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お話 https://blog.goo.ne.jp/shin-nobukami

日々思いついた「お話」を思いついたままに書く

或る時はファンタジー、或る時はSF、又或る時は探偵もの・・・などと色々なジャンルに挑戦して参りたいと思っています。中途参入者では御座いますが、どうか、末永くお付き合いくださいますように、隅から隅まで、ず、ず、ずぃ〜っと、御願い、奉りまする!

伸神 紳
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2007/11/10

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  • コーイチ物語 「秘密のノート」 38

    やっぱり課長に何かあったんだ!あぁぁぁ、あのノートのせいだ!書き込んだボクのせいだ!コーイチには吉田課長が無表情のままこちらに手を振りながら次第に半透明になりさらに薄くなり終いにはすーっと消えて行く様子が見えていた。それに連れてコーイチの意識もすーっと消えて行きそうだった。「わかった!」清水が突然叫んだ。「課長、川村静世ちゃんといけない事をして、奥さんにばれちゃったんだ!それで奥さんにボコボコニされて全治六ヶ月の入院になったんでしょ?」「課長の奥さん、柔道五段だったよなぁ……」林谷が感慨深げに言った。「全然、違う!」岡島がいらだたしげに怒鳴った。「じゃあ、これだ」印旛沼が赤いハンカチを一振りして黄色のハンカチに変えながら言った。「会社ぐるみの脱税事件か汚職事件があって警察側にばれたんだ。そこで、すべての責...コーイチ物語「秘密のノート」38

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 39

    最初は小さな「え?」だった。その場の時間が止まったように、皆動かなかった。次は少し大きな「えー!」だった。清水は持っていた特製バッグをドンガラガッシャンシャンと床に落とした。林谷は着ていたキラキラ光る青いスーツの右肩がズルッと脱げた。印旛沼は仕込んでいたトランプを袖口からバババババッと発射してしまった。西川は横断歩道の歩けますマークのポーズのまま固まっていた。そして最後はロビー中に響き渡る大声で「ええええええええええ!!!」だった。コーイチだけが、にまあっとしていた。良かった!良かった!良かった!課長の命に別状はないんだ!とんだボクの取り越し苦労だった!あんな夢にびくびくおどおどしていたなんて、なんてボクは愚かだったんだろう!わは、わは、わはははははは……!「北口課長!」大声が治まり、西川が言った。「朝か...コーイチ物語「秘密のノート」39

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 40

    うわあぁぁ、ボクだけ、にまあっとしていたのが悪かったんだろうか!ボクには驚きよりも喜びのほうが大きかったんだ!仕方がないじゃあないか!根が正直なだけなんだ!憮然とした顔で黙々と大股で近付いてくる守衛を見ながら、コーイチの前髪が逆立ち、やや広めのおでこが丸見えになった。とっさに顔を覆い背を丸める。守衛さんに襟首をつかまれてひょいと持ち上げられそのまま出入り口のガラスドアから放り出され哀れ路頭に迷う事となってしまうのか……コーイチは覚悟を決めた。課長が無事ならもう恐いものなんかないさ!「ちょっと、あんた!」守衛の声がコーイチの背後から聞こえた。コーイチは顔を覆っていた手を下げながら振り返った。守衛はボーイスカウトの制服を着た老人と対峙していた。老人は小柄ながらもかくしゃくとした印象があり、守衛の静止を全く意に...コーイチ物語「秘密のノート」40

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 41

    「いやいや、お出迎えありがとね」社長は皆に陽気に手を振っている。ずいぶんと気さくな人物のようだ。「社長、その出で立ちはどうしたんです」北口が聞いた。社長はニコニコしている。「Oh!北口君。これからボーイスカウト協会の理事会があってね。今日は『ジャンボリー綿垣』と呼んでもらおう」「社長、今回の冗談人事ですが……」「これは西川君!相変わらず硬い顔だねぇ。もっと楽になろうよ、楽に」「これでも十分楽な顔をしています!」へぇぇ、西川さん、社長と親しいんだ。さすがだなぁ。「でも社長さん、あの課長が、とても信じられませんわ」「薫子ちゃん。今回の事は薫子ちゃんでも予知できなかったかね。それはそうと、薫子ちゃんのオカルトブログ、毎日楽しみにしてるよ」「イヤですわ……でも、最近あれを本にしないかって言ってきた出版社があります...コーイチ物語「秘密のノート」41

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 42

    「まあ、今回の人事なんだけどね」社長は呆然として佇立している岡島を不思議そうに眺めながら続けた。「何て言うのかなぁ……そう、昨日の夜中だったかな、いきなりビビッと来たんだよね、ビビッと。で、すぐに役員の皆に連絡したら、皆全員やはり僕と同じくビビッと来たらしい。こんな事ってあるんだねぇ」ビビッとかぁ、そんな事があるんだなぁ……コーイチは、楽しそうに話している社長と、取り囲んでわいわいやっているいる諸先輩たちと、ぶつぶつとうわ言を呟きながら天井を見つめている岡島とを交互に見ながら思った。待てよ!コーイチの中にある事が閃いた。思わず握った右手で左の手のひらをポンと叩く。……今の今まで気が付かなかったけれども、部長に昇進したのって、ボクがノートに吉田課長の名前を書いたからじゃないだろうか。書いた名前がおかしなこと...コーイチ物語「秘密のノート」42

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 43

    「おいおい、一体何時になったら出社して来るんだ!」ロビーに立ったなり吉田部長は怒鳴った。そして天井を見つめている岡島を見つけると、さらに怒鳴った。「おい、岡島!来ない連中を探しに行かせたのに、お前も一緒になってこんな所にいちゃ、何のために行かせたのわからんだろうが!」岡島は息巻いている部長をボーッとした顔で見返した。吉田部長は舌打ちをした。それから、ロビーにたむろっている連中をジロリと見回した。「印旛沼、林谷、清水、それにコーイチ!ここで何をしてるんだ!」印旛沼は頭を掻き、林谷は肩をすくめ、清水は小声で呪いの呪文を唱えた。コーイチは、部長になれたのはボクのおかげだぞと心の中で言った。呼ばれなかった西川は表情を変えなかった。吉田部長はボーイスカウト姿の老人を指差してさらに大声を出した。「おい、じーさん!ここ...コーイチ物語「秘密のノート」43

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 44

    ああ、やってしまった……部長としての影も薄いし意識も薄い。これも薄~く書きすぎたせいなんだろうか……コーイチは慌てふためいている吉田部長を見ながら思った。「あ、あの、……社、社長!いや、今日はジャンボリさん!知らぬ事とは言え……なんとも、その……」吉田部長は社長のそばによろよろと駆け寄り、スーツのポケットからおたおたとハンカチを取り出し、止まらぬ汗をせかせかと拭いながら、しどろもどろで話し始めた。「Don’tBeAfraid!気にしない気にしない」社長は右人差し指をピンと立て、左右に振りながら言った。「Youの昇進はボクだけじゃなくて、役員全員がビビッと来て決まったんだよ。だから気にしない気にしない」「はぁ……ビビッと、ですか……」吉田部長の顔に安堵の色が浮かんだ。ハンカチをしまい、また少しふんぞり気味に...コーイチ物語「秘密のノート」44

