「彼女の絵が完成する頃には」心地よい風に連れられて人混みに身を預けてみる少しずつ肌寒くなってきた家族連れで賑わう街の風景どの瞬間を切り出しても笑顔まるで時が止まったようだ薄紅色の樹々が緑に混じって一面を塗り変えようと虎視眈々小鳥達はチュンチュンチュン何か嬉しいことでもあったのか?伸びをすれば抜けるような青、青、青静寂など無縁な日曜日の午後彼女はおもむろにカンヴァスを取り出す木の葉が風に吹かれて転げてるカラカラカラと流転の人生僕達を置いてきぼりにしたちょっとした罪悪感も小休止まとわりつく蝿を叩き落としてあまりにも無慈悲な自分を笑う見知らぬ人が早足で彼女を通り越すきっと彼も彼女のことを知らないそして彼女は誰も知らないんだそれでも彼女は人間を愛する会話もない、視線も合わせないコミュニケーションは暗黙の了解街のエコシス...彼女の絵が完成する頃には
「水のカタチ」時は廻り、陽はまた射すだろう登り切ったその先に水があふれる頼りない自信を煽って限りない生命をつなぐそれでも君は言っていたこわがらなくていいよここより暖かい場所を探そう帰り時刻を気にせぬ少女たちが季節外れの花火に興じて過ぎ去った夏を懐かしむもう、時は終わりに近づくけれどそれはまた再び訪れることをひととき忘れているだけなのだふと耳を澄ませば川の流れが絶えず響く耳元まで水音が届いて訳もなく安堵するのさまだ何も終わることはないと大切が何かを思ったときふるさとの記憶が甦る霧深き朝の空気真っ白く低い雲空を分かつ山々の稜線街灯よりも光り輝く星々数え切れない青春の断面を切り取って僕はひとり感傷に浸ってはもう甦らない日々に別れを告げまだ形を持たない明日を待ちわびるすべてが静止したまま時も水も止まったまま僕は大人にな...水のカタチ
「10月の雹」君が僕に手渡した真新しい一冊の本。その装丁は星空から舞い降りてきたような光を放っていた。君の処女作。1ページずつパラパラとめくると虹色の文字列が踊る。僕の微笑みに君の瞳が瑠璃色に染まった。僕は茶色の鞄を小脇に抱えて、しばし足を止めて目を瞑った。そして、少し不思議そうな顔をした君のもとからダッシュして満天の夜空を360度見渡した。実はちょっと失望したんです。否、かなり失望したんです。生きるとは紡ぐことだから。生きるとは失うことだから。君が綴った言葉には未来がなかった。君が綴った言葉には過去がなかった。もっと寛容でありたかった。もっと鈍感でありたかった。君の感性を共有したかった。君と同じ風景を見たかった。大人の理屈で片付けたくない。子供の君を赦せる自分でいたかった。いつまでもずっと弄ばれる子供のままで...10月の雹
「青年と師」時は魔法だと師に教わった泣き虫だったあの青年は大草原を駆け巡る駿馬を操れるほどの大人になったそっと耳を澄ませば律動よく聞こえてくる足音遠い未来を夢見た青年はいつしか時の流れに追い付いた辿り着いた先は新世界海が、空が、大地が待ち受ける時の魔法に身を任せてみる自然と勇気と希望が溢れた夜空の星屑に語りかけるあり得ない再会を信じて灰色に時が流れた二十代もう振り返る必要もない新しい世界の幕を開いた行き場のない魂を葬り自身の源流と向き合う誰にともなく、そう宣言した新世界の主は言う風の音を聴け、とごうごうと吹き荒ぶ嵐は心の壁を突き破らないかふと不安に駆られて胸に手を当てるそれは母なる大地の胸青年は思わず両手を空高く掲げた流れる雲が指の間をすり抜けてゆく師は他人事のように微笑んだままだ不意に父が、母が恋しくなったす...青年と師
「未来へ」幼い頃から耳を澄ましていた僕を戸惑わすほんの微かな兆し鈍い感覚を研ぎ澄ませては心に潜む本能を揺さぶるんだ愛とは言わず横に携えて互いの重さを分かち合う絞り出した生暖かい吐息は溶かして荒野に放つんだ遠巻きに眺める人生は頼りなく小さく、軽くて冷え切った体躯を暖めるコーヒーより薄いんだだからひととき、ほんのひととき永遠は君を優しく包み込む明日というゴールを追いかけ光速で追い越した遠い未来は果てしなく続く君のよく通るその声!ようやく確信した僕はこの瞬間を生きている誰かの生命にしがみつきながら新しい世界を夢見てさあ、一歩ずつ踏み出そう君を取り巻く景色を変えるよそっと耳を澄ませて風向きを感じて微音を聴き取り季節の行方を追って未来へ
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