三鷹通信(320)第28回読書ミーティング⑤元霞が関官僚H氏の推薦図書
読書ミーティング参加者H氏(元霞が関官僚)の推薦図書。下町ロケット(池井戸潤)宇宙科学開発機構の研究員だった佃航平が、死んだ父親の経営していた中小企業「佃製作所」の社長となり社員と共に奮闘する姿を描く。*「あんたたちを信じた人を裏切るな」という巻末の言葉が心を打つ。中国製造2050(遠藤誉)習近平は今何を目論んでいるのか?通信の世紀(大野哲弥)情報技術と国家戦略の150年史。FEMINISTFIGHTCLUB(JESSICABENNETT)女性が職場で活躍するために。ビットコインとブロックチェーンの思想(野口悠紀雄)これからの貨幣経済を知るために。*いかにも元霞が関官僚のセレクトした図書の数々!三鷹通信(320)第28回読書ミーティング⑤元霞が関官僚H氏の推薦図書
平成30年のベストセラー1.漫画君たちはどう生きるか(吉野源三郎)、2.大家さんと僕(矢部太郎)、3.残念な生きもの辞典(今泉忠明他)、4.モデルが秘密にしたがる体幹リセットダイエット(佐久間健一)、5.医者が教える食事術最強の教科書(牧田善二)、6.続ざんねんないきもの辞典(今泉忠明他)、7.頭に来てもアホとは戦うな!(田村耕太郎)、8.ゼロトレ(石村友見)、9.君たちはどう生きるか(吉野源三郎)、10.信仰の法(大川隆法)*ロンベスセラーの傾向は続く(君たちはどう生きるか、ざんねんないきもの辞典)*次の時代のキーワードは<癒し>三鷹通信(319)第28回読書ミーティング④平成30年
三鷹通信(318)第28回読書ミーティング③平成後期(衰退期)
第28回読書ミーティング③平成後期(衰退期)(平成23年~29年)この時代のミリオンセラー(100万部以上)くじけないで(柴田トヨ)、置かれた場所で咲きなさい(和子)、人生がときめく片づけの魔法()、医者に殺されない47の心得(近藤誠)、嫌われる勇気()、まんがでわかる7つの習慣(フランクリン)、君たちはどう生きるか(吉野源三郎)*その他に、謎解きはディナーの後で()、聞く力()、学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に合格した話()、火花(又吉直樹)、君の膵臓を食べたい()、90歳で何がめでたい()*主な出来事・・・東日本大震災(23年)、東京スカイツリー開業(24年)、消費税8%に(26年)、北陸新幹線開業(27年)、SMAP解散(28年)、天皇退位特例法が成立(29年)*ミリオンセラーのキーワ...三鷹通信(318)第28回読書ミーティング③平成後期(衰退期)
平成中期(平成9年~22年)成熟期のミリオンセラー。大河の一滴(五木寛之)、五体不満足(乙武洋匡)、だからあなたも生き抜いて(大平光代)、ハリー・ポッター賢者の石、チーズはどこへ消えた?(スペンサー・ジョンソン)、バカの壁(養老孟司)、IQ84(村上春樹)*他に失楽園、少年H,世界の中心で愛を叫ぶ、蹴りたい背中、13歳のハローワーク、グッドラック、電車男、さおだけ屋はなぜつぶれないのか、国家の品格、頭がいい人悪い人の話し方、東京タワー、ホームレス中学生、夢をかなえるゾウ、B型自分の説明書、もしも高校野球の女子マネージャーがドラッガーのマネジメントを読んだら。*主な出来事・・・消費税5%に(9年)、長野オリンピック(10年)、AmazonJapan開業(11年)、米同時多発テロ(12年)、リーマンショック(20年...三鷹通信(317)第28回読書ミーティング②