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 45

    「いやいやいやいや、吉田第二営業部長!自分で仕事を作り出せるなんて、素晴らしい事ですねぇ!」林谷が両手を広げて叫んだ。青いスーツがキラキラと光った。……まるでオペラ歌手の歌うアリアの最高潮の時の様だな。以前、行きたくもないのに「これは見なきゃ一生涯の損だよ。僕が奢るから」と無理矢理連れて行かれたオペラの舞台を、コーイチは思い出していた。ロイヤルシートとか言う特別席で、コーイチは最後までとにかく見ていたが、その隣で林谷は最初から最後まで大いびきをかいていた。「本っ当に良かったですわね、吉田第二営業部長。どんなお仕事をされるのか、期待してますわ。うふふふふ」清水が言いながら右手を動かし、空に何か書くような仕草をした。……あれは、確か「呪いの印」!以前、聞きたくもないのに「聞かなきゃコーイチ君にかけちゃうわよ、...コーイチ物語「秘密のノート」45

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 46

    大歓声が上がった。どこからともなく紙吹雪が降って来て、パンパンパンとクラッカーがあちこちで鳴った。印旛沼さんはやる事が派手だな、コーイチは思った。「いやいやいやいや、西川新課長!これで営業四課は磐石になりましたねぇ!何時かこんな日が来るとは思ってましたよ!」林谷が拍手をしながら叫んだ。今度はオペラでアンコールを求める聴衆みたいだな、コーイチは思った。「素敵ですわ!これからは白魔術も覚えて新課長をお助けしますわ、うふふふふ」清水が胸元に手を当てて頬を上気させながら言った。清水さん、妙に乙女な感じだなぁ、コーイチは思った。周りの反応とは裏腹に西川は眉間に縦皺を寄せ、つかつかと社長に方へ歩み寄った。「社長!本当に私で良いんですか!」西川が真面目な顔で社長に詰め寄った。社長はやれやれと言うように頭を軽く左右に振る...コーイチ物語「秘密のノート」46

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 47

    「あっ!」全員が同時に叫んだ。全員できょろきょろしながら吉田部長を探した。吉田部長はロビーの遥か彼方の隅に固まったように佇んでいた。何故かそのすぐ脇に岡島も同じように佇んでいた。二人の佇んでいる場所だけ、朝日も蛍光灯の灯りも届かず、妙にじめじめして薄暗かった。顔の表情も暗くて見えないな……コーイチはどんよりとしたツーショットに背筋が寒くなった。「いやいやいやいや、吉田部長!ついつい、うっかりしてしまいました!反省してます!……ま、それはそれとして、そんな所で薄暗くなってないで、こっちに来ませんか!」林谷が言った。ちっとも反省をしてないような気がするんだけどなぁ、コーイチは明るい声を出している林谷を見ながら思った。「そうですわ。確かについ忘れてしまってましたけど、これとて、いつも部長を避けていたために身につ...コーイチ物語「秘密のノート」47

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 29

    電車をいくつか乗り換えて会社のある地下鉄駅で降りる。すたすたと歩いているまわりの人たちを避けるように、コーイチはホームのコンクリートの柱に額を当てた姿で寄りかかっていた。あぁ、ここまでは来たけれど、やっぱり行きたくないなぁ……こんなに妙な出来事が降りかかってしまったのに、ボクには相談できる相手もいないんだ。元はと言えばあのノートをボクのカバンに入れた人が悪いんだ。いったい誰なんだ!コーイチは額をぐりぐりと柱にこすりつけていた。次の地下鉄が入って来てホームに乗客があふれ出したが、皆、ぐりぐりしているコーイチを避けて改札までのエスカレーターへ向かって行った。吉田課長はどうなってしまうんだ!何を言ってるんだ、それを確かめに来たんじゃないか!もし、何かあったらどうしよう……でも、ボクにどれだけの責任があるって言う...コーイチ物語「秘密のノート」29

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 30

    「おやおや、こんな所で何をしてるのかな、コーイチ君!」別方向から声がかけられた。コーイチはそちらを見た。都心方面から来たガラガラに空いている車両から降りて来たのは、時々キラキラと光る青いスーツを着込んだ林谷晋吾と、足元までもある黒いトレンチコートを着込み、鍔広で頭頂部がやや尖り気味の黒い帽子を目深に被り、両手をコートのポケットに突っ込ん大柄な男だった。コーイチは「うわっ!」と一声叫んで、柱の陰に身を隠した。「おやおや、人見知りかい、コーイチ君?」林谷がふざけた口調で尋ねた。「こちらはボクの知り合いのテーラーだよ。ちょっとハードボイルド好きだが、腕は良いよ」テーラーがにこっと笑う。可愛らしい笑顔で、全く殺し屋には見えない。安心し、コーイチは柱を離れる。「実は彼が、シルクに純金をまぶした珍しい生地を入手してね...コーイチ物語「秘密のノート」30

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 31

    「こらこら、君たち、こんな所でたむろっていると遅刻してしまうぞ」いつの間にか印旛沼がコーイチの隣に立っていた。コーイチは驚いて飛び退き、柱にしがみついた。「これはこれはミスター・マジック!まるで最新式伝送装置を使ったようなご出現ですなぁ」林谷が西洋の貴族のような仰々しい仕草で印旛沼に挨拶をした。「本当に魔王の出現の仕方そっくりですわねぇ……」清水は組んだ両手を胸元にあてがい、惚れ惚れとした顔で印旛沼を見ていた。「相変わらず、君たちはメカ好きオカルト好きで手品を認めんなぁ。その点コーイチ君はすばらしい!手品の本質を知っている!」印旛沼は柱にしがみついているコーイチを手招きした。さては新作手品でも披露してくれるのか!コーイチは目を輝かせて柱から離れ、印旛沼に近付いた。突然、印旛沼の後から、スタイルの良い身体の...コーイチ物語「秘密のノート」31

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 32

    「お早う!」西川がパリッとしたスーツを着込み、背筋をしゃんと伸ばし、カツカツと靴音高く大股で歩いて来た。「ここで何をしているんだ。もうすぐ出社時間になってしまうぞ。吉田課長が待っている」西川はひとりひとりの顔を見回しながら言った。コーイチは「吉田課長」の言葉にどきんとした。「西川さん、今日は何の日か知ってるでしょ?黒ミサの日よ」清水は目だけ笑っていない笑顔を西川に向けた。「黒ミサではない。吉田課長が議長を勤める営業四課の定例会議の日だ!」西川は訂正を入れた。コーイチは吉田課長が大きな鎌で真っ二つになったところを想像した。林谷は「くっ、くっ、くっ」と喉で笑って割って入る。「今日は我慢会の日なんですから、少しでも遅らせたいってのが人情じゃありませんか」「我慢会ではない。吉田課長が議長を勤める営業四課の定例会議...コーイチ物語「秘密のノート」32

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 33

    しゃがみ込んだままのコーイチはちらちらと周りを見上げた。周りは恐怖の軍団が囲んでいた。「どうした、コーイチ?」髑髏の顔の西川があごをカチカチと鳴らしながらコーイチの顔を心配そうに覗く。「顔色が悪いんじゃない?」魔王復活の呪文を唱えながら清水が言う。「今日は楽な日だから、会社でゆっくり休むと良いよ、コーイチ君」テーラーと並んで銃を構えた林谷が撃鉄を起こしながら笑った。「まあまあ、ここにいても始まらない。とにかく会社に行こう」青龍刀を振り回している娘に優しい眼差しを向けながら印旛沼は言った。うわわわわ……どうしたって言うんだ!しっかりしろ!あれは夢なんだ!……確かにノートは拾ったけれども……そうだ!「あのう……」コーイチはよろよろと立ち上がり、軍団を見回した。周りは何事かとコーイチに注目する。「ノートの事なん...コーイチ物語「秘密のノート」33

