萱 海に出るため、国道から分岐した細道を歩く。左手に 水路が流れている。対岸には荒れた植物群落が広がり、 岸の近くに鬱蒼とした萱の茂みがある。初夏には緑一色 だった萱の茂みは、秋を迎えて枯れた黄褐色を増やし、 暗がりの奥に密生する茎から、緑の混じった細長い葉を 多方向に枝垂らせている。空を向いて伸びる薄茶色の穂 を掠めて、ハクセキレイが下流へ飛んで行った。視線を 戻すと、萱の茂みがじっと私を見ていた。 夏蜜柑 海へ続く道はカーブしていて、両側に数軒の農家が畑 を挟んで並んでいる。畑には夏蜜柑の木が並び、端の方 には実を付けた甘柿の木、他の一角ではキウイが棚に葉 を茂らせている。夏蜜柑はみな横広…
港を望む小さな緑地 棕櫚の並木の間の ベンチに座って煙草を一服 突然 手前の海上に 全身が真っ黒な鳥が降りて来て 沖に向かってスイーと泳ぐと ジャボン! 海中に潜ってしまった 長い首 あれは海鵜だろうか 魚を咥えて浮上して来るかな? 一分二分と待ったけど上がって来ない 五分経っても海は静かなままだ 対岸の桟橋にフェリーが着いた 白い鳥が視界を二度横切り 岸壁に繋がれた小型船の手摺りから 灰色の鳥が飛び立った もう十分近く経つ 諦めて近くのレストランに入った スマホで検索すると ウラジオストク沖の暗い海上に 魚を咥えた海鵜が浮かんでいた
首長竜 探り吹き ( 中国新聞 H28/1/25掲載) ちょっぴり 知らない街 キリギリス 散歩 或る日の光景 海鵜 耳鼻科の名医 幸福論 首長竜 子供の頃 ぼくは信じていた 何処か遠いところに 黒い湖があって そこには首長竜が棲んでいる (お父さん 黒い湖はどこにあるの?) ぼくが尋ねても お父さんは何も答えずに 毎日山へ働きに出て行った ぼくは地図帳を開いて 湖を見つけては黒く塗り潰した 霧に覆われた湖面から 首長竜が水飛沫を上げて首をもたげる そんな想像をして 夜になるとすぐに眠った 真夜中にふと目覚めると 窓から首長竜が覗いている なんだか寂しそうな眼 (お父さん ゆうべ首長竜がきたよ…
普通の空 受付 写真 街 日々に遅れて 会社をたたむ 遠雷 泥 普通の空 仕事場のドアを開けると 早く来て掃除をしている筈の君がいない 代わりに卵がひとつ床に転がっていた とうとう君は卵になってしまったのか 私には何も言ってくれなかった 淡いピンク色をした卵を 手のひらで包むと生あたたかい 君が見ている夢の温度なんだろう 私は軒下の燕の巣の中に 卵になった君をそっと置いた いつか君は雛になって 燕として成長して 今日とあまり代わり映えのしない 普通の空へ飛んで行くのだろう それが君の夢だったから その時が来れば やっぱり私は泣くのだろうか 空は普通の空なのに 受付 砂浜に受付のデスクが ぽつん…
天牛と島の少年 ( 国文祭京都2011入選作品) おとめ ( 国文祭おかやま2010 入選作品) 金柑 祖母の記憶( 県文祭2013広島市教育委員会賞) 夢 記 憶( 県文祭2012広島市長賞) 巡礼歌 グラウンド・ゼロ 友人 蛇 ( 国文祭あきた2014 入選作品) 病院 潮騒 シジミ蝶 ( 県文祭ひろしま2014入選作品) かなしみを知らない ぬるい風 天牛と島の少年 ( 国文祭京都2011入選作品) てんぎゅうをとりにいこう きみがそう言った夏休みに ぼくらは残忍なハンターになる もくもくと青空に湧く入道雲 稚魚の群れが回遊する島の海を ぼくらは毎日飽きるほど泳いだ 陸に上がって濡れた体…
プレリュード 石狩挽歌 風と共に去りぬ 春のキャンペーン 牛 奈落へ 夏祭り あんた誰? 九官鳥 THE WIND BEGAN TO HOWL ドキがむねむね リーマン 大相撲珈琲場所 こんなところで 九月の雨 赤トンボ 『 トントラワルドの物語』 プレリュード 爽やかな初夏の朝 コーヒーショップの窓の外では スズメ達が噴水に集まって 小さな翼をシャンプーしている 音大行きのバス乗り場では 客はバスの屋上に梯子で登り ピアノを楽譜初見で弾かないと 乗せて行ってもらえないそうだ ラヴェル先生が入試用に作曲した 『プレリュード』を上手く弾けない人は スズメの冠婚葬祭のための祝い歌や レクイエムを補…
しゅりけん マラソン大会 一輪車 なわ跳び 熱気球試乗会 1 2 3 しゅりけん じゅうじか? ううん かざぐるま? ううん なにかのかざり? ううん なに? しゅりけん チラシを丸めた細い棒を二つ 十字形に組み合わせて セロテープをぐるぐる巻いてある 逃げるぼくに向かって えいっ きみは思いっ切り 自作のしゅりけんを投げ付ける ピューッと飛び上がって とんでもない方向に落ちて行った ぼくがしゅりけんを拾うと きみは大パニック 逃げまどう小さな背中に狙いを定めて えいっ 春には元気な小学一年生になれ 十二月の公園の日暮れ時 お目当てのイルミネーションが 木々に灯り始めた マラソン大会 一年生と…