昨日、現役編集者の主宰する第28回読書ミーティングが、三鷹市民協働センターオーバルルームで、編集者、元官僚、地域在住者など10人を集めて行われた。最初に講師から平成30年間の出版業界の推移について説明があった。<初期>平成元年~8年。<中期>9年~22年。<後期>23年~30年。1996年をピークに、SNSの発展に呼応して衰退の一途を辿っている。書店の衰退。<平成初期>出版界頂点への道。この時代の100万部以上ミリオンセラー。キッチン(吉本ばなな)、愛される理由(二谷友里恵)、恋愛論()、それいけXココロジー、ソフィーの世界、ピストロスマップ完全レシピ(講師が関わった)、弟(石原慎太郎)*他に、サンタフェ(宮沢りえ写真集)、もものかんづめ(さくらももこエッセイ)、清貧の思想(中野孝次)、磯野家の謎、マジソン郡の...三鷹通信(316)第28回読書ミーティング①
三鷹通信(315)三鷹市民大学「江戸の思想史」①武士をめぐって」
今日の三鷹市民大学「日本の文化コース」の講師は、田尻祐一郎東海大学文学部教授です。近世日本の儒学思想を中心にして、日本の思想史を研究されていますが、今日の課題は「江戸の思想史から武士をめぐって」です。日本の武士は、アジア文明圏のスケールから見ると、他にはない特異な存在のようです。つまり、刀を振り回す野蛮な戦闘者という見方です。しかもその軍事政権が社会の統治者として長く続いた。東アジアの中国を中心とする儒教的な価値観によれば、<武>による支配は野蛮であり、<文><徳>による支配こそが文明社会だという考え方です。<科挙>という(紙と筆の、つまり哲学・文学・歴史を重視する)制度で選ばれた階級を問わないエリートが社会を支配すべきで、その点日本の武士による統治は<野蛮>だというのです。では、日本の武士なる本質は如何なるも...三鷹通信(315)三鷹市民大学「江戸の思想史」①武士をめぐって」
<初めてのゴルフ>②あっという間にゴルフ場の外観が目に入って来た。・・・大きい!おじいさんが通っていた三鷹の練習場みたいだ・・・愛はなんとなく気持ちが高揚するのを覚えた。「さあ、降りようか」宮司はトランクからゴルフバッグを引き出して練習場の玄関へ向かった。・・・ゴルフバッグを持ち歩いているんだ・・・大きなゴルフバッグを背負うオヤジの姿を見て思わず愛は呟いた。「遅いじゃないか!」練習場のロビーに入るとでかい声がこだました。ロビーのソファーに寝そべっていたオヤジが背を立てた。「いやあ、わるい、わるい。<希望の星>を連れて来たから・・・」・・・希望の星?・・・ふたりのおやじが愛をじろじろと眺めた。「どこの娘(こ)なんだ?」受付で記帳している宮司にオヤジ2号が近づいてきて声を潜めて訊いた。「だから言っただろう。友達から...小説「レロレロ姫の帰還」(6)初めてのゴルフ②
(6)初めてのゴルフ①洋品店の前に停めてあったレクサスに乗りこむと、小山内宮司は改めて満足そうな笑顔を石田愛にむけた。・・・豪華な車だ。いくらお金をもっているんだ。このオヤジ・・・ゆたりとしたレクサスの助手席に身を沈めた愛は、改めて宮司の顔を眺めた。街に出ると熊本城が見えた。「あれ、壊れたんでしょう?」愛は宮司にあの時の悲惨な地震を思い起こさせるように声をかけた。「ああ、熊本城ね。すぐ修復するよ・・・」こともなげな宮司の反応に愛はムカッとした。「熊本のシンボルが壊れたって、タイヘンなことじゃない!」「いや、遠目にはダイジョウブなように見えるし・・・」宮司がハンドルを切ると、熊本城は視界から消えた。「上から見るとシャチホコは無くなっているし、悲惨なものよ」「上から見ると?」宮司は疑わしげな顔を愛に向けた。「だれも...小説「レロレロ姫の帰還」(6)初めてのゴルフ①
5年前石田愛が三鷹市に住んでいた時、おじいさんから近くにあった国際基督教大学のセミパブリックゴルフコースへよく通っていたということを聞かされていた。そのゴルフ場が東京都に売り渡されて都立野川公園になった。そこへ行ったことがあって、愛はバンカーとかグリーン跡とかを実際に見ている。彼女自身ゴルフをやったことはないが、日ごろテレビを見たり、ゴルフ好きのおじいさんのような人が身近にいたということで、ゴルフというもののおおよそのイメージは彼女の脳細胞の一部に焼き付いていた。「そうか、知っているのか。で、やったことはあるの?」「やったことはないけれど・・・」「ともかくやってみれば分かるさ。キミは足が速いので有名だったわけだし素質はありそうだ・・・」宮司は何かを感じ取ったのか、光る眼を宙に浮かせた。「ともかく、いつまでもそん...小説「レロレロ姫の帰還」(5)再び熊本市③
