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言葉の救はれ??時代と文學 https://blog.goo.ne.jp/logos6516

言葉は道具であるなら、もつとそれを使ひこなせるやうに、こちらを磨く必要がある。

日常生活の言葉遣ひを吟味し、言葉に学ばう。

言葉の救はれ――時代と文學
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2014/10/06

  • 時事評論石川 2024年6月20日(第842)号

    今号の紹介です。先日、台湾に留学するのをお手伝ひする仕事をしてゐる若き青年にお会ひした。昨年に引き続き二回目で、札幌からやつて来られた。一時間半ほど話したが、じつに清々しい気分になる。かういふ気分になれる人は、あまり日本人にはゐないなといふ気がした。北海道大学に留学生としてやつて来て、修士号を取つたあと、今度は日本人で台湾に留学したいと思ふ人を支援したいといふやうになつたらしい。私が高校生なら台湾に留学してみたいなと思つた。日本人の欧米志向は、今もまだ強い。アメリカ経済に陰りが見えてインドを含めたアジアの世紀はすぐそこに来てゐるといふことを頭では分かつてゐるのに、やはりアメリカに留学したがる。そこには今も魅力があるからなのだらうが、アメリカに全振りせずとも留学希望者の三分の一の人間ぐらゐはアジアに行つても...時事評論石川2024年6月20日(第842)号

  • いとうみく『夜空にひらく』を読む

    夜空にひらくいとうみくアリス館ネットで児童文学を探してゐて見つけた本である。読み終はつて、いい本に出合つたと感じてゐる。母に捨てられた少年が主人公。複雑な生ひ立ちが災ひしたのか、心が張り詰めるとつい手が出てしまふ。職場で嫌がらせを受けたことで、その職場の先輩を殴つてしまふ。傷害罪で訴へられて家庭裁判所に送られた。そこでの審判は、試験観察といふ処分になつた。そんな少年を迎へたのが花火制作の工場(正確には煙火店といふらしい)であつた。その家の主人もまた、複雑な経験を持つた人である。長男を無免許でバイクを運転してゐた少年にひき逃げされてゐたのだ。家族でスーパーに買ひ物に来た時に、車から奥さんが長男を下ろして少し目を離してゐた瞬間のことであつた。罪ある少年に息子を殺されたのに、罪ある少年を迎へ入れる試験観察の引き...いとうみく『夜空にひらく』を読む

  • 『大人のための公民教科書』を読む

    大人のための公民教科書日本復興の希望を繋ぐために小山常実高木書房今日も本の紹介である。高木書房刊の新著である。著者は、新しい歴史教科書をつくる会の理事をされてゐる小山常実氏である。現代日本には数々のウソ話があると言ふ。その中でも特に問題なのが、次の五つ。1日本は侵略戦争を行い、数々の国際法違反を行った戦争犯罪国家である。2「日本国憲法」は憲法として有効に成立した。3「新皇室典範」は皇室典範として有効に成立した。4日本政府が発行している大量の国債は借金だから日本は財政破綻する。5人間活動により地球温暖化問題が生じている。そして、本来「公民」の教科書は、それらのウソ話を排し、日本人のあるべき姿を示すものである。それが著者の訴へである。全くその通りである。にもかかはらず、それは多くの人々に共有されてゐない。日本...『大人のための公民教科書』を読む

  • 『日本が闘ったスターリン・ルーズベルトの革命戦争』を推す

    日本が闘ったスターリン・ルーズベルトの革命戦争戦争と革命の世界から見た昭和百年史細谷清高木書房版元の高木書房の斎藤信二さんから送られた書籍である。著者は、国際近現代研究家の細谷清氏である。知つて見ると、社会工学者の故目良浩一氏と共に「歴史の真実を求める世界連合会」を設立された方であつた。現代の戦争は、弾薬と戦闘によるものであるよりも前に、歴史観によつて行はれてゐる。現今のウクライナ戦争も、きな臭い台湾へのシナの戦略も、朝鮮半島の南北の対立も、いづれも歴史観闘争が水面下では繰り広げられてゐる。その暗渠は、日米戦争にもつながつてゐる。著者は「なぜ、どの様に、戦争は起きたのだろう」といふことを調べていくうちに、さう確信を得るやうになつた。米国が傍受解読した電報はルーズベルトによつて内容の変更が許可され、スターリ...『日本が闘ったスターリン・ルーズベルトの革命戦争』を推す

  • 村田沙耶香『信仰』を読む

    村田沙耶香と言へば『コンビニ人間』(2016年芥川賞)であるが、1979年生まれのこの作家(つまり、現在45歳)にとつて、『しろいろの街の、その骨の体温の』(2012年)が今のところの代表作と言へるかもしれない。この2022年に書かれた『信仰』も、全く真実味を感じられない。「原価いくら」が口癖の主人公が、現実志向でブランド物や飲食店の値段のつけ方に違和感を抱きながら、友人が始めたカルトに惹かれていくといふのが筋立て。理性的な性格の持ち主が、一週回つて反理性に行きつくといふのは、人間の逆説としては面白いが、そこには「本当さ」がない。言葉遣ひの誤りと言つてもよい。つまり、これは「信仰」の物語ではなく、「詐欺」の物語であり、どう控へ目に言つても「信じる心」を弄んでゐる者の物語ぐらゐであつて、「信じて仰ぐ」といふ...村田沙耶香『信仰』を読む

  • 『正論』の記事読みました。

    昨日、仕事上のお付き合ひのある方が来校された。或る大学の広報をご担当の方である。一渡りご説明が終はつたところで、いきなり「先生、『正論』の記事拝読しましたよ」と話を始められた。そして、その内容についてのご感想を語つてくださつた。この仕事をしてゐて、かういふ機会に出会ふことは滅多にない。『正論』の読者であつたことも嬉しかつたし、拙論についても丁寧にお読みいただき、なほ賛同してくださつたことも嬉しかつた。著者と作問者と受験生の三幅対で成り立つ受験国語であるのに、共通テストは著者と作問者が同一であり、解釈を唯一に限定する神の立つといふことは問題であるといふ拙論の主旨にいたく共鳴してくださつてゐたのである。最近は楽しいことが世の中にも私の環境にも乏しいなかにあつて、たいへんありがたい僥倖であつた。またしばらくはか...『正論』の記事読みました。

  • 『正論』の記事読みました。

    昨日、仕事上のお付き合ひのある方が来校された。或る大学の広報をご担当の方である。一渡りご説明が終はつたところで、いきなり「先生、『正論』の記事拝読しましたよ」と話を始められた。そして、その内容についてのご感想を語つてくださつた。この仕事をしてゐて、かういふ機会に出会ふことは滅多にない。『正論』の読者であつたことも嬉しかつたし、拙論についても丁寧にお読みいただき、なほその主旨に賛同してくださつたことも嬉しかつた。著者と作問者と受験生の三幅対で成り立つ受験国語であるのに、共通テストは著者と作問者が同一であり、解釈を唯一に限定する神の立つといふことは問題であるといふ拙論の主旨にいたく共鳴してくださつてゐたのである。最近は楽しいことが世の中にも私の環境にも乏しいなかにあつて、たいへんありがたい僥倖であつた。またし...『正論』の記事読みました。

  • 夏川草介『本を守ろうとする猫の話』

    本を守ろうとする猫の話夏川草介小学館夏川草介2冊目。肝心の『神様のカルテ』を読まずに、搦め手からの夏川接近であるかなとも思ふ。還暦を過ぎた読書中級者には、あまり引き寄せられるところはなかつた。現代文の授業的に、この「還暦を過ぎた読書中級者には、あまり引き寄せられるところはなかつた」を説明してお茶を濁す。①主語は何か。私である。つまり前田。なので私に「」はつけない。②要素に分解する。A「還暦を過ぎた」B「読書中級者」C「あまり引き寄せられるところはなかつた」と三分割する。③それぞれを具体化する。Aこの主人公は高校生であるが、それとははるかに年齢の異なる年配の人である。Bこれまでにその職業を通じて読書生活を人並み以上には過ごしてきた人である。Cここは動詞なので、④「なぜ」を突つ込むところ。「私にはそれなりの読...夏川草介『本を守ろうとする猫の話』

