父はもう起きていた。ステテコとランニングシャツという格好で寛いでいた。僕は朝食の席についた。 皿に盛られていたのはステテコだった。これに着替えなさいと母。僕が無視していると母は父と言い合いを始めた。 ...
その宇宙船には刑事だけが乗っていた。何百年も人工冬眠して大宇宙を旅する‥‥。目的地に到着する前に1人目覚めた刑事は不思議に思う。「犯人」はどこにいるんだろうか。 ...
ホテルのロビーのテレビのニュースに映っているのはこの人たちだ‥‥オリンピックで大活躍した選手たち。スキャンダルの渦中にある彼女らと同じホテルに泊まっていた。僕はテレビを消すか、チャンネルを変えようと思ってリモコンを探した。背の高い彼女らの間を、スキー板を持ってウロウロした。‥‥僕はスキーは初めてだということを彼女らにまだ言ってない。 ...
オフィスで働いている僕たち4人のもとに料理が運ばれてきた。仕事を中断して集まった。何なんだろう。注文した覚えはない。後から請求が来るのだろうか。料理を運んできた女性は何も言わずに帰った。 同僚の男性が一口食べた。目を伏せ、何も言わずに仕事に戻った。それを見た僕らは働く気をなくしたのだ。 ...
カンフーのような、護身術の訓練を受けていた、僕の隣では、別の訓練生が、銃の扱いをレクチャーされている。 狙い、構えた。彼は、何発か撃った。弾は、ゆっくり飛んだ。人型の標的に向って、まっすぐ進む、弾丸、彼は自分の撃った弾丸を追い越し、倒錯的な喜びを感じながら、笑顔で標的の前に立った。 ...
最初に人の名前、そして「これは演習ではない」と、放送があった。僕に向けられた言葉ではないのだろう、か。僕は自分の名前が、思い出せない。 容疑者が、非常階段を下りてきた。赤い靴と、スカート。部屋で、着替えてきたようだ。僕は、拳銃を構えた。「これは‥‥拳銃ではない」。そして、僕は、先程の名前を叫ぶ。 ...
「傘貸して」 「やだよ」 雨の季節が来た。地面から緑色の茎が生えている。1本だけ。ネギのように見えるが違う。それは傘だ。それはあちこちに生えている。強い風が吹いて斜めになる。 ...
整形外科医になった妹に手術してもらうことになった。お兄ちゃんは口をもっと大きくした方がいいと言う。横に広げるのだ。洗濯バサミのような器具で僕の唇の両端は引っ張られた。その状態で笛を咥えさせられた。何か吹いてと妹はリクエストした。 ...
無人のゴール前でパスを受けたバスケの選手が、丸出しにした尻をペンペンしたりして、相手チームをからかうが、 どうすることもできない。 彼はシュートを決めた後、ゴール裏にあった平屋の住宅に駆け込み、奇声を上げ、中にあったテレビやソファーを窓から投げ捨てる。 ゴール周辺が、粗大ゴミ置き場のようになる。ボランティアによる片づけが始まる。試合は一時中断する。 ...
宝くじを買う。そこには僕の顔が、紙幣のように印刷されている。手に取り、ずっと眺めている。5億円。当たったのだ。 1日中、ニヤけている。 「お兄ちゃん、もしかして」妹が声をかけてくる。僕は当たりくじを妹に見せる。 「この顔はお兄ちゃんの顔だ、間違いない!」 「これで大金持ちだな」 「金持ち兄ちゃん(笑)、私にいくらくれるの?」 「お前さ、これからバイトだっけ?...
日本の大富豪がモナリザを買ったという。ニュースを見た。世界的名画だ。 例の謎の微笑がテレビに大写しになる。 だがその顔は、どう見ても僕の顔だった。モナリザは、僕だった。 大富豪がインタビューで答えている。 「今日から私がモナリザ」 いつ入れ替わったのだろう。モナリザと大富豪と僕と。 ...
その女性は、バスの中で歌い出す。「あのカーブを左に曲がると、町は外国気取りよ」 僕は初めて聞くが、よく知られた歌らしい。乗客のみんなが、合唱し始める。実際にはバスは、右折する。急停車する。 みんなが降りるので、僕もつられて降りた。しかしそこは、僕の行きたい場所ではない。 みんなは改めて、左に行った。僕はまっすぐ行くことにする。僕の行く道にだけ、雨が降っている。 ...
バスを待っていると知らない女性が話しかけてきた。僕の親しい友人だというふりをしたがっているようだ。東洋人にしては異様に彫りが深く、きれいな人だったし、話もおもしろかったので、僕も演技してあげることにした。 愛想笑いをしたり、「そうだね」などと相槌を打ったみたりである。そのうちにバスが来た。 バスの中では、僕たちは少し離れて座った。すると彼女の隣に座った男性が、彼女に話しかけた。彼...
