席についたが、誰も来なかった。外国語で「日本人」と書いてある席についた。テーブルに、5〜6人分の食事が用意されていた。イカの刺身と、カレーライスである。僕は1人で食べ始めた。 僕が食べ終わるころに、みんなは現れた。刺身とカレーは下げられ、新たに寿司が出された。僕はそれも食べた。 ...
気づいてみれば、僕が話しかけていたのは、レタスの葉っぱだった。何か、とても大事な話をしていたのだが、相手がレタスだとわかった途端、醒めてしまった。話の内容も、一瞬で忘れてしまった。「今からおまえを食べる」と僕は宣言した。「ドレッシングもつけずにな」 そいつからは、何の反応も返ってこなかった。午後7時のレタスは、午後の5時からレタスだったが、誰も気づかなかっただけなのだ。 ...
ルビー色の蜘蛛の糸のような、レーザー光線の上を、小人が渡ってきた。まっすぐ僕のところにやってきた。 次はオマエの番、と小人は言った。 誰の番だって? じゃ、もういちどオレの番。エヘエヘヘ。 小人がレーザー光線の上に足を乗せ、体重をかけると、レーザーの光は消えた。。 ...
女たちは1人ずつ順番に、まったく同じ質問を僕にした。「私はどうすればいいの?」 僕は全員に、まったく同じ答えを返した。「横になるといいです」 「どうして横になるといいの?」 「あなたはもう死んでいるからです」 ふ〜ん、という顔をして全員が床に横になった。 だが彼女たちは眠るどころか、目を大きく見開いて僕を見つめている。 そして「あなたはもう少し起きていた方がい...
女ばかりだった。またそういう場所に僕は迷い込んでしまった。若い女がいて、若くない女もいた。ほとんど服を着ていないのもいたが、僕を気にする者は誰もいなかった。女たちはみんなとてもリラックスしているように見えた。そして同時に、とても疲れているようにも見えた。 ...
1人の訓練兵と、1つのウンコ、1台の便器がセットになっています。完成させなさい、というのです。すでに完成しているじゃないか、と思いました。それとも脱構築しろというのでしょうか。徴兵され、軍隊に入る夢を見ました。ポストモダンな軍隊です。1週間ほどの訓練の、最初の朝でした。 ...
朝、起きると僕は、知らない場所にいた。床に直接、たくさんの布団が敷いてあり、さっきまで誰かが寝ていたのだろうが、今は全部空だ。部屋の扉は開いていて、外に人の気配がある。気配は感じるのだが、誰もいない。 トイレに行った。便器が異常に小さい。人形の家のトイレみたいに。なぜだろう。僕の体が大きくなったのかも知れないが、よくわからない。あちこちから、水を流す音が聞こえてくる。シャワーを浴びる音...
猫が僕にカードを渡した。どうしろというのだろう。僕はそのカードにポイントを付与して返した。猫は僕の顔をパンチして鳴いた。 ...
手のひらで水をすくって、弱った猫に飲ませた。歯磨きのチューブから少し出して、水に溶かす。水はミルクのように白っぽくなり、薄荷の味がついて、猫は喜んだ。 その猫は、人間の言葉が喋れた。その猫は、銀行に口座を持っていた。大金を僕にくれると言った。ATMについて行った。列に並んだ。 僕たちの後ろに、体長4メートルのキリンが立った。キリンはスーツを着ている。その威圧感が半端なかっ...
「私の瞳、どこにある?」 「どこって‥‥そこに‥‥」 君が笑みを浮かべ、大きくまばたきをすると、君の瞳の中の輝く星は、100個にも200個にもなった。 「えっ‥‥」 君はもういちど、ゆっくりと目を閉じた。僕たちのいた部屋全体が、それに合わせて収縮した。僕たちの距離が縮まった。 君がまた目を開けても、何も元には戻らなかった。君の瞳の中に生まれた、すべての星が一カ所に集ま...
筒の中には巨大なポスターが入っていて重い。家一軒分の重さはあるだろう。 吉幾三の別荘よりは軽いだろうが、ホームレスのダンボールハウスよりは重い。 そんな「家」を抱えて飛行機に乗ったのだが、税関を抜けるときに捕まった。 「こちら拝見してよろしいですか?」 無理だと思う。 ...
僕たちの王が歌うのを、僕は聴かなかった。石を積み上げてつくった玉座に僕はいた。急な段を下りる。もちろん手すりなどない。足を踏み外して転げ落ちたら死んでしまうだろう。だがゆっくりと下りればいいのだ。 下界には人間たちがいて、ピラミッドのような玉座を見上げている。姿の見えない王は。 ...