  • 時事評論石川 2024年5月20日(第841)号

    今号の紹介です。久しぶりに原稿を寄せた。政治について思ふところを書けとの依頼に、まづは川勝静岡県知事について書くしかないと思つた。それは氏の理不尽さではなく、手の平返しの県民への怒りである。川勝氏の言説は、もう学者時代から変はらない。早稲田大学を辞めた理由から始まつて、氏は自分の気に入らぬことがあれば駄々をこねるといふのは常套手段である。習ひ性と言つてもよい。それなら、県民はあんな失言で辞めさせるのではなく、氏の政策について評価を下すべきで、その評価を下さずに辞任に追ひ込んだといふことは、知事にとつてはむしろ「してやつたり」である。「リニア反対」については一貫して支持をされたといふ認識を持つたままの辞任会見はどこか誇らしげであつた。県民は、いつたい川勝知事の何を評価し、何故に支へてゐたのか、それが全く分か...時事評論石川2024年5月20日(第841)号

  • 夏川草介『始まりの木』を読む

    始まりの木(小学館文庫)夏川草介小学館夏川草介といふ作家の名前は以前から知つてゐた。『神様のカルテ』といふ作品は映画にもなり、それが人気のある原作に基づいてゐるといふことも何となくは知つてゐた。しかし、その映画も原作も見たり読んだりしようとは思はなかつた。主人公を演じてゐるのが櫻井翔といふあまり好きではない俳優だからかもしれないし、医療ドラマといふだけであまり気が乗らなかつたからかもしれない。理由は特にはないが、気が向かなかつたといふことである。では、なぜ今回この夏川の小説を読んだのか。これが良くも悪くも日本人的私の生き方であるが、知人に紹介されたからである。年若き青年二人から、夏川草介を愛読してゐると言はれ、では読んでみるかと重い腰を上げた次第である。読了第一号が、この『始まりの木』である。ずゐぶん批評...夏川草介『始まりの木』を読む

  • 年たけてまたこゆべしと思ひきや命なりけり佐夜の中山 西行法師

    今日、岡本かの子の小説「蔦の門」を読んだ。滋味深い掌編である。かの子の実体験であらうか。「書き物」をする「私」は蔦の絡まる門のある家に住むことが多かつたやうだ。その家には年老いた女中がゐた。その女中は性格上の問題もあつて二度も離婚をし、身寄りとも仲たがひをしてゐて孤独である。ある日、その蔦を通りかかつた少女たちが切つて遊んでゐた。それを咎める女中と少女たち。犯人と思しき少女もまけじのやり取り、自分と似た性情を感じたのかその少女に怒りと共に親しみも感じることになる。いつしか蔦を切る遊びに関心が失せ、近寄らなくなる少女に寂しさも感じ始める。その少女はお茶屋の娘で、お茶を買ひにその店に行く。その少女もまた父母に先立たれ、伯母夫婦の養女になるかも知れず、気兼ねしながら生活してゐる境遇であることを知る。孤独が孤独を...年たけてまたこゆべしと思ひきや命なりけり佐夜の中山西行法師

  • 「オッペンハイマー」を観る

    これは面白かつた。けれど、内容が難しくて了解出来たかと訊かれれば、それは無理でしたとしか答へられない。観て損はないとは言へるけれども、もう一度観たいとは言へない。さういふ映画だつた。広島と長崎とが最後の方で言及されるが、確かに不快ではあつたが、戦争とはさういふものであらう。敗戦国の語る戦争観が正しい訳ではない。良心の呵責に悩む主人公にも、従つて同情もしない。科学者とはさういふものとの自覚があればその呵責は引き受けるべきものだらう。それと同じぐらゐの栄光も受けたはずである。3時間は確かに長いが、十分惹きつけられる時間であつた。オッペンハイマークリストファー・ノーランの映画制作現場ジェイダ・ユエンボーンデジタル「オッペンハイマー」を観る

  • 白石一文『見えないドアと鶴の空』を読む

    見えないドアと鶴の空(文春文庫)白石一文文藝春秋見えないドアと鶴の空(文春文庫)白石一文文藝春秋見えないドアと鶴の空(文春文庫)白石一文文藝春秋小説には珍しく「あとがき」が添えられてゐる。読み終へて、それを読むと、この小説が本当のデビュー作であると知つた。てつきり『一瞬の光』がそれだと思つてゐたので驚いた。最新作と言つても良いほどの完成度だと私には思はれたからだ。ある文学賞の佳作に入選したものの本になることはなく、鳴かず飛ばずの十数年を過ごしてゐたらしい。作家とは大変な職業なんだとつくづく思はれた。「あとがき」にはその他の作品への編集者たちの酷評が書かれてゐたが、私には理解できなかつた。世の中にはそんな名作ばかりがあるのだらうか。それが私の率直な感想である。もちろんそんなに読んでゐる訳ではないが!編集者た...白石一文『見えないドアと鶴の空』を読む

  • 八木義徳「春の死」を読む

    家族のいる風景(福武文庫や401)八木義徳ベネッセコーポレーション久しぶりに八木義徳の本を手にした。大阪の家の本の整理をしてゐてふと目に留まつたのがその理由である。しばし、手を止めて読み始めてしまつた(これだから本の整理には時間がかかる!)。『家族のいる風景』の中の掌編、「春の死」である。この題名から大方の人が予想するものとは、いささか内容が違ふだらう。六十七歳になる作家と二十歳ほど年若い妻との会話から始まる。妻が子宮筋腫になり手術をすることになる。一方、病気と言へばぎつくり腰程度しかしたことがない「私」である。しかし、作家といふ仕事において必ずしも屈強であることが利点となるわけではないといふ(このあたり私小説作家の考へが滲み出てゐる。丸谷才一がこれを聞いたら激情するだらう。だから日本の小説は貧しいのだ、...八木義徳「春の死」を読む

  • 花咲きけり

    車で10分ほど行つた所にある私のお気に入りの場所。4月8日は釈迦の生誕日、花まつり。桜の咲きやうには時空を超えた姿がある。それは死を予感さへする。ここがあそこであること。あそこがここであること。それを桜が伝へてゐるやうだ。花咲きけり

  • 万城目学『八月の御所グランド』を読む

    八月の御所グラウンド(文春e-book)万城目学文藝春秋久しぶりに万城目学の小説を読んだ。直近(第170回)の直木賞を受賞した作品だからである。受賞作は、「八月の御所グラウンド」だが、単行本にはもう一作「十二月の都大路上下(かけ)ル」も収められてゐる。後者は、毎年行はれてゐる全国高校駅伝の大会に取材したもので、私も以前勤めてゐた学校がこの常連出場校で、宝ヶ池辺りで応援したことが何度もあるので、懐かしく読んだ。ネタバレになるので詳細は止めるが、その都大路を走る高校生の横で見えるヒトには見える歴史的人物が絡んだ話である。受賞作の方は、同じく京都の大学のライバル関係のある教授二人が学部長選を争つてゐる。その前哨戦として「野球の対抗戦に勝て」といふ厳命を受けた彼(多聞)がその戦ひに挑む。彼に借金をしてゐたためその...万城目学『八月の御所グランド』を読む

