まるでお酒を飲んだように顔が火照っている。鼓動も早い。坂道を駆け上ったばかりのように息も上がっている。幸福な高揚感がオーラのように結の全身を包みこんでいる。 …
小説、エッセイを読むのが好きです。小説家に憧れつつ何もしないまま時を重ねてきましたが、図書館で偶然手に取った短編小説集をきっかけに筆をとってみました。 名前はまりと読みます。よろしくお願いいたします
まるでお酒を飲んだように顔が火照っている。鼓動も早い。坂道を駆け上ったばかりのように息も上がっている。幸福な高揚感がオーラのように結の全身を包みこんでいる。 …
読みかけの文庫本をパタンと閉じ顔を上げると、雨粒が窓を叩きつけていた。雨の音は聞こえない。周囲の物音も、人の話し声も何も聞こえない。スマートフォンとブルートゥ…
アイロンが掛かっていないレーヨンシャツが満員電車の窓に映る。その上にぼんやり乗っている自分の顔もなんだかクシャっとしているように見えて、挫折感を上塗りする。初…
猫の足音がした。微かな微かな小さな足音。 ちょうど宿題を終えた菫はプリントをランドセルにしまい立ち上がる。愛猫ロビンが部屋の前まで迎えに来ているに違いない。だ…
大きく開いた窓から心地よい風が吹き込んでくる。外をぼんやり見ていたタカシは、双子の妹ヒカルの視線に気づき、机に向き直った。 この4月からタカシは高校生になった…
「久恵はすごいよね。もうFIREしてて、仕事しなくていいなんて。羨ましい。今は、ご主人と二人で毎日大阪万博行っているらしいよ。万博が終わったら、あちこち海外を…
「春樹、いつ賞取れると思う?」 真面目な顔をして聴いてくる妻の美佐江に何と答えれば機嫌を損ねずに済むか、裕二は頭の中であれこれ思索にふけっていた。 うっかり答…
猫の足音がした。 タカシが振り向くと、サビ猫のサビイがすました顔をして近づいてきて、目の前のベンチにぴょんと飛び乗ると箱座りして寝てしまった。なんとも気持ちよ…
体調不良のためお休みします。ふわふわぼんやりすいません
宇宙人に身体をのっとられた。朝、目を覚ました瞬間、桂木大悟はそう思った。目を開けて天井が見えるのに起き上がれない。身体が動かないのだ。 頭の中で宇宙人の声がす…
うわぁ。こんなの初めて。凄い。凄いわ。 蒸気立った若い女性の声が左耳をくすぐり、達也は声の方に顔を向けた。すぐ横にいる二十歳そこそこの女性は、興奮で頬を赤らめ…
窓の外で音がする。力まかせに生垣の樹木をかき分けたようにガサッと。佑弥は首を傾げた。佑弥の住むハイツには樹木なんてない。窓をあけ外を覗くと、三毛猫がじっとこっ…
教科書を適当に詰めこんだカバンの重さが、倦怠感に輪をかける。昨夜の電話のせいで窓が白むまで眠れなかった。口の中で欠伸をしながら、中島流星は改札を抜け、ホームへ…
不倫旅行のアリバイ作りは誰のため?‐吾輩は犬である。名前はまだない
3月だというのに、なかなか暖かくならない。毎日の散歩でも、毛が寒さで逆立ってしまう。くりんくりんの自慢の巻き毛が台無しだ。それでも吾輩は出かける。茜姫を守るた…
三寒四温を繰り返し、確実に春は近づいて来ている。いや自分が春に近づいて行っているのかもしれない。 まばらな冬の雲の間に煌めく星を見上げながら、夕子はつぶやいた…
猫の足音がした。 窓の外を覗くために、トムが窓際にある木製デスクに飛び乗ったのだ。 今年二度目の最強寒波で、外は大雪だ。窓枠にずんずんと雪が張り付いていき、ガ…