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 34

    「何かあったんですか?」コーイチを引きずりながら改札へと向かった一団に、駅員が恐る恐る声をかけた。「いやいや、気にしないでくださいな」先頭を歩いていた印旛沼が笑顔で言って駅員に向かって指をぱちんと鳴らした。指先に一輪のバラをつまんでいた。それを気取った手つきで駅員に渡す。「そうそう、月曜病の一種ですよ」林谷がスーツをキラキラさせながら笑った。「困ったものです。今日は定例会議があると言うのに」西川は困惑した顔で言った。「違いますわ。黒ミサですわよ。うふふふふ……」最後を歩いていた清水が、目だけ笑っていない笑顔を駅員に向けて言った。「それを言うなら我慢会だろ」林谷が振り返って言った。スーツがまたキラリと光る。「朗読会だよ」印旛沼がまたバラ一輪を出した。「何度も言うが、吉田課長が議長を勤める営業四課の定例会議だ...コーイチ物語「秘密のノート」34

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 35

    そうだ、間違いない!コーイチは確信した。……宇宙人の来襲だ!その第一段階として、あのノートがあったんだ!と言う事は、ノート自体が何かの装置なんだ。名前を書かれた人物が宇宙人の円盤に転送されて生体実験みたいなのをされてしまうとか(コーイチの脳裏に何故か、ランニングシャツとステテコ姿で手術台らしい堅い台の上に手首足首を固定され大の字に寝かされて猿轡をされた口でうもうもともがいている吉田課長が浮かんだ)……名前を書かれた人物と入れ替わって何食わぬ顔で地球の調査をしてしまうとか(コーイチの脳裏に何故か、頭に手ぬぐいを巻き汗まみれのランニングシャツと黒いジャージズボン姿で「ぷあ~」と大きく息をつき着ぐるみの吉田課長を脱ぎ捨てている宇宙人が浮かんだ)……名前を書かれた人物を大量に作り出して地球上に配置して混乱を招くと...コーイチ物語「秘密のノート」35

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 36

    階段をのろのろと上がる。足が重い。気分も重い。深い溜息をつく。やっとの事で階段を上りきった。「コーイチ君、やっぱり今日は変よ。帰りに大魔王ガイロデンデのお祈り集会に行ってみましょうか!」清水が楽しそうに言う。「それよりも、今日一日我慢して、帰りに例の無国籍レストラン『ドレ・ドル』で新作料理でも食べようか!」林谷がワクワクした口調で言う。「いやいや、世界的なマジシャン、ミスター・ジョーンズのショウの方が良いよ!」印旛沼が力強く言った。「その前に、吉田課長の定例会議だ!」西川が苦々しく叫んだ。……あぁ、吉田課長……僕のせいで、課長の運命は風前の灯だ……コーイチはまたへたり込みそうになった。課長が撃たれる、魂が切られる、四肢が切り離される、宇宙人に連れ去られる……うわぁ!ダメだ、どうしても頭から離れない!コーイ...コーイチ物語「秘密のノート」36

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 37

    コーイチはとぼとぼと四人の後についてビルに入って行った。ここまで来たら、もうあれこれ悩んでいても仕方がないじゃあないか!……とは言うものの、やはり何かイヤな事が待っていそうで重い気分が拭い去れない。もし、吉田課長に何かあっても、だあれもボクが関わっているなんて知らないじゃあないか!……とは言うものの、このままじゃ、ボクは一生、人に語れず逃れられない十字架を背負っていかなければならない。コーイチは大きくため息をついた。「今日はため息ばっかりねぇ……」清水が心配そうな顔でコーイチを見た。「何があったのか話してみないか?」林谷も心配そうな顔で聞く。「そうそう、一人で悩むのは良くないな」印旛沼もコーイチの肩をぽんぽんと叩きながら言う。「同じ営業四課の仲間じゃないか!水くさいぞ!」西川も加わる。何だ、みんな良い人た...コーイチ物語「秘密のノート」37

  • コーイチ物語 「秘密のノート」22

    目覚まし時計が鳴り止んだ。いつもの様に十分後にまた鳴るようになっている。コーイチは布団の脇に落ちていたテレビのリモコンを取り上げていつもの様に操作した。いつもの様に何度目かでやっと画面がついた。コーイチはリモコンを目の前に持ち上げてしげしげと見た。何度やっても一度でついたためしがないなぁ。ひょっとしてリモコンに舐められているのかな……テレビはいつもの様に朝のワイドショウ番組「お目覚めテレビ」を映していた。メイン司会の高垣まやアナウンサーとコーイチ御ひいきの野中小那美アナウンサーとが微笑みながら喋っていた。番組は芸能コーナーのようで、画面には「ジョンソン事務所の人気アイドルデュオKinKiraBondz(キンキラボンズ)解散!今後は各々ソロ活動へ!」とテロップが大きく映し出されていた。KinKiraBond...コーイチ物語「秘密のノート」22

  • コーイチ物語 「秘密のノート」23

    どうしよう!どうしよう!コーイチは口を押さえたままノートを見つめていた。やっぱり昨日の事は本当だったんだ。ノートに課長の名を書いてノートに指を噛まれて恐ろしくなって布団をかぶってそのまま眠ってしまって訳の分かんない夢を見て目覚まし時計で目が覚めて……カチッと音がした。コーイチは音する方を見た。目覚まし時計だった。コーイチは両目を見開いた。この音がしたら二度目の目覚ましが鳴るが近いぞ!一度目は控え目な音量で、慣れたコーイチはこれで起きる事が出来る。起きてすぐに目ざまし解除をする。そうしないと、二度目は次第に音量を上げて行き、最後にはとどめを刺すような大音響で鳴るからだ。一度うっかりして鳴らしてしまい、アパート中の住人を起こしてしまった事があった。……鳴ったらノートが確実に目を覚ますだろう!そうなったらどんな...コーイチ物語「秘密のノート」23

  • コーイチ物語 「秘密のノート」24

    「おや、おや、コーイチ君!なんだいその格好は!」コーイチがドアノブを握り締め、へっぴり腰になりながらゆっくりと静かに閉めている時に突然声をかけられた。コーイチは驚いた拍子にドアが揺れるほどの勢いで締めてしまった。や・ば・い・ぞ!コーイチの背中を冷や汗が伝った。声のした方をきっと睨みつけた。「おい、おい、そんな恐い顔をするなよ」声の主はひょろりとしてやせこけている男、二つ隣の部屋の住人、南部翔太だった。三十代はじめなはずだが、貧相な顔立ちのせいか、もっと年上に見える。また、今までに二十ほど職業を変えている。これは南部が飽きっぽいからではなく、勤める所が必ず一年と持たなくて倒産しているからだった。南部はいつも「オレにはどうも強力な貧乏神がついているらしい。ま、くたばらないところを見ると死神はついてはいない様だ...コーイチ物語「秘密のノート」24

  • コーイチ物語 「秘密のノート」25

    階段を降りながら身づくろいをする。最後の一段の前で立ち止まった。昨日ここで転びそうになったんだな。そしてカバンの中味をブチ巻いて、拾い集めたら、その中に例の“あれ”があったんだよな……と言う事は、ここで拾ったのかな。いやいやいや、さすがのボクでも拾ったら気付いたはずだ……と思うんだけど、たぶん、きっと……今一つ自分に自信を持てないコーイチであった。コーイチは妙に慎重に最後の一段を降りた。こう降りれば何事もなかったんだろうな。コーイチは自分の部屋のある二階を見上げた。あれだけ激しくドアを閉めたんだから“あれ”は目を覚ましたかもしれないな。今頃ボクを探して開いたり閉じたりしているかもな。そうだ、何かのはずみで南部さんの所へでも行ってくれないかなぁ、あの人はついていない人だから可能性は大きいぞ……コーイチは淡い...コーイチ物語「秘密のノート」25