  • 岡山に遊ぶ

    先日、春休みを使つて岡山に遊んできた。初めて訪れた岡山は晴天に恵まれ、楽しい旅となつた。一日目は、岡山城と後楽園とを歩く。外国人の多さに驚いた。地方都市もすでに世界的な観光地になつてゐたといふことだ。平日に訪れるのはむしろ外国人の方が多いのかもしれない。宇喜多秀家、小早川秀家、池田光政と城主は変はつたが、いづれも著名な武士たちである。西国に睨みを利かすそれなりの人物でなければ治められなかつたといふことだらう。戦国の山城から、平野に城を構えた先駆けであつたといふことも、時代の変化を鋭敏に捉へた証である。ただそれだけに目の前に流れる旭川の氾濫を受け、治水には苦労もしてゐたやうだ。現在の城は近代建築になつてゐるが、形状の異形もその現れであるやうに感じられた。池田家は、途中から養子を迎へて家を守つてきたことにも驚...岡山に遊ぶ

  • 造形藝術の永遠性とは何かー2024年度 京都大学入試現代国語の文章

    2024年度京都大学入試現代国語に出題された文章は、次の通り。大問1(文理共通)奈倉有里『夕暮れに夜明けの歌を――文学を探しにロシアに行く』大問2(文系)高村光太郎「永遠の感覚」(理系)石原純『永遠への理想』大問1と今年度の東京大学の文科類に出題された文章との共通点については前回述べた。それは偶然の一致であるので、「奇跡」と評したが、京都大学大問2の共通性については意図したものであるので、「奇跡」ではない。もちろん、同じ主題で全く異なる筆者の文章を探し当てるといふのは、たいへんな労苦であるし、素晴らしいと思ふ。しかも、その主題が「造形芸術における永遠性」といふものであつてみれば、それは見事といふほかはない。18歳(あるいはそれ以上)の青年に、このやうな主題をぶつけるといふことは、さすが京都大学と思はせた。...造形藝術の永遠性とは何かー2024年度京都大学入試現代国語の文章

  • 造形藝術の永遠性とは何かー2024年度 京都大学入試現代国語の文章

    2024年度京都大学入試現代国語に出題された文章は、次の通り。大問1(文理共通)奈倉有里『夕暮れに夜明けの歌を――文学を探しにロシアに行く』大問2(文系)高村光太郎「永遠の感覚」(理系)石原純『永遠への理想』大問1と今年度の東京大学の文科類に出題された文章との共通点については前回述べた。それは偶然の一致であるので、「奇跡」と評したが、京都大学大問2の共通性については意図したものであるので、「奇跡」ではない。もちろん、同じ主題で全く異なる筆者の文章を探し当てるといふのは、たいへんな労苦であるし、素晴らしいと思ふ。しかも、その主題が「造形芸術における永遠性」といふものであつてみれば、それは見事といふほかはない。18歳(あるいはそれ以上)の青年に、このやうな主題をぶつけるといふことは、さすが京都大学と思はせた。...造形藝術の永遠性とは何かー2024年度京都大学入試現代国語の文章

  • 2024年度入試 東京大学と京都大学の奇跡的な一致

    東京大学の2024年度入試の第四問(文科のみ出題)の設問(一)は「『ガラスは薄くなっていくが、障壁がなくなる日は決して来ない』とはどういうことか、説明せよ」となつてゐる。そして、京都大学の2024年度入試の大問1(文理共通問題)の問5は「『核心は近づいたかと思えはまた遠ざかる』のように筆者が言うのはなぜか、『祈り』の歌詞に触れつつ説明せよ」となつてゐる。「祈り」とは吟遊詩人ブラート・オクジャワの詩(沼野充義訳)で、第一段落に記されてゐるもの。神よ人々に持たざるものを与えたまえ賢い者には頭を臆病者には馬を幸せな者にはお金をそして私のこともお忘れなく……東大京大とも、翻訳にまつはる話題である。異文化理解だとか他者理解だとか、あるいは多様性の尊重といふこがいかに難しいかといふことを、それとは明示しないけれども、...2024年度入試東京大学と京都大学の奇跡的な一致

  • 2024年度東京大学の国語第四問について

    東京大学国語入試問題の2024年度の第一問についての論評は、昨日記した。「なに」を訊く問題が4つ揃わなかつたので、「なぜ」を2つ混ぜるしかなかつたといふのが私の考察である。「なに」を訊く問題には「なぜ」が入るが、「なぜ」と訊けば理由しか含まれないと私は考へるので、その文章自体も含めて、2024年度の東大の現代文第一問は「面白くなかつた」といふのがその内容である。では第四問(文科のみに課される問題)はどうか。こちらは、良いと思つた(それにしても随分偉さうな物言ひですね。我ながらさう思ひます)。フランス文学研究者が、日本語でフランス文学の翻訳を通じて感じてゐることを記してゐる。菅原百合絵「クレリエール」翻訳論では、2013年第一問『ランボーの詩の翻訳について』湯浅博雄があるが、こちらは文科理科共通問題であつた...2024年度東京大学の国語第四問について

  • WHAT(なに)を問へない時に WHY(なぜ)を問ふ

    春休みは、大学入試問題を解くことにしてゐる。やうやく、今年の東京大学と京都大学の入試問題を解くことができた。いつもにも増して、解くまでに時間がかかつたやうな気がする。それは東京大学の第一問評論が面白くなかつたからだ。ちなみに近年出題された文章のタイトルだけを挙げると、2023年吉田憲司「仮面と身体」2022年鵜飼哲「ナショナリズム、その〈彼方〉への隘路」2021年松嶋健「ケアと共同性-個人主義を超えて」2020年小坂井敏晶「『神の亡霊』6近代の原罪」となつてゐる。そして、今年は2024年小川さやか「時間を与えあう――商業経済と人間経済の連環を築く「負債」をめぐって」だつた。物事の両義性に焦点を当てた文章を、よくぞこれほど違ふジャンルの文章から持つて来られるなと思ふほど見事な文章選択眼ではある。しかし、その...WHAT(なに)を問へない時にWHY(なぜ)を問ふ

  • 時事評論石川 2024年3月20日(第839)号

    今号の紹介です。先月号に引き続き留守晴夫先生の論稿が掲載された。喜ばれる読者も多いだらう。『再び、戦争は無くならない』とある。戦争といふ局面では、「人間の中身が丸見えになる。善人はより善い人になり、悪人はさらに悪くなる」といふのは、今般のウクライナ戦争を取材した番組の中で、あるウクライナ人医師が語つてゐた言葉だと言ふ。であれば、戦争をやれない日本人は、道徳的な問ひに突き付けられる機会を失つてゐるのであるから、堕落してゐるに違ひない。留守先生は、師匠の松原正の言葉を引用して論稿を閉じる。まさに、自分自身を振り返つて見ても、戦争に立ち会つたときに、どういふ振る舞ひをするであらうかと自問すれば、「善人」になれるとは断言しがたい。さらに「悪人になる」とも断言しがたい。かういふ態度こそがきつと不道徳的といふのであら...時事評論石川2024年3月20日(第839)号

  • 白石一文『我が産声を聞きに』を読む

    我が産声を聞きに(講談社文庫)白石一文講談社昨年の5月にコロナ禍は終息し、さまざまな規制は解除された。2020年4月7日だつただらうか、緊急事態宣言が出て以来、丸3年の間のあの閉ざされた空気を小説家はどう書いたのか、白石のこの小説で初めてそれを読むことができた。主人公の名香子は結婚を目前にして唐突に全く唐突に婚約者に破談を告げられる。その裏切りとも思へる試練を経て、名香子は上京して別の男性と結婚した。女の子が生まれその子供も成人していよいよ2人の生活が始まるといふ段になつて、夫から突然離婚を切り出される。言葉だけではない。その話をしたまま、夫は別の女性の元に行つてしまふ。傷心に暮れる名香子は故郷の明石に帰る。その途中、婚約者であつた男性と会つて、ある重大な事実を知らされる。そして、再び東京に戻つて来る。現...白石一文『我が産声を聞きに』を読む

