小説、エッセイを読むのが好きです。小説家に憧れつつ何もしないまま時を重ねてきましたが、図書館で偶然手に取った短編小説集をきっかけに筆をとってみました。 名前はまりと読みます。よろしくお願いいたします
これ、宇治のおじちゃんに似てる。碧は石仏の前で足を止めた。緑の中に並んでいる石仏のうち一つが京都府宇治市に住む伯父にそっくりなのだ。温和で呑気な顔つきをしてい…
太陽が一瞬にして溶けた、9月23日。空を紫色に輝かせるマジックアワーのひとときが一瞬にして消え去ったあの日から、どのくらい月日が経ったのだろう。人々はあの日の…
キミドリの白目のライオンがね。そんでもってターコイズブルーのたてがみのライオンが。じっとこっちを見ている。そんな夢を見てね。目が覚めたら美術館を歩いてて。あれ…
このズレはいつから起きていたんだろう。芽衣はぼんやり考えていた。テーブルに乗ったカップにレモンを絞ると、空を映したような青色だったバタフライピーティーが紫色に…
「ほんま、疲れたぁー」無意識に溢れてしまった穂乃果の声に周りの人たちが振り返った。しまった、と内心思いながらなんでもない表情でレモンサワーを喉に流し込む。大阪…
木洩れ陽輝く春。朝から天気が良く、決まってこういう日茜姫は機嫌が良い。天気に気分を左右されるとは、我がご主人も単純なものだ。吾輩は尻尾を振って颯爽と街を闊歩し…
春だというのに寒い。せっかくのゴールデンウィークなのに雨模様で、予定していた公園キャンプも中止するしかなかった。普段なら聞き分けのいい娘がいつになくぐずり続け…
窓の外で雨の音がする。わたしは気づかないふりで陽気にふるまう誰のため?自分のためひとり暮らしは気ままでしょなんて人は言うけれど意外とそうでもない雨は嫌い雨は嫌…
春の風に吹かれながら篤紀は、悠久の歴史を感じていた。世界遺産を巡り、古代ロマンを秘めた遺跡を堪能した。予定外の一人旅ももうすぐ終わる。数年間吹ガラスの修業をす…
吾輩は、犬である。名前はマッダーナイト。茜の騎士だ。我が茜姫は、最近淡いピンクと白のツートンカラーの車を手に入れた。何年か前にCMでその軽自動車に一目惚れをし…
テーブルの上のスマートフォンが振動している。その時、茜はコールセンターの休憩室でお弁当を食べていた。ちょっと働きすぎかもしれない。今日は臨時出勤をしていた。休…
地面をじっと見るようにうつむいて立っていた。亮太の横を大勢の人間が行き来する。早足の人、小走りの人、立ち止まる人、ゆっくり歩く人。通り過ぎる人たちは口々に何か…
四月生まれが羨ましい。中学生の頃、裕子はそう思っていた。イルミネーション、夜景から朝露に差し込む太陽、そして宝石。光り輝くものが大好きな裕子にとって、ダイヤモ…
自己紹介した後、皆と一緒に居づらくなった私は、ビジターセンターの外に出るとベンチに座って空を見上げた。 真っ暗な空に、多数の星が輝いている。 全ての星は太陽の…
幼い頃から岡山県の静かな町で暮らしていた風子だが、一念発起して東京暮らしに挑戦することを決断した。一人旅も出来ない弱虫だから、従姉の家の居候でも不安でいっぱい…
優柔不断な茜と対象的に、妹の碧は極端に即断即決なタイプだ。だから大学卒業直後、出逢って二週間の幸生と結婚すると宣言した時も誰も驚かなかった。幸生とは新卒研修の…
まるで4月のような陽気が続いたと思うと凍てつくような寒さになる。繰り返す三寒四温で季節感が狂ってしまっていたらしい。朝の情報番組でナレーターが朝一番が最高気温…
吾輩は、犬である。名前はまだない。ノーネームではなくmadder knight。正確にはマッダーナイトである。 少し思い出話をしよう。いや、それ程昔のことでは…
美桜はキッチンで鼻歌を口ずさみながら牛蒡をささがきにしていた。夕食の仕込みだが、壊れたレコードのように繰り返していたのは、朝食も作れたもんね、というフレーズ。…
