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  • 2-XV-8

    ド・ヴァロルセイ氏はそのことよく理解したので、元気よく答えた。「そうですか!親愛なるドクター、二万フランほどで良ければ、喜んでご用立ていたしますよ」「本当ですか?」「名誉にかけて!」「で、いつ用意して頂けますか?」「三、四日後には」取引は成立した。ジョドン医師の方では、ド・シャルース伯爵の掘り起こされた遺体から何らかの毒物が検出されるよう準備をしておくこととなる。彼は侯爵の手を握り締め、こう言った。「どのような事態になりましょうとも、私にお任せください」やっとド・コラルト子爵と二人だけになったド・ヴァロルセイ氏は、それまでの遠慮をかなぐり捨て、音を立てて大きく息を吸いながら立ち上がった。「何と骨の折れる会合だ!」と彼は呻るように言った。ド・コラルト氏は椅子の上でぐったりとし、一言も発しなかったので、侯爵は...2-XV-8

  • 2-XV-7

    「そうですか……」「早速今日、一刻も無駄にせず、帝国検事に告訴状を提出します……。疑いの余地のない窃盗については断定的訴えを、毒殺については推測的訴えを……」「なるほど。そうですね。それは良い考えです……。ですが、それにはちょっとした問題が一つありまして……。僕は告訴状をどうやって提出したら良いか分からないんで……」「私だってあなたと御同様ですよ。しかし、その方面の専門家なら誰でも、あなたに代わってやってくれるでしょう。……そういう人間は一人もご存じではない?……では、私の知っている人の住所を教えてさしあげましょうか?非常に有能で、この方面の事情に詳しい弁護士で、私が親しくしている社交界の面々の殆どが彼の世話になっています……」この最後の言葉を聞いただけでも、ウィルキー氏にその選択をさせるのに十分であった...2-XV-7

  • 2-XV-6

    彼の口調は医師のそれではなく、治安判事そのものだった。彼の威嚇的な推論は貨幣が刻印されるがごとく、ウィルキー氏の脳裏に刻み込まれた。「犯人は一体誰なんですか?」と彼は尋ねた。「そのことから利益を得られる唯一の人物です。大金の存在を知っていた唯一の人物、その金が入れられていた書き物机の鍵を自由に使うことのできた唯一の人物……」「で、その人物とは?」「伯爵の私生児であり、伯爵と同居していたマルグリット嬢です」ウィルキー氏は打ちのめされて、再び椅子に倒れ込んだ。ジョドン医師の『証言』とカジミール氏の供述の共通点はあまりにも明白、と彼には思えた。疑いの余地などない、と彼は思った。「ああ、そういうことか、諦めるしかないな……」と彼は呟いた。「何てついてないんだろう!僕の身には必ずこういうことが起こるんだ。どうしたら...2-XV-6

  • 2-XV-5

    目の鋭い人なら、ジョドン医師のぎこちない態度の下にある種の内面の震えがあるのを感じ取ったことであろう。ある悪事が冷酷な思考の元に考え出され決断されたものであっても、その先触れとして緊張が訪れるものだ。「実を申しまして」と彼は苦心して言葉を選びながら話し始めた。「お話しするに当り、私には躊躇いの気持ちがございます。私どもの職業には厳しい責務が課せられておりまして……こんなことを申しても遅きに失するかも知れませぬが……もしド・シャルース伯爵の舘に伯爵の親族がおられましたなら、なんなら相続人の方一人でも立ち会っておられましたなら、私は検死を提案したところでございますが……今となってはその……」検死という言葉を聞いてウィルキー氏はぎょっとして目を泳がせた。彼は口を開き、話に割り込もうとしたのだが、ジョドン医師は既...2-XV-5

  • 2-XV-4

    「邸を離れ、亡くなられた伯爵の御友人である、フォンデージ『将軍』と呼ばれる方のところに身を寄せておいでです。その際、ご自分の装身具やダイヤモンドなど一切を持って行こうとはなさらなかったのですが、これがどうもいかがわしく思えます。それらは十万エキュ以上の値打ちがあるもので……。ブリゴー夫婦も申しておりました。『カジミールさん、そんなことは普通じゃないですよ』と。ブリゴーというのは邸の門番夫妻で、正直な者たちでございます。これ以上ないほどの……」不運にも、彼がこのように仲間である門番夫妻を売り込もうとしている最中に、家僕が礼儀正しくドアを軽くノックし、入ってきて言った。「お医者様がいらっしゃいまして、侯爵にお目に掛かりたいとのことでございます」「わかった」とド・ヴァロルセイ氏は答えた。「少しお待ち頂くように。...2-XV-4

  • 2-XV-3

    彼はここで言葉を止めた。カジミール氏が入って来た。口をハート形にして追従笑いを浮かべ、平身低頭、司祭のような黒づくめの服に、首枷のような白いモスリンのネクタイを首にきっちり巻き付けていた。「やぁ君、来てくれたか」ド・ヴァロルセイ氏はウィルキー氏を手で示して言った。「こちらは、君の元の御主人の唯一の相続人でいらっしゃる……。君が私に話してくれたことは、こちらの方に大いに関係することなのでね、その話をもう一度して貰えないだろうか……」カジミール氏はどうしても良い働き口を得たいと躍起になって、ド・ヴァロルセイ侯爵に話しかけたのであった。彼は大いに喋りまくり、侯爵の方では相手にそれと気づかれぬようにしながら相手を利用し、自分の策略の片棒を担がせることが出来るのではないか、と考えた。「わたくしは前言を翻したりするこ...2-XV-3

  • 2-XV-2

    このようなことをしていると時間はあっという間に過ぎ、彼は『親愛なる侯爵』との約束の時間に少し遅れて到着した。ド・ヴァロルセイ侯爵は、彼が辞去したときと全く同じ姿勢で喫煙室に座り、ド・コラルト子爵と話をしていた。しかし、その間侯爵は外出をしていたのだった……。だが、彼が昨夜以来練り上げていた策略を実行する準備をするのに、ものの一時間とは掛かっていなかった。「勝利です!」とウィルキー氏はドアのところで叫んだ。「いや、なかなか大変でしたが、僕の底力を見せつけましたよ……僕は相続します。何百万という財産は僕のものです!」彼の『身分の高い友人たち』がおめでとうを言う暇も与えず、彼はマダム・ダルジュレとのやり取りを語り始めた。自分の非道な振る舞いを誇張し、実際には全く言っていない『非常に傲岸な』言葉を自分が言ったかの...2-XV-2

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