  • コーイチ物語 「秘密のノート」26

    とぼとぼと駅へと向かう。コーイチは周りを見た。路面に目を落としたまま黙々と急ぎ足で歩く白髪交じりの男性。自転車をふらふらさせながらこいでいる若い女性。グループになって楽しそうに歩いている女子高生。夜遊びの帰りなのかまぶしそうに目をしょぼつかせながら向こうから歩いてくる若い男性。……ああ、いつもの通勤風景だ。でも、こんな中でもいつもとは違っている人もいるのだろうか、ボクのように……あんなヘンなノートなんかを拾ってしまったみたいな……コーイチはため息をついた。ふと靴下を持って歩いていた事に気が付いた。あのおばさん袋に入れてくれなかったんだ。仕方ないなぁ、ま、いいか、駅のトイレで履いてしまえ。コーイチは靴下をぐるぐると振り回しながら歩いた。駅の改札へ向かう長い階段をいつものように階段の端を手すりをつかみながら上...コーイチ物語「秘密のノート」26

  • コーイチ物語 「秘密のノート」27

    電車の中のコーイチは押され押されて反対側のドアに押し付けられてしまった。いつものようにぎゅうぎゅう詰めの車内だったが、コーイチには全く関心がなかった。ぼうっとした視線を車窓から外へと向けている。いつもと同じ景色の中にいるボク……でも本当は非日常的な世界の真っ只中のボク……誰かに救いを求めたいボク……コーイチは流れて行く景色を目に映しながらため息をついた。やはり、誰かに相談しよう。相手は迷惑かもしれないけど、それしかボクが助かる道はない!コーイチは決然とした表情に変わり一人で頷いた。隣の女子高生がころころ変わるコーイチの顔を覗き込んででくすくす笑っていた。いったい誰に相談しようかな……コーイチはややより目になりながら電車内の天井を見上げ考え込んだ。清水さんはこんなオカルトっぽい話にはうってつけだけど……コー...コーイチ物語「秘密のノート」27

  • コーイチ物語 「秘密のノート」28

    西川行則はコーイチより十歳年上だ。精悍な顔立ちで、いつもパリッとしたスーツを着込み、背筋をしゃんと伸ばし、カツカツと靴音高く大股で闊歩する。真面目が服を着ていると言われるくらいに冗談が嫌いだった。ある時「もし明日死ぬとしたら何を食べたいか」というふざけた話をしていると「明日死ぬのなら食べるという生存行為は無駄だ。僕なら食べない」と言い放った。またその颯爽とした姿故に、吉田課長と一緒に得意先を回ると必ず相手は名刺をまず西川に渡して「これはこれは課長様じきじきのお越しとは、いやはやありがたいことで」などと言う。そのたびに西川は「私は課長ではありません」と真面目な顔で答える。相手は気まずそうな顔をするが、誰がどう見ても西川の方が格上に見える。こんな事が続いて、ついに吉田課長は西川を連れ歩く事をやめてしまった。真...コーイチ物語「秘密のノート」28

  • コーイチ物語 「秘密のノート」11

    「ぶわっ!!」コーイチは息苦しさに布団を跳ね上げた。ぜはぜはと肩で息をする。そうか、昨日布団を被ったまま、いつの間にか眠ってしまったんだ。コーイチはノートのあった場所を見た。ノートは無かった。……良かった、ノートのヤツ、ボクを本物の布団と思って、別の人の所に行ってしまったんだろう。これで外へ出られるぞ。良かった!本当に良かった!コーイチは時計を見た。目を疑った。まだ四時半だった。そうか、理由はどうあれ、あんな早い時間から寝てしまったんだから、当然と言えば当然か……「そうだ、会社に行ってみよう!」この時間なら先ず一番に出社できるだろう。そうなれば、吉田課長に何かあって会社に一報が入っても、最初に受けるのは自分になる。そうすれば、万が一の事態になっても他の人たちにあわて取り乱した姿を見られないで済む。散々取り...コーイチ物語「秘密のノート」11

  • コーイチ物語 「秘密のノート」12

    開けられたドアの所に大柄な男が立っていた。足元までもある黒いトレンチコートを着込み、鍔広で頭頂部がやや尖り気味の黒い帽子を目深に被り、見たことも無い銘柄の細長いタバコを燻らせ、両手をコートのポケットに突っ込んでいた。男は無言のまま室内へと入って来た。帽子からはみ出て肩まで伸びたもじゃもじゃの黒髪がふわっと揺れた。男はいきなり踵でドアを蹴りつけた。開けた時以上に勢い良くドアが閉まった。男の帽子がかすかに上向き、獲物に狙いをつけた肉食獣のような、冷たく、しかしその奥に残虐な喜悦を滲ませた視線を覗かせた。そして、視線は真っ直ぐに吉田課長を射ていた。タバコを銜えたままの口元の両端が吊り上がり、不気味な笑みが浮かんだ。ちらと見えた妙に大きな犬歯が男の印象をさらに肉食獣に近づけた。「あんた、吉田吉吉さんか……?」深い...コーイチ物語「秘密のノート」12

  • コーイチ物語 「秘密のノート」13

    「今度は何だ!」課長は銃を構えている男の肩越しにドアを見ながら怒鳴った。課長の視線につられ、コーイチもドアを見た。……何なんだ、こりゃあ……ドアに浮かび上がってきた染みは、見る間に濃さを増し、丸い形に広がって行った。「そんなに汚したら、掃除のおばちゃんが困るだろうが!」課長はさらに怒鳴る。と、丸くなった黒い染みが室内に向かってゆっくりと迫り出して来た。そして、それが黒いフードを被った頭だと分かった時には、黒いマントで覆われた上半身までが迫り出していた。コーイチは再び壁に背を付けて立ちすくんでしまった。しかし、目はドアから抜け出してくるフードを被った黒マントの人物から離せなかった。喉がからからになった。鼓動が耳元で激しく鳴っていた。黒マントの人物がドアから完全に抜け出すと、銃を構えている男の横に並んだ。大柄...コーイチ物語「秘密のノート」13

  • コーイチ物語 「秘密のノート」14

    ドアは、少し開いては止まり、少し開いては止まりを繰り返しながら、少しずつ開き始めた。ドアの開きが増すごとに音楽が大きく聞こえてくる。どこかで聴いた事のありそうな曲だ。コーイチは開いて行くドアを見ながら、じりじりしていた。ドアの向こうに何があるって言うんだ!それに、この妙に期待を膨らませてくれる曲はボクに何を伝えたいんだ!ドアが半分ほど開いて、止まった。コーイチはロッカーから離れてドアの方へ近付いて行った。と、急にドアが壁に激突するほどの勢いで一気に開いた。コーイチは思わず後ろへ飛び去り、壁にしがみついた。え?こんな所に壁は無いぞ、しかも壁にしがみつけるわけがない……コーイチが恐る恐る振り返ると、殺し屋が、自分のがっしりした背中にしがみついている小柄なコーイチを、感情の無い眼差しで肩越しに見下ろしていた。コ...コーイチ物語「秘密のノート」14

