関西大改造2030 川又英紀ほか著・日経クロステック、日経アーキテクチュア編2024
今年4月13日に開幕する2025大阪万博パビリオンをはじめ、大阪駅うめきたのグラングリーン大阪、大阪市内の多くのオフィスやタワマンやホテルや集客施設開発、京都のホテルラッシュなどを詳しく紹介してくれる大型本。兵庫県は須磨の水族館と淡路島の座禅道場のみ。万博会場で目を引くのは全周2㎞の木造の円形リング。機能性(通路、日よけ、雨よけ)と象徴性という役割はわかるが、350億円を費やす価値があるのか疑問。しかも木材は海外から輸入したものだし、半年後に閉会した後の使途は決まっていないらしい。JR大阪駅北で進む大規模再開発「グラングリーン大阪」の一部が2024年9月に先行開業した。総事業費は6000億円。総面積9.1ha、半分は公園が占める。公園の他ノースタワーのイノベーション施設やホテルは開業。そのほか梅田や中之島...関西大改造2030川又英紀ほか著・日経クロステック、日経アーキテクチュア編2024
ウクライナ戦争が始まってからよく顔を見るロシアの軍事・安全保障の研究者。インターネットのおかげで情報を収集するのは容易になったが、膨大でフェイクも混じる情報を処理する装置を持つのは簡単ではない。2022年初頭にかけて、「ロシアはウクライナに侵攻するだろうか」という問いに、著者はいつも「非常に大規模な戦争を始められるだけの能力が整いつつある」と答えていた。実際に侵攻するかどうかはプーチンの頭の中のことなのであいまいだし断定できない。より外形的に把握しやすい能力に着目したのだ。しかし大戦争を確定できたのは開戦の3日前、ドンバスの親露派選挙地域を独立国家として承認したときだった。分析者のとって必要な情報には、⓵バックグラウンド(背景)情報、②コア(生)情報、③足で稼ぐ(体験的)情報の3種類がある。背景情報は間口...情報分析力小泉悠2024
江戸の面積の半分は大名屋敷が占め、屋敷内には池があって木が植えられた庭園がかなりを占めていた。城や武家地は主に台地上に構えられていた。町人地は低地に形成され、そこは物資が集散する水上交通の要所でもあった。その江戸の記憶は、明治維新と明治政府による都市改造、関東大震災、太平洋戦争の空襲、復興と高度成長、バブル期と最近の再開発により何度も大きく破壊された。だから現在の巨大都市東京には、一見すると江戸時代の建築や土木の遺産は少ないように感じられる。しかし実は、現代の道路や区画、濠や石垣などに江戸の遺構は意外なほど多く残っている。また、都心部にある官庁街や大学、大きな公園などの大規模土地利用の多くは、大名屋敷の跡地を利用したものだ。この本では、第1章で江戸城の内閣と外郭、第2章で大名屋敷の跡地と大名庭園、第3章で...東京で見つける江戸香原斗志2021
微細に入り組んだ凹凸地形や、大規模再開発や戦争での空爆、町の破壊行為でしかない都市計画道路建設などに対する頑強な自然の抵抗力であり続けた。だから、その細く曲がった坂道を街歩きすることで、太古の昔や江戸や明治、昭和の痕跡と出会い、私たちは今でも過去と対話できる。この本で著者は、東京都心南部の河川沿いを中心に7つの散策コースを設定し、7日間にわたって編集者らと街歩きをしている。第1日渋谷川筋2000年代に入ると東急資本を中心に巨大駅前再開発が進められている。東急は渋谷全体を空中都市化してもう一つの「大手町」にしようとしている。著者は渋谷の超高層化には批判的で、対照的な川筋を這って歩く。今、若者たちが集まる奥渋谷や裏渋谷、キャットストリートはいずれも川筋エリアだ。東横線渋谷駅(と線路)がなくなり新たにつくられた...東京裏返し都心・再開発編吉見俊哉2024
台湾を知るための72章 赤松美和子・若松大祐〔編著〕2022
台湾旅行計画中にて飛ばし読み国立故宮博物院1924年北京事変によりラストエンペラー愛新覚羅溥儀が北京の紫禁城を退去し、そこに清朝皇室が保有していた美術品は故宮博物院の所蔵としてされ、一般民衆に展示されることになった。蒋介石を指導者とする中華民国南京政府は、北伐による1928年の北京占領後この博物館を接収した。その後満州事変により北京に戦火が近づくと政府は故宮文物を上海、南京へと疎開させ、1937年日中戦争拡大により南京周辺にも危険が迫るとさらに西方へと移動した。戦後いったん南京に戻されたが、すぐに国共内戦が激化し、中国共産党に敗れた国民党政権は台湾に撤退するに当たり、故宮文物から名品を選りすぐって台湾に持ち込んだ。当初は小規模なギャラリーで展示されるのみだったが、1965年より台北郊外に建設された故宮博物...台湾を知るための72章赤松美和子・若松大祐〔編著〕2022
日本の都市百選第2集 稲垣・牛垣・小原・駒木・西山・山口編著
第2集では特番横浜6テーマの他、北は帯広から南は五島まで12都市を地理学者が紹介している。私はほとんどの都市を訪れたことがありある程度の知識を持っているつもりだったが、この本を読んで初めて知ったか再認識したこと、次に訪れる時に意識したいことをノートしておく。帯広市「北の屋台」は中心市街地活性化の成功例。1998年に火事で焼失した一条市場の跡地に、固定方式の電気ガス水道と移動式の屋台をドッキングした屋台の集合体をつくった。20の屋台は一律3坪の広さで3年の期限付きで入居している。福井市1945空襲と1948福井地震で壊滅した市街地のほぼ全体を556haの土地区画整理事業で整備、その後も行政主導の区画整理を積極的に行った。その結果、日本一道路や公園が整備された都市になったが、その負の側面として、市街地が広がり...日本の都市百選第2集稲垣・牛垣・小原・駒木・西山・山口編著
10年前の2014年に発表された増田レポートとそれを書籍化した『地方消滅』(中公新書)は、日本の深刻な少子高齢化問題を地方の自治体の人口減少問題にすり替え、地方自治体を空しいゼロサムゲームである移住促進競争に走らせ、少子化対策から目を背けさせた悪書だった、と私は認識している。その発表は大きな反響を呼び、2014年9月には内閣に地方創生担当大臣が新設され、翌15年には女性活躍推進法が成立、また同年には「希望出生率1.8」の実現を政府が目標として掲げた。しかし人口減少にはその後も歯止めはかからず、出生率はさらに低下し、東京への人口流入もコロナ感染拡大による一時的な緩和の後再び加速している。この本の序章では「このままでは地方消滅どころか日本消滅となりかねない」と、やっと事態を正面から認識している。その上で、第4...地方消滅2人口戦略会議編著2024
日本橋に始まり、品川宿から大津宿までの東海道53次と、伏見宿から守口宿までの4つの宿、終点の大阪高麗橋までの各宿場をそれぞれ2~4ページで解説した本。宿の由来に加え、東から西へと歩く旅人の視点で順を追ってその見どころが説明されている。ただし、宿場と宿場の途中の道筋についての記述はない。宿場町の中で東海道が幾度か折れ曲がり、遠回りになっている場合が少なくない。12沼津宿、19府中宿(静岡市)、26掛川宿、34吉田宿(豊橋市)、38岡崎宿、42桑名宿など。岡崎宿の場合、岡崎城主田中吉政が城下に東海道を引き込み、城の防衛力向上を図るため屈曲を多用した街道を整備し、それが道沿いの店舗数の増加にも寄与した、と本書にある。訪問したいいくつかの宿日坂宿:東海道三大難所の一つ、小夜の中山峠の近く。夜泣き石伝説のある久延寺...歩いて学ぶ東海道57次志田威2024
地中海クルーズ完全ガイド 喜多川リュウ+クルーズ向上委員会 2020
クルーズの手配は自分でやってみると意外と簡単だ。①航路の予約、②報復の飛行機の2つの予約をすれば、後は必要や希望に応じ乗船前後のホテルを予約するだけ。個人手配だと、添乗員の人件費その他が省かれるので、コストは団体ツアーの約半分になる。乗船前後に乗下船港で小旅行する人が多い。いくつかの寄港地、乗船地。パルマ・デ・マヨルカスペインの大きな島。港からシャトルバス10分で旧市街。世界遺産のパルマ大聖堂は400年かけて1601年に完成、20世紀の修復にはガウディも関わった。パルマ広場とマヨール広場に挟まれたエリアには小さなお店がぎっしり並ぶ。バールにたちよりタパスやビンチョスを注文し軽くワインを味わうのも楽しい。バルセロナ港からサグラダ・ファミリアまでタクシー20分。人気ポイントなので事前予約が望ましい。ガウディの...地中海クルーズ完全ガイド喜多川リュウ+クルーズ向上委員会2020
一度は行ってみたい「日本全国71の地形」を3D地図と写真でわかりやすく紹介。およそ現在の地形になった時期をメモしてみよう。洞爺湖:11万年前の大噴火で陥没しカルデラ形成。中島は5万年、有珠山は2万年前。十和田湖:約20万年前に十和田火山が活動を開始。約4.3万年~1.3万年の間に大規模な噴火を6回以上、火砕流を発生。その後のカルデラ内の噴火で中湖形成。三陸海岸:海水面が現在より150m低かった氷河期に谷地形ができ、1万年前からの温暖化に伴う海面上昇でリアス海岸になった。三陸北部にリアス海岸がないのは、断層が南北に走るため。男体山と中禅寺湖:男体山2.5万年前から1.3万年前まで続いた火山活動でできた成層火山。噴火活動初期に流れた溶岩流が川をせき止め中禅寺湖ができた。養老渓谷とチバニアン:養老川中流は約20...日本の地形図鑑高橋典嗣2024
この本を手に取ったのは、超少子高齢化の日本における、国土の中の中山間過疎地域からの居住や耕作の撤退、行き詰まった都市開発プロジェクトの処理、あるいは全国に8百万戸も存在する空き家の更地戻しといったことが論じられているだろうという期待からだった。めくってみると10人の執筆者による共著であるこの本は、私の期待よりも抽象的・思索的な記述が多く、求めていたものとは少しずれていた。第3章「国土政策から見た撤退的知性の必要性」全国総合開発計画を中心とする日本の国土政策は「国土の均衡ある発展」を基本理念としてきた。しかし、一全総(1962)が工業開発による地域間の所得均衡という本来の「国土の均衡ある発展」を目指したのに対し、新全総(1969)は早くも各地域特性に応じた発展を目指しており、21グランドデザイン(1998)...撤退学の可能性を問う堀田新五郎・林尚之〔編著〕2024
最近、アフリカの経済発展に関する本を読み、またアフリカ出身の優秀な人材に会って、私の心の中のアフリカに対するイメージが良い方向に振れていたが、この本を読んで逆方向に戻されてしまった。2014年から3年間、著者は新聞社の海外特派員としてアフリカ大陸に駐在した。彼がこの本で描いたアフリカは、人口が爆発し、人間の生と性、暴力と欲望が激しく入り乱れ、まさしく「沸騰大陸」そのもの。そこでの生活は日本のそれとはあまりにかけ離れている。南アフリカの日本人学校で著者の娘が最初に受けた授業は通学バスが襲撃された時の対処訓練だった。南アでは1年に19,000件殺人事件が発生するが、それでも隣国からすれば自国より10倍も稼げる「夢の国」なのだ。他のアフリカ諸国での彼が取材対象は、この本の文字からも目をそむけたくなるようなものの...沸騰大陸三浦英之2024
15分都市―人にやさしいコンパクトな街を求めて カルロス・モレノ 2024(原著は2020)
この本に描かれた「15分都市」の考え方はパリの左派市長イタルゴに採用され、パリでは15分都市づくりのための都市計画が進められているらしい。だからこの本を読み始めたが、とにかく読みにくい。過去の思想家や学者の著書の引用、国連の報告書の要旨、東京やパリやラゴスや珠江デルタの描写などが次々に現れる。第6章になってやっと「15分都市」の説明がされている。「15分都市」は、3つのアプローチ、クロノアーバニズム、クロノトピー、トポフィリー(場所への愛)から導き出した都市である。「15分都市」はまず、都市の中の時間の流れを変えること目的とする。都市に流れている時間を見直し、自分のための時間や家族との時間、近隣の人と共に過ごす時間を確保する。「15分都市」は一つの場所に複数の機能を持たせ、それぞれの機能も可能な限り新しい...15分都市―人にやさしいコンパクトな街を求めてカルロス・モレノ2024(原著は2020)
この本のタイトルは「東大教養学部が教える考える力」だけれど、「東大1・2年生に博報堂が教えるアイデアの出し方、まとめ方」の方が、正しく内容を表すだろう。この本でいう「考える」とは、研究したり真理を追究したりするころではなく、売れる商品、アイデアをつくるための情報収集、コンセプトづくり、人の心を動かすアウトプットの作り方だ。東大教養学部が教える考える力の鍛え方宮澤正憲
この本は、建築家の突拍子もない空想に都市や建築に一家言ある識者が悪乗りして一冊の本に仕立てたフィクションなのだろう。東京一極集中の問題点やデジタル化の遅れなど、周辺の議論は、識者の論考ゆえなるほどと思わせるところもある。しかし肝心の「動都の提案」が、実現可能性に説得力を持たせるために小さな首都にすることが発想の原点にあったためだろうが、首都というのはその範囲もスケールも小さすぎる。第1に、動都における移動人数を合計4500人と想定している。これは過去の国家等移転特別委員会の想定の10分の1以下であまりにも非現実的だ。国会議員713名に各スタッフ2人つける想定だからそれだけで約半分の2139人。衆参議員事務局及び行政・司法関連職員1000名程度としているが、現実には衆議院事務局だけで定員1600名だから、行...動都―動き続ける首都坂茂・光多長温・三宅理一
東京ミドル期シングルの衝撃―「一人」社会のゆくえ 宮本みち子・大江守之[編著]2024
既往研究では、ミドル期シングルの総体は明確なリスク集団ではないが、高齢化に到達したときに経済的困窮や社会的孤立に陥るリスクが高い可能性があるという点だ。シングルは既婚者より親への支援が上回り、特に女性は半数近くが親の介護を引き受けようとしている。日本の親密圏は親や兄弟の比重が大きい。西洋では多様な結婚やパートナー関係が中心で、国家がそれを家族と同等に保護しサービスを付与している。第2世代(1956~85生まれ)のミドル期の一番の特徴は未婚化で、2020年のシングル率は男31%、女23%で30年前の3倍。ミドル期シングルの人間関係は仕事関係が中心だ。地域社会との関係は希薄だが、多くのシングルたちは、煩わしいのでなければ地域での関係があってもよい、むしろあった方がいいかもともっている。男4割、女2割が人間関係...東京ミドル期シングルの衝撃―「一人」社会のゆくえ宮本みち子・大江守之[編著]2024
こんな本があったとは知らなかった。日本中の何百もの池を8つに分類し、一つ一つについてその地理的特徴、成因、人間との関わりを詳しく説明し、正確かつ可愛らしいイラストを加えている。8つの分類とは、島池、山池、里池、人造池、公園池、城池、町池、寺社池。この分類は成因とは一致せず、例えば島池の中には南大東島のカルスト池、利尻島の火口湖オタトマリ池、湾が砂州で塞がれた上甑島の海鼠池や友ヶ島の蛇ヶ池などが含まれる。冒頭に池と沼と湖の何が違うかの説明がある。池とは基本的には人の手でつくられたもの。しかし、霧島の大浪池(火口湖)や鳥取県の東郷池(潟湖)のように自然の湖でも池と呼ばれるものもあり、沼や湖と呼ばれるものの中にも人造のダム湖や人の手で改変されたものは多い。分類の定義と固有名詞の名称は必ずしも整合しないのだ。私が...日本全国池さんぽ市原千尋2019
日本の国際協力 アジア編 重田・太田・福島・藤田編著 2021