微かな物音。小さく小さく聞こえるか聞こえないか程度に、みしっと雪がきしむ音がする。 猫の足音だ。ユズルは、そう呟いて窓の外を見る。 ほら、やっぱりウイリアムだ…
博美の実家には、大きくて高い杉の木がある。 取り立てて金持ちだったわけではないが、田舎なので土地だけは有り余っている。最近流行の古民家カフェのようなやたらに広…
図案が決まらない。もう何か月も前から多恵は考え続けていた。 春に開催される大規模なイベントが自分の人生を変えるかもしれない。そのイベント会場の一部屋全体を自分…
孫のちぃ子は、少し変わったキャラクターが好きだ。 おにぎりを被ったアリクイという不可思議な形のぬいぐるみを引き出しに押し込みながら、恵子は笑ってしまった。ちぃ…
生きているのがしんどい。 かすみは最近、目覚めてすぐにそんなことを考える。齢57歳。還暦も近い。 若い頃はバリバリと仕事をしていたが、自分でなくたっていい仕事…
ベッドの端で丸くなって寝ていた黒猫のエリザベスが起き上がり伸びをする。 横のこたつで宿題をしながら、それを見ていた夕子はなんだか笑ってしまった。さっきまで目の…
あけましておめでとうございます ゆうやは、おばあちゃんちの玄関で元気よく挨拶をした。笑顔で迎えてくれたのは、おばあちゃんではなくマサミ姉ちゃんだ。 マサミ姉ち…
街路樹や店頭の飾りはクリスマスのイルミネーションで輝いている。凍り付くような冷たい風が、風子の頬に吹きつける。 やっと慣れて来た東京の街を歩きながら、風子は空…
猫の足音で目が覚めた。 枕から頭を上げた麗奈は首を傾げる。布団の足元には黒猫のハナが丸くなって寝ている。今来たばっかりなの? さっきまで夢を見ていたような気が…
とん ととん。猫の足音がする。冷蔵庫の上から食器棚、カウンターへと飛び降りた音だ。さとみはソファに座ったままで身体をねじって振り返り、キッチンの方を見た。 カ…
とん ととん。猫の足音がする。ベッドに寝転がっていたマリは、体を起こし階段の踊り場を見た。 日曜の午後、マリは一人でお留守番をしていた。お父さんは、休日出勤で…
低く唸るような風音が窓の外から聞こえてくると、茜の心は湧きだった。 従妹姉妹に二人が熱中している「推し」のライブに一緒に行こうと誘われた時、茜は「推し」をあま…
富有柿のパルフェは台風の味‐吾輩は犬である。名前はまだない。
吾輩は犬である。名前は、まだない。吾輩はわが主である茜姫と散歩に出ていた。 スーパーマーケットのドアが開いたり閉まったりする度に、店頭の果物や野菜の匂いが漂っ…
「モミジガリに行きたいです」小春が言う。「モミジガリ?」言葉の意味が理解できないままおうむ返しをした亮太は、すぐにそれが「紅葉狩り」であることが分かった。 今…
「ママ、レーコー」スーツの中で身体が泳ぐ程やせ細ったサラリーマンがカウンターの椅子に腰を掛けながら、中に立つ女性に声をかける。 ママと呼ばれた女性は、にこりと…
我ながら馬鹿げている。目の前で風に揺れるオレンジ色のマリーゴールドを見ながら、篤紀は独りごちた。 能登にあるガラス工房での修業予定は、年明けの大地震でなくなっ…
指先で砂をなぞったように斜めに流れるグレーの雲も、月の光を遮ることはできない。雲の隙間から、煌々とした輝きを放ち、夜空は絵画のように美しい。 「おぼろづきよ」…
吾輩は犬である。名前はまだない。 まだない=マッダーナイト。吾輩の主である茜姫がつけてくれた名前である。そのまま茜の騎士と訳してくれて構わない。茜姫のナイトと…
幽霊猫クリスティーナが語る、臨時休業の夜。~吾輩は犬である。名前はまだない