  • 『正論』2024年4月号に寄稿

    月刊正論2024年04月号[雑誌]正論編集部日本工業新聞社今、書店に並んでゐる『正論』4月号に、「国語の『混乱』をごまかすな」を書いた。年末に、「今度、言葉についての特集を組むことになつたから、是非書いてほしい」との依頼を受けた。30分ほど、それについてどんな意図なのか、あるいは私が今何を考へてゐるのかといふことについて話し合つた。国語の混乱といふワードがその時に出てきたかどうかは分からない。ただ、年明け早々にある「全国大学入学共通テスト」については触れてほしいとのことだつたので、「分かりました」と答へ、その電話を切つた。実はこの年始は、金沢に旅行に行くことにしてゐた。11月に日帰りで金沢に出かけることがあり、今度は家族で来ようと決めてゐたからである。しかし、何だか気が進まないところもあつて、予定がすつぽ...『正論』2024年4月号に寄稿

  • 還暦を通り越してや春を待つ

    令和6年の2月が明日で終はる。今月60歳になり還暦を迎へたが、特別な感慨もなくどうしようもない停滞の中を苦々しい顔をしないで(他人様からはいつも笑つてゐますねと言はれる)過ごしてゐる。今の願望は早く定年を迎へたいといふことである。恥づかしいことであるが、偽ることでもあるまい。その原因の一つはデジタル社会の生きづらさである。ワードを使つて文章を書くのは当り前。エクセルを使つて表計算するのは当たり前。そこら辺りはまだいい。楽々清算やら、teamsやら、その他さまざまなソフトやアプリを駆使してデジタル社会は人間にその仕様に馴れるやうに求めて来る。現代の人間疎外である。デジタルデバイド(デジタルによる格差)を取り上げる若者はゐない。何が多様性だ。そんな言葉の薄つぺらさは、この一事で分からう。技術上達者が生きやすい...還暦を通り越してや春を待つ

  • 時事評論石川 2024年2月20日(第837/38)号

    今号の紹介です。久し振りの留守晴夫先生の論稿が掲載。喜ばれる読者も多いだらう。留守先生の師匠でもある松原正の名著『戦争は無くならない』と同じタイトルで寄稿された。今号ではその前半が載せられてゐる。近著メルヴィルの『詐欺師ー仮面芝居の物語―』についてから書き起こされてゐる。人に「心」がある限り、つまりは「悪と悲惨」とを解決しようとする良心がある限り、この世から戦争が無くなることはないといふ主旨である。次号も楽しみにしたい。一面にある共産党のカネについての話は面白かつた。共産党の昨年の総収入は190億円といふから驚く。しかもその収入のほとんどが「赤旗」の購読料といふのから驚きである。政党助成金を受取つてゐない共産党の資金源である。それが今たいへんなことになつてゐるといふのだ。購読者の漸減と、配達の負担である。...時事評論石川2024年2月20日(第837/38)号

  • 草の芽に降りし光や微かなる

    草の芽に降りし光や微かなる

  • 白石一文『快挙』を読む

    快挙(新潮文庫)白石一文新潮社写真家を目指すが、その能力に限界を感じ、ホテルマンなどのアルバイトで生活を送る俊彦。彼は小料理店を営む2歳年上のみすみと一緒になつた。小説を書き始めた俊彦が小説家として世に出ることを勧め、支へてくれてゐた。小説を書きながらも、あと一歩のところでそれが世に出ない。筆力の限界と共に、担当し俊彦の文才を買つてくれてゐた編集者の急逝といふ不遇もあつた。それでも長い忍耐の時期を過ごしながら出会つた人との繋がりでノンフィクションの本が出、10万部を越すベストセラーになる。不遇の中で腐りかけながらも、俊彦を支へてくれたみすみの存在が切ない。彼女は決して聖女ではなく、愛に迷つてもゐるが、傷ついた心を決して他人のせいにはしない女性であつた。俊彦は『快挙』といふ小説をそれぞれ別の作品として2度書...白石一文『快挙』を読む

  • 花咲く冬もある

    今年は暖冬だと言はれたが、寒い日はあつてそんな時はやはり寒い。特に当地は埋立地で、本来は海の上、雨の次の日は不思議に風が強い。それはここに来るまで経験したことのないほどの風の強さで、1年に何度も台風が来てゐるやうに感じる。もちろん建物は鉄筋コンクリート建てだから壊れることはないが、サッシは築17年も経つとどうやら隙間が開いて来るやうでガタガタと揺れる。夜中に何度か起きたことがあるが、海の上だものなと思ふと腹も立たない。それよりは快晴の日の景色の解放感の方が優つてゐる。さて、そんな今年の冬だが、不思議に薔薇が咲いた。5月に咲き、秋に咲き、冬に咲いた。これは初めてのこと。これが暖冬のせいなのかは分からないが、嬉しい出来事である。ベランダにオレンジ色の薔薇に引き寄せられ寒い外に出て行つた。冬に咲く花の強さや席を...花咲く冬もある

  • 福田恆存の講演が本に

    今月、文春新書から、福田恆存の講演が文章になって出版される。新潮社から刊行されてゐたカセット文庫が、新潮新書ではなく文藝春秋から出るのは不思議な感じを受けますが、読者としてどちらでもよく、刊行されることを素直に喜びたい。何度も聴いたものなのだが、活字になれば、また違つた発見があるかもしれない。福田恆存の言葉処世術から宗教まで(文春新書)福田恆存文藝春秋福田恒存講演日本の近代化とその自立1(新潮カセット講演)福田恆存新潮社福田恆存講演第2集理想の名に値するもの(新潮カセット講演)福田恆存新潮社福田恒存講演3近代日本文学について;シエイクスピア劇の魅力(新潮カセット講演)福田恆存新潮社福田恆存の講演が本に

  • 白石一文『草にすわる』を読む

    草にすわる(文春文庫)白石一文文藝春秋今日も白石文学を楽しんでゐる。今作は短編集。5篇の作品が編まれてゐる。中では「砂の城」を推す。「若い矢田が、世を恐れ、人を恐れ、そして自らの無知を深く恐れながら、必死で文学と格闘していった」「彼の文学は、無神論者が血眼になって神を求めているような、いわば見苦しい徒労だね」「要するに矢田は人間関係の距離を上手くはかることのできぬ男であり、それは彼の生まれついた一大欠落だった」ここに記された作家矢田泰治とは、白石一文のことなのかどうか、あるいは父親で直木賞作家の白石一郎のことなのかは分からない。そんなことはもちろんどうでも良いことだが、かういふことを書き留めることのできる白石一文の日本人評を、私は得難い観察眼として嬉しく思ふのである。言葉はそれを感じるものにしかかたちを与...白石一文『草にすわる』を読む

  • 「PERFECT DAYS 」(役所広司主演)を観る

    今年最初の映画。紛れもない日本映画だけれど、やはりどこか違和感がある。主役が夜眠る夢がモノクロで、不穏な音楽にうなされてゐるやうな印象を受ける。しかし朝起きた彼は不機嫌でもなく、昨日と同じやうに朝の作業をこなして仕事に行く。渋谷辺りの公衆トイレを清掃するのが彼の仕事。寡黙に丁寧に仕事をこなす。昼休憩に寄る神社の境内ではサンドウィッチを食べる。木漏れ日を見ては笑顔になる。ピントをわざと合はせず偶然の妙に委ねてフィルムカメラでその木漏れ日を撮る。もう何年も続けてゐる。帰宅して銭湯に行き、帰りがけに一杯やつて家に帰つて本を読む。眠たくなつたらそのまま眠る。その1日の固定された生活から弾き飛ばされたやうな心情や考へが汚物のやうに夢に滲み出て来る。しかし夢は見れば終はる。あたかも浄化されたかのやう。だから、朝になれ...「PERFECTDAYS」(役所広司主演)を観る