約30人の執筆者の多くは大学に所属し、日本の国際協力=ODAを外から見て現状と問題点を取り上げている人たち。序章日本は1989年に世界一のトップドナー国になったが、97年をピークに減少し4~5位にまで落ちた。経済不況に加え、国民のODAを見る目が一層厳しくなったため。日本のODAの4つの特徴⓵アジア重視戦後の賠償・準賠償により開始安全保障・外交上の国益を重視しながらアジア諸国との関係を構築②円借款中心(インフラ重視)一貫して自助努力を促し養成主義に基づく貸付型援助を重視、アジア諸国の経済成長に貢献⓷「人づくり」を重視し、得意とする技術協力を多くのアジア諸国に実施④1990年代までは量的拡大、2000年代以降は戦略援助・平和構築や質の高いインフラ投資日本のODAのかつての問題点・援助理念・哲学の欠如⇒ODA...日本の国際協力アジア編重田・太田・福島・藤田編著2021
この本は「北は北海道から南は沖縄まで、約3000㎞にわたって細長く伸びる日本列島を、路線バスで縦断」(「はじめに」の書き出し)した旅行記と思いきや、実はそうではなくてガイドブックだった。実際に著者はこの本に記載されている3000㎞をはるかに超えると思われるバス路線の多くに乗車しているようだ。しかしリアルな体験記的な記述は皆無。書かれていることは、バス路線の概要、乗車するバスターミナル、途中の経路、乗り換えターミナルなど。ときどき道の歴史、かつて走っていたローカル鉄道などが加わる。実用に徹しているかというとそうでもない。ダイヤや運行頻度の記述は最小限だから、この本だけに頼っては1つの路線に挑戦することも危険であり、ネットで最新の時刻表をチェックする必要があるだろう。この本が役立つ読者像は、路線バスを乗り継い...路線バスで日本縦断!宮武和多哉2023
著者の両親は長崎市に住み年齢は80代後半だ。彼らは長年暮らした郊外の丘の上の「絶景御殿」を手放し、中心市街地に新築されたマンションを購入し第三の人生を始めた。この本は、東京に住み頻繁に長崎に通って両親をサポートした娘の立場からその経緯をこと細かに描いている。・遺言書の書き方とその前提となる資産のリストアップ・売りにくい「絶景御殿」を売却するまでの不動産屋探し・引っ越しと家財道具の処分・ケアマネ、デイサービスなど新しい町で高齢者をサポートするプロの確保・新居の所有を母一人にすることとその資金計画・新居での新しい暮らしをストレスなくするための工夫等々。著者の両親は地方都市ではかなりの資産家と見える。そのため立派な絶景御殿の買い手を見つけるにも苦労をし(結果的にはやり手の不動産屋に巡り合い成功)、家財道具も価値...最後は住みたい街に暮らす―80代両親の家じまいと人生整理
昨年開業した宇都宮ライトレールを含め、日本全国19事業者が運航する路面電車を詳しく紹介する本。各事業者につき、概要、歴史、車両(一覧表含む)を淡々と真面目に説明している。路面電車の魅力大研究渡辺史絵2024
人口減少時代の再開発―[沈む街」と「浮かぶ街」 NHK取材班 2024
序章なぜ今、全国の都市で高層ビルによる再開発事業が進むのか高度成長期に建てられたビルなどが更新時期を迎えている。地震など防災上の観点。都市間競争に勝ち残るため。しかし、高層ビルやタワマンとセットになった再開発に対する反対や違和感を口にする人は多い。街が没個性になる。大災害でエレベータが停止したし断水したらどうなるのか。再開発事業は建物を高層化し保留床を売却することにより地権者の費用負担なしに新たな床を生み出す”魔法の杖”だ。しかし現実には合意形成のための脱法行為や工事費高騰による追加負担も発生している。第1章未曽有の再開発ラッシュから見える日本の今比較的ポテンシャルありそうな秋葉原、福岡天神、葛飾区立石。第2章全国各地で顕在化する”課題”新幹線開業の福井駅前の再開発。A街区はやや遅れたがホテルやフードホー...人口減少時代の再開発―[沈む街」と「浮かぶ街」NHK取材班2024
移動縁が変える地域社会―関係人口を超えて 敷田・森重・影山編著 2023
地方の定住人口の維持が無理であることが明白になり、交流人口、さらには関係人口という新語が生まれた。関係人口への期待も含め、よそ者効果を賛美し、期待する論調は多い。しかしよそ者効果は現在までのところ科学的に検証されていない。よそ者による変化は好ましい効果だけではない。地域に関わってくる「よそ者」すべてが地域との関係や地位への貢献を望んでいるわけではない。というのが第1章で示される執筆者たちの認識だ。第2章から第4章では、地域に関わる移動者を分類整理し、6つのケース(北海道釧路市、鹿児島県与論島、ふるさと納税者、北海道東川町、新潟市沼垂、福島県西会津町、鳥取県議会)における移動者を詳しく観察している。私としては、地方自治体が政策的に関係人口の増大に注力するべきか、中央政府がそれを支援するべきかについての見識を...移動縁が変える地域社会―関係人口を超えて敷田・森重・影山編著2023
新・東アジアの開発経済学 大野・櫻井・伊藤・大橋 2024 New・East Asian Development Economics Ohno, Sakurai, Ito, Ohashi
1997年に発刊された本が27年ぶりに全面書き直しされ、「新」を頭につけて刊行された。Thebook,originallypublishedin1997,hasbeencompletelyrewrittenandpublishedforthefirsttimein27years,with‘new’atthebeginning.開発政策論争1970年代半ば~80年代から、政府介入を少なくすることが経済成長のカギであるという思考が主流となった。それは新自由主義、ワシントンコンセンサスと呼ばれる。政策勧告はどこでも似通ったものとなり、マクロ安定化、経済自由化などだ。IMFや世銀はこれを「構造調整」という。これに対し、日韓中など東アジアの国々は、開発への政府の積極的関与は途上国政府の重要な役割であるとみなす。民間...新・東アジアの開発経済学大野・櫻井・伊藤・大橋2024New・EastAsianDevelopmentEconomicsOhno,Sakurai,Ito,Ohashi
カレー移民の謎―日本を制覇する「インネパ」 室橋裕和2024 ”The Mystery of Curry Immigrants”
在日ネパール人はこの10年で5倍に膨れ上がり今や15.6万人、その多くが「カレー移民」とその家族と考えられる。日本におけるインド料理専門店の歴史は、1949年銀座のナイル、1982年銀座のアショカ(今は新宿)、1978年六本木のモティなどで、それらのベースはムグライ(ムガール)料理だった。それらのインド料理店で多くのネパール人が働いていた。バブル期の90年代にコックのビザが緩和されると在留ネパール人が増加し、2000年代になると規制緩和で外国人でも会社をつくりやすくなりネパール人が自ら会社をつくり店を出す動きが高まった。今では日本にあるネパール人によるインド料理店の数は4~5000軒とも3000軒とも言われる。インネパカレー店の料理はネパールの料理とは異なるが、彼らは既存店の模倣をポリシーとしていたので、...カレー移民の謎―日本を制覇する「インネパ」室橋裕和2024”TheMysteryofCurryImmigrants”
世界でいちばん美味しい国、いちばん驚く国、いちばん高い国など、あとがきの日本を除き24のテーマ=国が登場する。私が過去に訪れたことがあるのは11の国。いちばん美味しい国=タイは私もリアルに行ってみたいが著者と違って辛い料理は苦手だ。本書によるとタイ料理といってもすべてが辛いわけではない。麵料理、ガパオライスなどを食べていればよさそうだ。中国には何度も行ったが最後が10年前なので、QRコードなどのスマホアプリ決済の準備をしていかなければならないだろう。本書には書いてないがgoogleやLINEも基本的には使えないので、Yahooメールかoutlookメール、検索は百度などを使う準備をしていかないと情報途絶の憂き目に遭いそうだ。いちばん探しの世界地図吉田友和2021
中国の不動産バブルはすでに崩壊した。30年前の日本のバブル崩壊は、基本的に市場の失敗だった。後処理の段階で政府が失敗を犯し、立ち直るのに時間がかかり、失われた30年を喫した。中国の不動産バブルとバブル崩壊は政府の失敗が引き起こしたものだ。不動産開発を経済成長のけん引役として位置づけた。土地の公有制を堅持し固定資産税はいまだ導入されていない。個人にとっての不動産投資は,一獲千金のゲームになった。中国では賃貸住宅が整備されていない。都市では公営住宅が整備されていない。民間の賃貸マーケットが大きく育っていない。法律の整備は進んでいるが執行がきちんと行われず、契約を一方的に破棄しても罪に問われないため、トラブルを恐れ貸し手も借り手もなかなか現れないためだ。住宅は商品化し、若者にとってマイホームはステータスシンボル...中国不動産バブル柯隆2024
第1章ではアルプス越えの景勝ルートや世界遺産を訪ねる鉄道、山岳鉄道など、ヨーロッパのお奨めの鉄道ルート13を紹介。第2章鉄道旅行入門では、列車の種類や設備、出発ホームの見つけ方や車内検札など鉄道旅行の基礎知識を伝授。第3章鉄道旅行計画では、旅行計画の立て方や列車スケジュールの調べ方、チケットの購入方法、トラブル対策など、鉄道旅行を計画する上で欠かせない基本情報を紹介。どの部分も、実際に鉄道旅行をした人でなければ書けない、リアルかつ実用的な知識に満ちている。それにしても、ウェブサイトで最新のユーレイルパスの料金を調べてみたら、諸物価が高騰しているにもかかわらず、ユーレイルパスの料金(€または$建て)は値上がりしていないようだ。ヨーロッパ鉄道の旅ダイヤモンド社2020
ウィーンの都市計画と映画「サウンド・オブ・ミュージック」に関する記述からノート19世紀後半、オーストリアハンガリー二重帝国は、多民族的構成を背景に独特な文化的発展がみられた。ウィーンの都市トラーセの成立に端を発し、世紀末には帝国の没落的傾向に反して華麗できらびやかな文化芸術活動が展開された。1850年代、経済的発展の時代を迎えたウィーンにとって、中世以来の城壁はむしろ障害となってきていた。1857年、皇帝フランツ・ヨーゼフは勅書を発して城壁の撤去と市民によるその跡地を認めた。跡地の利用に関しては、当初は軍部が発言力を握っていたが次第に市民階層は主導権を握っていった。まずオペラ座や美術史博物館、自然史博物館が建設された。その後、証券取引所、楽友協会、造形美術アカデミーなどの建設が続いた。さらに市民階層の力を...オーストリアの歴史増谷英樹・古田善文2023増補改訂版
オーストリアは、かつて名門ハプスブルク家の統治下、中央から東欧をまたぐ大帝国を形成していた。20世紀に入ると第一次大戦に敗れ帝国は崩壊、小国となったオーストリアは、一時はナチス・ドイツに吸収された。第二次大戦後、新生オーストリアは「永世中立国」として再スタートを切り、それは今も国民の支持を得ている。12世紀にオーストリア公国が誕生し首都がウィーンに移されたのが国としてのオーストリアの始まり。13世紀にハプスブルク家がオーストリアを領地とし、15世紀半ば以降はハプスブルク家が神聖ローマ帝国の帝位をほぼ独占した。ハプスブルク家は政略結婚により、イタリア半島、スペイン、ブルゴーニュ、ボヘミア、ハンガリーの王位継承権を得て支配地を拡大した。ハプスブルク家が支配するオーストリアは、近代ヨーロッパの大きな流れであった...一冊でわかるオーストリア史古田善文[監修]2023
刺激的なタイトル。著者は過疎地に生まれ育ち、福岡、東京、ボストン、海外周遊を経験し、いろいろな資格を持っている人で、過疎地域で12年暮らし、いろいろな仕事をしながらフィールドワークをしてきた。過疎問題の本を書くのはたいていは学者研究者、または国または地方の役所の人だから異色だ。著者は言う。過疎地域をめぐる研究のほとんどは、中央政府が進める地方創生や移住に終始し、「地方の人々に自主性を促し、活性化させるのが正しい道である」と結論する。しかし過疎地域の人々は慣れ親しんでいる現在の環境を変えたくない。過疎地域が持つ保守性と閉鎖性を私たちはもっと考慮し尊重する必要があるのではないか。著者のフィールドは鹿児島県大隅地域。曽於市は寂れていく一方だ。市役所企画課にインタビューしても対策がなくやりようがないと考えている。...田舎はいやらしい―地域活性化は本当に必要か?
東大地理部の「地図深読み」散歩 東京大学地文研究会地理部 2024
50年前と比べ、地文研は部員の数も巡検や合宿といった活動回数も桁違いに大きくなったようだ。あの頃は1年生も2年生も3人しかいなかった。1.文字が小さい。老眼の進んだ老人には、写真もその説明も、地理院地図ベースの巡検マップも小さくて読みにくい。もう一回り大きい版にしてほしかった。2.まとまりすぎている巡検コースの説明、要所要所の写真とその場所の地形的特徴や歴史の解説など、たいへんよくまとめられ、詳細に記述されている。しかしそれを逆に言うと、個々の執筆者の個性やこだわりがあまり感じられない。私としては、大学1・2年生が書いた本なのだから、志す専門分野の学術的観点から見た各訪問地の意義、個々人が持っているであろう鉄道や地形や歴史に関するオタク的こだわり、それぞれの執筆者の感性の発露・・・といったものを期待して読...東大地理部の「地図深読み」散歩東京大学地文研究会地理部2024
アニメは今や日本を代表する有名コンテンツであり、その経済波及効果も当然大きい。全国各地のアニメ聖地=作品の舞台や作者の出身地・居住地には多くのファンが訪れ、アニメツーリズムは観光学の重要な研究対象にまでなっている。この本はアニメ地域の歴史的展開と、全国88か所のアニメ地域についての百科事典的解説(地理院地図つき)からなる。アニメ聖地巡りを趣味にする人には便利この上ない一冊だろう。アニメ聖地には大きく、作品の舞台となった場所と作者の出身地や居住地という2タイプがあり、両方が重複する典型例が次の10作品・作者だそうだ。1クレヨンしんちゃんの春日部市、2ゲゲゲの鬼太郎の調布市と境港市、3サザエさんの福岡市西新と東京都世田谷区、4こち亀、5キャプテン翼の葛飾区、6ちびまる子ちゃんの清水市、7釣りキチ三平の横手市、...アニメ地域学奥野一生2023
なぜ「よそ者」とつながることが最強なのか 戸堂康之 2020 Why is it most powerful to connect with “outsiders”?
この本はCovid19の2020年に書かれたが、Covid19前からすでにアメリカと中国の経済的デカップリングが進行していたとしている。トランプ大統領は中国が不公正な貿易慣行を行っているとしてセーフガードを発動し、中国から輸入される太陽光発電パネルなどに追加関税をかけ、次に国家安全保障を根拠にファーウェイ社に対してアメリカ製品の輸出や技術移転を禁止した。反グローバル主義は、米中だけでなくイギリスのEU脱退をはじめ世界各国で見られる。Thebookwaswrittenin2020,theyearofCovid19,butitstatesthattheeconomicdecouplingoftheUSandChinawasalreadyunderwaybeforeCovid19.PresidentTrumpi...なぜ「よそ者」とつながることが最強なのか戸堂康之2020Whyisitmostpowerfultoconnectwith“outsiders”?