  • コーイチ物語 「秘密のノート」15

    「これからどうなるんだ?」コーイチは手品師の右手と左手とを行き交うステッキを顔を動かしながら追っている。廊下に立つ手品師は、ステッキの両端を持って胸元に水平に構え、笑顔を浮かべ、音楽に合わせて上半身を軽く左右に振り、白い網タイツに白いブーツを履いた長い脚を交差させながら室内に入って来た。コーイチは邪魔にならないようにと脇へ除けた。手品師は「あ・り・が・と」と可愛らしい声で言い、コーイチにウインクをした。コーイチは真っ赤になって下を向いてしまった。不意に手品師は歩みを停め、ステッキから両手を離した。ステッキはゆっくりと垂直に向きを変えて下がり始め、先端が床から少し浮いた状態で停まった。手品師は笑顔を課長に向けながら右腕を頭上高く揚げ、指先をぱちんと鳴らした。コーイチははっと我に返り、浮いているステッキに気が...コーイチ物語「秘密のノート」15

  • コーイチ物語 「秘密のノート」16

    「や、やあ、印旛沼さん林谷さん清水さん、今日はお揃いですか。しかもお早いですね!」コーイチは額に一筋の汗を伝わせながら愛想笑いを浮かべ、上ずった声を出した。そうしながらも少しずつ後退りを始めた。三人は返事をせず笑い声だけを立てて、いつの間にかそろい始めた歩調でコーイチに近寄ってくる。三人が一歩前に出ると、コーイチは一歩後退する。一歩前に出る。一歩下がる。コーイチの額を伝う汗が増え始めた。「わっ!わっ!わっ!」コーイチはたまらず後ろを向いて走り出そうとし、そのまま動きが止まった。走り出そうとした先に、鎌を振り上げた死神と銃口を向けた殺し屋と白いステッキを持った手品師が横一列に並んでいた。「わっ!わっ!わっ!」コーイチは思わず反対に向きを変えた。しかしそこには清水と林谷と印旛沼が迫って来ている。反対を向くと、...コーイチ物語「秘密のノート」16

  • コーイチ物語 「秘密のノート」17

    林谷は、左手を見るからに高級そうな黒のジャケットの右の内ポケットに差し入れた。取り出すと、いつもの純金製のシガレットケースが目映い輝きを放ちながら、その手に握られていた。林谷は、持った左手で器用にかしゃんと言う快い音を立ててケースを開け、右手で一本取り出し、銜えた。「わっ!わっ!わっ!」コーイチは思わず殺し屋を見た。林谷のタバコは殺し屋と同じ細長いタバコだった。林谷さんと殺し屋さんは同じ組織の者同士なんだ!あのタバコは組織御用達にちがいない!林谷はケースを閉じ、内ポケットに戻し、今度は右手を左の内ポケットに差し入れた。取り出すと、純金製の銃がその手に握られていた。にたりと笑い、銃口をコーイチに向けた。コーイチはまた硬く目を閉じた。林谷さん!純金の使い道をもう少し考えてくださいよ……コーイチは泣きそうになっ...コーイチ物語「秘密のノート」17

  • コーイチ物語 「秘密のノート」18

    手品師はリンゴを軽く放り上げた。コーイチは受け取ろうとして思わず両手を伸ばした。しかし、放り上げられたリンゴは宙に留まっていた。コーイチは不思議そうにリンゴを見つめた。宙に留まっているリンゴに銀色の線が縦横にいくつも走り回った。「わっ!わっ!わっ!」コーイチは思わず後ろへ飛び退き、またまた背中を思い切り壁にぶつけた。手品師が目にも留まらぬ速さで青龍刀をリンゴに向けて振り回していたのだ。銀色の線は青龍刀の剣筋の残像だった。手品師は青龍刀の切っ先を廊下に衝き立て、いつの間に取り出したのか白い皿を持った左手をリンゴの下に伸ばす。リンゴは真っ直ぐに皿の上に落ちてきた。トンという音を立てて皿の上に乗ったリンゴは、芯の部分を中心にして七等分されて花が開くように皿の上に広がった。広がった七切れの実は、湾曲した形のせいか...コーイチ物語「秘密のノート」18

  • コーイチ物語 「秘密のノート」19

    どうしたら良いんだ!どうしたら……コーイチは迫り来る両側を交互に見返した。もし、清水さんの仲間になったら、殺し屋の銃と林谷さんの純金の銃とで額を撃ち抜かれ(コーイチは額から二本の血柱を立てて大きくのけ反り壁に激突するさまを思い浮かべた)、手品師の青龍刀でリンゴみたいにバラバラにされ(コーイチは胴体を真ん中にして首と左右に開いた両手足が体から切り離されて宙に浮いている様子を思い浮かべた)、その後、消失マジックの得意な印旛沼さんによってぱっと消されてしまう……喉がゴクリと鳴った。もし、林谷さんの仲間になったら、手品師の青龍刀でリンゴみたいにバラバラにされ(コーイチは胴体を真ん中にして首と左右に開いた両手足が体から切り離されて宙に浮いている様子を思い浮かべた)、清水さんの変な呪文に合わせて死神の鎌で霊魂を真っ二...コーイチ物語「秘密のノート」19

  • コーイチ物語 「秘密のノート」20

    コーイチは胸を張った。おうっ、こちとらぁ、まな板の上の鯉でぇ!矢でも鉄砲でも持って来やがれってんでぇ!コーイチは腕をぐぐっと組んで廊下にあぐらをかいてどっかと座り込み、清水林谷印旛沼の三人をぐっと睨みつけた。その様子を見た三人は一歩後ろへ下がった。どうでぇ、ボクは、その気になりゃぁ、恐えぇんだぜ!コーイチは鼻息を荒くした。しかし、三人とも含み笑いをしている。「あらあら……」清水は口元に手をやり笑っていない目を細め始めた。「おやおや……」林谷は両手を広げ肩をすくめ頭を左右に振り始めた。「やれやれ……」印旛沼は困ったものだと言う様に頭を軽く掻き始めた。「えっ?」コーイチは三人の反応にあわて始めた。コーイチの開き直った強気の態度に三人とも恐れをなして逃げて行くか、許しを請うかすると思っていたのだが……コーイチは...コーイチ物語「秘密のノート」20

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 1

    南国のリゾート地の豪華な大邸宅で、美女軍団に囲まれて、札束をあたり構わず撒き散らし、かんらからからと高笑い。そんな時、どこからともなく電話の鳴る音。「全くこんな所まで追いかけてくるとは、どこのどいつだ」美女の一人が微笑みながら、純金製の受話器を手渡してくれた。面倒臭そうな仕草で受け取る。「もしもし……」しかし、電話が鳴り止まない。思わず受話器を見つめる。「一体どうなってるんだ」次第に音が大きくなる。それに合わせるように美女が、札束が、大邸宅が、ぐるぐると渦を巻いて一塊になって行く。渦巻く速度が速くなり、最早何がなんだかわからなくなった時、コーイチは目が覚めた。あわてて布団から飛び起きた。枕元に転がっている時計は七時半を示している。「まずい!遅刻だ!」コーイチは大あわてで着替えるとアパートから飛び出し、階段...コーイチ物語「秘密のノート」1

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 2

    駅の階段を駆け上がり、あたふたと定期券を取り出して、自動改札を抜けると、いつもの通り一番ホームの後方へと階段を駆け下りた。ホームのいつもの場所まで辿り着くと、何度も大きく肩で息をする。次第に気持ちが落ち着いてきたコーイチはきょろきょろと周りを見回した。……おかしい、人がいない……ひょっとしてラッシュのピークが過ぎてしまったのではないだろうか。だとしたら完全に遅刻だ。吉田課長にまたねちねちと嫌味を言われてしまうのか。ため息を一つついて、もう一度周りを見た。おや、あの男の人は。向かい側のホームに、いつもは漫画雑誌を舐めるように読んでいる、つんつるてんの背広を着た黒縁眼鏡の若い太った男が、今日は迷彩柄のズボンと半そでシャツを着込み、大きなリュックサックを背負っている。彼の隣には同じような体型で同じような眼鏡をか...コーイチ物語「秘密のノート」2

