ふしくれし指もて びわの皮をむき 我に与えし父の在りし日
師の訃報聞くとも知らず黒揚羽 桔梗のめぐりゆるく舞いおり
幾曲り農道の坂上り来て しやがの花咲く丘に出でにき
あまさぎの白き翼のきらめきて 早苗田去れば海風匂う
雪けぶる竹林の中凍結の 信号の点滅激しく光る
六十路越えし姉妹二人のささめきに 八つ手の玉の燿う陽春
朝な夕な紅まさりゆく紅葉も 老いづきぬれば只に美わし
散り敷ける栗の病葉うず高く 梢の一葉照らす朝焼け
媼一人黄菊携え登りゆく 墓地への坂に秋の陽は射す
秋の音さやかに運ぶ涼風に そそと揺れいる曼珠沙華の群
暮れなずむ秋の冷気に幼等の 一番星賞ずる声 とおりくる
さわさわと若きすすき穂さゆらぎて 朝の光に輝きわたる
移りゆきし人の手植えの三つ葉芹 垣根をくぐり清しく香る
せんもとの薄皮を剥き土に埋む この不確かなる日々の中にて
おおいなる春の光の中にいて 子等に送らむ繊切(せんぎ)りを干す
尖りたるつららの先の一雫 春の光を写し落ちゆく
傷つきて一段一だん降りてゆく 階(きざはし)よりも野菊は低し
閉じ開く 自動扉の人と影に 人生の一こまをかいまみており
桃の木の枯葉は桃の形なりに まろき弧を画き ひらひらと落つ
旅路より帰りし夫(つま)と温き飯(いい) かみしめる朝のひととき
同じ血の絆より濃くならまほし 小包の紐切に結びぬ
冷水に昆布の砂を流しゆく 世俗の行事果たさむとして
五月雨のやや強まりし昼下り 芍薬の花咲き初めにけり
梅雨明けの近づきぬらし熱帯夜 息子はイランへ旅立つという
峠には霧立ちぬらし対行の 消さぬライトが春陽に光る
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