その大きな車が運んでいたのはたった1枚のレコード。1人の男がそれを大事そうに抱えている。 車はノンストップでもう何日も走りつづけていて、どこまで行くのか知らない。 たまたま乗り合わせた僕ともう1人の男の、鞄の中にある音の出るものはすべて捨てさせられた。 僕が持っていたペンでコツコツとリズムを取っているのを見て(聞いて)、レコードを抱えた男はそれも捨てろと言う。 夜にな...
電話相手は僕に50億円をくれると言った。僕はもらうことにしてその人に会いに行った。川べりのホテルの一室で詳しい話を聞いた。 「本当にタダでくれるの?」相手は若い男だった。 「うーんと、まずワールドカップの得点王になってもらいたいんだ」 「得点王になったらくれるの?」 「そしてヨーロッパのクラブと契約してもらいたい」 「わかった」と僕は請け負った。 「そのとき代理人が要...
いい人が悪い人と一緒にいるとき、悪い人はワニに変身されられた。「この姿も悪くないな」と悪い人は思った。 いい人は人間のままだった。ワニに訊いた。「まだ人間の言葉が喋れるかい?」 返事はなかったが。 構わず「一緒に歌おう」と呼びかけた。そしていい人らしく「希望の歌」を歌った。ワニも口を大きく開けた。 ...
俳優としてのキャリアをスタートさせたのは60歳のときだった。あるドラマの中で僕は30歳の青年を演じて話題になった。たいした役ではなかった。いつも鏡を見て自分の顔を気にしている男の役だった。 その後200歳まで生きた僕は長い牙のある大きな動物に変身して劇に出た。若作りの二枚目役は卒業だった。ラストシーンだった。城の地下に閉じ込められた。王の家臣と一緒だった。「希望はどこにある?」フランス...
2隻の大きな宇宙戦艦があった。それよりも大きな若い女がいた。彼女は戦艦を蹴飛ばした。 僕は宇宙戦艦と同じ大きさだったが、慌てて彼女と同じ大きさになった。しかし彼女は僕も蹴った。 ...
集団登校中の小学生たちに向け、僕は両の手のひらから光線を発した。光を浴びた子供たちはゾンビになった。みんな僕の後をついてくる。 吠える2匹の大きな犬がいた。ソンビたちを差し向けると犬は大人しくなった。僕は犬に噛みついた。すると犬もゾンビになった。その様子を誰かが録画している。 ...
瞼の裏に刺青が彫ってあった。目を閉じるとその刺青が見えた。眠りに落ちるまでその刺青を見つづけている。夢の内容もその影響を受けた。すべての背景に透かしが入っているようだ。その透かしがだんだん濃くなる。すると朝だ。目を開ける前に5分間その刺青を眺める。 ...
小学校の地下から絵本が発掘された。タイムカプセルに入れられていたものだ。綴じられてはおらずバラバラだった。 ‥‥ゾンビが復活するという話だろうか。それともゾンビが死ぬという話だろうか。正しい順番はわからなくなっているが小学生が書いたとはとても思えない気味の悪いホラーだ。 その物語を読んでいた僕の友人の男(長身長髪の二枚目)が突然ゾンビに変身して死んだ。それで「これはゾンビが死ぬと...
でもなんだか怖くなって僕は逃げた。山の頂上から麓の方へ走った。途中何人もの登山者とすれ違った。登山者たちは喪服を着ていた。みんな無言だった。誰も僕に「こんにちは」と挨拶をしなかった。僕は小さな声で「さよなら」と言いつづけた。 山道の脇に石のバスタブがあった。友人がその中で寝ていた。よく見ると彼の体は水晶だった。バスダブも水晶で満たされていた。どこまでが彼の体なのか見分けられなかった。...
僕のコードナンバーは 08004500 だとその人に教えられた。これからは名前ではなくその番号を名乗らなければならない。そしてその人の番号は何番だったろう。その人の名前を知っている。でも僕はその人の名前を忘れなければならない。「その人」や「あの人」と呼ぶことも、記述することも許されない。 ...
僕たちがそんな話をしているところに警官がやってきた。「警官が来たぞ」と僕は思った。口に出してしまったかも知れない。一緒にいた友達が僕を見た。 警官は友達に用事があるようだった。友達は警官を無視して誰かに電話をかけた。「警官が来たぞ」とからかうような口調で話している。そして僕には同じ口調で違うことを言う。 ...
アクセルを踏み込もうとすると車道を逆走してくる白い商用車が見えた。慌ててブレーキをかけ、ぎりぎりのところで避けた。そんなことがあって僕は遅れた。仲間たちは先に行ってしまった。 そこで場面転換。白い商用車に乗っていたのは僕だった。運転者はわからない。「着いたよ」と彼は言った。だが車は走りつづけている。ひどく寂れた地区を‥‥ 最終的に車が停止したのはガス欠のせいだった。粗大ゴミの集積...