「はい、はい。そうだけど。・・・今?家だけど。何?ゴルフ?」小山内宮司はケイタイを手で覆い、石田愛の顔をうかがった。「ふん、・・・じゃあ15分ぐらいで行くよ」少し時間をかけて脳細胞を働かせていたのは、たぶん電話の相手の要求に対して石田愛をどう絡めて解決するかを考えていたに違いない。「いっしょに出かけよう」宮司は頭の中のこんがらがっていた糸が解けたかのように明るく言った。「ええ・・・」石田愛は当分は宮司のいいなりに行動するしかないと割り切った。「ここがキミの部屋だ」宮司は隣の部屋のカギを開けて中を覗かせてくれた。ベッドや机、テレビも見えた。家具一式がそろっている。・・・誰を住まわせる予定だったのだろうか?・・・「じゃあ、これ渡しておくから自由に使いなさい」宮司は愛にカギを渡した。・・・自由に使えと言われても・・・...小説「レロレロ姫の帰還」(5)再び熊本②
小説「レロレロ姫の帰還」(5)再び熊本市①「信じてもらえない?そう言われてもここに住むからには信じられないようなことでも話してもらわないと・・・」今まで商店街の優しおじさまみたいだった小山内宮司の顏が古武士みたいな顔に変わった。「やむを得ないわね・・・」石田愛はしばらく宮司の変容した顔を眺めていたが呟いた。そして意を決したように話し出した。「10歳までは言葉もしゃべれなかったし、歩くことも困難な重度の障害児だったの・・・」「・・・」「それが、東日本大震災の時、大変身して一般の小学校に入学することができるようになったの・・・」「変身?」宮司の顏が元のおじさんの顔に変わった。「その小学校で、人類は自然をコントロールするなんて考え方はやめにして、自然と共生すべきだと発言したことがきっかけでテレビにも出たの・・・」「テ...小説「レロレロ姫の帰還」(5)再び熊本市①
三鷹通信(314)三鷹市民大学「伝統日本への反逆と現代」②岡本太郎
三鷹市民大学「伝統日本への反逆と現代」②岡本太郎講師は大久保喬樹東京女子大名誉教授岡本太郎は政治漫画家岡本一平、歌人で小説家の岡本かの子との間に生まれ、1930年(S.5)から10年間フランスで暮らす。その間、抽象美術運動やシュールレアリスム運動とも接触した。戦後、日本で絵画など芸術作品制作のかたわら、合理的世界観を超えるものを求め日本の各地を回り、<なまはげ>などにも関心を示し、<縄文土器論>などの文筆活動にも携わった。1952年(S27)「四次元との対話・縄文土器論」を発表。<縄文土器>─民族の生命力─「いやったらしい美しさ」はじめて縄文土器を突きつけられたら、その奇怪さにドキッとしてしまう。どこの野蛮人が作ったんだろう、ものすごい、へんてこなものだ、と思うにちがいありません。それこそじつは日本人、正真正銘...三鷹通信(314)三鷹市民大学「伝統日本への反逆と現代」②岡本太郎
三鷹通信(313)三鷹市民大学「伝統日本への反逆と現代」①坂口安吾
三鷹市民大学日本の文化コース「伝統日本への反逆と現代」①坂口安吾は、まさに戦前の国粋主義者に対立する無頼派(アナーキー反道徳・反権威・反秩序)であった。弱気の太宰治に対して坂口は強気の無頼派だった。まだ戦中さ中、昭和18年に彼は「日本文化史観」を捨て身の覚悟で発刊した。内容は日本の伝統文化・芸術をコケにしたものだった。竜安寺の石庭「深遠な<禅の境地>に通じていても、涯(はてし)ない海の無限なる郷愁や砂漠の大いなる落日を思い、石庭の与える感動がそれに及ばざる時には、遠慮なく石庭を黙殺すればいいのである」ただ、松尾芭蕉を評価していた。なぜか?芭蕉は庭を出て、大自然のなかに自家の庭を見、叉、つくった。彼の俳句自体が、庭的なものを出て、大自然に庭をつくった。・・・竜安寺の石庭よりはよっぽど美しいのだ・・・と評価した。茶...三鷹通信(313)三鷹市民大学「伝統日本への反逆と現代」①坂口安吾
