『まいまいつぶろ』

  • ジェフリー・ディーヴァーの『ハンティング・タイム』

    ◇『ハンティング・タイム』(原題:HUNTNGTIME)著者:ジェフリー・ディーヴァー(JefferyDeaver)訳者:池田真紀子2023.9文芸春秋刊超優秀なエンジニア、アリソン・パーカーが娘のハンナとともに姿を消した。勤務先のハーモン・エナジー・プロダクツ社の社長マーティー・ハーモンは青くなった。同社の目玉商品小型原発の基幹部品SITの開発者であり、今や同社の要だからである。アリソンにはジョン・メリットという、夫がいた。3年ほど前アリソンに対する暴力行為があって服役中であったが、2年も早く仮釈放された。そのジョンが服役中「ここを出たらアリソンを探し、殺すつもりだ」と言いふらしていたというのである。マーティは警官としては凄腕だったジョンの追跡を恐れ、懸賞金ハンターで知られたコルター・ショウにアリソン親...ジェフリー・ディーヴァーの『ハンティング・タイム』

  • 人情時代小説傑作選『親不孝長屋』

    ◇『親不孝長屋』著者:池波正太郎平岩弓枝松本清張山本周五郎宮部みゆき20015.7新潮社刊(新潮文庫)世話もの時代小説に定評のある作家五人衆のアンソロジーである。いずれも江戸時代の庶民の哀歓を描いた傑作である。とりわけ最終に置かれた<神無月>(宮部みゆき)が一番と思う。山本周五郎の<釣忍>もよかった。<おっ母、すまねえ>池波正太郎生さぬ仲の息子市太郎を可愛がって育てたおぬい。夫が死んで再婚したが市太郎は新しい父になつかず、グレ出した。かつての職場岡場所の朋輩お米は”殺し”を勧めるのだが…。おぬいは心の臓の発作で死んでしまう。それがきっかけで市太郎は立ち直って親父の煙管職仕事に精を出すようになった。「おっ母のおっぱいを、ほかの男にはやりたくなかったんだ」市太郎は継母の墓前で述懐するのだった。<邪魔っけ>平岩...人情時代小説傑作選『親不孝長屋』

  • ふきのとう顔を出す

    ◇自然界は時を忘れず大きな地震があったり、季節外れの高気温が続いたり、春は通り過ぎたのかと思っていたら、小旅行から帰って見たら庭にはふきのとうが。昨年も同じ時期でした。地面の外の気温はあまり影響がないのかも。タラの芽は山菜の王者などともてはやされていますが、フキノトウは苦み走って、香りに気品があって、コシャブラと共に一級品と軍配を上げます。(以上この項終わり)ふきのとう顔を出す

  • 黒川博行の『勁草』

    ◇『勁草』著者:黒川博行2017.12徳間書店刊巷間オレオレ詐欺と呼ばれる特殊詐欺がテーマの作品である。今の日本では小金を持った高齢者がターゲットにされ、いくら注意を呼び掛けても被害者は増える一方である。詐欺グループにはターゲットを探る名簿屋、ターゲットの財産、家族状況など情報収集を受け持つ下調べ屋がいる。掛け子、出し子、受け子と分業システムになっていて、指示役に従って動くので基本互いに連係はない。本作では橋岡と矢代という名簿屋のリストに従って下調べをするチームと特殊詐欺グループを追う大阪府警特殊詐欺捜査班の佐竹と湯川という二人の刑事の戦いが中心である。ちなみに詐欺グループのリーダーは高城という名簿屋上りで、「ふれあい荘」というアパートを持っており受け子供給源である。また「大阪ふれあい運動事業推進協議会」...黒川博行の『勁草』

  • ロバート・クレイスの『天使の護衛』

    ◇『天使の護衛』(原題:TheWotchman)著者:ロバート・クレイス(RobertCrais)この作品の主人公ジョー・パイクは大富豪コナン・バークリーの娘ラーキンの警護を依頼された。パィクはロサンゼルス市警の警官だったが、辞めて私立探偵をしている。パイクを推薦したのはバッド・フリンだが彼はパッドが新米警官だった時教育警官だった。今は企業調査会社をやっている。二人はLA市警以来強い絆で結ばれている。パイクはバッドから得難い教訓を受けた。”我々の仕事は人を殺すことではない。人を生かし続けることだ”はバッドの理念。だがパイクは最初の仕事で二人に抵抗した銃器犯罪者ともみ合ううちにバットをナイフで狙った被疑者を射殺してしまった。パイクはバッドの命の恩人である。そんなことで二人に絆は一層強くなった。警護対象の女性...ロバート・クレイスの『天使の護衛』

  • 温井 徳郎の『誘拐症候群』

    ◇『誘拐症候群』著者:貫井徳郎2001.5双葉社刊作者の「症候群」三部作『失踪症候群』、『誘拐症候群』、『殺人症候群』の一つ。主役を演じるのが警視庁人事二課の環敬吾が指揮する特殊工作班の一人武藤。警察組織の枠外グループで、諸般の事情で警察が表立って扱いにくい案件を処理するいわば時代物の「必殺仕置人」の現代版と言った役回りである。今回の「誘拐」案件は身代金小口誘拐(身代金が何とか都合できる額)と営利誘拐対象者(男児)が殺害されるという本格大型誘拐(身代金1億円)が交錯し、誘拐グループを暴く環班の面々も交錯し合うところが読みどころ。環のグループは概ね元警官である。世間的には私立探偵や建設現場作業員、ホームレスなどさまざまである。チームの何人かが事案の調査データを持ち寄って犯人の特定し、環の指示で対処する。今回...温井徳郎の『誘拐症候群』

  • 鈴木荘一の『ロシア敗れたり』

    ◇『ロシア敗れたり』<日本を呪縛する「坂の上の雲」という過ち>著者:鈴木荘一2023.9毎日ワンズ刊日露戦争前後の歴史に関する著作。司馬遼太郎は自作の『坂の上の雲』について、「この作品は、小説であるかどうかじつに疑わしい。ひとつは事実に拘束されることが百パーセントにちかいからであり、ひとつは、この作品の書き手ー私のことだがーは同にも小説にならない主題をえらんでしまっている」とあとがきで書いているという。これは一切のフィクションを排した史実デア履歴書であると主張しており、著者は『坂の上の雲』を繰り返し何度も読んだあげく副題にあるように国民的作家司馬遼太郎によってゆがめられた史実が、あたかも日本の正史であるがごとく定着することを憂いた。そして『坂の上の雲』が通俗小説の枠を超えて人々の深層心理に食い込んでいる以...鈴木荘一の『ロシア敗れたり』

  • みかんとメジロくん

    ◇我が家のメジロくん”我が家の”などと、まるで自分が飼っているように聞こえてしまうが、実感としてはその通りである。今年はみかんが豊作で毎日メジロくんたちのためにみかんを半分に割って柿の木の枝に吊るす。向こうにも時間表があるのかすぐには現れない。しばらくするとすごい速さで偵察に来て、前後左右に視線を巡らし、異様なものの気配がないかを確かめながら、柿の木の枝から枝を渡りながらミカンに辿り着く。とにかく気配に敏感である。カメラのレンズを少し方向を変えるだけで、すっとミカンを離れる。大体番いなのか2・3羽で現れる。上の枝で啄む順番を待っていて、適当なところで交代する。ツグミなど大型の鳥もこうした獲物を狙っていて木のミカンを襲撃するが、吊るしたミカンには足場がないので寄ってこない。みかんが終わったら砂糖水で歓迎する...みかんとメジロくん

  • ロバート・B・パーカーの『盗まれた貴婦人』

    ◇『盗まれた貴婦人』(原題:PaintedLadies)著者:ロバート・B・パーカー(Robert・B・Parker)訳者:加賀山卓朗2010.11早川書房刊パーカーのスペンサーシリーズ第38作である。パーカーは39作『春嵐(Sixkill)』を最後に2,010年に亡くなった。今回の事件は題名にあるように17世紀の名画『貴婦人と小鳥』という名画が美術館から盗まれ、犯人から身代金の要求があって、スペンサーは受け渡しに向かうという美術史教授プリンスの依頼でその警護を請け負った。しかし金を渡し受け取った絵画(とみられた)が爆発、依頼人は爆死した。ろくに仕事をしなかったスペンサーは依頼料を返したものの腹の虫が収まらないので無報酬で事件の背景を探る。関係者を探っているうちに犯人の痛いところを突いたのか、スペンサーの...ロバート・B・パーカーの『盗まれた貴婦人』

  • デニス・ルヘインの『シャッターアイランド』

    ◇『シャッターアイランド』(原題:ShutterLsLand)著者:デニス・ルヘイン(DennisLehane)訳者:加賀山卓郎2003.12早川書房刊ミステック・リバー』でおなじみのデニス・ルヘインの作品。本書は一味違う。保安官を主役としているが、捜査小説でも、冒険小説でもない。読んでいくうちに「シャッター・アイランド」という孤島、密室、暗号の登場でまるで本格ミステリー小説と見紛う構成である。物語は1954年9月、主人公のアメリカの連邦保安官テディ・ダニエルズと相棒のチャック・オールが、ボストン沖のシャッターアイランドにあるアッシュクリフ病院という精神障害犯罪者病院を訪れるところから始まる。女性患者の一人が行方不明になったことで二人が派遣されたのである。主人公のテディは放火事件で妻を亡くしており、放火犯...デニス・ルヘインの『シャッターアイランド』

  • 2023年の大みそかを迎えて

    ◇疾風怒濤の一年いつも感じることながらこの年も実に慌ただしい一年でした。我が国の宰相岸田さんなどはもっと慌ただしく感じているでしょう。埒もない些事が因で(晩秋のパーティー券事案はダメ押し)、幾度もボディブローを食らって、支持率がみるみる危険水域(喫水線?)を超えるとは思ってもいなかったでしょう。大仕事はやっていないものの、それなりに一生懸命に仕事をしているのに、取り巻く人達が足を引っ張ってダメッジを与えているのが実態で気の毒です。岸田さんを例に出し失礼千万ながら、かくいう小生も寄る年波には勝てず、身体的にダメッジを受け、日常の活動が停滞し、あまり間を置かず更新を心掛けてきたブログを中断することもあって本人もショックでした。若いころは高度成長期の初期で明日に、あくる年に夢と希望が持てました。30年も給料が上...2023年の大みそかを迎えて

  • トニ・モリスンの『暗闇に戯れて』

    ◇『暗闇に戯れてー白さと文学的想像力』(原題=PLAYINGINTHEDARKWhitenessandtheLiteraryImagenation)著者:トニ・モリスン(ToniMorrison)訳者:都甲幸治2023.9岩波書店刊(岩波文庫)本の題名で一瞬サスペンスか何かと誤解しそうになるが、違う。キャザー、ポー、トウェイン、ヘミングウェイなどアメリカ文学者の作品にみる人種的差別の構造を分析した批評書である。アメリカ文学史の根底にある「白人男性を中心にした思考」形態を鋭いタッチで抉り出す。”白人ではない、アフリカ的な(あるいはアフリカ系の)存在や人物が想像力の中でどう構成されてきたのか、そしてまた、こうして捏造された存在が想像力の中でどう利用されてきたのかを、この研究では堀り下げる。””文学的想像力にお...トニ・モリスンの『暗闇に戯れて』

