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  • 詩 透明な統計表

    透明な統計表前田ふむふむ1東日本大震災・死者・行方不明者数二〇十二年三月十日(石巻毎日新聞)死者15854名宮城県9512名岩手県4671名福島県1605名茨城県24名千葉県20名東京都7名栃木県4名神奈川県4名青森県3名山形県2名群馬県1名北海道1名行方不明者3155名数字だけが書いてある死者を数量で表せば伝わりやすいし分かりやすいだろう掲示板もだいぶ傷んでいて新聞記事が剥がれかかっているあと二、三日したら風に飛ばされどこかに消えて無くなるだろうでも私が読み終わり遠く水平線に眼を逸らすまで新聞記事はいつまでも数字の視線の高さで影のように血のように私をみている風が唸る音がしたいつまでも身体を撫ぜる大気が剃刀のように斬りつけているのに空だけがなぜこんなに青いのだろう私は廃屋の古びた土の壁に思いついた名前を拾った鋭...詩透明な統計表

  • 詩 階段

    階段前田ふむふむ午前八時古い雑居ビルの階段にすわりながら順番を待つわたしは九番目だったが最初のひとは朝六時ごろに着いたそうだエアコンがないので階段はじわっと湿っていて蒸し暑かった粘り気のある汗が噴き出てきて全身を虫のように這っていく片方の側の壁には成人病の予防広告がいくつか貼りついているいつ貼ったのだろうか黄ばんで汚れているそのいくつかはだらしなく剥がれかかっているわずかに一つある蛍光灯は不規則に点滅しているがいつの間にか切れている遠くで船の汽笛が聞こえる海が近いのかもしれない一列に並んでいるものは誰も話そうとしなかったがひとりが携帯電話を掛けるために場所を立つといっせいに喋りだした簡単な会話が終わると約束事のようにピタリと止まった後から来た人は黙って順番に階段の上のほうにすわって並んだ小さな窓からひかりは入っ...詩階段

  • 駅前田ふむふむマダツカナイノカネー母は床ずれをした背中を横にする白い介護ベッドのシーツは石鹸の匂いがしたアーエキニツイタヨオリナイノカイ母はうすく眼をあけているうん降りようまた明日大宮の氷川様までいっしょにいこうソウダネマタアシタ母は眼を瞑りうれしそうに寝ているようにみえる窓からみえる空にめずらしく星がきらめいているあれがガスや岩でできているというのは作り話だもうすぐ母は星になる駅

  • 雨前田ふむふむ雨が降っている間断なくなぜ雨を物悲しく感じるのだろうたとえば勢い良く降る驟雨は元気で精悍ささえ感じるまっすぐで常に潔いでも夜になり家のなかでひとりでいるとき雨は無機質で均等なときに不均等な間隔をおき弱く屋根を打つうしろめたい影のようにわたしの心臓の音だ雨

  • 名前

    名前前田ふむふむ名前のないものに出会ってみたい早朝太ったカラスがゴミ袋を突いていた嫌われもののずる賢い生き物にも立派な名前が付いている全く分からないものにも未確認物という名前がある名前のあることは幸運なのかもしれない「名前がない」という永遠の孤独の闇にいないのだからわたしは「氏名」という名前があるそれを出生以来自分で刻んだ来歴を好みの色に染めながらときに窮屈にときの気楽に演じている今、晴れわたる昼なのにヘッドライトとテールライトをつけた車が通り過ぎて行ったわたしはかりに名前のないものに出会ったら躊躇せず名前をつけるだろうその自由へ(その自由から)その隔離へ(その隔離から)部屋の北がわの窓をあけると隣の屋根でいつもシャム猫が日向ぼっこをしている時々眼があうが一度も鳴き声をきいたことがない名前

  • 死の練習

    死の練習前田ふむふむ所要により月一回西日暮里に行っているそれ自体は楽しいことなのだが途中JR王子駅を通過するそこには母が臨終を迎えた病院がある王子駅に電車が止まるたびにわたしは母を何度も殺している「王子、王子です」母の記憶がきつい痛みとともに全身の毛穴から真夏の炎天下の汗のように溢れだすこうしてわたしは行きと返り母を二度殺してわたし自身も二度死んで二度生まれ変わるのだ遠く空をいく鳥も悲痛な声で鳴いているだがそれはわたしの身勝手な感傷にすぎないだろう本当は滑稽だと抱腹絶倒して笑っているかもしれないではないか死の練習

  • 詩の断片

    断片前田ふむふむ発熱のためか気だるい身体で目覚めるクリニッジ時計の針のような変わらない朝がやってくるカッターナイフのような風が吹いてくるわけでもない雨どいからわずかに落ちる水滴に世界が震えあがることをわたしの血が枯れるぐらいの遠さで想像する追認しているのだ友人の血のような追悼の言葉さえラブレターの火が沸騰するぐらいの言葉さえわたしはそのあとをついていく愛犬のようにいやあるいは留まっているのかもしれない牢獄にいる囚人としてならばわたしはもうどれくらいうす暗いこの牢獄にいるのだろうかそれでも苦しくはないときどき眩しいくらいの日差しが僅かではあるが頑丈な窓から射すことがある書くということはそういうことだ歯を磨きながら鏡ごしにテーブルの朝食がみえる詩の断片

  • 詩の断片

    断片前田ふむふむ涙があふれそうな荘厳な空の夕暮れをみているもうすぐ一日が死ぬのださっそく一日の葬儀をしなければならない庭にある花を束ねて追悼をしたい空の向こうでは火葬がおこなわれるのだろかそれとも土葬かいや夕暮れの光景には水葬がふさわしいだろう花束を高く掲げて下半身を雲に覆われている溶けそうな太陽に乗せれば空は色彩をくらくしてやがて黒い夜のなかで花束は行き場を失うわたしはこうして多くを見送り多くを忘れさり花束をゴミ箱に捨ててきたのだ詩の断片

  • 詩 虹

    虹前田ふむふむあそこに虹がでてるよ青い空を見ながらみんなは喜びはしゃいでいるがわたし一人は背をむけてじっとしていたじりじりと暑さがアスファルトの地面を溶かしている空には真っ黒な雲がいたるところで残っていたまだ雨が降るかもしれない虹が幸運の兆候なのは一瞬のひかりを追いかけても追いかけてもけして誰も手にできないと知っているからだだから無防備に顔から眼を取り鼻を取り口を取り耳を取った無垢な顔をして眺められるのだ父とわたしの背中が激しくぶつかる痛いと思ったが何かを言ってほしかった父は何もなかったように無言でふりかえり笑顔を突き出してまた虹を見ているほんとうに虹が白く見えるのですかはい何も異常はないようですね初老の医者がいっていたわたしは一人河川の丘陵をくだり自分の鏡のような異様に黒い雲にむかっておもいっきり大きく深呼吸...詩虹

  • 詩 月

    月前田ふむふむ欠けている月をみるとこころが穏やかになる足りないということはいのちがあるという証拠だときどきひときわ大きい満月が空に浮かんでいる二次元ユークリッド空間上の中心からの距離が等しい点の集まる曲線あれをみるとシネといわれているみたいだあの完璧さに何を望めばいいのか何を答えればいいのかわたしは暗い部屋の隅で蹲るしかないそして嘔吐するほど気持ち悪くなり泣くのだ雲たちよ空を覆い雨を降らせてくれはやくいのちのないものを隠せ詩月

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