吾輩は犬である。名前は、まだない。 どこで生れたか とんと見当がつかぬ。それでも首にぶらさげているネームプレートをつけてもらった日のことは記憶している。 吾輩…
一昨日まであんなに暑かったのに、今夜は涼しい風が吹いている。 国道なのに歩道もない狭いバス通りの路側帯を歩きながら、美桜は斜め掛けしたショルダーからスマホを取…
「ハーベストムーンって言うんじゃって」東の空で金色に輝く月を指さして言う彼女を見て、すばるは心が騒いだ。 「あれ? 満月は昨日じゃなかったっけ。中秋の名月」素…
「穂乃果、一回帰ってきてから、準備してまた東京やって。」美桜はそう言いながら、白桃タルトにグサッとフォークを差し込んだ。 猫を形どったチョコレートケーキを写真…
大好きな季節が来た。残暑はまだまだ残っているが、徐々に季節が移り変わっているのを朝の風が教えてくれる。木々の葉も真夏に比べると緑が鮮彩さを欠いてきて微かに黄み…
風が強い。まだまだ蒸し暑いが、秋が一歩ずつ近づいて来ている。雨の匂いを孕んだ風が青々と茂った木からもぎ取るように葉を吹き飛ばす中、風子は立ち止まった。原宿駅か…
火事だあ。 男性の叫び声を合図に、そこにいた人たちが一斉に非常階段へと向かう。同僚の寿恵が花柄のハンカチで口を押さえながら歩き出した。温子もキャラクターのつい…
東の空がかすかに白む頃、吾輩は西へ向う。いつの間にこの国はこんなに暑くなってしまったのだろう。まだ夜も明けきらない早朝だというのに、もう気温は三十度近く。少し…
寒さに凍えるほどエアコンを効かせたビルの自動ドアが開くと、熱い風が身体にめがけて飛んできた。一歩外に出るとまだ陽射しはまだ焼きつくようだ。熱中症警戒アラートも…
「素敵な色合いのファッションですね」その言葉に優子は戸惑った。篤紀に誘われたガラス展は、最初から最後まで作品ひとつひとつが感動的だった。自分では思いつかないよ…
オレンジ色の光の粒が巨大なシダレヤナギのように垂れ下がっている。きれいだ。スマホの画面いっぱいに広がった写真を見ながら、亮太は呟いた。海の日名古屋みなと祭花火…
吾輩は犬である。名前は、まだない。吾輩は西に向かって歩いていた。目の前には美しい夕日が広がっている。坂道をゆっくり下りながら、我が茜姫は吾輩に話しかける。「ま…
ガタンゴトン遠くにかすかに聴こえる電車の音誰もいない一人っきりの部屋音楽もない静かな時間山の上を走る電車から優しい車輪の音がするガタンゴトン普段なら聴こえない…
電車が止まるほどではなかったが、朝から激しい雨だった。傘をさしていても足元はずぶ濡れになってしまい、オフィスの玄関先でタオルでズボンと靴を拭いているとボスこと…
もう一回だけお休みします高熱は治まりましたが微熱がずっと続いており体力、思考力がないですコメントにもお返事できずごめんなさい
熱で思考がポンポンしてます。体調不良のため今週はお休みします。ごめんなさい。
これ、宇治のおじちゃんに似てる。碧は石仏の前で足を止めた。緑の中に並んでいる石仏のうち一つが京都府宇治市に住む伯父にそっくりなのだ。温和で呑気な顔つきをしてい…
太陽が一瞬にして溶けた、9月23日。空を紫色に輝かせるマジックアワーのひとときが一瞬にして消え去ったあの日から、どのくらい月日が経ったのだろう。人々はあの日の…
キミドリの白目のライオンがね。そんでもってターコイズブルーのたてがみのライオンが。じっとこっちを見ている。そんな夢を見てね。目が覚めたら美術館を歩いてて。あれ…