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 3

    アパートへ戻る途中、いつも利用しているコンビニエンス・ストアに寄った。いつもと言っても、たまに深夜に夜食のパンと牛乳を買いに来るくらいだが、その時の店員は、長い髪を後ろでぎゅっと縛った一見ロックバンドをやってそうな、若い無愛想なアルバイトの男で、下を向きっぱなしでレジ操作をしていた。しかし、朝は、恰幅の良いおばさんだった。コーイチは散々迷って、いつものようにパンと牛乳を持ってレジへ向かった。「あっしゃいませー!パンが百円!牛乳が八十円!合計が百八十円でーし!」恰幅だけでなく、声も大きいおばさんだった。しかも少し発音が変わっていた。店内にいた女子高生らしい三人組が、ちらちらこちらを見ながらくすくす笑っていた。おばさんは丁寧に袋に入れてくれた。コーイチはそれを恭しく受け取り「ありあとござっした!またどーぞ!」...コーイチ物語「秘密のノート」3

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 4

    カバンからどさっと出てきたのは、事務パートのくせに字は汚い、パソコンもコピー機も満足に扱えない、毎日短いスカートをはいてきて、太ももをちらちらと吉田課長に見せつけている川村静世がホチキス止めをしたに違いない、がたがたになって綴じられている各三十ページで全五冊の会議用資料。続けてひらひらと朝のテレビ占いの「今日は思い切って告白しましょう。ラッキーアイテムはペアの映画チケット!」を信じて買ったものの、告白相手がいない事に気づき、そのままになった正月映画『おいらはつらいよ!米次郎、二番星にお願い』のチケット二枚。それと、全く見覚えのない黒いもの……よく見ると、黒い表紙のA4サイズのノートだった。簡単に開けないようにするためか、赤い紐のようなもので何重にも縛られている。手に取ってみた。表と裏の表紙が、珍しい動物の...コーイチ物語「秘密のノート」4

  • コーイチ物語 「秘密のノート」5

    表紙と裏表紙をぐるりと包んでいる黒い皮は思いのほか硬く、指でこじ開けて間に挟まっている薄いクリーム色のノート部分を覗こうとしたが、びくともしない。また、どういう結び方をしているのかさっぱり分からないが、赤い紐もしっかりと縛ってあり、とてもほどけそうにない。さては、あの二人のどちらかが、わざと入れたんじゃないだろうか。だとしたら、何の為だろう……「清水さん、このノート、清水さんの?」「あら、ありがと」目だけ笑っていない笑顔で答える。「……ところで、中を見た?」「とんでもない、見ていませんよ」「じゃあ、見せてあげるわ、うふふふふ」コーイチが結構ですと言う前に、清水はノートの紐をほどき、硬い皮表紙を開いた。中には見たこともない文字がずらずらと書かれている。「これは、大魔王コレストウトスをこの世に蘇えらせる呪文な...コーイチ物語「秘密のノート」5

  • コーイチ物語 「秘密のノート」6

    見てはいけないっ!コーイチはさっきまで巡らせていた考えが急に現実のものとなったように思え、座ったままで後に飛び退き、背中を壁に打ちつけながら、両手で顔を覆い隠した。見てしまったら大魔王コレストウトスの下僕だ!覗いてしまったら悪の組織ジャークの戦闘員だ!いや、もっと良くない事が起こるかもしれない……コーイチは両目もしっかりと閉じた。どれくらい時間だ経ったのだろうか。気がつくと、目覚まし時計の秒針が刻むコツコツと言う音が部屋中に響いている。コーイチは右目を開けた。目の前に自分の右手中指の付け根があった。左目も開けた。指が目の前にずらりと並んでいた。とりあえず自分は自分のままのようだ。コーイチはほっとし、少しずつ指を開き始めた。指の間から表紙が開いたままのノートが見えた。黒い見返しの隣には薄いクリーム色が並んで...コーイチ物語「秘密のノート」6

  • コーイチ物語 「秘密のノート」7

    どう言う事なんだろう、コーイチは見返しの文字をじいっと見つめた。それにしても……コーイチは窓から差し込む陽光にきらめく金色の文字を見ながら溜息をついた。〝みだりに人の名を記す事なかれ〟……こんな書かれ方をされると、自分の名前でも書いてみたくなるじゃないか。コーイチは床に落ちていたシャープペンを拾い上げた。カチカチと天辺を押して芯を出し、ノートに近づける。いけない、いけない。コーイチはあわててシャープペンを放り投げ、額を滴り落ちる汗を手の甲で拭った。妙に時代がかった言い回しとか、煙と共に消える赤い紐とか、何か曰く因縁でもありそうな気配だ。こんなものに名前を書こうものならどうなってしまうのか、全く見当もつかない。コーイチは以前に清水から聞かされた話を思い出していた。名前を書くと書かれたその人の命を奪ってしまう...コーイチ物語「秘密のノート」7

  • コーイチ物語 「秘密のノート」 8

    ちょっと待った!コーイチはシャープペンをノートから離し、横に置いた。「吉田課長」と書いて良いんだろうか。「人の名」と言うからには役職名はまずいかもしれない。やはりフルネームじゃないと「人の名」とは言わないな……コーイチは辺りを見回した。玄関脇に一メートル近く積み上げている、読み終わった雑誌や新聞の束を見た。確かあの一番下に在ったはずだ。にじり寄って、束の一番下へ手を差し入れる。目当てのものを掴むと、ゆっくり引っ張り出そうとした。が、束の塔が前後に揺れ始めた。あわてて手を止める。しかし間に合わなかった。どさどさどさっと束の塔が音を立てて、コーイチの頭めがけて崩れ落ちた。「いやいやいやいや、まいったなあ」ぶつかった時に偶然開いた雑誌を手ぬぐいのように頭にのせ、散らかった新聞雑誌を見ながら、苦笑いを浮かべ誰に言...コーイチ物語「秘密のノート」8

  • コーイチ物語 「秘密のノート」9

    コーイチはノートを放り出した。「うわあっ!うわあっ!!うわあっ!!!」悲鳴は続いた。コーイチが芯の先端が触れるか触れないかくらいにして書いた「吉田吉吉」が、ノートの紙の内側から滲み出すように湧いてきた水色のインクのようなもので縁取りされ始めたのだ。そして、誰がどう見ても「吉田吉吉」とはっきり読める水色の文字がノートに浮かび上がった。「うわわわわ、死神が!殺し屋が!死神が!殺し屋が!」コーイチは自分の頭を抱え、うわ言のように繰り返した。こんな事になるなんて考えもしなかった。これじゃ、ちょいと転ぶくらいとか、読み取りエラーになるとかなんて、のんきな事を言っていられないじゃないか。なんて事をしてしまったんだ。いや、ボクには責任はないぞ。そもそもこんなノートをカバンに入れた清水さんか林谷さんが悪い。しかも、見返し...コーイチ物語「秘密のノート」9