  • 2024年の太陽の塔 高所恐怖症の鳥はゐるのか

    冬休み最後の1日となつた。太陽の塔を見に行かうと思ひ立ち、昼食をとつた後に出かけた。歩いて行かうかと思つたが、2時間ほどの歩行に膝がどう反応するのかを考へるとやめた方が賢明だと思ひ直してモノレールで出かけた。公園を訪ねる人は思ひのほか少なかつた。温かい冬の一日に公園での散歩はもつてこいだが、やはり初詣が優先ではあらう。太陽の塔には神事につながるものは何もないからである。思はず拝みたくなる威風と清潔とはあるけれども、岡本太郎といふ藝術家が創り出した意匠である。しばらく眺めてゐると頭部の辺りにカラスが飛んでゐるのに気がついた。これまで何度も見てきた姿であるが、珍しい光景だつた。以前、このブログに書いたかもしれないが、太陽の塔について旧約聖書のノアの話に触れたことがあつたと思ふ。簡単に言へば、ノアの家族たちは大...2024年の太陽の塔高所恐怖症の鳥はゐるのか

  • 住吉大社に参る

    奈良の春日大社にお参りするつもりだつたが、急遽予定を変更して住吉大社に詣でた。大阪府民でゐたころから一度も出かけたことがなかつた。場所も何となくあの辺りといふ認識しかなく、調べてみると南海本線にその名も「住吉大社」といふ駅があつた。場所は駅前。1月2日の午後。結構な人盛りであつた。天気は快晴。初めて参る宮の雰囲気は独特。第一、第二、第三宮は縦直列.第三宮の横に第四宮が建つてゐる。配置について住吉大社の説明によれば、「大海原をゆく船団のよう」であり、「古代の祭祀形態をよく伝える貴重な存在」とのこと。その点について全く知らない私には、さういふものかと思ふしかないが、独特さは感じた。遣隋使が派遣された地であるとの案内板を読むと、まさに「大海原をゆく」といふ表現が相応しいと感じられた。目の前に阪堺線の路面電車も走...住吉大社に参る

  • 東浩紀『訂正する力』を読む

    訂正する力(朝日新書)東浩紀朝日新聞出版デリダの研究者だけに、本書が伝へてゐる「訂正」とは「脱構築」といふことである。この言葉、哲学の専門用語なので日常的に使はれる言葉としては「再解釈」といふのが適切であらう。しかし、「再解釈する力」では面白くないので、敢へて人人が違和感を抱きやすい「訂正」といふ言葉で気を引かせる(異化)といふ戦略なのだらう。東は、「修正」と「訂正」は違ふと本書のなかで何度も書いてゐるが、それは「歴史修正主義」といふ悪評高い言ひ方があつて、それへの差別化を意図したものである。歴史修正主義とは、特定の側面のみの誇張や政治的な意図を持つた歴史の書き換へのことを言ふが、例へばホロコーストの否定や矮小化である。このことの当否は、ここでは問題にしないが、読者の私としては、この言葉の選択に意味を感じ...東浩紀『訂正する力』を読む

  • 初日浴び晴晴とせり富士の山

    今朝の富士山です。ただし戴き物。初日浴び晴晴とせり富士の山

  • 携帯を持たずに寝ねかつ冬の夜

    今年を振り返つてみれば、まづは8月に母が94歳で亡くなつたことだらう。最後の十年ぐらゐは寝てすごすことが多かつたし、認知症も進んでゐた。何よりコロナの感染を防ぐためといふことで、施設では玄関先で5分ほどの会話しか許されなかつた。いつも「元気でね。また来るからね」と言ふばかりで、会話といふほどのものでもなく別れる。3時間かけて行き、3時間かけて帰る。それを繰り返した数年であつた。施設には感謝してゐる。それ以前は、実家は伊豆にあるので地震があれば心配し、床下に浸水する地域なので豪雨があれば心配してゐた。父は週に2日のごみ捨てがだんだんしんどくなつて来たと行つてゐたが、それを聞いて施設に入つてはどうかと話し、両親共に施設に入つてもらふことになつた。「飯がまずい」とこぼしてゐたが、その父も3年前に亡くなり、しばら...携帯を持たずに寝ねかつ冬の夜

  • メルヴィル『詐欺師』ー假面芝居の物語ー留守晴夫先生の新訳出来

    詐欺師ー假面芝居の物語ハーマン・メルヴィル圭書房留守先生の新訳によるメルヴィルの『詐欺師』が出来した。アメリカ文学は、私にとつてあまり馴染みのないものであるが、留守先生の新訳が出るたびに、それらを通じて知るやうになつてきた。これまでは同じくメルヴィルの『ビリー・バッド』『バートルビー/ベニト・セン』、ロバート・ベン・ウォーレンの『南北戦争の遺産』である。そして、今回『モービー・ディック(白鯨)』に次ぐ傑作と言はれる『詐欺師』である。まづは、その訳者解説を読んだ。しばらく体調を崩されてゐた留守先生が書かれた現代批評として、それは読まねばならないものだからである。それは、『詐欺師』そのものの解説であるのはもちろんであるが、メルヴィルの作品の本質の解明であり、当時と現代アメリカの批評であり、それはそのまま近代か...メルヴィル『詐欺師』ー假面芝居の物語ー留守晴夫先生の新訳出来

  • 『ゴリラ裁判の日』を読む

    ゴリラ裁判の日須藤古都離講談社このブログの長年の読者であれば(そんな奇特な人はゐるんか?)、私の読書傾向が分かるだらうから、このタイトルを見て「どういふこと?」と違和感を抱くのではないか。確かに私でもこの種の本を自ら選んだりはしない。そもそもこれは書店で言ふとどの棚に置いてあるのかさへ見当がつかない。中身を読んだ今なら、これは小説であるから「現代文学」の棚に置かれてゐることは分かる。さういふ自分では決して手にしない本を読んでみたのである。それは若き友人からのお届け物だからである。講談社に就職したその若き友人がどうやら担当してゐる作家らしい。須藤古都離さんといふ作家で、この作品で第64回メフィスト賞を受賞したらしい。情けないことに、私にはそのメフィスト賞といふ文学賞も知らなかつた。なんと64回も続いてゐると...『ゴリラ裁判の日』を読む

  • 哀悼 平岡英信先生

    12月16日(土)平岡英信先生がご逝去された。94歳。何度も死を乗り越えて来られたが、「私に使命があるなら神さんが生かしてくれる」とおつしやつてゐらしたが、遂にこの日が来てしまつた。私の母も今年同じく94歳で亡くなつた。父も、そして翻訳家で批評家の松原正先生も同じく皆昭和4年生まれである。平岡先生とのご縁は、福田恆存とのつながりである。『私の幸福論』の文庫版の後書に書かれてゐるが、平岡先生が福田恆存を招き、清風学園の教職員を前に語つた講演が下敷きになつてゐる。このことが福田恆存と平岡先生との最初のお付き合ひかどうかは分からないが、大阪に来られる度に、平岡先生は福田恆存との交流を深められてゐた。その後現代演劇協会の理事にもなられ、福田恆存の御子息である逸さんが大阪に来られる時も、お会ひになつてゐた。私も一度...哀悼平岡英信先生

  • 時事評論石川 2023年12月20日(第836)号

    今号の紹介です。年末恒例の吉田好克先生の「腹立ち三大噺」。今回は岸田、岸田、岸田である。岸田首相への批判、怒り、憤りである。結論は、女性宰相を願ふとのことで、高市早苗さんを推してゐるのだらうが、私も将来的には女性宰相が良いと思ふが、これほど劣化した政治の中で、嫉妬と劣情とが渦巻く男性政治家に女性宰相を支へようとする気概のある人がゐるかどうかは不安である。残念が駄が、岸田の後がよくなる保証は全くない中では、この人をうまく支援した方が良いのではないかと思ふ。その意味では、国民の志向や心意気が問はれてゐるのである。こんな奴に任せてられるかとの本音を隠し持ちながら、「先生、いかがですか、こんな風にされては」と言へる保守支援者が多く出て来るかどうかが勝負どころである。私は、まづはこの方に教育について直言したい。さて...時事評論石川2023年12月20日(第836)号