  • みかんを描く

    ◇我が家の青島ミカンclesterF6(中目)今年は我が家の柿がほとんど実を付けなかった。昨年が豊作だったので諦めていたところ、花が沢山咲いたみかんが驚くほどたくさん実を付けた。先週の水彩画教室でみかんを描くというので葉枝付きのミカンを持って行った。店頭のミカンと違って枝と葉を付けただけで新鮮さが伝わってくる。皮を抜いた姿も捨てがたい。(以上この項終わり)みかんを描く

  • 荒山 徹の『風と雅の帝』

    ◇『風と雅の帝』著者:荒山徹2023.9PHP研究所刊歴代天皇の系列に数えられていない天皇。王政復古、天皇親政を頑なに追い続けた後醍醐天皇に対抗し「天皇とは何か」を追い求めた「光巌帝」の激動の人生を描いた歴史小説。鎌倉時代から室町時代にかけて、万世一系の天皇家は持明院統、大覚寺統という二系列の王朝が互いに正当性を主張し合う皇統分裂時代があった。学校の歴史教科書でもあまり詳細には語られていない。この渦中にあった光厳天皇(量仁帝)に焦点を合わせ、この時代の幕府の権力構造の波に翻弄された天皇の苦悩を描いたのが本書である。作者は数多の史料、文献、著作を跋渉し魅力的な天皇像をヴィヴィッドに描き出した。皇統分裂は後嵯峨上皇が後深草帝と亀山帝とどちらを後継者にするかを定めないまま薨去したことに発する。一時は双方10年を...荒山徹の『風と雅の帝』

  • 水彩で魚の干物を描く

    ◇魚の干物・目刺しclesterF4(中目)前々回の水彩画教室のモチーフは魚の干物。昨年と同様アジの開きとイワシの目刺し。普段は目刺しはもちろんホッケの開きなど好物で良く食べるのだが、絵の素材には載ってこない。ましてや高橋由一画伯の超有名な「荒引鮭」などは論外。目刺しというが店頭に並ぶ目刺しはえらを竹串や藁で刺したのが多い。教室では藁は鰓から外されていた。新鮮な目刺しは皮肌が光り輝いている。鰓は陽に焼かれてべっこう色になっている。目にひかりはないが恨めしそうで、じっと見てはいけない。竹ざるにヒバなどの枝が敷いてあると色彩的にバランスがよく引き立ったと思うがそれは贅沢というもの。目の周辺をよく観察し丁寧に描けばよかったと後悔(下手にいじるとかえっておかしくなること必定)。(以上この項終わり)水彩で魚の干物を描く

  • パット・パーカーの『女たちの沈黙』

    ◇『女たちの沈黙』(原題:TheSilenceofGirls)著者:パット・パーカー(PatParker)訳者:北村みちよ2023.1早川書房刊西洋文学の巨頭ホメロスによるギリシャの「イリアス」という戦争叙事詩を、奴隷となった女性たちの視点からトロイア戦争の前後の出来事を描いた長編小説である。「イリアス」の主要人物と言えばアキレウスを初めアガメンノンなど男が主役であるが本書では攻略されたリュルネソスというトロイ近郊の王国の王妃プリセイスなど女性たちが戦争捕虜として囚われ、戦利品としてギリシャ連合軍のために働らかされる。リュネソスなど高貴な出の女性は側女として、その他は奴隷としてトロイを攻める側のために働かされた。本書を読むにはまずトロイア戦争を頭に入れておかなければならない。今から3000年以上前地中海で...パット・パーカーの『女たちの沈黙』

  • 冬の野菜を描く

    ◇透明水彩で描く冬の野菜clesterF4先週の金曜日は写生会が予定されていたのだがあいにくの雨。このところ写生会は雨で流れることが多い。金曜日は特異日かも。今週は冬の野菜ということで、カボチャと里芋。レンコンも今の時期が旬なのだが、幹事さんはサツマイモを選んだ。しかも焼き芋。生のサツマイモと違って、半分に折った皮と実の質感を描き出すのがむつかしい。カボチャも皮が同じ色でもなく個性がある。半分に割った中の種がまた悩ましい姿である。それにしても里芋の皮はどうして何段もひげがあるのだろう。(以上この項終わり)冬の野菜を描く

  • レイチェル・ホーキンスの『階上の妻』

    ◇『階上の妻』(原題=TheWifeUpstairs)著者:レイチェル・ホーキンス(PachelHawkins)訳者:竹内要江2021.8早川書房刊物語の舞台はアメリカ南部アラバマ州のソーンフィールド・エステイトという高級住宅地。その一画の邸宅にエディ・ローチェスターとビーという新婚夫婦が住んでいる。ある夜ビーは友人のブランチ・イングラムと湖にボートを出し、二人は行方不明となった。ビーという妻はサザン・マナーズという室内装飾企業を興した経営者でハワイでエディと知り合い3か月で結婚した。ビーの総資産は2億ドルにのぼる。湖で遭難した二人の女性は溺死が推定されるものの行方が分からない。そのうちブランチの遺体が湖から発見された。死因は打撲によると見られ夫のトリップが逮捕された。ビーは依然行方不明である。独り身とな...レイチェル・ホーキンスの『階上の妻』

  • エマ・ホリーの『料理人』

    ◇『料理人』(原題:CookingupaStrom)著者:エマ・ホリー訳者:山崎久美子2002.6光文社刊舞台はアメリカ・マサチュセッツ州ケープコッド。アビゲイル・コーツ(アビー)という簡易レストランのオーナーとストーム・デュプレというロサンゼルスから流れついた青年シェフ。この二人が主要登場人物である。さてストームは心から満足できる料理を作ることを別にすれば、女が官能の深みに目覚めることを助けてやることこそ、自分の才能、使命だとさえ思っているというプレーボーイだった。だから彼をシェフとして雇ったアビーは間もなくストームの虜になって彼なくば日も夜も明けない状態に陥る。幸いストームは料理の腕が良く、ストームを雇ってから店は大繁盛、二階を改築するプラン迄持ち上がった。小説タイトルは「料理人」であるが、登場する料...エマ・ホリーの『料理人』

  • 浅田次郎の『一路』<下>

    ◇『一路』<下>著者:浅田次郎2015.5中央公論新社刊<承前>吹雪の中難路の「和田峠」を越した蒔坂左京大夫の参勤交代の一行。到着日は一日でも遅れてはならない厳しい御法度のため急ぎに急ぐ。お家乗っ取りを企む殿様後見役の蒔坂将監は侍医の辻井良軒を抱き込み眠り薬に砒素を仕込む暗殺を命じたが良軒に拒まれて企みは頓挫した。碓氷峠は江戸に下る際はさしたる苦労はない。一行は途中で加賀藩百六万石の大大名の妹君乙姫様が江戸を目指す300人を超す行列に遭遇するが「参勤道中」を盾にして風の如く駆け抜ける。其騒ぎの一瞬の間に一路を垣間見た乙姫君は恋に落ちる。遠足(とおあし)で知られる安中宿を駆け足で抜け次の宿松井田宿を目指す。ところが無理が続いた御殿左京大夫様は安中宿にて発熱、このままでは江戸到着日が遅れる。老中にその旨遅延届...浅田次郎の『一路』<下>

  • 浅田次郎の『一路』

    ◇『一路』著者:浅田次郎2015.4中央公論新社刊これは時代小説。本の表題「一路」とは主人公の名前である。小野寺一路は父親が亡くなって急遽江戸から郷里美濃の田名部に呼ばれた。跡継ぎなので、仕えている知行7500石の旗本蒔坂左京大夫の御供頭の役目を継ぐためである。父は失火が因で亡くなっているので本来ならばお家断絶でもおかしくないところ、参勤交代の期日が迫っているため急遽一路に御供頭として差配を任せることとしたのである。江戸までの12日間の参勤道中である。ところが一路は父親からは道中御供頭としての何たるか、その作法などまるで教わっていなかった。そこでこの本の作者浅田次郎の出番である。人情話はお手のもの、一路を助ける数多の人々が登場する。父の友人勘定役国分七左衛門、代々の御供頭添役の栗山真吾、武士道に忠実な佐久...浅田次郎の『一路』

  • 記事掲載中断のお知らせ

    ◇記事更新中断この度一身上の都合により本欄の記事更新を一時中断のやむなきに至りました。誠に残念ですがしばらく事態が落ち着くまでお休みいたします。いつも本ページをお開きいただきありがとうございます。ごんべえ記記事掲載中断のお知らせ

  • 倉井眉介の『怪物の町』

    ◇『怪物の町』著者:倉井眉介2023.7宝島社刊第17回『このミステリーがすごい』大賞を受賞した『怪物の木こり』に次ぐ第2作目という。どんな作品か興味があったが、途中まで読んでこれはホラーでもスリラーでもない高校生のスリラーもどきの作品かと思った。主人の「僕」良太(高校生)と友人の「先輩」が、町の多くの人が殺人者であるという不思議な町に引っ越してきて不可解な出来事に遭遇する。噂通りの「殺人者がうごめく怪物の町」を実感しつつも、家族(両親と姉)の誰ひとり不審な状況に遭っておらず、彼も自分の体験を彼らに素直に話してもいない。もしかして自分たちが何か錯覚しているのではないかとか、実態がが明らかにならないのは町民が自分たちに不都合なことには「見て見ないふりをしている」からではないか。などと人間心理の不安定さをさり...倉井眉介の『怪物の町』

  • 高野和明の『踏切の幽霊』

    ◇『踏切の幽霊』著者:高野和明2022.12文芸春秋社刊作者11年ぶりの新作。まず題名がストレートでいい。読み始めてすぐに単純な心霊ものではないことがわかった。踏切の心霊写真をきっかけに、今は女性誌の取材記者だが、元社新聞社会部記者が踏切付近の殺人事件との奇妙な符合を手掛かりに手堅く関連事実を追って行き、盛り場世界、裏社会、政治家の汚職、殺人などを手繰りながら巧みにエピソードを織り交ぜ、読者を倦ませない手口が憎い。主人公の元新聞記者松田は愛する妻を亡くして2年、今は泣くことにも慣れた。心霊写真を初め殺人事件の被害者でもある「髪の長い細身の女」を追跡するにつれて、作り笑いで周囲をはぐらかして生きるしかなかったその女の哀れな育ち、過酷な人生に深い同情を覚えて彼女を死に追いやった人非人に果敢に立ち向かう一徹さが...高野和明の『踏切の幽霊』