僕はその部屋で僕のアイドルがやってくるのを待ちました。刑務所のようなホテルでした。廊下は既に消灯していました。闇の中をロボットが巡回しています。彼女は本当に来てくれるだろうかと思いました。でも来てくれたのです。 僕は扉の影から急に飛び出して、アイドルの腕を掴み、驚かせようとしました。彼女はちっとも驚かなかったですが。部屋に招き入れました。そして「当然のことだ」という態度でキスしたのです...
僕たち暗殺専門の特殊部隊が突入したときには既に大統領の首はなかった。僕たちは大統領の体に尋問した(紳士的に)、「あなたの首はどこへ逃げたんですか?」 左手の指と右手の指が違う方向を指した。ばたばたする両足は無視して僕たちは二手に分かれた。僕が向った方角に大統領の首は転がっていた。目を開けたまま眠っていた。眠ったまま笑っているようだった。その笑い声は違う方向から聞こえてきた。 ...
エレベーターに、2階のボタンはなかった。僕は5階まで上がってから、階段で下りた。 そこは本屋だった。僕の友人は先に来ていた。本が棚から床に落ちていた。友人は床に座り込んで本を探していた。 突然向こうから大男がやって来た。大男は僕の友人を睨みつけた。 「もうすぐここに人が来る」と大男は言った。「お前はその人と会ってはいけない」 それを聞いて友人は姿を消した。 そして...
さっきから雨が降っていた。傘をさすほどではないが、酔いは醒めた。 女のコ2人と、道を歩いていた。2人とも、僕を好きだった。どちらとつき合うか、選ばなければならなかった。 向こう側に走って渡ろう。突然、僕は言った。車道を、僕たちは横切った。誰かを、車が撥ねてくれる。だが3人とも、無事だった。 ...
目覚めると夜のファミレスで、金髪を見かけた。無視しようと思ったが、向こうから声をかけてきた。 「何してるんですか?」 「勉強」 お前と話す気はない、という意味で言ったつもりだった。 「私も勉強してるんです」 「ファミレスで?」 「明日も同じ時間に来ます。勉強教えてください」 「うん、いいよ、わかった。一緒に勉強しよう」 厚底の靴を履いた背の高い女のコだった。 ...
パチンコ屋の前に、バスが到着した。ホテル前のはずだった。僕はそびえ立つ前衛的な建築を見上げた。看板にはかわいい女のコの顔。店の地下に通じる階段を、その写真のコが上がってきた。服装は違うが、道行く人も、みな同じ顔をしている。 ...
午前4時、1階の広い和室に、直接新聞が配達されていた。みんなまだ寝ている。僕は朝刊を拾い上げ、読んだ。先月の1日に起きた事件だ。それが今報道されている。 家人が起き出してくるころには、そのニュースは消えていた。紙面は、書き換えられていた。僕は和室の畳の上で、制服を着たまま、眠っていたらしい。 ...
暗闇の中に漂う白い霧が闇の色をグレーにする。僕は目が見えないのに部屋の明かりを点けているのはなぜか。みんなの言う通りだ。電気代がもったいないじゃないか。 けど真っ暗な部屋では何かに躓くのだ。床に何が落ちているのだろう? 手でそれに触れてみる。匂いを嗅いでみる。でも何だかわからない。 ...
役所に行った。バスに何時間も揺られて、やっと辿り着いた。持ってきた書類を受付で渡した。 次は健康診断だった。次はそうだと言われたわけではないが。‥‥健康診断の会場にたくさんの人が並んでいた。 待合室に問診票の記入の仕方を解説するおばあさんが1人いた。僕も自分の問診票を見せて質問した。「あんたのは少し違うねぇ」と彼女は答えた。 「こんなのは見たことがないよ」 おば...
僕の首筋に、何かに噛まれた痕があった。「犬に噛まれたんだね」と猫が僕に言った。 「どうして犬だとわかるの?」僕は聞き返した。 「病院に行った方がいいな」と別の猫が言った。 「人間の病院に?」 「おもしろいことを言うね、君は」 ...
その部屋には、大きなグランドピアノと、中くらいのグランドピアノ、小さなグランドピアノの、3台があった。 若い政治家は、大きなピアノ、その友人が、小さなピアノを選んだ。 大きなピアノの上には、サングラスをかけた人形が何体も乗っている。針金でできた人形だ(僕は人形のサングラスを外し、その茶色い瞳を見た)。 僕の選んだ中くらいのピアノの上には、貝殻が乗っていた(ヴィーナスが爆誕し...