台湾、韓国、タイ、マレーシア、ラオス5か国の鉄道の利用方法から旅の魅力まで紹介した本。台湾の鉄道のうち嘉義を起点とする阿里山森林鉄路はスケールの大きい森林鉄道で、鉄道ファンのあこがれの一つ。台北近郊でお奨めれているのが平溪(ピンシー)線。台北からアクセスは約1時間、細い路地から列車が顔を出す十分老街、炭鉱の遺構、沿線の大半で秘境感を味わえる。韓国の鉄道は国鉄KORAIL3500㎞とソウルなど大都市の都市電鉄約1500㎞がある。鉄道の大半は左通行だが都市電鉄は一部右通行、直通運転する列車は途中駅で左右が入れ替わる。韓国一の秘境山岳路線は栄州から江陵を目指す嶺東線。タイの鉄道は、バンコクの都市電鉄を除き全線が非電化で冷房のない古い車両の窓を開け放って景色を眺めるという、昔ながらの汽車旅が日常風景になっている。...アジアの鉄道旅行入門植村誠2024
検証 能登半島地震 日経XTECH+日経アーキテクチュア+日経コンストラクション共同編集 2024
今年の元日、1月1日に起きた能登半島地震を徹底取材し、報じた記事をまとめて緊急出版した本。大判、総カラーの迫力満点の内容。印象的な点をノート。珠洲市を震源とするM7.6の地震、最大深度7。内灘町や新潟市の液状化発生地では、震源から遠くにもかかわらず不同沈下し建物が大きく傾いた。七尾市の免震構造の病院は無傷で救急診療を続けることができた。(トンネルは地震に強いと言われているが)国道249号大谷トンネル(珠洲市)や中屋トンネル(輪島市)では覆工コンクリートが大規模に崩落した。どちらも地滑り地形の範囲とかぶっており、地震動で地山が変異した影響を受けた可能性がある。直後の道路啓開(緊急復旧)がうまくいかなかったという批判報道が目立った。①元日の発災だったこと、②山地が多い地形で幹線道路がない、③東日本大震災と異な...検証能登半島地震日経XTECH+日経アーキテクチュア+日経コンストラクション共同編集2024
〘実践〙自治体まちづくり学—まちづくり人材の育成を目指して 上山・河上・伴 2024
東京特別区(江戸川区、墨田区、台東区)においてそれぞれまちづくりを実践してきた3人の著者が、これからのまちづくりに関わる人のためになることを願って自らの経験を取りまとめた本。「まちづくり」という言葉が広く使われるようになり、まちづくりに関心を持つ自治体職員は多くなった。しかし公務員に「まちづくり」という職種はなく、どう仕事を進めればいいのかわからない場合が多い。この本の著者たちも最初は迷ったり叱責されたりしたことが正直に記されている。著者らの取り組みが実を結び、この20年くらいの間に、都心の東側の下町地域で多くの事業が動いてきたことを改めて実感する。・谷中地区の再生と密集市街地整備・東京スカイツリーとまちづくりグランドデザイン・京島地区の住環境整備なかには、動いた実感のない事業もあった。第1章で示されたま...〘実践〙自治体まちづくり学—まちづくり人材の育成を目指して上山・河上・伴2024
建築の素人にとっては、縦書きの文章と白黒の挿入写真からなるこの新書本を読んで、リアルの建築物の形態やそれがつくる空間を思い浮かべ、著者の言葉を実感を伴って理解することは難しいと思った。この本には、多くの日本人建築家、日本に影響を与え日本から影響を受けた海外の建築家が(ライト、ブルーノ・タウトら)が登場する。「モダニズム建築という新様式は、日本と工業的脱色が遭遇したところから誕生した」(p51)、「印象派が日本の浮世絵に触発されて~絵画の世界に大きな革命を起こしたのと同じような大きな渦が、日本とライトとの邂逅を菊花にして回転をはじめ、世界を大きく動かし始めた」(p43)とまで書かれている。一番わかりやすかったことは、最終章で述べられている著者自身の遍歴。1986年のバブルに沸き立つ東京で自分の設計事務所を開...日本の建築隈研吾2023
スマート・イナフ・シティ—テクノロジーは都市の未来を取り戻すために ベン・グリーン2022
本書は、なぜテクノロジーを都市に応用すると悪い結果になることが多いのか、そしてテクノロジーがより公正で公平な未来をつくるために、我々が何をしなければならないかについて書かれている。従来のインフラと情報通信技術を統合したスマート・シティはユートピア的なものとして提示されるが、実際には都市を技術的な問題として劇的かつ近視眼的に再定義することを意味している。このような視点から都市生活の基盤や自治体のガバナンスを再構築すれば、表面的にはスマートであっても、その下では不正や不公平が蔓延する都市を生んでしまう。自動車がダウンタウンを支配し、歩行者は追い払われる、市民の政治参加はアプリを通じた改善要求に限定、警察がアルゴリズムを使って人種差別、政府や企業が公共空間を監視して行動をコントロールする…(p17)。7スマート...スマート・イナフ・シティ—テクノロジーは都市の未来を取り戻すためにベン・グリーン2022
地理の教科書も執筆している阪大の先生が、新しく高校の必修科目となった地理総合の解説書として書いた本。地理総合は系統地理を柱としてつくられており、それは「世界の成り立ちをロジカルに理解する」地理的思考力を重視することの表れだ。受験では地理総合とその土台の上の地理探求をあわせた科目選択になるだろう、とのこと。著者は文化地理が専門らしく、そのためか食文化や農業の話が比較的多く、なるほどと思わせる箇所も多い。自然地理や経済地理の話は比較的少なく、わりと一般的、常識的な記述にとどまっている印象。もちろんこれは高校生の予習復習、試験対策のための本だから、奇をてらわないのは当然だ。乾燥帯の農業は乾燥と戦い、湿潤地帯の農業は雑草と戦う。北緯35度線を境に、高緯度帯では食べ物を干したり塩漬けにしたりして備蓄する文化が育つ。...大学の先生の学ぶ初めての地理総合佐藤廉也
特に目新しいことがこの本に書かれているわけでもない。私自身が日ごろつぶやいていることと共通することも多い。にもかかわらず、これほど読んでいて不愉快になる本も少ない。日本という国と日本人の弱みを容赦なく攻撃されているからだろう。著者の意見の全てに同意するわけではないが、否定できない指摘事項=日本の問題点のいくつかをノートする。総論では日本人は本当の自由を知らず、制度をひたすら守り、過剰に働き、苦痛を忍び、権威や因襲に服従することを良しとしているかのようである。「予定調和」と「現状維持」が個人の自由や幸福を犠牲にしている。各論では日本人の英語力はアジアでも下位だ。外交官でも英語を自在に操れる人は少なく、カジュアルなパーティでのスピーチですら原稿を顔を上げず棒読みする。英語が下手でメンタルも弱いため、反論すべき...日本人という呪縛—国際化に対応できない特殊国家
限界分譲地—繰り返される野放図な商法と開発秘話 吉川祐介2024
『限界ニュータウン』の著者による続編。前著ではあまり触れられていなかった(と記憶している)都市計画法に関する記述が第1章でちゃんとなされている。限界分譲地は、その立地よりも自治体の開発規制に左右される面が大きい。1968年に都市計画法が制定されたが、その後に限界分譲地となった土地は都市計画区域外または非線引きに区分けされたため、規制は緩く、地価は安く、許可不要で開発できる面積規模も広かった。自治体の担当部署にも開発許可申請の記録が残されていないケースがほとんどだ。(注:当時、首都圏整備法により近郊整備地帯に指定された成田市、酒々井町、佐倉市以西は線引きが行われ、市街化調整区域での開発は厳しく規制されたが、本書の主対象となる八街町、山武町、大栄町などは区域外だった。その後列島改造などでそうした地域にも開発の...限界分譲地—繰り返される野放図な商法と開発秘話吉川祐介2024
いわば「じゃない方」の神奈川とも言われる相模地域、具体的には相模原、海老名、厚木、座間、大和それに東京都の町田を対象として、「何か」を見出そうと試みた本。相模地域は、国道16号線の郊外空間であり、一般的には「地域の独自性が失われた均質的な郊外空間」、「何もない郊外」という評価がされがちだ。・多くが相模野台地上にあるため水利に恵まれず、長らく原野が残り、開墾される余地を残してきた。農家の女たちは畑までの坂の上り下りや、深井戸からの水くみに苦労した。・戦前から軍の施設が多く、大戦中は首都防衛の拠点が置かれ、現在も多くの米軍施設が位置している。・高度成長期からバブル期にかけて、官民の住宅開発が活発に行われて人口が急増した。現在その郊外住宅地には高齢化の波が押し寄せ、活況が失われ、再生が試みられている。・相模大野...大学的相模ガイド—こだわりの歩き方塚田修一編2022
財政・金融政策の転換点—日本経済の再生プラン 飯田泰之 2023中公新書
経済カテゴリの本は結構読んでいたつもりだが、経済学の本を読んでノートを書くのは久しぶり。経済学の復習と最近の金融政策に関する知識のアップデートのためにと思ってこの本を購入し、読み進んだ。ブキャナンの新正統派批判とかモディリアニとか、50年近く前に学習したことを懐かしく思い出した。しかし、読み進めていくうちに、この本はリフレ派と言われる著者の主張が込められていることがわかってきた。(第3章)日本の財政が破綻する可能性は低い。国債金利rよりも経済成長率(名目)gが高ければ財政は破綻しない(修正ドーマー条件)。2013以降コロナを除いて日本は〇。途上国などでは突然の金利上昇(=債券価格下落)発生が起こり得るが政府日銀の対応で。(※財務省はr≒gを前提にプライマリーバランスの黒字化=政府債務残高/GDPの引き下げ...財政・金融政策の転換点—日本経済の再生プラン飯田泰之2023中公新書
この本は、インドの多様な地域特性に始まり、政治情勢、モディ政権化のインド経済、主要財閥と産業、貧困と環境問題、外交、日印関係までを幅広く解説している。インドに関する日ごろの疑問1独立後、インド経済はなぜ長らく停滞し、なぜ近年急成長しているのか?独立から1996まで国民議会派がほぼ政権を握り、インディラ・ガンジー首相などが非効率な社会主義的慶経済運営を推し進めたことから、東・東南アジアとは対照的に経済は停滞した。1991年に経済自由化に着手し、貿易自由化、関税引き下げ、輸出振興策が採られて経済は上向き、2003年にはBRCsの一つに挙げられるなど高い経済成長を記録した。2010年代には調整局面を迎えたが、2014年総選挙のBJPインド人民党勝利とモディ首相就任以後高い経済成長率を示し、その後コロナ禍があった...インドーグローバル・サウスの超大国2023中公新書
京都大学名誉教授である経済学者が書いたかなり厳しめの京都経済論。内容は多岐にわたり、博学であるとともに経済学の分析力を縦横に使っていて気持ちがよい。こういう本は無理でもこのような論文を書いてみたいと思わせる。通説では京都は伝統産業が残る一方、オムロン、島津、村田製作所など新産業も育ち、しかも市内に本社がとどまっていて、褒められることが多い。しかし本書によると伝統産業は孤立し、新規企業は個別の努力で発展し、地理的にも離れている。京都の町衆は基本的に中小自営業者であり、その利害は近代化の中でしばしば市場の論理と対立した。京都経済は都市全体しての成長の源泉がなく、銀行も現在まで育っていない。だから銀行や商社に育てられて大きくなった企業がない。最近の京都は政令都市の中で事業所の開業率が最低で新規事業所の雇用創出が...京都―未完の産業都市のゆくえ有賀健2023新潮選書
序章日本は大豆の94%、うち食品用(飼料用などを除く)の80%を輸入している。輸送費用を考慮しても輸入大豆の価格は国産大豆の約半分。大豆の輸送はばら積み輸送とコンテナ輸送があり、ばら積みの方が運賃は安いものの、非遺伝子組み換え大豆にこだわる日本はコンテナ輸送を多く利用している。第1章過去28年(1990~2018)で世界のGDPは3.6倍に増大し、海上輸送(重量ベース)は2.8倍に伸長、うちコンテナ比率は15.7%(80年代の3倍)に拡大した。コンテナ輸送ネットワークの広がりが生産拠点の分散、グローバルサプライチェーンの確立を促した。コンテナ輸送は今後の生産・販売の先行指標だ。第2章世界のコンテナ輸送の二大基幹航路はアジア北米とアジア欧州。アジアで生産された消費財や中間財が欧米に運ばれ、その3分の2は中国...コンテナから読む世界経済松田琢磨2023
日経大予測2024これからの日本の論点 日本経済新聞社編 2023
論点5見えてきた日銀・異次元緩和解体の姿異次元緩和には3つの主な構成要素がある。第1は金利コントロールで、長期は10年国債利回り、短期は日銀当座預金の一部金利。第2は資金供給量の拡大方針による量的緩和、第3はETFなどリスク資産の買い入れ。第1は2%物価目標の持続的な実現が見通せたら終わりを検討しそう。第2はよりハードル高いと考えられてきたが、CPI上昇は続いていおり、分からなくなってきた。第3は既に購入を大幅に減らし、既に出口政策が動き出しているとも言える。長期金利の操作という異例の政策には副作用が多い。植田総裁は24年秋ごろまでに過去に金融政策のレビューを行うとしており、その時期にはより持続性の高い枠組みに変える可能性がある。日経大予測2024これからの日本の論点日本経済新聞社編2023
日本の都市百選第1集 牛垣・稲垣・小原・駒木・西山・山口 2023
月刊誌『地理』に連載されていた地理学者による都市の魅力や特徴、歴史や課題についての記事を単行本にしたシリーズの第1集。6人の地理学者による17都市、18記事(大阪のみ2つ)が掲載されている。一つひとつの記事はそれぞれに面白いのだが、残念なことに、思い思いの各論、ケーススタディがならんでいるだけで、総論とか体系に当たるものがない。学者・研究者が集まってシリーズ本をつくるのだから、今からでもせめて分類整理くらいはしてくれることを期待したい。もう一つは、いかにも地理学者らしいとも言えるが、都市を自然現象のように観察していて、都市計画をはじめとする政策やその影響、市民によるまちづくり活動などに関する記述が、ゼロではない(例えば豊橋市、徳島市)もののかなり少ない印象を受けた。地理学者が、都市や地域を研究対象にしなが...日本の都市百選第1集牛垣・稲垣・小原・駒木・西山・山口2023
敗者としての東京—巨大都市の隠れた地層を読む 吉見俊哉 2023
古代から戦後の時代まで、東京にまつわるいろいろなことが書いてある興味をそそった、東京の地誌に関する記述の要旨をノートする。◇寺と神社幕府成立から100年の18世紀初頭に、江戸には1800もの寺院があった。寺院は宗教的な機関であると同時に庶民が学習する文化機関であり、幕府が死者を管理する機関でもあった。寺院は宗派ごとに組織化され、人々は宗旨と檀那寺を定め、出生婚姻死亡の際に檀那寺から証明書をもらわねばならなくなった。参勤交代により江戸に住む大名や家来のために全国諸大名それぞれに国元の寺院の分室が江戸に建てられ、その結果1800にもなった。城の拡張や新たな武家の開発の度に、寺院は周辺へと移動させられた。西本願寺は日本橋から築地へ、東本願寺は神田から浅草へと移され、広くなった。寺院は檀家として武家との関係が深く...敗者としての東京—巨大都市の隠れた地層を読む吉見俊哉2023
「地方国立大学」の時代—2020年に何が起こるのか 木村誠 2020
第3章や第4章に書かれている広島大学をはじめとする地方大学の新しい取り組みの紹介と今後の期待がこの本の主眼なのだろう。しかし、私は地域と大学を考えるための基礎知識を得るためにこの本を手に取ったので、第1章と第2章から気になった点をノートする。平成の30年間で18歳人口は200万人超から120万人弱まで減った。出生数は平成の間に24%減ったから18歳人口が今後減少することは確実だ。大学入学者数の母体が減少するとわかっているのに大学は増加している。大学進学率は2018年頃にはっきり横這い傾向になった。私立大学の4割が入学定員割れになっている。にもかかわらず、文科省はこの30年間大学の新設を次々と認可してきた。平成初期は公立大学の開学が目立ち、交付金も総務省の管轄だったため文科省の設立認可は甘かった。昭和後期に...「地方国立大学」の時代—2020年に何が起こるのか木村誠2020