  • コーイチ物語 「秘密のノート」10

    印旛沼陽一は営業畑一筋二十五年のベテランだが、趣味の手品のほうがはるかに上手でベテランだった。営業先で手品を披露し、そちらに熱が入りすぎて肝心の仕事の話を忘れてしまう事も度々で、吉田課長にしょっちゅう怒鳴られている。しかし、そんなことには全く頓着せず、新しいネタを仕込むとコーイチを最初の客にして披露する。コーイチは目を輝かせて「すごい、すごい」と驚く。すると印旛沼は「君のその単純明快な呆れるほどに素直な性格は、近来稀に見る希少価値だよ。ふわっ、ふわっ、ふわっ」と、褒めているのか馬鹿にしているのか分からないことを言う。そうか、このノートは印旛沼さんの手品道具かもしれないぞ。こんな妙ちきりんな物、よく考えたら他に考えようがないじゃないか。「散々心配させてくれたな!でも、これはすごい手品だな。どんな風になってる...コーイチ物語「秘密のノート」10

  • 霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 42 FINAL

    「……やっと、終わったみたいね」さとみは片岡たちを見てつぶやく。「その様ですね……」みつは深いため息をつく。それから、慌ててさとみの膝を抱えていた手を放した。「あ、これは失礼を……」「いえ、おかげで助かったんですもの、お礼を言います」足を離されて、さとみはふわっと床に降り立ち、みつに向かって頭を下げた。「もちろん、みんなにも感謝」さとみは、腰をつかんだままの冨美代、虎之助、豆蔵に頭を下げた。「嬢様、よしてくだせぇ」豆蔵は虎之助の腰から手を放し、その手を顔の前で左右に振る。「当然の事をしたまででさぁ」「そうよ」虎之助も冨美代から手を放して言う。「さとみちゃんが一緒に封印されたらって思うと、必死だったわ」「わたくしも……」冨美代はみつの腰に回した手を放さない。「みつ様も吸い込まれるのではと、心底案じてしまいま...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第八章さとみVSさゆり最後の怪42FINAL

  • 霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 41

    「うわぁぁぁぁっ!」さとみは悲鳴を上げる。さゆりに手首をつかまれたまま浮き上がり、そのまま麗子の持つ封印の筒へと吸い込まれそうになったいるからだ。「あはは、良いじゃないのよ。仲良くしましょうよ」さゆりは笑う。「わたし、さとみを他人とは思えないわ」「思いっ切り他人よう!」さとみは怒る。「わたしがいなくっても、影と一緒じゃないのよう!」「イヤだ!こんなおっかないヤツと一緒なんてさ!」「何言ってのよ!そのお蔭でこうやっていられたんじゃない!」「別に、わたしが頼んだわけじゃないし」「そんな事言ってるくせに、力を使おうってしているじゃないのよう!」「言ったじゃない、あるものは使うし、手放したくないのよ!」「もう、知らないっ!」さらに吸い込む力が強くなる。……もう、ダメだわ!さとみは覚悟した。……ああ、あと一回だけ「...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第八章さとみVSさゆり最後の怪41

  • 霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 40

    アイは麗子の左手を握り、蓋の外れた筒をさゆりに向けた。筒の中が金色に光り始め、それは筒の口まで溢れるように拡がって行く。筒を握る麗子の手に、振動が伝わってくる。「アイ……なんだかこの筒、震えていて、怖い……」筒を握る麗子の手の力が弱まる。アイはその手を強く握った。「麗子、怖がって手を放すんじゃねぇぞ」アイが麗子の耳元で言う。「お前が手を放したら、そこでおしまいになっちまうからな」「どうして分かるのよう……」「筒の蓋を開けられたのは麗子だけなんだから、お前が止めたらそこでおしまいだ」アイは言うと、さらに強く麗子の左手を握る。「わたしも一緒だから、怖がることなんてねぇよ」「うん!」麗子は力強くうなずく。「……うっ」さゆりがうめく。打ち出していた気が止まった。さとみはまださゆりの両手首をつかんでいる。「何だぁ!...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第八章さとみVSさゆり最後の怪40

  • 霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 39

    「麗子!」アイは麗子の元に戻ると、手にした筒を差し出した。麗子は左頬を押さえたまま動かない。目だけが、筒を見ている。「分かるだろう?この筒の蓋を開けるんだ」アイは言う。「そうすりゃ、この筒にさゆりが吸い込まれておしまいだぜ!」麗子は筒を見たまま返事をせず、手も動かさない。「おい!麗子!」アイが麗子も右首を握る、無理矢理引っ張る。「受け取って、蓋を開けるんだ!」しかし、麗子は右手に力を入れてアイが引っ張るのに抵抗している。「どうしたんだよ?」アイは怪訝な表情だ。「蓋を取ってさゆりに向けるだけだぜ?……お前、さゆりが見えないのか?」麗子は無言で首を左右に振る。と言う事は、見えていると言う事だ。「じゃあ、受け取れよ。なんだかヤバそうだから、とっとと済ましちまおう!」麗子は無言で首を左右に振る。右手にさらに力がこ...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第八章さとみVSさゆり最後の怪39

  • 霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 38

    「アイちゃん……」百合恵がアイに声をかける。声が苦しそうだ。アイが振り返ると、百合恵はまだ起き上れずにいた。「姐さん……」アイは動こうとするが、麗子がしがみついていて、思うように動けない。「おい、麗子。手を放せよ。百合恵姐さんが呼んでんだ」「イヤっ!行かないでぇ……」麗子は泣き出す。すっかり怯え込んでしまっている。「アイがいなくなったら、わたし、どうして良いか分からない!」「麗子……」麗子はアイを涙でぐちゃぐちゃになった顔で見上げた。と、アイは右手を高く上げたかと思うと、素早く振り下ろした。凄い音がした。麗子が左頬を押さえて床に倒れていた。アイが麗子の頬を張ったのだ。麗子の手が離れたアイは動けない百合恵の所へと向かった。「……アイちゃん、良いの?」しゃがみ込んで自分を覗くアイに、百合恵が訊く。「麗子ちゃん...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第八章さとみVSさゆり最後の怪38

  • 霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 37

    「……あんた、どうして……?」さゆりが驚いた顔でさとみを見る。それから振り返り、大の字になっているさとみを見る。「そうか。あんた……」さゆりはつぶやきながら背後に立っているさとみに振り返る。「そうよ!」さとみが言う。「霊体を抜け出させたのよ!」さとみは言うと胸を張る(見た目では変化はない)。「しかもね、それだけじゃないの」さとみはさらに胸を張って(やはり見た目に変化はない)、右手を差し出して、開いて見せた。「……あんた、それって……」「そうよ!」さとみの手には、片岡のペンダントが握られていた。「どうして、そんなもの持ってんのよう!」さゆりが語気を荒げた。「あんた、床に置いたじゃないのさ!」「置いたわよ」さとみが言う。「あなたが気を打って来る前に、ご丁寧にも『さようなら』なんて言ってくれたから、タイミングが...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第八章さとみVSさゆり最後の怪37

  • 霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 36

    「あら、良い覚悟ね」さゆりは楽しそうだ。「そこまでの覚悟なら、思い切り強いのを打ちこんじゃおうかしら?」「勝手にして!」さとみは目を開けた。「でも、約束して!わたしを倒したら、どこかへ行っちゃって、もう、みんなと関わらないで!」「はいはい、分かったよ」さゆりは笑む。「わたしだって、そこまで悪じゃないわ。邪魔なお前を倒したら、それでおしまいにするわ」「絶対の約束よ!」「さゆり、嘘つかない」さゆりは真顔で言う。しかし、その表情からは真偽のほどが分からない。「じゃあ、さっさとやりなさいよ!」さとみは言うと目を閉じた。覚悟が出来ている。と、みつと豆蔵がは慌ててさとみの前に立った。それに続いて、冨美代と虎之助も立つ。四人でさとみの前に並んで立った。さとみは気配を感じて目を開けた。並ぶ四人の背中が見えている。「みんな...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第八章さとみVSさゆり最後の怪36