  • ジョン・グリシャムの『大統領特赦(上・下)』

    ◇『大統領特赦(上・下)』(原題:THEBROKER)著者:ジョン・グリシャム(JOHNGRISHAM)訳者:白石朗2007.3新潮社刊(新潮文庫)アメリカ議会の名うてのロビイスト(フィクサー))ジョエル・バックマン。莫大な額の不正取引疑惑で逮捕され司法取引の末容疑を認め刑務所に入っていた。刑期を6年ほど消化したある日、突然釈放された。格別の成果を上げることもなくホワイトハウスを去る大統領アーサー・モーガンによる任期切れ直前大統領特赦のおかげ。当然バックマンから莫大な買収金が払われたと取りざたされた。しかし実は真の目的はバックマンをどこの国の誰がバックマンを殺すか見定めるというCIAの企みだった。ジョン・グリシャムといえば、押しも押されぬ法廷もの作者。リーガル・スリラーの第一人者である。そのJ・グルシャム...ジョン・グリシャムの『大統領特赦(上・下)』

  • 中西智佐乃の『狭間の者たちへ』

    ◇『狭間の者たちへ』著者:中西智佐乃2023.6新潮社刊新潮新人賞受賞後第3作目。「狭間の者たちへ」、「尾を喰う蛇」2作の小説集。<狭間の者たちへ>さえない、ダサいことを自認している中年男。妻と娘がいるが、妻を愛しているわけでもない。保険会社支店の営業担当であるが、成績も上がらず、年下の上司にコケにされている日常の鬱憤が積もりに積もっている。二人目の子供を求める妻に迫られても必死に拒む。結婚前には風俗店の「あーちゃん」という女性に入れ込んで通い詰めた。高価なプレゼントもしたのに結局逃げられた。彼女を「底辺から救ってやる」ような上から目線が疎ましかったからだ。週2回、早番のある時間帯の電車で一緒になる女子高生。咲きたての花のような、青みががかった甘い匂いがする。彼女の後ろに立ち息をつめてせい一杯吸い込む。元...中西智佐乃の『狭間の者たちへ』

  • 陳思宏の『亡霊の地』

    ◇『亡霊の地』著者:陳思宏訳者:三須祐介2023.5早川書房刊台湾中部台北近くの永靖の出身である作者が、故郷の地での思い出を背景に紡いだ、陳一家9人の壮絶なエピソードである。作者はこの永靖の地を「亡霊の地」という(原作は『鬼地方』)。鬼の地である。鬼には幽霊や亡霊という意味の外に劣悪な、どうしようもないという形容詞でもある。だから作者は「鬼の地=くそったれの地」という意味も持たせた。保守的で結構どろどろした因習が根付いた田舎町の中で濃密すぎる人間関係が織りなす悲喜劇にふさわしい題名かもしれない。永靖という町の情景描写が優れ、作者がこの故郷の町に持つかぎりない愛着と哀切あふれる思いが十分に伝わってくる。また日本統治下の台湾、毛沢東の中国を逃れた国民党支配時代の台湾、そして民主化の道を選んだ今の台湾の姿を垣間...陳思宏の『亡霊の地』

  • 堂場 俊一の『敗者の嘘(アナザーフェイス2)』

    ◇『敗者の嘘(アナザーフェイス2)』著者:堂場俊一2011.3文芸春秋社刊(文春文庫)子持ちでバツイチの刑事、巡査部長大友鉄33歳。バツイチとは言うが10年前に妻奈緒を交通事故で亡くし10歳の息子優斗と暮らしている。奈緒の母聖子に育児の一部を依存しいる。聖子はしきりと再婚を勧めてくる。今は捜査一課の刑事から外れ、定時で帰れる刑事部刑事総務課で研修などの事務中心の部署についているが、刑事部特別指導官の福原から時折特捜の応援を指示される。神田神保町で強盗殺人事件が発生。容疑者渋谷が重要参考人で取り調べ中であったが、自殺。ところが自分が犯人だという女性弁護士(柴崎優)が出頭し特捜本部は混迷に陥る。柴崎は訊問においても状況説明、証拠物件などに不可解な点が多くその意図がつかめない。例によって大友は福原指導官から特捜...堂場俊一の『敗者の嘘(アナザーフェイス2)』

  • 重光 葵の『外交回想録』を読む

    ◇『外交回想録』著者:重光葵2011.7中央公論新社刊この本は巻末に「『重光葵外交回想録』<1978年8月毎日新聞社刊を底本とし、改題しました。」とあります。戦後間もない1953.9出版の『重光葵外交回想録』毎日新聞社刊とは目次に若干の違いがあります。内容がどう違うのか分かりません。重光氏の著書は『昭和の動乱(上/下)』(中公文庫)、『巣鴨日記(正・続)』など知られていますが、本書は現場にいた人のドキュメントでありリアリティに富み、迫力があります。満州事変当時、がむしゃらな軍部と南京政府との間に立って、事態不拡大に奔走する姿が生々しく、真に日本国の将来を見据えた信念に感動しました。また「絶対に欧州の争いに巻き込まれては日本の為にならない」という彼の強い意見報告にもかかわらず、日独伊三国軍事同盟を結び、強大...重光葵の『外交回想録』を読む

  • 令和5年のトマト栽培=6=

    ◇既に収穫ピークを迎えたか我が家の狭いキッチンガーデンで取り組んでいる「トマト栽培」事業は以下の状況からみて敗北宣言をし、撤収段階に入らざるを得ないようです。今のところ毎日2・3個採っていますが、もうピークではないかという気がします。(1)第5果以上が結実しない木が多い。(2)すでに下部の葉が枯れ始めている木がある。(3)結果した実もなかなか大きくならない。ただ今年投入した土壌改良剤は効を発揮したらしく、うどん粉病は回避できたようです。追肥時期と分量は注意深く実行しないといけないと反省しています。(以上この項終わり)令和5年のトマト栽培=6=

  • 赤城 毅の『氷海のウラヌス』

    ◇『氷海のウラヌス』著者:赤城毅2005.7祥伝社刊(祥伝社文庫)太平洋戦争開戦前後を視野に旧日本海軍の一作戦を想定、北極海を舞台にした冒険サスペンス。日本単独でアメリカと戦っても勝利はおぼつかない。何としてもドイツを引きずり込む必要がある。昭和15年(1940)に日独伊三国軍事同盟を結んではいるがこれは日米開戦時にドイツが直ちに参戦義務を負うものではない。何か決定的な代償を提供しヒットラーを同時宣戦布告に同意させなければならない。海軍省きっての対米強硬派、軍務局の石川課長と海軍省軍令部永見大佐は「暁計画」なる秘密作戦を練った。骨子は日本が誇る最新鋭の酸素魚雷製作技術をドイツに提供し、米英の戦艦に大打撃を与えるという交換条件。日本は高速48ノット、射程40キロ、ほとんど雷跡を残さないという世界に誇る魚雷「...赤城毅の『氷海のウラヌス』

  • カーリン・アルヴテーゲンの『喪失』

    ◇『喪失』(原題:SAKNAD)著者:カーリン・アルヴテーゲン(KarinAlvtegren)作中主人公の女性シビラは社会のアウトサイダーである。社会システムの枠外にあって社会から何の恩恵も受けていないし掣肘も受けない。神様に祈ったこともあるが助けてもらったことは一度もない。唯一の関心事は食べ物とその日の寝場所を得ること。過去を忘れ、過去からも忘れられたい。ある日の朝、シビラは突如猟奇殺人事件容疑者として追われる身になった。シビラは裕福な資産家の一人娘だが、厳格な両親の元で自主性を持たずに育った。散歩中に出会ったた若者との出来事のせいで成人前に妊娠する。シビラは精神的な病療養と称して自宅に引きこもり、病院で出産した。(許可なしに私のお腹で育った子が、いま許可なしで私を離れる。なぜ何もかも私の許可なしで進む...カーリン・アルヴテーゲンの『喪失』

  • 令和5年のトマト栽培=5=

    ◇漸く色づいたトマト初採り漸くトマトが赤く色づきました。この画像は早く食べたがった妻が6月26日に採り入れたホーム桃太郎です。例年の桃太郎はもう少し大きかったような気がするのだが…。小さい方は近くの花屋で「麗夏」と言われて買った苗だが、ご覧のように小粒のまま大きくはならなかった。現時点での反省点は元肥と追肥をもっと気前よくやればよかった、元肥に堆肥をたっぷり使えばよかったのではないかということである。大玉の麗夏と言われて買った小玉中玉のトマト大玉ホーム桃太郎これから色づく中玉で採り入れ秒読みついでに鉢植えのミニトマト更についでに鉢植えのきゅうり(以上この項終わり)令和5年のトマト栽培=5=

  • 真保裕一の『英雄』

    ◇『英雄』著者:真保裕一2022.9朝日新聞出版刊発端は山藤ホールディングスという大企業の創業者が射殺されるという事件である。資産家の遺産の行方を巡って、残された妻とその息子、先妻の子長男と妹のほか婚外子の存在が明らかになったことで株式の行方によっては会社の存亡にもかかわるという状況が語られる。典型的な遺産相続を巡る争いがテーマかと思わせる。DNA鑑定を経て婚外子の死後認知が成立した。ところが遺産相続争いはそれほど大きな問題ではなく、むしろ山藤ホールディングス創業者山藤英雄の非嫡出子として登場した植松英実が、射殺という衝撃的な形で初めて実の父を知ったことから、父の本当の姿を知りたくて、かつての父の会社関係者、友人などを訪ね回るうちに意外な事実が次々と浮かび上がるところにこの小説の面白さがある。射殺された時...真保裕一の『英雄』

  • 野田市清水公園金乗院の仁王門を描く

    ◇慈光山金乗院の仁王門clesterF86月16日の金曜日は梅雨時とも思われない暑い一日でした。この日は水彩画グループの写生会。担当幹事がプランを組んで、参加予定の人は皆当日の天候を固唾を吞んで見守っていました。実際は熱中症の心配をするほどの好天で、かえって閉口しました。清水公園は本格アスレチック、植物園、キャンプ場、バーベキュー、釣り堀など多様な施設を擁し、また桜の名所としても知られています。ここには20年ほど前に写生にきて仁王門を描いたことがあって、そんな懐かしさから改めて仁王門に挑戦しました。朱塗りの門とそれを取り囲む松や広葉樹などの緑という反対色が作り出す強烈なコントラストが狙いでしたが、樹木の姿を十分にとらえ切れませんでした。またいずれ挑戦してみます。(以上この項終わり)野田市清水公園金乗院の仁王門を描く