沖縄市の地質は、読谷村(南から1/3くらい)付近を境に南北で全く異なる。北部の地層は琉球列島がまだ大陸の縁辺部にあったころの4000万年以前に形成された付加体で西側ほど古い。沖縄島最高峰與那覇岳503mも北部の国頭村にある。南部は海底に泥や砂が堆積して形成された島尻層群と、琉球石灰岩が厚く堆積する琉球層群の2つの地層群で構成される。ゆいレールは2003年に開業した跨座式モノレール。2両編成の愛らしい車両が那覇空港を起点に全長17kmを40分で結ぶ。渋滞がなく定時運行可能なことから好評で成功を収めた。沖縄の歴史。14世紀には北山、中山、南山の3つの王国が成立しそれぞれが明の皇帝に朝貢していた。15世紀には南部の尚氏が三山を統一し琉球王国を誕生させ、その拠点として首里城を築いた。尚巴志は明や日本、さらにスマト...沖縄のトリセツ昭文社2021
著者はこの本で、都市と農村が良好な関係であるために、そこに向かって社会のシステムを変えていく方法を考えるための、地理的な、時間的な、そして思索の旅をしている。著者はいろいろな文書資料を調べ、日本やイタリアの農村を訪れている。・景観法、農水省美の里プラン21・EUの共通農業政策CAP、農村振興のための国家戦略計画PSN、伝統的農産物保障TSG、・イタリアのワインと郷土料理とお祭り、アグリツーリズモ法、オッソラ地方の石積みの集落・能登丼、日之影町の棚田、那賀町の木頭ゆず酢・日本の農泊、農林水産物地理的表示保護制度GI認証、・日本の農業基本法、1960~70年代の経済計画、新全総、過疎法、中山間地域直接支払制度、・流通の大規模化効率化、全国広域市場体系著者の思いが感じられる箇所をいくつか抜き出してみる・(棚田地...風景をつくるごはん真田純子2023
ぶらりユーラシア—列車を乗り継ぎ大陸横断、72歳一人旅 大木茂 2021
旅の途中に72歳になったベビーブーマーの鉄道旅日記。2019年8月20日~11月12日に、ロシア、サハリンから中国、カザフスタン、イラン、トルコ、ブルガリア、イタリアを経てポルトガルまで列車を乗り継いで旅をした。いかにもあの世代らしいクセはスキップして読んだ。主な国境越えの様子〇ロシアから中国へハバロフスク発ウラジオストク行きの夜行列車を朝6時台にウスリースㇰで降り、バスで国境の町グロデコボへ。鉄道駅で中国黒竜江省の綏芬河への17時43分発列車の切符を1400円で購入。中国人団体客をかき分け、税関を通過し列車の座席にたどり着く。1時間で着いた綏芬河駅では警察官質問と入国審査、無事入国し駅前のホテルに予約なしで投宿。〇中国からカザフスタンへウルムチ→アルマトゥイの週一運行の国際列車は旅行社頼みでチケット予約...ぶらりユーラシア—列車を乗り継ぎ大陸横断、72歳一人旅大木茂2021
宮崎県の特徴として、国づくり神話や古墳時代は華やかだがその後の歴史が日本史からほとんど消えていたこと、何もないところに県庁が置かれ宮崎市になったことの2つが挙げられると思っていた。そのあたりをこの本で調べてみた。古事記と日本書紀には、天照大御神の孫のニニギノミコトが日向の高千穂に降臨したとあることから、宮崎県は天孫降臨の地とされる。ニニギノミコトの3代子孫が神武天皇で、45歳のときに美々津港から東遷を開始し、瀬戸内海を進みやがて奈良盆地畝傍山麓で初代天皇に即位する。現存する西都原古墳群は九州でも最大規模の古墳群で、ヤマト王権とも関係するらしい。日向の国は7世紀末に成立し、薩摩と大隅はその後日向国から分離独立した。その後、日向国は表舞台から姿を消し、室町から戦国には伊東氏が勢力を拡大するが薩摩の島津氏に負け...宮崎のトリセツ—地図で読み解く初耳秘話2022
「経済成長」の起源―豊かな国、停滞する国、貧しい国 マーク・コヤマ、ジャレド・ルービン
著者の一人は日系らしき名前だけれども、期待に反してこの本は欧米的な視点で書かれている。第1部では経済成長の条件として、地理、制度、文化、人口、植民地についてそれぞれ一つの章を設定して論じている。「研究者たちは、大半のイスラム社会の特徴である政治と宗教の混在と、イスラム法への固執が中東の経済成長の可能性を大きく制限してきたと示唆する。中東にうかがえる経済の停滞と政情不安は、イスラム教が権力エリートたちによって道具化されてしなった副産物なのだ。これは必ずしもイスラム教に限ったことではなく、キリスト教などほかの宗教も同じように手段として利用されてきた。」第2部では、北西ヨーロッパ、産業革命、工業化の3つの章で欧米露の経済成長を論じた後、第10章後発国で日本、東アジア四虎、中国の経済成長と、インドやアフリカが貧し...「経済成長」の起源―豊かな国、停滞する国、貧しい国マーク・コヤマ、ジャレド・ルービン
司馬遼太郎の本でちゃんと読んだものと言えば、週刊誌に連載されていた「街道をゆく」シリーズの他は、「菜の花の沖」「空海の風景」くらいだろうか。ずいぶん昔のことで本も手元にないからよく覚えていないけれども。司馬遼太郎の本の印象というと、小説とエッセイと歴史書と旅行記が一緒になったような本で、具体的でわかりやすくて面白く、旅心を誘ってくれる。空海の風景善通寺、満濃池、西安(長安)、高野山、京都東寺菜の花の沖淡路島五色、函館、クナシリ島司馬遼太郎の現在地Ⅱ「宗教旅国家文明」2023
日本列島も千島列島もアリューシャン列島も南西諸島も、西太平洋の島々の列は太平洋に向かって膨らんだカーブに沿って並ぶ弧状列島だ。その先には深い海溝があり、島々には火山が多い。第1章がこのような記述から始まるから、当然弧状列島の成因の説明があることを期待させる。ところが、その説明がない。「これは地球が球体であること関係します。ピンポン玉に圧力をかけて凹ませるとそのふちが弓なりになります。」凹ませるような強大な力は「その下がプレートの沈み込み体であることがその要因と考えられています。」「なぜ沈み込むのか、実はまだよくわかっていないことも多いのです。」著者は地球物理学者ではなくて地理学者だから、期待したのが間違いだったらしい。日本列島の「でこぼこ」風景を読む鈴木武比古2021
鉄道と愛国―中国・アジア3万キロを列車で旅して考えた 𠮷岡桂子 2023
第1部「海を渡る新幹線」では中国の高速鉄道を、第2部ではアジア各国の鉄道計画、日本の新幹線売り込み、日中の競争などをわかりやすく記述している。タイのバンコクと700㎞離れたチェンマイを結ぶ新幹線計画はぴくりともしない。在来線は空いている。飛行機や長距離バスが頻繁に往来し、格安航空なら数千円だ。日本企業幹部は「採算がとれない」とあっさり言う。タイ側は運営会社を両国で出資することを期待するが、日本の民間企業がそんなリスクをとれるわけがない。新幹線輸出に前のめりな日本政府が絵を描きたかったのだろう。ジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道計画は、日本の深いかかわりに反して、ジョコ大統領は中国を選んでしまった。中国はインドネシア政府に保証を求めず2019年開業を約束した。日本は財政負担なしは難しいと考え、開業時期も土地...鉄道と愛国―中国・アジア3万キロを列車で旅して考えた𠮷岡桂子2023
旅行の世界史―人類はどのように旅をしてきたのか 森貴史 2023
辞書によると、旅または旅行とは「住んでいる所を離れて、よその土地を訪ねること」だから間違いではない。しかし、この本は日本語で言えば、遠征、巡礼、探検、航海、登山、留学、団体旅行、観光旅行、ドライブ、宇宙旅行まで扱っていて、カバー範囲が広すぎるように思えた。その一方で世界史といっても対象はヨーロッパ世界にほぼ限定されている。近代ツーリズムの祖と言われるトマス・クックは、1841年に最初の団体旅行をプロデュースした。それは英国内の貸し切り列車での日帰り旅行だったが、参加者は約500人いたらしい。クックはしだいに距離や日数を伸ばしたが、スコットランドの鉄道会社が自ら旅行を企画すると、ついてヨーロッパ大陸への団体旅行を構想した。1872年にはクックは222日間の世界一周ツアーを企画し、なんと文明開化を推進していた...旅行の世界史―人類はどのように旅をしてきたのか森貴史2023
経済学者による鉱山の旅。筑摩書房の『ちくま』に連載した27回の旅の文書をまとめたもの。7佐渡を例にその構成を見てみる。書き出しは承久の変で敗れ佐渡に島流しになった順徳上皇をはじめ、世阿弥、日蓮など中世以前に佐渡流刑となった人物。次いで近世以降金銀山が発見され、相川が栄華を極めたことが記される。佐渡汽船で両津港に着いた著者は、名物のカキフライ定食を食し、北一輝の寺を訪れ、次に佐渡に密度高くある寺社のうち、日蓮ゆかりの妙宣寺で日蓮の宗教的情熱を考える。徳川幕府創業期には大久保長安が佐渡奉行として鉱山を管理し幕府の財政と地方産業振興に功績を残した。世阿弥が佐渡に流された証拠となる歴史書を引用したり、金銀山の研究文献『佐渡金銀山の史的研究』から採掘の歴史や精錬技術を取り出し記している。佐渡への同行者がいたのか、佐...地霊を訪ねる—もう一つの日本近代史猪木武徳2023
図説世界の地域問題100 漆原+藤塚+松山+大西 編2021
たまたま手に取った2冊の本から一般論的な批評をするのは必ずしも良いこととは思わないが、それでもしたくなった。図書館で見つけたタイトルの本では日本の地理学の先生たちが世界の100の地域問題を1テーマ見開き2ページで解説している。目次はアジア、アフリカなど地域によってグループ化され、各テーマはあくまで個別具体の説明に終始している。地球温暖化とヨーロッパアルプスのスキー場、中国のゴミ問題、子どもの貧困の地域差など。ふつう、学問というものは、スタートは好奇心に駆られた各論であっても、分類化、体系化、理論化し、それによって得た武器を用いて再び各論に入っていくものだと思う。日本の地理学は各論に始まり各論に終わっているように思われる。もう一つの本は、「地図とデータで見る現代都市の世界ハンドブック」というフランスの地理学...図説世界の地域問題100漆原+藤塚+松山+大西編2021
昨年出版された本。しかし著者が実際にチベット、ラダック、カシミール、バーミヤン、パンジャーブ、その他聞きなれないインダス上流の地を訪ね歩いたのは2005年とか2007年とか2003年のこと。各地を訪れた時期がそれぞれいつのことなのか、本文を読んでもはっきりしない。それがこの本最大の欠点。チベットで著者はカン・リンポチェ(標高6656mの聖山)を巡礼し、鳥葬の現場を目撃した。2007年にはほとんど制約のない自由な旅行ができた。今はあらかじめ旅行代理店通して日程を組み、漢族のガイドを必ずつけなくてはならない。カシミールはインドとパキスタンが領有を争う係争地であり、うち5分の2をパキスタンが実効支配し、アサド・カシミールと呼ばれている。2005年10月、パキスタン北部地震では8万人が死亡し400万人が家屋を失っ...大インダス世界への旅船尾修2022
JICA×SDGs国際協力で「サステナブルな世界」へ 2023
20の分野ごとにJICAの国際協力の活動が紹介されている。ソフトの事業と行政公務員の能力向上に関する事業についてノートする。目に見えるインフラ建設やモノの提供と比較し理解を得るのに時間がかかることがある。成果は必ずしも目に見える明確なものにはなっていないように読めるものもある。モンゴル、ウランバートル都市計画旧社会主義国であり行政側が開発に当たり住民意見を取り入れるという発想がなかった。そこで都市マスタープランは住民参加型の発想をベースにつくることとし、住環境改善事業候補エリアではタウンミーティングを開き住民意見を政策に反映されるようにした。ゲルに住む元遊牧民が都市生活のルールを学ぶワークショップを開いた。インドネシアの土地制度の改善に協力土地収用や土地の評価の法制度が不十分で未登記の土地や境界不明土地、...JICA×SDGs国際協力で「サステナブルな世界」へ2023
東京の美しいドボク鑑賞術 北河+小野田+紅林+高柳 2023
東京都内にある全部で62の土木遺産の鑑賞術。新しそうなのはビルになっちゃった宮下公園(2020)、恐竜橋こと東京ゲートブリッジ(2012)、大橋ジャンクション(2010)など。古いものでは羽村のまいまいず井戸(鎌倉時代)、江戸城石垣(江戸時代)、玉川上水(1653)など。明治から昭和にかけてのものが最も多そうだ。東京ゲートブリッジのトラスボックス複合構造という世界唯一の形は、航路のため橋桁を50m以上の高さにすることと、羽田空港に近く空域制限のため100m以上の塔は建設できないという制約のため。東京スカイツリー(2012)は用地の狭さゆえ東京タワーのような4本脚の基礎を構築できなかったため、3つの柱で支えられ、地上は五重塔の技術を応用した「心柱」を中央部に配置し、地震による揺れを抑制している。大橋ジャンク...東京の美しいドボク鑑賞術北河+小野田+紅林+高柳2023
1964東京五輪直前の東京を活写した開高健『ずばり東京』にならい、2020五輪前夜の狂騒から感染症不安へ急転回した東京を取材・記録した本。私はむしろ、今の東京をつくった1960年代の都市開発のスケッチとして、この本を読んだ。空路で羽田に着いた人たちや選手の移動を素早く確実にするために、首都高速道路は、公有地(川、道路、公園)の上の空間を選んで建設された。人呼んで「空中作戦」。その日本橋上空を覆う道路を地下に付け替える事業が、2014年の首都高速更新計画に盛り込まれた。その準備である困難な調整作業が2020年を目途に進められている。今では想像しにくい話だが、東海道新幹線計画は極めて不人気であり、国鉄内部でも島技師長直系を除けば反対派が多数だった。それが東京五輪成功のためという大義とセットで誰にも支持されるよ...ずばり東京2020武田徹2020
この著者のことは知らなかった。この本には経済学部⇒外資コンサル出身らしいところと、らしくないところの両方がある。らしいところは、数字で示していること。虎麻メインタワー325mがもたらす周囲への圧迫感を地価下落効果で示し、268億円と算定している。らしくないところは、都市再生以来の自民党政権下での都市政策にかなり批判的であること。オリンピックはコミケと同じ私的事業であり国や都が財政負担する意義はない。大会施設は負の遺産となる。風致地区として景観保全されてきた外苑地区が新国立競技場の費用捻出のため規制緩和され高層ビルが建つ。1.戦後木造戸建てが主流になった理由は?戦災と人口急増による住宅不足。鉄やセメントは産業用に配分し木材を住宅建築に。財産税と持ち家政策。都市計画の不在。2.なぜ木造住宅密集地域が広がったま...自滅する大都市—制度を紐解き解法を示す織山和久2021
アフリカに関する情報が凝縮された本。印象に残ったことをノートする。1980~90年代、アフリカは「絶望」の大陸だった。人口は倍増したのに経済成長はゼロ%、貧困化、戦乱、エイズ。だが2000年代からアフリカは「希望」の大陸になった。しかしそれは資源と市場に惹きつけられているのであり、その点では植民地時代と変わらない。本書はアフリカの潜在力からアフリカをとらえ返す。広大なアフリカの固有言語は、ニジェールコンゴ、ナイルサハラ、アフロアジア(アラビア語など)、コイサン、オーストロネシア(マダガスカル)の5語族しかない。実質的には旧宗主国の言語でしか高等教育を受けることができず、ヨーロッパの言語で一部エリートが国を支配する構造が続いている。植民地支配の際、白人は現地の伝統的権威者等を首長にとりたて、彼らの権威を保護...アフリカを学ぶ人のために松田素二〔編〕2023
農家はもっと減っていい—農業の「常識」はウソだらけ 久松達央 2022