エッセイ(489)中学の同窓会そして大学名誉教授のサロンと忙しい一日
昨日は東京に在住する中学の同窓生との新年会、そして大学名誉教授を囲むFサロンと忙しい一日だった。金沢の中学で東京に在住する同窓生の新年会は名幹事Eくんのお骨折りで毎年東京駅八重洲口の「ちゃんぽん」で開かれる。今回も10名が集まった。話題は昨年末死にかけたボクのことからほぼ病気の話。二回も癌の手術をしているにもかかわらず、ゴルフでエージシューター一歩手前まで行ったこと、スチールギターを弾いて今でもハワイアングループを率いるTくんなど元気いっぱい。病気に関係のないのは今でもゴルフをやるEさんと、有名なオリンピックチャンピオンを旦那に持ち、ご自身も体操選手として活躍、いまでも後進の指導に当たるKさんの女性二人のみ。この「あじさい会」なる中学の同窓会を率いるのはもう一人の名幹事Mくん。彼を永久名誉会長に推挙。今年は熱海...エッセイ(489)中学の同窓会そして大学名誉教授のサロンと忙しい一日
昨年末死にかけて、現在も胃がん持ちのボク。新宿で迷子になったりしたが、今食欲はあるし体調はおおむね良好である。しかし、歯が沁みる。特に冷たい水を飲むと痛い。敢えて<歯医者>に行った。「詰め物が取れたんですね・・・」サーフィン愛好家の豪快な先生は、ボクの苦痛などおかまいなしに、ギーギー、ガーガーと器具を駆使して処理する。「しばらく通っていただきます」だと。ジュリアス・シーザーの名言「多くの人は見たいと欲する現実しか見ていない」健診センターの名誉センター長をしている友人がメールをくれた。「飲酒に対する注意など、受診者は自分の聞きたくない医師の進言など聞いていない」と。しかし、「料理だけでなくアルコールをこよなく愛した西園寺公望公は91歳まで生きた。自分もその線で行く・・・」と。エッセイ(488)敢えて歯医者に行く
大学時代の下宿仲間と50年以上続く交流会が昨日、新宿の小田急ホテルセンチュリーサザンタワー19Fのほり川で開かれた。昨年末死にかけて、胃がんを内蔵するボクは家内にサポートされて参加した。事前に調べて新宿駅南口からめちゃ近い所だという意識だけで資料は一切持ってこなかった。むしろ、ボクが家内を先導するつもりだった。ところがホテル名だけを頼りに目的地を探し出したが、高層ビルだらけでどれだか分からない。警備員らしき人に聞いても分からない。交番もない。家内にくっついて歩いていたのだが、そのうち家内とも離れてしまった。家内そして、今回の主催者Kくんからも携帯に「どこにいるの?」と問われたが自分の居場所が分からない。西新宿辺りらしい。「タクシーで来て!」と言われやっとタクシーを捉まえて到着した。その間一時間近く、歩いた距離は...エッセイ(486)大学時代下宿仲間との50年以上続く交流会
小説「レロレロ姫の帰還」(4)三鷹市②「警告だと捉えようとしないから災害の規模もだんだん大きくせざるを得ないんです」石田愛はダメを押すように付け加えた。「石田の言うことを聞いていると、何か自然が意思をもって人類に災害をもたらしているかのような言い方だけど・・・」後藤先生は反駁した。「そうです。自然には意思があるんです!」「じゃあ、自然に意思があるんだとしたら、なぜ世界で最も自然を愛している日本にこんな過酷な被害をもたらすようなことをするんですか!」いつもは子どもたちに優しい後藤先生が、ついに大人に対するような口調で詰問するように言った。「自然を愛している日本は、自然の恵みを素直に受けて自然と共生する考え方に立つべきなんです。ところがこのところそうでない考え方に与しているのが問題なんです。「そうでない考え方に与し...小説「レロレロ姫の帰還」(4)三鷹市②