  • 令和5年のトマト栽培=4=

    ◇梅雨入り後のトマト例年通りの訪日客(三女家族)を迎えて、ほぼ2週間に及ぶ旅行のために読書感想文も畑の作物の生育状況報告、恒例の梅干しづくり、水彩画制作状況などすっかりご無沙汰してしまった。トマト栽培については前回報告からほぼ1か月。トマトは御覧の通り、ちゃんと大きく育っているが、今年は連作障害軽減のために四国の会社から有機固形製剤を求めて鋤き込んだので、成果を期待しているのだがまだ顕著な成果は見られない。旅行中追肥をさぼったわけでそのせいもあるかも。既に第5果の花が咲いているので、これ以上の着果は望めない。鉢植えのミニトマト。これもあまり実付きが良くない。(以上この項終わり)令和5年のトマト栽培=4=

  • ディーン・クンツの『ヴェロシティ(下)』

    ◇『ヴェロシティ(下)』(原題:VELOCITY)著者:ディーン・クンツ(DEANKOONTZ)訳者:田中澄江2010.10講談社刊(講談社文庫)下巻は事がスピーディに進み、息つかせない。ビリーは友人で警官のラリーにメモを見せて対応を相談したが、少し考えさせてと言って帰ってしまった。その後携帯電話が通じないので自宅に行ってみるとラリーは死んでいた。コトルという男が犯人のメッセージを持って現れた。コトルは伝言を終えたのちビリーのバスルームで多分犯人に殺されてしまった。ビリーが疑われる証拠が残されているので、犯人されてはかなわないと毛布に包んで、溶岩トンネルに投げ入れた。いろいろ推理を重ねたうえで、ビリーはバーの同僚スティーヴ・ジリスが犯人だと確信し、ジリスの家に乗り込み拳銃を突き付けて白状を迫ったが、ジリス...ディーン・クンツの『ヴェロシティ(下)』

  • ディーン・クーンツの『ヴェロシティ』

    ◇『ヴェロシティ』(原題:VEROCITY)著者:ディーン・クーンツ(DEANKOONTZ)訳者:田中一江2010.10講談社刊(講談社文庫)モダンホラーの旗手とされるディーン・クンツの傑作ミステリー。今はさっぱり書いていない元作家ビリー。今はバーテンダーとして平凡な日々を送っていたが、ある日車に一通のメモを見つける。それからメモの予告通りビリーを犯罪者に仕立てあげる事件が正確に実行されていく。覆面連続殺人犯がターゲットのビリーをいろんな手管で追い詰めていくテンポはもちろん巧みな比喩と、ビリーと登場人物との切れ味のいい洒脱な会話が楽しい。メモは「これを警察に届ければ慈善家のばあさんを殺す、届けなければ美人の教師を殺す。6時間以内に選べ。どちらを選ぶかは、お前次第だ」という。ビリーは警察には行かなかった。そ...ディーン・クーンツの『ヴェロシティ』

  • タナ・フレンチの『捜索者』

    ◇『捜索者』(原題:thesearcher)・著者:タナ・フレンチ(TanaFrench)・訳者:北野壽美枝2022.4早川書房刊(ハヤカワ・ミステリー文庫)題名の「捜索者」の通り、プロットの本筋はカルというシカゴの元警官が定年後移住先で知り合ったトレイという少年の、失踪した兄を探し求めて奔走する話であるが、加えて牧羊が連続して何者かに惨殺される事件を解明するという付随事件が混じるものの、これが失踪事件と深いかかわりがあったことは後で分かる。シカゴというアメリカの大都会で警官をしていたというハンディを持ったカルが、アイルランドの片田舎の住人達になじもうといじらしいほど苦労する一部始終がしっかり伝わってくる。隣人のマート、雑貨屋のマリーンとその妹ヘレナなどとは直ぐに気心が通じ合った。居酒屋ではバカ話や強力な...タナ・フレンチの『捜索者』

  • 令和5年のトマト栽培=3=

    ◇トマトに支柱立て第1回目の苗を植えたのが4月25日。第2回目が4月28日。それから2週間ほどたって、随分大きくなりました。気が早い木はもう実をつけ始めています。支柱を立て木を誘引(支柱にトマトの木を紐で結わく)しました。ついでにすでに出始めた脇芽を欠きました。手前右手の鉢にはミニトマト苗を植えてあります。奥にある小松菜は2度の間引きを終えて順調に育っています。(以上この項終わり)令和5年のトマト栽培=3=

  • 中山七里の『鑑定人氏家京太郎』を読む

    ◇『鑑定人氏家京太郎』著者:中山七里2022.2双葉社刊今を時めく中山七里の「鑑定人氏家京太郎」シリーズ第1弾。鑑定をテーマにしたサスペンスは珍しい。事件そのものもプロットもさして特徴はないものの検察(警察)と鑑定人(弁護士)との丁々発止の攻防が魅力。最終章で驚愕の真相が明かされる。とにかくエスプリの効いた辛辣なやり取りが小気味よい。「氏家鑑定センター」の所長氏家京太郎は常連客の吉田士童弁護士から連続通り魔殺人事件として世間の耳目を集めた裁判での鑑定を依頼された。事件の容疑者那智貴彦ご指名で弁護人となったというのである。医師である那智は3人の若い女性を扼殺したうえ子宮を摘出するという残虐な殺人を犯した容疑者として逮捕されたのであるが、当人は最初の二人については犯行を認めたものの第三の殺人は身に覚えがないと...中山七里の『鑑定人氏家京太郎』を読む

  • 長岡弘樹の『殺人者の白い檻』

    ◇『殺人者の白い檻』作者:長岡弘樹2022.7㈱KADOKAWA刊東崎病院の脳外科医師尾木敦也は休職中なのに病院長に呼び出され、脳動脈瘤の外科手術を行った。患者は隣にある拘置所の死刑囚。手術の器械出しは敦也の妹、奈々穂。手術が失敗すれば期せずして復讐を遂げることができる。医師の倫理観を優先すれば手術を成功させなければならない。深刻なジレンマである。手術は成功した。しかし患者は右半身に麻痺が残るが、定永はリハビリに積極的で、順調に回復している。死刑囚は健康体でないと刑は執行しない。彼は死刑を望んでいるのかというと実は彼は盗みには入ったが殺人はしていないと否認しているのだが。定永が殺人を否定していることが気になって、敦也と奈々穂はとってあった報道記録等から改めて事件の見直しをする。はたして彼は殺人者なのか。奈...長岡弘樹の『殺人者の白い檻』

  • 令和5年のトマト栽培=2=

    ◇令和5年のトマト第二陣移植今年の天候具合から見るとそろそろトマト苗移植も適期到来と第二陣のトマトを植えた。やはり「ホーム桃太郎」かと思ったが、数年前に手掛けた「麗夏」があったので3本(左手前)、中玉(奥の2本)にした。畝にあらかじめポットの大きさの穴を作り、たっぷり水を注ぎ、水が浸みこんだところでポットから苗をはがし植える。根元は深く土をかけない方が良いという人もいるが吾輩はこれには従わない。風が強いと倒伏する心配があるので取りあえずの支柱を立てて細紐で誘引した。(以上この項終わり)令和5年のトマト栽培=2=

  • 水彩画で「柏ふるさと公園」

    ◇新緑の柏ふるさと公園ArchesF6新年度最初の写生会は集合場所が「北柏ふるさと公園」。これまでにも四季折々に何度か写生にずだが手を入れ過ぎたかもしれない。右手の釣り人がアクセント。いろんな木々があって、それぞれ緑の色合いが違って面白い。油絵と違って余り迷って色を重ねていくと色が濁ってくる。それが水彩画の特徴。分かっていながらつい手を加えてしまって反省することが多い。今回もややそんな憾みが残った。当日は風もなく22度を超え、夏日に近い高気温だった。(以上この項終わり)水彩画で「柏ふるさと公園」

  • 令和5年のトマト栽培開始=1=

    ◇連作栽培のトマト昨年は明らかに連作障害の症状「うどん粉病」に悩まされた。それでもしつこくトマト栽培に挑戦するのは、単純に「店頭で買うトマトより自分ちの畑で採れたトマトが数倍うまいから」という家人のおだてに乗ったから。1か月前に石灰を鋤き込んでPH調整をし、3週間前に配合肥料の元肥を施し、加えて連作障害を防ぐという某化学会社の顆粒肥料を鋤き込んでの満を持した挑戦。品種は定番の「ホーム桃太郎」1本だけ接ぎ木苗。トキタ種苗の大玉「豊作祈願」。子供だましのネーミングだが、さて成果如何。とりあえず1畝だけ7本。株間30センチ。奥は月端に蒔いた小松菜(第1回の間引き済)接ぎ木の大玉トマト。(以上この項終わり)令和5年のトマト栽培開始=1=

  • 堂場瞬一の『アナザー フェイス』

    ◇『アナザーフェイス』著者:堂場瞬一2010.7文芸春秋社刊(文春文庫)著者おなじみの警察小説である。主人公は警視庁刑事部刑事総務課の警部補大友鉄。元捜査一課の刑事だったが、2年前に妻を亡くし8歳の息子と二人の生活になって出退勤がほぼはっきりしている刑事総務課に異動になった。だが周囲には捜査一課復帰を期待されている。そしてこれはという事件があると駆り出される。なぜか。それは大友が事情聴取にあたるとだんまりを決め込んでいた相手も不思議と口を開く。生来人を安心させる力を持っているらしい。そんなある日、事件捜査応援の指示が出た。事件は男児誘拐事件。身代金は1億円を要求された。男児は6歳、父親は都市銀行の銀行員内海。銀行にも身代金の要求があり、銀行は支払いを決めた。身代金目当て誘拐の成功率は低く、大抵身代金を受け...堂場瞬一の『アナザーフェイス』

  • 人形を描く

    ◇木目込み人形をを描くclesterF43月2回目の水彩画のモチーフは人形。日本人形、西洋人形、雛人形などいろんな人形が集まりました。私は衣装の柄が気に入って、木目込み人形にしました。ほぼ1時間で仕上げたの作品で、衣装の描写がややぞんざいな感じですが、雰囲気は出ているかなと思います。(以上この項終わり)人形を描く

  • アゴタ・クリストフの『悪童日記』

    ◇『悪童日記』(原題:LeGrandCahier)著者:アゴタ・クリストフ(AGOTAKRISTOF)1991.1早川書房刊美形で頭もいい双子の男児。戦乱の大都市(多分ブタペスト)から祖母の住む田舎に逃れてきた。成長の過程で出会う世の中の不条理・苦難に果敢に立ち向かう彼らが表した日記帳の、驚きの内容に感動する。この小説では時代的にも地理的にも特定されていないものの、読んでいると明らかにヨーロッパの東部地域の第2次世界大戦前線地域を想像させる。訳者は訳注をつけほぼ間違いなく対応する歴史的事実について読者の想起を助けている。祖母は夫を毒殺したと噂されていて”魔女”と呼ばれている。彼女には孫たちを面倒見る気はさらさらない。住まわせて食べさせはするが、それは畑や家畜の世話などをした時だけ。双子の母からの仕送りの金...アゴタ・クリストフの『悪童日記』