そこは砂漠だった。歩いていくと雪原になった。足元の雪は固く凍りついている。 何度も滑って転びそうになる僕の、ポケットの中の電話が鳴った。安全な「小屋」にいる友人たちからだ。 「今夜の巨人・中日は、どっちが勝ったんだ?」 知るか、と思ったがテキトーに答える「巨人」 「何対何で?」 雪原の中に、黒いセダンが1台停まっているのを見かける。何なんだろう? 僕は乗せてもらおう...
彼女は高校の制服を着ている。バッジを見ると2年生だ。男の後をついていく。それは学校のある方向とは違う。 僕は高校の方へ向って歩き出す。僕は3年生だ。僕の前を女の人が歩いている。僕も女の後についていく形になってしまった。彼女の顔は見えないけど美人だろう。 ...
国境を歩いて越えたとき、クレジットカードも現金もないことに気づいた。家に忘れてきた。家は歩いて帰れる距離にあったが、戻る気にならなかった。もう面倒くさかった。考えるのも、決断するのも。 1人で来ていた。ジャージの上下を着ていた。パジャマの代わりにしている、紺色のジャージだ。ポケットに煙草の箱があった。国境の兵士に渡そうと思って持ってきたやつだ。彼らがワイロを欲しがると思ったのだ。 ...
カーテンを開けると眩しい日差し。夏の朝だった。朝から暑かった。しかし窓の外は雪だった。激しく降っていた。積もってはいなかった。積もるのだろうか。 子供と一緒に予想した。どのぐらい積もるだろう。スキーができるくらいに? いや積もりはしないさ。結局その日、僕たちは外に出なかった。なので雪がどうなったのか知らない。次の日の朝はいつもどおりの夏だった。 「もう雪は溶けてしまっただろうね」 ...
郵便受けに入っていたスーパーの特売のチラシを手に歩き出すと住宅街は幟の立ち並ぶ商店街に変わっていた。驚いて後ろを振り返ったがそこはもう僕の家のある区画ではなかった。空には飛行船が浮かんでいて通りには賑やかな音楽が流れている。とにかくしばらく歩いてみることにした。 僕の家の前に着いた。どうしてこんな商店街のド真ん中に僕の家があるのだろう。玄関のドアは閉まり切ってなかった。これはいけない、...
僕の家は広い。だからなのか、たくさんの人が集まってくる。何人かは知り合いだ。さっきまで話していた。彼らは自分のウチに帰った。玄関まで見送りに出た。 2階に残っているのは知り合いの知り合いといった連中だ。寝室では女のコが2人、裸になって抱き合っている。その向こうでは誰かが煙草を吸っていた。ここは禁煙だよ、と僕は注意して窓を開けた。 ...
出かけようと思ってパジャマのズボンを脱ぎ、ブラックジーンズを探した。それは家の中にはなかった。なぜか郵便受けの中にあった。新品のように見える。サイズはちょうどよかった。それをはいて家の中に戻った。 2階のベッドには花柄のシーツがかけられていた。学校の教室のような広い寝室だ。「教室」の隅の方で妹が寝ていた。女の「先生」が妹を起こした。あれは母だろう。 なら「教室」というのはどこなの...
捨てられていた子猫を拾い上げた。僕の耳に音楽が聞こえてきた。クラシックの名曲だと思うが、どうしてもその題名を思い出せなかった。 僕は子猫を放した。そうすると音楽はやんだ。題名は思い出せないままだったが、気分は楽になった。 (猫を抱き上げるとまた音楽が聞こえてくるんだろう。どうせ題名は思い出せないんだろう。もやもやするんだろう。そんな音楽ならない方がいい‥‥) もういちど猫...
赤いランドセルを背負った小学生の女の子が日傘をさしていた。最近ではこの年頃から紫外線を気にするのだ。と思って見ていたら驚いた。女の子は急速に成長を始めた。成人して年寄りになって消えた。その間数秒。数秒で僕は寂しくなった。 ...
芝居で「アイラブユー」と喋る鹿の役を演じることになった。「アイラブユー」としか言わない。散歩中の犬に「アイラブユー」と話しかける。犬は逆上してキャンキャン吠える。町じゅうの犬が同調して吠える。なぜなんだ。 ...