小説「レロレロ姫の帰還」(4)三鷹市①・・・彼女自身の存在が幻想そのものだったんだ・・・三島くんは改めて口に出してみた。あの東日本大震災が発祥した年、彼が小学校5年生の時石田愛は転校してきた。三島くんたちは、その被害のすごさについてホームルームで語り合った。何しろ地震だけではなく、大津波に東北地方一帯が根こそぎ洗い流されてしまったのだ。おまけに福島の原発までもが壊滅的な被害を受け、周辺の人たちは放射能の影響で避難せざるをえないという、ダブル、いやトリプルの被害を受けた。日本の歴史、いや世界の歴史の中でも稀有な大震災だった。それでも、世界から温かい励ましや支援が寄せられ、日本の人たちは「絆」という言葉に象徴される人類の新たな価値を見出した。そんな思いを生徒たちは語り合った。「キミはどう思ったかな?」話し合いが一区...小説「レロレロ姫の帰還」(4)三鷹市①
「ボクにとって格別な一日」今日は久しぶりの三鷹市立第一小学校の「スマイルクラブ囲碁教室」だ。少し早めに出て、近くの刈谷珈琲店に寄ることにする。病気で弱気になっているボクにパワーを送ってくれた三鷹市民大学仲間にお礼するために・・・。ボクのスタイルは、毛糸の帽子、シルバーのダウンパーカーにマスク。、、まるで芋虫のような姿だった。2年ぶりだ。はたして分かってくれるか?ところがめぐみさんは直ちにボクと分かって、目をくりくりさせて歓迎してくれた。グアテマラの中深炒りのコーヒーを入れてくれて・・。そして、「最近ここで、毎週火曜日に囲碁をやっているんです」と・・・。「碁盤を置いて、すでに六段を筆頭に五人ばかり集まって、コーヒーを飲みながら囲碁を楽しんでいるんです」と。格好いいイケメン、中年のマスターも「まだ初めて間がないので...エッセイ(485)格別な一日
小説「レロレロ姫の帰還」(3)熊本市②「ほら、ここだ」小山内宮司は道端の縁石に沿って車を静かに停めた。熊本市の中央、ちょっとした前庭もある7階建ての立派なマンションだ。ここの最上階が宮司の住居だ。「わたしが住んでいたマンションに似てる・・・」石田愛はマンションの全体を見回しながら懐かしそうにつぶやいた。「マンションに住んでいたの?どこの?」宮司はこの時とばかり愛に問いただした。「東京よ」そう言うと宮司を振り切るように愛はエレベーターホールに向かった。「一番上なのね?」確認する前に彼女はボタンを押していた。「東京も広いけど・・・」エレベーターに乗りこむと宮司は追求するように訊いた。「三鷹・・・」愛は次々に変わる階を表示するボタンを見ながら言った。「三鷹か・・・。東京でも比較的自然災害を受けにくいところだ・・・」宮...小説「レロレロ姫の帰還」(3)熊本市②
小説「レロレロ姫の帰還」(3)熊本市①「ともかくウチのマンションへ行こう」宮司は車を走らせた。「あっ、熊本城だ・・・。地震で壊れたんでしょう?」石田愛が叫んだ。「このところ熊本は地震、大雨と自然災害の集中攻撃を受けてたいへんだったんだ。地震で重要文化財の熊本城は壊れるし・・・」「・・・」「その後、大雨でこの辺りも冠水して大変だったんだ・・・」「・・・」「何で熊本ばかりが被害に遭わなきゃいけないんだ・・・」苦虫をかみつぶしたような顔になって、宮司らしくもなく思わず愚痴を漏らした。・・・熊本ばかりじゃないだろう。神戸や東北だって・・・。自業自得だ・・・「えっ?」宮司は石田愛の顔を見たが、声が小さくて何と言ったか聞き取れなかった。たしかに宮司ではないが、熊本市は二度も大きな地震に見舞われた後、数え切れないほどの余震に...小説「レロレロ姫の帰還」(3)熊本市①