ルビー色の蜘蛛の糸のような、レーザー光線の上を、小人が渡ってきた。まっすぐ僕のところにやってきた。何の用だろう。用事はないのかも知れない。 老人と孫がいる。「写真を見せて」と孫が言う。老人は見当外れの答えを返す、「父からの電話を待ってるんだ」。満足しきった薄ら笑いを浮かべ。 ...
僕の白いベンツを追い抜いて行ったセダンが、僕の停めようとした区画に駐車し、中から7人くらい降りてきた。みんな若者だった。僕は駐車場をもう半周して、停める場所を探した。 偶然かも知れないが、駐車中の車は、全部同じ、白いセダンだった。車種は様々で、古い車もあれば、新車もある。そして全部の車が、サランラップで包まれていた。 僕が悪戯心から、1台のラップを剥がすと、空気より軽い素材ででき...
2人はいつも一緒、超仲良しだったが、その日は、一方の姿が見えなかった。 「もう1人のコは、今日はどうしたの?」 僕がそう訊くと、彼女は相方に電話をかけた。僕たちは2人でバスに乗っている。電話で、なぜか僕は怒られた。 「このバスは、どこへ行くの?」 その電話の後で、僕は訊ねた。彼女がもういちど相方にかけるのを見て、僕はまた怒られるんだなと思った。 ...
君の声に呼ばれて、目が覚めた。あたりを見回したが、誰もいなかった。僕は、何もない部屋にいた。広い部屋に、ソファだけがあり、僕は、服を着たまま寝ていた。 重力が、ひどく弱かった。空気が、軽くなっていた。空気が、いくつかの泡のようになり、部屋の天井付近にプカプカと浮いていた。僕もときどき空気を吸いに、浮かび上がった。 ...
スクランブル交差点を渡って、まっすぐ前、大きな公園に見えるのは、野生動植物の保護区だ。左に行くと、商業地区に出る。日本文化を紹介する「日本展」のポスターが見えた。 車道の幅は、何キロもある。歩行者用の信号は、いつまでも青。僕たちは人混みに紛れて、ゆっくり歩いた。雲の上を行くように、ふわふわと。縦横数百メートルはある、巨大な3Dポスターの前で、記念写真を撮った。 ...
それはミュージカルのような、手品ショーのような、前衛的な舞台で、観客席も、ステージの一部だった。青いドレスを着たソプラノ歌手が、口を閉じたまま歌う。ピアノで伴奏をしているのが、君だ。僕は呼ばれて、ピアノの脇に立った。それは右に行くほど、低い音が出るようになっているピアノだ。鍵盤のいちばん右端で、ト長調の和音を押さえた。すると、僕たちの体は膨らみ、宙に浮いた。 ...
彼の背中にはフタがついていた。フタを開けると赤いボタンがあった。僕は訊いた、「このボタンを押すとどうなるの?」 「死ぬよ」別の人が答えた。 「あなたには訊いてないよ」 僕はもういちど同じ質問をした。 しかし彼は永久に答えてくれなかった。 ...
母親は暑がりだ。息子はロボット。息子は暑さ寒さを感じない。そんなわけで息子の経営するカフェに冷房は入ってない。異常に暑かった。客として訪れた母は冷房を入れてほしいと思った。 息子は応じない。母親は息子のスイッチを切ることにした。リモコンで操作したが息子はなかなか停止しない。「時間がかかるんです」と僕は説明した。「緊急停止ボタンを押しますか?」 「アンタ誰?」 「それよりもブライ...
君は、先に出た。後から行くよ、と僕は言った。 歌を歌いながら。 ホテルの浴室で、君が長い髪を洗っている隣で、僕も髪を洗っている。 僕の短い髪の方が、乾くまでに長い時間がかかるのは、なぜだか知らない。 大理石の床が、水面のように煌めいて反射する。 ...
僕の家のドアは薄い1枚の紙でできている。ドアにはドアノブの絵が描かれている。ドアノブには鍵穴が描かれている。鍵の絵はまだ描けてない。ドアに鍵をかけることはできない。 家の中にはたくさんの人がいる。昼だ。1人がこれから出かけると言うので、僕はドアの絵をドア枠から外した。彼は車に乗ると言う。乗る直前まで風呂に入っていたい、と言う。外は寒いからな。 ...
赤い服が踊っていた。透明人間が服を着て踊っていたのか。 服自体が踊っていたのか、透明人間なしで。 踊りが終ると服は元の場所に帰った。透明人間が服を脱いで返したのだろうか。 ...