このズレはいつから起きていたんだろう。芽衣はぼんやり考えていた。テーブルに乗ったカップにレモンを絞ると、空を映したような青色だったバタフライピーティーが紫色に…
「ほんま、疲れたぁー」無意識に溢れてしまった穂乃果の声に周りの人たちが振り返った。しまった、と内心思いながらなんでもない表情でレモンサワーを喉に流し込む。大阪…
木洩れ陽輝く春。朝から天気が良く、決まってこういう日茜姫は機嫌が良い。天気に気分を左右されるとは、我がご主人も単純なものだ。吾輩は尻尾を振って颯爽と街を闊歩し…
春だというのに寒い。せっかくのゴールデンウィークなのに雨模様で、予定していた公園キャンプも中止するしかなかった。普段なら聞き分けのいい娘がいつになくぐずり続け…
窓の外で雨の音がする。わたしは気づかないふりで陽気にふるまう誰のため?自分のためひとり暮らしは気ままでしょなんて人は言うけれど意外とそうでもない雨は嫌い雨は嫌…
春の風に吹かれながら篤紀は、悠久の歴史を感じていた。世界遺産を巡り、古代ロマンを秘めた遺跡を堪能した。予定外の一人旅ももうすぐ終わる。数年間吹ガラスの修業をす…
吾輩は、犬である。名前はマッダーナイト。茜の騎士だ。我が茜姫は、最近淡いピンクと白のツートンカラーの車を手に入れた。何年か前にCMでその軽自動車に一目惚れをし…
テーブルの上のスマートフォンが振動している。その時、茜はコールセンターの休憩室でお弁当を食べていた。ちょっと働きすぎかもしれない。今日は臨時出勤をしていた。休…
地面をじっと見るようにうつむいて立っていた。亮太の横を大勢の人間が行き来する。早足の人、小走りの人、立ち止まる人、ゆっくり歩く人。通り過ぎる人たちは口々に何か…
四月生まれが羨ましい。中学生の頃、裕子はそう思っていた。イルミネーション、夜景から朝露に差し込む太陽、そして宝石。光り輝くものが大好きな裕子にとって、ダイヤモ…
自己紹介した後、皆と一緒に居づらくなった私は、ビジターセンターの外に出るとベンチに座って空を見上げた。 真っ暗な空に、多数の星が輝いている。 全ての星は太陽の…
幼い頃から岡山県の静かな町で暮らしていた風子だが、一念発起して東京暮らしに挑戦することを決断した。一人旅も出来ない弱虫だから、従姉の家の居候でも不安でいっぱい…
優柔不断な茜と対象的に、妹の碧は極端に即断即決なタイプだ。だから大学卒業直後、出逢って二週間の幸生と結婚すると宣言した時も誰も驚かなかった。幸生とは新卒研修の…
まるで4月のような陽気が続いたと思うと凍てつくような寒さになる。繰り返す三寒四温で季節感が狂ってしまっていたらしい。朝の情報番組でナレーターが朝一番が最高気温…
吾輩は、犬である。名前はまだない。ノーネームではなくmadder knight。正確にはマッダーナイトである。 少し思い出話をしよう。いや、それ程昔のことでは…
美桜はキッチンで鼻歌を口ずさみながら牛蒡をささがきにしていた。夕食の仕込みだが、壊れたレコードのように繰り返していたのは、朝食も作れたもんね、というフレーズ。…
穂乃果がサンドイッチを頬張ろうと大口をあけた時、横に立っていた女性が話しかけて来た。それが風子との初めての出会いだった。始まりは3日前。その時、穂乃果は倉庫で…
電話のむこうで風子の声がする。風子と最後に話したのはいつだっただろう。確か怪我をして陸上を辞めた年だ。岡山の祖母の元に里帰りした亮太は、幼くガサツだった風子が…