販売農家107万戸のうち、8割の零細農家(売上げ500万円以下)の総売り上げは全農業産出額の13%、1割強の上位層(売上げ1000万円以上が8割弱を稼いでいる。うち3000万円以上の層が産出額の53%を占める。プロ農家が経営規模を拡大し、食っていけない層が市場から退出している。これまでの日本農業は、基盤整備と機械化の進行によって必然的に起こるはずの淘汰と規模拡大が遅々として進まなかった。農業を聖域視し農業保護をつづけてきたこと、兼業化が集約を妨げたことなどが原因だ。しかし、ここに来て「農業大淘汰時代」に突入した。農家が減って日本農業が危機に瀕しているわけではない。日本の人口は減る。農家も農地も減って良い。残す農地、あきらめる地域を今すぐ検討べきだ。「先祖代々」、「棚田の原風景」など幻想に酔っている余裕はな...農家はもっと減っていい—農業の「常識」はウソだらけ久松達央2022
この本で目立つのは、5組の一卵性双生児へのインタビュー。性格、学業成績、人間関係、好きなもの、あらゆることが大変良く似ている。結果、同じ大学に進み、同じような職業に就いている。遺伝の影響の大きさを測定するには、同じ家庭で育った遺伝子の等しい一卵性と、遺伝的には一卵性の半分しか共有しないが同じ家庭で育った二卵性の類似性を比較するという方法がある。知能や学業成績は、遺伝要因が20%から多い場合は50%を超える。年齢が上がるに連れ、本来の遺伝的資質が顕在化する。パーソナリティ(性格)や精神障害は、二卵性の相関が一卵性の相関の半分以下であり、類似性が遺伝だけでほとんど説明できてしまう。「おわりに」で著者はこう記している。行動遺伝学者として言いたかったことは、遺伝が教育に負けるほど弱くないということ。ただし、「遺伝...教育は遺伝に勝てるか安藤寿康2023
郊外住宅地の再生とエリア・マネジメント 編著:洋光台エリア会議、監修:小林重敬 2022
横浜市の洋光台は昭和40年代に生まれたニュータウン。URと行政が連携しながら居住者とともにエリアマネジメントに10年取り組んできた。年月を経た郊外住宅地を活気づけ、将来にわたり持続させることを目的とするプロジェクト”ルネッサンスin洋光台”を進めるためにこれまでのエリマネはほとんど商業業務地区で行われた。既成の住宅地ではまず動機づけが課題となる。エリア会議はまず既存の高齢者支援等を行う地域ケアプラザからキーとなりそうな個人や団体を紹介してもらい、ワークショップを何回も開催し課題や思いを把握した。商店街の一角にCCラボを設置しサークルやお教室に貸し出した。行政・URのリードを軽減し、地域住民主体の体制に移行することが必要になった。2019年、スタッフが常駐する「まちまど」が発足、CCラボの運営を受託。まちま...郊外住宅地の再生とエリア・マネジメント編著:洋光台エリア会議、監修:小林重敬2022
格差の起源—なぜ人類は繁栄し、不平等が生まれたのか オデット・ガロー2022
第1部何が「成長」をもたらしたのか多少の地域差はあるものの、労働者の1日の収入は3000年前のバビロンから産業革命前の西欧まで、ごく狭い範囲で上下していた。石器時代の遺跡で発見された人骨の平均年齢は30年弱、農業革命によって目立った変化はなく、産業革命前の西欧でも30~40年だった。技術進歩によって生産力が高まると人口が増え、豊かさの水準は生存ぎりぎりの水準まで逆戻りするからだ。マルサスの均衡(=貧困の罠)だ。そのマルサスの均衡は、産業革命から100年近くたった時点で消滅し、驚異的な成長がそれに続いた。世界全体で1人当たり所得は14倍に上昇し、平均寿命は2倍以上になった。先進国と途上国の経済格差は縮まらず、生活水準の格差は過去2世紀の間大きく広がってきた。グローバル化と植民地化は国の豊かさの差を広げた。工...格差の起源—なぜ人類は繁栄し、不平等が生まれたのかオデット・ガロー2022
元日経新聞記者が書いたとは思えない本。地域交通に関し、大きな政府、大胆な公的補助、鉄道ネットワークの維持、EVシフトを主張・提案している。日経記者が書いたとは思えない理由は、この本には公共交通、特に地方の鉄道事業の利用者数、収支などのデータの記述がほとんどないことだ。第1章日本の地域公共交通の多くはこれまで民間事業者により運営され、生き延びてきた。だがモータリゼーションや人口減少・高齢化などを背景に利用客の減少が続き、路線廃止が広がるなど状況は厳しくなっている。地域公共交通活性化法が制定、改正されたが、バス路線共同化には公取・独禁法が立ちはだかる。一方、欧州では、例えばドイツでは都市圏の各種交通機関の共通運賃やダイヤ調整などサービス一本化を目的とした「運輸連合」という制度がある。交通事業者に対しては多額の...交通崩壊市川嘉一2023
世界自然遺産見て歩き―成り立ちが分かれば「風景」が変わる 古儀君男2020
世界の26か所の世界自然遺産の成り立ちの説明と著者自身による訪問記。著者は地質学、火山学を専門とする元高校教師であり、本書は火山や断層、滝や峡谷、石灰岩や花崗岩の特異な地形など、自然遺産の特徴ある地形や景観がどのように生成されたのかについて、詳しく説明している。中国・黄山は白亜紀の花崗岩が隆起し、割れ目に沿って氷河や風雨が浸食を繰り返したことにより奇岩怪石の多い独特の景観ができた。さらに岩の割れ目に黄山松が育ち、奇岩、青松、雲海、それに温泉を加えた「四絶」が黄山の魅力となっている。鉄道黄山駅からバス50分、乗り継ぎ15分でホテル、徒歩15分で慈光閣、ロープウェイ15分で玉屏(標高1600)、階段遊歩道を歩き、蓮花峰は閉鎖のため3時間弱で標高1840の光明頂。ヴィクトリアの滝は、広大な大地を流れる大河ザンベ...世界自然遺産見て歩き―成り立ちが分かれば「風景」が変わる古儀君男2020
東京駅のデザインはドイツ人のバルツァーが原案をつくり、辰野金吾が後を継ぎ、完成したのは1914年だ。大名屋敷群が空き地になっていた丸の内に、皇室専用口を中央に造られ、日本橋や銀座に近い八重洲側には出入り口はなかった。駅舎の構造は鉄骨レンガ造りで、関東大震災でもほとんど被害を受けなかった。1945年空襲により屋根は落ち鉄骨も損傷したが駅舎は残り、3階建てを2階建てに修復して長く使われた。関東大震災後の帝都復興事業で駅前からの行幸道路が江戸城の石垣を抜いて皇居前まで延伸され、幅員72mに拡幅された。鉄道の大ターミナルが歴史ある首都の都心にあり、かつ四方八方に繋がっているのは世界でも少ない。1888東京市区改正設計で決定された(東京~上野間が繋がったのは1925年)。東京駅丸の内駅舎は当初の3階建てに復原され2...東京駅・駅前広場のデザイン篠原修・内藤廣編著2023
第5章饗庭伸退場する都市空間と国土の身体化よりノート大半の未来都市は、現代の都市の空間のあちこちから少しずつ人が退場し、空いた空間があちこちに散在するという姿をしている。空いた空間のそれぞれは小さく、バラバラのタイミングで空いていく。…都市のスポンジ化人口が増え都市が拡大していた時代は、人々の未来への欲望を読み取り空間が開発されてきた。しかし人口が減少する時代は、空間が読み取られ、呼び覚まされた欲望が空間を通して再構成されていく。ところが若い学生は経験の檻に閉じ込められて、空き地空き家にシェアハウスやカフェばかりを提案することしかできない。1960年代から70年万博までは、政府の所得倍増計画や全総計画、丹下健三の東京1960と、もっともらしくあてずっぽうな展望を描く「パノラマ」の全盛期だった。70年代は現...「2030年の日本」のストーリー牧原出[編著]2023
中央アジア5か国を対象。各国別記述のページ数はウズベキスタン98p、カザフスタン28p、キルギス24p。トルクメニスタン8p、タジキスタン10p。中央アジアの観光と言えば、サマルカンドやブハラのあるウズベキスタンがピカ一なのだ。天山山脈の麓にあるキルギス。キルギスには多くの民族が暮らすが、キルギス人はトルコ系モンゴロイド人種の民族で日本人とよく似た顔つき。男性は白いフェルト帽をかぶり、女性は刺繍で飾った帽子に白い布地を巻きつけたかぶり物。キルギスの現地の発音はクルグスに近い。首都ビシュケクは人口92万人、ソ連時代の都市計画によって造られた碁盤の目状の道路網を持ち、5階建ての建物が整然と並ぶ。外務省の渡航情報(2019年4月によると、キルギスのうちレベル3,レベル2の地域は国境地帯にあり、首都ビシュケク市を...地球の歩き方中央アジアサマルカンドとシルクロードの国々
全国109の一級河川のうち西日本の51河川を対象。地質学の専門家が監修しているためか、岩石や地質年代の説明が詳しい。カラー写真が豊富なのはありがたいが、ほぼ新書本サイズなので一つ一つの写真が小さいのが残念。江の川が日本一遠回りして流れるのは、浸食に強い白亜紀の溶結凝灰岩、白亜紀以降隆起量が乏しい、北東-南西方向の断層による弱線を使った流路の発達などが原因。流域南西部は浸食に弱い花崗岩が露出し流域が瀬戸内海側に奪われつつある。約300万年前までは讃岐山地がなく、吉野川は北上し瀬戸内海に注いでいた。四万十川が窪川付近で土佐湾に迫りつつ反転西流するのはフィリピン海プレートの沈み込みによる土佐湾側の隆起が原因。筑後川中流の山田堰は国内唯一の傾斜堰床式石張堰。ここで分流する堀川用水に三連水車がある。川がつくる地形3...日本の川西日本編北中康文編斎藤眞-小松原純子監修
宮本常一の旅学―観文研の旅人たち 福田晴子著・宮本千晴監修 2022
旅する民俗学者・宮本常一の本に私は50年前頃高校の図書館で出会い、大学生時代も近所の図書館の書庫でよく読んでいた。日本中の農村漁村山村を旅してそれぞれの土地の人々の中に入り込み、人々の日常生活、田畑の作物、村の歴史や祭りや信仰その他ありとあらゆることを書き記した本がシリーズとなって書庫にならんでいた。宮本にあこがれつつも、私は旅よりも家に比重を置き、定職を持ち、ローンでマイホームを得て、妻と共に子育てしながら生きてきた。それでも50年前の気持ちを心の片隅にとどめていて、幾分自由となった今、少しだけでも宮本の旅する人生の真似事をしてみたいとひそかに願っている。さて、この本自体は、近畿日本ツーリストがスポンサーとなり宮本常一が若者たちを育てた日本観光文化研究所ゆかりの人々へのインタビューをもとに考察した「旅学...宮本常一の旅学―観文研の旅人たち福田晴子著・宮本千晴監修2022
第3章大規模な円安介入が行われたのは2003年から。これによって重厚長大産業が息を吹き返し古い産業構造が残った。円安のおかげで企業は人減らしや合理化、新技術開発や新しいビジネスモデル探求の必要がなく、旧態依然としたビジネスを続ければよく、このようなことが続いたために企業の体力が低下し日本病から立ち直れなくなった。第4章異次元緩和の本当の目的は、国債大量購入による金利引き下げ⇒財政資金調達容易化・円安⇒大企業の利益増⇒株価引き上げだったのではないか。2016マイナス金利導入により金利低下、長期国債の利回りも低下し金融機関利ザヤ稼げない。長期金利を高くするため日銀は国債買いオペ(イールドカーブコントロール)。市場原理に反する。2022年に長期金利に上昇圧力加わり、日銀は長期金利を抑えたため急激な円安が進んだ。...日銀の責任―低金利日本からの脱却野口悠紀雄2023
大学的新潟ガイド—こだわりの歩き方 新潟大学人文学部附置地域文化連携センター編 2021
このシリーズの本は何冊も読んでいる。その中でこの新潟ガイドは歴史文化に関する話題がほとんどであり、現代の開発や経済、あるいは地理・地学や生物に関する話題が少なく、私にとっては読みどころが限定される。日本で最後に佐渡に残ったトキは2003年に絶滅した。その後中国からトキのつがいを借り受けて始まった保護増殖事業が成功し、今(2020)では島内に推定400羽が生息している。佐渡の農業者らは「朱鷺と暮らす郷づくり認定制度」を立ち上げ、農薬と化学肥料を半減し環境保全型農業を推進している。新潟県は全国3位の日本酒生産県で、吟醸酒の出荷量は全国一。新潟生まれの坂口安吾は、雪国の気質として太陽を遮られ疑い深さと諦め、夢を見ても現実には立ち向かう姿勢を持たないと言った。新潟港は中世から日本海海運の歴史があり、江戸時代は日本...大学的新潟ガイド—こだわりの歩き方新潟大学人文学部附置地域文化連携センター編2021
日本列島改造論のデジタル版だと書いてあるから国土都市のカテゴリにしたが、列島改造論のアナロジーでデータセンターを論じられるかどうかは、私はまだよくわからない。第3章データセンターとは、サーバーやネットワーク等のインフラ機器を設置・保管・運営することに特化した施設であり、データの収集・伝送・接続・蓄積・処理・発信のうち、データの蓄積・処理の役割を担う。ビッグデータを処理するAIやスパコンもここに置かれる。現在、データセンターの拠点は、比較的大型のクラウド型は200か所、その他500か所程。有名な千葉の印西地区のような大規模集積地区は2~3拠点。今後10年でデータ流通量が世界で30倍に増えるから、大規模集積拠点が東京以外に5~10か所必要になるだろう。経産・総務2省の有識者会合資料によると、データセンターの最...デジタル列島進化論若林秀樹2022
都市計画家・伊藤滋が見た東北復興縦断2011₋2021 2023年5月
2011年7月から2021年7月から2021年まで、北は青森県八戸から南は福島県いわきまで、東日本大震災の津波被災地を毎年1回視察旅行し、復興歩みをカメラに収めた記録。「はじめに」に著者の感想が記されている。「現地に身を置けば、復興に向けたたゆまぬ努力が続けられていることは感じられるのだが、目に見える成果として感じ取れない場面も少なくなかった。しかし、改めて10年分の写真を一覧してみると、どの場所も時代へとつなげる歩みをやめなかったことが感じられる。関係者の努力に最大限の敬意を表したい。」私の読後感想としては、第1に震災復興の貴重な記録であるということ、第2に客観的な評価は避けざるを得なかったのだろうということ。p55には陸前高田市のかさ上げ工事後の空き地の写真がある。この工事を含め10年間に36兆円の国...都市計画家・伊藤滋が見た東北復興縦断2011₋20212023年5月
限界ニュータウン—荒廃する超郊外の分譲地 吉川祐介 2022
著者は研究者でも不動産業界の人でもジャーナリストでもないらしいが、都市計画や不動産業に関する知識、行動力、調査力、取材力、どれも相当なものだ。2017年(出版の5年前)春に夫婦二人が暮らすための郊外中古物件を探し始めたのがきっかけで、千葉県北東部の物件めぐりを続ける傍らブログに限界ニュータウン探訪記を投稿、Tweeterすると予想外の反応があった。さらにYoutube動画配信、さらには本書出版につながった。本書のテーマは千葉県北東部、超郊外に数多くある限界ニュータウン。空き地が多いが分譲時には完売している。高度成長期の1970年代に投資家向けに分譲され、一部区画には80年代後バブル期に住宅が建てられたが大部分は空き地だ。千葉県北東部では、都市計画が全く機能してこなかった。酪農家やラブホ、墓地の隣でもお構い...限界ニュータウン—荒廃する超郊外の分譲地吉川祐介2022
アイヌのことを考えながら北海道を歩いてみたー失われたカムイ伝説とアイヌの歴史 カベルナリア吉田2022
2021年6月半ば、著者は飛行機に乗り、新千歳空港に向かった。第1章小樽余市神威岬、第2章道南、第3章札幌、第4章胆振、第5章道東、第6章旭川稚内、第7章日髙、第8章網走と北海道ほぼ全道を公共交通で踏破。いつからいつまで旅したのか知らないが、あとがき最終ページp230のこの本のp204に2日後の自民党総裁選の討論会のことが書いてあり、これは9月29日のことだから3か月半か4か月の北海道滞在ということになる。著者は車を運転していない。主にJRで異動し、それぞれの旅先ではローカルバスに乗ったり歩いた入りしている。宿のことはあまり書かれていないが、だいたい駅の近くのホテルに荷物を置いているからそこに泊まっているのだろう。人に会うアポ取りはしていないようだ。駅で列車を降り、ホテルに荷物を預け、街中を歩く。遺跡、貝...アイヌのことを考えながら北海道を歩いてみたー失われたカムイ伝説とアイヌの歴史カベルナリア吉田2022
日本型開発協力—途上国支援はなぜ必要なのか 松本勝男 2023