呼ばれた名前は、僕のものではない。それでも僕は立ち上がり、前に進み出る。名前は、小学校の同級生のものだ。とても珍しい名字。彼に会いたかった。 彼を呼び出した男が、僕を見て言う。「お前も、違うな?」 違います。 後から次々と、人は集まって来る。舞台に上がったみんな、彼ではない。席に1人残っている男も、彼ではない。 ...
地獄で僕はたくさんの嘘をついた。 僕は不死鳥、自殺が趣味。噴火する火山にダイブするタイプ。この間も活火山の火口で、それを試みた。それでも死なない。今日復活した。 ...
はっと目を覚ますと、ベッドの周りに、僕を見下ろす、複数の顔が。「来たよ」「来たよ」「来たよ」「来たよ」と順番に、同じ言葉を言った。 そして、‥‥僕の番になったようだ。「来たんだね」。僕は言った。来客たちは満足そうに頷き、1人、また1人と消えていった。 昨日見た夢の話です。来客があり、僕は部屋に掃除機をかけていました。床は埃だらけでした。 と思ったら違いました。埃の塊だと思っ...
機械の音声は、まず最初に、クレジットカードを入れるように言った。僕がそうすると、次に銀行のキャッシュカード。そしてスマホを持っているなら、スマホも入れろと言い、口を開けた。僕は入れたくなかった。長い時間ためらった。その間機械は、沈黙した。僕のうしろに並んでいる人たちが、ざわつき始めた。 ...
地下鉄の駅前、頭にタオルを乗せている人たちが列をつくって何かを待っていた。 雨が降ってきた。列の先頭にいた男が、「中止だ」と叫んだ。しかし彼の言葉に反応する者は誰もいなかった。 「中止だ、中止だ」男は繰り返した。彼が繰り返すたびに、雨は強くなった。同じロゴの入った白いタオル。 ...
掃除機で吸い取っていく。床に落ちているゴミは、美しい花の形をしていた。掃除すればするほど、部屋は汚くなった。 部屋の主が帰宅した。花束を持っていた。花瓶に活けた。僕はすかさず、掃除機で吸い取った。 ちゃんと確認はしたのだ、「これはゴミですよね?」 「そうよ」と彼女は言った。 ...
席の間に通路がなかった。僕たちは椅子の背を乗り越えて進んだ。 椅子は普通と比べてかなり立派なものだった。靴で踏んづけられてもいいように頑丈につくられているのだ。 背もたれの部分に僕の名前が書いた紙が貼りつけてあったので自分の席がわかった。 他のみんなはどうやって見つけたんだろう、自分の席を。 ...
煙も出なかった。灰も残らなかった。巣に捕えられた小さな虫たちが逃げ出した。僕はライターで火をつけていく。蜘蛛の巣は燃えた。ボワッ、ボワッと。僕は蜘蛛たちと一緒に、燃える蜘蛛の巣を見ていた。美術館で美術作品を鑑賞しているような感じで、静かに。 ...
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席についたが、誰も来なかった。外国語で「日本人」と書いてある席についた。テーブルに、5〜6人分の食事が用意されていた。イカの刺身と、カレーライスである。僕は1人で食べ始めた。 僕が食べ終わるころに、みんなは現れた。刺身とカレーは下げられ、新たに寿司が出された。僕はそれも食べた。 ...
7時を過ぎても明るくならない。まだ夜は明けない。ホテルでは眠る以外にすることはなかった。何十時間寝ているのだろう。ときどき目を覚まして小便をした。部屋にはトイレがなかった。廊下の先にそれはあった。 小便をしに来るたびにトイレ周辺の様子は変わっていた。もともとは英語を話す体格のいい男たちがいるサウナの一角だった。従業員用のトイレを借りるのに、彼らと何か話したような気もする。何を話したのか...
同じことを何回もやる。ただ繰り返すのではなく、変身してやるのだ。アンパンマンやドラゴンボールのキャラクター、仮面ライダー、ウルトラマンなどに変身できる。ただ‥‥何をやらされるのだろう? どのぐらいの期間? 他の人たちは変身に夢中で気にしていないようだが、僕は気になる。そのせいで完全には我を忘れられないのだった。 ...
宣伝の写真を撮るのにそのデパートに売っているものは何でも身につけてよかった。僕は着替えるのが面倒だったので普段着に持ち物だけは高級品、というスタイルでいくことにした。ブランドのロゴが入ったバッグや帽子である。 1人の太った女のコは全身有名ブランドで固めることにしたようだ。もう1人のモデルの女のコはおもちゃ売り場から人形やぬいぐるみを持ってきた。 ...