スカートをはいた人が2人、ズボンが1人、そして僕、長い階段を上っていた。地上に出た。銀行の中にある食堂に入った。ランチの時間で混んでいた。 銀行の窓口のお姉さんが、注文を取りに来た。お姉さんは耳が聞こえないらしく、紙に書いてくれと言った。食べたいものと、自分の名前と、生年月日を書く。名前は代表者だけ書けばいい。ズボンをはいていた若者は偽名を使った。そして昭和17年生まれと書いた。 ...
僕は壁の時計を見た。僕の隣にいた僕の分身も壁の時計を見る。僕の分身は「時間だ」と言う。すると遠くにいた僕の分身たちが、全員近くにやってくる。彼らは何も言わない。彼らは腕時計をしていた。 ...
デビッド・ボウイの魂が僕の体に入ってくるので、僕の体の中に、僕の居場所がなくなる。 僕は幽体離脱して、ボウイの体の中に入ろうとする。うまくいく。僕は自分の携帯にメッセージを送り、ボウイの魂と連絡を取る。「イケメンの人生を楽しめよ」と返信がくる。 しばらくしてボウイの魂は天国に行く。抜け殻になった僕の体はまっすぐ正面を見ている。僕は僕のマネキンのような体に寄り添い、向き合い、彼の目...
王の宮殿に招かれて食事。小さなカップに入ったヨーグルトが出てきた。容器の底に赤いシールが貼ってあったら当たりで、軍に入隊して戦争に行かなければならない。 隣の席の男が当たりを引いたようだ。赤いシールを剥がそうと必死になっている。だが剥がれない。男の後ろに誰かが立った。王だ。僕たちはみんな見て見ぬふりをしている。(この男は戦争に行って死ぬのだろう。) ...
北海道へ旅行に行くのに僕は2泊3日でいいだろうと思っていたが、君は物足りないと言って、九州行きの電車に乗る。 九州を1ヶ月ほど見てまわった後、北海道へ行き、僕と合流して3日間過ごす計画で‥‥ 駅にわざと置き忘れたバッグ。 「やっぱりさ、一緒に九州へ行こうよ」と君は僕の手を取り誘った。 「うん」 僕たちは東京から電車に乗った。 ...
紙の束を持った外国人たちが向う先は僕たちとは反対の方角だった。(ちなみに紙は捨てるのだそうだ。) 僕は君を前カゴの中に入れ家の前まで自転車を漕いだ。 君は家の中から別の紙の束を持って出てきた。 その紙を前カゴの中に入れ、今度は君は後ろに乗った。 坂道を上って下り、交差点を渡るところで強い風が吹くと、前カゴの中の紙はすべて吹き飛ばされていた。 ...
流しにお湯を溜めた。風呂の代わりだ。そこに浸かるつもりだ。湯の中にゴキブリの死骸が浮いている。迷ったけど手でつまんで捨てた。湯が溜まってきた。 服を脱ぎ始めて気づいた。僕は何重にも重ね着をしていた。それで思い出した。昨日から風邪を引いていたのだ。寒かった。しかしブリーフを2枚重ねてはいていたのは何故だろう。 ...
時間になっても待ち合わせ場所にあらわれない友人をずっと待っていた。結局彼は来なかった。代わりにやって来たのは分数だった。 「分数の割り算て苦手なんだよな」と僕は言った。 「誰が割り算しろなんて言った?」 「太腿が痛くなってきちゃったよ」 「太腿?」 「さっき角にぶつけたんだ」 分数は太腿がないと言った。 「僕は太腿がないんだよ」 太腿がないってどういうこと...
コタツで横になっていると目の前の窓が開けられ、 飼い猫を抱いた隣の家のおばさんが顔を出した。 おばさんは茶トラの背中を掻いてあげている。 おばさんは僕には目もくれず猫の背中を掻いている。 「掻き終わったら窓を閉めてくれないかな」と僕は頼んだ。 窓を開ける必要もなかったはずだ。 ...
僕の体のメビウスの輪のようにねじ曲がって女房とつながった部分にジェットコースターがあるのが見えて1人乗り込む。 現実にはありえないアクロバティックな体勢で家の掃除をしていたら体が元に戻らなくなってしまった廃人の僕にその体位で抱かれたいと女房は言うので とりあえず試しに1回やってみることにしたのだ。 ...
一緒にホテルの部屋で映画を見ていた女房が暑いと言って服を脱ぎ始めた‥‥結局全部脱いでしまった。僕は驚いた。いったいいつの間にこんなに全身真っ黒に日焼けしたのだろう。ふだんから服を着ていないに違いない。彼女が服を着るのは僕の前でだけなのだ。 僕は逆に寒いと言って上着を何枚か重ね着してから女房を抱いた。その間ずっと彼女は笑いながらハワイの話をしている、ここはハワイだと。ハワイにいるのに何で...