吾輩は、犬である。名前は、まだない。ネームプレートにはmadder knight。吾輩が守っている姫は、名前をあかね、漢字で茜という。茜はmadder、騎士は…
肩にもたれかかり寝息をたてている花枝の重みを感じながら風子もウトウトと夢とうつつの間を行ったり来たりしていた。バスが大きく揺れ、目を開けると、車窓には雪をかぶ…
「う〜ん開運そばにしようか、でも寿そばもいいよね。迷っちゃう。」「私は初志貫徹、山菜そば。あ、やっぱり、きのこそばにする」通路を隔てた隣で女性二人が楽しそうに…
能登の朝は早い。潮の香りのする通りをぶらぶらと練り歩きながら、泰典の言葉を思い出していた。日本三大朝市のひとつである輪島の朝市は、非常に歴史もあり平安初期に始…
「茜っ、何にするんっ。まだ決まらんのん。ほんま、ぐずやなぁ、あんたは」詰問口調の美桜に茜は苦笑した。「あ、先に頼んどいて」国道筋沿いのファミレスは夜になっても…
「ほのちゃん、大丈夫?」心配そうな芽衣の声で穂乃果は我に返った。あやうく手から滑り落ちそうになっていたマグカップを持ち直す。「あ、ごめん。ちょっとボッーとして…
まだ秋だというのに北海道の空気は冷たい。太陽が溶けた瞬間、私が佇んでいたのは大観望と異名を持つ細岡展望台。釧路湿原の東側に位置する。 電灯をパチンと消したよう…
たくさんの本の中から一冊を選ぶ。この瞬間がなんとなく好きだ。探していたのは、星野道夫の「旅をする木」。多くの人の人生を変えた本、らしい。私も変わりたい。よし、…
「はっ? キャンセル? 取れなかった? やめておくってどういうことだよ?」「上席から反対があったようで…」「そんなこと、今更…。そこをなんとか説得するのが営業…
吾輩は犬である。名前は、まだない。 吾輩はペットショップというところで生まれた血統書付きの犬らしい。そこで膝にそっと乗せてくれ、吾輩を連れ帰ってくれたた彼女に…
モニターの中で、機械でできた恐竜がもだえ苦しみ、サラウンドの効いたスピーカーから断末魔の叫び声を上げた。凄い迫力だ。だが、まだラスボスじゃない。ふぅ、つまらな…
能登の風は冷たい。千枚田を吹き渡る潮風を受けながら、篤紀は香織のことを考えていた。あれは10年程前のことだったろうか。友人の泰典に紹介された香織は、まさに篤紀…
茜には夢がない。物心ついたときにはすでに保育園の先生になりたかった。小学生になると小学校の先生を目指した。小説家になって世界各国に自分の名を広めたい。そう思う…
吾輩は犬である。名前は、まだない。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。それでもペットショップとかいうところでわんわん鳴いていた事だけは記憶している。吾輩はここで…
9月23日。西の地平線に夕陽が沈んでしまうと、夕陽に向かってシャッターを切っていた女性が三脚を片付けながら振り返った。「綺麗でしたね。そろそろ、行きますか。」…
穂乃果には夢がある。物心ついたときにはすでに雑貨が大好きだった。世界各国の素敵な雑貨を日本で広めたい。そう思うようになったのは、海外を旅するようになってからだ…
すばるの夜は短い。オートロックがカチリと音を立て、マンションのドアを開くと、熱を含んだ風が舞う。じっとりとした熱帯夜。エレベータがやけに涼しい。玄関開けたら2…
風子の決意は、固い。線路を跨ぐ歩道橋の上、一瞬立ち止まり迷いを切るように、頭を振る。キリがない。このままじゃキリがない。終わりにしよう。グッと足に力を入れて、…
「ブログリーダー」を活用して、万里さんをフォローしませんか?