スナイパーの男が、藁人形から藁を1本引き抜く。それで風向きを確認している。 「藁人形なんて古風ですね」、僕の言葉に嘲笑うような響きがあったかも知れない。 スナイパーは拳銃を取り出し、藁人形を何発も撃った。 それから狙撃用のライフルを構え、標的を撃った。 ...
私には家があった。平屋で、広い部屋がいくつもあったが、入ったことはなかった。部屋と部屋をつなぐ廊下で、私は寝ていた。木の床に、身を横たえた。 その夜は、ソフトクリームの夢を見た。綿飴のようなソフトクリームだ。それを食べながら、私はもう1つの家に帰る。廊下で、立ったまま全部食べる。 ...
橋を歩くと、ギシギシ、変な音がした。危ない。橋が落ちてしまう。 端を歩けばいいんじゃないか、と思った。手すりにつかまって、ゆっくり歩いた。 手すりは金(きん)でできていた。いただいて行こう。手すりをもぎ取った。 すると僕の頭は落ちた。両手は塞がっている。こんなときに頭を落してしまった。どうしよう。 ...
君は手帖を買うと言い出す。僕も一緒に見て回る。土産物屋である。どれも高価なものばかりなのだろう。モノはガラスケースの中に入れられていて触れることができない。 店に入るときは靴を脱がなければならなかった。脱ぐのに時間がかかった。ドクターマーチンのブーツを履いていたから。 店の隣が食堂だった。「社長」がごちそうしてくれた。イカの刺身が出てきた。ナンの形に切ってある。カレーに浸...
3人の友達の内1人が、突然老婆になっていたが、奇妙なことに、僕以外の誰も、そのことを気に留めてなかった。 「アタシはおばあちゃんだから、助手席に乗るワ」と彼女は言って、運転を僕らに任せた。 「アタシはアタシだから、アタシが運転するね」と友達の1人は言った。 「ボクもボクだから、後席に乗るよ」もう1人は言った。 「シートベルトがある」と一緒に後席に乗り込んだ僕が言うと、...
マフラーの先っちょの、ピロピロしている部分を切った。しかし、切りすぎた。プレゼントしてもらった大事なマフラーだ。君は怒るだろうか。鏡の前で巻いてみる。 5階から乗り込んだエレベーターの中、「7」のボタンと「1」のボタンが同時に押された。顔を見合わせる2人。一瞬迷って、エレベーターは上昇を始めた。 僕は敗者になった。無言で壁の方を向いた。勝者も俯き、自分の靴を見ていた。 ...
人とぶつかり、服にコーヒーがかかった。「すみません」とその人は言った。「いいんです」と僕は答えた。「これ、僕の服じゃないんです」 よく見ると、その人も僕と同じシャツを着ていた。周囲の人々も、全員同じシャツだ。 僕は、その、コーヒーの染みのついたシャツを洗わなかった。そのまま次の日も着た。 すると、みんなのシャツにも、同じような染みがあるのに気づいた。 ...
信号機の前で待ち合わせをしていた。時計を持ってなかった。信号の色が規則正しく変わった。赤、青、赤、青と。時計を眺めるようにしてそれを見ていたのである。僕は早く着きすぎたようだった。 ...
友達がやってきた。挨拶した。近くのカフェに入った。飲み物だけ注文した。 彼は錠剤を何種類か持っていた。1錠飲むとお腹いっぱいになるやつだ。 どの味がいい? と訊いてくる。でも飲ませてはくれない。 彼は家が全自動洗濯機だった。洗濯機の中に住んでいる。最近はあまり外出をしなくなった。 外を出歩いているのは家が洗濯機じゃない連中だ。そうだろ、と彼は言う。そうだな、僕は頷く。...
黒板の前に立っている先生に直接現金を持っていった。授業料だ。すると黒板がパカッと開いて、事務員のような人が顔を出した。「お金はこちらにいただきます」と言う。信用できるのだろうか。先生もびっくりしているが。 ...
「白身や黄身に感情移入してはいけない」その料理人は言った。 「感情移入ですって?」何を言ってるんだろ。 見知らぬ女が突然家にやって来て、関係を迫った。僕が応じて手を出そうとすると、「何でいきなりそんなことするの?」と声を上げた。「じゃあ帰ってください」と僕は言った。 「やるまで帰らない」と女。吐息が熱い。 ところがよく見ると女だと思っていたのは水色のカゴの中に多数入...
猛スピードでバックしてくる車が僕を跳ねた。全身を激しく打った。すると時間の進み方が突然ゆっくりになった。頭の中を過去の記憶が走馬灯のように駆け巡った。 その記憶は、実際に体験したものばかりではなかった。夢のような空想も多く混じっていた。現実より空想の方が多かったかも知れない。 ある空想の中では、僕は美女と結婚したことになっていた。 現実には存在しない、空想の結婚相手に向って...