地底人を探していた僕が、ついでにモグラも探してくれと依頼された件。 「同じところで見つかると思うんだ」 「モグラを見つけてどうするの?」 「食べる」 「モグラってうまいの?」 「食べたことないのか?」 「ないよ」 「地底人を探してどうする?」 「食べるのさ」 「地底人を?」 「まさか」 「モグラって何食ってるか知ってる?」 「土だろ」...
大学で読むように薦められた2冊の本を買いに行った書店は学生でごった返していた。 そこでバイトしている1人の友人が 「例の本を買いに来たの?」 バックヤードに残っていた本を出してくれた。 その本を持ってレジに並ぶ。行列ができているのだが、書店の床はレジに向って傾斜になっている。とても滑りやすい床で、客はレジの反対側に流されてしまう。 傾斜がさらにきつくなった...
子犬とあだ名されている教授が身を屈めて僕の足元を通った。 僕は教授に(人間として)きちんと挨拶しかけたが、隣にいた連れの女のコが 「超可愛い子犬!」 それで‥‥教授も犬のふりをすることにしたようだ。 「見て、しっぽ振ってる」 「子犬がしっぽ振ってるね」 「すごく可愛いね」 僕は子犬に 「もしかして人間の言葉がわかりますか?」と訊いた。 ...
エレベーターに乗った。下りるところは「20」と「1」と「B5」しかなかった。「B1」で下りたかったのだが。 「1」で下りて階段を使えばいいだろう。 しかしそこに階段はなかった。「B1」は地下鉄の駅とつながっていたはずなのだが。 仕方ない。僕は歩いて、外に出ようとした。けれどどこまで行っても何もなかった。そこは「1」という看板があるだけの町だった。 ...
レストランで僕は1人で食事をしている。高級店だが1人で席についている者が目立つ。彼らと同じように僕もスマホと一緒に食事をしたのだ。奇妙なレストランだった。 この後9時に約束がある。それまでの時間潰しだった。さて時刻は8時半。会計を済ませ待ち合わせの場所に向う僕を追いかけてきた店員が言った、 「お忘れですよ、厨房の冷蔵庫に挽肉を‥‥」 僕は買い物帰りだった。 ...
雨の日に、布団が干されようとしているのを、僕は阻止する。やめろ、やめろ‥‥ その布団係の、顔を見て、僕は驚いた。スマップの、稲垣ではないか。 お互い顔を知らない、文通相手に、今日初めて会う約束だ。 ちょうどよかった。その顔を貸してください、と僕は頼む。 僕の顔がスマップの稲垣だったら、どんな女のコも、喜ぶはずだ。 布団干し係が稲垣の顔をしてても、仕方ないだろう‥...
窓の外の景色はモトリー・クルーのMVのようだ。「いやただの景色」と僕。「これのどこがモトリー・クルーのMVなの?」と僕は自問した。 誰かが隣にいて、「窓が開かない」と言った。 ...
僕を見た子供が「あなたは世界中でいちばん髪の長い男ね」 また別の子が「世界中でいちばん痩せた男ね」 「骸骨みたいね」 ちょっと待てよ、僕はそんなに痩せてない‥‥ たぶんそういうゲームなのだろ‥‥ また別の子がやって来て僕を見上げて「世界中でいちばんね」と。 ...
手に入れたばかりのでっかいオートバイに跨がり小さな町を巡回中、ヘルメットをかぶるのを忘れていることに気づいた。服を着るのも忘れていたけど、僕の姿は誰にも見えなくなっていたに違いない。だって誰も何も言わなかったから。何の注目も浴びなかったから。 自宅に戻り、バイクのエンジンを切る。オートバイに乗るのは久しぶりだった。気持ちいいけど少し怖い。それから歩いて町の中心部にあるスーパーへ行った。...
大きなバーコード・リーダーが、僕の腹筋を読み取る。「よく鍛えてらっしゃいますね」と店のお姉さんはお世辞を言う。けっこうな金額だったが、腹筋で払えてしまった。 「QRコードみたいになってるお客さんも多いんですよ」 「ん‥‥」 正に前の客がそうだった。中年の男性だった。腹筋ではなく現金で払っていた。 ...
行く手にひしめくシャボン玉を、割りながら突進する獣を見て、まだ言葉が喋れないシャボン玉王子は泣く。僕の手に抱かれた彼が創造したシャボン玉だった。 ...
