トランプサイズの手製本を作っている装丁家の、忘れ得ぬ本、出会った人々、作品のエピソードなどを語る。
豆本 ミニチュアブック 手製本
中原中也の恋人だった長谷川泰子の口述をまとめた本を文庫化することになり、その装丁を依頼されたのは、2006年1月のことである。カバーには、小林かいちの版画を使う予定だという。それまで私が見たかいちと言えば、二度の「絵はがき展」の展示作品と古書市で買った数枚の絵封筒だけであった。帝塚山学院大学の山田俊幸教授のコレクションの分厚い張り込み帖から何点かを選んだ時、そのおびただしい数と独特の色彩と様式美に圧倒されてしまったのを覚えている。 絵封筒の色数は、2〜4色、多色という訳ではないのに濃厚な印象を受けるのは、深々とした赤、黒、金、銀、ピンク、薄紫などの取り合わせのためだろう。赤とピンクと薄紫は、ま…
天井も壁も床も鏡で作られた万華鏡のような部屋に入ったとき、果てしなく続く鏡像はすべてが虚像なのだろうか。もしや自分自身がすでに虚像であり、この世界そのものが、だれかの夢のあるのではないか、と思わせる物語が、荒巻義雄の『時の葦舟』である。 物語は「白い環」「性炎樹の花咲くとき」「石機械」「時の葦舟」からなる幻想SF短篇連作集である。それぞれの登場人物は時空を超えて生まれ変わり、別の人物として蘇る。 「白い環(かん)」は真っ白な塩でできたソルティと呼ばれる集落の物語。この街は垂直に繁栄した崖の街で、対岸の鏡面に街のすべての様子が鏡像になって映っている。ゴルドハは、河の水を汲んでは水売りをしているが…
ジュリアン・デュヴィヴィエ監督のフランス映画「舞踏会の手帖」(1937年)に、主人公クリスティーヌ(マリー・ベル)が36歳の若さで未亡人となり、湖畔の古城の暖炉の前で、夫の遺品を整理していたとき、するりと鉛筆の付いた小さな手帖が床に落ちる場面がある。16歳の時のはじめての舞踏会で、ワルツを申し込んだ十人の若者たちの名前が書かれた「舞踏会の手帖」だった。頁をめくるうちに、ふとクリスティーヌはその男たちを訪ねる旅に出ようと思いつく。 かつての若者たちは、クリスティーヌの婚約を聞いて自死したジョルジョ、ヴェルレーヌの詩を諳誦した文学青年ピエールは、キャバレーのオーナー兼泥棒に身を持ち崩していた。今は…
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