告白罪ができた。男が女に愛の告白をすると、逮捕されてしまう。人生詰む。女から男への告白はいいのか。いいらしい。僕は待った。僕はハンサムだから。知らないたくさんの女がやってきた。彼女らは僕の知らない外国の言葉で、一言か二言何か告白し、去った。 ...
僕は町(ちょう)から来た。そこは小さな村(そん)だった。村長が僕を出迎えた。 広場にロケットが用意されていた。僕はロケットでちょうに帰される。宇宙服に着替えて乗り込むと、すぐにカウントダウンが始まった。カウントダウンはいきなり「2」から開始されたので、僕は焦った。 ...
みんなで1枚の大きな紙に絵を描いている。もう遅いからと言って2人が家に帰る。1人で好きなように描きたい僕は最後まで残ることにするが、絵の具は既に青と黄色しか残っていない。 後ろを振り返る。半開きになったままのドアの向こうから入りこんできた熱い風に吹かれる。風は絵のところへ行く。それは絵を乾かそうとしているのだ。 ...
ラジオをつける。待っていたかのようにDJが喋りだす。「○○君においらの先生を紹介するよ‥‥」どうして僕の名前を知っているのだろう。 「先生はすごいんだ‥‥」 「先生はバレーボールの選手だった‥‥」 僕の背後に背の高い女性が出現する。彼女は僕の隣にやってくる。11時になった。DJはお喋りをやめる。 ...
弁当箱の中の、食べ残したご飯を、空港のゴミ箱に捨てた。飛行機に乗る前に、まだ捨てるものがないか見てみた。すると僕のスーツケースの中身が、全部食べ物になっていることに気づいた。いつの間にか中身は、入れ替わっていた。食品は保存のきくものばかりではなく、痛みかけているものもあった。 上空から見た川は、赤ワインのようだった。照らす光もないのに、輝きながら流れている。飛行機はさらに夜空を...
中身は僕自身知らない。どうやって開けるのかもわからない。誕生日のプレゼントとして僕が君に渡したのは、卵型のケースに入った「何か」だった。ところがみんなはそれを見て、「とても綺麗な花だね」と言ったり、「何の本なの?」と訊いたり。 ...
ゴキブリを手でつかまえた。どうすればいいかわからなくて混乱した。電子レンジの中に投げ入れて扉を閉め加熱した。そしたらもっとどうすればいいのかわからなくなった。 そんなとき。自分は変われるかどうか調べる試験があって、僕はみごと合格した。そんな気分だ。他の誰が課したのではない、自分自身が課した試験に、僕は。 ...
僕たちの乗るマイクロバスは車道を1列になって歩く馬とすれ違ったときも、動物園の中に入ったときも、速度を落とさなかった。まっすぐ、コアラの元へ向かい、止まった。僕たちはバスを下りて、コアラに触った。バスは、発車した。僕たちの戻りを待たなかった。 ...
鳥の仮面を付けた男が、ベッドに横たわるマネキン人形を優しく撫ででいる様子を、遠くから僕は見ている。 すると路の先から、同じ仮面を付けた男たちが、何人もやってきた。僕とすれ違い、‥‥あのマネキンの寝ている部屋へ向う。 振り返らず、僕は歩いた。‥‥いつの間にか隣に、あのマネキンのように白く、すべすべした巨大な女がいた。 ...
列車には窓がなく外の様子がわからないが、乗り合わせた僕たちはみんなで晴れていると思い込むことにする。僕は更にその思い込みに季節を付け加えることにした。「夏」。気持ちのよい朝だ。隣の席の若い女性グループが食堂車から僕にもジュースとクロワッサンを持ってきてくれる。 ...
待ち合わせた地下鉄の出口は、番号ではなく「うんこ」と名付けられていて、僕たちを気まずくさせるのです。 「ちんこ」の前で待ち合わせるよりは、まだマシですけど。 それでも「うんこの前で待ってるね」とは言いづらい。 ぶんこの前で、文庫本で、などと言い換える君。絶対に僕が先に着いていなければと思うのです。 ...
新幹線の「舳先」と言っていいのか、カモノハシのクチバシのような先端部分の上に、僕ら選ばれた幸運な乗客のための席はあって、時速300kmを体感するのですけれども、鉄道オタクのような1人の大男が、アルコールを持ち込んだ若い女性たちのグループに、それはジェットコースターに乗りながら、あるいはスカイダイビングをしながら、酒を飲むようなものでしょう、と反語的な苦言を呈しました。 ...