エッセイ「院長先生と対決」意識不明で救急車で運ばれた病院で、必死の検査の結果ボクは外傷性「肝膿瘍」と診断され、おかげさまで完治した。しかし、その過程で<胃がん>が見つかった。絶対手術すべきという院長先生と、したくないボクはいよいよ今日対決する。外科部長から手術すべきだと言われ、・・・抗がん剤で・・・というボクに、オンコロジー(腫瘍学)センター長からも、抗がん剤治療では完治は期待できない。むしろ副作用に悩まされる。基本は手術(開腹あるいは内視鏡)だと諭される。そして今日は院長先生から「やはり、絶対手術すべきだ!」と断言された。ボクは生意気にも「現代医療では、神経あるいは精神作用の効果についての研究が不十分である。センター長からも、手術、抗がん剤、放射線治療などを受けず<癌と共生する>道を選んで生き延びた例があるこ...エッセイ(484)院長先生と対決
小説「レロレロ姫の帰還」(2)チュルチュル⑤「はい、おまちどうさま・・・」女将は湯気の上がっているラーメンを石田愛の前に置いたが、目はジロジロと遠慮なしに彼女に注がれている。愛はそんな目は一切気にしないで箸を割ると、早速麺をすくった。そして、宮司にニコッとした笑顔を向け、麺を口に運んだ。・・・ズルズル・・・勢いよく啜る姿を二人の大人が凝視している。そんな目を一切気にしないであっという間に食べ切った。「わたしチュルチュルが好きなんだ。美味しかった・・・」「チュルチュル?」満足そうな笑顔を向けられて、宮司も女将も同じ言葉を反復した。「小さいときはチュルチュルしか食べられなかったんだ・・・」その意味するところを問いかけようとした大人たちを制して、愛は立ち上がった。「さあ、行きましょうか?」立ち上がると愛はいきなり宮司...小説「レロレロ姫の帰還」(2)チュルチュル⑤
「レロレロ姫の帰還」(2)チュルチュル②「ともかくラーメンを一つ頼むよ」「えっ?ひとつ?宮司さんのはいいの?}「わたしはいいんだ。朝飯を食べたばっかりだし・・・」女将は納得できない顔で奥にひっこんだ。「おじさんのお友達の子どもってわけね・・・」「そう・・・」石田愛は小さく頷くと宮司にウインクした。・・・お嬢さん!中年の宮司だと言っても独身だよ。気をつけな・・・一度調理場に引っ込んだ女将が、女の子の呟きを聞きとがめて、意味ありげな顔を覗かせた。・・・おい、そんな関係じゃないんだよ・・・女将の心の内を勝手に斟酌して宮司は心の中で反発した。3人の間で微妙な感情のやり取りがあったが、石田愛は全然そんな心配をする必要のない、普通の子どもではないことが徐々に明らかになる。─続く─囲碁の天才少女、仲邑菫(なかむらすみれ)10...小説「レロレロ姫の帰還」(2)チュルチュル②
小説「レロレロ姫の帰還」(2)チュルチュル①登校するのだろうか、前方を歩く子どもたちをハンドルを捌いて避ける。・・・地震なおとろしか・・・・・・何ばきよそついとっとな・・・・・・穴ば、空いとるけ、気つけや・・・・・・この娘(こ)は、彼女らとまったく異なる。・・・何かバーンとした身体の中心を走る芯のようなものを感じる。「何が食べたい?」「何でもいいけど、ラーメンとか・・・」でも、口から出る言葉は普通の娘(こ)の言葉だ。宮司は車を馴染みの中華店の前に停めた。ちょうど店を開くために女将が暖簾をかけているところだった。「ラーメンできるかな?」宮司に声をかけられた女将はそれには答えないで、彼に寄り添っている女の子に目を留めた。「あら、どこのお嬢さん?」何はさておいても、今、女将が解き明かしたいことだった。・・・宮司とカワ...小説「レロレロ姫の帰還」(2)チュルチュル①
「レロレロ姫の帰還」(1)神社の森④「おうちは熊本市内なのかな?」彼女を助手席に乗せ、サイドブレーキを解きながら宮司は訊いた。白い脚が光もののように目に入り、賽銭箱のわきに横たわっていた彼女の姿が頭に浮かんだ。彼女は黙って首を振った。「遠くから来たんだ。どうやって来たの?」「疲れたから寝ていたの・・・」電車に乗ってきたとか、詳しい経緯を聞き出したかったのだが、彼女は全て端折って、宮司が目にした自らの姿についてのみ結論的に述べた。「そうか・・・。ところでお名前は?」宮司は質問を変えた。「石田愛です」これには素直に応えた。「愛ちゃんか。どうして家出なんかしたのかな?」「したかったから」社務所でも言った言葉を吐き出すように言った。・・・したかったから・・・・・・なんてはっきりした自分本位の言い方なんだ。これが現代っ子...小説「レロレロ姫の帰還」(1)神社の森④