  • 霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 35

    「麗子!」さとみは語気を強める。「ちょっと、麗子!」麗子は相変わらずアイにしがみついて震えている。さとみの声が聞こえたのかどうかは分からない。「麗子、会長がお呼びだぜ」アイが麗子の肩に手を置いて言う。「しっかりしろ」しかし、麗子の様子は変わらない。アイが困った顔をさとみに向ける。幾度目かの『般若心経』が唱えられている。「麗子、片岡さんの筒の蓋を開けて!」さとみが言う。「今が絶好のチャンスなのよ!」「おい、聞こえたろう?」アイが麗子に言う。「それって、お前以外には出来なかったじゃねぇか」「イヤっ!怖いの!」麗子は目を閉じたままで叫ぶと、突然、すんすんと泣き始めた。「もう帰りたい……」「麗子……」アイは困った顔でさとみを見る。百合恵が松原先生の所へ駈けた。上半身を松原先生に抱き起されている片岡を見る。「先生、...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第八章さとみVSさゆり最後の怪35

  • 霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 34

    楓を包んだ光が薄れて行く。「あはは!わたしから離れたヤツなんだから、消えて無くなれば良いのさ!」さゆりは嘲笑う。「いや、離れていなくても、気に入らなかったら、消しちゃうか、あははは!」「楓……」さとみは悲しそうにつぶやく。「……あなた、良い人になったのね……」青白い光が消えた。朱音としのぶの前に立ちはだかった楓の姿は無かった。さとみは涙を流す。が、屋上の床に蠢くものがあった。さとみは目を凝らす。「楓!」さとみが思わず叫ぶ。楓は消えたのではなく、床に倒れていたのだ。もぞもぞと動くと身を起こし、その場に座り込んだ。さゆりが不審そうな表情をする。それは、さとみも同じだ。楓が何か言っている。それを聞いてさゆりが物凄く不機嫌な顔をした。さとみは百合恵を見る。「楓がね……」さとみの意図に気づいた百合恵が言う。「『何だ...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第八章さとみVSさゆり最後の怪34

  • 霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 33

    さとみを包む青白い光が徐々に薄れて行く。薄れて行く中に、さとみが立っている姿が見えてくる。「さとみちゃん!」百合恵が駈け寄ろうとした時、さとみの手が動いた。百合恵に止まるようにと言うように手の平を向ける。百合恵は思わず立ち止まる。青白い光が消えた。さとみは立っていた。「さゆり……」さとみが言う。「あなたの負けよ」「そんな、馬鹿な!」さゆりは吐き捨てるように言うと、もう一度両手の平をさとみに向けた。「無駄よ!」さとみは言う。「効かないわ!」「うるせぇ!」さゆりは怒鳴ると、衝撃波を打ち出した。青白い光が再びさとみを包む。しかし、さとみはその光から抜け出し、光の横に立った。驚いたさゆりは衝撃波を止めた。さとみはさゆりを見て、にやりと笑った。「何で効かないんだよう!」さゆりが地団太を踏む。「くそう!」「何度やって...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第八章さとみVSさゆり最後の怪33

  • 霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 32

    「あはは!あんたたちが束になっても怖くないわ!」さゆりはみつ、冨美代、虎之助、豆蔵、楓を順に見ながら笑う。「それに、ばあさんたちを加えても同じよ」さゆりは珠子、静、富も順に見る。「ただ……」さゆりはさとみに視線を向けた。小馬鹿にしたような視線が邪悪なものに変わった。「あんただけはどうも苦手だわ。何だろう?何か他の連中と違っているのよねぇ……」「それって、わたしが生身だからじゃないの?」さとみも負けじと、さゆりを睨み返す。「う~ん……それだけじゃ無さそうだけどなぁ……」さゆりは言うと、右の手の平をさとみに向けた。衝撃波を打ち出す時の姿勢だ。「……まあ、試してみるか」離れた所に居た片岡でさえ、あれだけの被害をこうむったのだ。目の前にいるさとみに衝撃波が打ち込まれたら、さとみはどうなってしまうのか。「馬鹿な事す...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第八章さとみVSさゆり最後の怪32

  • 霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 31

    片岡はさゆりがさとみと話をしているのを見ながら、ゆっくりと上着の内ポケットに手をしのばせる。「そこのじいさん!何をこそこそやってんだい!」さゆりは語気を強めて言うと、片岡に顔を向けた。片岡は手を内ポケットから離した。「あんたからは、初めっから凄くイヤな気が立ち昇っていたよ」さゆりはじっと片岡を見つめる。「何者だい?」「……わたしは、お前のような碌で無しを始末する仕事をしているのだよ」片岡は穏やかに答える。「ほう……」さゆりは、片岡に向けた表情を小馬鹿にしたものに変えた。「じいさんにそんな事が出来るのかい?」「他の所でも、そうやって始末をしてきているのよ!」さとみが言う。さゆりの片岡への様子に険悪な気を感じたからだ。少しでもさゆりの気を削いだ方が良いと思ったのだ。「そうなの?」さゆりはさとみを見て言う。「そ...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第八章さとみVSさゆり最後の怪31

  • 霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 30

    さゆりは右脚を上げると、思い切り床を踏みつけた。床が、いや、校舎自体が大きく揺れた。さゆりが踏みつけた所を中心に亀裂が縦横に走った。その亀裂に霊体どもが落ち込んで行った。校舎の揺れは皆にも伝わったようだ。朱音としのぶが悲鳴を上げて抱き合った。アイは体勢を崩すまいと両脚で踏ん張っていた。麗子は座り込んだまま両手で床を押さえて悲鳴を上げた。松原先生も座り込んでしまった。片岡と百合恵は霊体がここまでの事が出来るのかと揺れの衝撃に驚いている。さとみだけが動かずにじっとさゆりを見つめていた。あらかたの霊体どもは亀裂の中へと消えた。残った霊体どもは大慌てで空間の亀裂の中へと駈け込んで行った。残ったのは、ユリアとみつたちだった。「ははは、これで振り出しだ」さゆりが楽しそうに言う。「さあて、ユリア、もうおしまいだねぇ……...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第八章さとみVSさゆり最後の怪30

  • 霊感少女 さとみ 2 学校七不思議の怪 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 29

    さゆりはさとみに顔を向ける。さゆりは穏やかな表情だ。「やっと会えたねぇ……」さゆりは笑む。その笑みに悪意は感じられない。「あ、夢で会ってたっけ」くすくす笑うさゆりとは対照的に、さとみは緊張している。さとみは生身だと霊体の姿は見えるが声は聞こえない。しかし、さゆりについては声が聞こえている。更に、ここにいる皆がさゆりの姿を見、さゆりの声が聞こえている。それだけ、さゆりの霊としての力が増していると言う事だ。「ユリアさぁ……」さゆりはユリアに言う。ユリアはびくっと背を震わせた。「やっぱり、あんたは弱いじゃないの」「だ、だからさ……」ユリアはさゆりを見る。先程とは違い、戸惑った表情だ。「このおばさんの生身が悪いんだよ!ポンコツなのさ!若いわたしにはふさわしくないんだよ!」「ふ~ん……」さゆりはつぶやく。と、不意に...霊感少女さとみ2学校七不思議の怪第八章さとみVSさゆり最後の怪29

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