  • 白石一文『君がいないと小説は書けない』を読む

    白石一文の本を読んでゐると心が整理されていくのを感じる。ある小説がいいか悪いかは、読む人ぞれぞれであらうが、私にはこの「心の整理」といふ基準が最もしつくりとくる。むしろそれは小説に限らない。批評も歌や俳句もさうだらうと思ふ。それがいいか悪いか、この際それは問はないことにする。私にとつて読書とは私のために読むものであるからだ。本作は、一見すると白石の実話にもとづく随筆のやうにも感じた。自伝的作品となつてゐるが、「私」といふ第一人称で書かれてゐるフィクションといふよりも、小説といふスタイルを借りたノンフィクションといふ感じがする。三島由紀夫が自伝を書くのに『仮面の告白』と名付けたやうに(その味はひはまつたく異なるが)、白石が「野々村保古」といふ人物を借りて告白してゐるやうに思へた。だから、小説としては氏の他の...白石一文『君がいないと小説は書けない』を読む

  • 時事評論石川 2023年11月20日(第835)号

    今号の紹介です。性的マイノリティへの理解増進法を巡る自民党の迷走ぶりを的確に批判した一面の島田洋一氏の論考に賛同する。性は身体に基づく、これが倫理である。自身の性と身体とに違和感を表明することも倫理的行為である。そして、その苦悩を他者が理解しようとすることもまた倫理である。しかし、性同一性障碍者が性別変更を求めた際には「生殖腺」の切除を求めたことは違憲であるとした最高裁の判決は不当である。性自認を当該個人の「心理」だけを根拠としては、過去と現在と未来との当該個人の心理さへ不安定であるのに、ましてや他者には想像できない個人の内部に対して当該者の性別の判断など到底不可能だ。困りましたね。四年前までは合憲とされてゐた判断が、たつた四年で違憲になるとは。ご関心がありましたら御購讀ください。1部200圓、年間では2...時事評論石川2023年11月20日(第835)号

  • 河合隼雄・茂木健一郎『こころと脳の対話』を読む

    こころと脳の対話(新潮文庫)隼雄,河合新潮社臨床心理学者と脳科学者との対談のやうであるが、実際には後者による前者へのインタビューといふ形式である。脳についての実践家と科学者と言つてもいいだらうか。ただ、注意が必要なのは、共に分からないことを巡つてアプローチの仕方が異なつてゐるといふだけで、実践と科学とが相容れないものであるといふわけではない。まさに「分からない」といふことを大切にしてゐるといふスタイルは、2人の共通点である。河合の言葉を拾ふ。「全体をアプリシェイト(味わう)することが大事であって、インタープリット(解釈)する必要はない」「ここで大事なのは、『ここまで行った』「あそこまで行った」というのは科学的、論理的にうまいこといったんやない。それは、先生とその子との関係性で行われていた、ということなんで...河合隼雄・茂木健一郎『こころと脳の対話』を読む

  • ポケットに一年前のマスクあり

    急に寒くなつた。ついこの間まで、夏用のスーツを着てゐたが、先日冬のジャケットを出して着、ポケットに手を突つ込むと何やら入つてゐた。慌てて取り出すとそれは一年前に使つたままのマスクであつた。それを見ると一気に一年前が思ひ出された。まだまだ感染症の2類対策に追はれてゐた昨年の冬。暖房をかけながら窓を開け、休み時間ごとに窓を開け放ち、「寒い」「寒い」と叫ぶ生徒らを見て見ぬふりをして教卓に戻ると、既に窓は誰かの手によつて閉められてゐた。やれやれとの思ひが込み上げて「それでも窓は開けないと」と独り言ちて授業を始めた。そんな時間を、くしやくしやになつたマスクの残骸が記録してゐるやうだつた。彼らはもう卒業してゐない。どうしてゐるだらうか。ポケットに一年前のマスクあり

  • 橘玲『世界はなぜ地獄になるのか』

    世界はなぜ地獄になるのか(小学館新書)橘玲小学館なんと不愉快な書名であるか。それなのにそれを読んだ私がゐる。この著者の本は何冊か読んだが、読者を絶望的な気分にさせる力がある。それなのに読ませる。それが筆力なのであらう。頭がよく、論点が綺麗に整理されてゐて、術語を駆使して問題の根本を抉り出してゐる(やうだ)。しかし、謙遜ではなしに頭の悪い私には途中でなんのことやらさつぱり分からなくなる。だから10月8日に購入しその日に読み始めたはずだが、1ヶ月以上かかつてしまつた。話題が次々に変はつていく書き方も好きではない。しかし、最後まで読んでみた。何も解決法は書かれてゐない。しかし、納得できたことがあつた。それは特に中途半端に金持ちで教養があると自分で思つてゐる連中がひどくこの世界を呪つてゐて、自分より幸福さうに見え...橘玲『世界はなぜ地獄になるのか』

  • 白石一文『道』を読む

    道(小学館文庫し12-2)白石一文小学館いい小説に出会ふ時間は幸福だ。さういふ小説に出会ふ確率を求めるとどうしても贔屓の作家が出来てしまふ。それは服にしても、食事にしても、同じことが言へて、「失敗したくない」といふ思ふが強くなるといふのが、畢竟するに「老い」といふことなのだらう。偶然を頼りにひたすら読み散らかすといふ読書生活をした時期もわづかにあるが、私は同じ作家を読む。それも気に入れば何度も同じ作品を読む。といふのがどうやら私の読書生活の傾向らしい。それで、白石一文の文庫になつたばかりの小説を読んだ。デビュー作『一瞬の光』を読んでから、贔屓の作家になつてゐる。文庫にして700頁もある。しかし、読み終へるのが残念でたまらなかつた。あらすぢは、ニコラ・ド・スタールの「道」といふ絵(文庫の表紙にはその絵があし...白石一文『道』を読む

  • 信頼する批評家――森本あんり

    聖霊の舌ウィリアム・タバニー平凡社森本氏は、神学者で東京女子大学学長である。以前、国際基督教大学の副学長をされてゐた。内田樹の『反知性主義』の言葉づかひは誤りではないかと思つてゐたところ、森本氏がアメリカの文化的背景から、その誤りをズバリと指摘してゐたのを読んで(内田氏の言を直接論つてゐたわけではない)、非常に勉強になつた。反知性主義とは「反-知性主義」なのであつて、「反知性-主義」ではない。前者は知性(理性)だけに信憑を置くと危険ですよといふことであり、後者は「知性にたいする批判」を専らにすべきだといふことである。有り体に言へば、後者は「知性なんていらないよ」「感情や情念が第一だ」といふ考へ方である。内田樹は、安倍晋三批判をするに際して、後者の意味で「反知性主義」と名付けてゐたが、やはりそれは誤りである...信頼する批評家――森本あんり

  • 時事評論石川 2023年10月20日(第834)号

    今号の紹介です。何と言つても圧倒的に面白いのが2面の照屋氏の論考。英国の詩人マシュー・アーノルドから引いて、アナーキーへの漂流への危機から「従属関係と慣習の考えを重視し、これを人間の道から排除していなかった英国の封建制を評価」すべしと述べるのに、刮目させられた。照屋氏は、近著にジョージ・オーウェルの翻訳があるが、英国文学者ならではの指摘である。マシューについては全く知らなつたが、調べると私が大学時代にお世話になつた英文学の先生が翻訳されてゐた。ラフカディオ・ハーンの研究者とばかり思つてゐたので先生のお宅にまで伺つてハーンの話はうかがつたが、今にして思へば先生の研究について調べてからうかがふべきだつたと反省するばかり。マシューについて関心を持つた。ただ照屋氏がかう書いてゐるについては正直疑問がある。「デジタ...時事評論石川2023年10月20日(第834)号