穂乃果がサンドイッチを頬張ろうと大口をあけた時、横に立っていた女性が話しかけて来た。それが風子との初めての出会いだった。始まりは3日前。その時、穂乃果は倉庫で…
電話のむこうで風子の声がする。風子と最後に話したのはいつだっただろう。確か怪我をして陸上を辞めた年だ。岡山の祖母の元に里帰りした亮太は、幼くガサツだった風子が…
吾輩は、犬である。名前は、まだない。ネームプレートにはmadder knight。吾輩が守っている姫は、名前をあかね、漢字で茜という。茜はmadder、騎士は…
肩にもたれかかり寝息をたてている花枝の重みを感じながら風子もウトウトと夢とうつつの間を行ったり来たりしていた。バスが大きく揺れ、目を開けると、車窓には雪をかぶ…
「う〜ん開運そばにしようか、でも寿そばもいいよね。迷っちゃう。」「私は初志貫徹、山菜そば。あ、やっぱり、きのこそばにする」通路を隔てた隣で女性二人が楽しそうに…
能登の朝は早い。潮の香りのする通りをぶらぶらと練り歩きながら、泰典の言葉を思い出していた。日本三大朝市のひとつである輪島の朝市は、非常に歴史もあり平安初期に始…
「茜っ、何にするんっ。まだ決まらんのん。ほんま、ぐずやなぁ、あんたは」詰問口調の美桜に茜は苦笑した。「あ、先に頼んどいて」国道筋沿いのファミレスは夜になっても…
「ほのちゃん、大丈夫?」心配そうな芽衣の声で穂乃果は我に返った。あやうく手から滑り落ちそうになっていたマグカップを持ち直す。「あ、ごめん。ちょっとボッーとして…
まだ秋だというのに北海道の空気は冷たい。太陽が溶けた瞬間、私が佇んでいたのは大観望と異名を持つ細岡展望台。釧路湿原の東側に位置する。 電灯をパチンと消したよう…
たくさんの本の中から一冊を選ぶ。この瞬間がなんとなく好きだ。探していたのは、星野道夫の「旅をする木」。多くの人の人生を変えた本、らしい。私も変わりたい。よし、…
「はっ? キャンセル? 取れなかった? やめておくってどういうことだよ?」「上席から反対があったようで…」「そんなこと、今更…。そこをなんとか説得するのが営業…
吾輩は犬である。名前は、まだない。 吾輩はペットショップというところで生まれた血統書付きの犬らしい。そこで膝にそっと乗せてくれ、吾輩を連れ帰ってくれたた彼女に…
モニターの中で、機械でできた恐竜がもだえ苦しみ、サラウンドの効いたスピーカーから断末魔の叫び声を上げた。凄い迫力だ。だが、まだラスボスじゃない。ふぅ、つまらな…
能登の風は冷たい。千枚田を吹き渡る潮風を受けながら、篤紀は香織のことを考えていた。あれは10年程前のことだったろうか。友人の泰典に紹介された香織は、まさに篤紀…
茜には夢がない。物心ついたときにはすでに保育園の先生になりたかった。小学生になると小学校の先生を目指した。小説家になって世界各国に自分の名を広めたい。そう思う…
吾輩は犬である。名前は、まだない。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。それでもペットショップとかいうところでわんわん鳴いていた事だけは記憶している。吾輩はここで…
9月23日。西の地平線に夕陽が沈んでしまうと、夕陽に向かってシャッターを切っていた女性が三脚を片付けながら振り返った。「綺麗でしたね。そろそろ、行きますか。」…
穂乃果には夢がある。物心ついたときにはすでに雑貨が大好きだった。世界各国の素敵な雑貨を日本で広めたい。そう思うようになったのは、海外を旅するようになってからだ…
すばるの夜は短い。オートロックがカチリと音を立て、マンションのドアを開くと、熱を含んだ風が舞う。じっとりとした熱帯夜。エレベータがやけに涼しい。玄関開けたら2…
風子の決意は、固い。線路を跨ぐ歩道橋の上、一瞬立ち止まり迷いを切るように、頭を振る。キリがない。このままじゃキリがない。終わりにしよう。グッと足に力を入れて、…
「ブログリーダー」を活用して、万里さんをフォローしませんか?