第2章「日本型開発協力の特徴」では、日本の開発協力の特徴がよく表れかつ成功事例と言われる事例が紹介されている。・ラオスの民法典起草10年以上の慎重かつ息の長い協力このような長期かつ丁寧な協力を続ける国は日本だけ・インドネシア版母子手帳1980年代に来日した医師が試みが契機となり、現在インドネシア全国で年500万人の妊婦、世界では2千万冊使われる・カイゼン1980年代シンガポールに始まり、最近は活動がアフリカに拡大。設備改良、不良品削減、整理整頓、ムダ取り運動、作業の安全確保等、工場の生産工程で種々の工夫蓄積。・災害大国の知見、仙台防災枠組み緊急支援、復旧活動、被害状況調査、復興計画策定、対策事業の実施など一連の協力。・タイ東部臨海開発1980年代にレムチャバン港と工業団地を日本の協力で建設、タイ経済を牽引...日本型開発協力—途上国支援はなぜ必要なのか松本勝男2023
ダイヤ改正から読み解く鉄道会社の苦悩 鉄道ビジネス研究会2013
第1章ではJR各社の2018年度と2022年度の乗客数の比較を会社ごと路線ごとに表をつくって長々と説明している。首都圏通勤路線はだいたい3割減。東海道新幹線は輸送人キロで2020年度に前年度比66%減少し、2021年度38%増大した者の頃前の2分の1以下。第2章タイトルは「駅は街のランドマークであり続けられるか」だが、内容は駅の乗降客数減少率。減ったことはわかっているよ。最も減ったのは舞浜駅。そりゃそうだろう。著者グループの個人名は明かされていない。堂々と名乗り、その名前を信頼して買いたくなる日が来ることを待ちたい。ダイヤ改正から読み解く鉄道会社の苦悩鉄道ビジネス研究会2013
ヒトゲノム(人間の卵と精子に入っている23本の染色体)のDNA情報が2004年に解明されたことにより、遺伝子研究に革命的変化が起きた。ヒトゲノムを調べれば祖先がわかる。日本人の源流については、縄文時代までと弥生時代以降の二段階に分ける二重構造モデルがあった。著者らの研究は、日本列島の3集団、アイヌ人、オキナワ人、ヤマト人のDNAを調べ、二重構造の存在を示した。しかし、縄文時代までの人々と弥生時代以降の人々がどこから来たかはまだよくわかっていない。DNAの共有度から系統関係を推定(近隣結合法)すると、縄文人とアイヌ人が一つのグループになり、オキナワ人、ヤマト人、北方中国人の順と次第に遠くなる。縄文人は南方系でも北方系でもなかった。三貫地(福島県新地町の貝塚縄文人のゲノムデータを調べると、南米人より前に東ユー...日本人の源流—核DNAでたどる斎藤成也2017
序2022の国連新推計によれば、2022年中に世界人口は80億人に達するものの、今世紀後半の中頃には減少に入り、世界全体が現在の日本と同じような少子高齢・人口減少社会に移行する。日本は2008年の1.28億人をピークにすでに人口減少期に入っている。人口減少は日本だけの特殊事情ではなく、世界の多くの国は遅かれ早かれ同じ道を歩む。犯人探しをしても有効な対策には結びつかない。第4章人口が急激に減少する場合には、生産年齢人口の減少を通じ社会資本蓄積や社会的生産の拡大を困難にする。社会経済システムを縮んでいく人口規模に合わせ常に縮減再編し続けなければならない。人口減少に合わせ組織をスリム化することが常に求められ、陰湿な行き残りゲームのような競争が生じる傾向が強い。人口減少では社会資本の更新は難しく,先行投資の回収は...サピエンス減少—縮減する未来の課題を探る原俊彦2023
教育大国シンガポール~日本は何を学べるか 中野円佳 2023
シンガポール政府は教育(とりわけ試験)を重視している。コロナ禍でもできるだけ休校を避け、同時にオンライン対応の準備を進め、ソフトロックダウン発動時にはスムーズに移行が進んだ。シンガポールの教育は、国家へのアイデンティティと謙信の精神を身につけさせることと経済発展の持続を達成することを目的としている。教育を媒介として能力ある人材=学歴エリートを官僚、そして政府に引き入れる。優秀な高校卒業生数百名には奨学金を出して米英に送り込み、帰国後には一定期間政府機関で働くことを義務づけている。国際調査TIMSSやPISAにおいて、シンガポールは世界トップクラスの高成績を得ている。その一方で、シンガポールの教育は、競争過熱によるストレスが親子ともに大きい。小学校終了時の試験PSLEでで進むコースが振り分けられる。教育は早...教育大国シンガポール~日本は何を学べるか中野円佳2023
著者が過去に書いた「消費増税」と「戦後経済史」と「官僚とマスコミ」に関する3冊の本の内容を収録再編したもの。よって、第1部第2部は経済学をベースにした税財政と日本経済に関するかなりオーソドックスな論考、第3部は財務省と官邸の内幕話。タイトルの理系思考に関する記述は探してもなかなか見つからない。辛うじて見つかった理系思考と関連していそうな記述箇所をメモ。p37財政投融資の金利変動リスクを算定するにはALM=資産と負債の総合管理が必要だが、それを行うにはコンピュータのプログラムを書いてシステムをつくらねばならず、文系官僚には無理で、それができたのは数学科出身の著者だけだった。それをつくる過程で政府全体のバランスシートをつくったので、日本政府は借金も大きいが資産も大きく、破綻することはあり得ないとわかっていた。...理系思考入門高橋洋一2022
意外にもこの本の1章は日本を離れて世界の城の話となった。シュリーマンが発掘したミケーネの城は巨石を積んで城壁が築造され、紀元前13世紀にライオンのレリーフを掲げたゲートが成立した。徳川大坂城のように人工的に形を整えた石材が隙間なく積み上げられている。石垣の「算木積み」や「屏風折れ」、城内道が直角に折れ曲がる「桝形」と同じ構造は、世界の城に共通する普遍的な防御のしくみであり、ミケーネと同時期のティンリスは既にそれを取り入れていた。紀元前600年頃イギリスのケルト人が築いたメドウィン・カッスルは三重の堀と高い城壁、「馬出し」と同じで入口を備え、日本の戦国の城ろ比較しても遜色ない。沖縄のグスクは14世紀ごろから石垣を用い、15世紀以降は桝形と呼ぶ複雑な出入り口を持っていた。大和スタイルの城より圧倒的に早く、江戸...歴史を読み解く城歩き千田嘉博2022
住宅団地 記憶と再生~ドイツと日本を歩く 多和田栄治 2021
ドイツ語で住宅団地をSiedlungジードルングと呼ぶ。1850年代以降、ルール地方では企業が工場労働者のための団地アルバイタージードルングを建設した。ベルリンではワイマール時代に行政が主導し非営利組織が建設管理する団地が多く建設された。うち6つの団地はモダニズム住宅団地として世界遺産登録され、しかも現在も住民が居住している。日本でも有名なブルーノ・タウトが設計した小規模な団地ファルケンベルクは各戸が40㎡台と狭く規格化されているが、多様なデザイン、住棟の列の変化、色彩の魔術により住戸ごとの個別化を演出している。ブリッツの大団地は、シンボルとなる馬蹄形の住棟と多くの2~3階建ての長屋からなる。住民インタビューをしているが、長く満足して住み続ける人が多く、近所づきあいも密接のようだ。旧西ベルリンで1960年...住宅団地記憶と再生~ドイツと日本を歩く多和田栄治2021
「世界最高の知性」4人へのインタビューとそれに基づく対談をまとめたもの。短いインタビューなのでそれぞれの発言の背景根拠は今一よくわからないところがある。1.エマニュエル・トッド民主主義は後退あるいは破壊され続けており、まもなく寿命を迎える。民主主義のリーダーである米国は不平等でカネがあまりにも重要な国になった。中国は権威主義であるけれども平等主義的な価値観がある。グローバル化は格差を生み出し夢はなくなった。しかし米国がグローバル化から抜け出し工業国に戻ることはできない。先進国は新興国を自らの陣営に引き入れるようなことは控えなければならない。西洋は傲慢であり、新興・途上国が「私たちを好きである」と仮定するのは大間違いだ。2.マルクス・ガブリエル新型コロナに対し民主主義国はロックダウンすべきではなかった。しか...2035年の世界地図—失われる民主主義破裂する資本主義
流山在住の元日経記者が書いた流山を賛美する本。つくばエクスプレス開通がきっかけとなって大きく発展、人口増加率6年連続1位となったが、それだけではないことを示している。送迎保育ステーション。駅前ビルに設置され、朝子どもを預けると市内各所の保育園に連れて行ってくれ、夕方は6時まで(8時まで延長可)預ってくれる。保育士に就労奨励金や家賃補助を与えて保育士を確保し「保育の楽園」になった。流山市にだけある課①マーケティング課②流山本町・利根運河ツーリズム推進課おおたかの森駅前のSCはニコタマと同じ会社、東神開発が落札し、市長の要望を踏まえ、デパ地下、大型シネコン、大型書店、大規模な緑化のある開発を行った。2022に開業した大和ハウス工業による第2のSCは、日常生活必需品が揃うファミリー層向けの店に絞った。流れ山イン...流山がすごい大西康之2022
江戸時代より前に形成された古い村には暮らしていくための資源がすべてある。明治初期の村地図を見る。境界線。水源になる川。肥料・馬のエサ・薪・山菜のとれる山林。一方、江戸後期に低湿地を改良して形成された新田村は、渇水時の水源や薪炭林、畑が十分でない。それぞれの集落に固有の歴史がある。それぞれの村は、基礎となる生業の上に、様々な副業があった。城下町には、城を築く盤石な土地、水源となる川と用水、食料やエネルギー資源を運ぶ供給路がある。都市は多くの街道が入り込み、都にもつながっていた。家は生活協同集団であり、必ずしも血族集団ではない。家は婚姻によって他の家々と繋がっていた。婚姻は家格で行うので、大きい家はしばしば遠距離で結び、それ以外の家は村内や近くの村との婚姻が多かった。村(自然村)は、①自治集団、②生産協同集団...地域学入門山下祐介2021
ドローン空撮で見えてくる日本の地理と地形 藤田哲史 2021
地理の本によくある自然地理や村落、歴史都市とは異なる、人下の営み、特に土木技術史と関わりの深い空撮写真が多く紹介されている。堤防、分水路、瀬替え、新田開発、畑の地割、山上の大規模住宅地、採掘場と炭鉱跡、二重ループの山岳道路、高速道路の線形。地図の色彩について、山地が緑色、低地が茶色に塗られていることにちょっと違和感。ドローン空撮で見えてくる日本の地理と地形藤田哲史2021
東京・再開発ガイド 街とつながるグラウンドレベルのデザイン 大江新 2022
第1部「東京の超高層・大規模再開発を歩く」は、約150の東京都区部における超高層ビルや大規模集合住宅、大型商業ビルを、結界、視線、通り抜けと滞留、地形との関わり、新旧対比など12の視点から批評している。建物が道路からセットバックする場合、道路沿いに列柱や樹木で何らかの結界を設けることで、道路~結界~広場~建物といった重層性が生まれ、広場の”懐”効果も高まる。ビルが増えれば遠望が消えて死角が増える。そこでピロティやガラスのロビーなどでビルの背後を見通せるようにすると閉塞感を軽減できる。ビル足元に滞留できる広場や通り抜けできるアーケードを設置すると街との親和性が高まる。公団団地が民間事業者によって分譲マンションに建て替えられるケースが多い。建て替え後も棟間に自由通路や公開空地を設け遊び場や散歩道として近隣住民...東京・再開発ガイド街とつながるグラウンドレベルのデザイン大江新2022
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今年4月13日に開幕する2025大阪万博パビリオンをはじめ、大阪駅うめきたのグラングリーン大阪、大阪市内の多くのオフィスやタワマンやホテルや集客施設開発、京都のホテルラッシュなどを詳しく紹介してくれる大型本。兵庫県は須磨の水族館と淡路島の座禅道場のみ。万博会場で目を引くのは全周2㎞の木造の円形リング。機能性(通路、日よけ、雨よけ)と象徴性という役割はわかるが、350億円を費やす価値があるのか疑問。しかも木材は海外から輸入したものだし、半年後に閉会した後の使途は決まっていないらしい。JR大阪駅北で進む大規模再開発「グラングリーン大阪」の一部が2024年9月に先行開業した。総事業費は6000億円。総面積9.1ha、半分は公園が占める。公園の他ノースタワーのイノベーション施設やホテルは開業。そのほか梅田や中之島...関西大改造2030川又英紀ほか著・日経クロステック、日経アーキテクチュア編2024
ウクライナ戦争が始まってからよく顔を見るロシアの軍事・安全保障の研究者。インターネットのおかげで情報を収集するのは容易になったが、膨大でフェイクも混じる情報を処理する装置を持つのは簡単ではない。2022年初頭にかけて、「ロシアはウクライナに侵攻するだろうか」という問いに、著者はいつも「非常に大規模な戦争を始められるだけの能力が整いつつある」と答えていた。実際に侵攻するかどうかはプーチンの頭の中のことなのであいまいだし断定できない。より外形的に把握しやすい能力に着目したのだ。しかし大戦争を確定できたのは開戦の3日前、ドンバスの親露派選挙地域を独立国家として承認したときだった。分析者のとって必要な情報には、⓵バックグラウンド(背景)情報、②コア(生)情報、③足で稼ぐ(体験的)情報の3種類がある。背景情報は間口...情報分析力小泉悠2024
江戸の面積の半分は大名屋敷が占め、屋敷内には池があって木が植えられた庭園がかなりを占めていた。城や武家地は主に台地上に構えられていた。町人地は低地に形成され、そこは物資が集散する水上交通の要所でもあった。その江戸の記憶は、明治維新と明治政府による都市改造、関東大震災、太平洋戦争の空襲、復興と高度成長、バブル期と最近の再開発により何度も大きく破壊された。だから現在の巨大都市東京には、一見すると江戸時代の建築や土木の遺産は少ないように感じられる。しかし実は、現代の道路や区画、濠や石垣などに江戸の遺構は意外なほど多く残っている。また、都心部にある官庁街や大学、大きな公園などの大規模土地利用の多くは、大名屋敷の跡地を利用したものだ。この本では、第1章で江戸城の内閣と外郭、第2章で大名屋敷の跡地と大名庭園、第3章で...東京で見つける江戸香原斗志2021
微細に入り組んだ凹凸地形や、大規模再開発や戦争での空爆、町の破壊行為でしかない都市計画道路建設などに対する頑強な自然の抵抗力であり続けた。だから、その細く曲がった坂道を街歩きすることで、太古の昔や江戸や明治、昭和の痕跡と出会い、私たちは今でも過去と対話できる。この本で著者は、東京都心南部の河川沿いを中心に7つの散策コースを設定し、7日間にわたって編集者らと街歩きをしている。第1日渋谷川筋2000年代に入ると東急資本を中心に巨大駅前再開発が進められている。東急は渋谷全体を空中都市化してもう一つの「大手町」にしようとしている。著者は渋谷の超高層化には批判的で、対照的な川筋を這って歩く。今、若者たちが集まる奥渋谷や裏渋谷、キャットストリートはいずれも川筋エリアだ。東横線渋谷駅(と線路)がなくなり新たにつくられた...東京裏返し都心・再開発編吉見俊哉2024
台湾旅行計画中にて飛ばし読み国立故宮博物院1924年北京事変によりラストエンペラー愛新覚羅溥儀が北京の紫禁城を退去し、そこに清朝皇室が保有していた美術品は故宮博物院の所蔵としてされ、一般民衆に展示されることになった。蒋介石を指導者とする中華民国南京政府は、北伐による1928年の北京占領後この博物館を接収した。その後満州事変により北京に戦火が近づくと政府は故宮文物を上海、南京へと疎開させ、1937年日中戦争拡大により南京周辺にも危険が迫るとさらに西方へと移動した。戦後いったん南京に戻されたが、すぐに国共内戦が激化し、中国共産党に敗れた国民党政権は台湾に撤退するに当たり、故宮文物から名品を選りすぐって台湾に持ち込んだ。当初は小規模なギャラリーで展示されるのみだったが、1965年より台北郊外に建設された故宮博物...台湾を知るための72章赤松美和子・若松大祐〔編著〕2022