途中下車した。改札で切符を見た駅員が、何か言いたそうだ。実際、言ったのだと思う。いつもとは逆に、僕は言葉がわからないふりをする。 駅に直結したデパート。僕は動く歩道に乗る。土足禁止です、と注意された。慌てて靴を脱いだ。 「靴下も脱いでください」 ‥‥床からは熱い蒸気が吹き出している。濡れた足の裏が柔らかくなる。 ...
僕らはサッカーをしていた。お屋敷の庭で。扉が開けられている、その中にゴールキーパーがいた。僕はボールを蹴り込んだ。キーパーは扉を閉めてブロックした。そして扉に内側から鍵をかける。ずるいじゃないか。 ...
石窯の中にいるようだ。君はこの暑さを屋根にある太陽光発電パネルのせいにする。少しでも涼しい部屋を探して家中移動する。 「屋根、外しちゃいなさいよ」 苛立ちわめく。「‥‥早く」 僕は脱水を終えた洗濯物を山ほど抱えている。どこにも干す場所がない。仕方なく書斎の机の上に置くと「ジュッ」という音がした。一瞬で乾いてしまった。 ...
「身だしなみの基本はドライヤーです」とその講師は言う。 「ドライヤー、持ってない人いますか?」 そこにいた5人の内、3人は持ってなかった。 「残念ですがあなたがたには私の講義を受ける資格はありません」 さて残ったのは僕と髪の長い美人だ(彼女は元体操選手だという)。身だしなみの講師が彼女と僕をジロジロ見比べて言う。 「あなた、本当にドライヤーを持ってるんですか?」 ...
「AVの方が稼げるよ」と私は友達に言う。 私はAV女優で、彼女はソープ嬢だ。アイスを食べている。 「私よりアンタの方が金持ちなの?」「かもね」「じゃアイスもう1個奢ってよ」 彼女の宿題を私が代わりにやった。昼から始めて、結局徹夜した。終ったころには、私は熱を出していた。服を着たまま、ベッドに倒れ込んだ。 大汗をかいて、目を覚ました。何時間眠ったのか、わからない。汗で濡...
僕たちサッカー部員の前に神様があらわれて、こう言った、「明日のサッカーの試合を試合を晴れにしてやろう。だがその代わりお前らの誕生日は雨になる」 試合や誕生日が雨になったところでどうということはない、みんなはそう考えた。しかし僕の誕生日は七夕なのだ。 ...
パンを盗み食いする。パンは2種類ある。固いパン、柔らかいパン。僕は迷った末、固いパンから食べ始める。誰もいない、暗い部屋だ。固いのを食べ終えたところで、部屋を出た。柔らかいパンは逃走中に、歩きながら、あるいは文字通り走りながら食べようと思ったのだが、正解だった。 階段を下りていく。段には靴が置いてある。僕は靴を履いてなかったので、どれか一足頂こうと思った。紐を結ぶタイプより、ローファー...
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父はもう起きていた。ステテコとランニングシャツという格好で寛いでいた。僕は朝食の席についた。 皿に盛られていたのはステテコだった。これに着替えなさいと母。僕が無視していると母は父と言い合いを始めた。 ...
席についたが、誰も来なかった。外国語で「日本人」と書いてある席についた。テーブルに、5〜6人分の食事が用意されていた。イカの刺身と、カレーライスである。僕は1人で食べ始めた。 僕が食べ終わるころに、みんなは現れた。刺身とカレーは下げられ、新たに寿司が出された。僕はそれも食べた。 ...
7時を過ぎても明るくならない。まだ夜は明けない。ホテルでは眠る以外にすることはなかった。何十時間寝ているのだろう。ときどき目を覚まして小便をした。部屋にはトイレがなかった。廊下の先にそれはあった。 小便をしに来るたびにトイレ周辺の様子は変わっていた。もともとは英語を話す体格のいい男たちがいるサウナの一角だった。従業員用のトイレを借りるのに、彼らと何か話したような気もする。何を話したのか...
同じことを何回もやる。ただ繰り返すのではなく、変身してやるのだ。アンパンマンやドラゴンボールのキャラクター、仮面ライダー、ウルトラマンなどに変身できる。ただ‥‥何をやらされるのだろう? どのぐらいの期間? 他の人たちは変身に夢中で気にしていないようだが、僕は気になる。そのせいで完全には我を忘れられないのだった。 ...
宣伝の写真を撮るのにそのデパートに売っているものは何でも身につけてよかった。僕は着替えるのが面倒だったので普段着に持ち物だけは高級品、というスタイルでいくことにした。ブランドのロゴが入ったバッグや帽子である。 1人の太った女のコは全身有名ブランドで固めることにしたようだ。もう1人のモデルの女のコはおもちゃ売り場から人形やぬいぐるみを持ってきた。 ...
