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白い花の唄 https://blog.goo.ne.jp/aquamarine_2007

銀河連邦だのワームホールだののある遠未来の宇宙時代。辺境の惑星イドラで生きる人々の物語。

オリジナルSF小説『神隠しの惑星』第一部です。

karicobo
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2009/08/10

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  • カエルの姫君(その2)

    巫女姿の桐ちゃんは、春に池で初めて会った時のようにずっと大人の女の人に見えた。白い胴着に赤い袴。透けた薄い着物を重ねていて、天女みたいだ。まっすぐに延びた黒い髪を白い布で結んで背中に垂らしている。額にシャラシャラ音がする薄い金属の簪飾りをつけている。桐ちゃんと向かい合って踊る女の人も、桐ちゃんと同じ衣装で同じぐらいの長さの黒髪で、すごく良く似ていた。この人が桐ちゃんのお母さんだろうか。それにしてはすごく若い。桐ちゃんともうひとりの女の人は双子のようにそっくりで、鏡で合わせたようにぴったりと揃って踊っていた。僕が拝殿に飛び込んだ瞬間、2人の巫女と銀ちゃんと、神主姿の男の人が僕の方を振り向いた。銀ちゃんは、笛から口を離してちょっと目を見開いた。桐ちゃんは、あの春の夜のように僕の方を見ていても僕を見ていない。緑に輝く...カエルの姫君(その2)

  • カエルの姫君(その1)

    僕が4月から通う高等学校には、アールデコのお城と森に囲まれた湖沼群がある。アールデコのお城は文化財指定の私立図書館で、生徒以外にも開放されている。高い天井まで届く細長い窓が並んでいて、磨きこまれた木の床に午後の日差しが差し込む閲覧室は僕のお気に入りの場所だ。新刊なんかは無いけれど、いろんな文学全集やカラーの木版画図版のたくさん入った大型の博物学図鑑、地域の歴史書がそろっていて何時間でも過ごせる。閲覧室から続く別棟には、お弁当を食べていいラウンジがあって、凝った組木模様の床にアンティークなテーブルや椅子が並んでいる。今時の視聴覚ライブラリなんて無いから、いつもひっそりして静かだ。高等学校は200年の歴史があるらしい。木がみんな大きく育っていて、真夏でも涼しい影を作っているし、ちょっとした植物園並みに珍しい樹種がそ...カエルの姫君(その1)

  • お化けの店のユタカくん

    そいつと初めて会ったのは例によって桜さんのせいだ。桜さんは俺の曾祖母なのだが、”ひい祖母ちゃん”などと呼ぼうものなら鉄拳が降ってくる。第一、うちは女ばかり祖母だの叔母だのいろいろいるので、”お母さん”の指す人物が呼ぶ人によって違うというややこしい事態になる。というわけで、我が家では女性は基本、個人名で呼ぶルールだ。「トンちゃんっ。トンちゃん、ちょっと来てっ」禰宜の山下さんを手伝って榊を運んでいると、本殿の横手のお社から桜さんが切羽詰った声で俺を呼んだ。もっとも、桜さんはしょっちゅう切羽詰った声で俺を呼びつけるので、俺はまたか、と聞き流して山下さんのワゴンまで榊を運んだ。これからご町内の新築物件の地鎮祭なのだ。徹さんが土嚢をふた袋抱えて来て、ドスンとワゴンに積み込んだ。「こら。忌み砂を粗末に扱う奴があるか」俺には...お化けの店のユタカくん

  • 青い昼寝 緑の散歩

    湖畔を明るい色のつばの広い帽子と、お揃いのワンピースに身を包んだ美しい少女が軽やかに歩いていく。背中までまっすぐに伸ばした髪はヤママユガの繭のような、オオミズアオの羽のような、ちょっと水色の入った薄緑。少女といっても、こっちの国の人には少女に見えるというだけで、孫が3人もいる50代の女性である。もっとも日本でもかなり若く見られる方らしい。しかも彼女が入っている時にはことさらに若く美しく見える。普段は見える人にしか見えない彼女だが、こうして人間の身体に入ってしまえば誰にでも見られる存在になるのだ。そしてどうやら、誰から見ても同じ外見らしい。普段は見える人にとっても、その人それぞれに違う姿に映る。葵さんには5歳ぐらいの少年に見えるらしい。俺には、今の彼女の姿とほぼ同じに見えている。つまり、葵さんそっくりの顔で薄緑色...青い昼寝緑の散歩

  • 南のほの暗い森で(その2)

    そこは、水色の光に満ちていた。明るい水色。水底に光源があるようだ。サンゴ礁の海は透明度が高いので、水深20メートルにあるものもクリアに見えて、浅瀬にあると錯覚するという話をぼんやり思い出していた。その女の人はすぐ傍に見えた。水面から手を伸ばしたら届きそうなほどに。でも試してみなくても彼女に触れるには深く潜らないといけないことはわかっていた。深い水底。竜宮に届くほどの奈落。時間の流れが違うほどの。彼女は両手の平をぴたりと合わせて、まるで何かを祈っているように見えた。水底に横たわって、両目を閉じて、何かを祈っている。まっすぐな薄緑がかった銀色の髪が長く渦巻いて横たわる彼女の身体を包んでいた。まっすぐな銀の長い髪。私は一昨日会ったメイさんの姿を思い出していた。メイさんは眠っている間、ここに来ているのかもしれない。時間...南のほの暗い森で(その2)

  • 南のほの暗い森で(その1)

    お社の朝は早い。午前4時に起き出して境内の掃除。神饌と祝詞を奉って、その朝のコンディションによって必要なチューニングをする。コンディションというのはつまり、水脈の濁りとか地脈のねじれとか、鏡ちゃんによると重力分布の歪みとか、そういう結界に緩みを生じる不具合の補修だ。今朝は南紀の崩れの影響であちこちズレが出ているので、それぞれの得意分野でいろいろやってみた。私と咲(えみ)さんは弓。トンちゃんは笛。きーちゃんは土俵でドスンドスンと四股を踏んでいた。きーちゃんは弓道師範の満先生の息子なのに、どうしても弓が苦手で9歳ぐらいで相撲に転向した。タカちゃんも中学生ぐらいから日本中飛んでチューニングに忙しかったので、弓道はやるものの試合で成績を残したりしていない。そんなわけで長男の仁史さんが二代目として一身に道場を背負っている...南のほの暗い森で(その1)

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