  • 「沈黙の艦隊」を観る

    映画『沈黙の艦隊』冒頭11分46秒大沢たかお新装版沈黙の艦隊(1)(KCデラックスモーニング)かわぐちかいじ講談社面白かつた。潜水艦とはどういふ船なのかの説明を台詞に織り交ぜながら、話を展開していくのは上手いと思つた。これ以上「説明」が長くなれば話が途切れてしまひさうだが、そのギリギリのところを絶妙に攻めてゐて、なるほどと思ひながら話の理解を深めてくれた。原作にはない話の挿入は、主人公の艦長(大沢たかお)とその下で副長をしてゐた別の艦の艦長(玉木宏)の対立を描くには必要不可欠なのだらう。ただ、独立国やまととしての活躍を描く時間が削がれてしまつたやうにも思ふ。これは少なくとも全3話の第1話といふ印象が強い。原作を換骨奪胎して2時間強で描いた手腕は素晴らしいと思ふが、やまとに翻弄される日本政府とそれと対抗する...「沈黙の艦隊」を観る

  • 「本ってどこで買えるのですか」

    ついにここまで来たか。そんなことを感じた。新潮社のPR雑誌『波』の2023年10月号に掲載された群ようこによる、沢木耕太郎『夢ノ町本通りブック・エッセイ』の書評の一節である。ある記者が、高校生を取材をしてゐた折に、一人の男子高校生がした質問だと言ふ。本屋といふ存在を知らない、とはにはかには信じがたいが、まんざら嘘でもあるまいから、極めて特殊な例とは言へ、ついにさういふところまで来たのであらう。街の本屋は消え、ショッピングセンターの本屋は雑誌や漫画や売れ筋の文庫や新刊本のみ。専門書を扱ふのは、人口30万人以上の中核都市にあるかないかであらう。スマホのみを情報源とする「一人の男子高校生」には、本とは教科書や副教材や学校の図書館にある物、といふ認識なのだらう。私は別に憂いてはゐない。文化の格差もまた後期近代には...「本ってどこで買えるのですか」

  • 『夢なし先生の進路指導』を読む

    夢なし先生の進路指導(1)(ビッグコミックス)笠原真樹小学館中等教育を担ふ中学校高等学校には分掌といふ教員の役割分担がある。生徒達には「生徒指導部の先生」といふのはイメージしやすからうが、教務部や進路指導部といふのはなかなか分かりづらい仕事の割り振りであらう。かく言ふ私も分掌といふ言葉を教員になるまでは知らなかつた。教員といふのは、教科を教へる仕事がもちろん第一であるが、学校が組織であり、教育が教科の伝達と完全にイコールでないと知るならば、やはり教員の仕事にはそれ以外のことがあるのは当然である。しかも、それは言はば教科を教へる仕事を支へる根つこのやうなものであり、見えない仕事でむしろあるべきとさへ思へる。カリキュラムの熟成やライフキャリアを考へる資質を養ふことは、縁の下の力持ちである。私の所属してゐる分掌...『夢なし先生の進路指導』を読む

  • 時事評論石川 2023年9月20日(第832・33)号

    今号の紹介です。一面に記事を書かせていただいた。安倍元総理への思ひを書いてほしいとの依頼であつた。今年のゴールデンウィークに、安倍氏が銃弾に倒れた場所に行つてみた。そこはすでに道路になつてをり、その脇には芝生の小さな公園が出来てゐて、そこに高校生と思しき若者が飲み物を片手に寝そべつて談笑してゐた。道路の脇で寝そべるといふのも私の感覚とは大いに異なるが、その場所がどういふ場所かを知つてゐながらの行為であつてみれば、個人の感覚の相違を越えて、どうにも整理をつけようがないほどの悲しみが湧いてきた。冷静になつて考へてみれば、なるほどこれが今の私たちの国のマジョリティーの感覚であり、東大法学部の教授をはじめ安倍批判のインテリゲンチャ―の思潮である。これは言はば、「日本の自殺」なのである。民主主義とは、かういふやうに...時事評論石川2023年9月20日(第832・33)号

  • 『沈黙の艦隊』を読む。

    沈黙の艦隊全16巻セット講談社漫画文庫かわぐちかいじ講談社『怪物』を観に行つたときだつただらうか。本編の開始の前の予告の上映のときに、『沈黙の艦隊』が映画化されることを知つた。昔から海の映像は苦手で、恐怖が先立つ上に、潜水艦の映像であるともつと怖さがまさるかもしれないとの不安もあるが、この映画は観たいとの思ひがあつて、急いで漫画の文庫コミック16巻を取り寄せて夏休みに一日一巻づつ読んだ。漫画といふものを読むといふ習慣がこれまでになかつたので、始めは苦労した。コマ割りがどのやうに続くのか分からないし、老眼には文庫版のふきだし内の文字は読みづらい。しかも、日米で開発した原子力潜水艦が独立国を宣言するといふ想定が果たしてどの程度リアリティがあるのかも分からない。その上、主人公の艦長がこれまたあまりにも見事に指揮...『沈黙の艦隊』を読む。

  • 西尾幹二氏の新著

    月刊『正論』8月号に西尾幹二氏の近況が載つてゐた。保守言論人の重鎮として、私としては今もその発言を聞きたい人の中の数少ない中のお一人である。西部邁、山崎正和、松原正、渡部昇一、石原慎太郎、江藤淳、野田宣雄、勝田吉太郎、かつては森のやうに密にして奥深い豊かさを、ささやかな私の読書生活にも十二分に感じさせてくれる方々が生きて存在してくれてゐたが、今はこの西尾幹二氏と加地信行氏、そして長谷川三千子氏のお三方のみである。もちろん、その他にも優れた批評家はゐるだらうが、もうかつての青年時代のやうには読むことはできない。その西尾氏が筆を執ることも随分少なくなつた。ブログの記事によれば、「ガン研究会有明病院で大手術が行われたのは2017年3月31日でした。あれから六年の歳月が流れました。ガンは克服されましたが、体重を1...西尾幹二氏の新著

  • 2013年の終戦記念日

    宮崎にゐる。義父の一周忌法要を無事終へて、ほつと一息。ただし、お盆と重なつたので、迎へ火、送り火をお墓と自宅前とで行ふ。それから家の前には新盆の家だけが提灯を灯しておくといふ習慣がある。すべてはお寺の指示で、A4用紙3枚にわたつて書かれた段取りにしたがつて行はれる。曹洞宗の檀家が全てこのやうに行つてゐるのか、あるいはこのお寺だけが行つてゐるのかは定かではない。しかし、もう何十年も、葬式を出した時にはかうしてゐるのだと言ふし、お盆の行事もまたこのやうにしてゐたと家内は言ふ。かういふ慣習が何によつて維持され信じられてゐるのか、私はひとへに住職の仏様への帰依にあると予感するが、残念ながらそれは感じられなかつた。ここでは書けないが、新盆の読経に来られた時に実に残念な言葉を残して次の檀家に行かれた時、本当に情けない...2013年の終戦記念日

  • 近況

    母親の葬儀も無事に終はつた。家族で通夜を過ごした。父親の時と同じ葬儀場なので、勝手が分かり不安も和らいだ。祖父母の時には家で葬儀を行なつてゐたから、わづか一世代でこんなにも葬儀の有り様が変はつてしまふものかとの思ひもあつた。一世代の変化といふことを言へば、母方の祖父が亡くなつたのは50年も前である。一世代とは30年をいふのであらうが、祖父母と父母との世代間の差がいちばん大きいのであらう。戦後の高度経済成長が食料を豊かにし、衛生状態を向上させた。寿命の変化が最も著しい時期である。それに引き換へ、私と両親との間はせいぜい30年である。母の通夜はもつとしめやかにしたいと思つたが、誰もしんみりとした様子はなかつた。懐かしい話題には事欠かないが、どれも笑ひ声と共に語られるから深夜まで楽しい時間となつた。半分悔しい思...近況