第2集では特番横浜6テーマの他、北は帯広から南は五島まで12都市を地理学者が紹介している。私はほとんどの都市を訪れたことがありある程度の知識を持っているつもりだったが、この本を読んで初めて知ったか再認識したこと、次に訪れる時に意識したいことをノートしておく。帯広市「北の屋台」は中心市街地活性化の成功例。1998年に火事で焼失した一条市場の跡地に、固定方式の電気ガス水道と移動式の屋台をドッキングした屋台の集合体をつくった。20の屋台は一律3坪の広さで3年の期限付きで入居している。福井市1945空襲と1948福井地震で壊滅した市街地のほぼ全体を556haの土地区画整理事業で整備、その後も行政主導の区画整理を積極的に行った。その結果、日本一道路や公園が整備された都市になったが、その負の側面として、市街地が広がり...日本の都市百選第2集稲垣・牛垣・小原・駒木・西山・山口編著
10年前の2014年に発表された増田レポートとそれを書籍化した『地方消滅』(中公新書)は、日本の深刻な少子高齢化問題を地方の自治体の人口減少問題にすり替え、地方自治体を空しいゼロサムゲームである移住促進競争に走らせ、少子化対策から目を背けさせた悪書だった、と私は認識している。その発表は大きな反響を呼び、2014年9月には内閣に地方創生担当大臣が新設され、翌15年には女性活躍推進法が成立、また同年には「希望出生率1.8」の実現を政府が目標として掲げた。しかし人口減少にはその後も歯止めはかからず、出生率はさらに低下し、東京への人口流入もコロナ感染拡大による一時的な緩和の後再び加速している。この本の序章では「このままでは地方消滅どころか日本消滅となりかねない」と、やっと事態を正面から認識している。その上で、第4...地方消滅2人口戦略会議編著2024
日本橋に始まり、品川宿から大津宿までの東海道53次と、伏見宿から守口宿までの4つの宿、終点の大阪高麗橋までの各宿場をそれぞれ2~4ページで解説した本。宿の由来に加え、東から西へと歩く旅人の視点で順を追ってその見どころが説明されている。ただし、宿場と宿場の途中の道筋についての記述はない。宿場町の中で東海道が幾度か折れ曲がり、遠回りになっている場合が少なくない。12沼津宿、19府中宿(静岡市)、26掛川宿、34吉田宿(豊橋市)、38岡崎宿、42桑名宿など。岡崎宿の場合、岡崎城主田中吉政が城下に東海道を引き込み、城の防衛力向上を図るため屈曲を多用した街道を整備し、それが道沿いの店舗数の増加にも寄与した、と本書にある。訪問したいいくつかの宿日坂宿:東海道三大難所の一つ、小夜の中山峠の近く。夜泣き石伝説のある久延寺...歩いて学ぶ東海道57次志田威2024
クルーズの手配は自分でやってみると意外と簡単だ。①航路の予約、②報復の飛行機の2つの予約をすれば、後は必要や希望に応じ乗船前後のホテルを予約するだけ。個人手配だと、添乗員の人件費その他が省かれるので、コストは団体ツアーの約半分になる。乗船前後に乗下船港で小旅行する人が多い。いくつかの寄港地、乗船地。パルマ・デ・マヨルカスペインの大きな島。港からシャトルバス10分で旧市街。世界遺産のパルマ大聖堂は400年かけて1601年に完成、20世紀の修復にはガウディも関わった。パルマ広場とマヨール広場に挟まれたエリアには小さなお店がぎっしり並ぶ。バールにたちよりタパスやビンチョスを注文し軽くワインを味わうのも楽しい。バルセロナ港からサグラダ・ファミリアまでタクシー20分。人気ポイントなので事前予約が望ましい。ガウディの...地中海クルーズ完全ガイド喜多川リュウ+クルーズ向上委員会2020
一度は行ってみたい「日本全国71の地形」を3D地図と写真でわかりやすく紹介。およそ現在の地形になった時期をメモしてみよう。洞爺湖:11万年前の大噴火で陥没しカルデラ形成。中島は5万年、有珠山は2万年前。十和田湖:約20万年前に十和田火山が活動を開始。約4.3万年~1.3万年の間に大規模な噴火を6回以上、火砕流を発生。その後のカルデラ内の噴火で中湖形成。三陸海岸:海水面が現在より150m低かった氷河期に谷地形ができ、1万年前からの温暖化に伴う海面上昇でリアス海岸になった。三陸北部にリアス海岸がないのは、断層が南北に走るため。男体山と中禅寺湖:男体山2.5万年前から1.3万年前まで続いた火山活動でできた成層火山。噴火活動初期に流れた溶岩流が川をせき止め中禅寺湖ができた。養老渓谷とチバニアン:養老川中流は約20...日本の地形図鑑高橋典嗣2024
この本を手に取ったのは、超少子高齢化の日本における、国土の中の中山間過疎地域からの居住や耕作の撤退、行き詰まった都市開発プロジェクトの処理、あるいは全国に8百万戸も存在する空き家の更地戻しといったことが論じられているだろうという期待からだった。めくってみると10人の執筆者による共著であるこの本は、私の期待よりも抽象的・思索的な記述が多く、求めていたものとは少しずれていた。第3章「国土政策から見た撤退的知性の必要性」全国総合開発計画を中心とする日本の国土政策は「国土の均衡ある発展」を基本理念としてきた。しかし、一全総(1962)が工業開発による地域間の所得均衡という本来の「国土の均衡ある発展」を目指したのに対し、新全総(1969)は早くも各地域特性に応じた発展を目指しており、21グランドデザイン(1998)...撤退学の可能性を問う堀田新五郎・林尚之〔編著〕2024
最近、アフリカの経済発展に関する本を読み、またアフリカ出身の優秀な人材に会って、私の心の中のアフリカに対するイメージが良い方向に振れていたが、この本を読んで逆方向に戻されてしまった。2014年から3年間、著者は新聞社の海外特派員としてアフリカ大陸に駐在した。彼がこの本で描いたアフリカは、人口が爆発し、人間の生と性、暴力と欲望が激しく入り乱れ、まさしく「沸騰大陸」そのもの。そこでの生活は日本のそれとはあまりにかけ離れている。南アフリカの日本人学校で著者の娘が最初に受けた授業は通学バスが襲撃された時の対処訓練だった。南アでは1年に19,000件殺人事件が発生するが、それでも隣国からすれば自国より10倍も稼げる「夢の国」なのだ。他のアフリカ諸国での彼が取材対象は、この本の文字からも目をそむけたくなるようなものの...沸騰大陸三浦英之2024
この本に描かれた「15分都市」の考え方はパリの左派市長イタルゴに採用され、パリでは15分都市づくりのための都市計画が進められているらしい。だからこの本を読み始めたが、とにかく読みにくい。過去の思想家や学者の著書の引用、国連の報告書の要旨、東京やパリやラゴスや珠江デルタの描写などが次々に現れる。第6章になってやっと「15分都市」の説明がされている。「15分都市」は、3つのアプローチ、クロノアーバニズム、クロノトピー、トポフィリー(場所への愛)から導き出した都市である。「15分都市」はまず、都市の中の時間の流れを変えること目的とする。都市に流れている時間を見直し、自分のための時間や家族との時間、近隣の人と共に過ごす時間を確保する。「15分都市」は一つの場所に複数の機能を持たせ、それぞれの機能も可能な限り新しい...15分都市―人にやさしいコンパクトな街を求めてカルロス・モレノ2024(原著は2020)
この本のタイトルは「東大教養学部が教える考える力」だけれど、「東大1・2年生に博報堂が教えるアイデアの出し方、まとめ方」の方が、正しく内容を表すだろう。この本でいう「考える」とは、研究したり真理を追究したりするころではなく、売れる商品、アイデアをつくるための情報収集、コンセプトづくり、人の心を動かすアウトプットの作り方だ。東大教養学部が教える考える力の鍛え方宮澤正憲
この本は、建築家の突拍子もない空想に都市や建築に一家言ある識者が悪乗りして一冊の本に仕立てたフィクションなのだろう。東京一極集中の問題点やデジタル化の遅れなど、周辺の議論は、識者の論考ゆえなるほどと思わせるところもある。しかし肝心の「動都の提案」が、実現可能性に説得力を持たせるために小さな首都にすることが発想の原点にあったためだろうが、首都というのはその範囲もスケールも小さすぎる。第1に、動都における移動人数を合計4500人と想定している。これは過去の国家等移転特別委員会の想定の10分の1以下であまりにも非現実的だ。国会議員713名に各スタッフ2人つける想定だからそれだけで約半分の2139人。衆参議員事務局及び行政・司法関連職員1000名程度としているが、現実には衆議院事務局だけで定員1600名だから、行...動都―動き続ける首都坂茂・光多長温・三宅理一
既往研究では、ミドル期シングルの総体は明確なリスク集団ではないが、高齢化に到達したときに経済的困窮や社会的孤立に陥るリスクが高い可能性があるという点だ。シングルは既婚者より親への支援が上回り、特に女性は半数近くが親の介護を引き受けようとしている。日本の親密圏は親や兄弟の比重が大きい。西洋では多様な結婚やパートナー関係が中心で、国家がそれを家族と同等に保護しサービスを付与している。第2世代(1956~85生まれ)のミドル期の一番の特徴は未婚化で、2020年のシングル率は男31%、女23%で30年前の3倍。ミドル期シングルの人間関係は仕事関係が中心だ。地域社会との関係は希薄だが、多くのシングルたちは、煩わしいのでなければ地域での関係があってもよい、むしろあった方がいいかもともっている。男4割、女2割が人間関係...東京ミドル期シングルの衝撃―「一人」社会のゆくえ宮本みち子・大江守之[編著]2024
こんな本があったとは知らなかった。日本中の何百もの池を8つに分類し、一つ一つについてその地理的特徴、成因、人間との関わりを詳しく説明し、正確かつ可愛らしいイラストを加えている。8つの分類とは、島池、山池、里池、人造池、公園池、城池、町池、寺社池。この分類は成因とは一致せず、例えば島池の中には南大東島のカルスト池、利尻島の火口湖オタトマリ池、湾が砂州で塞がれた上甑島の海鼠池や友ヶ島の蛇ヶ池などが含まれる。冒頭に池と沼と湖の何が違うかの説明がある。池とは基本的には人の手でつくられたもの。しかし、霧島の大浪池(火口湖)や鳥取県の東郷池(潟湖)のように自然の湖でも池と呼ばれるものもあり、沼や湖と呼ばれるものの中にも人造のダム湖や人の手で改変されたものは多い。分類の定義と固有名詞の名称は必ずしも整合しないのだ。私が...日本全国池さんぽ市原千尋2019
約30人の執筆者の多くは大学に所属し、日本の国際協力=ODAを外から見て現状と問題点を取り上げている人たち。序章日本は1989年に世界一のトップドナー国になったが、97年をピークに減少し4~5位にまで落ちた。経済不況に加え、国民のODAを見る目が一層厳しくなったため。日本のODAの4つの特徴⓵アジア重視戦後の賠償・準賠償により開始安全保障・外交上の国益を重視しながらアジア諸国との関係を構築②円借款中心(インフラ重視)一貫して自助努力を促し養成主義に基づく貸付型援助を重視、アジア諸国の経済成長に貢献⓷「人づくり」を重視し、得意とする技術協力を多くのアジア諸国に実施④1990年代までは量的拡大、2000年代以降は戦略援助・平和構築や質の高いインフラ投資日本のODAのかつての問題点・援助理念・哲学の欠如⇒ODA...日本の国際協力アジア編重田・太田・福島・藤田編著2021
世界でいちばん美味しい国、いちばん驚く国、いちばん高い国など、あとがきの日本を除き24のテーマ=国が登場する。私が過去に訪れたことがあるのは11の国。いちばん美味しい国=タイは私もリアルに行ってみたいが著者と違って辛い料理は苦手だ。本書によるとタイ料理といってもすべてが辛いわけではない。麵料理、ガパオライスなどを食べていればよさそうだ。中国には何度も行ったが最後が10年前なので、QRコードなどのスマホアプリ決済の準備をしていかなければならないだろう。本書には書いてないがgoogleやLINEも基本的には使えないので、Yahooメールかoutlookメール、検索は百度などを使う準備をしていかないと情報途絶の憂き目に遭いそうだ。いちばん探しの世界地図吉田友和2021
中国の不動産バブルはすでに崩壊した。30年前の日本のバブル崩壊は、基本的に市場の失敗だった。後処理の段階で政府が失敗を犯し、立ち直るのに時間がかかり、失われた30年を喫した。中国の不動産バブルとバブル崩壊は政府の失敗が引き起こしたものだ。不動産開発を経済成長のけん引役として位置づけた。土地の公有制を堅持し固定資産税はいまだ導入されていない。個人にとっての不動産投資は,一獲千金のゲームになった。中国では賃貸住宅が整備されていない。都市では公営住宅が整備されていない。民間の賃貸マーケットが大きく育っていない。法律の整備は進んでいるが執行がきちんと行われず、契約を一方的に破棄しても罪に問われないため、トラブルを恐れ貸し手も借り手もなかなか現れないためだ。住宅は商品化し、若者にとってマイホームはステータスシンボル...中国不動産バブル柯隆2024
第1章ではアルプス越えの景勝ルートや世界遺産を訪ねる鉄道、山岳鉄道など、ヨーロッパのお奨めの鉄道ルート13を紹介。第2章鉄道旅行入門では、列車の種類や設備、出発ホームの見つけ方や車内検札など鉄道旅行の基礎知識を伝授。第3章鉄道旅行計画では、旅行計画の立て方や列車スケジュールの調べ方、チケットの購入方法、トラブル対策など、鉄道旅行を計画する上で欠かせない基本情報を紹介。どの部分も、実際に鉄道旅行をした人でなければ書けない、リアルかつ実用的な知識に満ちている。それにしても、ウェブサイトで最新のユーレイルパスの料金を調べてみたら、諸物価が高騰しているにもかかわらず、ユーレイルパスの料金(€または$建て)は値上がりしていないようだ。ヨーロッパ鉄道の旅ダイヤモンド社2020
ウィーンの都市計画と映画「サウンド・オブ・ミュージック」に関する記述からノート19世紀後半、オーストリアハンガリー二重帝国は、多民族的構成を背景に独特な文化的発展がみられた。ウィーンの都市トラーセの成立に端を発し、世紀末には帝国の没落的傾向に反して華麗できらびやかな文化芸術活動が展開された。1850年代、経済的発展の時代を迎えたウィーンにとって、中世以来の城壁はむしろ障害となってきていた。1857年、皇帝フランツ・ヨーゼフは勅書を発して城壁の撤去と市民によるその跡地を認めた。跡地の利用に関しては、当初は軍部が発言力を握っていたが次第に市民階層は主導権を握っていった。まずオペラ座や美術史博物館、自然史博物館が建設された。その後、証券取引所、楽友協会、造形美術アカデミーなどの建設が続いた。さらに市民階層の力を...オーストリアの歴史増谷英樹・古田善文2023増補改訂版
オーストリアは、かつて名門ハプスブルク家の統治下、中央から東欧をまたぐ大帝国を形成していた。20世紀に入ると第一次大戦に敗れ帝国は崩壊、小国となったオーストリアは、一時はナチス・ドイツに吸収された。第二次大戦後、新生オーストリアは「永世中立国」として再スタートを切り、それは今も国民の支持を得ている。12世紀にオーストリア公国が誕生し首都がウィーンに移されたのが国としてのオーストリアの始まり。13世紀にハプスブルク家がオーストリアを領地とし、15世紀半ば以降はハプスブルク家が神聖ローマ帝国の帝位をほぼ独占した。ハプスブルク家は政略結婚により、イタリア半島、スペイン、ブルゴーニュ、ボヘミア、ハンガリーの王位継承権を得て支配地を拡大した。ハプスブルク家が支配するオーストリアは、近代ヨーロッパの大きな流れであった...一冊でわかるオーストリア史古田善文[監修]2023
刺激的なタイトル。著者は過疎地に生まれ育ち、福岡、東京、ボストン、海外周遊を経験し、いろいろな資格を持っている人で、過疎地域で12年暮らし、いろいろな仕事をしながらフィールドワークをしてきた。過疎問題の本を書くのはたいていは学者研究者、または国または地方の役所の人だから異色だ。著者は言う。過疎地域をめぐる研究のほとんどは、中央政府が進める地方創生や移住に終始し、「地方の人々に自主性を促し、活性化させるのが正しい道である」と結論する。しかし過疎地域の人々は慣れ親しんでいる現在の環境を変えたくない。過疎地域が持つ保守性と閉鎖性を私たちはもっと考慮し尊重する必要があるのではないか。著者のフィールドは鹿児島県大隅地域。曽於市は寂れていく一方だ。市役所企画課にインタビューしても対策がなくやりようがないと考えている。...田舎はいやらしい―地域活性化は本当に必要か?