指定した記事をブログ村の中で非表示にしたり、削除したりできます。非表示の場合は、再度表示に戻せます。
画像が取得されていないときは、ブログ側にOGP(メタタグ)の設置が必要になる場合があります。
まるでお酒を飲んだように顔が火照っている。鼓動も早い。坂道を駆け上ったばかりのように息も上がっている。幸福な高揚感がオーラのように結の全身を包みこんでいる。 …
読みかけの文庫本をパタンと閉じ顔を上げると、雨粒が窓を叩きつけていた。雨の音は聞こえない。周囲の物音も、人の話し声も何も聞こえない。スマートフォンとブルートゥ…
アイロンが掛かっていないレーヨンシャツが満員電車の窓に映る。その上にぼんやり乗っている自分の顔もなんだかクシャっとしているように見えて、挫折感を上塗りする。初…
猫の足音がした。微かな微かな小さな足音。 ちょうど宿題を終えた菫はプリントをランドセルにしまい立ち上がる。愛猫ロビンが部屋の前まで迎えに来ているに違いない。だ…
大きく開いた窓から心地よい風が吹き込んでくる。外をぼんやり見ていたタカシは、双子の妹ヒカルの視線に気づき、机に向き直った。 この4月からタカシは高校生になった…
「久恵はすごいよね。もうFIREしてて、仕事しなくていいなんて。羨ましい。今は、ご主人と二人で毎日大阪万博行っているらしいよ。万博が終わったら、あちこち海外を…
「春樹、いつ賞取れると思う?」 真面目な顔をして聴いてくる妻の美佐江に何と答えれば機嫌を損ねずに済むか、裕二は頭の中であれこれ思索にふけっていた。 うっかり答…
猫の足音がした。 タカシが振り向くと、サビ猫のサビイがすました顔をして近づいてきて、目の前のベンチにぴょんと飛び乗ると箱座りして寝てしまった。なんとも気持ちよ…
体調不良のためお休みします。ふわふわぼんやりすいません
宇宙人に身体をのっとられた。朝、目を覚ました瞬間、桂木大悟はそう思った。目を開けて天井が見えるのに起き上がれない。身体が動かないのだ。 頭の中で宇宙人の声がす…
うわぁ。こんなの初めて。凄い。凄いわ。 蒸気立った若い女性の声が左耳をくすぐり、達也は声の方に顔を向けた。すぐ横にいる二十歳そこそこの女性は、興奮で頬を赤らめ…
窓の外で音がする。力まかせに生垣の樹木をかき分けたようにガサッと。佑弥は首を傾げた。佑弥の住むハイツには樹木なんてない。窓をあけ外を覗くと、三毛猫がじっとこっ…
教科書を適当に詰めこんだカバンの重さが、倦怠感に輪をかける。昨夜の電話のせいで窓が白むまで眠れなかった。口の中で欠伸をしながら、中島流星は改札を抜け、ホームへ…
3月だというのに、なかなか暖かくならない。毎日の散歩でも、毛が寒さで逆立ってしまう。くりんくりんの自慢の巻き毛が台無しだ。それでも吾輩は出かける。茜姫を守るた…
三寒四温を繰り返し、確実に春は近づいて来ている。いや自分が春に近づいて行っているのかもしれない。 まばらな冬の雲の間に煌めく星を見上げながら、夕子はつぶやいた…
猫の足音がした。 窓の外を覗くために、トムが窓際にある木製デスクに飛び乗ったのだ。 今年二度目の最強寒波で、外は大雪だ。窓枠にずんずんと雪が張り付いていき、ガ…
微かな物音。小さく小さく聞こえるか聞こえないか程度に、みしっと雪がきしむ音がする。 猫の足音だ。ユズルは、そう呟いて窓の外を見る。 ほら、やっぱりウイリアムだ…
博美の実家には、大きくて高い杉の木がある。 取り立てて金持ちだったわけではないが、田舎なので土地だけは有り余っている。最近流行の古民家カフェのようなやたらに広…
図案が決まらない。もう何か月も前から多恵は考え続けていた。 春に開催される大規模なイベントが自分の人生を変えるかもしれない。そのイベント会場の一部屋全体を自分…