  • 春の花ナスタチゥム

    ◇春の花の一つ「ナスタチゥム」を描くclesterF4ようやくマスクはそれぞれの判断でということになったのに、なかなかマスクが外せない人が多いようです。水彩画教室では春の花を描こうということで菜の花、クリスマスローズ、チューリップ、水仙、ラナンキュラスなど色とりどりの花が並びました。そのうち黄色と赤い花弁の鉢植えのナスタリゥムを描くことにしました。これといった特徴のない花ですが、花の赤、黄、葉の緑と土色の鉢の色がバランスよく感じられたからです。(以上この項終わり)春の花ナスタチゥム

  • 町田そのこ 『52ヘルツのクジラたち』

    ◇『52ヘルツのクジラたち』著者:町田そのこ2020.4中央公論新社刊これはDVとLGBTQという現代日本の世相の断片が微妙に交錯し、失望と救いが見事に昇華する作品である。三島貴瑚(キナコ)は継父(作中義父と言っているが継父だろう)の虐待と母の黙認という裏切りに会いつらい半生を送ってきた。52ヘルツという人間の耳にやっと届く周波数のクジラの声だけを友に自分だけの世界に閉じこもっていた。社会に出てようやく頼り甲斐のある男Tに出逢った。しかしTは愛人として囲いたいだけの男だった。それまでキナコを何くれとなく面倒を見てくれたKは、Tとの出会いは不幸を招くだけと警告した揚句自殺してしまう。Kはキナコが好きだったはずなのに告白しなかった(実はKはトランスジェンダーだった)。KはTにもキナコが幸せになるための道を選ん...町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』

  • 大津川の春景

    ◇新緑がまぶしい大津川河畔の樹々clesterF8千葉県が管理する1級河川「大津川」に春がやってきた。昨年県は河畔の樹々を大半伐採した。なぜかここだけ残っていて、今は新緑が芽吹いて輝いている。この日(3月17日)は風もなく、川面も静かだった。この間同じく手賀沼に流入する「大堀川」河畔を歩いた時は小さなカメが何匹も寄り添って日向ぼっこ(見た目)していたが、大津川では白鳥と鴨はいるがカメはほとんど見かけない。(以上この項終わり)大津川の春景

  • 奥田英朗の『リバー』

    ◇『リバー』著者:奥田英朗2022.9集英社刊警察小説で定評のある奥田英朗の大作である。警察組織と捜査員の刑事らが生き生きと描かれている。刑事だけでなく元刑事、容疑者らの人物造形も堂に入っている。プロットも単純のようでありながらさすがに読ませる仕掛けがあって飽きない。ただ難点が一つ。途中で容疑者の一人に解離性同一性障害(多重人格)が明らかになること。これですっかり興ざめしてしまった。(それに650ページは重い)リバーとは連続殺人事件の現場となった「渡良瀬川」のことである。渡良瀬川は群馬県赤城山麓に源を持ち渡良瀬遊水地を経て利根川に合し太平洋に注ぐ。渡良瀬川は栃木、群馬両県の県境となっている。川の両側の河川敷でほぼ同時期に事件が起きたため群馬県、栃木県両県警で合同捜査本部が設置された。若い女性の全裸殺人事件...奥田英朗の『リバー』

  • 野生のからし菜を浸ける

    ◇令和5年の「からし菜浸け」第1回2月末から様子を見に行っていた大津川河畔にようやく野生のからし菜が顔を見せ始めた。すでに同好の士が出没しているらしく、ところどころ摘み跡があったが、それでも新しい芽があちこちに出ていて、とりあえず第1回目として1.4キロほど摘んで早速塩漬けにした。花芽から凡そ20センチくらい。指で簡単に折れるくらいのところで摘み(折る)ます。念のため水できれいに洗います。たっぷりの熱湯を作ってまんべんなく掛けます。あら塩を用意します。凡そ100gくらい。これを熱湯をかけたからし菜(お湯は捨ててざっと絞って)にまぶしてどうだ参ったかというくらい丹念に揉みます。途中で鼻につんと来るのでご注意。揉むのに疲れたころ灰汁で黒くなったからし菜をさっと洗って、少しづつ絞ります。浸け樽に並べてまたさっと...野生のからし菜を浸ける

  • 貫井徳郎の『灰色の虹』

    ◇『灰色の虹』著者:貫井徳郎2010.10新潮社刊これは冤罪事件被告人の復讐連鎖劇の一部始終である。刑事事件が裁かれる時。容疑者、警察官(刑事)、検察官、弁護人、裁判官、拘置所の刑務官、刑務所の刑務官など多くの司法制度関係者が登場する。作者は冤罪事件によくあるあいまいな目撃証言と刑事の思い込み捜査を事例に、冤罪を背負った受刑者が刑を終えて出所後関係者を次々と殺害し復讐を遂げるケースを小説として描いた。状況的には過失致死の疑いがある事件の容疑者江木雅史を、所轄刑事が目撃証人を巧みに誘導し、なおかつ威迫を持って偽りの自白調書を作成、江木を殺人事件の犯人に仕立て上げ検察庁に送致した。検事も自白調書を鵜呑みにして告訴した。裁判でも裁判官は検察官の陳述、証人の証言を重視し有罪を判決した。官選弁護人は無罪の主張を信じ...貫井徳郎の『灰色の虹』

  • パフィオペディルムを描く

    ◇鉢植えのパフィオペディルムを描くclesterF6秋口から寒さ対策で室内に入れたパフィオペディルム。十数年前に家人が友人から頂いて育て、例年10本くらい花をつけた鉢であるが、今年は花芽が少なかった。そろそろ株分けした方が良いのかも。一見食虫植物のような袋を持つが食虫植物ではないらしい。割と地味な蘭であるが、西洋では珍重されているとか。(以上この項終わり)パフィオペディルムを描く

  • 月村 了衛の『十三夜の焔』

    ◇『十三夜の焔』著者:月村了衛2022.10集英社刊江戸幕府御先手弓組幣原喬十郎は親戚の法事の帰路、湯島切通町で男女二体の死体に出くわした。傍らに匕首を手にした若い男が佇んでいた。男の目には涙が。誰何した幣原に応えずその剣を躱した男は十三夜の月影に消えた。死んでいた男は口入屋國田屋庄右衛門と下女のおたきと判明した。若い男は盗人の頭目代之助一味の駆け出しの一人、千吉らしい。これが幣原と千吉の運命的な出会いである。幣原は御先手組の面目にかけても千吉を探し出し捕縛したい。町方の捕り物騒ぎに遭遇した幣原の前に何と千吉が現れた。千吉は先頃の出会いの事情(恋仲おたきは既に殺されていた)を説明し消えた。それから10年の月日がたった。幣原は亡くなった父親と同じ御先手組組頭になった。結婚し娘志乃が生まれた。一方ひょんなこと...月村了衛の『十三夜の焔』

  • フキノトウとでこぽんを描く

    ◇フキノトウとでこぽんとclesterF4フキノトウが顔を出してから1週間は経った。フキ味噌などで春の香りを賞味しようと思ったが、さて、フキノトウもれっきとした一つの生命、その生命を頂戴するからにはそれなりの敬意を示さねばと、手近にあったデコポンと一緒に描いた。明日は天ぷらでお命頂戴仕る。合掌。(以上この項終わり)フキノトウとでこぽんを描く

  • ジョン・グリシャムの『無実(下)』

    ◇『無実(下)』(原題:TheInnocentMan)著者:ジョン・グリシャム(John・Grisham)<承前>公判作戦上デニス・フリッツを先行させた検察陣は嘘の証言で固め、陪審をして有罪、終身刑の評決に持って行った。準備体操で自信を付けた検察陣は満を持してロン・ウィリアムスンの公判に臨んだ。判事はロンが、判定で騒ぎださないように事前に入念に説諭した。証人の顔ぶれも証言内容もデニスの公判と同じように進められた。バーニー弁護人はロンが暴れないか心配で、証人追及も精神的無能力による公判無効も主張しなかった。ゴアの作り話も速記録の読み上げで済まされた。証人は事前に刑事の示唆と威迫で作り話をした。バーニーは証人尋問で指紋などの証拠採取や供述記録のずさんさを追求したが陪審に対しては効果がなかったようで、結局ロンは...ジョン・グリシャムの『無実(下)』

  • 顔を出した「ふきのとう」

    ◇自然界は時を忘れず待っていたフキノトウが顔を出しました。例年とほぼ同じ時期です。コロナや物価高やトルコの地震や嫌なことがいろいろ起こっても、出るべきものが顔を見せるとホッとします。フキ味噌や天ぷらで一献など、ほろ苦さを賞味するのは今少し先です。コロナ禍も下火に落ちてふきのとう(以上この項終わり)顔を出した「ふきのとう」

  • ジョン・グリシャムの『無罪(上)』

    ◇『無罪(上)』(原題:TheInnocentMan)著者:ジョン・グリシャム(JOHNGRISHAM)訳者:白石朗2008.3ゴマブックス刊(ゴマ文庫)これまでリーガルサスペンスの巨人ジョン・グリシャムの数多くの作品は大方読んだが、このようなノンフィクション作品にはお目にかからなかった。この作品はオクラホマ州のエイダという地方都市が舞台になっている。かつては石油産出で賑わった。大学と郡裁判所がある。キリスト教信仰地帯通称バイブルベルトと呼ばれるアメリカ南部の人口1万5千という地方の町としては比較的大きい町である。1982年12月7日の夜、まち外れの「コーチライト」というナイトクラブでバイトでウェイトレスをしていたデビー・カーターという21歳の女性が自宅のアパートで殺害された。全裸で乱暴されていた。壁には...ジョン・グリシャムの『無罪(上)』

  • 水彩で「天城山隧道」を描く

    ◇冬の「天城山隧道」を描くclesterF8(中目)冬の天城山隧道と言っても伊豆は関東より少し暖かいし、雪が降ってるわけでもなく、当日は風が強かったけど快晴で晩秋や早春と言っても良い気象でした。人っ子一人見当らないトンネルでしたが、絵のアクセントとして妻を入れました。木漏れ日が道や石積みの法面に踊っていました。トンネルは今どきのコンクリート製ではなく、全面切石を積み上げています。夏涼しく冬は暖かい(?)隧道の先に北口(修善寺方面へ向かう)が見えます。積み上げた石にはところどころ苔が張り付いています。ということは水がしみ出ているということでしょうか。隧道脇の道路の法面はほぼ全面苔むしています。トンネルの上部には「天城山隧道」という石版が嵌っていますが良く読めません。(以上この項終わり)水彩で「天城山隧道」を描く