スナイパーの男が、藁人形から藁を1本引き抜く。それで風向きを確認している。 「藁人形なんて古風ですね」、僕の言葉に嘲笑うような響きがあったかも知れない。 スナイパーは拳銃を取り出し、藁人形を何発も撃った。 それから狙撃用のライフルを構え、標的を撃った。 ...
私には家があった。平屋で、広い部屋がいくつもあったが、入ったことはなかった。部屋と部屋をつなぐ廊下で、私は寝ていた。木の床に、身を横たえた。 その夜は、ソフトクリームの夢を見た。綿飴のようなソフトクリームだ。それを食べながら、私はもう1つの家に帰る。廊下で、立ったまま全部食べる。 ...
橋を歩くと、ギシギシ、変な音がした。危ない。橋が落ちてしまう。 端を歩けばいいんじゃないか、と思った。手すりにつかまって、ゆっくり歩いた。 手すりは金(きん)でできていた。いただいて行こう。手すりをもぎ取った。 すると僕の頭は落ちた。両手は塞がっている。こんなときに頭を落してしまった。どうしよう。 ...
君は手帖を買うと言い出す。僕も一緒に見て回る。土産物屋である。どれも高価なものばかりなのだろう。モノはガラスケースの中に入れられていて触れることができない。 店に入るときは靴を脱がなければならなかった。脱ぐのに時間がかかった。ドクターマーチンのブーツを履いていたから。 店の隣が食堂だった。「社長」がごちそうしてくれた。イカの刺身が出てきた。ナンの形に切ってある。カレーに浸...
3人の友達の内1人が、突然老婆になっていたが、奇妙なことに、僕以外の誰も、そのことを気に留めてなかった。 「アタシはおばあちゃんだから、助手席に乗るワ」と彼女は言って、運転を僕らに任せた。 「アタシはアタシだから、アタシが運転するね」と友達の1人は言った。 「ボクもボクだから、後席に乗るよ」もう1人は言った。 「シートベルトがある」と一緒に後席に乗り込んだ僕が言うと、...
マフラーの先っちょの、ピロピロしている部分を切った。しかし、切りすぎた。プレゼントしてもらった大事なマフラーだ。君は怒るだろうか。鏡の前で巻いてみる。 5階から乗り込んだエレベーターの中、「7」のボタンと「1」のボタンが同時に押された。顔を見合わせる2人。一瞬迷って、エレベーターは上昇を始めた。 僕は敗者になった。無言で壁の方を向いた。勝者も俯き、自分の靴を見ていた。 ...
人とぶつかり、服にコーヒーがかかった。「すみません」とその人は言った。「いいんです」と僕は答えた。「これ、僕の服じゃないんです」 よく見ると、その人も僕と同じシャツを着ていた。周囲の人々も、全員同じシャツだ。 僕は、その、コーヒーの染みのついたシャツを洗わなかった。そのまま次の日も着た。 すると、みんなのシャツにも、同じような染みがあるのに気づいた。 ...
信号機の前で待ち合わせをしていた。時計を持ってなかった。信号の色が規則正しく変わった。赤、青、赤、青と。時計を眺めるようにしてそれを見ていたのである。僕は早く着きすぎたようだった。 ...
友達がやってきた。挨拶した。近くのカフェに入った。飲み物だけ注文した。 彼は錠剤を何種類か持っていた。1錠飲むとお腹いっぱいになるやつだ。 どの味がいい? と訊いてくる。でも飲ませてはくれない。 彼は家が全自動洗濯機だった。洗濯機の中に住んでいる。最近はあまり外出をしなくなった。 外を出歩いているのは家が洗濯機じゃない連中だ。そうだろ、と彼は言う。そうだな、僕は頷く。...
黒板の前に立っている先生に直接現金を持っていった。授業料だ。すると黒板がパカッと開いて、事務員のような人が顔を出した。「お金はこちらにいただきます」と言う。信用できるのだろうか。先生もびっくりしているが。 ...
「白身や黄身に感情移入してはいけない」その料理人は言った。 「感情移入ですって?」何を言ってるんだろ。 見知らぬ女が突然家にやって来て、関係を迫った。僕が応じて手を出そうとすると、「何でいきなりそんなことするの?」と声を上げた。「じゃあ帰ってください」と僕は言った。 「やるまで帰らない」と女。吐息が熱い。 ところがよく見ると女だと思っていたのは水色のカゴの中に多数入...