孫のちぃ子は、少し変わったキャラクターが好きだ。 おにぎりを被ったアリクイという不可思議な形のぬいぐるみを引き出しに押し込みながら、恵子は笑ってしまった。ちぃ…
熱で思考がポンポンしてます。体調不良のため今週はお休みします。ごめんなさい。
これ、宇治のおじちゃんに似てる。碧は石仏の前で足を止めた。緑の中に並んでいる石仏のうち一つが京都府宇治市に住む伯父にそっくりなのだ。温和で呑気な顔つきをしてい…
太陽が一瞬にして溶けた、9月23日。空を紫色に輝かせるマジックアワーのひとときが一瞬にして消え去ったあの日から、どのくらい月日が経ったのだろう。人々はあの日の…
キミドリの白目のライオンがね。そんでもってターコイズブルーのたてがみのライオンが。じっとこっちを見ている。そんな夢を見てね。目が覚めたら美術館を歩いてて。あれ…
このズレはいつから起きていたんだろう。芽衣はぼんやり考えていた。テーブルに乗ったカップにレモンを絞ると、空を映したような青色だったバタフライピーティーが紫色に…
「ほんま、疲れたぁー」無意識に溢れてしまった穂乃果の声に周りの人たちが振り返った。しまった、と内心思いながらなんでもない表情でレモンサワーを喉に流し込む。大阪…
木洩れ陽輝く春。朝から天気が良く、決まってこういう日茜姫は機嫌が良い。天気に気分を左右されるとは、我がご主人も単純なものだ。吾輩は尻尾を振って颯爽と街を闊歩し…
春だというのに寒い。せっかくのゴールデンウィークなのに雨模様で、予定していた公園キャンプも中止するしかなかった。普段なら聞き分けのいい娘がいつになくぐずり続け…
窓の外で雨の音がする。わたしは気づかないふりで陽気にふるまう誰のため?自分のためひとり暮らしは気ままでしょなんて人は言うけれど意外とそうでもない雨は嫌い雨は嫌…
春の風に吹かれながら篤紀は、悠久の歴史を感じていた。世界遺産を巡り、古代ロマンを秘めた遺跡を堪能した。予定外の一人旅ももうすぐ終わる。数年間吹ガラスの修業をす…
吾輩は、犬である。名前はマッダーナイト。茜の騎士だ。我が茜姫は、最近淡いピンクと白のツートンカラーの車を手に入れた。何年か前にCMでその軽自動車に一目惚れをし…
テーブルの上のスマートフォンが振動している。その時、茜はコールセンターの休憩室でお弁当を食べていた。ちょっと働きすぎかもしれない。今日は臨時出勤をしていた。休…
地面をじっと見るようにうつむいて立っていた。亮太の横を大勢の人間が行き来する。早足の人、小走りの人、立ち止まる人、ゆっくり歩く人。通り過ぎる人たちは口々に何か…
四月生まれが羨ましい。中学生の頃、裕子はそう思っていた。イルミネーション、夜景から朝露に差し込む太陽、そして宝石。光り輝くものが大好きな裕子にとって、ダイヤモ…
自己紹介した後、皆と一緒に居づらくなった私は、ビジターセンターの外に出るとベンチに座って空を見上げた。 真っ暗な空に、多数の星が輝いている。 全ての星は太陽の…
幼い頃から岡山県の静かな町で暮らしていた風子だが、一念発起して東京暮らしに挑戦することを決断した。一人旅も出来ない弱虫だから、従姉の家の居候でも不安でいっぱい…
優柔不断な茜と対象的に、妹の碧は極端に即断即決なタイプだ。だから大学卒業直後、出逢って二週間の幸生と結婚すると宣言した時も誰も驚かなかった。幸生とは新卒研修の…
まるで4月のような陽気が続いたと思うと凍てつくような寒さになる。繰り返す三寒四温で季節感が狂ってしまっていたらしい。朝の情報番組でナレーターが朝一番が最高気温…
吾輩は、犬である。名前はまだない。ノーネームではなくmadder knight。正確にはマッダーナイトである。 少し思い出話をしよう。いや、それ程昔のことでは…
美桜はキッチンで鼻歌を口ずさみながら牛蒡をささがきにしていた。夕食の仕込みだが、壊れたレコードのように繰り返していたのは、朝食も作れたもんね、というフレーズ。…