真夜中に僕は目を覚ました。もう眠くはなかった。そのまま起きることにして1階に下りた。歯を磨いてトイレに行きたかった。だが1階は僕の家ではなかった。 居間と台所の明かりがついている。そこにはいないはずの人たちがいた。双子の妹たちと、お手伝いさんの女性。彼女らには僕の姿が見えないようだ。 父と母が帰ってくるらしい。彼女らはその支度をしているのだ。 この家には息子がいただろう、と...
2階の僕の部屋の、床は透明だった。高所恐怖症の君は、それを怖がる。服を次々と脱ぎ捨て、床を覆った。 黒かった君のシャツや下着は、床に置かれると白くなり、光った。君はその上を歩いて、僕に近づいてくる。僕は靴と靴下だけを脱ぎ、待った。 ...
白くて丸い、光るデザートを買い、写真を撮った。その画像を、誰にも見せずに、ずっと保存していた。違法なポルノを、隠し持つようにして。 1人部屋に戻ってから、その画像を見た。すると今日の君の演奏が、感覚的に理解できた。スマホの発する光が、僕を包んだ。 終演後に君と話す機会はなかった。君のピアノは素晴らしかった。それをそのときに伝えたかった。 ...
電車は鉄橋の手前で線路から外れてUターンした。怖じ気づいたのだろう。台風で川が氾濫しそうになっている。川の向こう側の県に僕は住んでいて、雨がひどくなる前に家に帰りたかったのだが。 鉄橋の手前の駅で僕たちは下ろされた。川を渡ってくれる電車が来るのを待った。 自分でもよくわからない理由で僕はホームのいちばん前、「舳先」に立つ。そのとき川は決壊した。濁流が押し寄せて来るのを見た。駅のホ...
スマホを見ていたら乗り過ごしてしまった。いちども下りたことのない駅で僕は下りた。反対側のホームで引き返す電車を待った。 その間もスマホをずっと眺めていて、行き先を確認することもなくやって来た電車に乗った。 車内は混んでいたが1つだけ空いた席があった。お年寄りや身障者が座るためのシートだ。僕はよく確かめもせずその席に座った。 まだ熱心にスマホを見ていた。結局終点まで乗った。僕...
「どこへ行こうとしてたのだ?」 悪魔の家に行こうと思って支度しているところに悪魔がやって来て訊いた。 「わかんなくなっちゃった」、と僕は答えた。 「君は何しにうちへ来たの?」 「私もわからなくなってしまったのだ」 「私は階段だ」と悪魔は言った。 「階段‥‥」 「私は飛躍したい」。私は悪魔ではないのだ。 その言葉を聞いて僕は一段抜かしで上がった。 ...
そのとき僕は時間よ止まれと思った。お前は美しい。実際に口に出して言った。でも悪魔はやってこなかった。 そういう契約をしていなかったから‥‥「どこへ行こうとしてたの?」 悪魔の家に行こうと思って支度しているところに悪魔がやって来て訊いた。「わかんなくなっちゃった」、と僕は答えた。「君は何しにうちへ来たの?」「私もわからなくなった」 ...
僕は裸足だった。靴はいつの間にか脱げていた。靴の中に入れておいたはずの僕の足の指はなくなっていた。 靴を探した。指か。指はいらないだろう。だが指だけが見つかった。指はとても黒かった。人体の一部のようには見えなかったが、これは僕のものなのだろうか。 ...
庭のサボテンが成長して普通の木になった。高さは数十メートル、もうトゲはない。上の方はどうなっているんだろう? 見に行くと天辺にちょこんとサボテンは乗っかっていた。 ...
住宅街の道の真ん中に僕の便器はいた。 だが本当に僕の便器なのかはわからない。彼はその場に固定され動けなくなっているようだ。 「みんなに見られるのが恥ずかしいです」彼は訴えるので、周りを薄い木の板で囲った。そうすると簡易トイレのようになった。 用を足して扉を開けると、外にはたくさんの人が並んでいる。僕は全員に意味もなく謝った。 ...
広間にいた僕たちの頭上でベトナムの国旗が振られた。僕たちは立ったまま君の演奏を聴いているところ。次の公演はベトナムなんだな。アンコールはベトナムの民謡だ。 電気機関車と線路と山が描かれた大きな皿を僕は手に持っている。今日のコンサートの記念にと渡された皿だ。ベトナムにはこんな汽車は走っていないかも知れないが。 ...
極度乾燥した果物。ただしドライフルーツではない、ただ乾燥した果物。食べ残すべきではない、とその人は言う。口の周りに、子供のように、食べカスをつけて喋る。口の中は、カラカラだった。 ...