  • 川上弘美の『なめらかで熱くて甘苦しくて』

    ◇『なめらかで熱くて甘苦しくて』著者:川上弘美2013.2新潮社刊芥川賞作家川上弘美さんの作品を読むのは『センセイの鞄』が初めてである。本書はまず題名が奇抜で特に甘苦しいという感覚表現が新鮮というか、こういう捉え方にはじめてお目にかかるので気になって読んでみた次第である。それにしてもノーベル賞候補など多士済々の文学界において文化功労章受章されるなどどういう経緯があったのだろう。川上弘美の「ヰタ・セクスアリス」などと紹介されているが、そもそもこの作家の小説ではセックスなどほとんど中心にないのでそんな目で見るほどのことではないのではないか。おなじみの時空間の混じりあった、摩訶不思議な世界を描き出す川上センセイの掌篇集である。<aqua>小学校、中学、高校という成長過程の経験の数々、田中水面と田中汀。電車や野道...川上弘美の『なめらかで熱くて甘苦しくて』

  • 久々に花の絵を描く

    ◇百合とスターチスclesterf4(中目)先週の水彩画教室では久々に花の絵を描きました。冬の花はなかなか得難いので、幹事さんが選んだのは鉄砲ユリ系の百合の花とスターチス。この組み合わせは初めてのような気がします。百合はともかくスターチスは主役を張る華やかさがないので、単独ではなかなかモチーフに選ぶことはなく大抵わき役だと思います。何とか丁寧に描こうとしましたが、無理でした。久々に花の絵を描く

  • 新年の水彩画教室は

    ◇正月用品を描くclesterf4令和5年の水彩画教室は1月10日。正月用品を描くことになり、有志が持ち寄りました。昨年は羽子板を描いたので、今年は某氏持参の祝い角樽と枡を描きました。合わせて門飾り?も。樽や枡の朱色がなかなか出せず、一緒に描いたKさん,Rさんも音をあげていました。結局ローズマーダーにキナクリンレッドに落ち着きましたが、不満が残ります。門飾りの細かな素材を描き切るのは難しいです。(以上この項終わり)新年の水彩画教室は

  • 伊豆「天城山隧道」を天城峠バス停から歩く

    ◇「天城山隧道(旧天城トンネル)から河津七滝を歩く天城山隧道南口河津七滝の一つ「釜滝」令和5年を迎えて、ここ「天城山隧道」を歩く宿願が叶ってついに夫婦共歩きで実現した。前日まで雨が続いて天候が気になってはいたが、旅行では9割が晴れという実績がものを言い、当日(1月20日)は風はあったが雲ひとつない日本晴れ。天城峠には西の修善寺からと東の河津からの二通りがある。我々は河津駅で降りて途中の七滝に宿をとった。このコースでは河津駅から東海バスの修善寺行(C50)に乗って天城峠バス停で降りる。WEBページでは主として水生地下バス停で降り、下田街道(踊り子歩道)を歩いて天城山隧道(トンネル)に至るコースが紹介されている。1.8キロ凡そ40分ほどかかるらしい。新天城トンネル(国道414号)を出たところにある天城峠バス停...伊豆「天城山隧道」を天城峠バス停から歩く

  • 冬の果物(みかん・林檎・いちご)を描く

    ◇青島みかん・サンふじ・とちおとめclesterF8我が家のミカン(青島みかん)は大きくて、信州山ノ内町から買っている「サンふじ」にも負けずと大きい。昨年と異なり今年は15個しか生らなかったが、葉付で描けるのはなかなか機会がないのでリンゴと一緒に描いた。ちょうど家内の友人Kさんから頂いたいちご「とちおとめ」があったので参加してもらった。みかんの色を探しているうちにすっかり色が濁ってしまった。気が付いたら果物籠もやや歪んで見える。意気込んで描いた割にできがよくない作品である。(以上この項終わり)冬の果物(みかん・林檎・いちご)を描く

  • ジョジョ・モイーズの『ワン・プラス・ワン』

    ◇『ワン・プラス・ワン』(原題:Theoneplusone)著者:ジョジョ・モイーズ(JOJOMOYES)訳者:最所篤子2018.2小学館刊(小学館文庫)本書で次の展開が気になってハラハラする場面がある。それは主人公のジェスの娘タンジーがスコットランドで行われる「数学オリンピック」に出た。果たして優勝できるかどうか。優勝賞金は5千ポンドである。それがあれば奨学金で私立の有名校に入れる。タンジーはまだ10歳なのだが、数学的能力が抜群で、学校推薦でイングランド南部の片田舎からはるばるアバディーンまでやって来たのだ。ジェスは16歳で結婚しタンジーを生んだ。夫マーティは勝手に家を出て行った。前妻との間に生まれたニッキーを残して。仕送りもしない夫は金銭的には何の助けにもならない。ジェスは数学では天才的なタンジーに数...ジョジョ・モイーズの『ワン・プラス・ワン』

  • 新春の花シクラメンを描く

    ◇新春の定番「シクラメン」を描くclesterF6(細目)暮れになるといつも手ごろなシクラメンの鉢を買ってきて正月中花を楽しむ。今回もいつもの店でずいぶん安く売っていたので花芽をたくさん持った鉢を選んで買ってきた。ピンクでふちが薄くなっているのが絵にし易いと思った。普段滅多に選ばないクレスターの細目の紙に描いてみて失敗を悟った。荒目や中目とはずいぶん違って吸い込みが悪く、置いた絵の具が乾いたと思って次の色をのせると混ざってしまう。とりわけ鉢を入れた籠の網目などなかなか収まらず苦労した。もう細目には近寄らないと覚悟した。(以上この項終わり)新春の花シクラメンを描く

  • エル・コシマの『サスペンス作家が人をうまく殺すには』

    ◇『サスペンス作家が人をうまく殺すには』(原題:FINNLAYDONOVANISKILLINGIT)著者:エル・コシマ(ElleosiImano)訳者:辻早苗2022.9東京創元社刊(創元推理文庫)売れないロマンチックサスペンス作家フィンレイ・ドノヴァンは、レストランで食事中にある女から厄介な夫=マフィアと関係のある裕福な会計士=を殺してほしいと依頼を受ける。報酬は5万ドル。だがターゲットを自宅のガレージに連れ込んだところ、ちょっとした隙に何者かに先を越されターゲットが殺され…次いで妻も行方が分からなくなる。ぬれぎぬを着せられる前にターゲットの謎めいた殺害について調べるしかないと子供らのベビーシッターヴェロと共に事件解明に奔走するが、捜査に当たっている地元警察の敏腕刑事ニック(フィンレイにぞっこん)が絡ん...エル・コシマの『サスペンス作家が人をうまく殺すには』

  • 2022年も終わり

    ◇年の暮れに当たって馬齢を重ねること80年を超えまぎれもない高齢者になって、20年も前に始めたブログも些か重荷になってきたのか更新頻度が落ちています。読書感想、描き貯めた水彩画の披露目、小ぢんまりした家庭菜園の様子など内容は限られているのになかなか手が付かないのはものぐさになってきたせいか。記事更新に努めてはいますが、お付き合いいただいている皆様にはご寛恕賜りたくお願い申し上げます。3年前の冬には甘く見ていたコロナウィルスが、結局パンデミックとなり、世界中の人達の生活を大きく変えてしまいました。5回もワクチンを射って、何とか普通の日常生活を維持しているのが少数派なのかと思ってしまう程コロナ禍に席捲されまくっています。早くこの窮屈から脱却したいものです。ハイパープレデター(捕食者)として生物の頂点に立つ人類...2022年も終わり

  • ミリヤム・プレスラーの『マルカの長い旅』

    ◇『マルカの長い旅』(原題:MALKAMAI)著者:ミリヤム・プレスラー(MirjamPressler)訳者:松永美穂2010.6徳間書店刊もう40年ほど前に「母を訪ねて三千里」というTV番組があったような記憶がある。この本もそうした系統の児童書かと思ったが、読んでみれば背景が全く違うし大人が読んでも感動的な読み応えのある本である。作者は本書はマルカ本人から断片的な記憶をもとにしながらも大部分が創作であると言っているので単なるドキュメントではない。しかし人物造形も情景描写もかなり緻密であり、迫真的である。第二次大戦初期、ナチスの迫害を免れポーランドからカルパチア山脈を越えて隣国ハンガリーに逃れるという時代背景があって、単純な逃避行の物語ではないところが感動的である。マルカは7歳になったばかり、まだ幼児であ...ミリヤム・プレスラーの『マルカの長い旅』

  • 橘玲の『もっと言ってはいけない』

    ◇『もっと言ってはいけない』著者:橘玲新潮社刊(新著新書)前回『言ってはいけない』をご紹介したが、その続編である本書は「もっと不愉快な本に違いない」と思ってはいけない。それは誤解で、「言ってはいけない」ことをもっとちゃんと考えてみようという意味で、本書では「私たち日本人は何者で、どのような世界に生きているのか」について書いている(と筆者はまえがきで書いている)。「遺伝決定論」を批判する人たちは、どのような困難も本人の努力や親の子育て、あるいは周囲の大人たちの善意で乗り越えていけるはずだと頑強な信念を持っている。だが本人がどれほど努力しても改善しない場合はその結論は決まっている。努力しているつもりになっているだけで、努力が足りないのだ。なぜなら困難は意志の力で乗り越えられるはずなのだから。なるほどごもっとも...橘玲の『もっと言ってはいけない』

  • 21世紀の森公園の小川を描く

    ◇千駄堀池に注ぐ小川ARSHESF6(荒目)21世紀の森と広場公園の中央部に千駄堀池という大きな池があります。公園の八原台という小山から流れ出す湧水を集めた小川があり、静かなたたずまいに誘われて絵にしました。(以上この項終わり)21世紀の森公園の小川を描く

  • 橘玲の『言ってはいけない 残酷すぎる真実』

    ◇『言ってはいけない残酷すぎる真実』著者:橘玲新潮社刊(新潮新書)作者は「まえがき」でいっている。テレビや新聞、雑誌には耳障りのいい言葉が満ち溢れている。メディアする生j化や学者、評論家は「いい話」と「わかやすい話」しかしない。ダーウィン、メンデルが唱えた旧時代の進化論は現代のテクノロジーの急速な発達に支えられた分子遺伝学、脳科学、ゲーム理論、複雑系など「新しい知」と融合し、人文科学・社会科学bを根底から書き換えようとしている。専門家であれば常識の話を誰もしようとしない。黙殺されるか排斥されていく。みんな見たいものだけ見て、気分のいいことだけを聞きたいのだから。だから「言ってはいけない」とされてる残酷すぎる真実こそが、世の中をよくするために必要なのだ。これが執筆の動機である。というわけで真実であるがゆえに...橘玲の『言ってはいけない残酷すぎる真実』

  • 秋色の21世紀の森と広場公園を描く

    ◇21世紀の森と広場公園の紅葉clesterF8(中目)先月の終わり、久しぶりに松戸市にある千葉県営「21世紀の森と広場公園」を散歩しました。広大な敷地で全周6.2キロ、ゆっくり歩いて2時間はかかります。ちょうど紅葉の時期で、公園外に長屋門がある旧家があり、色面構成上打って付けのいい場所があったので描いて見ました。(以上この項終わり)秋色の21世紀の森と広場公園を描く