猛スピードでバックしてくる車が僕を跳ねた。全身を激しく打った。すると時間の進み方が突然ゆっくりになった。頭の中を過去の記憶が走馬灯のように駆け巡った。 その記憶は、実際に体験したものばかりではなかった。夢のような空想も多く混じっていた。現実より空想の方が多かったかも知れない。 ある空想の中では、僕は美女と結婚したことになっていた。 現実には存在しない、空想の結婚相手に向って...
告白罪ができた。男が女に愛の告白をすると、逮捕されてしまう。人生詰む。女から男への告白はいいのか。いいらしい。僕は待った。僕はハンサムだから。知らないたくさんの女がやってきた。彼女らは僕の知らない外国の言葉で、一言か二言何か告白し、去った。 ...
僕は町(ちょう)から来た。そこは小さな村(そん)だった。村長が僕を出迎えた。 広場にロケットが用意されていた。僕はロケットでちょうに帰される。宇宙服に着替えて乗り込むと、すぐにカウントダウンが始まった。カウントダウンはいきなり「2」から開始されたので、僕は焦った。 ...
みんなで1枚の大きな紙に絵を描いている。もう遅いからと言って2人が家に帰る。1人で好きなように描きたい僕は最後まで残ることにするが、絵の具は既に青と黄色しか残っていない。 後ろを振り返る。半開きになったままのドアの向こうから入りこんできた熱い風に吹かれる。風は絵のところへ行く。それは絵を乾かそうとしているのだ。 ...
その路線バスには、大きなスーツケースを抱えた外国人が多数乗っていて、いつもと雰囲気が違った。 前の席にいた地元の通勤客が僕を振り返って、「このバス、どこ行きでしたっけ?」と訊いた。初め韓国語で、それから思い直して英語で、僕は答える。 バスの左手には、古いソウルの町並み。 右手には、それを再現した映画のセットのような光景。 ...
ソファに寝そべっていた2人の若い女は、身を起こし、ただ「カッコイイ」と口に出した。 その本に、格好いい文章が書かれた、1枚の紙が挟まっていた。僕はその紙を抜き取り、ポケットに入れた。 もちろん、そのことは誰も知らない。だが僕が、みんなのいる部屋に戻ると、みんなが僕を見る目が変わっていた。 ドレスを着た女たちは、格好いい人を、あるいは独身の大金持ちを見る目で、僕を見た。 ...
弁当箱の中の、食べ残したご飯を、空港のゴミ箱に捨てた。飛行機に乗る前に、まだ捨てるものがないか見てみた。すると僕のスーツケースの中身が、全部食べ物になっていることに気づいた。いつの間にか中身は、入れ替わっていた。食品は保存のきくものばかりではなく、痛みかけているものもあった。 上空から見た川は、赤ワインのようだった。照らす光もないのに、輝きながら流れている。飛行機はさらに夜空を...
中身は僕自身知らない。どうやって開けるのかもわからない。誕生日のプレゼントとして僕が君に渡したのは、卵型のケースに入った「何か」だった。ところがみんなはそれを見て、「とても綺麗な花だね」と言ったり、「何の本なの?」と訊いたり。 ...
ゴキブリを手でつかまえた。どうすればいいかわからなくて混乱した。電子レンジの中に投げ入れて扉を閉め加熱した。そしたらもっとどうすればいいのかわからなくなった。 そんなとき。自分は変われるかどうか調べる試験があって、僕はみごと合格した。そんな気分だ。他の誰が課したのではない、自分自身が課した試験に、僕は。 ...
僕たちの乗るマイクロバスは車道を1列になって歩く馬とすれ違ったときも、動物園の中に入ったときも、速度を落とさなかった。まっすぐ、コアラの元へ向かい、止まった。僕たちはバスを下りて、コアラに触った。バスは、発車した。僕たちの戻りを待たなかった。 ...
鳥の仮面を付けた男が、ベッドに横たわるマネキン人形を優しく撫ででいる様子を、遠くから僕は見ている。 すると路の先から、同じ仮面を付けた男たちが、何人もやってきた。僕とすれ違い、‥‥あのマネキンの寝ている部屋へ向う。 振り返らず、僕は歩いた。‥‥いつの間にか隣に、あのマネキンのように白く、すべすべした巨大な女がいた。 ...
列車には窓がなく外の様子がわからないが、乗り合わせた僕たちはみんなで晴れていると思い込むことにする。僕は更にその思い込みに季節を付け加えることにした。「夏」。気持ちのよい朝だ。隣の席の若い女性グループが食堂車から僕にもジュースとクロワッサンを持ってきてくれる。 ...
待ち合わせた地下鉄の出口は、番号ではなく「うんこ」と名付けられていて、僕たちを気まずくさせるのです。 「ちんこ」の前で待ち合わせるよりは、まだマシですけど。 それでも「うんこの前で待ってるね」とは言いづらい。 ぶんこの前で、文庫本で、などと言い換える君。絶対に僕が先に着いていなければと思うのです。 ...