賛歌 プロミネンス 金属の目録 地の星 晩秋 鬼 遠く暗い街 あおい国 1 あおい国 2 発端 初夏 賛歌 ダダ漏れのDark Matter 鉛色の重力 街を歩いてもアスファルトに走る無数の亀裂 から滲み出てくる闇を見つめるだけだ ああ この皮膚がすべて剥がされても 感じているか? 動いている 動いてい る 闇の中を 蠢く者がいる おう 耳孔でウラン弾が爆ぜようとも 聴こえているか? 無限に遠く 無限 に近い 闇の中で 囁く者がいる 押し黙った孤独な獅子の心音を聴く どこか森閑とした場所で赤ん坊がむずがって いる 夜の木立の奥の 沈殿する闇の中に おまえは確かにいた 跳べ、戦慄へ、永い微睡みの…
CATFISH BLUES アバロン THE WIND BEGAN TO HOWL 遥かなるギターバトル CATFISH BLUES (おいらが鯰だったらいいのにな ディープ・ブルーの海を泳ぐんだ いい女はみんな おいらに釣り糸を垂れてくる おいらに釣り糸を垂れてくる) 作者不詳のキャットフィッシュ・ブルース。しょ うも無いことを歌っている。(鯰は淡水魚だし) でも、そのしょうも無さが好きなんだ。 (おいらが生まれる前のこと お袋が親父に言ったんだ 子供ができたよ たぶん男の子だよ どうせサノバガンになるだろうさ どうせサノバガンになるだろうさ ローリング・ストーンになるだろうさ) Son o…
(朝の森) トンネルを抜けると森に熱気球 十月の地に繋がれた熱気球 熱気球巨大坊主が起き上がる 熱気球深海クラゲの傘の色 熱気球プカリと浮かぶ朝の森 (地上から) 熱気球試乗待つ親大あくび 熱気球あっちの空に紙ヒコーキ 熱気球知らぬ親父に手を振られ ゴンドラに乗る子供らの歓声よ 熱気球ゴンドラの美女絶叫中 風よ吹け気球傾け叫べ美女 熱気球に乗るのは嫌だ? みーちゃん… 子は嫌よ親が乗りたい熱気球 料金の元を取るまで帰らんぞ 熱気球じわりじわりと影が這う 降ろしてもゴンドラ揺れる熱気球 (試乗体験) ごねる子を拝んで乗せる熱気球 繋留のロープをほどけ熱気球 熱気球ふわりみーちゃんが笑った 熱気球…
樹木 山桃の実のぶつぶつの舌ざわり 葛のつる川土手の樹を緊縛す 炎天や犬の尿に樹木立つ 昼の樹の葉叢の奥の星の夜 窓を叩き梢が夜を連れてきた 真夜中に性夢を覗く樹木かな 直立する銀河の星に樹木あり 海・岸壁・漁村 ずぶ濡れのダークマターの岸辺かな 風吹けば千変万化の海の皮膚 岸壁は地球の海を堰き止める 岸壁の童子かわはぎ釣りにけり きらきらと細魚釣られて白き手に 蝉の島ふりちんの童子泣き歩く 干し蛸や陽光に透く股七つ 干し蛸や漁村は火星の処刑場 インターネット 電網や大蛇は夜にとぐろ巻く 電網の古層を泳ぐ肺魚かな 電網を銀の細魚がすり抜ける 電網のどぶを飛び越え蠅がくる 関西弁(もう少し西の方…
頭痛 倦怠が成層圏から降ってきた うっすらと頭痛呑み込むパスタかな 氷床の軋む音する頭痛かな 頭痛飛び地球を巡り海に墜つ 雨 生まれ落ちて何回目の雨の日か 雨音のなか遠ざかる人も無し 誰の忌か雨の浜辺に閉じる貝 雨だれが月の巌に響いてる 雨だれは生まれてポタリすぐに死ぬ 雨だれとじゃれるピエロのオルゴール 雨だれと振り子時計とピエロの子 雨の日や海底を這うクラーケン 雨の日に蠅がぶつかる潜望鏡 雷雲や巨大な足が都市を踏む 雨上がり海星は月に弓を引く 梨食えばからだの中を雨が降る ポラリス 君の香に渦巻きほどく銀河かな 北斗七星の右心室で鳴る四弦琴 シリウスの左心室で打つDTM 行く春やポラリス…
幾つかの死と ストーンズの映画を観に行く 振り出しに戻った話 ニッケ飴奇譚 ツリー・アドベンチャーと、その他若干のこと 幾つかの死と かつて、入院療養中にこんなことがあった。 私は結核で入院していたが、呆れたことに、 肺の病気を患っているというのに煙草を止め ないのであった。更に呆れたことに、病棟に は私の同類が他に何人もいるのだった。 療養所の早い朝食を終えると、病棟の西の 出口に一人、二人と顔を出し、ある者は短い 階段に腰を下ろし、ある者は地べたにしゃが み込んで、食後の一服というわけだ。 ある朝、私はいつものように食事を済ませ て西の出口に向かった。階段に腰を下ろし、 ポケットから煙草を…
utanpola ( ゆたんぽら ♂ )。 拙い詩の倉庫。推敲・改作・詩集の編集。 (作品が増えて行けばいいのですが) 詩作の他、趣味は読書、音楽、アートの鑑賞など。 タテ書きのテーマを作ってくださった nitro_idiot さんに感謝! と、テスト的に詩を三つくらい書きこんだだけで、 その後二年近く放置。 2015.11月にせっかく作ったんだからと再開。 まあ、ぼちぼちやって行きます。
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