小説「レロレロ姫の帰還」(1)神社の森③「家出?おうちはどこなの?高校生なのかな?」宮司は矢継ぎ早に訊いた。「いえ、中学三年生です」・・・中学生?それにしてはしっかりしていて、しかも色気まで感じる・・・(こんな感じかな?)宮司はオヤジの目になった。「どこの中学生?」「言えないんです」彼女は宮司の目をしっかり見返しながら言った。「言えない?」彼の肩に木立からしずくが降りかかった。「ともかく中に入ろう・・・」宮司は未成年の彼女を保護する義務があることを感じて、彼女の手をとると社務所に向かった。彼女は思いのほか素直に彼に従った。「なぜ家出なんかしたのかな?」社務所のカギを開けて中に入り、彼女を椅子に座らせた。そして改めて尋問するように問いかけた。「したかったから・・・」「したかったから?」宮司は真っ白いタオルで彼女の...小説「レロレロ姫の帰還」(1)神社の森③
小説「レロレロ姫の帰還」(1)神社の森②数メートル先の焦げ茶色の本殿を背景に、賽銭箱の横から白い人間の脚らしきものが垂れ下がっている。・・・人がいる・・・宮司の背筋にツーっと汗が流れた。恐る恐る近づくと、スカートがめくれて剥き出たスマートな白い脚に連なって仰向けになった若い女性の上体が目に飛び込んできた。・・・高校生?あるいは中学生だろうか、セーラー服を着ている。まだ幼さが残っているがかなりの美人だ。というか、間違いなくカワイイ少女だ。・・・「お嬢さん、なんばしよると?だいじょうぶ?」宮司はその柔らかそうな肩に手を触れて声をかけた。ぴくっとからだが動いて、大きな目が見開いた。「あっ、スイマセン・・・」若い娘はスカートを整えながらいきなり立ち上がると爽やかな声を発した。少なくとも病人には見えない。「どうしたのかな...小説「レロレロ姫の帰還」(1)神社の森②
小説「レロレロ姫の帰還」(1)神社の森昨日の大雨と風で神社の境内は濡れた落葉に敷きつめられていた。拝殿に向かう参道の右手の、最近増設した社務所の白木もしっとりとした薄茶色に染まっている。小山内は秋祭りを控えて、その準備のために久しぶりで境内に足を踏み入れた。小山内茂56歳熊本市の中心にビルをいくつか所有する不動産業を営みながら、宮司として郊外の神社に催事の時だけ顔を出す。がっちりとした体躯に顏はいささか厳ついが、頭髪が後退しておでこが広くなっていることで優しさを醸し出している。仕事付き合いの面では、神職を兼ねているということもあって人望がある。湿った空気とサクサクという音に包まれて境内に足を踏み入れた彼は、鬱蒼とした木々に囲まれていつものように至福のひと時となるはずだったが・・・。このときばかりは何か得体のしれ...小説「レロレロ姫の帰還」(1)神社の森
明けましておめでとうございます。まさにボクにとっては、先は見えませんが、とにかく前へ進むしかありません。<猪突邁進>です。精神力で体力をカバーするしかありません。<生きる糧>としては、唯一実績のある「レロレロ姫の警告」でしょうか。何点かのご評価を頂いています。アマゾンでは、地元では、そして昨年、三鷹市民大学の哲学コースで講演をいただいた、武蔵野大学の小松奈美子先生からは、わざわざアマゾンから取り寄せてお読みいただき、「素晴らしくて涙しました」と過分なご評価をいただきました。こうして何人かの方からのご評価を糧に、今年はこの続編にチャレンジするつもりです。皆さんのサポートを頂ければ幸いです。エッセイ(483)猪突猛進の年を迎えて
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