  • アンドリュー・バックスの『嘘の裏側』

    ◇『嘘の裏側』(原題:FALSEALLEGATIONS)著者:アンドリュー・バックス(ANDREWVACHS)アウトロー探偵バークシリーズの第九弾。本作でバークシリーズは生まれ変わった。本作では具体的な敵役はいない。一貫して幼児虐待問題を告発している作者の創作姿勢の一環であり、今回も後記として巻末にベイラー医科大学のIVITAS(チャイルド・トラウマ・プログラムズ)への支援を訴えていることからも強烈な問題意識がうかがえるのである。そんなバークにグループの伝言中継点のママから弁護士のカイトという男から仕事の話が入った。今は探偵仕事はやっていないと断ったが、バークの腕前を見込んでのたっての頼みということで話を聞いた。カイトは自分が真剣な仕事をしている真剣な人間であることを証明して欲しいというのだ。今手掛けてい...アンドリュー・バックスの『嘘の裏側』

  • 秋の野菜を描く

    ◇カブ、ブロッコリーなど秋の野菜を描くclesterF4先週の水彩画教室のテーマは「秋の野菜(Ⅲ)。旬の蕪(カブ)、サツマイモ、ブロッコリー、ニンジン、シシトウ。里芋は登場しませんでした。ブロッコリーの花芽はむつかしいです。雰囲気でとらえるしかありませんでした。ししとうはハハイライトが不規則でこれも雰囲気の勝負です。カブは肌色の白さが特徴で、結局ガッシュ(不透明水彩)白を置くことにしました。長い根はそのまま。ご愛敬ですが左上の空白部分を埋めてくれました。さつまいもは皮が繊細で実際はところどころ白く剥けていましたが、結局荒れていないままの状態にしてしまいました。(以上この項終わり)秋の野菜を描く

  • ジョン・ハートの『ラスト・チャイルド(下)』

    ◇『ラスト・チャイルド(下)』(原題:TheLastChild)著者:ジョン・ハート(JohnHart)訳者:東野さやか201.4早川書房刊(ハヤカワ・ミステリー文庫)上巻では第2の誘拐事件で誘拐されたティファニーが犯人のバートンを銃で撃って死亡させ、ジョニーも重傷を負うというショッキングな出来事で驚いたが、後半でもショッキグな事態が続々という展開で驚く。神との対話という異世界に生きるリーヴァイ・フリーマントルの存在は言動が不可解だがジョニーは彼が奴隷解放時代のインデアンの奴隷の末裔(ラストチャイルド)であることを知っている。彼は母親と娘が神の祝福を受けずに埋葬されたことを悔やんでいてた。不思議とジョニーとは心が通じ合っている。驚いたことにバートンの隣接地に女児の死体がいくつも見つかった。アリッサの死体は...ジョン・ハートの『ラスト・チャイルド(下)』

  • ジョン・ハートの『ラスト・チャイルド(上・下)』

    ◇『ラスト・チャイルド(上・下)』(原題:TheLastChild)著者:ジョン・ハート(JohnHart)訳者:東野さやか2010.4早川書房刊(ハヤカワ・ミステリー文庫)この小説は文句なしに面白い。2008年『川は静かに流れ』でアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞、英国作家協会賞最優秀スリラー賞を受賞している。面白さのポイントは3つある。第1点は主人公のラスト・チャイルド(双子で残された一人の子)ジョニーの幾多の困難にめげない妹アリッサ探索力である。ジョニーは警察の捜索が手ぬるいとばかりに自力で妹を探す。警察が調べた性犯罪常習犯の最近の日常行動、近隣全ての住民の日常をも調べ上げる。揚句、キリストは助けてくれないと先住民の呪術に頼り魔力を得る儀式を行ったりする。第2点は少女誘拐事件担当班の刑事ハント。捜...ジョン・ハートの『ラスト・チャイルド(上・下)』

  • 手賀沼「道の駅しょうなん」で写生

    ◇改装なった「道の駅しょうなん」(沼南)写生会clesterF8(中目)水彩画の同好会秋の写生会は改装なった「道の駅しょうなん」(沼南)で写生会ということでしたが、なんと集まったのは男性4名だけ。好天に恵まれ、絶好の写生会日和でしたが、ほかの予定と被った人、風景の写生が苦手の人などいろいろ事情があると思いますが、残念でした。手賀沼ではこれまでも手賀大橋、水の館、ボート乗り場、湖面の船などずいぶん写生しましたが、今回はボート乗り場から我孫子市側の家々などの遠景を描きました。描き始めの時は雲一つない青空でしたが、気が付いたら大きな雲の塊が現れていて慌てて青空にグァッシュで雲を描きました。普段は画用紙の青空を白抜きする技法だったのでやや抵抗感がありましたが、何とかくもらしくなりました。遠方のビルなどはできるだけ...手賀沼「道の駅しょうなん」で写生

  • 黛まどかの『引き算の美学 物言わぬ国の文化力』

    ◇『引き算の美学物言わぬ国の文化力』著者:黛まどか2012.2毎日新聞社刊俳人黛まどかの書下ろし(一部過去の寄稿を含む)文化論。筆者が言う「引き算」とは何か。一言で絵言えば、日本のあいまい文化。日本国内では美徳であっても白黒明確を求める合理主義の欧米では悪弊、不可解とされる日本特有の文化のことである。しかしながら日本が世界に誇る伝統文化の多くはこの「引き算の美学」の上に成り立っているというのが筆者の指摘である。筆者は諸外国での見聞を経て日本人の引き算、省略、余白から生まれる文化の生み出した力を高く評価する。もちろん俳人としての感性で自然への畏怖・畏敬を基盤とする日本文化の特性を古人の和歌・俳句などから証明しているのであるが、韓国釜山からソウルまでの五百キロ踏破、北スペイン・サンティアゴ巡礼道八百キロ踏破な...黛まどかの『引き算の美学物言わぬ国の文化力』

  • A・E・W・メースンの『矢の家』

    ◇『矢の家』著者:A・E・W・メースン(A・E・W・MASON)訳者:福永武彦1959.5東京創元社刊文豪福永武彦翻訳になるメースンの代表的長編。この作品は1924年に上梓された。作品の構成上は謎解き探偵もののようでもあるが、探偵と犯人の心理合戦のようでもある。(世界推理小説全集)から30版を重ね2017年に再版されたものなので翻訳上古典に属するかもしれない。表現が古色蒼然とまでは行かないが、幾分古めかしいところがある。物語はフランスの顧客からの依頼を受けた英国の某法律事務所が若手の弁護士ジムフロビッシャーを送り込むところから始まる。フランスの資産家の女性ジャンヌが自邸のグルネル荘で死亡した。その養女であるベティという女性から殺人者として告発されたので窮地を救ってほしいという手紙が舞い込んだ。ジムという弁...A・E・W・メースンの『矢の家』

  • デイヴィド・L・リンジーの『黒幕は闇に沈む(下)』

    ◇『黒幕は闇に沈む(下)』(原題:ANABSENCEOFLIGHT)著者:デイヴィド・L・リンジー(DAVIDL・LINDSY)訳者:山本光伸1998.3新潮社刊(新潮文庫)下巻は事態がややスピーディーに展開する。グレーバーはインフォーマント(情報屋)のラストからティスラーとビーザムが犯罪情報課内の内部情報を流出させていたとの情報を得る。もう一人いると言う。それはバーテルのことだろうか。グレーバーが事態のほぼ全貌を伝えて調査を任せているニューマンとポーラにアーネットへの依頼のことやバーテルが不審男と会っていたことを伝えようとしながらも躊躇逡巡する。部内にまだ情報内通者がいるという状況がそうさせるのか。そこまで信頼できないので逡巡するわけである。下巻冒頭で謎の男バノス・カラティスの素性が明かされる。世界の諜...デイヴィド・L・リンジーの『黒幕は闇に沈む(下)』

  • デイヴィッド・L・リンジーの『黒幕は闇に沈む』(上)

    ◇『黒幕は闇に沈む』(上)(原題:ANABSENCEOFLIGHT)著者:デイヴィッド・L・リンジー(DavidL.Lindsey)訳者:山本光伸1998.3新潮社刊(新潮文庫)アメリカの警察小説。著者はフロリダ州ヒューストン警察の事務職に就いて執筆活動を行っており、警官の連帯意識、権力争い、上司の権威主義など警察組織の描写にリアル感がある。多分日本の警察組織にはないと思うが、ヒューストン市警の刑事部に犯罪情報課という組織があって、犯罪を未然に防ぐために日頃からいろんな組織、個人からあらゆる情報を集め、犯罪の動向を分析し殺人課や強盗課などに引き継ぐ。本作の主人公マーカス・グレーバー警部は犯罪情報課の中枢として課内を仕切っているが、妻のドーレーとの間に双子の息子をもうけたものの、二人が成人し結婚したあたりか...デイヴィッド・L・リンジーの『黒幕は闇に沈む』(上)

  • 伊豆・今井浜の海岸を描く

    ◇東伊豆の今井浜海岸を描くmarumanvifArtF0s20VA40年ほど前に一度訪れた東伊豆の今井浜を久しぶりに訪ね浜辺の光景を堪能しました。気温も27度くらいあって数人のサーファーが楽しんでいました。せっかくの機会なので海岸の景色をスケッチし彩色もしました。(F0=180×145mm)遠景の島は新島です。ホテルの居室(8階)からの構図なので展望台からの景色と言った感じです。荒れてはいない海とはいえ結構な波があって、岩に当たって砕けた白い波がうまく表現できなくて残念です。水深の関係で遠方の海の色は群青色で近場はやや緑色です。これももう少し強調した方がよかったと思います。(以上この項終わり)伊豆・今井浜の海岸を描く

  • エド・マクベインのホープ弁護士シリーズ『シンデレラ』

    ◇『シンデレラ』(原題:Cinderella)著者:エド・マクベイン(EdMcBain)訳者:長野きよみ1993.3早川書房刊(ハヤカワミステリ文庫)エド・マクベインの作品は昔「87分署シリーズ」シリーズを随分夢中になって読んだが、これは「ホープ弁護士シリーズ」第8作目。発端の殺人事件はともかく話が幾重にも重なり、2・3ページごとに3人称で始まって…。ストーリーも洒脱な会話や表現で楽しめるが場面が飛ぶので追うのも忙しい。舞台は麻薬天国マイアミ。発端となる殺人事件。ホープ・マシューが調査を依頼していた探偵オットー・サマルスンが射殺された。不倫現場を押さえる単純な仕事だったが、事務所の書類を調べるともう1件仕事を抱えていたことが分かった。不倫調査の方は殺されるいわれはなかったが、もう1件の方はラーキンという地...エド・マクベインのホープ弁護士シリーズ『シンデレラ』