  • 白石一文『不自由な心』を読む。

    不自由な心(角川文庫)白石一文KADOKAWA久しぶりに白石の小説を読んだ。中年男性の家族の心理風景、会社内の人間関係、いつもながらの展開ながら、その渦中にある主人公の思考の道筋はいつも異なる。哲学的、宗教的と言つてもよい。そのことば、言葉、コトバが私には得難い時間の訪れのやうに感じられる。そこに予想外の分析があるから、知的な刺戟を受けるのだ。「人というのは集団となって、その集団にために働き貢献するような理屈を構築しながら、集団の中にあってこそ限りなく利己的に振る舞えるのだ。」なるほどと思ふ。白石一文『不自由な心』を読む。

  • 今朝方の母死にたまふ蝉静か

    昭和4年生。享年94。ありがたし。合掌。今朝方の母死にたまふ蝉静か

  • 『沈黙の艦隊』を読み始める

    ずゐぶん前に読んで見ようと思ひ、まとめて全16巻を購入したが、もともと漫画を読むといふ習慣をついぞ持つたことがないので、最初の1巻で挫折して数年経つた。ところが、何かの映画を観た時の宣伝で、この秋に実写版が放映されると知り、これを機に読んでみようと思ひ立ち、今毎日1巻づつ読んでゐる。今日で6巻終はり、今から7巻目。いいペースである。目標を超えるペースで読めてゐる。潜水艦の運航についてのさまざまな用語も分からないし、軍事的な知識も持ち合はせてゐないので、正確な理解はハナから捨ててゐる。それでもたんたんと読み進めて行かうと思つてゐる。しかし、一つだけ思ふのは、潜水艦1隻で「独立国家」を宣言できるのかどうか。国民は艦員、領土が潜水艦、国是として軍事目的に徹するなどといふことが、思考実験としてでも成立するのかどう...『沈黙の艦隊』を読み始める

  • 小学生は面白い。

    30%の幸せ―内海隆一郎作品集内海隆一郎メディアパル久しぶりに仕事で小学生相手に国語の授業をした。題材は何でもよいといふので、内海隆一郎の「芋ようかん」といふ小説を読むことにした。話は単純で、老夫婦がやつてゐた老舗の和菓子屋が舞台。初代のおじいさんが亡くなり、息子の代になつた。おばあさんは、芋ようかんつくりに精を出してゐたので、そのままつくり続けるつもりでゐた。しかし、ある日息子から「そんな利益の少なく、売棚の幅ばつかり取るやうな芋ようかんなんか止めて、大手のお菓子製造会社がつくつた出来合ひを並べた方が、今日日のお客のニーズにあつてゐる。しかも利益が大きい。だから、もう芋ようかんつくりはしないでいいよ」(この台詞はそのままではない)と言はれ、しぶしぶ諦めることになつた(もちろん、内心は腹が立つてゐる)。そ...小学生は面白い。

  • 久保征章『魂のみがきかた9つの道標』

    魂のみがきかた人生を好転させる魂向上の9つの道標久保征章高木書房高木書房の斎藤信二社長からご恵贈いただいた。私には不似合ひな書ではあるが、かういふ面もあるといふことは臆さず記しておかうと思ふ。著者は医師である。命を対象としてゐるうちに、身体的な生命と平行する別の生命があるといふことを感じたのであらう。魂とはさういふ意味である。そして、その魂の成長を見つめる人の身体的な生命は健康にも幸福にもなつていくといふことである。何となくさうだらうなと思つてゐたことを、いくつもの症例や体験を通じて、久保医師は感じたのである。魂を磨くといふことの例としては、筆者が推奨する神社へ行くこと。そしてその神社での祈り方が挙げられてゐる。これには大きな気づきを与へられた。「参拝したら、拝殿の前で、無事に参拝できたことをの感謝を申し...久保征章『魂のみがきかた9つの道標』

  • 福田恆存とドナルド・キーンとの往復書簡 その2

    文學界(2023年7月号)(特集甦る福田恆存)文學界文藝春秋(引用を続ける)「常識である以上、背に腹は変へられない事態がくれば、いつでもそんな基準は捨てさります。自由といへば自由、放縦といへば放縦、しかし、かういふ混乱状態に、一般の民衆は『これは都合のいゝことだ』といつてゐるとは思へません。一見、罪の意識の欠如の裏で、何かものたりないものを感じてゐるのです。一種の空虚感といつてもいゝでせう。それは悪いことをしても、もう叱つてくれなくなつた老父を見て感じる若者の心細さみたいなものではないでせうか。」私たちの「現実」には、「混乱」しかない。しかし、その「混乱」は心理的なものであるので、外見を観るだけではそれが「混乱」であるやうには見えない。外国人が見た現実は、私たち日本人が見た現実とは異なるのである。伝統に根...福田恆存とドナルド・キーンとの往復書簡その2

  • 福田恆存とドナルド・キーンとの往復書簡

    『文學界』7月号を読んでゐる。昭和30年に、二人は書簡を送りあつてゐる。福田恆存のご次男の逸氏が、これからそれを公刊するやうで、その一部がこの度掲載された。これがすこぶる面白い。意外だつたのが、福田恆存は助動詞「やうだ」を「ようだ」と書いてゐること。そして以前から知られてゐたが、漢字は決して繁体字にこだはつてゐないといふことである。これをもつて言行不一致や、『私の国語教室』の主張を裏切つてゐるといふのは早計である。前者については間違ひは誰にもあるし、後者については日常的には画数の少ない字を書くといふことに過ぎない。仮名は発音記号ではないといふことや、漢字はその歴史性を踏まへよといふ主張にはいささかも傷はつかない。さて、本文であるが、これが非常に面白い。「過去の日本には、クリスト教的な絶対唯一神もなければ、...福田恆存とドナルド・キーンとの往復書簡

  • 時事評論石川 2023年7月20日(第831)号

    今号の紹介です。ご関心がありましたら御購讀ください。1部200圓、年間では2000圓です。(いちばん下に、問合はせ先があります。)●アメリカの本音朝鮮半島は「危険な状態」のままで良いならば拉致被害者救出は拓殖大学海外事情研究所所長特定失踪者問題調査会代表荒木和博●コラム北潮(『鶴見俊輔混沌の哲学』)●台湾の危機は日本の危機ノンフィクション作家小滝透●教育隨想宮内庁広報室に課せられた重い課題(勝)●長期戦見込まれるウクライナ戦争エスカレートする可能性はあるか?史家山本昌弘●コラム眼光LGBT法の致命的錯誤(慶)●コラム核心的な歴史認識問題(紫)「戦争屋」「死の商人」の言い分(石壁)怪物、だーれだ?(星)雑駁にして杜撰な法律(梓弓)●問ひ合せ電話076-264-1119ファックス076-231-7009北国銀...時事評論石川2023年7月20日(第831)号

  • 平山周吉「昭和54年の福田恆存と、1979年の坪内祐三青年」

    文學界(2023年7月号)(特集甦る福田恆存)文學界文藝春秋引き続き、『文學界』の福田恆存特集を読んでゐる。もう次の号が発売され、書店からはこの号は消えてゐるのに、少しづつ読み進めてゐる。余談になるが、この欄では何度も「5冊並行読書」といふことを書いてゐるが、今はその5冊ともが遅読を極め、机の上に積み重ねられたままだつたり、カバンの中に入つたままだつたり、本棚から取り出されたままといつた状況である。そのことに不満やストレスを感じてゐるが、読まないよりはましとの思ひが、この読書スタイルを形作つてしまつたのである。読み散らかしといふ、読書スタイルの「崩れ」が、新種の読書スタイルを「形作る」とは、いかにも言ひ訳のやうだが、案外私らしい気もしてゐる。10年経つたあとで今を振り返つた時に、「何一つ身につかなかつた」...平山周吉「昭和54年の福田恆存と、1979年の坪内祐三青年」

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