新幹線の「舳先」と言っていいのか、カモノハシのクチバシのような先端部分の上に、僕ら選ばれた幸運な乗客のための席はあって、時速300kmを体感するのですけれども、鉄道オタクのような1人の大男が、アルコールを持ち込んだ若い女性たちのグループに、それはジェットコースターに乗りながら、あるいはスカイダイビングをしながら、酒を飲むようなものでしょう、と反語的な苦言を呈しました。 ...
真夜中に僕は目を覚ました。もう眠くはなかった。そのまま起きることにして1階に下りた。歯を磨いてトイレに行きたかった。だが1階は僕の家ではなかった。 居間と台所の明かりがついている。そこにはいないはずの人たちがいた。双子の妹たちと、お手伝いさんの女性。彼女らには僕の姿が見えないようだ。 父と母が帰ってくるらしい。彼女らはその支度をしているのだ。 この家には息子がいただろう、と...
2階の僕の部屋の、床は透明だった。高所恐怖症の君は、それを怖がる。服を次々と脱ぎ捨て、床を覆った。 黒かった君のシャツや下着は、床に置かれると白くなり、光った。君はその上を歩いて、僕に近づいてくる。僕は靴と靴下だけを脱ぎ、待った。 ...
白くて丸い、光るデザートを買い、写真を撮った。その画像を、誰にも見せずに、ずっと保存していた。違法なポルノを、隠し持つようにして。 1人部屋に戻ってから、その画像を見た。すると今日の君の演奏が、感覚的に理解できた。スマホの発する光が、僕を包んだ。 終演後に君と話す機会はなかった。君のピアノは素晴らしかった。それをそのときに伝えたかった。 ...
電車は鉄橋の手前で線路から外れてUターンした。怖じ気づいたのだろう。台風で川が氾濫しそうになっている。川の向こう側の県に僕は住んでいて、雨がひどくなる前に家に帰りたかったのだが。 鉄橋の手前の駅で僕たちは下ろされた。川を渡ってくれる電車が来るのを待った。 自分でもよくわからない理由で僕はホームのいちばん前、「舳先」に立つ。そのとき川は決壊した。濁流が押し寄せて来るのを見た。駅のホ...
スマホを見ていたら乗り過ごしてしまった。いちども下りたことのない駅で僕は下りた。反対側のホームで引き返す電車を待った。 その間もスマホをずっと眺めていて、行き先を確認することもなくやって来た電車に乗った。 車内は混んでいたが1つだけ空いた席があった。お年寄りや身障者が座るためのシートだ。僕はよく確かめもせずその席に座った。 まだ熱心にスマホを見ていた。結局終点まで乗った。僕...
「どこへ行こうとしてたのだ?」 悪魔の家に行こうと思って支度しているところに悪魔がやって来て訊いた。 「わかんなくなっちゃった」、と僕は答えた。 「君は何しにうちへ来たの?」 「私もわからなくなってしまったのだ」 「私は階段だ」と悪魔は言った。 「階段‥‥」 「私は飛躍したい」。私は悪魔ではないのだ。 その言葉を聞いて僕は一段抜かしで上がった。 ...
そのとき僕は時間よ止まれと思った。お前は美しい。実際に口に出して言った。でも悪魔はやってこなかった。 そういう契約をしていなかったから‥‥「どこへ行こうとしてたの?」 悪魔の家に行こうと思って支度しているところに悪魔がやって来て訊いた。「わかんなくなっちゃった」、と僕は答えた。「君は何しにうちへ来たの?」「私もわからなくなった」 ...
僕は裸足だった。靴はいつの間にか脱げていた。靴の中に入れておいたはずの僕の足の指はなくなっていた。 靴を探した。指か。指はいらないだろう。だが指だけが見つかった。指はとても黒かった。人体の一部のようには見えなかったが、これは僕のものなのだろうか。 ...
庭のサボテンが成長して普通の木になった。高さは数十メートル、もうトゲはない。上の方はどうなっているんだろう? 見に行くと天辺にちょこんとサボテンは乗っかっていた。 ...
住宅街の道の真ん中に僕の便器はいた。 だが本当に僕の便器なのかはわからない。彼はその場に固定され動けなくなっているようだ。 「みんなに見られるのが恥ずかしいです」彼は訴えるので、周りを薄い木の板で囲った。そうすると簡易トイレのようになった。 用を足して扉を開けると、外にはたくさんの人が並んでいる。僕は全員に意味もなく謝った。 ...