50年前と比べ、地文研は部員の数も巡検や合宿といった活動回数も桁違いに大きくなったようだ。あの頃は1年生も2年生も3人しかいなかった。1.文字が小さい。老眼の進んだ老人には、写真もその説明も、地理院地図ベースの巡検マップも小さくて読みにくい。もう一回り大きい版にしてほしかった。2.まとまりすぎている巡検コースの説明、要所要所の写真とその場所の地形的特徴や歴史の解説など、たいへんよくまとめられ、詳細に記述されている。しかしそれを逆に言うと、個々の執筆者の個性やこだわりがあまり感じられない。私としては、大学1・2年生が書いた本なのだから、志す専門分野の学術的観点から見た各訪問地の意義、個々人が持っているであろう鉄道や地形や歴史に関するオタク的こだわり、それぞれの執筆者の感性の発露・・・といったものを期待して読...東大地理部の「地図深読み」散歩東京大学地文研究会地理部2024
アニメは今や日本を代表する有名コンテンツであり、その経済波及効果も当然大きい。全国各地のアニメ聖地=作品の舞台や作者の出身地・居住地には多くのファンが訪れ、アニメツーリズムは観光学の重要な研究対象にまでなっている。この本はアニメ地域の歴史的展開と、全国88か所のアニメ地域についての百科事典的解説(地理院地図つき)からなる。アニメ聖地巡りを趣味にする人には便利この上ない一冊だろう。アニメ聖地には大きく、作品の舞台となった場所と作者の出身地や居住地という2タイプがあり、両方が重複する典型例が次の10作品・作者だそうだ。1クレヨンしんちゃんの春日部市、2ゲゲゲの鬼太郎の調布市と境港市、3サザエさんの福岡市西新と東京都世田谷区、4こち亀、5キャプテン翼の葛飾区、6ちびまる子ちゃんの清水市、7釣りキチ三平の横手市、...アニメ地域学奥野一生2023
この本はCovid19の2020年に書かれたが、Covid19前からすでにアメリカと中国の経済的デカップリングが進行していたとしている。トランプ大統領は中国が不公正な貿易慣行を行っているとしてセーフガードを発動し、中国から輸入される太陽光発電パネルなどに追加関税をかけ、次に国家安全保障を根拠にファーウェイ社に対してアメリカ製品の輸出や技術移転を禁止した。反グローバル主義は、米中だけでなくイギリスのEU脱退をはじめ世界各国で見られる。Thebookwaswrittenin2020,theyearofCovid19,butitstatesthattheeconomicdecouplingoftheUSandChinawasalreadyunderwaybeforeCovid19.PresidentTrumpi...なぜ「よそ者」とつながることが最強なのか戸堂康之2020Whyisitmostpowerfultoconnectwith“outsiders”?
台湾、韓国、タイ、マレーシア、ラオス5か国の鉄道の利用方法から旅の魅力まで紹介した本。台湾の鉄道のうち嘉義を起点とする阿里山森林鉄路はスケールの大きい森林鉄道で、鉄道ファンのあこがれの一つ。台北近郊でお奨めれているのが平溪(ピンシー)線。台北からアクセスは約1時間、細い路地から列車が顔を出す十分老街、炭鉱の遺構、沿線の大半で秘境感を味わえる。韓国の鉄道は国鉄KORAIL3500㎞とソウルなど大都市の都市電鉄約1500㎞がある。鉄道の大半は左通行だが都市電鉄は一部右通行、直通運転する列車は途中駅で左右が入れ替わる。韓国一の秘境山岳路線は栄州から江陵を目指す嶺東線。タイの鉄道は、バンコクの都市電鉄を除き全線が非電化で冷房のない古い車両の窓を開け放って景色を眺めるという、昔ながらの汽車旅が日常風景になっている。...アジアの鉄道旅行入門植村誠2024
今年の元日、1月1日に起きた能登半島地震を徹底取材し、報じた記事をまとめて緊急出版した本。大判、総カラーの迫力満点の内容。印象的な点をノート。珠洲市を震源とするM7.6の地震、最大深度7。内灘町や新潟市の液状化発生地では、震源から遠くにもかかわらず不同沈下し建物が大きく傾いた。七尾市の免震構造の病院は無傷で救急診療を続けることができた。(トンネルは地震に強いと言われているが)国道249号大谷トンネル(珠洲市)や中屋トンネル(輪島市)では覆工コンクリートが大規模に崩落した。どちらも地滑り地形の範囲とかぶっており、地震動で地山が変異した影響を受けた可能性がある。直後の道路啓開(緊急復旧)がうまくいかなかったという批判報道が目立った。①元日の発災だったこと、②山地が多い地形で幹線道路がない、③東日本大震災と異な...検証能登半島地震日経XTECH+日経アーキテクチュア+日経コンストラクション共同編集2024
東京特別区(江戸川区、墨田区、台東区)においてそれぞれまちづくりを実践してきた3人の著者が、これからのまちづくりに関わる人のためになることを願って自らの経験を取りまとめた本。「まちづくり」という言葉が広く使われるようになり、まちづくりに関心を持つ自治体職員は多くなった。しかし公務員に「まちづくり」という職種はなく、どう仕事を進めればいいのかわからない場合が多い。この本の著者たちも最初は迷ったり叱責されたりしたことが正直に記されている。著者らの取り組みが実を結び、この20年くらいの間に、都心の東側の下町地域で多くの事業が動いてきたことを改めて実感する。・谷中地区の再生と密集市街地整備・東京スカイツリーとまちづくりグランドデザイン・京島地区の住環境整備なかには、動いた実感のない事業もあった。第1章で示されたま...〘実践〙自治体まちづくり学—まちづくり人材の育成を目指して上山・河上・伴2024
建築の素人にとっては、縦書きの文章と白黒の挿入写真からなるこの新書本を読んで、リアルの建築物の形態やそれがつくる空間を思い浮かべ、著者の言葉を実感を伴って理解することは難しいと思った。この本には、多くの日本人建築家、日本に影響を与え日本から影響を受けた海外の建築家が(ライト、ブルーノ・タウトら)が登場する。「モダニズム建築という新様式は、日本と工業的脱色が遭遇したところから誕生した」(p51)、「印象派が日本の浮世絵に触発されて~絵画の世界に大きな革命を起こしたのと同じような大きな渦が、日本とライトとの邂逅を菊花にして回転をはじめ、世界を大きく動かし始めた」(p43)とまで書かれている。一番わかりやすかったことは、最終章で述べられている著者自身の遍歴。1986年のバブルに沸き立つ東京で自分の設計事務所を開...日本の建築隈研吾2023
本書は、なぜテクノロジーを都市に応用すると悪い結果になることが多いのか、そしてテクノロジーがより公正で公平な未来をつくるために、我々が何をしなければならないかについて書かれている。従来のインフラと情報通信技術を統合したスマート・シティはユートピア的なものとして提示されるが、実際には都市を技術的な問題として劇的かつ近視眼的に再定義することを意味している。このような視点から都市生活の基盤や自治体のガバナンスを再構築すれば、表面的にはスマートであっても、その下では不正や不公平が蔓延する都市を生んでしまう。自動車がダウンタウンを支配し、歩行者は追い払われる、市民の政治参加はアプリを通じた改善要求に限定、警察がアルゴリズムを使って人種差別、政府や企業が公共空間を監視して行動をコントロールする…(p17)。7スマート...スマート・イナフ・シティ—テクノロジーは都市の未来を取り戻すためにベン・グリーン2022
地理の教科書も執筆している阪大の先生が、新しく高校の必修科目となった地理総合の解説書として書いた本。地理総合は系統地理を柱としてつくられており、それは「世界の成り立ちをロジカルに理解する」地理的思考力を重視することの表れだ。受験では地理総合とその土台の上の地理探求をあわせた科目選択になるだろう、とのこと。著者は文化地理が専門らしく、そのためか食文化や農業の話が比較的多く、なるほどと思わせる箇所も多い。自然地理や経済地理の話は比較的少なく、わりと一般的、常識的な記述にとどまっている印象。もちろんこれは高校生の予習復習、試験対策のための本だから、奇をてらわないのは当然だ。乾燥帯の農業は乾燥と戦い、湿潤地帯の農業は雑草と戦う。北緯35度線を境に、高緯度帯では食べ物を干したり塩漬けにしたりして備蓄する文化が育つ。...大学の先生の学ぶ初めての地理総合佐藤廉也
特に目新しいことがこの本に書かれているわけでもない。私自身が日ごろつぶやいていることと共通することも多い。にもかかわらず、これほど読んでいて不愉快になる本も少ない。日本という国と日本人の弱みを容赦なく攻撃されているからだろう。著者の意見の全てに同意するわけではないが、否定できない指摘事項=日本の問題点のいくつかをノートする。総論では日本人は本当の自由を知らず、制度をひたすら守り、過剰に働き、苦痛を忍び、権威や因襲に服従することを良しとしているかのようである。「予定調和」と「現状維持」が個人の自由や幸福を犠牲にしている。各論では日本人の英語力はアジアでも下位だ。外交官でも英語を自在に操れる人は少なく、カジュアルなパーティでのスピーチですら原稿を顔を上げず棒読みする。英語が下手でメンタルも弱いため、反論すべき...日本人という呪縛—国際化に対応できない特殊国家
『限界ニュータウン』の著者による続編。前著ではあまり触れられていなかった(と記憶している)都市計画法に関する記述が第1章でちゃんとなされている。限界分譲地は、その立地よりも自治体の開発規制に左右される面が大きい。1968年に都市計画法が制定されたが、その後に限界分譲地となった土地は都市計画区域外または非線引きに区分けされたため、規制は緩く、地価は安く、許可不要で開発できる面積規模も広かった。自治体の担当部署にも開発許可申請の記録が残されていないケースがほとんどだ。(注:当時、首都圏整備法により近郊整備地帯に指定された成田市、酒々井町、佐倉市以西は線引きが行われ、市街化調整区域での開発は厳しく規制されたが、本書の主対象となる八街町、山武町、大栄町などは区域外だった。その後列島改造などでそうした地域にも開発の...限界分譲地—繰り返される野放図な商法と開発秘話吉川祐介2024
いわば「じゃない方」の神奈川とも言われる相模地域、具体的には相模原、海老名、厚木、座間、大和それに東京都の町田を対象として、「何か」を見出そうと試みた本。相模地域は、国道16号線の郊外空間であり、一般的には「地域の独自性が失われた均質的な郊外空間」、「何もない郊外」という評価がされがちだ。・多くが相模野台地上にあるため水利に恵まれず、長らく原野が残り、開墾される余地を残してきた。農家の女たちは畑までの坂の上り下りや、深井戸からの水くみに苦労した。・戦前から軍の施設が多く、大戦中は首都防衛の拠点が置かれ、現在も多くの米軍施設が位置している。・高度成長期からバブル期にかけて、官民の住宅開発が活発に行われて人口が急増した。現在その郊外住宅地には高齢化の波が押し寄せ、活況が失われ、再生が試みられている。・相模大野...大学的相模ガイド—こだわりの歩き方塚田修一編2022
経済カテゴリの本は結構読んでいたつもりだが、経済学の本を読んでノートを書くのは久しぶり。経済学の復習と最近の金融政策に関する知識のアップデートのためにと思ってこの本を購入し、読み進んだ。ブキャナンの新正統派批判とかモディリアニとか、50年近く前に学習したことを懐かしく思い出した。しかし、読み進めていくうちに、この本はリフレ派と言われる著者の主張が込められていることがわかってきた。(第3章)日本の財政が破綻する可能性は低い。国債金利rよりも経済成長率(名目)gが高ければ財政は破綻しない(修正ドーマー条件)。2013以降コロナを除いて日本は〇。途上国などでは突然の金利上昇(=債券価格下落)発生が起こり得るが政府日銀の対応で。(※財務省はr≒gを前提にプライマリーバランスの黒字化=政府債務残高/GDPの引き下げ...財政・金融政策の転換点—日本経済の再生プラン飯田泰之2023中公新書
この本は、インドの多様な地域特性に始まり、政治情勢、モディ政権化のインド経済、主要財閥と産業、貧困と環境問題、外交、日印関係までを幅広く解説している。インドに関する日ごろの疑問1独立後、インド経済はなぜ長らく停滞し、なぜ近年急成長しているのか?独立から1996まで国民議会派がほぼ政権を握り、インディラ・ガンジー首相などが非効率な社会主義的慶経済運営を推し進めたことから、東・東南アジアとは対照的に経済は停滞した。1991年に経済自由化に着手し、貿易自由化、関税引き下げ、輸出振興策が採られて経済は上向き、2003年にはBRCsの一つに挙げられるなど高い経済成長を記録した。2010年代には調整局面を迎えたが、2014年総選挙のBJPインド人民党勝利とモディ首相就任以後高い経済成長率を示し、その後コロナ禍があった...インドーグローバル・サウスの超大国2023中公新書