  • 秋の静物画で「果物」を

    ◇秋の果物はりんご、ペアーなどclesterF4先週の水彩画教室では秋の果物を描きました。秋の果物と言えばリンゴ、ナシ、ぶどう、柿、早生のミカンなどがあげられます。今回は西洋梨(ペアー)ラフランスが加わりました。先生の注意事項はリアルな写実よりも新鮮な果物のおいしさを引き出すように、でした。さて…。リンゴや巨峰と一緒にあるのはみかんです。(以上この項終わり)秋の静物画で「果物」を

  • 楠木建の『絶対悲観主義』を読む

    ◇『絶対悲観主義』著者:楠木建2022.6講談社刊(講談社+α新書)題名に惹かれて読んだ。著者が言う悲観主義は普通言われる楽観主義に相対する概念としての悲観主義とはとらえ方がちょっと違うかもしれない。我々個人の仕事に対するスタンスを初め日常的な言動を主導する規範として、悲観的姿勢の採用を勧めている本である。例示や譬えが具体的で面白い。著者は自分なりの論理で物事は基本的に悲観的立場で対処した方が良い結果を招くという考え方を勧めているのである。「困難に直面してもやり抜く力(GRIT)無用、逆境から回復する力不要これが絶対悲観主義の構えです」と著者は言う。世の中に自分の思い通りになる事なんかほとんどない。こうした真実を直視さえしておけば、戦争や病気のようなよほどのことがない限り困難も逆境もない。「うまくいかない...楠木建の『絶対悲観主義』を読む

  • マイクル・コナリーの『燃える部屋(上・下)』

    ◇『燃える部屋(上・下)』(原題:THEBURNINGROOM)著者:マイクル・コナリー(MichaelConnelly)訳者:古沢嘉通2018.6講談社刊マイクル・コナリーを最初に読んだのは『チェイシング・リリー』で、次いで『贖罪の街』(ハリー・ボッシュシリーズ第18作)を読んだ。とにかく圧倒される面白さで一気読みだった。本作もハリー・ボッシュシリーズ第17作目に当たる。本作品の主人公ハリー・ボッシュもロス市警での刑事仕事で25年、年金が付く歳になった。あと1年ほどでリタイア―となるところで、いわばコールド・ケースである「未解決事件班」で過ごすことになった。相棒は25歳のメキシコ系女性ルシア・ソト。市警に入ってまだ5年なので刑事としての捜査手順などノウハウ伝授をボッシュは期待されている。ボッシュはソトに...マイクル・コナリーの『燃える部屋(上・下)』

  • 夏の野菜を描く

    ◇夏の野菜色とりどりclesterF4先ごろ教室で夏の野菜を描きました。トマト・ミニトマト、ナス、ピーマン、ジャガイモ、玉ねぎ、枝豆、小松菜、おくら、ニンジン等々彩りが豊富でにぎやかです。野菜が持つそれぞれの色あいが競い合って、それはそれで楽しくなりますが、陰影をどう表現するか苦労しました。もちろん背景色も。なかなか思いつかなくて白いままにしました。(以上この項終わり)夏の野菜を描く

  • 松戸市本土寺の菖蒲園

    ◇写生会で本土寺へ「菖蒲園」clesterF4(中目)前に本土寺での写生の一部をご紹介しましたが、その際構図が気に入っていた別のシーンを4号で描いてみました。アジサイが有名な寺ですが、菖蒲園も結構皆さん気に入って鑑賞しておられます。この場所では白い菖蒲が優勢ですが、ちらほらと紫やピンクも見られました。手前にはガクアジサイがありましたが、もうすこし丁寧に描けが良かったと反省しています。菖蒲の花はマスキング液を使いました。直接用紙に落とすよりは少し薄めて塗った方がはがすときに苦労しないで済むような気がします。3人の女性の手前ではベンチで2人のおじさんが絵を描いていました。(以上この項終わり)松戸市本土寺の菖蒲園

  • ミネット・ウォルターズの『病める狐(上下)』

    ◇『病める狐(上下)』(原題:FOXEVIL)著者:ミネット・ウォルターズ(MinetteWalters)イギリスドーセットの田舎町で不可解な二つの事件が進行する。外国推理小説ではおなじみの遺産相続ものの色彩が強いが、正体不明の男フォックス・イーヴルが扇動する土地占拠事件が絡むところがミソ。ジェームズ・ロジャー・フォックスの土地に隣接する森林地帯にトラヴェラー(移動生活者)のトレーラー集団が押し寄せ、登記を怠っていた村の共有地に敵対的所有権(登記していない土地を占有し、建築物を建てて所有宣言をする)を主張しようとしている。それを扇動する首謀者はフォックス・イーブルという正体不明の男。ジェームズの妻が嵐の夜何者かに撲殺された。キツネや犬が惨殺され骸が玄関に投げ出されている事件もあった。一度はジェームスが犯人...ミネット・ウォルターズの『病める狐(上下)』

  • 澤田瞳子の『輝山』

    ◇『輝山』著者:澤田瞳子2021.9徳間書店刊これは江戸幕府開闢以前から銀の産出地である石見国天領石見銀山附御料大森代官所における中間金吾の目を通して、この地大森町、銀山町で働く銀産出にかかわる人々の過酷な日常、喜怒哀楽、代官所役人のかかわりなどが描かれる。石見銀山は幕府直轄鉱山(御直山)と民有鉱山(自分山)があるが、いずれも採掘と精錬など作業は山師の手に委ねられ、最終製品を代官所で買い上げ、江戸に送られる仕組みである。間歩といういう鉱道には採掘の掘子、手入、柄山負、精錬には銀吹師(吹大工、灰吹師、ユリ女)等々女子供も含め多くの人が携わっている。実は金吾は元上役であった小出儀十郎から石見代官所代官岩田鍬三郎の身辺を探れという密命を受けて石見に来た。その背景は金吾は全く知らない。真相は後段で岩田代官から小出...澤田瞳子の『輝山』

  • 古井 由吉の『夜の香り』

    ◇『夜の香り』著者:古井由吉1987.11福武書店(福武文庫)4編の短編集。高度成長前期の一般的な庶民の生活と住まいの様子が丁寧に描かれている。登場人物は概ね一般的な勤め人。すでに幼児、あるいは学齢前の子供がいたり、子供が生まれたりという割と若い夫婦が多い。住み替えや戸建ての持ち家の中の様子、周辺環境の描写が緻密である。<街道の際>伊沢守夫は普段あまり深い付き合いのない同僚内村から家を新築したので遊びに来ないかと誘われる。その家は自分がかつて生まれ育った土地で、十分土地勘はあるのだが、なぜか彼の気質に対して鬱屈するところがあって、回り道をして街道筋の家を下見したりする。食事を誘われ酒まで飲んだ。奥さんに大学での評判を聞かれたりして狼狽する。最近学生らが家近くにきて彼を糾弾する騒ぎがあったらしい。息子を抱い...古井由吉の『夜の香り』

  • 福井雄三の『開戦と終戦をアメリカに発した男』戦時外交官加瀬俊一秘録

    ◇『開戦と終戦をアメリカに発した男=戦時外交官加瀬俊一秘録』著者:福井雄三2020.4毎日ワンズ刊太平洋戦争時代日本の外交官として活躍した加瀬俊一の生涯をなぞると共にこの時期の日本を巡る国際状況と日本の外交関係を解説する。著者は国際政治学を専門専門とする。加瀬俊一自身の回想録を初め多くの著書を渉猟した評伝であり、かつ外交官の目を通した歴史の裏側の記録でもある。そしてこれは太平洋戦争につながるアメリカとの軋轢から、開戦そして無条件降伏という屈辱の敗戦交渉まで立ち会った稀有の外交官の記録となっている。加瀬俊一はまれに見る俊才であり、類い稀な英語力を見込まれ、多くの大使、外相の首席秘書官として重要な外交交渉場面に立ち会った。幣原喜重郎、石井菊次郎、松岡洋右、東郷茂徳、重光葵、など先輩外交官の優れた外交力を学びつ...福井雄三の『開戦と終戦をアメリカに発した男』戦時外交官加瀬俊一秘録

  • 佐野の桃を描く

    ◇夏の果物の王者桃を描くclesterF6(中目)妻の親友Kさんが地元(と言っても近くの佐野市)の桃を1箱送って下さった。普段こんなに大量も桃を手②することはないので、折しも帰省中の娘家族と一緒にいただく前にセザンヌのリンゴ程ではないものの5個の桃を皿に盛って描いた。何といっても特別に配慮された枝葉付の桃はなかなか得難いモチーフで、急いで描き上げた。桃独特の柔毛は白色のガッシュを加えるとそれらしくなるのであるが、今回は省略した。盛った皿の文様や色は省略した。背景色はセルリアンブルーとサップグリーンの混色である。(以上この項終わり)佐野の桃を描く

  • 弘中惇一郎の『生涯弁護人・事件ファイルⅠ』

    ◇『生涯弁護人・事件ファイルⅠ』著者:弘中惇一郎2021.11講談社刊作者は著名な弁護士である。世間の注目を浴びた事件の裁判で弁護人に名を連ねていた。今回の事件ファイルⅠは彼が弁護人として担当したそれら大型事件をグループ分けし、事件の特性と共通点などを整理し、問題点を指摘している。村木厚子事件、小沢一郎事件、ロス疑惑事件などを手掛け「無罪請負人」と呼ばれた著者が、日本の検察庁の特性を厳しく指弾し、衆愚におもねるマスメディアを叩き、真実に迫る弁護活動の姿が詳述される。現場百遍、情報は足でかせぐなど警察の刑事と同じ理屈で真相に迫るのが弁護人が勝利する近道だということが良く分かる。そして裁判の成功か否かは、被告人と信頼関係が築けるか否かにかかっているとする。第一章国策捜査との闘い<村木厚子事件>代表的な冤罪事件...弘中惇一郎の『生涯弁護人・事件ファイルⅠ』

  • 福田和代の『怪物』

    ◇『怪物』著者:福田和代2011.6集英社刊人間を骨ごと溶かす身もよだつような怪物を追い詰めた刑事。ミイラ取りがミイラになったというか、自らが怪物と化してしまった物語。何かしらホラーっぽい不思議な小説である。定年まであと1か月という老刑事香西武雄。死の匂いを嗅ぐという異能を持ち何度も事件解決のきっかけを作ってきたが、自分の特異な能力は未だに同僚にも明かしたことはない。定年退職を目前に控えて未解決事件が気がかりである。一つは15年前に起きた「くるみちゃん誘拐殺害事件」。もう一つは10日前から行方不明になっている橋爪という男の失踪届の事案。香西は幼い女児を殺し焼いた残虐な犯人と目する男堂島昭の部屋で”死の匂い”を嗅いだ。間違いなくこの部屋でくるみちゃんは殺害された。この男は警察官僚の子弟ということで早くに捜査...福田和代の『怪物』

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